pH改善に乏しく、患者さんに疲労感が見られてきたため、担当医は鼻マスク人工換気を開始しました。開始後採取した血ガス所見は以下の通り。それでは解釈していきましょう。
pH PaCO2 PaO2 HCO3- BE
7.269 70.6 71.5 31.6 2.8
@pHは7.269、改善傾向ですね。その理由はAPaCO2が70.6と低下してきたから。人工換気が奏功してきているようです。ただし、まだまだ換気不全状態は続いています。BHCO3-は同様。まだ動くほどではないようです。
この時点では、COPDの急性増悪による換気不全と、Parkinson病の悪化による換気低下などが想定されたため、人工換気に加えて前者対策として全身ステロイド投与、後者対策として点滴でドパストン投与としました。そして翌日。
pH PaCO2 PaO2 HCO3- BE
7.254 61.3 84.6 26.5 -1.6
@pHは7.254。横ばいですが、APaCO2は61.3と回復基調にありますね。Bそのためか、HCO3-も低下傾向となっています。
そしてさらに翌日。
pH PaCO2 PaO2 HCO3- BE
7.462 44.2 86.8 30.9 6.4
お、どうですか。突然いい感じですね。
身体所見上も、この日からwheezeが軽減してきて、閉塞性障害が解除されてきた、という実感がありました。
@pHは7.462と改善、というかむしろアルカレミアとなっています。ナゼ??
APaCO2は正常範囲!なので、アルカレミアの原因は、HCO3-が増えすぎているからですよね。HCO3-が増えていたのはナゼかというと、PaCO2が高かったから、それを代償していたわけです。
Bそれが、PaCO2が急に低下しています。この理由はやはり閉塞性障害が解除されたからでしょう。つまり良くなったんですね。結果的には、Parkinsonの要素はほとんど無く、COPDの急性増悪がほとんど状態悪化の要因であったと考えられます。
ということで、解釈としては、
「全身ステロイドなどによる治療のため、閉塞性障害が解除されたことで、換気障害が軽快。そのため、PaCO2が急速に低下し呼吸性アシドーシスは改善したが、HCO3-は急に変化し得ないため、高値のままであり、代謝性アルカローシスが残っている状態。そのために結果的にアルカレミアになった。」
ということになります。
いやもう、ここまでできたら、立派なもんじゃないでしょうかね。そりゃ、もっときっちりした理屈はありますが、それは成書にお譲りしましょう。
酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシスを最初から読む
2012年10月11日
今日の症例・Parkinson病、COPDのある患者さんの急な悪化4・鼻マスク人工換気導入後の血液ガスの解釈
posted by 長尾大志 at 11:50
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| 酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシス
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