これに対してヒッカムの格言、という、考え方があります。どの症例においても偶然に複数の疾患に罹患しうるため、症状に対して複数の原因を探すべきだ、という考えです。
通常の疾病は、ある一定の確率で起こるとすると、その疾病が合併する確率は
罹患率✕罹患率…
となりますから、単発の場合よりもずいぶん可能性が低くなるので、まずは単一の疾患で考えていこう、というのが臨床推論におけるオッカムの剃刀の根拠だと思います。
ただ、いろいろな症例を経験すると、ヒッカムの格言が当てはまるケースも経験されるわけで、実際臨床の現場では、オッカム、ヒッカム、どちらも考えるべきなのです。
高齢者では併存疾患が多い。高齢というだけで、いろいろな疾病の発症リスクが高まる。
それ以外に、
- 糖尿病症例
- COPD症例
- AIDS/HIV感染症症例などなど…
他にも様々な、「合併症を起こしやすい」病態がありますから。
じゃあどうして、ここであえてオッカムの剃刀を持ちだしたか。それは、胸部画像の読影をする上で「楽しくて、勉強になる」からです。
画像で見られるいくつかの所見を整理・統合して一つの疾患を考える、という作業は、各疾患で見られる所見をまとめて振り返る機会になるとともに、謎解きの要素が多分にあり、知的好奇心が刺激されます。また、ビシッと筋の通った読影ができたときにはとっても気持ちよい。
もちろん見える所見の各々を説明出来る鑑別診断をたくさん挙げる、ということも必要ですが、まずは、見られる所見のすべてが1つの疾患で説明出来るかどうかを考えてみる。ちょっと意識してやってみましょう。