2025年03月06日

真菌症のちょっとしたこと3・β-D-グルカンのこと

若いドクターは皆さん、検査が大好きですね。患者さんのところへ行くよりも、PCの前でカタカタやっています。だもんで、あまり感度とか特異度とか考えず、じゅうたん爆撃的に検査をオーダーして、なんか結果が出たら考える、みたいな光景をよく見かけます。

悪性腫瘍疑いや膠原病などの場合が多いでしょうか。本来、身体所見や生検などで診断の目星がついてから血清学的診断に行くもんだ、と旧世代の私なんぞは思うのですが、もちろん微小な癌など検査でないと捉えられない病変もあるわけで、検査至上主義を頑なに批判は出来ないところではあります。

真菌症の分野でいうと、β−D−グルカンという血清診断法があります。これは真菌の細胞壁に含まれる物質で、真菌による侵襲性病変のある患者さんで血中濃度が上がるというものです。で、「測ってみたらβ−D−グルカンが高値。さあ何だろう?」となるわけです。

検査をオーダーするときは、「この数字が異常値をとれば、こうである可能性がある」という見込みがあってオーダーして欲しいものです。何となくとか、上の先生に言われたからとか、いろいろ突っ込みを入れたくなるような根拠でオーダーされていることも多いのですが……。

とりあえず、β−D−グルカン高値になったとしましょう。じゃあカンジダでしょうか? アスペルギルスでしょうか? ここでもやはり、患者さんの背景によって、何が疑わしいか、何の可能性があるかを考えておく必要があります。

深在性のカンジダ症を疑うべき状況
•カテーテルが留置されている
•繰り返し広域抗菌薬を使用されていた
•絶食/中心静脈栄養
•腹部手術、穿孔の病歴
•糖尿病や透析
•悪性腫瘍があり、化学療法を受けている
•白血球(好中球)減少

起こっている事象としては、菌血症や膿瘍などが挙げられます。

深在性のアスペルギルス症を疑うべき状況
•好中球減少
•ステロイド大量長期投与
•免疫抑制薬投与
•既存の肺病変
•低栄養
•糖尿病
•ADL低下

一般的に好中球やT細胞の働きが弱っている場面で起こりやすいです。冒される臓器は、まず侵入する肺から、血行性に全身に及びます。

ニューモシスチス肺炎を疑うべき状況
呼吸器領域ではこれが一番重要かもしれません。リスク要因としては、以下のようなものがあります。
•HIV感染症(AIDS発症後)
•膠原病・リウマチ性疾患に対するステロイド長期投与
•膠原病・リウマチ性疾患に対する免疫抑制薬投与
•骨髄・臓器移植後
•血液疾患
•悪性腫瘍(長期間の抗腫瘍薬投与)

他の真菌と比べてもβ−D−グルカン値は高めで、両側すりガラス影(地図状の分布)、A-aDO2開大(低酸素)、LDH高値などの特徴的所見がみられます。

以上を逆に考えると、そもそも上に挙げたような(カンジダ、アスペルギルス、ニューモシスチスの)リスクがある場合に限り、β−D−グルカンを測るべきなのです。

あと、真菌といえばクリプトコッカス、ムーコル(ムコール)なども思いつくかもしれませんが、これらの真菌ではβ−D−グルカンの上昇はみられにくいので、注意が必要です。厳密にはクリプトコッカスの細胞壁にも少量ながらβ−D−グルカンは含まれているので、上昇しないこともないそうです。

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posted by 長尾大志 at 22:02 | Comment(0) | 真菌症のちょっとしたこと