2016年12月03日

アクティブ・ラーニング体験記と授業評価

最近ありがたいことにいろいろな活動をさせていただいておりますが、この11月は学生さんの講義8コマ(医学科)+2コマ(看護学科)に試験作成、6回生の国試対策と学内の用事に加え、外の講演も滋賀×2、京都、大阪、徳島、秋田と各地でやらせて頂きました。


自分のスケジュール管理がずさんであった点が有り、月曜日にあやうく看護学科の授業をすっぽかすところでした… _| ̄|○ 11月も終わったー!っと気が緩んだのでしょう…。また締め直します。


いろいろありましたのでいろいろな告知ができているのかいないのか、どんどん時が過ぎていきますが…先日、『医学教育』という雑誌に拙文を掲載頂きました。論文ではなく掲示板への投稿ではありますが、査読のある雑誌に共著でなく自分が書いたものが載るのはずいぶん久しぶりです。


はじめてのアクティブ・ラーニング体験記.
医学教育 47(5): 314-315, 2016.


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この寄稿は、昨年の3回生系統講義でアクティブ・ラーニングを導入した体験記です。それから1年、先日終わった3回生系統講義では、昨年頂いた学生さんの「授業評価」の結果を元にまたいろいろと修正を行いました。


で、その授業に対する今年分の「授業評価」が先週送られてきました。この評価を見たらそれに対する「自己評価」を書いて提出しなくてはなりません。正直、これまであまり真面目に書いてきませんでしたが、昨年に引き続き、自由筆記による評価にたくさんうれしい意見を頂いております。その意見に応える意味でも、また、来し方行く末を考える意味でも今年はひとつ真面目に考えてみよう、と下書きを書くことにしました。


「授業評価」に対する「自己評価」。学生さんの授業評価を受けて、教員が授業について気付いたこと、反論、改善策、その他意見を書き、それを『授業評価実施報告書』に(匿名で)掲載するのですが、こういうことってどこの大学でもやっていることなのでしょうか。何が言いたいかというと、結局、これだけのことをやっても、大学はそれをただ「報告書」にまとめて発行するだけなんですね。それでそのあと授業を良くしていく手立てがない。仏作って魂入れずというんでしょうか、ただやることやってます、ってだけで。まあ教員がそのフィードバックを受けて、自分で考えてやれってことなのかもしれませんが…。なんかもったいないナーと思います。まあともかく、下書きをご紹介してみましょう。


Q:この授業であなたが特に力を入れた点、工夫した点は何ですか。

A:滋賀医科大学に来て10年あまり、毎年授業内容を見直し、内容の取捨選択や表現の改善を続けてきました。スマホや睡眠、私語など、学生の態度が悪い、学生が休むのはけしからん、とこちらがいうのは簡単ですが、抜群に面白くてためになる授業をすれば、スマホや横を見ずに前を向くだろうし、授業に出てくるようになるのではないか、と考え、少しずつ改善、工夫を重ねてきました。

あるとき果たして学生は授業にどのようなことを求めているのか、と疑問に思い、学生全員にアンケートを取りました。すると、教員に求めていること、として挙げられていたのが、「取っつきにくい医学知識、理論をわかりやすく教えてほしい」「知識の羅列に終始する授業は不要」「医師としての心構え、ロールモデルを見せてほしい」ということでした。そこで、単に枝葉末節の知識をスライドで見せて口から発する、という時間は減らし、「授業の中で学生に理解させる」ために授業を組み立てるようにしました。

具体的には難しい呼吸生理の解説や、COPDや細菌性肺炎、間質性肺炎など複雑な病態の機序を解説することに時間を割くようにしました。また、一方通行の講義形式に限界を感じていたところに、近年普及しているアクティブ・ラーニングを勉強する機会を得ました(東大のweb講座)。昨年早速導入したところ、授業評価では、60名以上の学生が自由筆記でポジティブな評価を記入しており、授業評価実施報告書13号の「良かった点」の半数近くを占めるという、おそらく抜群の高評価を得ました。

アクティブ・ラーニングの効果を実感したことと、自分のやっている方向性は、全員ではないにしろ少なからずの学生には受け容れられているという確信を得て、今年はさらにアクティブ・ラーニングの配分を見直し、慣れていない当初はクリッカーで参加し、後にグループワークでより多くの学生に発言、思考、参加をさせる組み立てとしました。また、単なる知識の伝達のみならず、医師としての心構えを伝える、という意図をもって、数年前から最後の授業では、ある末期癌患者に関するエピソードを挿入しています。


Q:今回の授業評価から、この授業について気づいた点は何ですか。

A:昨年よりも自由記述数は減ったものの、それでも回答者67名中42名が自由記述欄に記入していました。昨年の感想は主にアクティブ・ラーニングに関するポジティブな意見が中心でしたが、今年はより授業のねらい、当方の意図をくみ取った感想が多く、「分かりやすかった」「これまで受けた授業の中で一番よかった」「内容、量が適切であった」等の意見は、まさに意図したところが好意的に受け取られているようです。

また、「学生の自主性とモチベーションを引き出す授業」「学生に対する深い信頼に感謝する」という意見があり、授業の裏テーマである「興味を持たせて自分で勉強させる」が伝わったように感じられました。もちろん睡眠中の学生、解答を記入していない学生も一定数見受けられ、全員がこのやり方でよい、ということではないのかもしれません。1対100の講義形式の限界なのか、まだまだ改善の余地があるのか、さらなる検討課題です。

それから最後の授業における末期癌患者のエピソードについては、授業の最後であり、時間が無かったためか、それに触れた意見は決して多くないのですが、「心に残った」「考えさせられた」などの言葉で、肯定的に受け止めている様子がわかりました。正直この話をするのは自分としては「しんどい」ことですが、肯定的な意見も見られるのでこれからも何らかの形で続けていきたいと思います。


Q:反論があれば記入してください。

A:改善点としてあげられていた意見の多くに「すべて長尾先生の講義でもいい」「長尾先生の講義をもっと多くしてほしい」というものがあるのですが、正直、時間的にも肉体的にも限界に近いと感じています。むしろ私が来年もここにいるような事態があれば、また1歳年をとるため、もっと講義を減らしたいというのが正直なところです。

「レジュメに記載されていない画像があったが、それも載せてほしい」という意見がありましたが、これは著作権、肖像権などなど、大人の事情が絡んでいることを理解してほしいところです。

「私語をしている人をつまみだしてほしい」という意見には、私語をするだけ授業の魅力が無いということであり、さらなる課題とします。

「もっと長尾先生の本を安くしてほしい」これは出版社の価格設定であり、私にはどうすることも出来ないのですが、直接来てくれれば何とかしたいと思います。


Q:改善策があれば記入してください。

A:「もっとグループワーク、対話の時間がほしかった」という意見をはじめ、まだ時間配分はパーフェクトではないと考えます。特に授業の前半は、ある程度説明してから参加型に切り替わるので、その説明の間に意識消失となる学生が見受けられました。もう少し前半にも参加出来るコーナーを作るべきでしょう。理想は授業前に動画を見てきて、授業はグループワーク中心で行う、というものですが、もはや根本的にカリキュラムなりを作り替える時期に来ているのではないでしょうか。


Q:その他、意見があれば記入してください。

A:上にも書きましたが、もはや世の中の趨勢からしても、本学のように一方通行型の授業ばかりをこれだけ続けるのはあまりほめられたものではないと思います。現行のフォーマット内では、練りに練って改善を繰り返しても、この程度にしかならない(睡眠者をゼロに出来ない)と感じ、毎回授業終わりには、徒労感に見舞われました。

他の先生方は一体どう感じておられるのでしょうか?教員の間で話し合いを持てないものか?と、一度A先生のお声がけで「教育を勉強する会」が開催されたのですが、集まったのはほんの数名。これが本学の現状かもしれません。教員が教育にモチベーションを持つことが出来る仕組み作りが必要だと思います。また、「授業評価実施報告書」はアンケートの項目1つ取ってみても、授業の本質を問うものが少なく、点数が授業の質を表しているとは考えにくいのですが、この報告書の意義を見直す必要もあるかもしれません。

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posted by 長尾大志 at 14:31 | Comment(0) | 教育理念・メッセージ
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