実は余り知られていませんが(笑)、私は以前カナダ、バンクーバーのブリティッシュコロンビア大に留学経験がありまして、迎先生はそこのラボに留学されていた大先輩であります。また、私がいたときに仲良くして頂いた、現在産業医大の教授であられる矢寺先生のボスでもあります。てなわけでいそいそと出かけていって、興味深いお話を拝聴して参りました。備忘のため、メモと考えたこと(カッコ内の記載)を一部皆さんとシェアしておこうと思います。かな〜り、刺激的な成分が含まれておりますのでご注意下さい。
(備忘録ここから)
- 喀痰の塗抹グラム染色、培養だけで、本当に肺炎を起こしている「原因菌」がわかるのか。それを確認するためにマイクロバイオームの手法でRNAの配列解析を行い、肺炎局所の気管支鏡による洗浄液を解析して、局所に存在するであろう細菌たちの種類、その割合を調べた。
- これまでの喀痰による検討では、どう頑張っても市中肺炎の半数が「原因菌不明」となっていたが、細菌叢解析ではその多くで嫌気性菌が検出された。
- 嫌気性菌や口腔内レンサ球菌がその第一優先菌種(原因菌的な扱い)と考えられるケースでは、混合感染と思われる菌の割合を示すものが多かった。嫌気性菌にはβラクタマーゼを産生するものが多く、そのために抗菌薬の耐性につながっていると考えられる。(これはSBT/ABPCを使用するのを支持する話ですね。)
- NHCAPにおいて、喀痰培養でMRSAや緑膿菌が見られていても、細菌叢解析ではその割合はずいぶん減る。
- 院内肺炎において細菌叢解析を行うと、重症例の第一優先菌種には緑膿菌と大腸菌が多いが、MRSAはほとんどいない。大腸菌はESBL産生菌を念頭に置く必要があるだろう。
- MRSAをはじめとする黄色ブドウ球菌は、局所にいなくても喀痰で生えやすい。それは喀痰で貪食像があろうと余り原因菌として想定する必要がないのかもしれない。(これまでにも「MRSA肺炎はほとんどない」とは言われていましたね。)
- 「MRSA肺炎」として抗MRSA薬のみを使われた症例において、実際に細菌叢解析で検出した菌と抗MRSA薬の効果を「答え合わせ」した。結果、VCMを使った症例では(VCMがグラム陰性嫌気性菌に効かないので)治療失敗が見られたが、LZDは(効くので)治療がうまくいっていた。
- 逆に喀痰塗抹とかでMRSAが見られているにもかかわらず、抗MRSA薬でない薬を使われていたケースでも、治療がうまくいっている例が多く見られた。(まあそういうことなんですね。)
- 肺炎球菌やインフルエンザ桿菌は培養結果と細菌叢解析の結果が一致しやすい。(てことは、喀痰の塗抹、培養で肺炎球菌やインフルエンザ桿菌が見えたらそれを当てにしてよく、雑多な菌が見える、何も見えない、というときにはSBT/ABPC、というのは妥当な方針だ、ということですね。)
- 健常者の肺常在菌は、メッチャ多様としかわかっていない。(やはり常在菌叢はあるようです。)
- 肺化膿症を作るのは、嫌気性菌とStreptococcus anginosus(以前Streptococcus milleriグループと呼ばれていた群の1つ)が原因のほとんどである。Streptococcus anginosusは膿を作りやすい。
(ここまで)
迎先生、誠にありがとうございました。