2025年02月28日

間質性肺疾患について、改めてまとめ26・好酸球性肺疾患

好酸球性肺疾患は、間質性肺炎に含まれるような、含まれないような、教科書によっていろいろな範疇に属する、あいまいな立ち位置の疾患であります。

細かいことを論じ出すとどんどんややこしくなるので、シンプルに定義しておきましょう。要は、好酸球主体の炎症が生じている肺炎、好酸球による肺への浸潤がみられている病態を総称して好酸球性肺炎、といいます。

分類は、教科書を見ますとまあいろいろ書いてあります。原因別に疾患群を分類してみましょう。

原因が明らかな好酸球性肺疾患
•寄生虫、寄生虫以外の感染症
•アレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)
•薬剤、中毒物質、放射線によるもの

原因不明の(特発性)好酸球性肺疾患
•特発性好酸球性肺炎:急性好酸球性肺炎、慢性好酸球性肺炎
•全身疾患に伴うもの:好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)、好酸球増多症候群

その他の好酸球増多を来しうる肺疾患
•過敏性肺炎
•気管支喘息、好酸球性気管支炎
•特発性肺線維症
•剥離性間質性肺炎
•器質化肺炎
•ランゲルハンス細胞組織球症
•肺移植後
•その他(サルコイドーシス、悪性腫瘍、血液疾患など)

このように、原因の明らかなもの、原因の明らかでないものから他の肺疾患まで、さまざまな病態を含んだ、何とも広範な疾患概念であります。ただ、いずれも好酸球が増える炎症であるという点に焦点が置かれています。

このうち、全身疾患としての好酸球増多でなく、肺の好酸球増多として是非知っておきたいのは急性好酸球性肺炎、慢性好酸球性肺炎。それにABPMあたりかと思います。急性好酸球性肺炎と慢性好酸球性肺炎は、急性と慢性というだけではなく、随分異なる臨床像を呈していて、別物であると考えられています。

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2025年02月27日

間質性肺疾患について、改めてまとめ25・特発性でない間質性肺疾患・過敏性肺炎の診断

ガイドラインでは各方面に配慮した?結果、とにかくMDDで決めましょうということになっています。典型的でないものはグラデーションが大きすぎてMDDに丸投げ?せざるを得ない、という感じでしょうか。

HPの診断手順として、まずは曝露の評価とHRCT所見を確認し、それからBAL、TBLBへと進みます。
HRCT所見を、非線維性HPはTypical HP、Compatible with HPの2つに、線維性HPはTypical HP、Compatible with HP、Indeterminate for HPの3つに分類します。

非線維性HP
・Typical HP:肺野病変はすりガラス陰影、モザイクパターンがあり、細気管支病変として境界不明瞭な小葉中心性粒状影、呼気CTでのair trappingがある。分布はびまん性で肺底部がスペアされる場合もある。

・Compatible with HP:肺野病変は均質で軽微なすりガラス陰影、コンソリデーション、薄壁嚢胞が散在する。分布は基本的にびまん性で、下肺野優位の場合もある。また気管支血管束周囲優位の場合もある。

線維性HP
Typical HP:構造改変を伴う不整な線状・網状影で構成された肺の線維化病変。分布はランダムが多いが比較的肺底部がスペアされる傾向にある。細気管支病変を示唆する所見として境界不明瞭な小葉中心性粒状影/すりガラス陰影、モザイクパターンなど。

Compatible with HP:typicalとは異なる肺の線維化病変で、IPFガイドラインのUIP相当、もしくは広範なすりガラス陰影に軽度の線維化病変。分布のバリエーションとして胸膜下、気管支血管束優位、上肺野優位というものがある。細気管支病変を示唆する所見もある。

Indeterminate for HP:肺の線維化病変単独で、UIPパターン、Probable UIPパターン、Indeterminate for UIPパターン、Fibrotic NSIPパターン、Truly indeterminate for HRCTパターンがある。

曝露が特定されて典型的HRCT像(Typical HPパターン)があり、BALFリンパ球増多(20%以上)があれば、(MDDを経て)過敏性肺炎「高確診」例となっています。ひとまず非専門医の先生方はここまでやっていただけるといいのではないでしょうか。

そこで曝露、HRCT、BAL、TBLBその他すべての所見を統合しても診断不明である場合、さらにMDDを経て、またTBLCやSLBでさらに大きな病理検体を得ることを試みて、改めて診断を再検討します……専門医に丸投げください……。

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posted by 長尾大志 at 17:07 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年02月26日

第119回医師国家試験問題解説・E48 喘息患者さんの対応

E48
β2刺激薬の吸入を行ったが呼吸困難と喘鳴が改善しない.
次に静脈内投与すべき薬剤はどれか.
a アトロピン
b ジアゼパム
c フロセミド
d アドレナリン
e グルココルチコイド

こちら、喘息単独だと易問になるため、認知症と絡めることで、また薬剤名を選ばせることで少しでも難易度を上げようということですが、あまり奏功したようには見えませんね。

それはさておき、こういう選択肢から今後また別の問題が作成されますから、アトロピン、ジアゼパム、フロセミド、アドレナリンについてもどのようなときに使われる薬剤であるか、確認しておきましょう。
正解:e グルココルチコイド

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2025年02月25日

第119回医師国家試験問題解説・E47・48 認知症患者さんの対応

最近、臨床実習で患者さんや現場をちゃんと見なさいよ!というメッセージ性のある問題が増えていて、この手の問題もここ数年でよく見かけますね。認知症とナニかを抱き合わせて連問にするやつ。

これを「呼吸器の問題ですよ」といわれてもなあ、という気もしますが、逆に誰もが解けるべき問題でもあります。やはり認知症患者さんは現場でめっちゃ増えてますし、国家試験が終わって初期研修が始まれば、そういう方に対応する必要も出てくるわけで、そういう意味でもこちらは必修!といってもいいでしょう。

そのつもりでE47を見ると、実は別にそれまでの臨床情報はいらんというか、認知症、という情報だけでいいくらいですね。

E47
認知症患者の前腕から静脈投与を行う.静脈留置針の自己抜去を防ぐために行う対応で適切なのはどれか.
a 薬剤は持続点滴で投与する.
b 両上肢を抑制帯で固定する.
c できるだけ太い留置針を用いる.
d 夜間も患者周囲の照明をできるだけ明るくする.
e 患者から見えないように寝衣の袖の中に点滴ルートを通す.

それで考えると、認知症患者さんにせん妄の原因になるような余計な刺激は与えたくない。出来るだけ点滴は短い時間で、つながっている時間を短くしたいし、抑制なんか却って刺激になるし、留置針は細い方がいいだろうし、昼夜のメリハリはつける方がいいだろうし、ルートが目立たない、見えにくい方がいいだろうし。とまあごく普通に考えると正解はeとわかりますね。

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2025年02月24日

第119回医師国家試験問題解説・E47・48 認知症と気管支喘息

次の文を読み,47,48の問いに答えよ.

75歳の女性.呼吸困難を主訴に救急車で搬入された.
現病歴:8年前に認知症と診断され,現在は直前の出来事も記憶していない.1週間前から咳嗽が増加し,市販の咳止めを内服したが改善しなかった.昨夜から呼吸困難が強くなり,喘鳴が家族にも聴取できるようになった.かかりつけ医に処方されていた吸入薬を使用したが今朝になっても改善しないため,家族が救急車を要請した.
既往歴:認知症のほかに,40歳時から気管支喘息で発作時の吸入薬を処方されている.
生活歴:喫煙歴と飲酒歴はない.
家族歴:父が80歳時に脳梗塞で死亡.母が65歳時に胃癌で死亡.

現症:ベッド上で仰臥位となっている.会話は可能だが見当識に関連する質問には回答できない.身長143cm,体重46kg.体温36.6℃.心拍数92/分,整.血圧146/68mmHg.呼吸数20/分.SpO2 99%(マスク5L/分 酸素投与下).頸静脈の怒張を認めない.口腔内と咽頭とに異常を認めない.両側全肺野で呼気時にwheezesを聴取する.腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない.四肢に浮腫を認めない.

検査所見:尿所見:蛋白(−),糖(−),ケトン体(−),潜血(−).血液所見:赤血球452万,Hb 13.8g/dL,Ht 41%,白血球5,440(好中球43%,好酸球12%,好塩基球1%,単球6%,リンパ球38%),血小板21万.血液生化学所見:総蛋白7.3g/dL,アルブミン3.7g/dL,総ビリルビン0.5mg/dL,直接ビリルビン0.1mg/dL,AST 19U/L,ALT 10U/L,LD 230U/L(基準124〜222),CK 40U/L(基準41〜153),尿素窒素10mg/dL,クレアチニン0.6mg/dL,尿酸5.3mg/dL,血糖98mg/dL,Na 139mEq/L,K 4.2mEq/L,Cl 106mEq/L,Ca 8.9mg/dL,P 4.0mg/dL.CRP 0.4mg/dL.動脈血ガス分析(マスク5L/分 酸素投与下):pH 7.46,PaCO2 31Torr,PaO2 92Torr,HCO3− 21mEq/L.心電図で異常を認めない.胸部X線写真で異常を認めない.

E47
この患者の前腕から静脈投与を行う.
静脈留置針の自己抜去を防ぐために行う対応で適切なのはどれか.
a 薬剤は持続点滴で投与する.
b 両上肢を抑制帯で固定する.
c できるだけ太い留置針を用いる.
d 夜間も患者周囲の照明をできるだけ明るくする.
e 患者から見えないように寝衣の袖の中に点滴ルートを通す.

E48
β2刺激薬の吸入を行ったが呼吸困難と喘鳴が改善しない.
次に静脈内投与すべき薬剤はどれか.
a アトロピン
b ジアゼパム
c フロセミド
d アドレナリン
e グルココルチコイド

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2025年02月23日

第119回医師国家試験問題解説・C66、67 CTの所見と対応回答

C66はCTを読む問題で、気胸、大動脈解離、縦隔気腫、心囊液貯留、胸腔内液体貯留(胸水?血胸?)、といった、こちらの選択肢に挙がっているような所見に関しては、基本を押さえておきましょう。

出来れば胸部単純X線写真も併せておさえておきたいところですね。
ということで動画のご紹介、笑

気胸⇒
https://youtu.be/x7qy7V8x19M

縦隔気腫⇒
https://youtu.be/0xr2CCts_tA

胸水⇒
https://youtu.be/ON71ueKPDKM

ちなみにわざわざ「胸腔内液体貯留」という言い回しにしているのは、ただの胸水ではなく、外傷によって生じた胸腔内の出血=血胸、と考えられるからですね。

C67
行うべき対応はどれか.
a 経過観察
b β遮断薬投与
c 気管挿管陽圧換気
d 胸腔ドレーン挿入
e 非侵襲的陽圧換気〈NPPV〉

出血が増えているので、対応として選択肢から選ぶとすればdでしょう。臨床の現場では手術も念頭においておく必要があるでしょうが……。

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2025年02月22日

第119回医師国家試験問題解説・C66、67 CTの所見と対応

C66・67
その後総合病院へ搬入された.搬入後の状態は意識清明で,体温36.4℃,脈拍132/分,整,血圧92/52mmHg,呼吸数30/分,SpO2 92%(room air)であった.酸素5L/分をマスクで投与し静脈路を確保して輸液を開始した.初回のCTから2時間後の搬送先の病院での胸部造影CTの肺野条件と縦隔条件とを別に示す.

C66
搬送先の病院での胸部CTでみられる所見はどれか.
a 左気胸
b 大動脈解離
c 縦隔気腫の増加
d 心囊液貯留の増加
e 左胸腔内液体貯留の増加

C67
行うべき対応はどれか.
a 経過観察
b β遮断薬投与
c 気管挿管陽圧換気
d 胸腔ドレーン挿入
e 非侵襲的陽圧換気〈NPPV〉

こちら、ちょっといい写真が手元にないので、問題引用されているところをご覧ください……。

まあしかし、CTでこういう所見くらいはちゃんと読めるようになっておくべし、という指針を示すという意味ではよい問題だと思います。知らんけど。

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2025年02月21日

第119回医師国家試験問題解説・C65 身体所見/CTの所見

まあしかし、国家試験の問題でこんな風に病歴聴取が雑なのはいかがなものかと思いますね。

「30歳の男性.左前胸部痛と呼吸困難を主訴に来院した.
現病歴:格闘技の選手.試合中に左前胸部を蹴られ,試合会場近くの病院を受診した.」

OPQRSTが全然ないという……。蹴られた後、症状がどこに、どのように生じたのか、どのような経過なのか、寛解因子・増悪因子、痛みの強さ、……なんもないです。

まあ、問題そのものはCTを見て身体所見を推測せよ、という問題なんで、余計なノイズはそぎ落としたのでしょう、と好意的に解釈しておきますか。でもねえ……

ま、それはさておき。CTです。要は「胸水あり、気胸なし」ってことですね。これは拙ブログをご覧の方でしたら問題ないでしょう。ってことで、

C65
この患者でみられる所見はどれか.
a 呼気時間の延長⇒30歳、COPD所見なし
b 左呼吸音の減弱⇒これ!
c 左胸部のwheezes⇒喘息、COPD病歴なし
d 頸静脈の吸気時怒張⇒クスマウル徴候(心不全、心タンポナーデ、収縮性心膜炎など)
e 左胸部打診での鼓音⇒気胸なし

となり、答えはbですかね!

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2025年02月19日

第119回医師国家試験問題解説・C65〜67 身体所見/CTの所見

今年は医師国家試験問題解説ないんかい!?と思われていた一部のマニアの?皆様、お待たせいたしました……。

今回、私の担当は臨床問題の連問3問+2問でした。早速見て参りましょう。

119C65〜67
次の文を読み,65〜67の問いに答えよ.
30歳の男性.左前胸部痛と呼吸困難を主訴に来院した.
現病歴:格闘技の選手.試合中に左前胸部を蹴られ,試合会場近くの病院を受診した.
既往歴:特記すべきことはない.
生活歴:一人暮らし.喫煙歴と飲酒歴はない.
家族歴:父が大腸癌.
現症:来院時,意識は清明.身長180cm,体重98kg.体温36.4℃.脈拍96/分,整.血圧102/72mmHg.呼吸数18/分.SpO2 97%(room air).眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない.口腔内に異常を認めない.甲状腺と頸部リンパ節とを触知しない.左前胸部に痛みを訴え,皮下出血を認める.腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない.神経診察で異常を認めない.
検査所見:血液所見:赤血球489万,Hb 14.2g/dL,Ht 44%,白血球11,200.血液生化学所見:総蛋白6.9g/dL,アルブミン4.2g/dL,AST 36U/L,ALT 32U/L,LD 338U/L(基準124〜222),尿素窒素10mg/dL,クレアチニン0.8mg/dL,Na 139mEq/L,K 4.2mEq/L,Cl 103mEq/L.動脈血ガス分析(room air):pH 7.43,PaCO2 43Torr,PaO2 84Torr,HCO3− 28mEq/L.胸部単純CT(別冊)を別に示す.

C65
この患者でみられる所見はどれか.
a 呼気時間の延長
b 左呼吸音の減弱
c 左胸部のwheezes
d 頸静脈の吸気時怒張
e 左胸部打診での鼓音

例によって無断転載がいいのか悪いのかわかりませんので、別の似たような症例写真を参考に挙げておきます。

tsucom3解説.jpg

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2025年02月18日

間質性肺疾患について、改めてまとめ24・特発性でない間質性肺疾患・過敏性肺炎・概要つづき

(昨日のつづき)検査では、KL-6が妙に高い(3,000以上)とか、季節性変動がある、とかの特徴があると過敏性肺炎を疑いたいところ。鳥関連のCHPなら、KL-6は夏<冬となり、夏型過敏性肺炎なら夏が高い、といわれています。

BALにてリンパ球(アレルギー反応で増える)の増多を認めます。CD4+/CD8+比は、夏型過敏性肺炎では低下し1以下となりますが、鳥関連の過敏性肺炎や農夫肺では上昇します。TBLBや肺生検にて得られた組織では、リンパ球の浸潤と共に肉芽腫(アレルギー反応の結果見られることが多い)を認めます。

CT画像では抗原に触れる場所(細気管支の周囲)の肺胞が細胞浸潤、間質性変化を起こしていることを反映して、細気管支の周囲(小葉中心性)の、すりガラス影を呈します(詳しくは図入りでわかりやすい『レジデントのためのやさしイイ胸部画像教室』をご覧下さい(笑))。

診断確定には、免疫学的に因果関係を証明することが必要です。患者さんの周囲環境に存在し原因と疑わしい抗原に対する特異抗体を証明すること、特異抗原によるリンパ球刺激試験が陽性であることなどが可能であればよいのですが、特異抗体で保険適応があるのは夏型過敏性肺炎の抗Trichosporon asahii抗体検査と鳥関連過敏性肺炎の鳥特異的IgG抗体のみ、と大幅な制限がかかっているのが現実です。リンパ球刺激試験も簡単ではありませんから、なかなか診断のハードルが高い。他に吸入誘発試験も理論上はありますが、誘発試験は上記の通り、倫理的問題もあり、避けられる傾向にあります。

一方後者、慢性型(線維性)の過敏性肺炎では、上記のような特徴的な病歴や検査所見を示すことが減ってきます。画像上も進行した線維化は蜂巣肺を作ってきて、IPFと区別がつきにくい。それゆえ、やはり免疫学的な因果関係を証明しなくてはなりません。特に慢性型で多い鳥関連の曝露をはじめ、まずは病歴を根掘り葉掘り聴きだす必要があります。病歴や画像等から、抗原曝露による過敏性肺炎ではないかと疑えば、こちらも疑わしい抗原を回避して経過を見ることになりますが、抗原回避がそもそも困難なこともありますし、抗原がはっきりしないことも多いです。

検査としては、BAL、TBLB、それに外科的肺生検がありますが、それで診断確定、あるいは除外、とはなりません。いずれも明確な基準があってないような、なので、やはりこちらも診断にはグラデーションが生じてしまいます。

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2025年02月17日

間質性肺疾患について、改めてまとめ23・特発性でない間質性肺疾患・過敏性肺炎・概要

過敏性肺炎については、2020年にアメリカ胸部医学会(ATS)・日本呼吸器学会(JRS)・ラテンアメリカ胸部医学会(ALAT)から過敏性肺炎(Hypersensitivity pneumonia:HP)の診断ガイドラインが発表され、それを基に日本呼吸器学会によるガイドラインが2022年に発表されました。

なお、そもそも過敏性肺炎(Hypersensitivity pneumonia)か過敏性肺臓炎(Hypersensitivity pneumonitis)か、という用語の問題は若干混乱しておりましたが、2020年ATS等のガイドラインではHypersensitivity pneumonitisが採択されています。ところが日本呼吸器学会ではこれまでの歴史的経緯を踏まえて?「過敏性肺炎」を採択され、かつ英語表記は「Hypersensitivity pneumonitis」を採るという、なんとも不思議な決着がつけられたのでした。なんにしてもHPはHPなんですが。

用語はともかく、ガイドラインに基づいて過敏性肺炎を理解したいのですが、このガイドラインから、診断は検査を含めたいくつかの所見のどれを満たすか、これらを多面的に評価し総合判断をして、どの程度「それっぽい」かを決める、というやり方になっていて、非専門医にとってハードルが高くなっている感がありますが、そこのところをかいつまんでお話ししようと思います。

一口に過敏性肺炎、といっても、急性〜亜急性の経過をとってかなりアレルギー臭のする病歴・BALやTBLB所見・画像所見を呈する群(線維性)と、慢性の経過をとりアレルギー性の炎症成分が枯れてきて、ただただ線維化が進行していく。一見IPFと区別がつきにくい群(非線維性)があります。
前者(非線維性)では病歴上、抗原に曝露して数時間の経過で乾性咳嗽、呼吸困難、発熱などの症状が生じる、抗原を回避すると症状は軽快するという、いかにもアレルギーという症状経過です。例えば夏の終わりに症状が出現する、家庭内にカビが多い、などは夏型過敏性肺炎を疑わせる状況です。そういう風にキャラが立っていると、病歴から診断が可能なのですね。

曝露する抗原は地域や気候によって様々ですから、過敏性肺炎研究のトップランナーである東京科学大学(旧 東京医科歯科大学)呼吸器内科のHP「過敏性肺炎の診療について」にある問診票や評価票を参考にされるといいでしょう。

抗原の目星が付けば抗原回避です。抗原回避をして症状が軽快するかどうかは、急性型の診断においてはカギとなる情報です。住居や職場などが原因で抗原回避が簡単にできない場合、入院による抗原回避をします。
抗原回避して症状が改善したら、帰宅誘発試験で悪化があればほぼ決まり、なのですが、基本的に昨今、帰宅誘発試験というものは倫理的に問題あり、ということが言われてはいます。例えば患者さんの都合で一時帰宅をしたときに、よくなっていた症状が再燃した、となれば、非常にそれっぽい、となるでしょう。それが難しければ検査で証拠を積み上げていく形になります。

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posted by 長尾大志 at 17:52 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年02月16日

ビックネーム@島根の週末

この週末、出雲に島根にビックネームが続々と来られました(現在進行形)!

金曜日には徳田安春先生による研修会@大田市立病院、研修医の先生、学生さんが優秀で、徳田先生の問いかけにどんどんお答えになっているのが印象的でした!研修医の先生方、学生さんが普段から大田市立病院ですばらしい学びを提供いただいていることがよくわかりました!徳田先生、皆様、ありがとうございました!!

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やっぱり大田に来たら!平和亭の大アナゴ、徳田先生にも召し上がっていただきました!!

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ビッグネーム、お2人目はMEC(シーメック)の顔、Dr.孝志郎こと孝志郎先生!しまね地域医療支援センター主催、臨床研修病院合同説明会「しまね研修ナビ」にお越しいただき、国試対策等貴重なお話を頂きました。

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その前に個人的にいろいろお話しできまして、これまためちゃくちゃ貴重なお話を伺うことができました。孝志郎先生、本当にありがとうございました!!

ビッグネーム3人目、バイタルサインの入江聰五郎先生によるCPVS@島根大学!

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CPVSとは、Clinical Physiology of Vital Signsのことで、かの宮城征四郎先生直属のお弟子さんであり、現在も救急の第一線におられる入江聰五郎先生が、救急の現場で必要な、「バイタルサイン」を切り口に、救急初療における鑑別と振り分けを、たいへんクリアカットに教えていただきました。

島根大学、島根県では研修医教育、学生教育を大切に考え、多くのセンターや組織が各研修病院・実習病院と協働し、「へき地で成長できるのか」ではなく「へき地でしか学べないことがある」県を挙げて医師の活躍をサポートしています!

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posted by 長尾大志 at 11:24 | Comment(0) | 日記

2025年02月14日

松江市医師会産業医研修会「胸膜プラークと結核性胸膜炎」

昨日は夕方から松江に移動して、松江市医師会産業医研修会@にて「胸膜プラークと結核性胸膜炎」というタイトルでお話をさせて頂きました。

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なにせ医師会様で産業医研修会を承るのが初めてで、どの程度のお話をさせて頂くのがいいか、かなり悩みつつ準備していたのですが、座長の先生とお話していると、こんな感じでよかった模様、という感触でしたね。

自分でも経験症例の棚卸ができて、たいへん意義深い準備期間となりました。松江市医師会の先生方、お世話になりましてありがとうございました!

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posted by 長尾大志 at 14:14 | Comment(0) | 活動報告

2025年02月13日

間質性肺疾患について、改めてまとめ22・特発性でない間質性肺疾患・膠原病合併間質性肺炎・膠原病肺2・肺病変先行型膠原病/IPAF

肺病変先行型膠原病

肺の立場からいうと、間質性肺炎だけがあり、その時点で他臓器の膠原病らしさははっきりしていないものの、ずっと経過を観察しているうちにその他の臓器に膠原病らしき病変が出てくることがあります。後から振り返ると、これは膠原病で、肺病変が先行していたんだな……、というケースが少なからずあり、「肺病変先行型膠原病」という概念が与えられています。

肺病変先行型の膠原病は、肺病変が先行している時期に他の病変が見られないために、一見特発性に見えてしまいます。このパターンだと治療がCTD-ILDのそれと違ってくるため、特発性間質性肺炎、特に特発性肺線維症と当初臨床診断をされた症例においても、その後の挙動、経過は慎重に追う必要があります。

IPAF

また、当初膠原病の診断基準・分類基準を満たさない症例でも、「膠原病っぽい要素がある」「膠原病の香りがする」ようなものはちょっと別扱い、ないし膠原病として治療を始めておくこともあるのですが、そういう感じの疾患群をIPAF(interstitial pneumonia with autoimmune features)として注意喚起しています。IPAFについて詳しくは、ここで書くかどうか悩み中です……。

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posted by 長尾大志 at 13:27 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年02月12日

間質性肺疾患について、改めてまとめ21・特発性でない間質性肺疾患・膠原病合併間質性肺炎・膠原病肺1・基礎疾患

原因疾患のある間質性肺炎の代表が、膠原病に合併した間質性肺炎(膠原病合併間質性肺疾患|CTD-ILD:connective tissue diseases-associated interstitial lung disease)です。膠原病は全身いろいろな部位・臓器に病変が見られますが、肺は中でも病変が見られることが多い臓器といえるでしょう。

膠原病のタイプによって、ある程度どのような肺病変のパターンが生じるかの傾向があり、予後や治療反応性にも関連します。逆に間質性肺炎においては、基礎に膠原病があるかどうかで、治療・予後がずいぶん変わってきます。

発症の仕方は様々で、もともと膠原病があってそこに間質性肺炎が起こってくるパターン、膠原病と間質性肺炎が同時に出現して発見されるパターン、それから間質性肺炎が先行するパターン、いずれもあります。加えて、基礎の膠原病に対する治療薬による薬剤性肺障害や免疫抑制による感染症も少なからずみられ、一口に「膠原病に合併した肺の病変」といってもいろいろとややこしいのです。

治療など詳しくは日本呼吸器学会と日本リウマチ学会による「膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020」を参照頂く、そして呼吸器内科や膠原病内科専門医に相談いただくのがよいですが、ここでは大まかに概要を掴んでいただけるよう、なるべくわかりやすく説明します。

間質性肺疾患の合併する頻度が高い膠原病は,全身性強皮症(systemic sclerosis:SSc)、皮膚筋炎(dermatomyositis:DM)で、次いで混合性結合組織病(mixed connective tissue disease:MCTD)、多発性筋炎(polymyositis:PM)、10%以下の頻度として関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)、シェーグレン症候群(Sjögren’s syndrome:SS)があります。RAやSSでは細気管支炎や気管支拡張症などの気道病変の合併も多く、患者数も多いことから肺病変に遭遇することは多いと思われます。全身性エリテマドーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)は、胸膜炎はありますが肺病変は少ないです。


通常膠原病の診断、というのは、各々膠原病のタイプに特徴的な症状、症候があって、そこから診断を進めていくものです。例えば、以下のようなものが典型的です。

・慢性関節リウマチ:朝のこわばり、左右対称に(特に中手節関節や手関節に)生じている多発関節炎(腫脹・疼痛)
・皮膚筋炎/多発性筋炎:ヘリオトロープ疹、ゴットロン徴候、逆ゴットロン徴候、機械工の手、顔面紅斑、筋力低下・筋痛、爪上皮出血
・強皮症:皮膚硬化、指尖潰瘍、レイノー症状、食道運動の低下(逆流性食道炎)、腎障害、舌小帯短縮、肺高血圧
・シェーグレン症候群:眼・口腔の乾燥症状、環状紅斑、関節炎
・混合性結合組織病:中途半端に重複する膠原病症状、レイノー症状、肺高血圧、手指のソーセージ様腫脹や浮腫

これらの症状・症候からある程度目星が付いたら、診断基準・分類基準を参照して自己抗体など、疾患特異的な検査を行い診断を進めます。

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posted by 長尾大志 at 17:26 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年02月11日

間質性肺疾患について、改めてまとめ20・特発性でない間質性肺疾患・将来どの科に行っても避けて通れない薬剤性肺障害の診断と治療3・治療

薬剤性肺障害治療の基本は被疑薬の中止です。被疑薬がすぐに同定可能であればよいのですが、イマドキの患者さんは往々にして多くの薬を投与されていることが多く、被疑薬がいくつか想定される場合、あるいはdrug-induced hypersensitivity syndrome(DIHS:薬剤性過敏症症候群)のように多剤感作が想起される場合には、使用中の薬剤を全剤中止せざるを得ないこともあります。

また、中止で軽快する場合は話が簡単ですが、薬剤によっては、あるいは肺障害の病型や重症度によっては、ステロイド投与が必要です。たとえば、ゲフィチニブ(イレッサ Ⓡ )で間質性肺炎が生じた場合には、直ちにイレッサ中止とステロイド・パルス療法を行います。そのぐらい、イレッサの肺障害は予後が悪いということがこれまでに知られているわけです。他にも薬剤によっては、肺障害が生じたらこうする、と対応方法が決まっているものもあり、予め準備しておくのがいいでしょう。

診断のところでも書いたように、被疑薬における薬剤性肺障害の報告、その臨床病型(CTパターンや他の検査所見、臨床経過など)を調べておくことが重要なのです。

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posted by 長尾大志 at 15:07 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年02月10日

間質性肺疾患について、改めてまとめ20・特発性でない間質性肺疾患・将来どの科に行っても避けて通れない薬剤性肺障害の診断と治療2・診断

第119回医師国家試験、なんとか無事に終えて帰雲して参りました〜。

ということでお話は薬剤性肺障害に戻りまして。

薬剤性肺障害の診断はやはり、まずは薬剤性肺障害を疑うことが重要で、薬剤投与・摂取歴を詳細に聴取することです。これは内科医の基本ではありますが、呼吸器内科医では特に求められるスキルであります。

特に比較的急性〜亜急性に発症し、典型的な特発性間質性肺炎の画像に合致しないようなパターンをとる場合に、疑われます。薬剤性肺障害の可能性があると判断した場合には、被疑薬でそれまでに薬剤性肺障害の報告があるかどうか、あれば、その臨床病型(CTパターンや他の検査所見、臨床経過など)はこのたびの病像に合致するか、を確認する必要があります。

診断基準は、以下の通りです。
•原因となる薬剤の投与歴があること
•他の原因疾患が否定されること
•原因となる薬剤での症例報告があること
•原因となる薬剤の中止により病態が改善すること
•原因となる薬剤の再投与により増悪すること(一般的には勧められない)

薬剤以外の原因、特にすりガラス影を呈する間質性肺炎の原因となる感染症を除外することは重要です。ニューモシスチス肺炎やサイトメガロウイルスをはじめとするウイルス性肺炎では、抗原や血清マーカーがいくつか適用でき、鑑別に役立ちます。

診断の参考に、薬剤リンパ球刺激試験(DLST)がしばしば実施されますが、偽陽性、偽陰性が多く、結果の解釈は難しいものです。クリアカットにこの数字を満たしたら診断、といえるものはありません。
最終的には、経過を含めた総合判断ということになり、臨床的センスが問われるところであります。

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posted by 長尾大志 at 15:26 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ

2025年02月08日

第119回医師国家試験、いよいよスタート

本日から第119回医師国家試験が始まりました。

生憎の大雪、会場安田女子大学さまは丘の上、路面凍結、ではありますが、バスの運転手さんはさすがプロ、危うげなく予定通り現地到着です。

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私たちの役目はここまでで、後は、学生諸君にお任せします!いつも通りの力を発揮してください!!

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posted by 長尾大志 at 11:36 | Comment(0) | 日記

2025年02月07日

日経メディカル 長尾大志の「わかりやすイイ 胸部X線写真読影 アドバンス」第15回公開されました〜

日経メディカルさんで連載中の「長尾大志の『わかりやすイイ 胸部X線写真読影 アドバンス』」、第15回が公開されました!

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/tnagaoadvance/202502/587467.html

今回のクイズは、前回第14回と関連がありまして、この陰影から何を考えるか?を問う問題としました。

動画リンクは記事内にございますが、こちらにも貼っておきますので、よろしければご覧いただければと思います⇒
https://youtu.be/nXH6crKzERU

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posted by 長尾大志 at 14:31 | Comment(0) | 動画置き場

2025年02月06日

間質性肺疾患について、改めてまとめ19・特発性でない間質性肺疾患・将来どの科に行っても避けて通れない薬剤性肺障害の診断と治療

特発性でない間質性肺炎は、特発性のような「病理組織パターン」による分類でなく、その背景、原因となるものによって分類します。将来、呼吸器内科を目指す人もそうでない人も、どんな薬であっても薬を使う以上、避けて通れないのが薬剤性肺障害です。眼内や膀胱内に注入した薬でも起こったりするのです。どの科に行っても必ず遭遇することになるでしょう。

薬剤性肺障害は現在でも非常に重要な疾患群ですが、今後ますます重要度が高まると考えられています。それはなぜか。
近年どんどん開発されている抗癌剤(分子標的薬)、抗リウマチ薬などの副作用として、薬剤性肺障害が多くみられることから、今後ますます症例数の増加が予想されるからです。また、欧米人よりも日本人に発現頻度が高く、遺伝的素因が考えられていることもあります。

『薬剤性肺障害の診断・治療の手引き』が改訂され、『薬剤性肺障害の診断治療の手引き2018』となり、近々2025となりますが、診断や治療の大切なところは変わりません。一番重要な部分を、ごくごくかいつまんで紹介します。

……といいたいところですが、今日から第119回医師国家試験、島根大学生の皆さんに帯同いたしますので、ちょっと切れ切れになるかもです。気長にお待ちくださいませ。

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posted by 長尾大志 at 17:00 | Comment(0) | 間質性肺疾患シリーズ