2011年12月06日

低酸素血症の鑑別1・A-aDO2とは

このあたりは私が学生〜研修医時代、大変苦手であった分野です。

そう思って学生さんに丁寧に説明すると、「そんなことわかってます」的な顔をされて、すごいな〜とも思うこともある一方、ちんぷんかんぷんな感じもあったりで、ブログで一度しっかり説明してもいいかな、と思っていました。


T型呼吸不全のところで低酸素については軽〜く触れたのですが、少し踏み込んでお話をいたします。


呼吸とは、肺胞内に空気(酸素の割合20%)が入り、その中の酸素が毛細血管〜動脈に溶け込む過程です。


肺胞の中のO2の濃度にあたる、肺胞気酸素分圧をPAO2(A:Alveolus=肺胞)といい、
動脈の中のO2の濃度にあたる、動脈血酸素分圧をPaO2(a:artery=動脈)といいます。

どちらも頭文字がAなので、大文字、小文字で区別しています。


肺胞の中から動脈血にO2がちゃんと移動できているかどうかを見るために、PAO2とPaO2の差を見ます。その差をA-aDO2といいます。



PaO2の値は、動脈血ガスをとればいいですから、すぐにわかります。問題はPAO2です。
現実問題、肺胞の中にセンサーを潜り込ませて測定するわけには参りませんので、PAO2を直接測定することはできません。ではPAO2、どうやって求めるか。少しおつきあいください。



吸入した空気の酸素分圧、これはわかります。吸入気酸素分圧PIO2といい、室内気では約150Torrです。
Iはinspiratory、つまり吸入気を指します。
PIO2から肺胞での酸素濃度にあたる、肺胞気酸素分圧(PAO2)を計算するには…。


吸入して肺胞に入った酸素分圧のうち、ガス交換で二酸化炭素と交換された酸素分圧を差し引いたものが肺胞における酸素分圧と考えます。ではガス交換された酸素分圧はどうやって知るか。


ガス交換の結果、酸素は二酸化炭素と交換されます。この交換の比率を呼吸商といいます。

呼吸商は食事の内容で変化しますが、わかりやすくするために0.8で計算します。
つまり、酸素:二酸化炭素=1:0.8で交換されるということですね。



ですから、この呼吸商と肺胞内の二酸化炭素分圧PACO2を使うと、二酸化炭素と交換された酸素の分圧がわかるわけです。

二酸化炭素と交換された肺胞内酸素の分圧=PACO2÷0.8

ではPACO2はどうやって求めるか。これはほぼイコール、PaCO2(=動脈血二酸化炭素分圧)であります。なぜならば、CO2はO2よりも、ずっとずっと移動が早く、一瞬にして動脈から肺胞に移動するため、動脈と肺胞のCO2分圧が一瞬にしてイコールになるから、であります。

つまり、

二酸化炭素と交換された肺胞内酸素の分圧=PaCO2÷0.8


そうすると、吸入して肺胞に入った酸素分圧(吸入気酸素分圧PIO2=150Torr)のうち、ガス交換で二酸化炭素と交換された酸素分圧(=PaCO2÷0.8)を差し引いたものが肺胞における酸素分圧(PAO2、ほしかったやつです)と考えます。


すなわち、

PAO2=PIO2−ガス交換で二酸化炭素と交換された酸素分圧
=PIO2−(PaCO2÷0.8)

だいぶ結論に近づいて参りました。


A-aDO2=PAO2−PaO2ですから、
A-aDO2={PIO2−(PaCO2÷0.8)}−PaO2
となり、

A-aDO2={150−(PaCO2÷0.8)}−PaO2

という、おなじみの式が登場です。お疲れ様でした。


本当の理想的状態ですと、A-aDO2は0になるはず(これまでに書いたことをよーく考えると当たり前)ですが、現実には少〜しずつずれがあります。FIO2=20%の空気が肺胞を満たしたときのPaCO2=40で、それと接している毛細血管のPaO2が95Torr程度とすると…

A-aDO2=PAO2−PaO2=100−95=5Torrとなるわけです。


今回は、≒と書きたいところも多かったのですが、ややこしさを極力廃するため、敢えて=で統一しました。それにしても、下付き文字が多くて、疲れましたね…。


A-aDO2のややこしい話を最初から読む

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posted by 長尾大志 at 19:25 | Comment(4) | A-aDO2のややこしい話
この記事へのコメント
先日私が勤める施設でABGでPaO2が500mmHgという数値を見たのですが、理論上PaO2のMAX値は
760−47で723mmHgまで上昇することがある、という理解で正しいでしょうか?
また、吸収性無気肺はPaO2がおおよそどの程度まで上がれば発症しているのでしょうか?個々の状況や他のデータとの比較も必要でしょうが、何か指標のようなものがあれば教えてください。
よろしくお願いします!
Posted by akihiro at 2014年10月18日 15:53
FIO2=100%、A-aDO2≒0で計算すると、理論上はそんな感じです。
でも普通は、PaO2が上昇すると直ぐにFIO2を下げるので、PaO2が500mmHgというのは、ちょっと非常識な印象を受けますね…。
吸収性無気肺は、FIO2 100%と80%で有意に差があった、という論文を見たことがあります。20%でも窒素が存在すると違うんでしょうか。
Posted by 長尾 大志 at 2014年10月23日 16:38
ご回答ありがとうございます!
やはりFIO2は速やかに下げるにこしたことはないのですね。私は看護師ですので、それを指示できる立場にはないですが、もっともっと理解を深めて確かな根拠に基づいて患者さんと向き合えるようになりたいと思います。
因みにPaO2が500の件ですが、私の勤める施設では挿管処置自体があまりなく、たまに挿管しても挿管後の酸素化の評価の殆どをSpO2に頼り、ABGをマメにチェックしていくDrがいない、という背景があるかもしれません。

Posted by akihiro at 2014年10月23日 21:41
まだまだそういう施設は多いですね。是非しっかり勉強して頂き、医師とディスカッションをお願いしたいと思います。頑張って下さい。
Posted by 長尾 大志 at 2014年10月24日 17:33
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