2012年10月30日

肺炎と抗菌薬〜3つのガイドラインの根底に流れる「共通の考え方」32〜肺炎治療の流れ3・市中肺炎に対するエンピリック治療の基本的考え方1・細菌性肺炎疑い例に対する外来治療

肺炎に限らず感染症診療を行う上で、検体、グラム染色、培養を採取しておくことはきわめて重要です。しかしながら必ずしも良質な検体(特に痰)を得られるわけではありません。そのように物的証拠がない場合、状況証拠から犯人を絞っていく、これがエンピリック治療ということになります。


それではいよいよ肺炎のエンピリック治療を行う上で知っておくべき、基本事項を学んで参りましょう。


肺炎の診断がついた。その治療を考える際には、まず重症度の判定をします。市中肺炎や医療・介護関連肺炎であれば入院すべきか、外来で治療をするかの判断材料になりますが、実はもっと大事なことは、「重症であれば待ったなし」であり、広域抗菌薬使用が許容される、という点にあります。


すなわち、市中肺炎であればPRSPやBLNAR、緑膿菌(や、はたまたレジオネラまで)もカバーする必要があり、医療・介護関連肺炎や院内肺炎であれば耐性緑膿菌(や、はたまたMRSAまで)をも当初からカバーしておく必要がある、ということになります。



そこまで重症ではない、仮に初期治療が外れることがあっても充分挽回が効く、という状態であれば、そこまで広域にカバーする必要はなく、肺炎の原因菌が入ってきた「場」にいがちな菌をターゲットにした治療で十分である、ということになるわけです。



そこを理解すれば、後はガイドラインを眺めるだけ。重症度を判断して、細菌性肺炎と非定型肺炎を鑑別したら、エンピリック治療の選択を行います。




■市中肺炎・細菌性肺炎疑い例の外来治療の場合

ガイドラインには以下のごとき「治療の目安」が載っています。

  • 1.基礎疾患、危険因子がない場合:(βラクタマーゼ阻害剤配合)ペニシリン系経口抗菌薬(高用量)

  • 2.65歳以上あるいは軽症の基礎疾患(糖尿病、腎疾患、肝疾患、心疾患)がある場合:βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系±マクロライド系またはテトラサイクリン系経口抗菌薬

  • 3.慢性の呼吸器疾患がある、最近抗菌薬を使用した、ペニシリンアレルギーのある場合:レスピラトリーキノロン系経口薬

  • 4.外来で注射を使用する場合:CTRX




細菌性肺炎疑い例の場合、PISPあたりまでを含む肺炎球菌が、まずはメインターゲット。


他に、喫煙者、COPD患者さんのように、線毛機能が低下していそうな方では(地域によって、BLNARまでを含む)インフルエンザ菌とモラクセラ、大酒家ではクレブシエラ、誤嚥にご縁がありそうな方は嫌気性菌、このあたりの菌を想定しておきます。


ただ、外来での治療ということになりますと、もちろん軽症であるのはその通りなのですが、入院と違って、治療後の経過を事細かに追うことができないという点で少〜し注意が必要です。


入院患者さんなら、翌日には呼吸数が減って、ラ音が改善して…と効果判定ができるわけですが、外来患者さんではそうは参りません。次回受診時は数日後であったり、場合によっては1週間後であったり。ことによると「良くならない」と他院に行かれたりして、再受診なし、もあり得るわけです。


ですからどちらかというと、エンピリックな場合には、広めのカバーを意識する場面もあろうかと思います。


まあ基礎疾患がなければペニシリン大量でよろしいかと思いますが、高齢、基礎疾患ありなど、症候がハッキリしない、あるいは少し後がない状態の患者さんであれば、非定型病原体、嫌気性菌などをしっかりカバーしたいわけです。


そうなると、βラクタマーゼ阻害薬を配合したペニシリンが良いとか、マクロライドやテトラサイクリンを併用するのがいいとかいう話になります。



続いての項目、慢性の呼吸器疾患がある、最近抗菌薬を使用したという患者さんの場合。回りくどい書き方をしていますが要するにBLNAR対策です。こうなると経口薬では(私の嫌いな)レスピラトリーキノロンになってしまいます。


他にペニシリンアレルギーのある場合にもレスピラトリーキノロン系経口薬、となっておりますが、誤嚥があるとかインフルエンザ菌でなさそうならCLDMでも良いわけです。


最後に、患者さんが事情でどーしても入院できない、何とか外来でいけそうだ、でも点滴をしておきたい、というワガママな状況では、1日1回点滴で効果のあるCTRXの出番です。特に前述のBLNAR対策が必要な場面では効果的と言えるでしょう。


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posted by 長尾大志 at 19:24 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説
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