2012年09月14日

肺炎と抗菌薬〜3つのガイドラインの根底に流れる「共通の考え方」9〜院内肺炎の原因となる主な耐性菌・(多剤耐性)緑膿菌

さて有名な緑膿菌ですが、特に病院内で感染・発症する機会が多いようです。その理由としては、

  • 他に有力な菌が蔓延っている間は増殖しない。

  • 強力な抗菌薬を使用されて他の菌が死滅すると勢力を伸ばす。

  • 院内において水回りの衛生管理・消毒が不完全になりがち。そういう環境を好む。



こういうところから、抗菌薬を使われがちな院内肺炎における重要な原因菌として取り扱われています。最近では多剤耐性緑膿菌が問題となっていることから、いかに「適切に」緑膿菌に対する治療を行うか、ということが抗菌薬治療のカギといっても過言ではない状況です。


「適切な」抗緑膿菌治療、基本的な戦略としては、

  • 緑膿菌が原因菌であることを確実に診断する。

  • 強力な抗菌薬を適切に使用し、確実に治癒を目指す。

  • 中途半端な治療、不適切な治療で耐性がつくことを防ぐ。

  • 緑膿菌が原因でない感染症に対しては、抗緑膿菌抗菌薬を使わない



特に昨今では、最後の項目がかなり大事なのです。

なぜか。


もうそれは、人類に残された「最終兵器」だから。

抗緑膿菌作用のある抗菌薬といえば、カルバペネム系、アミノグリコシド系、ニューキノロン系が中心ですが、この辺よりも新しい系統の抗菌薬は、開発すらなかなかされにくい現状があるのです。


このあたりも製薬会社の方針、昨今の世知辛い情勢など、いいたいことはありますが、それはまたの機会に。


多少大げさな言い方をお許し頂くならば、これらの薬剤が無効になれば、人類滅亡の危機につながる、そういう危機感を持って、私たちは抗菌薬を使っていきたいもの。


抗菌薬を使うと、大なり小なり、必ずその環境にいる菌が影響を受けます。具体的には、使った抗菌薬に感受性のある菌が死に絶え、耐性のある菌が生き残る。かろうじて生き残った菌が、その生き残りのワザを他の菌に伝え、その抗菌薬がだんだん効かなくなってくる…。


こうして、多くの抗菌薬がその翼をもがれ、地に落ちていったのであります。
代表が肺炎球菌に対するニューマクロライド。


私が医師になった当時はまだまだ効果があったはずなのですが…。小児の感染症に、比較的安全に使える、ということ、また、何となく(ここがポイント)線毛機能を改善させそうな気がする、ということなどから、中耳炎や副鼻腔炎、扁桃炎その他小児科領域で濫用されました。


それにより、今となってはスペクトラムから外れようか、というほど効かなくなってしまったのは有名な話です。


同じ轍をカルバペネムやキノロンに踏ませてはならない。アミノグリコシドはそれほど濫用されていないようですが、ペネムとキノロンは「何にでも効く」「便利な」薬です。




便利さを覚えると、人間、退化します。ずぼらになるのです。頭を使わなくなります。これは歴史が証明しています。


ウチにも多くの家電製品があります。電子レンジ、炊飯器、冷蔵庫、アイロン…このあたりは、さすがに無い時代には戻れないでしょう…食器洗い機、スチーマー、フードプロセッサー、フィッシュロースター…ここまでくると、「便利」ではあるけれども、いかにも家事能力が退化しそうではありませんか?いや、断じて嫁批判ではありませんが…(苦笑)。


原因菌をそう突き詰めて考えなくても、「とりあえずキノロン」でハズレ無し。耐性について評価しなくても「とりあえずペネム」で間違いない。


目の前にいる患者さんの治療としては、ハズレがなければいいのでしょう。しかし、人類の将来を考えたときに、果たしてそれでいいのか。抗菌薬を使うすべての医師が意識して頂きたい、こう思っているのです。




そのためには、使おうとしている抗菌薬が「緑膿菌に効くものかどうか」これぐらいは知っておきたいものです。少なくとも、緑膿菌感染の可能性が低い、そのような患者さんに「緑膿菌に効いてしまう」抗菌薬を投与しない、このような見識を求めたいと思います。


じゃあ、緑膿菌感染の可能性はどうやって判断するか。これは日米さまざまなガイドラインによって若干違いはありますが、日本の院内肺炎ガイドラインによりますと、以下のような項目がリスク因子として挙げられています。


  • 15日以上入院している。

  • 第3世代セフェム系抗菌薬を使用したことがある。

  • COPDなどの慢性気道疾患がある。



こういう人だったらすべてペネムOKか、まだです。詳しくは治療のところでお話しますが、重症度によっても「こうだったら広域」という基準があるのです。あくまで、「可能性を考慮」という段階なんですね。


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posted by 長尾大志 at 17:33 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説
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