2012年09月10日

肺炎と抗菌薬〜3つのガイドラインの根底に流れる「共通の考え方」5〜市中肺炎の原因となる主な耐性菌・肺炎球菌

市中肺炎の原因となる菌は肺炎球菌やH.influenzae(インフルエンザ菌)、マイコプラズマやクラミドフィラ。そのうち、肺炎球菌、H.influenzae(インフルエンザ菌)、マイコプラズマ(まあ、ほとんどですが)においては、耐性の問題も無視できない割合で見受けられます。


肺炎球菌の耐性としては、ペニシリン感受性肺炎球菌(PSSP:penicillin sensitive Streptococcus pneumoniae)に対するペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP:penicillin resistant Streptococcus pneumoniae)というものがあります。さらに、その間のペニシリン低感受性(中等度耐性)肺炎球菌(PISP:penicillin intermediately resistant Streptococcus pneumoniae)というものも定義されています。


歴史的?経緯を書きますと、元々は、すべての感染症に対してPCGのMICによって下記のように耐性が定義されていたのですが、

  • PSSP:MIC≦0.063

  • PISP:0.125〜1

  • PRSP:MIC≧2


2008年に、非経口ペニシリンを使用するにあたって、髄膜炎(PCGの移行が悪い)と肺炎その他の感染症は分けて、感受性の定義が変更されました。


髄膜炎の場合、

  • PSSP:MIC≦0.06

  • PRSP:MIC≧0.12



肺炎その他の感染症においては、

  • PSSP:MIC≦2.0

  • PISP:4.0

  • PRSP:MIC≧8.0



となっています。


実のところ、世の中にいる肺炎球菌の多くはMIC=2の株なのですが、これが古い基準だとすべてPRSPに分類されてしまっていたのですね。そのため、「ペニシリン耐性肺炎球菌=ペニシリンが使えない」という都市伝説?が蔓延っていたのです。


しかし、この新しい定義によりますと、MIC=2の株はPSSPとなります。ギリギリ当落線上、ではありますが、ペニシリン系は投与量を増やせば感受性の低下に対応できる、ということで、肺炎球菌による肺炎治療の原則は、ペニシリン系抗菌薬の高用量投与が第一選択、と(ガイドラインでは)なっています。


基本的なガイドラインの考え方は、@患者さんを間違いなく治療する、A現在人類が手にしている抗菌薬という武器を、できる限り大切に使用し、次代まで使える状態で引き渡す、ということに尽きるかと思います。


そのためには比較的狭域で、古い(=安い)薬を、いかにうまく(使うべき場面で)使うか、ということですから、特にペニシリンをきちんと使う、ということが強調されているのです。


肺炎ガイドラインを最初から読む

トップページへ

posted by 長尾大志 at 18:47 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。