2025年01月31日

間質性肺疾患について、改めてまとめ13・特発性群のうち覚えるべき疾患 ❸COP(特発性器質化肺炎)

Epler、Colbyらが1983〜1985年にかけて提唱した疾患概念です。当初はBOOPと呼ばれていました。
亜急性、すなわち週〜月単位の発症で、徐々に進行します。ときに自然消退もあるほどで、一般的にはステロイドが著効し、予後良好といわれています。

同じ「特発性」という訳になるのに、IPFはじめとする多くの間質性肺炎たちはidiopathicで、これだけcryptogenicなのは不思議ですね。idiopathicはギリシャ語の "idios"(自身の)と "pathos"(病気)に由来し、「それ自体の病気」を意味します。一方cryptogenicはギリシャ語の "kryptos"(隠れた)と "genesis"(起源)に由来し、「隠れた起源」を意味します。idiopathicは、病気が「それ自体の特性を持つ」ことを強調し、原因が不明であっても独自の特徴を持つ疾患を指しますが、cryptogenicは、病気の原因が「隠れている」または「不明」であることを強調しているそうです。

画像所見は一見、細菌性肺炎に似た浸潤影が、胸膜直下主体・斑状に分布します。
器質化肺炎は分類としては間質性肺炎に含まれるのですが、病理学的に肺胞領域の胞隔炎・浸出液(器質化肺炎:OP)と、細気管支のポリープ様閉塞性変化(閉塞性細気管支炎:BO)が特徴的で、肺胞を埋めつくす病変が多いため、すりガラス影というよりもむしろ浸潤影よりの濃い陰影をつくることが多いとされています。

また、教科書によっては「1/3の症例で移動する」などと書かれていますが、実際、病変がえっちらおっちら移動するはずもなく、ある部分が自然消退して別の部分に新病変が出てきたのを、そう表現していると思ってください。

COPの病理パターンはOP : organizing pneumonia(器質化肺炎)です。器質化肺炎(OP)と、閉塞性細気管支炎(BO)が特徴的であることから、BO+OP=BOOP(ブープ)という名称が使われていたこともありましたが、いつの間にかCOPにとって代わられました。

胞隔炎ではリンパ球浸潤がみられますので、肺胞洗浄液の中にもリンパ球が多く含まれるであろうことは想像に難くありません。診断基準として明確なカットオフ値があるわけではありませんが、ある報告では、
•肺胞洗浄液中、リンパ球分画>25%、かつCD4+/CD8+<0.9
•そして、次の3項目のうち少なくとも2項目を満たす。
@泡沫マクロファージ>20%
A好中球>5%
B好酸球 2〜25%
という基準が提唱されていますので、リンパ球分画>25%というのは診断の1つの目安になるでしょう。

また、間質性肺炎の中ではOPパターンは、経気管支肺生検(TBLB)で採取できる数mm大の組織でも診断が可能ですので、HRCTでOPパターンならBALとTBLBで診断することが可能です。

OP(器質化肺炎)の病理組織は、感染症、膠原病、薬剤性間質性肺炎、悪性腫瘍などでもみられます。OPの病理組織を持ち、原因のない(わからない)特発性間質性肺炎をCOPと呼ぶわけです。

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posted by 長尾大志 at 20:08 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年01月30日

研修医・若手医師のための呼吸器診療@日本大学医学部

昨日は日本大学医学部内科学系 呼吸器内科学分野主任教授の權寧博先生にお招きいただきまして、由緒正しき日本大学医学部記念講堂にて、標記の会でお話させていただきました。

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往路の富士山は、頭隠して尻隠さず、といった体。

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日本大学医学部記念講堂は、板橋区、つまり都会のど真ん中に、趣深く佇んでおりました。思わずあちこちで記念撮影です。

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講演は多くの研修医の先生方、学生さんにご参加いただき、なごやかに執り行われました。終了後長尾招聘の首謀者?の学生さんとお話しできましたが、その方が日本大学医学部呼吸器内科の先生にお話され、今回の企画に至ったとのこと。そしてその方、なんと弊学島根大学の学生さんと仲良くされているとか。いろんなところにご縁があるなあ、と感心しました。

学生さんが長尾の話を聴きたい、ということでしたら、貴学の呼吸器内科の先生にご相談されると、きっと良きに図らっていただけることでしょう!!

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その後權先生とお食事をご一緒させていただきましたが、大変印象深いお話とお食事でした。權先生、このたびは誠にありがとうございました!

これでこのたびの出張報告、前編を終わります。ここまでは申し分のない旅でしたが、後半大変でした。またそれは別の話です……。

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posted by 長尾大志 at 23:12 | Comment(0) | 活動報告

2025年01月29日

間質性肺疾患について、改めてまとめ12・特発性群のうち覚えるべき疾患 ❷INSIP (特発性非特異性間質性肺炎)

1994年Katzensteinにより提唱された疾患概念です。当初は、それまで分類されていた間質性肺炎の、どのタイプにも当てはまらない病理パターンがあるな〜、という感じで、今までになかったやつ、という意味で「nonspecific=非特異性」なんちゅう名前がついてしまったのですね。
気軽に、「じゃあこれもnonspecificで、これも、これも」と、症例を集積していったら、修正されるタイミングのないまま今に至ってしまった、ある意味かわいそうな(?)疾患群です。
で、似たような病理組織をパターン分類してまとめてみると、症例数も結構多かったのです。名前からして多そうなIPF=UIP(通常型間質性肺炎)に次いでよく見られます。

慢性に経過する特発性肺線維症(IPF)よりは少し早い経過(亜急性、と表現されます)の間質性肺炎です。IPFの「慢性」は月〜年単位、「亜急性」は週〜月単位の変化を表します。
細胞型と線維化型があり、細胞型の予後は特発性器質化肺炎(COP)とほぼ同等、つまり、結構良いです。線維化型の予後は細胞型より悪いものの、IPFよりは良く、ステロイド治療の甲斐があることが多いです。

HRCTでは蜂巣肺形成は少なく、すりガラス影や網状影が主体です。この画像の特徴も、予後が比較的(IPFよりも)良いことを象徴しています。というのは、蜂巣肺は肺胞が破壊され構造改変が起こってしまっている、ガチの線維化病変を表しますが、すりガラス影は細胞浸潤や炎症の部位も含んでいるとされているからです。
分布はIPFと同じく、肺底部と胸膜直下優位となります。典型的には、気管支と血管の走行に沿って陰影が分布します。

INSIPの病理組織型は、NSIP : nonspecific interstitial pneumonia(非特異性間質性肺炎)です。NSIPの病理組織を持ち、原因のない(わからない)特発性間質性肺炎をINSIPと呼ぶわけです。
病理学的には、比較的均一に肺胞壁が肥厚し(細胞浸潤/線維化による)、浮腫を来すことで壁が肥厚しているものの、本来の肺組織構造がわりあい保たれているのが特徴で、そのために病変に可逆性がみられます。

肺胞壁にやってきている炎症細胞がリンパ球主体であるため、肺胞洗浄液(BALF)中にもリンパ球増多が見られることは理解しやすいと思います。リンパ球主体の炎症反応にはステロイドが効果を示しますから、INSIPの予後が比較的良いのもこれまた理解しやすいところです。

ただ、当初INSIPと考えられていたものの、経過の中で線維化が進行しIPFのような転帰を辿る症例もあったりして、なかなか最初の診断時に転機や予後まで予測できる、とはならないのが難しいところです。ここでも、治療反応を含めた経過を含めて診断を考える、という考え方が必要になってきます。

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posted by 長尾大志 at 10:21 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年01月28日

間質性肺疾患について、改めてまとめ11・特発性群のうち覚えるべき疾患 ❶IPF (特発性肺線維症)

IPF:idiopathic pulmonary fibrosis(特発性肺線維症)は、IIPsの中で最も多く、慢性型で線維化のある間質性肺炎で、ゆっくりと着実に悪化し、ステロイドの効果は期待できないとされています。
肺の下・外側(肺の中で一番よく動くところ)に間質性肺炎〜線維化病変(蜂巣肺)が生じ、カチカチに硬くなることで肺が動かなくなり、拘束性障害(肺活量が低下)となります。間質の変化を反映して拡散障害が生じ、著しい労作時呼吸困難を来します。
身体所見としては、ばち指や、細かい断続性ラ音(捻髪音・ベルクロラ音・fine crackles)が特徴的です。

HRCTで肺底部と胸膜直下優位に浸潤影・すりガラス影・蜂巣肺形成を認めます。典型的なものは、それだけでIPFの診断基準にも用いられるほど特徴的で、UIPパターンと呼ばれています。

病理組織型は、通常型間質性肺炎(UIP : usual interstitial pneumonia)です。その名の通り、間質性肺炎の中では通常よく見られる病型とされています。
UIPの病理組織は、膠原病、石綿肺、慢性過敏性肺炎、薬剤性間質性肺炎などでも見られます。UIPの病理組織を持ち、原因のない(わからない)特発性間質性肺炎をIPFと呼ぶわけです。原因のあるものは各々の原因で分類します。

IPFの治療は、もはやステロイドや免疫抑制薬は使いません。
抗線維化薬として鳴り物入りで登場したピルフェニドン(ピレスパ Ⓡ)やニンテダニブ(オフェブⓇ)にしても、進行してしまった線維化を戻す能力は期待できませんので、軽症例で進行を抑える、というのが現実的な使い方かもしれません。とはいえ軽症例で使うには、薬価の問題や副作用が多すぎてためらわれることも多いです。

IPFでは気管支肺胞洗浄液(BALF)の細胞分画はおおむね健常者と大差がない、すなわちマクロファージ主体であることが特徴とされています。ところが、HRCTでUIPパターンを示しIPFと思われた症例でも、BALF中のリンパ球が増えていることがあり、そういう症例ではステロイド反応性が良好である、ということがしばしば経験されています。
ここはいろいろと議論があり、そういう症例って、実は後述するNSIPやCOP、あるいは、膠原病性間質性肺炎やその他の「リンパ球が増加する間質性肺炎」ではないか、といわれていたりもするのです。
というのも、前述の通りIPFは外科的肺生検を行わずに臨床診断することが多いのですが、HRCTでUIPパターンを示していても外科的肺生検をした例では病理組織的にはNSIPだった、とかCOPだった、というケースが見受けられるのです。
また、膠原病も、肺病変先行型膠原病といって、当初は肺病変(間質性肺炎)だけが起こり、特発性群と考えられたものの、経過中に他臓器の症状が出現し、あとで膠原病と診断されるケースもこれまた少なくありません。
NSIPやCOP、それに膠原病に合併した間質性肺炎では、肺胞洗浄液中のリンパ球が増えていることが多く、かつステロイド反応性もよく、予後も良好であることが多いのです。
というわけで、HRCTでUIPパターンを示しているが、BALFでリンパ球が増加している症例をどう考えるか…。

患者さんにとって大切なことは、厳密な診断(本当の意味でIPFかどうか)を下すよりも、治療方針を決めることです。
外科的肺生検を行わない間質性肺炎症例において、病理組織所見をどう名付けるかは、高度に専門的な(しばしば意見の統一をみない)話になります。そこで議論をするよりも、少なくとも肺胞洗浄液でリンパ球が多い方が、組織学的に線維化が軽度で炎症成分が多く、ステロイドに反応することが期待される、と考えるほうが、患者さんにとって利のあることではないかと考えます。

ガイドラインでも、治療反応を含めた経過を含めて診断を考える、ということが妥当であるとされています。そういった症例ではひとまずステロイドの反応性を確認し、効果があれば継続、効果がない、悪化傾向あれば抗線維化薬を投与、という治療方針が許容されるのではないでしょうか。

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posted by 長尾大志 at 14:54 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年01月27日

間質性肺疾患について、改めてまとめ10・特発性群の代表的な疾患

前項で挙げた病名、病理所見名をご覧になって、途方に暮れた方も多いと思います。でも、全部を覚える必要はありません。専門家になるのでなければ、さしあたり頻度の多いIPF、INSIP、COP、それに予後の悪いAIPを覚えましょう。

IPF
病名:IPF : idiopathic pulmonary fibrosis(特発性肺線維症)
病理:UIP : usual interstitial pneumonia(通常型間質性肺炎)

INSIP
病名:INSIP : idiopathic nonspecific interstitial pneumonia(特発性非特異性間質性肺炎)
病理:NSIP : nonspecific interstitial pneumonia(非特異性間質性肺炎)

COP
病名:COP : cryptogenic organizing pneumonia(特発性器質化肺炎)
病理:OP : organizing pneumonia(器質化肺炎)

AIP
病名:AIP : acute interstitial pneumonia(急性間質性肺炎)
病理:DAD : diffuse alveolar damage(びまん性肺胞障害)

IPPFEは意外に多いという印象ですが、なにせ治療法が何もない現在ですので、名前とその特徴だけ知っておかれたらいいのではないかと思います(後述)。

上記以外のIIPsについては「本当に特発性か?」というところが議論になっています。
RB-ILDとDIPは喫煙関連肺疾患、つまりタバコが原因とされ、独立して扱われるようになっていますし、LIPは当初リンパ球の多い間質性肺炎という位置づけでしたが、最近ではむしろリンパ増殖性疾患の範疇に入れた方がいいのでは、ともいわれているのです。このあたり、近々見直されるかもしれません。

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posted by 長尾大志 at 20:46 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年01月26日

適々斎塾で、胸部X線写真読影道場

今日はお久しぶりに?お声がけいただいた適々斎塾で、胸部X線写真読影道場をちょっと「しつこめ」にお話しさせていただきました。

4〜5年ぶりかと思っていたら、
2018年1月、4月、7月(広島セミナー)、11月、
2019年1月、5月と怒涛でした……。
2020年コロナになっても10月、
2021年6月、7月、
2023年6月と、結構な頻度でお声がけいただいておりました……。

とはいえコロナ禍期間はオンラインでしたから、生では5年半ぶりでしょうか。以前と変わらぬ熱量の先生方とのやり取りで、改めてこちらもエネルギーを頂きました!

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中西塾長、松村先生、山本先生はじめ塾生の先生方、講師の喜舎場先生、中島先生、中村先生、貴重な機会をありがとうございました!!

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posted by 長尾大志 at 20:07 | Comment(0) | 活動報告

間質性肺疾患について、改めてまとめ9・「病名」に対応する「病理所見」

昨日お示しした「病名」のうち代表的なものに対応する「病理所見」が、下の7つです。これらは、通常「○○パターン」と呼ばれています。

初学者にとってわかりにくいのは、この「病名」と「病理所見」が微妙に一致していたり、していなかったりするからでしょう。長い歴史の中で、いろいろな病名の混乱・変遷・統合があったためにこうなってしまったのですが、今となっては迷惑なだけですね。

病理組織のパターン分類
UIP : usual interstitial pneumonia
 (通常型間質性肺炎)
NSIP : nonspecific interstitial pneumonia
 (非特異性間質性肺炎)
OP : organizing pneumonia
 (器質化肺炎)
DAD : diffuse alveolar damage
 (びまん性肺胞障害)
RB-ILD : respiratory bronchiolitis associated interstitial lung disease
 (呼吸細気管支炎を伴う間質性肺炎)
DIP : desquamative interstitial pneumonia
 (剥離性間質性肺炎)
LIP : lymphocytic interstitial pneumonia
 (リンパ球性間質性肺炎)
PPFE : pleuroparenchymal fibroelastosis
 (胸膜肺実質線維弾性症)

「病名」と「病理所見」の対応は、下の表の通りです。
病名 病理所見
IPF UIP
INSIP NSIP
COP OP
AIP DAD
RB-ILD RB-ILD
DIP DIP
ILIP LIP
IPPFE PPFE

特発性群の鑑別には本来、胸腔鏡を用いた生検(外科的肺生検)による大きめの(1 cm単位の)組織標本が必要ですが、実際問題、胸腔鏡のリスク、急性増悪の可能性などを勘案しますと、外科的肺生検を施行する症例はそれほど多くありません。

現在は、臨床経過やHRCT所見、肺胞洗浄液の細胞分画などから臨床的に判断して分類し、治療方針を決定することが多くなっています。

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posted by 長尾大志 at 11:26 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年01月25日

間質性肺疾患について、改めてまとめ8・特発性群の分類

病名の分類
IIPs: idiopathic interstitial pneumonias(特発性間質性肺炎群)は、2013年に改訂された国際分類で、以下のように分けられました。

主要特発性間質性肺炎(major IIPs)
•慢性線維化性間質性肺炎
IPF : idiopathic pulmonary fibrosis
 (特発性肺線維症)
INSIP : idiopathic nonspecific interstitial pneumonia
 (特発性非特異性間質性肺炎)

•喫煙関連間質性肺炎
RB-ILD : respiratory bronchiolitis associated interstitial lung disease
 (呼吸細気管支炎を伴う間質性肺炎)
DIP : desquamative interstitial pneumonia
 (剥離性間質性肺炎)

•急性/亜急性間質性肺炎
COP : cryptogenic organizing pneumonia
 (特発性器質化肺炎)
AIP : acute interstitial pneumonia
 (急性間質性肺炎)

稀少特発性間質性肺炎(rare IIPs)
ILIP : idiopathic lymphocytic interstitial pneumonia
 (特発性リンパ球性間質性肺炎)
IPPFE : idiopathic pleuroparenchymal fibroelastosis
 (特発性胸膜肺実質線維弾性症)

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posted by 長尾大志 at 15:57 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年01月24日

間質性肺疾患について、改めてまとめ7・シンプルな診断・治療手順(非専門医向け)

結局ガイドラインでどうなったか、というと、以前はUIPパターン以外の(つまり蜂巣肺がない)症例では外科的肺生検をしないとIPFの診断ができなかったものが、BALとMDDをすればIPFと診断できることになったわけです。
つまり今回のガイドラインにおける診断アルゴリズム変更は、専門病院の先生方が少しでも抗線維化薬を使いやすい方向に変更されたものであって、一般病院の先生方の診断・治療が容易になったわけでは決してありません。

というわけで、ガイドライン自体、多くの初学者の方や非専門医の先生方のお役に立ちませんから、もう少しお役に立つよう、とことんシンプルにしてみましょう。

@とにもかくにも原因があるかないかを追求。原因があれば、除去できるものは除去する。

・膠原病があれば、ステロイド(+免疫抑制薬)治療。
・薬剤性肺障害が疑わしければ、とにかく中止。呼吸不全があればステロイド治療。
・過敏性肺炎が疑わしければ、とにかく抗原隔離。呼吸不全があればステロイド治療。
・感染症が関与していれば、病原体に対する治療。

A原因がなくて、UIPパターンなら、IPFとして診療。

この場合、治療としてはよほどのことがない限り、抗線維化薬(ニンテダニブ、ピルフェニドン)になります。

B原因がなくて、UIPパターン以外なら、専門家にコンサルト。BALや外科的肺生検を行い、診断・治療をしていく。

……というのが建前ですが、実際はコンサルトできる距離に専門家がいない、ということも多く、低酸素があるような急を要する状態であればステロイド治療、CTで線維化が確認されたらステロイド+抗線維化薬、というような治療をされているのが現実ではないかと推察します。

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posted by 長尾大志 at 11:42 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年01月23日

間質性肺疾患について、改めてまとめ6・HRCTの所見

原因がない、見当たらない、となって、HRCTで特発性肺線維症(IPF)に典型的な画像所見がある場合、臨床診断としてIPFと診断して良いとされています。で、その「HRCTで特発性肺線維症(IPF)に典型的な画像所見」ですけれども、いわゆるUIPパターンと呼ばれるものがそれです。

HRCTで両側びまん性の陰影をみたときに、UIPらしいか、そうでないか、ということで、ATS/ERS/JRS/ALAT国際診断ガイドラインでは4パターンに分類されています。
•UIP(UIPらしさ90%以上)
•Probable UIP(70〜89%)
•Indeterminate for UIP(51〜69%)
•Alternative Diagnosis(50%以下)

UIP
•胸膜直下、肺底部優位;分布はしばしば不均一、片側性分布もありうる
•蜂巣肺(末梢の牽引性気管支拡張/細気管支拡張は伴っても伴わなくてもよい)、小葉間隔壁の不規則な肥厚、網状影と軽度すりガラス影、
ここは、そんなに議論のないところです。

Probable UIP
[probable] (確実ではないが)ありそうな、起こりそうな、まず確実な、たぶん…だろう(weblio英和辞典より)
所見としては、
•胸膜直下、肺底部優位:分布はしばしば不均一(正常領域と網状病変が混合)
•末梢の牽引性気管支拡張/細気管支拡張を伴う網状影
•軽度のすりガラス影はあってもよい
•胸膜直下をスペアする(避ける)病変はない

原因不明の慢性線維化のある間質性肺炎でUIPパターンかProbable UIPパターンであれば、IPFの可能性はかなり高いといえるでしょう。

Indeterminate for UIP
[indeterminate] 不確定の、不定の、明確でない、漠然とした、あいまいな、未解決の、未定の(weblio英和辞典より)
つまり、UIPとは決めかねる、ということです。所見としては、
•胸膜直下優位でないびまん性分布
•他に特定の病因を示唆しない肺線維化病変の特徴や分布がみられる

Alternative Diagnosis
[alternative] 二者択一の、代わりとなる、代わりの、慣習的方法をとらない、新しい(weblio英和辞典より)
オルタナティブ・ロックといえば、その時の主流とは違ったスタイルのロックを指すわけですが、この場合のalternativeは、「UIPと違う、別の診断になる」という意味合いです。所見としてはいろいろありますが、例としては

•胸膜直下をスペアする気管支血管側優位分布⇒NSIP
•リンパ管周囲優位⇒サルコイドーシス
•上葉・中葉優位⇒HP、CTD-ILD、サルコイドーシス
•嚢胞⇒LAM、PLCH、LIP、DIP
•モザイクパターン⇒HP
•広範なすりガラス影⇒HP、喫煙関連肺疾患、薬剤
•多数の小葉中心性粒状影⇒HP、喫煙関連肺疾患
•結節影⇒サルコイドーシス
•コンソリデーション⇒OP
•胸膜プラーク⇒アスベスト肺
•拡張した食道⇒CTD-ILD
•胸水・胸膜肥厚⇒CTD-ILD、薬剤

のように、IPFとは別の疾患を考えていくことになります。

HRCTでUIPパターンが認められた場合は、総合的なディスカッション(MDD)を経てIPFと最終診断されます。ただし、MDDができる施設は全国でもごく限られた、臨床、画像、病理の専門家が揃った(もしくは相談できる)施設になりますので、現実的にはMDDを省略されているケースが多いでしょう。

HRCTでUIPパターン以外の場合は、気管支鏡検査でBALもしくは外科的肺生検による病理診断を行って、MDDにより間質性肺炎の診断をしていくことになっています。ここでも、気管支鏡はともかくMDD、外科的肺生検といった、一般病院にはハードルの高い文言が並んでいます。

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posted by 長尾大志 at 08:15 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年01月22日

間質性肺疾患について、改めてまとめ5・呼吸機能検査など

呼吸機能検査は古よりある検査ですが、現段階での肺予備能を知るためには欠かせない検査です。拘束性障害 (%VC<80%)、拡散障害 (%DLCO<80%)は診断基準にも含まれています。

動脈血ガス分析・6分間歩行検査
酸素投与の必要性を評価するものです。特に労作時にのみ低酸素となることもあるため、6分間歩行検査も確認しておきたいところです。特に特発性肺線維症では重症度分類に適用し治療方針にも関わるため、必須の検査です。
重症度分類 安静時動脈血酸素分圧 6分間歩行時 最低SpO2
I度 80Torr 以上 90 %未満の場合はVにする
II度 70Torr 以上 80Torr 未満 90 %未満の場合はVにする
V度 60Torr 以上 70Torr 未満 90 %未満の場合はIVにする(危険な場合は測定不要)
W度 60Torr 未満 測定不要

検査などから原因がはっきりすれば、その原因に関してさらに精査を進め、治療を行います。

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posted by 長尾大志 at 20:34 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年01月21日

間質性肺疾患について、改めてまとめ4・間質性肺炎に関する検査

間質性肺炎の可能性が疑われた時に行うべき検査としては、一般的な採血、肺機能、動脈血ガス分析などがあります。

血清マーカーなど
採血ではKL-6、SP-D、SP-Aが間質性肺炎に特異的といわれ、保険適用もあります。ただ、残念ながら診療報酬上、「KL-6、SP-A及びSP-Dのうちいずれか複数を実施した場合は、主たるもののみ算定する」ということなので、注意が必要です(2024年12月現在)。個人的にはKL-6が特異度などの点で有用と考えていますので、1つ採るならKL-6としています。
採血ではそれ以外に、活動性のマーカーとしてLDHなど一般生化学検査と血算を行います。
問診や診察所見などから、特発性でない間質性肺炎の可能性が考えられたら、ここで感染症のマーカー(β-D-グルカン、C7-HRPなど)や、膠原病や血管炎に特異的な抗体検査を行います。

抗体検査
初診時には、まず抗核抗体(ANA)とRFを測定します。ANA陽性の場合、疾患特異的な抗体として、以下のようなものを測定します。

抗ds-DNA抗体・抗Sm抗体 全身性エリテマトーデス
抗U1RNP抗体 混合性結合組織病
抗SS-A抗体 Sjögren症候群など多くの膠原病で陽性
抗SS-B抗体 Sjögren症候群
抗トポイソメラーゼT抗体(抗Scl-70抗体)・抗セントロメア抗体・抗RNAポリメラーゼ抗体 強皮症
抗Jo-1抗体などの抗ARS抗体 多発性筋炎、皮膚筋炎

さらに加えて
抗CCP抗体 関節リウマチ
抗リン脂質抗体 抗リン脂質抗体症候群
MPO-ANCA 顕微鏡的多発血管炎
PR3-ANCA 多発血管炎性肉芽腫症
抗GBM抗体 Goodpasture症候群

初診時からこのようにじゅうたん爆撃的に抗体を測定することは、賛否両論ありましたが、最近は後述するIPAFや肺病変先行型膠原病の存在が知られてきて、早期スクリーニング目的で抗体検査を行うことが多いようです。しかし保険審査では問題となることも多く、悩ましいところです。

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2025年01月20日

間質性肺疾患について、改めてまとめ3・ガイドラインによる診断手順

ガイドラインによる診断の手順をまとめてみましょう。あくまで「IPFの」ガイドラインですので、IPFの診断のためにどうするか、という観点が中心になります。それでも特発性間質性肺炎の診断において、IPFかそうでないかは、治療を決定する重要事です。
なにしろ、
•IPF⇒抗線維化薬、もしくは支持治療(無治療)
•IPFでない⇒免疫抑制治療
ですから。

ガイドラインの診断手順
IPFを疑うような症候(胸部X線写真やCTで両側に陰影が見られる、両側下肺に吸気時cracklesが聴取される、60歳以上)があったり、労作時息切れや咳があったりしたら、まずは間質性肺疾患を来すような原因(〇ページ)がないかを確認します。特定の原因がない、となれば特発性を考えます。そして、(原因があってもなくても)胸部HRCTを撮影します。

HRCTでUIPパターンが認められた場合は、総合的なディスカッション(MDD)を経てIPFと最終診断されます。ただし、MDDができる施設は全国でもごく限られた、臨床、画像、病理の専門家が揃った(もしくは相談できる)施設になりますので、現実的にはMDDを省略されているケースが多いでしょう。

HRCTでUIPパターン以外の場合は、気管支鏡検査でBALもしくは外科的肺生検による病理診断を行って、MDDにより間質性肺炎の診断をしていくことになっています。ここでも、気管支鏡はともかくMDD、外科的肺生検といった、一般病院にはハードルの高い文言が並んでいます。

結局ガイドラインでどうなったか、というと、以前はUIPパターン以外の(つまり蜂巣肺がない)症例では外科的肺生検をしないとIPFの診断ができなかったものが、BALとMDDをすればIPFと診断できることになったわけです。
これってどういうことかというと、今回のガイドラインにおける診断アルゴリズム変更は、専門病院の先生方が少しでも抗線維化薬を使いやすい方向に変更されたものであって、一般病院の先生方の診断・治療が容易になったわけでは決してありません。

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2025年01月19日

間質性肺疾患について、改めてまとめ2・診断の手順

間質性肺炎診断の道筋としては、空咳や労作時の息切れといった症状、受診時あるいは健診でのスクリーニングにおける胸部X線写真(両側下肺野にすりガラス影や網状影が見られる)、胸部の聴診(fine cracklesが下肺野に聴取される)、などで間質性肺炎の存在が疑われることが多いでしょう。大学病院では、他疾患のために撮影された胸部X線写真やCTで偶然発見され、「間質性肺炎疑い」とされて紹介になることも結構あります。

診断の手順として、まず間質性肺炎の分類は、「原因がある」のか、「原因がない特発性群」なのかがとても重要です。
なぜ、特発性群を特別扱いするかというと、特発性群の予後・治療がおおよそ病理学的な分類で決まるのに対し、原因のわかっているものは(病理学的にもある程度規定されるとはいえ)その原因に予後・治療が左右されるからです。

@ 原因のない(わからない)ものを、特発性間質性肺炎idiopathic interstitial pneumonias:IIPsといい、病理組織学的所見に基づいて分類します。
A 原因のわかっているものは、その原因に応じて分類します。
•薬剤
•膠原病
•職業・環境:過敏性肺炎、じん肺、金属肺、放射線肺炎、酸素中毒
•感染:各種ウイルス、ニューモシスチス、結核、イコプラズマ、真菌

ということで、まずは明らかな原因のあるもの、すなわち薬剤性肺炎、膠原病、過敏性肺炎、放射線肺炎、じん肺、感染症などを除外(あるいは診断)するために、問診や身体診察をしっかりと行います。

問診では、間質性肺炎を起こすことが知られている薬剤の使用歴を確認します。1年以内の放射線照射があれば放射線肺炎は分かりやすいですね。
膠原病は、特徴的な症状や身体所見を聴き取り、観察します。皮疹(皮膚の着色・硬化など)、関節症状や関節炎、筋痛、Raynaud症状、目や口の乾燥、腎障害や血尿などですね。また、過敏性肺炎を起こすカビなどとの接触があるか、鳥(羽毛製品)との接触があるか、加湿器を使用しているか聴きます。
じん肺は職業上、粉じんへの曝露があるか、アスベストなどを取り扱っていないかをよく確認します。

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posted by 長尾大志 at 13:30 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年01月17日

間質性肺疾患について、改めてまとめ1・ガイドラインあれこれ

気胸についてある程度片が付いたところで(もう少しありますがそれはまたの機会で)、間質性肺疾患についてまとめなくてはなりません。そろそろ勘のいい方はお気づきかもしれませんが、書籍のお仕事の関係で、改めて各種肺疾患についてまとめていっております。4月、学会に間に合うよう刊行予定ですので、是非お待ちください!!


古くはHammanとRichによる急性症例の報告に始まる「間質性肺炎」という病態に関しては、その後多くの症例の蓄積を経て、疾患概念そのものの変遷、紆余曲折がありました。
急性型のAIPと慢性型のIPFに加え、NCIPだNSIPだBOOPだOPだCOPだと新しい疾患概念が提唱され、混乱の後に、2000年になってようやく「特発性間質性肺炎の7つの病理型を元に臨床診断を定める」となって、一旦ガイドラインがきちっと決まったかと思わせておいて、それからも数年に一回用語が変わったり追加されたり。専門でない先生方、傍から見ていてうんざりしている先生方が多いのではないかと思います。
我々専門医にとってすら、ガイドラインが変わるたびに、用語の定義が、あるいは用語そのものがコロコロ変わるという現状は、非常にうっとうしい、やりにくいものであります。

最近ではCPFEだPFILDだPPFEだPPAPだIPAFだと、またぞろ新しい用語が生まれてては消え、しています(すでにCPFEという言葉も下火です)。一度提唱された先生は、安易に取り下げないでいただきたい。世に出すのであれば、十分な議論の後に出していただきたいものです……。

まあそれはそれとして、現時点(2024年12月)で最新のガイドラインである『特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き第4版』(2022年)に、最新の米国胸部学会(ATS)/欧州呼吸器学会議(ERS)/日本呼吸器学会(JRS)/南米胸部学会(ALAT)合同の、IPF(特発性肺線維症)の診断に関するclinical practice guidelineをからめた形で、診断と治療の手順をお届けしようと思います。

なお、特に肺線維症のガイドラインは、どうやって抗線維化薬を使う(使わせる?)かと、各分野の専門医による議論(MDD:multidisciplinary discussion)というところに力点が置かれていますが、正直、初学者の皆さんや非専門医の先生方にとってはどうでもいい?話なので、そこは端折っていきたいと思います。あくまで診断と治療における、エキスパート以外の方がアクセスできる最新の状況を知っていただくということを目的にしています。

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posted by 長尾大志 at 12:35 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年01月16日

島根大学医学部附属病院 卒後臨床研修センター教授候補者の公募

島根大学医学部附属病院 卒後臨床研修センター教授、再公募となってしまいました……。

島根に所縁のなくても(私もそうです、食べ物はウマいし人はいいし景色もサイコーです!)、島根には教育の場が豊富にあり、協力してくださるステキな総合診療医の先生方もたくさんおられ、先生の考える「理想の教育・研修」を追求することができます!教育に熱意のある先生、新天地でチャレンジしてみませんか?ご応募を心よりお待ちしております!!

https://www.med.shimane-u.ac.jp/saiyou/saiyou_list/sotsugokj2024.html

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posted by 長尾大志 at 08:36 | Comment(0) | 日記

2025年01月15日

気胸について、改めてまとめ9・クランプテスト

肺の孔がふさがってエアリークがなくなり、胸部X線写真上、肺の再膨張があれば、いよいよドレーンチューブを抜きましょう。

しかし、パッと見エアリークがなくても、ほんの小さな孔が残っている場合には、吸引をかけている間は肺が広がっているけれども、ドレーンチューブを抜いて何時間か経ったら、また肺がへこんでしまうかもしれません。

そこで、擬似的にドレーンチューブを抜いたのと同じ状態を作り出し、テストします。
具体的には、チューブの途中を鉗子ではさみ(=クランプ)、チューブ内の交通を遮断します。これで、チューブを抜いたのと同じような状態になります。

クランプを24時間続けて(つまり翌日に)、胸部X線写真を撮影し、気胸の再発がなければ、穴はほぼふさがっていると解釈し、ドレーンチューブを抜去します。
このようにクランプしてみることを、「クランプテスト」というのです。

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posted by 長尾大志 at 20:12 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2025年01月14日

気胸について、改めてまとめ8・ドレーンチューブの先端の位置

ドレーンチューブを挿入する場所については成書に必ず記載してありますが、しばしば抜けがちな視点が、チューブ先端の位置です。

基本は、
「気胸の場合、ドレーンチューブの先端は、肺尖にあること」
なぜか? 胸腔内の空気を、効率よく、すべて排出するためですね。

ドレーンチューブを入れて胸腔内の空気が抜け、肺が膨張してくると、まず肺底部から空気が抜けていって、肺尖部には最後まで空気が残ります。

考えてみれば当たり前なんですが、初学者の方は、手技の本に書いてある挿入の場所にはこだわるが、先端の位置には無頓着になりがちなんですね。教科書には大抵、「どこそこから挿入する」としか書いてないからだと思いますが…。

先端を肺尖に確実におくことができ、かつ、傷つけて困るような大血管などがない場所から挿入すべきなので、
•第2肋間鎖骨中線
•第5〜6肋間・中腋窩線
から挿入するのがよい、ということになるのです。

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posted by 長尾大志 at 17:03 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2025年01月13日

気胸について、改めてまとめ7・再膨張性肺水腫について

ドレーン挿入実際の手技は、成書や手技動画をご参照いただきたいのですが、ドレナージを行う上で大事なことをいくつか述べます。

まず再膨張性肺水腫について。特に虚脱期間が長かった肺を急に再膨張させると、一気に肺内の血流が増え、血管透過性が亢進して肺水腫となります。程度がひどいと人工呼吸管理が必要となります。
少なくとも3日間虚脱すると発生する可能性がありますが、1時間の虚脱では発生しないといいます。多くの症例ではその間になると思われるので、悩ましいわけです。発生率自体は、1%前後とそれほど高くありません(Ann Thorac Cardiovasc Surg, 2008.14(4)205-209)。

陰圧にすると発生しやすいので、少なくとも発症直後でないとき、数日虚脱していると考えられるときは、まず水封にし、陰圧をかけないでおくのが無難です。24〜48時間で再膨張がみられなければ、陰圧で吸引を開始します。

また、再膨張させる速度の目安として、いくつかの数字があります。これも諸説ありますが、450  mL/hr未満、あるいは1000  mL/day未満であれば起こる危険は低いといわれています。
胸水の場合は抜く量、速度の調整は容易ですが、気胸の場合、抜いた空気の量を測定するのは容易ではなく、また、リークがあるとこの限りではありませんから、あくまで参考としてください。

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posted by 長尾大志 at 12:30 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2025年01月11日

気胸について、改めてまとめ6・小さな虚脱の治療方針

前述の米国の学会によるコンセンサス「虚脱した肺が肺尖部から3  cmあれば……」を目安にすれば、方針に迷うことは少ないのではないかと思います。虚脱の程度がsmallを超えるぐらい大きく虚脱している場合は、問答無用でドレナージですが、問題は、small相当の場合です。

受診パターンを大きく分けると、発症してすぐ受診されるか、数日経つのに症状が続くから受診されるか、のどちらかで、発症のタイミングがはっきりしている場合は、方針を立てやすいです。

発症すぐの受診で、虚脱率が小さいときは悩ましいです。抜けそうなスペースがあれば1回穿刺によって脱気し、経過観察でもいいでしょう。単純に、数時間後胸部X線写真を再検して方針を決めることができればわかりやすいですが、外来ではなかなか難しいと思います。

しばらくたってからの受診で、虚脱率が小さい場合は、すでに孔がふさがっているか、開いていたとしてもきわめて小さいと推測されます。したがって、経過観察でもよいかと思います。あるいは、1回穿刺によって脱気をしておくと、肺を迅速に再膨張させることができます。

もちろん、施設によって方針が決まっている場合は、この限りではありません。

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posted by 長尾大志 at 11:04 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ