2012年09月26日

肺炎と抗菌薬〜3つのガイドラインの根底に流れる「共通の考え方」16〜抗菌薬の種類と特徴4・ペニシリン系抗菌薬3・広域ペニシリン+βラクタマーゼ阻害薬

広域ペニシリンの弱点であった「βラクタマーゼに分解される」性質を補うべく、βラクタマーゼ阻害薬を配合して生み出されたペニシリン系抗菌薬は、現在肺炎治療においてかなり広く使われていると思います。それにはきちんと理由があるので、是非きちんと理解して使って頂きたいところです。



■緑膿菌に効かない広域ペニシリン+βラクタマーゼ阻害薬

  • スルバクタム+アンピシリン(SBT/ABPC:ユナシン・ユナシンS・スルバシリン)

  • クラブラン酸+アモキシシリン(CVA/AMPC:オーグメンチン・クラバモックス)



成人の肺炎に使われるのは、主に前者です。アンピシリンにβラクタマーゼ阻害薬であるスルバクタムを配合することによって、βラクタマーゼを産生するブドウ球菌や多くのグラム陰性桿菌、はたまた嫌気性菌にまで、一気にスペクトラムが拡大したのです。


こうなると、市中肺炎の原因菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌(MSSA)、モラクセラ、クレブシエラ、ミレリ・グループ、嫌気性菌)のほとんどにはOK、となりますよねー。万能万能。SBT/ABPCだけ覚えときゃいいじゃん…。



本当ですか???



こいつはどうですか?

Beta-Lactamase Negative Ampicillin Resistant。


βラクタマーゼに頼らず、アンピシリン耐性を獲得してしまったこやつ(インフルエンザ菌)には、効かないんじゃ…。


ハイ、その通り。


そういうわけで、耐性パターンとしてBLNARの多い地域で、インフルエンザを思わせる市中肺炎には、SBT/ABPCでの治療は失敗の可能性があるのです。


慢性呼吸器疾患があり、線毛機能が低下しているとインフルエンザ菌が定着しやすい素地になり、肺炎の原因となる可能性が高まる、その場合はSBT/ABPCが効かない可能性がある、ということです。



■緑膿菌に効く広域ペニシリン+βラクタマーゼ阻害薬

タゾバクタム+ピペラシリン(TAZ/PIPC:ゾシン)


こちらは、広域ペニシリンでも果たせなかった、緑膿菌に対するスペクトラムを獲得した、超広域のペニシリンにさらにβラクタマーゼ阻害薬を加えた、最強のペニシリンであります。当然、BLNARだって問題なし。


でもねー。緑膿菌に効く、ということは、これまでにさんざん書いてきたとおり、緑膿菌以外の感染症には使わない方がいい、ということであります。一般的な細菌に対してほぼ万能、カルバペネム的なスペクトラムを持っているため、「何だかよくわからない」「頭を使わず治療する」ときに使われがち。


心あるドクター諸兄におかれましては、努々そのようなことの無いよう、頭を使って感染症治療を行われるようにお願いしたいと思います。


だからゾシンについては、あまり詳しくは書きません…?


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posted by 長尾大志 at 16:22 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説
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