2012年09月16日

ブランク考3・基礎研究などによるブランクと臨床医

先日の「ブランク考」にコメントを頂きました。なんか自分でも言いたいことが書き切れていなかった感がありますので、もう少し続けたいと思います。


K先生よりのコメント1(ここから引用)

2年でも相当きついわけですね・・・。
キャリアの途中で臨床を離れるなら、戻るときには一から研修医をやる覚悟でやれ、というお言葉を最近いただいたのですが、長尾先生のご意見とも一致しそうですね。

臨床研修制度開始以来、卒後教育はどんどん発展していますが、いろんな生き方を認めるように社会が変化する中、キャリア途中での再教育プログラムもニーズが増えてきそうですね。


(引用ここまで)


臨床を続けておられる先生は、たぶん皆さんそうおっしゃると思います。それほどまでにブランクというものは大きい。だからこそ、臨床を離れた別のキャリアを進むときには、少なくともそのときには「不退転の覚悟で」臨んでほしいと思うわけです。


キャリア途中の再教育にはすごく意味があると思います。ただし、それにはご本人の「一から研修医をやる覚悟」が必要条件でしょう。それを含めての「覚悟」というわけです。


コメントをくださったK先生はじめ、多くの先生方は、しっかりとした目的意識を持ってキャリアを考えておられるでしょう。でもまれではありますが、「臨床でずっとやっていくのも地味やし、なんか華やかな経歴がほしい。まあしばらくやって将来はまた臨床やったらいいわ」みたいな考えの方を実際にお見受けしたことがあるんですよ。


こういう考え方で行かれると、臨床に戻ったときも、やはり中途半端になってしまう。ある程度研修を積まれると、普通はかなり臨床力に自信がついてきます。「俺ってスゴイ」という錯覚?は、私にも3年目の夏頃ありましたし、実際その頃「もう臨床はやり尽くした」と言って基礎研究に行った人も何人もいました。


で、そういう人が数年経って、臨床に戻り、「自分にはこれだけのキャリアがある」というプライドばかり高くて全然使い物にならない、という現場も少なからず見てきました。


そういう人は、まず他人の指導、助言を頭から否定してしまうのですね。いや、「それは自分が習ったのと違う」「自分のやり方と違う」「あの時はこうだった」…素直に指導を受け入れる心がないと、再教育も難しいですね。



たぶんこれからは、キャリアの途中で出産、育児でブランクが開いた女性医師の方々が再就職、ということも増えてくるでしょうが、ブランクが開く、という意味では同じことです。


以前にも書いたかもしれませんが、出産・育児を経験されることは臨床医としての深みにつながる、大変貴重な経験です。できるだけ多くの女性医師の方に経験していただきたい(ですね、I先生、婚活頑張りましょう)。ですから、希望があれば、全力でサポートさせていただきたいと思っております。


他のキャリアを進まれても、もちろん、必ず臨床に還元されることはあります。ですから、後々臨床に戻ることになったら、「自分にはブランクがあって、そのハンデを取り戻すために初心に返ろう」という心がけをもって、謙虚に再研修を受けて頂きたいな、と思うのです。そうすれば、必ずや臨床医として立派になられるだろうと考えます。



若手先生からのコメント2(ここから引用)

まさに、これから基礎研究に入らなければいけない身分の者です。2年で戻れる保証はありません。
みんながやるから、先輩方がみんなやってきたから、という安易な考えでおりましたが、先生の御見識・御意見を拝見し、すっかりブルーな気持ちになりました。

実際、基礎実験のメリットややるのが当然だ、と話される先生もいれば、臨床医の研究自体を徹底的に否定する先生もたくさんおられ、いろんな意見があり、何が本当なのか、実際自分で判断しにくい状態の人も多いと思います。

そんな中、若手の教育にご熱心な先生の御意見を拝見でき、大変参考になりました。
ありがとうございます。

臨床医が臨床を離れて研究をすること、そしてブランクについて、さらにもう少し突っ込んだ記事も期待しています。


(引用ここまで)


色々な意見があるのは承知しております上で、私見、といいますか、私の周りでよく見聞きする一般論を申し上げます。


まず基礎研究について。臨床医が行う基礎研究というのは、基礎の先生方から見れば児戯にも等しい、といいますか、やはり基礎でずっとやっておられる先生方には、テクニックやその方面での知識面で、にわかの臨床医がかなうわけがありません。


それを承知の上で臨床医が基礎研究を行う意味。それはやはり、「臨床医の視点」「臨床医としての問題意識」だと思います。日々患者さんの診療に誠実に向き合えば向き合うほど、「なぜ」「どうして」「どうすれば」という問題意識が出てきます。そういう視点を持って研究されることで、研究がひと味違うものとなり、臨床に役立つ研究となるのではないか、と期待します。


また、臨床医個人としても、一定期間研究に従事することは意義深いことでしょう。


最新の英語論文を読む。ただ読むだけでなく、Methodsは妥当であるか、論理展開に問題がないか、批判的に読む癖をつける。自分で論理を組み立てていく。臨床をやっていく上でも必要なスキルを、研究をやっていく上で身につけることができます。


おそらくそのようなことを多くの先生方が言われているかと思います。何が正しい、ということではなく、立場によっていろいろなモノの考え方がある、ということもあるでしょう。


基礎研究をされることで生じる「ブランク」については、上に述べたとおりです。



私自身、他人様に誇れるようなキャリアは残念ながら全くありませんが、基礎?研究をやったことでそれまでとは論文の読み方が変わったことは実感しておりますし、2年のブランクあけに体が全く動かなく(比喩ですよ、比喩)なって苦しんだ経験もあります。


そんな私からの、私見というかメッセージ。たいしたものではありませんが、敢えて書きますとこんな具合でしょうか。


  • 臨床医として独り立ちできるには、(呼吸器内科医としては)5〜6年はかかります。

  • ブランクがあくと、それを埋めるには相当の覚悟と努力が必要。

  • しかしながら、新たな領域への挑戦は、大いに奨励されます。チャンスがあればそれもご縁。

  • どの領域に行っても、真剣に、全力で取り組みましょう。結局これがメッセージ。

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