2013年02月08日

V50、V25の臨床的意義と検査上のポイント

ここ最近、執筆依頼を頂くことが増えてきました。ありがたいお話ですし、できる限りお引き受けしなくてはならないとは思っているのですが、現在ブログ書籍化がタイトなスケジュールで進行していることもあり、いくつかのお話をお断り、あるいは順延させていただかざるを得なくなっておりまして、大変心苦しく思っております。


そんな中、少し前に頂いた執筆依頼については、そろそろ締め切りも近く、書き始めなくてはなりませんので、ちょっと準備に取りかかりたいと思います(レントゲン道場も途中なんですが、それはさておき…汗)。よければお付き合いください。




Q:肺機能検査での、V50、V25の臨床的意義や検査時の注意点を教えてください。


まずは、フローボリューム曲線のすべてをご覧ください。


努力肺活量、1秒量などを測定する時に得られる、フローボリューム曲線。


息をいっぱいに吸い込んでから、思い切り吐き出しますと、呼気流速(フロー)は一瞬でピークに達し、その後は残っている肺容量に比例しながら(一次関数的に)だんだん低下し、残り容量が0になった時点で流速も0になります。


そんな機序で、健常者のフローボリューム曲線は以下のようなカタチになります。


図1 フローボリューム曲線.JPG


このフローボリューム曲線において、V50(Vの上に・がついていて、「ブイドットごじゅう」と読みます)とは、肺の中に肺活量の50%の空気が残っている時点での呼気流速をいい、

V25(Vの上に・がついていて、「ブイドットにじゅうご」と読みます)とは、空気量が肺活量の25%になった時点での流速をいいます。


上で書いたとおり、フローは「残っている肺容量に比例しながら低下する」わけですから、原理的にはV50はピークフローの50%の流速、V25はピークの25%の流速、となります。


図2 V50とV25.JPG


ですから、原理的に正常肺では、V50をV25で割った数値(V50/V25)はほぼ2になるはずで、実際にそうなっています。


* Medical Technology41巻8号「臨床検査Q&A」に改変の上掲載予定

フローボリューム曲線のすべてを最初から読む

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2013年02月07日

胸部レントゲン道場56・各論19・レントゲンで白くなる病態13・べったりと白くなる連続性の陰影・すりガラス影といえば間質性肺炎

すりガラス影を来す疾患、もう一つは(というかこちらがメインですが)、間質性肺炎という病態です。お、そういえば、この前「間質」について勉強しましたね。ちょっと復習しましょう。



実質が実際にガス交換をしている、肺胞上皮に囲まれた、肺胞腔、空間のことを指すのに対して、肺胞上皮と隣の上皮の間に存在する結合組織、肺胞中隔にあたる場所を間質と呼んでいます。


20実質と間質.jpg


図の青色の部分(実際にはほとんど空気)が実質、オレンジ色の部分が間質です。

広義間質のことを言い出すとややこしいので、ここでは忘れてください。


この間質で炎症が起こるのが間質性肺炎です。通常病変は連続性に生じるので、陰影も連続性に出現します。実質は侵されず空気は残ったままになりますから、そのエリアの密度は浸潤影(辺り一面水浸し、密度≒水)よりも低くなります。


すなわち、肺濃度よりは少し白いけれども、浸潤影ほど真っ白ではない。ちょうど、「元々あるもの(=肺内の血管)の存在は認識できる」程度の白さ=すりガラス影を呈するわけです。


6(狭義の)間質に炎症が起こる.JPG


7狭義の間質に炎症が連続性に起こると….JPG


胸部レントゲン写真、CTでは、このように肺紋理(血管影)を認識できる濃度上昇域として認識できます。


8間質性肺炎=すりガラス影.JPG


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posted by 長尾大志 at 13:24 | Comment(0) | 胸部X線道場

2013年02月06日

胸部レントゲン道場55・各論18・レントゲンで白くなる病態12・べったりと白くなる連続性の陰影・すりガラス影の定義

すりガラスの性質としては、光をある程度通すものの、不透明であるため向こう側がハッキリとは見えない、ということになります。


  • 浴室

  • トイレ

  • 面談室



などにすりガラスを使う目的は、まず第一にプライバシーを守る、というところだと思います。しかし、プライバシーを守るだけであれば、わざわざすりガラスにしなくても、ただの板でも良いわけです。


そこをあえてすりガラスにする理由。
いつも学生さんに尋ねるのですが、正解が出るのは半分ぐらいでしょうか。






一つは採光、という面があります。でもそれだけではない。もう一つ、おそらくもっと大切な理由は何でしょうか。



そうです。

「使用中かどうかが外からわかる」ということです。
(正解でしたか?)


上に挙げたような、プライベートな空間は、むやみやたらにドアを開けられたり(カギがかかっているにしても…)、ノックされたり、ということも避けたいものです。従って、外から一目見て「使用中である」ことがわかる、すりガラスが使われているのです。あと、電気がつけっぱなしかどうかわかる、というのも無視できない理由でしょう。



学生さんの答えで、「あまり見えない方がムード?が出るから」といわれたことがありました…(若いな〜)。あながち的外れではありません!?が、この場合の正解とはなりません。



長々とイランことを書きましたが、ここで本題に戻ると、すりガラスの本質は、

「不透明だけれども、向こう側にあるものの存在は認識できる」

ということではないかと思うのです。



同様に、すりガラス影の性質としては

「白い陰影だけれども、向こう側にあるもの(=血管)の存在は認識できる」

ということになるでしょう。


5すりガラス影では向こうにある血管が見える.jpg


エピソードと共に覚えていただくと、忘れにくいと思います。


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posted by 長尾大志 at 18:34 | Comment(0) | 胸部X線道場

2013年02月05日

胸部レントゲン道場54・各論17・レントゲンで白くなる病態11・べったりと白くなる連続性の陰影・浸潤影とすりガラス影

このように、肺胞が水(濃度のもの)で埋め尽くされると浸潤影を呈するのですが、同じように肺胞がやられる疾患であっても、そこまで濃い陰影にはならない、そういう場合もあるのです。


例えば、肺炎でも、肺胞が水で充満していない状態。もっとも病勢が強い部分の周囲などは、肺胞内の滲出液も満タンではない。そうなると、そのエリアの密度は水濃度(≒1)より低くなり、陰影は白っぽいものの真っ白ではない、薄い白色に見えます。


1このあたりは真っ白ではなく薄い白に見える.JPG


昨日挙げた症例でも、浸潤影(air bronchogramを伴う)の周囲にぼんやりしたエリアが少し見られますね。


2浸潤影の周囲にあるすりガラス影.JPG


こういう、浸潤影ほど真っ白ではないのだけれども、ぼんやりと白い、そういうエリアをすりガラス影と呼びます。


肺炎なんかの場合ではごく一部にしかすりガラス影が見えませんが、肺胞出血や肺胞蛋白症などのように、肺胞腔内を液体が満たすものの目一杯までも充満しない、そういった疾患では広範囲にびまん性にすりガラス影が見られます。


3肺胞出血.JPG


4肺胞蛋白症.JPG


すりガラスとはなにか。


ガラスではあるものの、表面を研磨することで細かい傷をつけ、不透明にしたものです。向こう側があまり見えない、さりとて全く見えない、ということもない、微妙な透過性を持っています。


昨今ではあまりすりガラスが使われるところも少なくなってきているように思いますが、すりガラスが使われている場所として思い当たるのは…


  • 浴室

  • トイレ

  • 面談室



など。


ナゼ、これらの部屋にはすりガラスが使われているのでしょうか。
賢明な読者の方はピンと来るでしょうが、話が脱線します…。


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posted by 長尾大志 at 18:36 | Comment(0) | 胸部X線道場

2013年02月04日

胸部レントゲン道場53・各論16・レントゲンで白くなる病態10・べったりと白くなる連続性の陰影・浸潤影2・air bronchogramの話

とまあ、紆余曲折の末に、air bronchogramの話にたどり着くことができました。


先に書いたように、正常肺のCTを撮ったとき、気管支は壁の厚みが0.5mm以上ある、割と中枢のレベルのものしか見えません。


5正常CT.jpg


上の写真で見えている白い棒状の、枝分かれしている構造物はほとんどが血管、ということです。気管支は中枢のホンの一部しか見えておりません。それは壁厚が0.5mmに満たないからですね。



ここで肺炎球菌肺炎のような浸潤影の成り立ちをおさらいします。戦いの場では肺胞腔内に「浸出液」があふれ出て、戦いが進むにつれ、浸出液内に山ほど微生物、防衛軍の屍骸が累積する。これが「膿」です。


病変は肺胞から肺胞へ、気道、Kohn孔を通して波及し、連続する病変が生じます。肺胞1個1個を拡大して見てみると…


2Kohn孔.JPG


こうやって連続性に肺胞が水浸しになることで、浸潤影が生じます。浸潤影は元々空気のあった肺胞腔が水浸しになってできた陰影、と考えて頂くと理解しやすいと思います。スポンジに水が染みこんだ感じでしょうか。


3浸潤影の模式図.JPG


で、肺炎球菌は気管支エリアにはあまり興味がなく、気管支内には病変を作りません。それで、気管支内には空気が残ることになります。


すると、周りの肺胞領域(水浸し)との間に逆のコントラストがついて…


径が0.5mm以上ある(割と末梢までの)気管支は可視化してくるわけです。


12径が0.5mm以上の気管支は見える.jpg


それで、あたかも空気によって気管支が(逆に)造影されたかのように見える、air bronchogramという所見が得られます。胸部レントゲン写真でもCTでも、白くべったりした陰影の中に黒くて細い帯(太い線?)として見られます。


13空気による気管支造影=air bronchogram.jpg


目をこらしてみてください。…PC上では見にくいでしょうか。CTも併せてご覧頂きましょう。


14空気による気管支造影=air bronchogram.jpg


このair bronchogramがあると何を意味するか。まず陰影が肺内にあることがわかります。それも、肺胞内に水が滲出していて、気管支内には空気が残っている、そんなことがわかるのです。


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posted by 長尾大志 at 15:45 | Comment(0) | 胸部X線道場

2013年02月03日

呼吸器内科の外来2

呼吸器内科は取り扱う疾患の特性、幅広さ、それにドクターの特性から、患者さんに対してできることの「裁量権」が大きいことが特徴です。


なので、おそらく自身のスキルが高まれば高まるほど、やりがいを感じて面白くなるように思います。そういうドクターの外来を、ほんの少しでも見ることは、若い人たちにとってとても刺激的な経験になるのだと思います。


そういう機会をどうやって設けるかは、数年前からの課題ではあるのですが、まだまだ日々の業務を回すのに手一杯だと、どうやったらいいのか…。知恵を絞って考えたいと思います。

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posted by 長尾大志 at 20:11 | Comment(0) | 日記

2013年02月02日

呼吸器内科の外来

昨日、将来の進路を悩んでおられるO先生と話をしていて、ものすごく実感したこと。
やっぱり、外来を見てもらわないと、呼吸器内科の魅力の半分は伝わらないな〜、ということです。


学生さんや研修医、若い先生方に、呼吸器内科医が外来をやっているところを見せないのは、かなりの損失であります。


あんなに、病歴聴取や身体所見、レントゲンやCTの読影からの鑑別など、ものすごくレベルの高いことをやっているのに。


プライマリ・ケアの最前線で、感染症、アレルギーをバンバン治し、免疫疾患や訳のわからない病態を頑張ってひもといているのに。


若い人が横で見たら、かっこよさにシビれるとおもいます。


世の呼吸器内科指導医の先生方、大変なところをあえてのお願いであります。若者に先生方のスゴイ外来を見せてやってください。ちょびっとでもいいと思います。


うちでは学生さん向けに外来シミュレーターという教育スライドを作っていて、割といい感じなのですが、やはりナマに勝るものはないでしょう。少なくとも若い先生に外来を見てもらうシステムを作らねば。

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posted by 長尾大志 at 22:00 | Comment(2) | 日記

2013年02月01日

胸部レントゲン道場52・CT総論9・で、これらの構造物が侵されるとどうなるか・カーリーのBライン(Kerley's B line)

長々と肺の「構造、構成物」について述べてきましたが、これは全て、「異常影の成り立ちを理解する」ために必要な知識なのです。今日からはいよいよ「ナゼ異常影が生じるのか」を考えます。


まずはわかりやすい例として、いつも学生さんにお話ししている「静脈の陰影」。


17小葉中心の肺動脈と小葉辺縁の肺静脈.jpg


小葉辺縁の肺静脈、端の部分(肺の一番端にあたります)での太さは、0.5mmより細くなっています。従って、肉眼(分解能0.5mm)やCT(分解能0.5mm)では見えないということになります。


23肺静脈の端はXPでもCTでも見えない.jpg


もう少し中枢側の肺静脈や、肺動脈は見えますが、肺の端に近い部分は、正常では何も見えないのです。


ここで、肺静脈、およびその周囲の間質に水が溜まってふくれあがる疾患=うっ血性心不全を考えてみましょう。特に肺の下の方、肺底区を中心に、「間質」に水が溜まります…。


この場合の間質とは、狭義も広義もどちらも指すのですが、特に広義間質(動静脈・気管支周囲の結合組織)に焦点をあてます。


下肺中心の静脈内、あるいは周囲の広義間質に水が溜まって肥厚(拡大)すると…。


24肺静脈、および(広義)間質が拡大する.jpg


通常目立った構造物が見られない肺の最外層で、広義間質が目立ってきます。最外層の広義間質は肺の外縁と垂直、つまり水平に走っています。また、小葉の大きさは1cm程度なので肺静脈の間隔も1cm程度になります。


以上から、肺の下部、最外層に、1cm程度の間隔で並ぶ、水平な線=Kerley’s B lineが生じてくるわけです。

通常水は左右どちらにも溜まりますから、左右両側に見られます。


25肺下部の間質が肥厚= Kerley’s B line.jpg


実例をご覧ください。うっ血性心不全症例です。


26 Kerley’s B line実例.jpg


心拡大、肺紋理の増強(ぷちバタフライ?)、Kerley’s B line、と、いずれも心不全を示唆する所見ですね。


27 Kerley’s B line実例.jpg


CTでは、肺の最外層に限らず、やたらと線が増えているのが目立ちます(黄矢印)。この線が広義間質にあたります。


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posted by 長尾大志 at 15:45 | Comment(2) | 胸部X線道場