β−D−グルカンが高値を示す真菌症のうち、緊急性が高いものとして、ニューモシスチス肺炎が挙げられます。
今どきの先生方はこの病原体について、最初から「ニューモシスチス・イロヴェツィー」として習っておられるでしょうが、私たちの世代では「ニューモシスチス・カリニ」と呼ばれていましたもので、カリニ肺炎と呼んでいました。
ニューモシスチス・イロヴェツィー(Pneumocystis jirovecii)は、かつては原虫ともいわれていたのが、ちょいと前に遺伝子解析で真菌と決着した、何とも曖昧な立ち位置の微生物です。
多くの哺乳類に感染するのですが、種によって固有のものが感染します。かつての名称であるニューモシスチス・カリニ (Pneumocystis carinii)が動物由来のものを示す名称となり、ヒト由来のものはニューモシスチス・イロヴェツィーと呼ばれるようになりました。
Jirovecはチェコ人の学者で、その名前が日本語で表記しにくいため、本によっては「イロベッチ」や「イロベチー」「ジロベチ」などいろいろです。そんなわけで、混乱を避けるべく、「ニューモシスチス肺炎」と呼ばれるようになったわけです。
ニューモシスチス肺炎の診断
ニューモシスチス肺炎は、HIV感染からAIDSを発症し、CD4 陽性Tリンパ球が減少した患者さん、あるいは膠原病やリウマチ性疾患でステロイド使用中の免疫抑制状態にある患者さん、血液腫瘍や骨髄・臓器移植後の患者さんに発症します。要はT細胞免疫が低下している患者さんですね。逆にそうでない患者さんではあまり考える必要がないともいえます。
他の真菌症と比べてもβ−D−グルカン値は高めで、両側すりガラス影(地図状の分布)、A-aDO2開大(著明な低酸素)、LDH高値などの特徴的所見がみられます。
確定診断には、気管支鏡によるBALで菌体を直接検出したり、PCRでDNAを検出したりします。が、低酸素のため施行できないことや、施行しても検出できない(偽陰性)ことも少なくありません。そのため、上記のリスクがあってβ−D−グルカン高値、特徴的なCT像を見たら治療を開始することも多いです。
ニューモシスチス肺炎の治療
治療は、大量のST合剤+ステロイドを3週間投与します。ステロイドを使うのは、呼吸不全の治療(予防)の意味合いがあります。
バクタ 12錠 分3 経口
呼吸不全を伴う重症の場合 プレドニゾロン 80mg分2(最初の5日)40mg分1(次の5日)20mg分1(残りの11日間)
β−D−グルカンは、ニューモシスチス肺炎の診断には大変役立つのですが、治療をして菌量が減ったからといって、すぐには低下しません。ですから、β−D−グルカンは治療経過を追うには不向きであると思っておきましょう。発症していないリスクのある患者さんで定期的に測定し、上昇がみられたらすぐ検査・治療、というのは推奨される使い方だと思います。
治療の効果判定には、酸素飽和度や呼吸数、LDH値や炎症反応といったものが参考になります。胸部X線写真は、そもそも病初期やすりガラスの濃度によっては見えにくいこともありますし、見える症例でも治療によって必ずしもすぐには反応しないこともあります。X線写真がきれいになっていないという理由で治療を何週間もダラダラ続けることのないようにしましょう。
また、サイトメガロウイルス肺炎がしばしば合併し、かつ悪化の原因になっているといわれています。特に免疫抑制剤を使用している患者さんでは、C7-HRPなどを定期的にチェックすべきです。