前回の地方会では、大阪大学感染制御部の朝野先生のお話がありましたが、同じガイドラインの委員の先生でも、お立場、というかバックグラウンドによって、お話のベクトルが随分違っていて、かなり興味深かったです。
朝野先生はもう、微生物、病原体、あるいは検査の方面からお話を進めておられたのに対し、寺本先生は嚥下、誤嚥に焦点を当てたお話でした。
その中でも印象的であったのは、やはりガイドラインの骨子である、「どこまで治療するのか」論。いくつか備忘のため、覚え書きを拾ってみると…
- イギリスでは、食べられない≒生きられない、であり、口からものを食べられない高齢者に胃瘻をするような文化はない。
- William Osler曰く、「肺炎は老人の(安らかな死亡をもたらす)友」。
- 口腔内容物の不顕性誤嚥は、高齢者ではありふれたものである。
- とはいえ、原因菌は肺炎球菌が多い。現に肺炎球菌ワクチン接種で、肺炎の発症率が半減している。
- 明らかな障害のない脳梗塞既往患者でも肺炎リスクは10倍になっている。
- 誤嚥性肺炎は結局のところ、純粋な感染症とは言えず、治療も、感染症治療、すなわち抗菌薬治療だけでは不十分である。
- 嚥下リハビリは、誤嚥の量を減らすが誤嚥内容物の質がよくないため、肺炎予防効果は認められていない。一方、口腔ケアは、誤嚥内容物の量を減らさなくても、質がよくなるので肺炎予防のエビデンスが出てきている。
- 口腔ケアに加え、口の乾燥はよくないため、口腔乾燥を来す薬剤をやめることも必要で、のどを使うという意味では発声、つまりおしゃべりをしたり歌を歌ったりすることも嚥下訓練になる
誤嚥の程度が強い場合、抗菌薬を使っていったん炎症所見が治まっても、抗菌薬をやめると再燃する、ということがしばしば経験されます。その場合にどうするのか、などなど、実地医家の先生方を含め、熱い質疑応答がなされていました。