2012年09月11日

肺炎と抗菌薬〜3つのガイドラインの根底に流れる「共通の考え方」6〜市中肺炎の原因となる主な耐性菌・インフルエンザ菌・BLNAR

COPD患者さんでおなじみ、H.influenzae(インフルエンザ桿菌)。こちらも着々と耐性化が進んできています。


インフルエンザ菌は耐性化のパターンによって、以下のような名前がついています。

  • β-lactamase negative ampicillin sensitive:BLNAS

  • β-lactamase negative ampicillin resistant:BLNAR

  • β-lactamase positive ampicillin resistant:BLPAR

  • β-lactamase positive amoxicillin/clavulanate resistant:BLPACR


要はβラクタマーゼを産生するかどうか、ということ、それからペニシリンに耐性があるかどうか、ということで分類しています。βラクタマーゼを産生せず、ペニシリン(アンピシリン)に感受性がある、素直な菌がBLNAS。


ペニシリンGを改良したアンピシリン(ABPC)が、グラム陰性桿菌であるインフルエンザ菌(や大腸菌)にも有効となったわけですが、インフルエンザ菌はβラクタマーゼを産生する形質を獲得する(=BLPAR/BLPACR)ことでABPCの魔の手から逃れようとしました。


それらの菌に対して人類は、βラクタマーゼ阻害薬+ペニシリンの合剤、あるいは第2世代のセフェム系薬で対応していました。


ところが次に、インフルエンザ菌はβラクタマーゼ阻害薬に頼らずにABPCに耐性を持つメカニズムを開発しました。細胞壁合成酵素そのものが変化することで耐性を獲得したのです。それがBLNARであります。


ちなみにこのBLNARの出現は、経口セフェムという、スペクトラムが広くて一見便利ではあるけれども、実際血中濃度、局所濃度が上がらない抗菌薬が頻用されたことによって加速した、といわれています。


抗菌薬に充分量(MIC以上)接触すると菌は死滅していきますが、不充分な量であれば耐性を獲得させる手助けをすることになるのです…。


BLNARの出現により、第2世代のセフェムが(すべてのインフルエンザ菌に対してではないのですが)使い物にならなくなり、特に肺炎業界の抗菌薬シェアがぐぐっ、と変わるという結果になったのです。


私が研修医になった頃は、肺炎といえば古マリン、いやフルマリン(第2世代)花盛りで、シオノギのMRさんがずいぶん上級医と仲良くしておられたのを思い出します。あとパンスポリンも、最近滅多にお目にかからなくなってしまいました。


ガイドライン作成当時はβラクタマーゼ産生菌(BLPAR、BLPACR)の頻度が10%、BLNARの頻度が20〜30%程度にまで増加しました。



そのため、これらに有効な第3世代セフェム系薬が肺炎ガイドラインで取り上げられ、頻用されることになるのです。


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posted by 長尾大志 at 19:11 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説
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