2012年03月10日

肺炎のイロハ・基礎疾患のある患者に発症した、急性経過の病態6・治療薬の選択

高齢で喫煙歴(+COPD)、比較的緩徐な発症から、ひょっとするとH.influenzae、あたりをイメージされるでしょうか。

検査所見、胸部レントゲン、尿中肺炎球菌抗原陰性もあいますね。喀痰からHaemophilus属を検出した、となりますと…。


大阪大学の朝野先生によると、検出された菌が原因菌として明らかな意味があるのは…

  • 市中肺炎で、喀痰などから肺炎球菌が有意菌数分離されたとき

  • H.influenzae(元々肺には居ない)が有意菌数分離されたとき

  • レジオネラやマイコプラズマが分離されたとき

  • 空洞や壊死を伴う膿瘍様病変からMSSAやMRSAが分離されたとき



ぐらい、とのことですから、Haemophilus属がでた、というのはこれまでの所見を裏付けることになりそうです。


と、いうことで、Y先生が選択された抗菌薬…。


市中肺炎ガイドラインを参照されて、「BLNARのことを考えて、TAZ/PIPCを選択しました。」とのことでした。まあ、確かに書いてあります。

結果的には、最終培養でHaemophilus influenzae(BLNAR)3+、BLNARはABPC/SBT耐性であり、Y先生の懸念通り。市中肺炎だ、と思って何も考えずABPC/SBTを選択していたら、治療失敗の恐れはありました。


呼吸音は、○月24日(3病日)より改善傾向となり、○月27日(6病日)にはラ音は聴取しなくなりました。他の所見も順調に改善していたため、○月27日退院されました。

胸部レントゲンも、順調に改善。


120301CR.jpg


Y先生になるべくご自分で決定していただくために、あえて口を出しませんでしたが…。
TAZ/PIPCの選択は、目の前の患者さんの治療、という意味では正義ですが、環境に与える影響、という意味では、必ずしも正義とはいえない。やはり抗緑膿菌作用のある抗菌薬は、緑膿菌を強く疑うときに使いたいものです、そんなお話をしました。


しかしY先生にとっては、ご自分で方針を立てて、しっかり経過を追えたのでよかったと思います。一つ一つの意思決定に根拠があり、正しい論理展開の枠組みができているように見受けました。次は、肺炎でうまく治療が進まないケースを経験されると、また臨床力に深みが出ますね!

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posted by 長尾大志 at 22:42 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説
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