2019年03月01日

第29回月輪呼吸器疾患研究会・アスベスト疾患をみるためのエッセンス見聞録2

昨日の「会」ではさんざんな目に遭いました。昨日のことはもう忘れます…。早速続きを。


昨日書いたような、石綿による肺実質の線維化を石綿肺といいます。石綿肺だけで労災認定される、というのは毎年日本でも亡くなるのが50〜60人という稀なケースになります。

具体的には、じん肺管理区分が管理4の場合、もしくは、管理2〜4であって、合併症(肺結核・結核性胸膜炎・続発性気管支炎・続発性気管支拡張症・続発性気胸)を併発した場合です。

石綿による胸膜の病変には、良性石綿胸水とびまん性胸膜肥厚があります。これらはいずれも良性疾患に分類されます。


石綿による疾病で問題になってくるのは、悪性腫瘍である肺がんおよび胸膜中皮腫であります。石綿肺がんも中皮腫も、厚生労働省による「労災」と環境省による「救済法」で経済的な援助が得られますので、私たち医療者、特に呼吸器内科医はこれらの規定をよく知っておいて、認定してもらえるものは認定していただくよう情報を提供したいものです。

石綿肺がんの日本の認定基準は以下の通りです。

・第1型以上の石綿肺がある

・胸膜プラーク+石綿ばく露作業に10年以上従事していた

・病理組織標本上に石綿小体または石綿繊維がある+石綿ばく露作業に1年以上従事していた
病理組織標本上の基準は以下のいずれか
 肺乾燥重量1gあたり5000本以上の石綿小体
  5μm超の石綿繊維が200万本以上
  1μm超の石綿繊維が500万本以上
 気管支肺胞洗浄液1ml 中5本以上の石綿小体

そして2012年3月に出た新たな診断基準では上記に加えて

・びまん性胸膜肥厚かつ著しい呼吸機能障害がある
(胸部レントゲンの肥厚範囲が認定基準を満たす=片側の場合は片側胸郭の1/2以上、両側の場合は両側胸郭の1/4以上)

・広範囲(胸部レントゲンまたは胸部CTで片側1/4以上)の胸膜プラークがある+石綿ばく露作業1年以上

・石綿紡績・石綿吹付・石綿セメント製造などの石綿が高濃度に暴露するような作業に従事+そのいずれかに従事した期間またはそれらを合算した期間が5年以上

上のようなベースのある肺がんは石綿肺がんと認定されます。その前にアスベストの環境問題で随分叩かれましたので、石綿肺がんを積極的に認定しようということで、いろいろと基準がディスカウントされ、診断のインフレが起こっているとのことでした。


一方環境省の石綿健康被害救済法では、原発性肺がんであって次の1から3までのいずれかの場合、石綿による肺がんであると認められます。

@胸膜プラーク所見があること(胸部単純X線検査またはCT検査)と+胸部単純X線検査で肺の線維化所見(じん肺法に定める第1型以上と同様の肺線維化所見)があること

A広範囲のプラーク所見があること(これは2013年6月18日に追加された基準になります)

B石綿小体または石綿繊維の所見があること(これは労災の基準と同様ですが、さらに肺組織切片中に石綿小体があれば良いという文言が2018年6月18日に追加されました)

これを見ていると環境省の基準は職業歴が問われていないことがわかります。まあ、これだけの所見があれば石綿を吸ってるんでしょ、ってことです。厚生労働省の労災基準は労災だけあって職業歴をしっかり確認されている、ということになります。


他に、プラークは年を取ってくるとだんだん広がっていく、とか、岡山や長崎など熱心な先生がいるところが、認定されている患者さんも多い、というお話が興味深かったです。

もう少し続きます。ちなみに明日は山形に伺いますので、更新が滞るかもしれません。ご容赦のほどよろしくお願い申し上げます。

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posted by 長尾大志 at 16:27 | Comment(0) | 学会・研究会見聞録
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