2011年12月14日

低酸素血症の鑑別6・A-aDO2が開大する状況・拡散障害とDLcoについて

拡散障害という言葉もありますね。
これも混乱の元。


六年生からの質問ナンバー1かもしれません。


そもそも拡散とは、空気中の分子が気道〜肺胞から、血管内〜赤血球に移動する現象のことです。

ここでは、簡単にするために、肺胞に入った空気(酸素)が毛細血管〜赤血球内に移動する現象に絞って考えます。


普通は、肺胞に酸素(赤丸)が入ると一定の割合で毛細血管に拡散していきます。


拡散障害スライド2.JPG


ここでたとえば、間質性肺炎のように、肺胞が分厚くなる状態を考えます。


間質性肺疾患シリーズ開幕にあたってでも述べたように、間質性肺炎は肺の間質、つまり、肺胞隔壁のところに炎症が来るので、肺胞隔壁に細胞浸潤、浮腫が生じて肺胞腔内と毛細血管の間に水(の密度のもの)が入ってきます。


そうすると図のように


拡散障害スライド3.jpg


酸素がなかなか拡散していけなくなるのです。


この拡散させる能力を見る検査が、肺機能検査で出てくる「拡散能」です。当然酸素の拡散能が大事なのですが、測定が難しいことから通常は一酸化炭素(CO)を用いたDLcoを拡散能の指標として用います。

具体的には、COを含む空気を吸ってもらって、呼気にどれだけCOが残っているかを見ることで、拡散したCO量を計算する、というものです。


このDLcoが低下する病態を拡散障害と言います。



拡散障害は分類上、多くの教科書では換気血流不均等とは別の項目になっています。

でも、この状態は、血流がちゃんとあるんだけども換気(というか拡散なんですが)が不足している状態と、まあ同じことですから、換気血流不均等といえなくもありません。疾患も結構重なっていたりするので、ややこしいですね。


多少乱暴かもしれませんが、

A-aDO2が開大すれば、換気血流不均等があるということになり、
DLcoが低下する病態は、拡散障害である。
疾患が重なることはあるが、別の概念である
。」


と理解しておくのがもっとも混乱が少ないと思います。

各々の疾患がどういう状態、機序で低酸素を来すかについて、明日から考えてみます。


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posted by 長尾大志 at 13:04 | Comment(8) | A-aDO2のややこしい話
この記事へのコメント
はじめまして
いつも、このサイトに助けられている一研修医です。ありがとうございます。

過去の記事に対して、突然質問をして申し訳ありません。
V/Qミスマッチは先生のご説明でその輪郭がはっきりしてきました。
ただ先日、「混合静脈血酸素分圧が低いときに、V/QミスマッチがあるとPaO2が著明に低下する」という、一文をワシントンマニュアルで見つけました。この場合、なにがどう転がってPaO2が低下するのか全くわからず、インターネットを探しまわったのですが、答えを見つけることができませんでした。
もし、先生にお時間がおありでしたらご教授いただけるととてもとてもうれしいです。
おけら
Posted by おけら at 2012年07月12日 04:28
お役に立っているようで幸いです。

混合静脈血はご存じの通り、ガス交換を経る前の肺動脈中を流れる静脈血ですから、そこのO2分圧が低いというのは、baseからして低いということです。

元々普通より低いところにVQミスマッチが重なると、PaO2は著明に低くなる、こう理解していただいてはどうでしょうか。
Posted by 長尾 at 2012年07月12日 22:24
ありがとうございます。
すごく単純なことなのですね。
私だけなのかもしれませんが、医学書を読んでいるとさらっと書いてあることに引っかかってしまうことがよくあります。
本当にありがとうございました。
Posted by おけら at 2012年07月13日 01:53
いやいや、ちょっとした一言で解決、みたいなことは結構よくありますよ。

同じ職場でしたらちょっと聞いていただけば済む話なのですが…面倒でもこちらでお尋ねいただければお答えしますので、またどうぞ。
Posted by 長尾 大志 at 2012年07月13日 16:04
こんにちは。
脳卒中患者の診療に日々あたっています。
炎症反応の数値があがり、SpO2が90%前後になる高齢患者さんは沢山いるので、換気血流比不均等の不均等がさらにひどくなったと考え、経鼻で酸素を少し流すとSpO2は改善するということを日常のように診てきましたが、ふとそういえば換気血流比不均等が悪化してるとかどう判断するんだっけ、とか考えた時に、大学卒業して30年近くたち、わからなくなってることに気づきました。WEB上で検索して解説されてるHPをいくつか見て、A-aDO2を計算するんだったことに到りましたが、特に先生のこのページなどはわかりやすく、大変助かりました。拡散障害も、おっしゃる通り、すでに混乱していました。ありがとうございました。
Posted by 森 貴久 at 2014年02月03日 09:25
コメントをありがとうございます。
他科の先生のお役にたてた、ということで大変うれしく拝見いたしました。これからもお役にたてますよう、少しずつ頑張って参ります。
Posted by 長尾 大志 at 2014年02月03日 10:15
こんにちは。いつも大変お世話になっています

質問なのですが、DPBでは、A–aDO2の開大は見られるが、拡散障害はないと記載されている教科書がありました。COを用いる検査では、実際に吸入するので、A-aDo2の開大があるのなら拡散障害もあると判定されてしまうのでは?と疑問に思っていしまいました。

教えていいただけますでしょうか?
Posted by はる at 2020年05月31日 01:44
DPBは細気管支炎、気道の疾患です。
http://tnagao.sblo.jp/article/56847218.html

肺胞の障害が(特に初期は)少ないため、肺胞に依存する「拡散能」が低下する、という理解でよろしいかと思います。
Posted by 長尾大志 at 2020年05月31日 21:05
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