2012年01月12日

医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドライン7・誤嚥について

医療・介護関連肺炎(NHCAP)になると言うことは、そもそもその患者さんは何らかの形で介護的なものを受けているわけですよね。つまりADLが落ちているわけであり、高齢で、脳血管障害が合併している、というケースが多いわけです。


それはつまり、誤嚥とは切っても切れない関係にある、ということです。
明らかな誤嚥のepisodeがなくても、不顕性誤嚥があることは結構多いと考えられています。そんな方々にひとたび肺炎が起こったときには、誤嚥性の要素を考慮する必要があります。


誤嚥を来しやすい病態・病名として考えられているのは、神経疾患では

  • 脳血管障害

  • 中枢性変性疾患

  • パーキンソン病

  • 認知症(脳血管性、アルツハイマー型)


がありますし、口腔の異常では

  • 噛み合わせ障害

  • 義歯不適合

  • 口内乾燥

  • 口腔内悪性腫瘍


があり、胃食道疾患では、

  • 食道憩室

  • 食道運動異常
      (アカラシア・強皮症)

  • 悪性腫瘍

  • 胃−食道逆流
      (食道裂孔ヘルニアを含む)

  • 胃切除(全摘・亜全摘)


などが挙げられます。


また、医原性その他の原因として、

  • 寝たきり状態

  • 鎮静薬・睡眠薬

  • 抗コリン薬・抗ヒスタミン薬(口内乾燥を来す)

  • 鎮咳薬

  • 経管栄養



があると、誤嚥のリスクは高まります。

多くの、特に介護を受けている高齢の方々は、なんらかの、上に挙げたような状態にあるわけで、誤嚥とは切っても切れない関係にある、と申し上げる理由がおわかり頂けるかと思います。



高齢の方々は、そもそも肺炎になっても、高熱などは出にくく、発見が遅れることも多いわけですが、比較的急に

  • 食欲不振

  • ADLの低下

  • 意識障害

  • 失禁


などが起こってきた場合には積極的に肺炎の存在を疑いたいところです。

さらに、明らかな誤嚥のepisodeがあったり、レントゲンで肺底区に陰影を認めたりした場合には、誤嚥性肺炎の存在を念頭に置いて治療を行うべきでしょう。


ということは、高齢患者さんを診る医師は、何科の医師であっても、レントゲンで「肺底区に陰影がある」ことぐらいは見て取れる必要があるということですよ。下肺野に陰影があったら、中葉と肺底区の区別はちゃんとできますか



治療については後に、区分別に述べたいと思いますが、予防についてはいくつかのエビデンスがあり、

  • 肺炎球菌ワクチン接種(グレードB)

  • 口腔ケア(グレードB)

  • 薬物療法(グレードB)
      ACE阻害薬、シロスタゾール

  • 睡眠薬減量・上半身軽度挙上


あたりは勧められています。なお、PEG(胃瘻増設)に関しては(グレードC2)で推奨されない、となっています。これはあくまで、「誤嚥性肺炎の予防のエビデンスに乏しい」ということですので、やっちゃダメ、ということではありません。誤解の無いようにお願いします。


それにしても、肺炎球菌ワクチンですよ。5年前は、患者さんに説明してご理解いただくのも一苦労だったのが、マスコミで大きく取り上げられるようになって、今や患者さんから「やってください」と依頼され、品薄になる人気。

マスコミの力は偉大ですね〜。まあ、裏を返せば怖いことでもありますが。


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posted by 長尾大志 at 11:03 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説
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