10月〜11月はお勉強のシーズンですね。今週も2件、勉強会に参加致しました。
特に今日の第14回 滋賀耐性菌研究会におきまして伺った、北野病院の藤本卓司先生によります『肺炎の診断と抗菌薬適正使用』のお話は、大変ためになりありがたかったです。
しかし、このお話をウチの若手がほとんど拝聴しに来ていなかったのが残念至極でありました。ということで、ウチの若手に今日の内容をシェアするためにかいつまんで箇条書きにしていきます。以前に拝聴した長崎大の迎先生による、最近話題の細菌叢解析の内容を盛り込まれたお話でしたので、その時のお話を思い出しながら、かなり自分の中で消化でき、今後の診療、指導に役立てられそうです。
(ここから講演内容引用)
・本当にいい検体が採れれば、グラム染色は強力な意思決定ツールになる。
・グラム染色をすると、感染症かどうか、原因菌の手がかりになる。
・ティッシュに包んで捨てた痰は、ティッシュに唾液成分が吸い取られて核となる膿性成分が残っているため、実はかなり有用な検体となる。あきらめずに染めて見るべし。
・塗抹で肺炎球菌が見えているのに、培養でH.influenzaeや緑膿菌が生えてくる、ということはしばしば経験されるが、塗抹で見えずに生えてきた菌は得てして口腔内のコンタミだったりする。
・今の細菌検査室では、培地の色によって、H.influenzaeか緑膿菌か、なんてことも提出翌日にはわかっていたりするので、細菌検査室と仲良くしておくと翌日には治療方針が固められる。
・PCGは1日6回投与、と思うとハードルが高いが、肺炎だったら1日4回で充分。100万UあたりKが1.7mEq含まれていて、300万Uだと5.1mEq。これを生食100mLで溶かすと51mEq/Lになる。Kは40mEq/Lを超えると血管痛が起こると考えていて、その計算で300万Uを200mLの生食に溶かして投与している。1日800mL投与することになるので、心不全や腎不全患者ではABPCを使っている。
・「嫌気性菌感染は混合感染だし、βラクタマーゼを産生するからSBT/ABPC使っとけ」みたいなことを全国でされているが、それには反対。腸内細菌を根こそぎ入れ替えることになり、長い目で見たときに人類の禍根となる恐れがある。実は口腔内、下気道由来の嫌気性菌でPCG耐性があるのはPrevotellaのみで、他のFusobacteriumやPeptostreptococcusなどは100%PCG感受性なのである。で、「網羅的細菌叢解析」で確認すると、市中肺炎のうち無視できない割合(30%以上)でPrevotellaが関与していたのは6%、院内肺炎(+医療・介護関連肺炎)でも6%にしか過ぎなかった。要するに(βラクタマーゼを産生して)PCG、ABPCに耐性を持つ「嫌気性菌」は、肺炎の10%に満たない!誤嚥性肺炎=SBT/ABPCはもう止めよう!
・緑膿菌は弱毒菌なので、待てない重症例は少ない。
・緑膿菌が繰り返し痰からでている、という症例でも、まあそれは保菌であって、その症例が肺炎になったときは、やはり強毒菌である肺炎球菌とかが原因菌であることも少なくない。
・例えば緑膿菌が繰り返し痰からでている、という症例が肺炎になった。そこで喀痰グラム染色。双球菌が見えたら文句なくPCG。重症でなければ、藤本先生はペニシリン系で入ることが多く、その際には翌日もグラム染色。菌が減っていればそのまま続行する。
・緑膿菌肺炎に対して、PIPCとTAZ/PIPCはあまり差を感じない。緑膿菌ではなく、むしろMSSAや嫌気性菌に対して、βラクタマーゼ阻害薬が必要である。
・緑膿菌が喀痰培養で生えてきた症例のうち、肺炎の原因菌として考えられるのは25%。
・良質な喀痰を得るために、以下のような努力をしているか。
1.体位ドレナージ 20-30分は寝てもらう。
2.生食で喀痰を洗浄する。
3.3%食塩水 はあまりやらない。
4.吸引チューブの気管内挿入
(引用ここまで)
迎先生のご研究を引用されて、ともかく「できる限り次世代のために抗菌薬を温存する、適正使用を普及させる」という熱いご意志を感じました。私も大いに賛同します。今日(昨日)得た知識を滋賀でも普及させて参ります!
2016年10月23日
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