2013年02月28日

胸部レントゲン道場57・各論20・レントゲンで白くなる病態14・べったりと白くなる連続性の陰影から白と黒が混在する陰影へ・肺の線維化とは

ここ最近、執筆依頼を頂くことが増えてきました。少し前に頂いた執筆依頼については、そろそろ締め切りも近く、書き始めなくてはなりませんが、とりあえず直近の締め切りモノは出せたので、少しの間レントゲンに戻りたいと思います。


なぜか。国試問題解説、その他の記事を書いていて、特に間質性肺炎や線維化については機序のところを理解していただかないとどうも話がしにくい、ということがあります。ちゃんと説明していないよな〜、とストレスが溜まっていたので、ここらで重い腰を上げ、説明を試みることにしました。




前回シリーズで(だいぶ前…汗)間質性肺炎はすりガラス影を呈する、と申しました。実はこの「間質性肺炎」という状況は間質(肺胞隔壁)の浮腫を見ていることが多いのですが、浮腫というぐらいですから、−原因にもよりますけれども−可逆性があるわけです。


20間質性肺炎の段階では可逆性あり.jpg


原因によって、抗菌薬や抗ウイルス薬であったり、ステロイドであったりするわけですが、そういう治療で元に戻る可能性があるわけですね。


ところが、間質性肺炎ではしばしば、線維化が起こってきます。炎症部分に繊維芽細胞(fibroblast)がやってきて、膠原線維を産生するのです。線維はできたてホヤホヤの段階では水を含んでいますが、やがて乾燥して?カチカチになる。そのときにぎゅっと縮んでくるのです。


ここ、理解しにくいところですから、念入りにやりましょう。


胸部レントゲン道場に入門する

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posted by 長尾大志 at 12:14 | Comment(0) | 胸部X線道場

2013年02月27日

第107回医師国家試験呼吸器系問題解説・高齢男性に徐々に発症する呼吸困難・解答と解説2

特発性肺線維症と診断がついたところで、選択肢について考えましょう。


×a 1秒率は閉塞性肺障害になると低下しますが、特発性肺線維症は拘束性障害です。末梢の気管支は線維化した肺胞領域に引っ張られてむしろ拡張します。
○b 拘束性障害を呈するため、肺活量は低下しますね。
×c A-aDO2は肺胞内の酸素分圧と動脈血内の酸素分圧の差でなので、低酸素血症を来す場合は開大することになります。
○d 肺拡散能は間質性肺炎があると低下します。
×e KL-6は線維化の存在で上昇します。

ということで、正解はb,dとなります。


特発性肺線維症は毎年必ず出題されるといってもいいですね。キャラも立っているし、議論の余地もあまりない、ある意味出題しやすい疾患といえます。


逆に特発性肺線維症以外の特発性間質性肺炎は、臨床の現場で診断や分類に議論のあるところでもあり、診断確定には生検が必要なのですが、組織を見ても学生さんレベルでは診断がつくとも思えず、問題にしにくいことから、これまではあまり出題されていないように見受けます。


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2013年02月26日

第107回医師国家試験呼吸器系問題解説・高齢男性に徐々に発症する呼吸困難・解答と解説1

まずは診断から。徐々に増強する労作時の呼吸困難から、慢性の呼吸器、循環器疾患の存在を想定します。で、両側背下部にfine cracklesを聴取。もうこれで、間質性肺炎の存在は明らかとなります。


大事なので、もう一度書きます。


fine crackles=間質性肺炎、です。


そうです。fine cracklesが聴かれたら、そこには間質性肺炎があるのです。


これ、臨床でも本当に大事ですからね。カルテに「fine cracklesを聴取」って書くときは、「この患者さんの肺には間質性肺炎がある」と書いてるのと同じことである、ということを肝に銘じておきましょう。


サーファクタントプロテインD高値、まあこれもダメ押しで間質性肺炎の存在を示唆しますが、とにかくfine cracklesがあるんだから間質性肺炎があるのです。


で、画像所見は両側下肺野に網状影、実物は肺容量低下と肺底部、胸膜直下優位に蜂巣肺を認めました。線維化のしるしですね。この特徴的な画像所見から、間質性肺炎の中でも特発性肺線維症が出てこないようではアキマセン。よーくポリクリで画像を見せてもらって下さいね。


もう、間質性肺炎で特発性だったらこれぐらいしかないわけですから、必ずや特徴をしっかりと押さえておくべきなのです。ナゼか。理由は明日。


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2013年02月25日

第107回医師国家試験呼吸器系問題解説・高齢男性に徐々に発症する呼吸困難

107D52

68歳の男性.労作時の呼吸困難を主訴に来院した.3年前から労作時の呼吸困難を自覚していたが,3ヵ月前から徐々に増強した.喫煙は20本/日を35年間.10年前に禁煙した.既往歴と家族歴とに特記すべきことはない.意識は清明.身長172p,体重73kg.脈拍72/分,整.血圧136/76mmHg.呼吸数18/分.SpO2 95%(room air).聴診で両側の背下部にfine cracklesを聴取する.血液所見:赤血球461万,Hb 13.9g/dl,Ht 44%,白血球8,700(好中球58%,好酸球5%,単球6%,リンパ球31%),血小板26万.血液生化学所見:総蛋白7.6g/dl,アルブミン4.1g/dl,尿素窒素14mg/dl,クレアチニン0.9mg/dl,AST 22IU/l,ALT 19IU/l,LD 247IU/l(基準130〜235).免疫学所見:CRP 1.0mg/dl,サーファクタントプロテインD〈SP-D〉240ng/ml(基準0〜109).胸部X線写真と胸部高分解能CTでは両側肺底区中心に網状影あり.


この患者で低下しているのはどれか.2つ選べ.

a 1秒率
b 肺活量
c A-aDO2
d 肺拡散能
e 血清KL-6


これも取らなアカン問題じゃないでしょうか。


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2013年02月24日

K先生、ご結婚おめでとうございます。

今日は晴れの日。


K先生の素敵な結婚式に参加してきました。


02-2301.jpg


少しご挨拶をしたんですが、まあK先生は呼吸器内科に来られる、ということからもわかる通り、大変まじめで誠実な方です。自分がかっこつける、とか、派手なこととは無縁ですが、やることはかなり高いレベルできっちりされる。次世代エースといってよろしいでしょう。


02-2302.jpg


それにしても、写真がなかなかうまく撮れませんでした。


02-2303.jpg


こんなのは、うまく撮れたのに。

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posted by 長尾大志 at 21:54 | Comment(0) | 日記

2013年02月23日

今週の活動報告

■OSCE追試評価者

OSCEで休んでいた人の評価をしました。まあそれ自体は特記すべきこともなかったのですが、そこで循環器の先生とお話しした、ポリクリやアドバンスに関する基本方針は、かなり学生さんにとっては影響があるかもしれません…。


基本的には、「座学から、より実習へ」。

本気で取り組む人には、どエライ効能・効果を示すような気がします。



■某社社内勉強会講師

某社の某製品(ナンノコッチャわかりませんね…(;゚д゚))が思ったように売れていない、ということなのか、今後どうやっていったら、みたいなお話と討論をして参りました。


一番印象的だったのは、「高名なK先生も、発売開始時に『これは売るの難しいよ〜』と言っておられた」のくだりで、まさに私の実感通りでした。

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posted by 長尾大志 at 22:14 | Comment(2) | 活動報告

2013年02月22日

第107回医師国家試験呼吸器系問題解説・疾患と呼吸機能異常との組合せ・解答と解説

今日は症例問題ではありませんので、早速、選択肢について考えましょう。


×a 肺気腫は肺胞が破壊されて、呼気時に閉塞性障害が生じ、肺の中にだんだん空気が溜まってくることで過膨張を来すものです。結果、最大呼気位でも吐ききれない空気(=残気量)は増加します。

○b 肺コンプライアンスとは肺の柔らかさを表すので、高いと肺は柔らかい、低いと硬いということになります。肺線維症では肺は硬くなるため、コンプライアンスは低下する、ということになります。

×c 肺動静脈瘻は、動脈と静脈が毛細血管を介さずに直接接続し、肺内のシャントによって低酸素血症になるものです。肺胞の病気ではないので、拡散能は低下しません。

×d 呼吸筋麻痺が生じると、換気量が低下します。しかし、肺胞は影響を受けないため、換気血流不均等分布は生じません。

×e 肺血栓塞栓症は血管が閉塞する病態ですから、気道が閉塞することによって生じる1秒率の低下は起こりません。


リンク先には詳しい説明がありますので、物足りない方はその項目をお読みください。


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2013年02月21日

第107回医師国家試験呼吸器系問題解説・疾患と呼吸機能異常との組合せ

107B13

疾患と呼吸機能の異常との組合せで正しいのはどれか.
a 肺気腫・・・・・・残気量の減少
b 肺線維症・・・・・・肺コンプライアンスの低下
c 肺動静脈瘻・・・・・・肺拡散能の低下
d 呼吸筋麻痺・・・・・・換気血流不均等分布
e 肺血栓塞栓症・・・・・・1秒率の低下



こちらも基本、というか必須事項が並んでいます。いつも似たようなことを聞かれるので、是非知っておきたいものですね。


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2013年02月20日

第107回医師国家試験呼吸器系問題解説・若い女性の息切れ・解答と解説2

特発性肺動脈性肺高血圧症と診断ができたところで、選択肢について考えます。


特発性肺動脈性肺高血圧症は左心系に異常がないにもかかわらず、肺高血圧症ですから肺動脈圧が高い、というのが血行動態の特徴です。


平均肺動脈楔入圧(PAWP)はほぼ左房圧に等しい、ということで特発性肺動脈性肺高血圧症においては正常値をとると考えられます。それに対して平均肺動脈圧は上でも書いたとおり高い、ということで、正解は…。


×a
×b 
×c 
○d 
×e 


となります。


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2013年02月19日

第107回医師国家試験呼吸器系問題解説・若い女性の息切れ・解答と解説1

徐々に進行する労作時の息切れ、動悸があって、所見としては肺動脈の拡大、右室肥大所見を呈する疾患はなんでしょうか。


少なくとも、肺高血圧症があり、しかも若年女性。ただし、中学、高校で陸上部に所属していた、という記載からは先天性心疾患はちと違うか…。


ということで、特発性肺動脈性肺高血圧症を想起することは困難ではないでしょう。


まあ、若年女性に徐々に進行する労作時の息切れ、と来たら国試レベルでは2つです。何でしょうか(そっちから攻めるのかい)。






1つはこの、特発性肺動脈性肺高血圧症(idiopathic pulmonary arterial hypertension:IPAH)、そしてもう1つは、肺リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis:LAM)ですね。


問題としては、若年女性に徐々に進行する労作時の息切れがあり、肺動脈の拡大、右室肥大所見を呈する、となりますとIPAHでしょうし、肺野にCTなどで低吸収域、というか嚢胞があり、気胸や呼吸困難といったエピソードがあればLAM、ってことになるでしょう。


いずれもかなりキャラが立っていますので、過去問を何問かやれば診断は難しくないと思います。実臨床でも、頻度としては少ないですが、やはりこんな感じで受診されることが多いので、国家試験勉強の中でこうやって覚えておくことは意味があると思います。


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2013年02月18日

第107回医師国家試験呼吸器系問題解説・若い女性の息切れ

107A30

28歳の女性.労作時の息切れと動悸とを主訴に来院した.生来健康で,中学と高校では陸上部に所属していた.1年前に第1子を出産した頃から,自宅の階段を昇る時に息切れと動悸とを感じるようになった.次第に症状が強くなり,1週前に急いで階段を昇った時に眼の前が暗くなったため,心配になり受診した.既往歴と家族歴とに特記すべきことはない.意識は清明.脈拍80/分,整.血圧98/66mmHg.SpO2 94%(room air).両側の頸静脈の怒張を認める.呼吸音に異常を認めない.心臓の聴診でU音の亢進を認める.血液所見:赤血球480万,Hb 14.7g/dl,Ht 46%,白血球8,500,血小板17万.胸部X線写真(肺動脈突出像)と心電図(V1のR波増高、V5,6の深いS波).



この患者で予想される血行動態はどれか.

平均肺動脈楔入圧 平均肺動脈圧
a 高値 高値
b 高値 正常
c 高値 低値
d 正常 高値
e 低値 低値


この症例も割と頻出のように思います。やはりこういうキャラの立った疾患は問題にしやすいのですね。


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2013年02月17日

第107回医師国家試験呼吸器系問題解説・微妙な免疫低下状態に合併した結節影の鑑別・解答と解説2

まあ、クリプトコッカスがわからなくても、何とか正解に至ることは可能だと思います。


訳のわからない染色で酵母のようなものが染まっている。ということで真菌かなと考えるわけですが、アスペルギルスは外因性感染、β-D-グルカン高値で原因微生物はAspergillus fumigatesであることから、正しい選択肢が2つとなってしまいます。これはおかしい。


もう一つ、よく問われるニューモシスチスにしても、内因性感染で、β-D-グルカン高値、ST合剤で予防が可能、という点から正解選択肢が3つにもなってしまう。


正解が1つであるとすれば、これらではない。じゃあこの中で1つだけ選ぶとなると、よくわからないけれども血清抗原検査の感度が高い、ぐらいかな?と考えられれば(結果的に)正解に至ることになるのです。(・U・)



…まあ、そんなこと言わずに、墨汁染色像を覚えておきましょう。過去問ではどこかで見たような気がするのですが…QBには墨汁染色=クリプトコッカスについての問題が掲載されていないので、この問題は今年分のQBに掲載しましょうかね。


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2013年02月16日

第107回医師国家試験呼吸器系問題解説・微妙な免疫低下状態に合併した結節影の鑑別・解答と解説

墨汁染色で見られる物体を知っているか知らないか。


墨汁染色を行う意味は、夾膜を有する菌体の存在を見たいからなのです。夾膜は墨汁で染まらず、周りの黒に対して色が抜けるためよく見えるのです。胸膜を持つ、球形の酵母様菌体を持つ菌として、クリプトコッカスを想起しましょう。


国試レベルであれば、菌体が何らかの染色で示される感染症はそれほど多くありません。Ziehl-Neelsen染色における抗酸菌、Grocott染色におけるアスペルギルス、ニューモシスチスと並んで、墨汁染色のクリプトコッカスは是非覚えておきたいものですね。


選択肢について考えます。

×a:クリプトコッカスは主に鳩などの糞の中で増殖して、排泄された糞からモワモワ空気中に浮遊し、それを吸い込むことで感染が成立する、典型的な外因性感染です。

○b:肺クリプトコッカス症における血清抗原検査の感度は、ある程度以上の大きさ(2cm以上)の病変に関しては高いといわれています。これが正解。

×c:クリプトコッカス症において血清β-D-グルカン値は通常、上昇しないのが特徴です。真菌感染と思ってこれを選んではいけません。

×d:発症予防にST合剤の内服が有効であるのはニューモシスチス肺炎です。クリプトコッカスの予防には抗真菌薬を使います。

×e:原因微生物はCryptococcus neoformansであります。


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2013年02月15日

第107回医師国家試験呼吸器系問題解説・微妙な免疫低下状態に合併した結節影の鑑別

6回生諸君は、医師国家試験お疲れでした。今頃思い思いのやり方で羽を伸ばしておられることでしょう。


こちらは某M社さんから、第107回医師国家試験の呼吸器系問題解説依頼が来ました。締め切りが近くタイトな日程であり、ブログ書籍化の校正と並行して行う必要があるため、こちらで解説を作っていこうと思います。


今年は全般的には難しかったとのことですが、呼吸器系の私の担当分に関しては、これまでの傾向とそう変わらず、割と素直な問題が多かったように思います。早速1問ずつ見て参りましょう。



107A28

65歳の女性.全身倦怠感と微熱とを主訴に来院した.1週前から全身倦怠感を自覚していた.3日前から37℃台の微熱が続いている.5年前から関節リウマチで抗リウマチ薬と副腎皮質ステロイドとを服用中.意識は清明.身長156cm,体重46kg.体温37.4℃.脈拍92/分,整.血圧120/70mmHg.呼吸数14/分.SpO2 97%(room air).心音と呼吸音とに異常を認めない.血液所見:若干の炎症のみ.胸部X線写真で右側下肺野に多発結節影を認める.気管支肺胞洗浄〈BAL〉液の墨汁染色標本とを下に示す.


これは実際の写真と違いますが、まあこんな感じのものです。


107A28墨汁染色で見られる夾膜を有する菌体.jpg


この疾患について正しいのはどれか.
a 内因性感染である.
b 血清抗原検査の感度は高い.
c 血清β-D-グルカン値は上昇する.
d 発症予防にST合剤の内服が有効である.
e 原因微生物はAspergillus fumigatusである.


これは墨汁染色で見られる物体を知っているか知らないか、ってことなんですが、色々な面から正解は1つしか出てきません。関連事項を是非知っておきましょう。

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2013年02月14日

間質性肺炎による拡散障害の理屈(脱線注意)・間質性肺炎では特に労作時に著しい低酸素血症になる、その秘密

昨日は途中で力尽きたので、もう一度やり直します。


安静時の酸素受け渡しを図で考えます。船みたいなのがヘモグロビンで、○が酸素と思ってください。普段は肺胞でヘモグロビンが酸素を受け取って、どんぶらこ〜?と運び、組織で荷下ろしをしています。


14安静時.jpg


それが労作時に、酸素の需要が増したときには、通常心拍数が増えて、単位時間あたりの酸素受け渡し効率を上げるわけです。例えば組織の酸素需要量が安静時の倍だとすると、血流を増やして、単位時間あたりに流れるヘモグロビンの量を2倍にすれば…。


15労作時には血流を増やして賄う.jpg


運ばれる酸素が2倍になって、組織の需要に見合った酸素が供給されますね。




肺炎やCOPDのように、肺胞の一部が壊れる疾患では、普段から血流をある程度増やすことで低酸素にならないようにしています。


16肺胞障害時.jpg


その状況で労作をすると、さらに血流を増やすことで対応されます。


17肺胞障害時の労作時.jpg


ところが、間質性肺炎の場合、そもそも間質が厚くなることで拡散障害が生じているわけです。酸素は肺胞内に入ってもなかなか血中に拡散しない。


ですから、普段から血流を増やして対処している、これは同じです。


18間質性肺炎の安静時.jpg


問題は労作時で、心臓は頑張って血流を増やす。これは同じです。で、血流が早くなるとその分、酸素が肺胞で素早く乗り移る必要があるのですが…。


間質が分厚くて拡散障害があると、なかなか乗り移れないため、増えた血流に見合う酸素が血中に入らない、という事態が生じます。


19間質性肺炎の労作時.jpg


それで、労作時の低酸素血症が、特に安静時に比べて著しい、ということになるのです。


A-aDO2のややこしい話を最初から読む

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posted by 長尾大志 at 16:29 | Comment(2) | A-aDO2のややこしい話

2013年02月13日

胸部レントゲン道場57・各論20・レントゲンで白くなる病態14・べったりと白くなる連続性の陰影・間質性肺炎による拡散障害の理屈(脱線注意)・労作時低酸素血症の秘密

レントゲンに戻ってきていきなり脱線、というのも恐縮なのですが(恐縮してない)、間質性肺炎では拡散障害が特徴的であります。


拡散障害とは何か。リンク先をご覧頂きたいのですが、かいつまんでいうと、肺胞内に入った酸素が血中になかなか拡散していかない(いけない)状態のことです。


拡散させる能力を見る検査が、肺機能検査で出てくる「拡散能」です。当然酸素の拡散能が大事なのですが、測定が難しいことから通常は一酸化炭素(CO)を用いたDLcoを拡散能の指標として用います。で、DLcoが低下する病態を拡散障害と言います。


6(狭義の)間質に炎症が起こる.JPG


間質性肺炎では、間質が炎症のために浮腫を来たし分厚くなってきます。その結果、本来ごく薄い肺胞腔と毛細血管の間が分厚くなり、酸素の拡散がしにくくなる、拡散障害といわれる状態になるのです。


9間質が分厚くなるので拡散障害になる.jpg


拡散障害がある、ということは、労作時の低酸素が著しいことにつながります。実はこれ、間質性肺炎の重要な特徴なのです。是非理解していただきたいと思います。



安静時の酸素受け渡しを図で考えます。船みたいなのがヘモグロビンで、○が酸素と思ってください。普段は肺胞でヘモグロビンが酸素を受け取って、どんぶらこ〜?と運び、組織で荷下ろしをしています。


10安静時.jpg


それが労作時に、酸素の需要が増したときには、通常心拍数が増えて、単位時間あたりの酸素受け渡し効率を上げるわけです。例えば組織の酸素需要量が安静時の倍だとすると…。


11労作時に酸素需要が増す.jpg


血流を増やして、単位時間あたりに流れるヘモグロビンの量を2倍にすれば…。


12労作時には血流を増やして賄う.jpg


運ばれる酸素が2倍になって、組織の需要に見合った酸素が供給されますね。


13組織の需要に見合った酸素が供給される.jpg


では、間質性肺炎のときにはどうなるでしょうか?

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posted by 長尾大志 at 19:27 | Comment(0) | A-aDO2のややこしい話

2013年02月12日

V50、V25の臨床的意義と検査上のポイント2

Q:肺機能検査での、V50、V25の臨床的意義や検査時の注意点を教えてください。

V50やV25が使われる場面は気流閉塞、特に末梢気道における気流閉塞を表現するときです。末梢気道、つまり肺胞から出てすぐの気道が閉塞すると、呼出を開始してすぐに呼気流速がガクンと低下します。


そのため、フローボリューム曲線は下に凸のカーブを描きます。


図3 末梢気道における気流閉塞所見.JPG


フローボリューム曲線が下に凸になってくるとV50が低下し、さらにV25はもっと低下します。V50やV25は健常人であってもばらつきが大きく、正常範囲であるかどうかの評価は難しいため、この「下に凸度合い」の指標としてはV50やV25単独ではなく、V50/ V25をよく使います。


図2 V50とV25.JPG


図のように正常肺においてV50/ V25は理論上2のハズですが、フローボリューム曲線が下に凸になってくるとV50の低下よりも V25の低下が著しくなり、V50/ V25が増加してきます。日本呼吸器学会によるCOPDガイドラインでは、V50/ V25の増大(3以上)などが末梢気道での気流閉塞を示す、としています。


従って、V50やV25の臨床的意義は、各々の数値よりも主にV50/ V25による「下に凸の度合い」を見ることになります。


フローボリューム曲線は、手技的にうまく吹けたかどうかも含めてその全体的なパターン(形)の認識が重要です。下に凸かどうかは形を見ていただければおわかり頂けると思いますが、参考値としてV50/ V25が3以上に上昇しているかどうかを見るとよいでしょう。


* Medical Technology41巻8号「臨床検査Q&A」に改変の上掲載予定

フローボリューム曲線のすべてを最初から読む

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2013年02月11日

自責思考と他責思考

FD研修会の中で取り上げようと思っているのが、自責思考と他責思考のお話です。自戒を込めてさせていただくつもりですが、特に今回のFD研修会で取り上げる意味があると思いました。


世の中、思い通りにならないこと、多々あります。特に社会生活を営んでいると(家庭内でもそうですが…)いろいろとあると思います。


そのときに、「他人が悪い」「状況が悪い」と考えてしまいがちなのですが、これを「他責思考」といいます。○○がうまくいかなかったのは、誰それが協力してくれなかったから、季節が悪かったから、円高だから?…と、余所にその理由を帰する考え方は、実に楽なんですね。


結局自分は何もしなくていい。「状況さえうまくいけば、うまくいくはずだ」と考えておけばいい。で、またうまくいかない。こういうこと、結構多いのではないでしょうか。



わかりやすい例でいうと、シャープ(家電メーカー)の業績が悪いと。


で、まあいろいろ理由を挙げる人はいるわけです。液晶テレビの価格が下落したから、エコポイントや地デジ化で需要の先食いをしたから、円高だから…。


まあ、理由を挙げるのはかまいませんが、ただ理由を挙げただけでは業績はビクともしませんね。何も変わらない。他責思考では、何も変わらないのです。


業績をよくしようと思えば、何かアクションを起こさねばならない。会社として何をするか。自分が何をするか。これが自責思考です。


結果を得るために、今後何ができるか。これを考えるのが自責思考。言い方を変えると、他責思考は後ろ向き、いいわけ、であるのに対し、自責思考は前向きで、カイゼンで、やる気が感じられてイイじゃないですか。



今回のFD研修会のタイトル「『今時の学生』問題〜」というのは何でしょう、他責思考のにおいがするんですが、私がするのは自責思考がイイじゃないですか、という感じのお話になります。一人でも多くの先生に自責思考のよさをお伝えできればいいのですが…。

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posted by 長尾大志 at 13:14 | Comment(0) | 教育理念・メッセージ

2013年02月10日

FD研修会「授業への取り組み方」

次の木曜日に、FD研修会という会で「授業への取り組み方」に関するお話をさせていただきます。


以前にも書きましたが、滋賀医大のベストティーチャー(相当)として、どんな授業をしているかのサンプル提示のようなことを依頼されたのですが…。


それで最初は授業のスライドをたくさん提示しようとしていたのですが、はたと気づいたことがありましてスライドを作り直しました。


もし私が本当に滋賀医大でベストな感じであるならば、その秘訣はタイトル通り、「授業への取り組み方」にあるのではないかと思います。従って、私のスライドを提示してそれをコピーして頂いてもいいのですが、たぶんそれでは応用が利かないと思うのです。


結局今回の研修会も授業と同じで、「spiritを伝える、考え方を伝える」方が良いのではないか。もちろん授業スライドも提示しますけれども、それはどちらかというと些末なことで、根幹は「どういうつもりで授業を組み立てているのか」を知って頂く方がよいのではないかと思うに至りました。


これは大変難しい課題で、しかもそれを経験豊富な先生方にお伝えせねばならないわけですから、伝え方にも工夫が必要です。いつもは偉い先生がお話しされるような研修会の枠で私のようなぺーぺーが出てくるわけですから、最初から聞く耳を持たれない方々も多いことでしょう。


まさにこのアウェー感は、授業と同じであります。ですからこの研修会でのお話の仕方そのものが、私の「授業への取り組み方」を物語っている、そんなお話をさせていただこうと思います。先生方の反応が楽しみです。

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posted by 長尾大志 at 22:23 | Comment(0) | 活動報告

本日(昨日)の活動報告

今日は朝からOSCEの評価者、そしてその後直接びわ湖ホテルに移動して、呼吸循環器内科の同門会が遅くまでありましたため、今頃更新となりました。


OSCEの評価者は確か2回目で、36人の学生さんの診察を評価しましたが、36人見ての感想は、「最初の挨拶を見れば、大体診察のデキもわかる」。


最初の挨拶での印象点と、OSCEのトータル得点は有意に相関するんじゃないか、と思って見ていましたが、やはりそこは緊張からか、挨拶の印象がよかった方も取りこぼし(手技の抜け)があったりします。


OSCEを「最初の挨拶」で代用できないか、とずぼらなことを考えていましたが、それは無理なようですね。



その後の同門会、今年は堀江教授の就任10周年ということで、循環器内科の先生方が多数勢揃いされた中、「外来における『咳がでる患者さん』の対処」をお話しさせていただきました。


やはり呼吸器のいない関連施設が多く、対処に困っておられる方も多いのではないか、と考えてお話をしたのですが、後で循環器の先生に「よかった」と言って頂きました。


その後懇親会では、呼吸器側からの挨拶をしたのですが、その内容を考えるのにかなり難儀しました…。ともかく言いたかったことは、「これからも教育に邁進します」ということでした。


今年は10周年記念ということもあり、秘書さんたち皆さんお着物で参加され、非常に華やかでした。また写真をupできればと思います。今日は時間もないので止めておきます。


またこれを機に同門会の名称を決めましょう、ということで、いくつかの候補から投票が行われました。私も頼まれて候補を出していたのですが、なんとそれに決まってビックリ、恐縮することしきりでありました。

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posted by 長尾大志 at 00:34 | Comment(0) | 活動報告