疫学の話です。
昨今でも世界的に見て、結核というのは決して「終わった」疾患ではなく、今そこにある解決すべき問題として厳然と存在します。
で、どこで問題になっているかというと、主に途上国。HIV感染症に関連して感染が拡大しています。
WHOの統計によりますと、全世界では…。
毎年920万人が結核に罹患し、170万人が死亡。
(20年前は800万人が罹患し、死亡が300万人)
感染者は20億人(人口の1/3)、20年前は17億人という、途方もない数字です。
おそらく感染の拡大という点では、居住環境が整備されていないというのが大きいのでしょう。大家族で一部屋に住んでいるとか、隣の人が薄壁一枚しか隔てていないとか、誰かが咳をすると、容易に傍の多くの人が飛沫核を吸い込んでしまう、という環境ですね。
で、日本も、かつてはそういう時期がありました。第二次世界大戦後、終戦後ですね。多くの都会は廃墟となり、バラックのようなところに居住。そして、栄養状態も不良と、結核が蔓延する要素がそろっていました。
その当時は、日本人の大半は結核菌に感染していたといっても過言ではありません。
1950年(終戦後5年)の統計では、年齢別結核感染率が
1歳 2.9%
20歳 54.3%
40歳 79.5%
60歳 90.8%
70歳 93.8%
つまり、1歳時点で感染している国民はさすがに少ないものの、周りの大人からどんどん菌をもらい、20歳時点で既に2人に1人は結核菌に感染していて、60歳になる頃には日本人の9割が感染しているという、大変な状況であったわけです。
で、一度感染が成立すると菌は居座りを決め込みます。
出ていかない。
40年後の1990年の統計を見てみましょう。
すっかり都市化され、新規の感染、菌の伝搬はかなり起こりにくくなっている状況です。
1歳 0.06%
20歳 2.6%
40歳 22.7%
60歳 64.8%
70歳 76.4%
1950年に20歳であった人が60歳になっています。40年で54.3%が64.8%と、少し増えていますが、多くの方は元々入っていた菌を持ち越されているわけです。
1990年の20歳は2.6%で、40歳の感染率も低下してきています。
感染率が低下すれば、発症する患者数も低下し、新たに感染する人も減りますから、今後時間の経過とともに、日本国民全体の感染率は低下すると思われます。
つまり、戦後すぐは途上国であった日本が、その後急速に発展して、経済的には先進国の仲間入りをしたわけですが、結核の感染率・罹患率で見ると、いまだ途上国レベル、まだまだ発展途上ということになります。
ちなみに、いわゆる先進国の2003〜2004年の罹患率(人口10万人あたり)は、以下の通りです。
スウェーデン 4.3
オーストラリア 4.8
米国 5.1
イタリア 7.4
オランダ 7.9
フランス 9.5
英国 10.8
デンマーク 7.0
ドイツ 7.9
日本 23.3
あとどのくらいで先進国の仲間入りができるのでしょうか…。
長い長い結核の話を最初から読む
2011年08月01日
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