2012年09月20日

肺炎と抗菌薬〜3つのガイドラインの根底に流れる「共通の考え方」12〜重症度分類・治療にどうかかわってくるのか。

発症の場、菌をどこでもらったかによって、肺炎の原因として想定すべき菌が異なる、そのために、発症の場別にガイドラインが決まっていることはご理解頂けましたか?


各々のガイドラインで次に行うべきこととしては、患者さんがどのくらい深刻な状況であるかを評価する、重症度の評価を行います。


評価した重症度の意味合いですが、市中肺炎の場合は、まず入院適応があるかどうかを判断するという、(特に専門外の医師が)現実問題として直面する問題の解決になる、大変有用な判定基準になっています。ですからこれは救急室で肺炎患者さんを診る可能性のあるすべての初期研修医が習熟してほしいところです。


もちろん重症度は予後予測因子でもあります。というよりむしろ、本来はこの重症度によって、予後を予測し治療に反映させる、という重要な役割を担っているのです。その一環として入院適応の判断も決められるわけです。


より重症と考えられる症例では、治療も待ったなし。従って、初期のエンピリック治療においては広域抗菌薬を使用せざるを得ない。使用すべき、ではないですよ。念のため(広域から入っても、培養結果などからde-escalationを考慮すべき、であることは言うまでもありません)。


また、医療・介護関連肺炎のガイドラインにおいては、重症度分類に加えて耐性菌のリスク因子を考慮に入れた「治療区分」という概念が使われていますが、これもやはり抗菌薬を選択するための分類になっています。


このように、重症度分類は、いずれのガイドラインにおいても、予後を予測し治療を決定する重要な指標となっているのです。



各々のガイドラインによって重症度を決める項目が微妙に異なるところが憎い、といいますか面倒なところですね。まあこれは、予後予測因子が市中肺炎か、院内肺炎かで異なるために仕方のないところではありますが…。


市中肺炎の重症度判定に使われるA-DROPシステムは、


A:Age(年齢)
D:Dehydration(脱水)
R:Respiration(呼吸)SpO2≦90%
O:Orientation(意識障害)
P:Pressure(血圧)


という項目を使用しています。これは、英国胸部学会が推奨するCURB-65とほぼ同じものなのですが、あらゆる実地臨床医を対象とし非専門医に広く使われることを基本理念とする我が国のガイドラインにおいて、CURB-65の「呼吸数」という項目は(非専門医にやって頂くには)無理があるため、むしろ最近はどこのクリニックにも置いてありそうなSpO2モニターによる計測値を項目に入れた、という経緯があるのでした。


しかしまあ、日本の臨床医は呼吸数を見ない、とガイドラインに明記されるって、かなり恥ずかしいことじゃないですかね。逆に、ガイドラインで「呼吸数を見よ!」って強調して、啓蒙しようという考えはなかったんでしょうか…


対して、院内肺炎ガイドラインはI-ROAD。


I:immunodeficiency(悪性腫瘍、または免疫不全状態)
R:Respiration(呼吸)SpO2>90%を維持するためにFiO2>35%を要する。
O:Orientation(意識障害)
A:Age(年齢)
D:Dehydration(脱水または乏尿)


順番とちょっとニュアンスが変わっただけで、ほとんど一緒やんけ、と思ったものです。
それなら語呂合わせも一緒にするのが、センスある語呂合わせってもんですが…。


まあ、ともかく、これの3項目以上に該当すれば重症群。


これに該当しない群は軽症、または中等症です。肺炎の重症度規定因子としてCRP≧20mg/dlと、胸部X線写真で陰影の広がりが一側肺の2/3以上、という、予後に影響を与えると調査で判明した2項目を満たすと中等症、満たさない場合を軽症としました。



市中肺炎と院内肺炎で共通するところを見てみると、年齢、脱水(某尿、血圧低下)、意識障害、呼吸状態(酸素化)が、肺炎の予後を決める、というところは間違いがなさそうです。少なくとも、救急室ではこれらの項目をササッと評価できるようになっておきたいですね。


医療・介護関連肺炎においては独特のシステムはなく、A-DROPやI-ROADを参考にして、重症度というか「治療区分」を主治医が決める、みたいなことになっています。


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posted by 長尾大志 at 17:39 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説
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