2017年04月18日

両側肺門リンパ節腫脹とバタフライ陰影との違い3

バタフライ陰影は、心不全であることが多いので、心不全にまつわる所見が見えるかどうかを確認します。ここでご紹介しておきましょう。


  • 肺門付近・中枢の境界線がぼやけて拡がっている⇒バタフライ様

  • 肺門付近の陰影に引き続く血管影(肺紋理)が目立つ

  • 血管影(肺紋理)は特に頭側が太まる(cephalization)

  • 心拡大がある

  • 両側胸水が見られる

  • カーリーの各線や気管支壁肥厚など、広義間質の肥厚像が見られる



スライド46.JPG


通常は立位で胸部X線写真を撮影していますね。その際、肺門より上の血管よりも、肺門より下の(下肺野に向かう)血管の方が、重力のために血流が多くなります。つまり、下肺野に向かう血管影の方が目立つのが正常です。


ところが心不全では、下肺野の血管が攣縮・狭小化して上肺野に血流が再分布し、上肺野の血管影の方が目立つ現象(cephalization:角出し像)が見られます。さらに肺静脈圧が上昇してくると、血管壁から水分が滲みだしてきて、血管の周囲にある肺胞や(広義)間質に溜まってきます。

ちなみに重症心不全では臥位でポータブル写真を撮られることが多いため、その条件で上肺野の血管が目立っていてもcephalizationとは言えませんので注意が必要です。


結果、血管影自体が太まって見えたり、血管影周囲がぼやけたり、肺野の濃度が上昇して浸潤影〜すりガラス影のように見えたりしてきます。


その場合、肺の外側には比較的陰影が少なく、中枢から蝶が羽を広げているような陰影として見える、ということでバタフライ陰影、と名付けられました。肺の外側に陰影が少ない機序としては、末梢肺が呼吸運動によって動く際に、水分がポンプのように中枢へ送られやすい、あるいは末梢のリンパ流が発達していて、末梢の肺胞内に溜まったものが比較的送られやすい、などが考えられています。


後者の機序は特に、肺胞出血や肺胞蛋白症など、「肺胞内に何かがびまん性に貯留する疾患」において、比較的肺の末梢(胸膜直下)の病変が少ない(正常に近い)ことの説明にもなっています。末梢肺野に溜まったもの(血液や蛋白質)が、リンパのドレナージで掃除されている、というイメージです。


そのため、肺胞出血や肺胞蛋白症などで見られる「両側びまん性に、中枢>末梢に拡がるべたっとした陰影」を、以前はバタフライ陰影と呼ばれていたこともあるようですが、最近ではあまりそうは呼びません。


また、太まった血管影を反映して、肺野にやたらと線状影が見えるようになります。場所や長さ、特徴によってA線、B線、C線と呼ばれます。


なお、心不全のときにも肺動脈の拡張はあるのですが、バタフライ陰影に隠れて、中枢付近の血管影がぼやけていてよくわからないことも多いです。肺動脈がハッキリ拡張して見えるのは肺高血圧のときが多いです。

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posted by 長尾大志 at 17:56 | Comment(2) | 胸部X線写真で、ここまでわかる
この記事へのコメント
いつも拝見させていただいてます。
質問があるのですが、cephalizationが起きる原因を教えて頂きたいです。HPVなのかなと思いましたが、そうなると排血管全般的に攣縮を起こしそうなイメージがあり、有用な情報もなかったため、質問させて頂きました。ご返答お待ちしております。
Posted by 沢田修 at 2020年06月27日 13:46
記憶が定かではありませんが、確か機序については明確にあまり記載されていなかったように思います。でも下肺血管が攣縮するとすればHPVは有力な説明であり、下肺のほうが換気(=含気)が少なく肺胞内低酸素になりやすいことから、それなりに説得力のある話ではないでしょうか。
Posted by 長尾大志 at 2020年06月27日 16:50
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