日高様はもともと消防からキャリアをスタートされて途中救急救命士免許を取得され、救急の現場で奮闘されて来られた方です。当時救急車は患者さんを運ぶだけで、酸素もなく救急車の中でマウスtoマウスで人工呼吸をされたりといった時代から救急の現場に携わっておられました。平成19年に邑智病院がいろいろと大変になって、このままでは救急車の受け入れができないということで病院の事務長として着任されました。
ちなみに2025年7月時点で邑智病院の病床数は急性期57床、回復期41床の一般病床98床になります。ロケーションとしては広島県庁まで車で1時間強に対して島根県庁まで車で2時間弱という微妙な場所にあります。広島に意外に近いことから、広島に子供さんがいる患者さんは結構多いそうです。
現在常勤医師は12名、うち歯科医師が1名、規模の小さい病院にありがちな不採算が恒常的にあり、補助金でなんとかかんとかというところであったそうです。病院自体は元々昭和27年に開設された結核療養所であったということで、なるほど山の中にありますね〜という感じです。
この規模の「地域医療に携わっている病院」の難しさというものがあって、規模が小さいけれども救急や小児科をやめるわけにはいかない。地域のニーズがあるから、という事情があるわけです。
事務長として着任されて、病院の取り組みとしてまず最初に決められた基本方針が
・背伸び もしないが萎縮もしない医療を提供するということ、例えばロボット手術はしないけれどもできること(お産、小児科、救急)はしっかり最大限頑張る
・医療事故では職員を矢面に立たせない組織
ということでした。手術も規模は小さいものの、きちんとした手術室を作って存続するというところです。自治体病院としての責任の所在を明確にされ、そして全員参加型の病院経営にする、皆さんが「当事者意識」を持って病院経営に参画する、デジタル技術を積極的に導入するということに取り組まれました。病院存続のために2013年から「自立プロジェクト」をスタートされています。
こちらの冊子に詳細が記載されていますが、機能ごとに分けた小集団の部門別採算を評価して、すべての職員が経営に参画する仕組みであるとのことです。病院の収入は診療科ごとに見えますが、その診療にチーム医療として携わった多職種の貢献を数値化し、チーム医療の評価を可視化されています。
その際に人件費は俎上に載せず、公平な尺度である「時間」で実績を捉えます。そして他部門を手伝った時間を部門間で移動させる仕組みにより、「教え合いこ」「助け合いこ」の精神が醸成されています。他部署のお手伝いをするとそれが業績に反映されるということをされていて、それをすることで自然な形でタスクシフト、時間があるところがないところを手伝うということが自然にできているのだなあと分かりました。
修正医業収支比率は89.2%、これはこの規模の病院としては極めて採算が良い方になります。逆にこれが100〜ということになるということは不採算部門を切り捨てているということになりますので、小規模の病院で不採算部門をしっかり維持しながらこの数字というのは相当に頑張っておられるということになるそうです。常勤医師の数は変わらないもののNPさんや事務補助者の方を増やす、そして各々の生産性を向上することで時間あたりの付加価値を10年間で1時間あたり1000円、トータル3億向上させるということが可能になったそうです。
やはり組織の改革には構成員の各々が「当事者意識」を持つことが極めて重要 というのは グロービスの田久保さんもおっしゃっていたことでありますが、それをずいぶん前に導入されて実際に成果を上げられている、そんなお話を伺うのは大変興味深かったです。
職員の皆さん「当事者意識」があるから自然と挨拶も出るのでしょうか。学生さんが「とにかく公立邑智病院のスタッフの皆さんが笑顔で挨拶をしてくださる」「ものすごく感じが良い」ということでいつも衝撃を受けて帰ってくるんですけれども、その秘密がここにあったのかと得心しました。そしてまた、人気の研修病院は事務の方が素敵であるの法則がここでも有効であったことも納得でした。
翻って規模の大きな、例えば600床規模の病院でこういったことが可能なのだろうか?ということを思考実験をしてみるわけです。大変多くのメディカルスタッフや事務の方が働いておられます。朝は挨拶もなく、当事者意識もそれほどなく、やらされ仕事を消極的に行い、助け合いもなく残業は恒常的、そんな組織が当事者意識を持つとずいぶんと業績が好転するのではないかと想像する次第であります。
日高様は 論文を書かれたり寄稿をされたりあちこちで講演をされたりしておられるようです。そういう大きな病院でもアドバイザーとして協力していただけるといいのではないか などと思ったりしました。

