AMR(antimicrobial resistance:薬剤耐性)が問題となっている昨今、ともかく抗菌薬は、「できる限り狭域を使うべき」です。狙いを定めてピンポイント爆撃。
そのためには原因菌が判明していなくてはなりません。心ある施設では、喀痰グラム染色、培養を活用して、できる限り狭域に抗菌薬の選択をされています。出た菌による選抗菌薬択については後で紹介します。
グラム染色、喀痰培養をやっている施設は少数派ですから…痰が出ない、検査ができない、ということで、尿中抗原をアテにしておられる施設も多いかと思います。ただこちらは、以前(数ヶ月〜過去1年くらいまで)の肺炎球菌感染症があると陽性に出てしまいますから、注意が必要です。
そんなわけで現実には原因菌の目星がつかないことも多く、状況証拠から「こんなもんかな」と抗菌薬を決めて投与する、いわゆる「エンピリック(empiric)治療」を行うことになります。
empiric、というのは、「経験的な」という意味です。こういうシチュエーションだったらこういう菌が経験的に多いから、この抗菌薬を使いましょう、ということを決めておいて、シチュエーション別に治療するものです。
本来は初期治療において、原因菌が定まるまでにとりあえずの治療、という意味合いであったはずが、結局菌種が確定せずにそのまま治療継続されることが多いようです。まあそれで「その症例については」大概うまくいくのも現実ですが。
empiricにはヤブとか山師、という意味もあり、しばしば「原因菌の絞り込みを行わずにテキトーな治療をする」という揶揄の対象になりますが、まあ現実問題、痰の検査ができないものは仕方がない、うまくいくんだからそれでいいだろう、という声も少なくありません。でもね。それでも原因菌探しはできるだけ努力しましょう。
なぜか。
エンピリックにいくということは、(治療失敗を避けるために)どうしても多少広域なものを使うことになります。それでその症例はうまくいっても、体内で菌交代が起こり、その人の体内の菌がAMR化してくるわけです。塵も積もれば山となる。そのうちに施設がAMR化、その地域がAMR化、やがて日本が、世界がAMR化…これまでに何度も繰り返されてきた抗菌薬悲劇の歴史です。
肺炎ガイドライン解説
2018年07月04日
この記事へのコメント
コメントを書く