2024年12月01日

シン・COPD15 COPDの薬物治療

結局のところ、吸入の気管支拡張薬にはLAMAか、LAMA/LABAか、LAMA/LABA/ICSしか選択肢がありません。GOLDはちょこちょこ改訂しますが、「改定のための改訂」みたいなところもありますので、非専門医でも薬剤の選択をしやすいよう、もう少しシンプルになりませんか? ということで、日本のCOPDガイドライン第6版では、下記の通りシンプルなアルゴリズムにしてくださっています。

A 喘息病態非合併例
@一過性の息切れ、または咳・痰がある場合、まず必要に応じてSABA、あるいはSAMAを頓用
A日頃からの息切れと慢性的な咳・痰があればLAMA(あるいはLABA)
B症状の悪化あるいは増悪があればLAMA/LABA(テオフィリン、喀痰調整薬の追加)
Cさらに頻回の増悪があればLAMA/LABA/ICS(+テオフィリン、喀痰調整薬)
  ここにマクロライド系抗菌薬追加も挙がってきます。

B 喘息病態合併例
(ACOの基準を満たす、あるいは末梢血好酸球数≧300/μL)
@一過性の息切れ、または咳・痰がある場合、まず必要に応じてSABA、あるいはSAMAを頓用
A日頃からの息切れと慢性的な咳・痰があればICS/LABA(あるいはICS/LAMA)
B症状の悪化あるいは増悪があればICS/LABA/LAMA(テオフィリン、喀痰調整薬の追加)
Cさらに頻回の増悪があればマクロライド系抗菌薬追加(+テオフィリン、喀痰調整薬)

日常臨床であれば、これで十分だと思います。最近、喀痰調整薬であるN-アセチルシステイン(ムコフィリンⓇ)やカルボシステイン(ムコダインⓇ)、アンブロキソール(ムコソルバンⓇ)、そしてマクロライド系抗菌薬であるエリスロマイシンといった薬剤にも増悪を減らすなどのエビデンスが認められてきていますので、これらの併用は理にかなっています。

なお、上記の薬剤はこんな合併症があると使いにくいので注意が必要です(使えないわけではない)。
•LAMA:閉塞隅角緑内障、前立腺肥大
•LABA:心不全、頻拍性不整脈
•ICS:肺炎/感染症

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posted by 長尾大志 at 11:57 | Comment(0) | COPDポイントレクチャー

2024年11月25日

シン・COPD14 喘息との鑑別、合併(ACOを添えて)

COPDと喘息を鑑別する、言うは易く行うは難し。まあ、典型例はいいんです典型例は。

典型的な喘息の特徴
慢性の咳や喘鳴が比較的若い頃から繰り返す
変動性・気道過敏性がある
気道可逆性試験(β2刺激薬やICS/LABAの吸入で改善するかどうか)に反応する

典型的なCOPDの特徴
重喫煙者・持続的進行性・LAMA
高齢の重喫煙者
やせ型・やせが進行
徐々に増悪する慢性の咳、痰、労作時呼吸困難

これら典型的な特徴があれば、診断に迷うことはそれほど多くないのですが、慢性でリモデリングバリバリの喘息(変動性が目立たなくなる)と、気道過敏性のあるCOPDはしばしば鑑別困難です。というか、しばしば喘息とCOPDは合併するのでその場合、鑑別は無理です。ではどうするか。

実際問題、急性期治療はどちらも似ているので、SABA+全身ステロイド+感染徴候(喀痰の膿性化とCRP≧4mg/dL)あれば抗菌薬……で多くの場合は対応可能です。問題になるのは安定期治療をどうするかです。

といっても、喘息/COPDの主な治療薬はICS・LABA・LAMA。この使い分けで重要なのは「喘息のある症例に、ICSなしでLABAを使ってしまうと明らかに悪化するため、少なくとも喘息の要素があればICSを使うべき」ということです。

そこで、喘息の要素があるCOPD=喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap:ACO)をしっかり診断する、という目的で『ACO診断と治療の手引き』が作られた、と解釈していますが、あながち外れてはいないでしょう。

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2024年11月21日

シン・COPD13 COPDの診断と評価

まずは正しい診断

COPDはほとんどの場合、病歴から目星がつきます。COPDの原因は主にタバコ煙ですから、現在日本においてはCOPDを疑う病歴として、喫煙歴が極めて重要です。臨床現場ではひとまず「喫煙歴があればCOPDの可能性を考慮する」「喫煙歴のある40歳以上の成人で、労作時の呼吸困難・息切れや慢性の咳痰がある場合にはCOPDを積極的に疑うべきである」という態度で間違いありません。高齢の喫煙者で、徐々に進行する労作時呼吸困難、咳、痰があれば、ほぼ当たりです。

身体所見では、ビア樽状胸郭、呼吸数増加と口すぼめ呼吸、呼吸音減弱。さらに重症の指標である、気管短縮、胸鎖乳突筋の発達、吸気時の鎖骨上窩陥凹、吸気時の頚静脈虚脱があれば、間違いないでしょう。これらの所見はなくても否定はできませんが、あればCOPD(しかも重症)の存在を強く示唆します。

スパイロメトリーで1秒率<70%と閉塞性障害を認め、胸部X線写真で過膨張所見(横隔膜平低化、滴状心)を確認します。定義上は、肺機能で閉塞性障害を確認し他疾患の除外を行ったら診断確定です。他疾患とはどんな疾患でしょう。

・気管支喘息
・びまん性汎細気管支炎・副鼻腔気管支症候群・気管支拡張症
・閉塞性細気管支炎(bronchiolitis obliterans:BO)
・リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis:LAM)
・じん肺症
・肺結核

これらのうち、多くの疾患は胸部X線写真で所見を認めるため、正しく読影すれば除外可能です。胸部X線写真で確認できないものとして、BOとLAMがありますが、これらは病歴やCT所見で確認可能です。ということで、最後に「鑑別すべきもの」として残るのが気管支喘息ということになります。

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posted by 長尾大志 at 22:03 | Comment(0) | COPDポイントレクチャー

2024年11月19日

シン・COPD12 COPD患者さんの身体所見があんな感じになる理由

COPD(肺気腫)の本質は、肺胞の破壊。それによって(細)気管支の支えが失われた結果、吸った空気がなかなか出て行けなくなります。結果、肺の中に空気がたまり、肺がだんだん伸びて(膨張して)きます。

肺が膨張(過膨張)することで、独特の身体所見が見られるようになります。有名なところでは、樽状胸郭、濁音界低下、滴状心、気管短縮、呼吸音減弱、口すぼめ呼吸などがありますが、そうなる理由はご存じでしょうか? 理由を理解することで、これらの変化がスンナリと頭の中に入ってきますよ。

・(ビア)樽状胸郭
COPDでは呼気時に気道抵抗がかかって、なかなか空気が出て行かないために、胸郭は頑張って肺を圧します。ところが肺はなかなか縮まないので、胸郭との間で押し合いになるわけです。その場合、胸郭の一部に重点的に圧力がかかるのではなく、全体的に均等に圧がかかって外向きに圧されます。

均等に圧力がかかって膨らむと、胸郭は上から見たときに円形に近づきます。結果、前後径と左右径が等しくなって、樽のような形になるのです。

・打診で濁音界低下、滴状心、心尖拍動が心窩部に移動、頚部気管の短縮、
過膨張になると肺が下方向にも伸びて、横隔膜を押し下げます。その結果、濁音界は低下します。また、横隔膜が下がると、そこに乗っかっている心臓は立ってきて、水滴のように左右対称に見えます(滴状心)。心臓が立ってくると、心尖部は内側・下側に移動し、心尖拍動が心窩部で触れるようになります。COPD患者さんにはやせ形の方が多いため、心尖拍動は容易に触れることができる、というか、肉眼でも観察できるようになるのです。

また肺が下の方に膨らんでいくときに、気管〜気管分岐部〜肺門部全体がその肺の膨らみに合わせて下に引っ張られます。そのために頚部に見えている気管の長さが短くなってくるのです(気管短縮)。

・呼吸音減弱、打診で鼓音
進行したCOPDでは肺胞が破壊され、空気の出入りそのものが少なくなります。また、気管支で発生した呼吸音が伝達する際に、肺内に空気成分が増えてくると伝達が悪くなり、胸壁で呼吸音が聞き取りにくくなります。すなわち、呼吸音が減弱します。
空気成分が増えたことで、打診でトントン叩くと中空の感じで、よく響くようになります。太鼓のような音、という意味で「鼓音」と呼びます。鼓音は健常者でも胃泡の上で叩くとよくわかりますので、ご自分で確認しておきましょう。

・口すぼめ呼吸
COPDでは肺胞が破壊され失われることで、呼気時に肺が圧されると細気管支(末梢の気道)が閉塞して、空気が出ていきにくくなります。
呼気時に口をすぼめると出口で抵抗がかかり、気道内の圧力が上昇します。太い中枢の気道から細い末梢気道内まで、ずっと圧力が上昇しますから、細気管支の閉塞(虚脱)が少しは軽減されることになるのです。

COPD患者さんは経験的にこうやると息を吐きやすくなることを実感していて、特に教わらなくてもやっておられることが多いのです。

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posted by 長尾大志 at 16:21 | Comment(0) | COPDポイントレクチャー

2024年11月18日

シン・COPD11 1秒率(FEV1%)と%1秒量(%FEV1)は別物

昨日は安静換気で測定する肺機能検査について述べました。ここでは、「思いっきり強く吹いたときの=努力性」肺機能検査について述べます。これは、息をいっぱいに吸い込んだ最大吸気位から、できるだけ早く最大呼気位まで息を吐ききる努力をしたとき(強制呼気時)の値です。

・努力肺活量(forced vital capacity:FVC):息をいっぱいに吸い込んだときから、できるだけ早く息を吐ききる努力をしたときの、最大吸気位と最大呼気位の差を努力肺活量といいます。
普通の肺活量(VC)との違いは、息の吐き方の違いです。ゆっくり目に吐くか、できるだけ早く、勢いよく吐くか。出入りできる空気の量は、吐き方が変わっても同じはずですから、普通はFVC≒VCになるはずです。
ところが、痰や狭窄などで気道が閉塞していたりして、息を吐くときに抵抗があると、できるだけ早く息を吐ききる努力をすればするほど、気道の抵抗が増して吐ける空気の量が少なくなります。つまり、FVC<VCになります。

・1秒量 (FEV1) :息をいっぱいに吸い込んだときから、できるだけ早く息を吐ききる努力をしたときに、最初の1秒間に吐き出せた空気の量を1秒量(forced expiratory volume in 1second:FEV1)といいます。
1秒量が適正な数字かどうかを判断する指標は2つあります。
@1秒量が健康な人(理想値)に比べてどうか=予測値に対する1秒量(%FEV1)
A努力肺活量に対する1秒量の割合=1秒率(FEV1%)
この2つの指標は非常に紛らわしいもので、私の感触だと学生さんの80%以上が誤解されています。

・予測値に対する1秒量(%FEV1):%VCと同じ考え方で、性・年齢・身長から求めた標準1秒量に対する測定値の割合です。1秒量が健康な人(理想値)に比べてどうかを表し、COPDの重症度を見るのに使います。たとえば、%FEV1が50%未満の場合、閉塞の度合いは重症になります。

・1秒率 (FEV1%) :努力肺活量に対する1秒量の割合、つまり、息をいっぱいに吸い込んだときから、できるだけ早く息を吐ききる努力をしたときに、最初の1秒間に何%吐けたかを表す量です。この値が70%未満の場合、閉塞性障害といいます。
つまり、1秒率はそもそも病気かどうかを評価するのに使うのに対し、予測値に対する1秒量は、(障害があるという前提で)障害の強さを表すのです。

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posted by 長尾大志 at 16:20 | Comment(0) | COPDポイントレクチャー

2024年11月16日

シン・COPD10 今さら人に聞けない?肺機能の項目

1回換気量(tidal volume:TV):「換気量」とは、呼吸によって肺に出入りする空気の量です。1回の呼吸で肺に出入りする空気の量を1回換気量といいます。健康な人のおおよそのTVは、体重1 kgあたり10mL。体重60kgの人なら600mLになります。

1回換気量 (TV) = 体重 (kg) ×10 (単位:mL)

分時換気量 (minute volume:MV) :1分間に肺に出入りする空気の量のことを分時換気量といいます。単純な掛け算で求められます。

分時換気量(MV)=1回換気量(TV)×呼吸回数(1分間に12〜20回)

体重60  kgの人なら、600 ×12〜20=7200〜12000 mLとなります。一般的に「換気量」といいますと、MVのことを指します。

肺機能検査で測定する項目(ゆっくりと息を吸って吐く、安静換気肺機能検査)

最大吸気位:息をいっぱいに吸ったところの位置。

最大呼気位:息を限界まで吐いたところの位置。いうまでもないことですが、限界まで吐いても、肺の中には少し空気は残っています。ゼロにはなりません。

全肺気量(total lung capacity:TLC):最大吸気位で、肺の中に存在するすべての空気量を全肺気量といいます。肺の大きさを表します。

肺活量(vital capacity:VC):最大吸気位と最大呼気位の差を肺活量といいます。これは、肺の中に実際に出入りできる空気の量を表しますので、肺の伸び縮みがきちんとできているかがわかります。

予測値に対する肺活量(%肺活量:%VC):性・年齢・身長から求めた標準予測値VCに対する測定値の割合。80%未満は拘束性障害といい、肺が伸びる、あるいは縮むことができなくなっている状態を表します。

残気量(residual volume:RV):息をいっぱいに吐いたときに気道や肺の中に残っている空気の量を残気量といいます。これは、肺の中にあるけれども、呼吸には関係のない、「ムダな空気」の量を表します。

TLC=VC+RV という関係がありまして、
これをCOPD・肺気腫の病態に当てはめると、
•息を吐ききれない、息を吐ききったあとも空気が残る
  右矢印1 残気量が増加 = ムダな空気が増加する
•少しずつ吐ききれない空気がたまってきて肺が伸びる
  右矢印1 全肺気量の増加、過膨張、横隔膜平低化 = 肺が大きくなる

あわせると、「肺気腫になると、肺内にムダな空気が溜まり、肺がムダに大きくなる」と言えるかと思います。

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posted by 長尾大志 at 23:22 | Comment(0) | COPDポイントレクチャー

2024年11月15日

シン・COPD9 なぜ、気腫肺があると閉塞性障害になるのか?

前項で正常肺の素晴らしい仕組みを理解していただきましたが、気腫肺になると、この見事な機構が破壊されるために、閉塞性障害が起こります。

具体的には、タバコによって肺胞壁のプロテアーゼ(蛋白分解酵素)が活性化され、肺胞がほんの少しずつ「溶けてなくなる」ことで、肺の中に穴が開いてきます。これを「気腫」といいます。

気腫が進行すると、細気管支を支えていた肺胞(の壁に存在する弾性線維)が消失します。すると、呼気時に肺が収縮したときに、細気管支は支えを失い、ぺちゃんこに閉塞するのです。

このように気腫性病変によって、COPD患者さんは息を吸うのは吸えるが、吐くときに困難を感じる、つまり呼気時呼吸困難となるのです。

また、タバコによって気管支粘膜の炎症が生じ、気道分泌物・粘液の増加が起こります(気道病変)。加えて迷走神経を介したアセチルコリンによって可逆性に気道が収縮することでも気道閉塞の原因となります。

というわけで、COPDになると以下のような肺機能の変化が起こります。

•息を吐ききれない、息を吐ききったあとも空気が残る ⇒ 残気量が増加
•少しずつ吐ききれない空気がたまってきて肺が伸びる ⇒ 全肺気量の増加
•勢いよく吐こうとすると(すればするほど)気道が閉塞して吐けない ⇒ 1秒量、努力肺活量の低下

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posted by 長尾大志 at 12:32 | Comment(0) | COPDポイントレクチャー

2024年11月12日

シン・COPD8 正常肺の素晴らしい仕組みを理解する

COPDになると、「閉塞性障害」になる。そう機械的に覚えていませんか? 機械的な記憶は、記憶が薄れてくると間違いの元。閉塞性と拘束性を間違えたり、所見を間違えたりとか。一度心の底から理解しておけば、間違いも減るというものです。

なぜ、気腫肺があると「閉塞性障害」になるのでしょうか。それを理解するためには、正常肺の素晴らしい仕組みを理解しなくてはなりません。

まず正常な呼吸を考えましょう。吸気時は、横隔膜や呼吸補助筋(吸息筋)が収縮することで、胸郭が外向きに引っ張られ、その結果、胸腔内の圧力が低下し、肺がふくらむことで空気が肺内に取り入れられます。呼気時には逆に、横隔膜はじめ吸息筋が弛緩し、伸びた肺が縮もうとする力(弾性収縮力)によって空気が押し出されます。

空気の出入りは気管〜気管支〜細気管支(気道)を通ってなされるわけですが、一番端っこの細気管支は直径が0.5 mmと、きわめて細いものです。肺の伸び縮みに伴って気道が容易に伸び縮みされるようでは、息を吐くときに気道がぺちゃんこになってしまって困るわけです。

でも安心してください、履いてますよ!人間の身体はうまくできています。呼気時に気道がぺちゃんこにならない仕組みがあるのです。気管〜太い気管支では軟骨の支えがあり、気道の形を保ちます。細い気管支では、周りの肺胞(の壁に存在する弾性線維)が常に少し縮もうとして、気管支を常に外向きに引っ張っています。

肺が縮むときには、常に縮もうとしている肺胞が縮むことで、肺胞内の空気が押し出され、気道の直径が保たれるのです。肺気腫が生じると、この見事な機構が破壊されるために、閉塞性障害が起こります。

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posted by 長尾大志 at 13:48 | Comment(0) | COPDポイントレクチャー

2024年11月10日

シン・COPD7 改めてCOPDの定義

というわけで?ちょっと急いでCOPDのお話をまとめる必要が出て参りましたので、少し挟んで参りたいと思います……といいますか、2年前にCOPDの話を始めたと思ったらナニカが挟まった、その続きということになります……てことでその7から再スタートです。


COPD(chronic obstructive pulmonary disease:慢性閉塞性肺疾患)とは、主にタバコ煙などの有害粒子を長期間吸入することによって生じる、閉塞性障害を呈する疾患です。病態は大きく分けて2つ。

@ 肺胞領域に炎症が生じ、その結果プロテアーゼ賦活、酸化ストレス等が引き起こされて肺胞隔壁が徐々に障害され、いつのまにか消失してしまうという気腫性病変。
A 気管支粘膜の炎症によって杯細胞や粘液栓の増生、分泌物・粘液の増加が起こる気道病変。

以前は@を肺気腫(気腫)、Aを慢性気管支炎、という病名で呼んでいましたが、いまではそれらを含んだ名称「COPD」が一般的に用いられています。気腫、という言葉は病理学の領域や胸部画像、特にCTで使われる用語として残っていて、気腫になった肺のことを気腫肺、といったりもします。

COPDと一口に言っても、気腫と気道病変は均等に生じるものではなく、気腫が優位なもの(気腫型)、気道病変が有意なもの(非気腫型)がありますが、日本人には気腫型が多く、典型的な身体所見や画像所見を呈するのも気腫型であることから、ここでは主に気腫型COPDのメカニズムについて説明します。

COPD(気腫型)には特有の身体所見、検査所見がある、とはいうものの、いちいち覚えるのは大変だし、覚え違いも多いものです。でも、「なぜ」そのような所見が見られるのかを理解すれば、さまざまな事柄をバラバラに覚える必要はありません。すべては「肺胞壁が徐々に破壊される」ことから有機的に理解できるのです。

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2022年09月12日

シン・COPD6 CO2ナルコーシス

COPDのように「気道が閉塞して呼気に抵抗が生じる」疾患では、病初期には少しばかり無理をして換気を増やすことで、二酸化炭素は特に問題なく保たれていると。それが、何十年もその状態でありつづけると、呼吸のたびにしている「少しの無理」が蓄積されてだんだん無理が利かなくなり、横隔膜をはじめとする呼吸筋の疲労、中枢化学受容器反応の鈍化などによって、少しずつ換気量が減ってくるのです。

中枢化学受容器の反応が鈍っている状況においては、末梢化学受容器(低酸素の刺激で呼吸を促す)が、なんとか頑張って呼吸をさせ、バランスを保っているのですが……。

そんな状態のところへ急に高流量の酸素を投与すると、低酸素の刺激で頑張っていたのが、突然その刺激がなくなってしまうわけで、結果、換気(呼吸)が抑制されて高二酸化炭素血症、低酸素血症となり意識障害を来すのです。このような状態をCO2ナルコーシス、と呼びます。

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2022年09月07日

シン・COPD5

喘息が慢性になり、立派にリモデリングができてしまうと、喘息の特徴である変動性(症状が全くなくなる時間帯や期間がある)が目立ちにくくなります。

また喘息の喫煙者にCOPDが発症する、ということもあるため、鑑別・除外がしばしば困難になるのです。

他には心不全も高齢者に多く、咳・痰・呼吸困難といった症状がCOPDと似通っており、これまたしばしば合併例もあることから、鑑別に苦慮するケースも少なからず見受けられます。


今日はこれから看護学校さんで講義があります。バタバタしております。

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2022年09月06日

シン・COPD4

日本呼吸器学会閉塞性肺疾患学術部会作成された「COVID-19流行期日常診療におけるCOPDの作業診断と管理手順」は、もちろん昨今のCOVID-19流行を踏まえて作成されたのですが、このプラクティス自体は(COVID-19流行にかかわらず)スパイロメトリー施行が困難な場合にも適用することが可能であるため、結果的に非専門医の先生方や家庭医・開業医の先生方のCOPD診断に大きく寄与することが期待されています。

その流れとしては、日常診療(検診などでのスクリーニングも含む)で喫煙歴を有する50歳以上のもの(既喫煙者を含む)に対してCOPD-Q(引用)もしくはCOPD-PS(引用)質問票を使用した問診を行い、総合点が4点以上ある場合COPDを疑って胸部X線検査および血液検査を実施します。

どちらの質問票を用いても、要はCOPDに特徴的な情報を拾い上げる項目について質問します。

上記質問票に含まれる項目としては、年齢、喫煙本数以外に、湿性咳嗽の有無、同年代の人と比較した息切れのしやすさ、労作時の喘鳴(COPD-Q)、過去4週間の息切れの頻度、湿性咳嗽の有無と頻度、呼吸に問題があることで以前に比較して活動しなくなったかどうかの自覚(COPD-PS)があります。

またこの手順において、COPD診断において除外すべき疾患として、喘息、気管支拡張症、間質性肺疾患、肺癌、肺血栓塞栓症などが挙げられています。このうち胸部画像で所見が見られるものは、HRCTを撮影すれば除外可能ですが、特段の所見を呈するものではない、気管支喘息とCOPDの鑑別は時に困難なものです。

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2022年09月05日

シン・COPD3

COPDを出来る限り早期に発見し、何が何でも禁煙をしてもらい、さらには出来る限りの介入を行うことが極めて重要なのですが、残念ながらこれまでの日本呼吸器学会によるガイドラインでは、COPDの診断基準として「気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーによる1秒率70%未満=閉塞性障害」を金科玉条のごとく示す必要がありました。

特に開業医の先生方や非専門の先生方のご施設で、スパイロメトリーを、気管支拡張薬吸入後に行う、というプラクティスは無理があり、COPD診断〜治療が普及しない1つの原因となっていたことは間違いありません。特にコロナ禍では専門施設であっても感染予防の観点から、飛沫が発生する(と見做される)呼吸機能検査が避けられるようになり、ますますCOPD診断のハードルが上がったのでした。

その対策として、日本呼吸器学会閉塞性肺疾患学術部会が「COVID-19流行期日常診療におけるCOPDの作業診断と管理手順」を作成し、2021年に公開されました。

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2022年09月01日

シン・COPD2

COPDの原因は主にタバコの煙ですから、現在日本においてはCOPDを疑う病歴として、喫煙歴が極めて重要です。

高齢の喫煙者のうち約50%、特に60pack-years(喫煙指数で1200)以上の喫煙者で、約70%にCOPDが認められることがわかっています。逆に喫煙者のうちCOPDの発症率は15〜20%程度とされています。

そういうわけで、臨床現場ではひとまず
喫煙歴があればCOPDの可能性を考慮する
喫煙歴のある40歳以上の成人で、労作時の呼吸困難・息切れや慢性の咳痰がある場合にはCOPDを積極的に疑うべきである
という態度で間違いありません。

2022年時点で、COPDの病態そのものに対しては決定的な治療薬は存在せず、肺病変の進行を遅らせる唯一の手立てが禁煙です。またCOPDは高齢者に多く、併存疾患が複数存在することも多いものです。そのため出来る限り早期にCOPDを発見し、何が何でも禁煙をしてもらい、さらには併存疾患も見据えての呼吸リハビリテーション、セルフマネジメント教育などの介入を行うことが極めて重要なのです。

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2022年08月31日

シン・COPD1

ちょっといろいろと立て込んでまいりました。いろいろ複雑な事情から、ちょっとの間画像記事はお休みとさせていただきます。

以前にも「COPDポイントレクチャー」としてCOPD特集をしたことがありますが、ずいぶん時間が経過し、またガイドラインの改訂も重ねられていることから、改めてこちらでCOPDを取り上げてみます。

COPD(chronic obstructive pulmonary disease:慢性閉塞性肺疾患)とは、主にタバコ煙などの有害粒子を長期間吸入することによって生じる、閉塞性障害を呈する疾患です。病態は大きく分けて2つ。

@肺胞領域に炎症が生じ、その結果プロテアーゼ賦活、酸化ストレス等が引き起こされて肺胞隔壁が徐々に障害され、いつのまにか消失しているという気腫性病変。
A気管支粘膜の炎症によって杯細胞や粘液栓の増生、分泌物・粘液の増加が起こる気道病変。

以前は@を肺気腫(気腫)、Aを慢性気管支炎、と呼んでいましたが、いまではそれらを含んだ名称「COPD」が一般的に用いられています。気腫、という言葉は病理学の領域や胸部画像、特にCTで使われる用語として残っています。

COPDと一口に言っても、気腫と気道病変は均等に生じるものではなく、気腫が優位なもの(気腫型)、気道病変が有意なもの(非気腫型)がありますが、日本人には気腫型が多く、典型的な身体所見や画像所見を呈するのも気腫型です。

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posted by 長尾大志 at 18:17 | Comment(0) | COPDポイントレクチャー