2012年09月24日

肺炎と抗菌薬〜3つのガイドラインの根底に流れる「共通の考え方」14〜抗菌薬の種類と特徴2・ペニシリン系抗菌薬1

「上級医はペニシリンなんて使ったこともない」「院内にほとんど無い」というアナタ!こそ、ペニシリンについて学ぶべきでしょう。かくいう私も、研修医の頃はほとんどペニシリンについて教えて頂いた記憶がない。そういう施設、今でも少なくないんじゃないかと思います。

そんな若い先生方に、ペニシリンについてよーく知っておいてほしいものですから、ペニシリンの歴史を少し紐解いてみたいと思います。


今回も、正確を期すために草加市立病院 健康管理課 医長の大澤先生によるスライドを大いに参考にさせて頂いて、お話を進めていきますが、ペニシリン、いや、抗菌薬を考える上では、歴史について知っておくととっても理解しやすいんですね。でも、いきなりあれもこれも…と歴史を羅列されるとしんどい。


ですので、端折るところは端折り、なるべく大事なところをピックアップしてお伝えしていこうかと思います。



ペニシリンはご存じの通り、最初に発見された、最も歴史の古い抗菌薬です。


まあ最初のそれがペニシリンG(PCG)。
これができた頃は、第二次世界大戦があり、多くの戦傷者を救ったと言われています。


細かいことはさておき、PCGはグラム陽性球菌、中でも連鎖球菌などによく効きますが、呼吸器領域で使う機会は少ないと思いますので、歴史的位置づけを確認するにとどめましょう。


で、当初ペニシリンはガンガン使われたわけですが、そのうちに問題が出てきます。まあ、要するに効かないケースが出てきたのです。


元々グラム陰性桿菌には効きませんし、ペニシリンを分解する酵素、ペニシリナーゼを産生する菌にもペニシリンはあまり効きません。加えて、黄色ブドウ球菌もペニシリナーゼを産生する性質をもつようになり、耐性化してきたのです。


抗菌薬は、普及しだしてからわずか数年以内に、「たくさん使って耐性獲得される」という事態を招いていたわけです。嗚呼、歴史は繰り返される。



そこで人類は、ペニシリンの「改良」に着手します。


■1つは、構造を変更してペニシリナーゼに分解されにくくする。

これの代表がメチシリン。何でか知らないけど、聞いたことがある、っていう人は多いのではないでしょうか。


それもそのはず、メチシリンは、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の名前の由来になったものです。メチシリンがダメなら全部ダメ、ということは、そんなにすげー薬なのか。


いやー実はそうでもないんです。まあそもそも、黄色ブドウ球菌用として作られたメチシリンですが、メチシリンを使い出して(例によって)ほどなく、メチシリンに耐性を持つように菌の標的部位構造が変化した、これがMRSAなんですが、たまたま、その構造変化によって、ほとんどの抗菌薬が効かなくなってしまったのです。たまたまとはいえ、メチシリンは「MRSAを生み出した」汚名を着せられ、退場となってしまいます。


副作用の問題もあり、この系統のペニシリンは、我が国では表舞台から姿を消しています。



■もう1つは構造を変更して、グラム陰性桿菌にも効くようにする。

いわゆる広域ペニシリンという範疇に入るペニシリンです。この中にも、緑膿菌に効くやつと効かないやつ、大きく分けて2種類あります。


ペニシリナーゼ(βラクタマーゼ)で分解されるので、ペニシリナーゼを産生する菌にはやはり効き目がありません。



■また1つは、ペニシリナーゼ(βラクタマーゼ)阻害剤を混ぜる。

上記の広域ペニシリンにペニシリナーゼ(βラクタマーゼ)阻害薬を混ぜたものです。そのためにペニシリナーゼ産生菌に対するスペクトラムが広がりました。元の広域ペニシリンに、上記のごとく緑膿菌に効くやつと効かないやつがあるため、こちらも同様、緑膿菌に効くやつと効かないやつがあります。

βラクタマーゼ阻害薬が入っても、緑膿菌に効かないやつは効かない、ということです。



明日から各論です。


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posted by 長尾大志 at 15:02 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説
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