問題を再掲します。
108A25
53歳の女性.持続する乾性咳嗽を主訴に来院した.2ヵ月前に感冒様症状が出現し,咽頭痛と微熱とは消失したが,乾性咳嗽が持続している.数日前から,動悸,息苦しさ及び下腿の浮腫を自覚していた.既往歴と家族歴とに特記すべきことはない.喫煙歴はない.意識は清明.身長157cm,体重57kg.体温36.5℃.脈拍112/分,整.血圧96/50mmHg.呼吸数20/分.SpO2 92%(room air).心音と呼吸音とに異常を認めない.左下腿に浮腫を認める.血液所見:赤血球480万,Hb 14.0g/dl,Ht 42%,白血球6,500,血小板26万.血液生化学所見:総蛋白7.4g/dl,アルブミン3.9g/dl,AST 20IU/l,ALT 12IU/l,LD 296IU/l(基準176〜353),尿素窒素10mg/dl,クレアチニン0.7mg/dl,CEA 25ng/ml(基準5以下).喀痰細胞診で悪性細胞を認める.胸部X線写真(肺野に腫瘤影あり)と胸部造影CT(肺動脈内に血栓あり)とを別に示す.
この患者にみられるのはどれか.
a PaCO2は上昇する.
b A-aDO2の開大を認める.
c 肺血流シンチグラムは正常である.
d 心エコー検査で左室の拡大を認める.
e 血液検査所見でDダイマーは正常である.
先日も書きましたが、担癌患者さんは凝固能が亢進しており、しばしば血栓症を合併することが問題になっています。これまでに出題はなかったようですが、今回ついに出題された、ということですね。
まずは診断です。
2ヵ月前に感冒様症状が出現し,咽頭痛と微熱とは消失したが,乾性咳嗽が持続しているという症状から、ある程度慢性の疾患の存在が想定されます。加えて、数日前から動悸,息苦しさ及び下腿の浮腫を自覚、というところは、急性のepisode。
すなわち病態としては慢性疾患の急性増悪、または慢性疾患に急性疾患が合併した、と考えられます。
バイタルサインを見ますと、体温36.5℃とほぼ平熱で、急性感染症の気配はない。脈拍112/分と頻脈で血圧は96/50mmHgと低め、循環系に何らかの問題があることを示唆します。
呼吸数20/分と少し早め。SpO2 92%(room air)は明らかに低いです。心音と呼吸音とに異常を認めないとしているのは、明らかな心不全、肺炎ではないということでしょうか。
検査データを見ていくと…CEA 25ng/ml(基準5以下)と腫瘍マーカーの高値があり、さらに喀痰細胞診で悪性細胞を認める!という記載が。まあこれで癌は間違いなし、ということになります。ああそうか。慢性にあった疾患はこれだな、ということですが、では、急性の症状をどう考えるか。
手がかりは画像所見しかありません。まあしかし、肺動脈内に血栓のある画像は見ればわかります。100A19の問題などで必ず確認しておきましょう。
ということで、肺癌+肺血栓塞栓症の診断自体は、それほど難しくはありません。ただ、一度こういう「悪性腫瘍に血栓」という問題が出た以上、今後はこの関連を前提条件とした問題が出題される可能性があります。
つまり、悪性腫瘍があって、急に生じた胸痛と呼吸困難、といわれたら「肺血栓塞栓症」と答えていただかなくてはならないのです。臨床的にも増えてきており、緊急性もあることからとっても重要なポイントです。
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2014年02月17日
第108回医師国家試験呼吸器系問題解説・悪性腫瘍とアレ・解答と解説
posted by 長尾大志 at 16:24
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