2011年06月03日

真菌症のちょっとしたこと4・ニューモシスチス肺炎

β-D-グルカンの高値が見られる真菌症のうち、緊急性が高いものとして、ニューモシスチス肺炎が挙げられます。


おそらく今の学生さん、若い先生方はこの病原体について、最初からニューモシスチス・イロヴェツィーとして習っておられるでしょうが、私たちの世代では「カリニ肺炎」と呼ばれていました。


ニューモシスチス・イロヴェツィー(Pneumocystis jirovecii)は、かつては原虫とかいろいろいわれていたのが、10年ぐらい前に遺伝子解析で真菌と決着した、何とも曖昧な立ち位置の微生物です。

多くのほ乳類に感染するのですが、種によって固有のものが感染します。かつての名称であるニューモシスチス・カリニ (Pneumocystis carinii)が動物由来のものを示す名称となり、ヒト由来のものはニューモシスチス・イロヴェツィーと呼ばれるようになりました。

なお、jiroveciiは人名で、日本語で大変表現しにくいため、本によってイロベッチやイロベチーとも表記されて混乱の元となっています。



そんなわけで、変な混乱を避けるべく、ニューモシスチス肺炎と呼ばれるようになったこの病気です。

こういうエピソードは、布袋寅泰の名前が読めない人が「ほていさん」といってたり、小倉優子の名字がオグラかコクラかわからない人が「ゆうこりん」と呼んだり、というのに似た、そこはかとないごまかし感を感じますねー。


閑話休題。ニューモシスチス肺炎は、HIV感染からAIDSを発症し、CD4 陽性Tリンパ球が減少した患者さん、あるいは膠原病やリウマチ性疾患でステロイド使用中の、免疫抑制状態にある患者さん、血液腫瘍や骨髄・臓器移植後の患者さんに発症します。


他の真菌と比べてもβ-D-グルカン値は高めで、両側すりガラス影(地図状の分布)、A-aDO2開大(著明な低酸素)、LDH高値などの特徴的所見が見られます。


確定診断には気管支鏡によるBALで菌体を直接検出したり、PCRでDNAを検出したりします。
が、低酸素のため施行できないこと、あるいは施行しても検出できない(偽陰性)ことも
少なくないため、上記のリスクがあってβ-D-グルカン高値、CTでの特徴的な陰影から治療をはじめることも多いです。


治療は大量のST合剤+ステロイドを3週間。ステロイドを使うのは、呼吸不全の治療(予防)の意味合いがあります。



β-D-グルカンはニューモシスチス肺炎の診断時には大変役立つのですが、治療をして菌量が減ったからといって、すぐには低下しません。ですから、β-D-グルカンは治療経過を追うには不向きであると思っておきましょう。

リスクのある患者さんで定期的に測定し、上昇が見られたらすぐ検査、治療、というのが推奨される使い方だと思います。


治療の効果判定には、酸素飽和度や呼吸数、LDH値や炎症反応といったものが参考になります。胸部レントゲン写真は治療期間が終わってもきれいにならないこともあり、胸部レントゲン写真がきれいになっていない、という理由で治療を何週間もダラダラ続けることのないようにしましょう



また、CMV(サイトメガロウイルス)肺炎がしばしば合併しがち、かつ悪化の原因になっているといわれています。特に免疫抑制剤を使用している方は、C7-HRPなど、定期的なチェックを。


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posted by 長尾大志 at 11:51 | Comment(0) | 真菌症のちょっとしたこと
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