2025年03月21日

気胸について、最新ガイドライン3・続発性自然気胸

これまでに述べた「無症状なら経過観察でもOK」「症状があっても針穿刺吸引でOK」というプラクティスは原発性自然気胸、すなわち若年男性に多い、基礎疾患や原因となる出来事のない気胸の場合です。

でも、特に高齢化が進んでいる地域医療の現場では、もはやそのような原発性自然気胸を診療する機会は少なく、COPDはじめとする肺疾患が基礎にあるような、続発性自然気胸を見る機会の方が多いわけです。

では続発性自然気胸の場合にはどうするのがよいか、といいますと、これは残念ながら、無症状の場合であっても保存的治療「経過観察」を推奨するだけの十分なエビデンスがない、ということになっています。また、有症状の場合に針穿刺吸引とドレナージを比較した質の高い論文もまだないようです。

これらの理由はおそらく続発性自然気胸の場合、エアリークが持続するケースが多いのではないか、と推察されますが、少なくとも初期治療に小口径 (8 Fr) の携帯型デバイスはトラブル(閉塞など?)が多く、これを使用しないことが推奨されています。

トップページへ

posted by 長尾大志 at 20:14 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2025年03月20日

気胸について、最新ガイドライン2・胸腔ドレナージ vs 針穿刺吸引法

自覚症状がなく、画像的臨床的に安定している原発性自然気胸に対しては、経過観察でも8週後の状況が非劣勢である(≒経過観察でよい)、ということでしたが、症状のある気胸に対してはいかがでしょうか。

件のガイドラインでは、症状のある原発性自然気胸に対する初期治療として、胸腔ドレナージよりも針穿刺吸引法の方が強く推奨される、とされます。ただしこれは専門知識とフォローアップのシステムを備えたセンターに対する条件付き推奨ということであり。そのまますべての本邦の医療機関に適用できるものではないことに注意が必要です。

根拠となったRCTも6件と多く、メタ解析では針穿刺がドレナージよりもLOSが2日余り短く合併症も少ない、まあ針の単回穿刺と管を入れておくドレナージでは、入院期間であったり、いろんな合併症の発生割合であったりが異なるであろうことは自明ではあります。

またどの研究もサンプルサイズの点や盲検ではないことなど、研究の妥当性について問題を抱えており、そのため確実性は低いものの(明らかに差があるため)推奨は強い、という物言いになっています。

続発性自然気胸のサブグループを検討しても、入院期間は針穿刺群が明らかに短く、成功率は高かったとのことです。


まあこちらも、そりゃそうか、という結果ですね。症状のある気胸に対して、ドレナージがよいか針穿刺吸引がよいか、についてはこれまでも確たる方針は示されておらずフニャフニャした感じでした。ただ臨床上、入院で患者さんを診るのであれば、針穿刺吸引ではエアリークがあるかどうかわからないため、細かく診るには不適かなあ、と思っていたところです。

たぶん彼方の方々は、エアリークがあろうがなかろうが、とりあえず穿刺吸引しておいて、しばらく経って再膨張しておればよし、再発(再収縮)しておれば再度穿刺吸引、という感じでやられているようですね。外来メインで、何かあればその都度受診、その時きちんと専門医が対応できる、という文化が根付いておれば、こういうやり方もありということでしょう。

トップページへ

posted by 長尾大志 at 18:45 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2025年03月19日

気胸について、最新ガイドライン

気胸については以前、これまでの日本でやられている方法をまとめてみましたが、昨今海外の新しいガイドラインが出ておりまして。

British Thoracic Society Guideline for pleural disease(Thorax 2023;78:1143–1156. doi:10.1136/thorax-2023-220304)
Joint ERS/EACTS/ESTS clinical practice guidelines on adults with spontaneous pneumothorax(European Respiratory Journal 2024 63(5): 2300797; DOI: https://doi.org/10.1183/13993003.00797-2023

最近のガイドラインでは患者の安定性、症状、気胸の大きさに基づいた個別ケアが重視されています。以下は主要な推奨事項の要約ですが、所謂古典的な?方法に対して、結構侵襲の少ない方法を推奨される傾向にあるようです。

1. 原発性自然気胸(PSP)
・経過観察
気胸の大きさに関係なく、症状が最小限で、臨床的および放射線学的に安定している患者に推奨されます。患者を退院前に観察し、日常的な活動を行うことができるかどうかを判断する必要があります。ただまあ、エビデンスの確実性は非常に低く、条件付き推奨ということになっています。

その根拠となるRCT論文なんですが、主要評価項目は「8週間目で気胸がなくなっている」ことで、ドレナージ群に対して経過観察群で非劣勢であり、入院期間や合併症、12 か月時点での気胸の再発は経過観察群で少なかったということです。……いろいろ微妙ですね。そりゃドレナージしなけりゃ、入院期間は短くていいでしょうし、合併症も少ない。おそらく発症後しばらく肺を縮めておく方が、孔もキッチリふさがるでしょう。そもそも「8週間目で気胸がなくなっている」ことを主要評価項目にしているということは、「8週間目で気胸がなくなっていれば」治った、という感覚で、途中経過は問わない、ということですよね。ここを是とするかどうか。

RCT以外の非ランダム化研究も矛盾した結果があったりでしたが、合併症は経過観察群の方が少ない傾向にあったそうです。ということで、症状がない原発性自然気胸にはドレナージをしない、という選択肢が浮上して参ります。おそらくそのうち日本のガイドラインも新しくなるのかもしれませんが、しばらくは混乱しそうですね……。

トップページへ

posted by 長尾大志 at 18:34 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2025年01月15日

気胸について、改めてまとめ9・クランプテスト

肺の孔がふさがってエアリークがなくなり、胸部X線写真上、肺の再膨張があれば、いよいよドレーンチューブを抜きましょう。

しかし、パッと見エアリークがなくても、ほんの小さな孔が残っている場合には、吸引をかけている間は肺が広がっているけれども、ドレーンチューブを抜いて何時間か経ったら、また肺がへこんでしまうかもしれません。

そこで、擬似的にドレーンチューブを抜いたのと同じ状態を作り出し、テストします。
具体的には、チューブの途中を鉗子ではさみ(=クランプ)、チューブ内の交通を遮断します。これで、チューブを抜いたのと同じような状態になります。

クランプを24時間続けて(つまり翌日に)、胸部X線写真を撮影し、気胸の再発がなければ、穴はほぼふさがっていると解釈し、ドレーンチューブを抜去します。
このようにクランプしてみることを、「クランプテスト」というのです。

トップページへ

posted by 長尾大志 at 20:12 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2025年01月14日

気胸について、改めてまとめ8・ドレーンチューブの先端の位置

ドレーンチューブを挿入する場所については成書に必ず記載してありますが、しばしば抜けがちな視点が、チューブ先端の位置です。

基本は、
「気胸の場合、ドレーンチューブの先端は、肺尖にあること」
なぜか? 胸腔内の空気を、効率よく、すべて排出するためですね。

ドレーンチューブを入れて胸腔内の空気が抜け、肺が膨張してくると、まず肺底部から空気が抜けていって、肺尖部には最後まで空気が残ります。

考えてみれば当たり前なんですが、初学者の方は、手技の本に書いてある挿入の場所にはこだわるが、先端の位置には無頓着になりがちなんですね。教科書には大抵、「どこそこから挿入する」としか書いてないからだと思いますが…。

先端を肺尖に確実におくことができ、かつ、傷つけて困るような大血管などがない場所から挿入すべきなので、
•第2肋間鎖骨中線
•第5〜6肋間・中腋窩線
から挿入するのがよい、ということになるのです。

トップページへ

posted by 長尾大志 at 17:03 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2025年01月13日

気胸について、改めてまとめ7・再膨張性肺水腫について

ドレーン挿入実際の手技は、成書や手技動画をご参照いただきたいのですが、ドレナージを行う上で大事なことをいくつか述べます。

まず再膨張性肺水腫について。特に虚脱期間が長かった肺を急に再膨張させると、一気に肺内の血流が増え、血管透過性が亢進して肺水腫となります。程度がひどいと人工呼吸管理が必要となります。
少なくとも3日間虚脱すると発生する可能性がありますが、1時間の虚脱では発生しないといいます。多くの症例ではその間になると思われるので、悩ましいわけです。発生率自体は、1%前後とそれほど高くありません(Ann Thorac Cardiovasc Surg, 2008.14(4)205-209)。

陰圧にすると発生しやすいので、少なくとも発症直後でないとき、数日虚脱していると考えられるときは、まず水封にし、陰圧をかけないでおくのが無難です。24〜48時間で再膨張がみられなければ、陰圧で吸引を開始します。

また、再膨張させる速度の目安として、いくつかの数字があります。これも諸説ありますが、450  mL/hr未満、あるいは1000  mL/day未満であれば起こる危険は低いといわれています。
胸水の場合は抜く量、速度の調整は容易ですが、気胸の場合、抜いた空気の量を測定するのは容易ではなく、また、リークがあるとこの限りではありませんから、あくまで参考としてください。

トップページへ

posted by 長尾大志 at 12:30 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2025年01月11日

気胸について、改めてまとめ6・小さな虚脱の治療方針

前述の米国の学会によるコンセンサス「虚脱した肺が肺尖部から3  cmあれば……」を目安にすれば、方針に迷うことは少ないのではないかと思います。虚脱の程度がsmallを超えるぐらい大きく虚脱している場合は、問答無用でドレナージですが、問題は、small相当の場合です。

受診パターンを大きく分けると、発症してすぐ受診されるか、数日経つのに症状が続くから受診されるか、のどちらかで、発症のタイミングがはっきりしている場合は、方針を立てやすいです。

発症すぐの受診で、虚脱率が小さいときは悩ましいです。抜けそうなスペースがあれば1回穿刺によって脱気し、経過観察でもいいでしょう。単純に、数時間後胸部X線写真を再検して方針を決めることができればわかりやすいですが、外来ではなかなか難しいと思います。

しばらくたってからの受診で、虚脱率が小さい場合は、すでに孔がふさがっているか、開いていたとしてもきわめて小さいと推測されます。したがって、経過観察でもよいかと思います。あるいは、1回穿刺によって脱気をしておくと、肺を迅速に再膨張させることができます。

もちろん、施設によって方針が決まっている場合は、この限りではありません。

トップページへ

posted by 長尾大志 at 11:04 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2025年01月09日

気胸について、改めてまとめ5・ドレナージの適応は?

気胸のマネジメントについていろいろな本を見ていると、けっこう書いてあることがまちまちです。日本と米国では当然、状況が違う(気軽に入院できるかどうかが違う)ので、あちらの教科書とこちらの教科書では書いてあることが違ったりしますし、外科医と内科医でやり方が違う。逆に言うと、多少細かいやり方が違っても、まあ気にしなくていい、ということです。

ですから、研修医の皆さんは、まずは指導医のやり方をしっかり身につけましょう。その際に「何でこうするんだろう?」とよく尋ねられるポイントを書いていこうと思います。

気胸を診たときに、まずは虚脱率の計算を勧めている本がたくさんあります。で、その率が何%だったらドレナージ、という感じですが、米国胸部医学会(American College of Chest. Physicians:ACCP)によるコンセンサスでは、かなりシンプルに、以下のようになっています。

•原発性気胸:立位で撮った胸部X線写真で、虚脱した肺が肺尖部から3  cmあれば、穿刺あるいはドレナージの適応
•続発性気胸:わずかであってもドレナージの適応

肺尖部から3cm以内であればsmall、3cm以上であればlargeと分類されています。3cmの替わりに、虚脱した肺が鎖骨より下であれば穿刺またはドレナージ、とするものもありますが、まあ似たような感じですね。smallの虚脱率は15%程度といわれています。

気胸を診たときに困るのは、「孔が閉じているのか、開いたままなのかわからない」ということです。孔が開いたままだったら、肺は今後どんどん虚脱するので、ドレナージが必要ですし、孔が閉じていれば、肺はふくらむであろうと考えられます。肺がふくらむためには、肺の外に存在する空気が(胸膜から)吸収される必要があります。そのスピードは結構ゆっくりで、胸郭の15%分の空気を吸収するのに、12日程度かかるといわれています。

ですから、「孔が閉じていて、胸郭の15%ぐらいの虚脱率であれば、経過観察でも許容範囲」と言えるわけです。その際、高濃度の酸素投与をすると、吸収が促進されることが知られています。

しかし、経過を追っているならともかく、たった今受診した人が胸部X線写真を撮って、気胸であることが初めてわかった場合、孔が開いているか閉じているかはわかりません。
そこで、経過を含めた総合的な考え方が必要となります。

トップページへ

posted by 長尾大志 at 17:25 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2025年01月08日

気胸について、改めてまとめ4・気胸発生のきっかけ

気胸の発生するきっかけは、体内(気道内)の圧が急に上昇するか、体外の圧が急に低下するかです。そんな状況ををまとめておきます。

体内(気道内)の圧が上昇するような状況
• 人工呼吸による陽圧換気
• ダイビング

人工呼吸により陽圧をかけていると、気胸が発生しやすいことは前にも書きました(〇ページ)。陽圧換気中に気胸が発生すると、すぐに肺が虚脱し、SpO2低下を来しますので、常に用心しておかなくてはなりません。
また、ダイビングではかなりの高圧空気を吸入しますから、胸腔内が陽圧になり、発症しやすい上に、海中で発症すれば命取りになりかねません。気胸になった方は、原則禁止だと思っておきましょう。

体外の圧が低下するような状況
•小さな飛行機(圧力調節装置がない)で急上昇する
•台風や前線など、急に気圧が下がるとき(避けようがありませんが)

台風や前線通過の際に、気胸患者さんが続けて来院する、ということを経験します。
てことで、

気胸=嵐

(やせ形・高身長男子⇒イケメンアイドル)が
(急な低気圧)で気胸になる、と覚えましょう。

トップページへ

posted by 長尾大志 at 19:16 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2025年01月07日

気胸について、改めてまとめ3・pneumatocele・チェックバルブとは

pneumatocele(ニューマトセル:肺気瘤)

pneumatoceleは一過性に生じた嚢胞、というイメージで考えましょう。代表的には小児の黄色ブドウ球菌による肺炎で起こるとされていますが、ウイルスや細菌による肺炎、外傷、炭化水素系の液体を誤嚥すること、などでも生じるとされています。pneumatoceleは実質の障害と、気道障害によるチェックバルブで生じるとされています。肺胞が破壊されるわけではないので、障害から回復すると自然に消失すると言われています。
ブラやブレブといった肺の嚢胞は消失することなく永続的に存在しますので、そこが大きな違いになります。

チェックバルブ.png

チェックバルブとは、息を吸うときに空気は入るけれども、息を吐くときには空気は出て行かない、一方弁のことです。もともとチェックバルブは逆流防止弁(逆止弁)のことですが、呼吸器の場合、たまたまそういう感じになってしまう病態があり、そう呼称しています。

たとえば細気管支がちょっと狭窄するような病変があるとしましょう。吸気時は健常肺と同様ですが、呼気時に細気管支が細くなると、細気管支が閉塞し(チェックバルブ)、肺胞から空気が出て行かなくなります。その結果、入った空気が出て行かない、空気のとらえ込み(エア・トラッピング)といわれる現象が起こってしまうのです。

細気管支内に結節ができるランゲルハンス細胞組織球症(肺好酸球性肉芽腫症)や、血管壁に結節ができるリンパ脈管筋腫症で嚢胞形成が起こる機序としても、チェックバルブによるエア・トラッピングが考えられています。また、COPDなど閉塞性肺疾患においても、細気管支の閉塞が生じる際にチェックバルブによるエア・トラッピングが起こるとされていますので、知っておきましょう。

トップページへ

posted by 長尾大志 at 07:52 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2025年01月06日

気胸について、改めてまとめ2・ブラとブレブの違い

肺の中にできた、空気の入った袋を肺嚢胞といいます。嚢胞は、病理学的な定義としてブラとブレブに分けられます。

ブラ(bulla)は、径1cmを超える(通常数cmの)気腔で、1mm以下の薄い壁によって境界されています。隣接する肺にしばしば気腫性変化を伴うので、気腫に伴って形成されたものと解釈されます。
喫煙者の、特に胸膜直下によく見られます。喫煙で肺胞が破壊されると気腫になるわけですが、その一部が壁を形成してブラとなるようです。ブラの壁は、折りたたまれた肺胞や結合組織などから形成されています。
高齢喫煙者の気胸の原因は、ブラが破れることによるケースが多いハズですが、厳密には調べるのは困難でしょう。

ブレブ(bleb)は、基本、臓側胸膜内に存在する小さな気腔で、径が1cmに満たないものをいいます。したがって、ブレブの壁を形成するのは胸膜ということになります。
いわゆる若年男性の自然気胸のときに破れるのは(定義としては)ブレブであることが多いのですが、たいてい「ブラが……」と説明されていますね。

径の大きさ以外、画像的には、ブラとブレブを区別することはできません。あくまで病理学的な分類で、臨床的にはブレブとブラを区別する意義は乏しいので、ブレブという言葉を放射線科医が使用することは勧められず、たいてい「ブラ」という用語が使われる、とまで記載されている教科書があります。なので、「ブラが……」と言ってもいいのですが、あくまでこの定義は病理学的なものですから、CT画像を見たときには「嚢胞が……」と言っておくのが無難かなと思います。

トップページへ

posted by 長尾大志 at 11:49 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2025年01月05日

気胸について、改めてまとめ1・気胸の好発年齢、性別、体格が「やせ形男子の10代後半」で、嚢胞は肺尖部に多い理由

ウイルス感染症が一段落したところで、次は都合により?気胸/胸水/ドレナージ系のお話へ。これまでもパラパラ書いておりましたが、改めてまとめます。


いざ研修・実習を始めてみると、自然気胸のマネジメントは、ドクターによって、あるいは内科か外科かによって、やり方が随分違うなあと思われるでしょう。しかし、きちんと根拠、理屈がわかっていれば戸惑うことはありません。気胸のマネジメントを理屈とともに理解してしまいましょう。

気胸といえば、普通は嚢胞(ブラ・ブレブ)が裂けて肺(臓側胸膜)に孔があき、肺内の空気が漏れ出して、肺の外、つまり胸腔内にたまることです。外傷などで胸壁に孔が開いて、外気が胸腔内に入った状態は「外気胸」といいます。ここでは、前者の自然気胸について取り上げます。

また肺に基礎疾患がない人に発生したものを原発性自然気胸といい、好発年齢、性別、体格は、「やせ形男子の10代後半」となっていて、その嚢胞は肺尖部に多くみられます。その理由についてまず説明します。

肺の発育について考えてみましょう。新生児の肺の大きさは、成人の10分の1くらいです。肺胞の大きさは変わりませんから、肺胞の数もやはり10分の1ということになります。成長に従って肺胞が構築され、12歳頃に成人と同じ肺が完成します。

ところで、男子の身長が急に伸びる時期は、いつ頃でしょうか。ちょうど12歳前後、いわゆる思春期の頃に身長がぐぐっ、と伸びる時期があるのですね。そのときにどうやら、胸郭が上下方向にぐぐっ、と引っ張られる。

特にやせ形男子は内臓の成熟が遅く、胸郭の発達に追いつかないと、重力に逆らって引っ張られる上方向に肺が引き伸ばされ、その結果ブラ(嚢胞)が形成される、という機序が考えられています。
ブラ(嚢胞)はできたてほやほやの時期から、数年以内が破れやすい(時間が経つと補強される)ため、好発年齢は10代の後半、となるわけです。

トップページへ

posted by 長尾大志 at 16:37 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2023年01月09日

第117回医師国家試験対策講座 気胸

これまた以前収録した動画ですが、第117回医師国家試験の呼吸器分野対策として、何かのお役に立てれば、ということで国試までの期間限定で公開します。

気胸の基礎的なことと、重要事項を一発で覚えられる魔法のキーワードについて述べています⇒
https://youtu.be/PJNnv9RBo5Y

トップページへ

posted by 長尾大志 at 13:47 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2021年12月03日

ちょっと割り込み、気胸の本質のお話

咳の機序、なかなか難産で困っておりますが、割り込みで気胸のお話が入ります。

気胸のマネジメント、教科書を見ても、例えばドレナージをする基準や抜去する基準なども、なんか奥歯にものが挟まったようなことが書いてある。あっちのガイドラインにはこう、こっちにはこうと。びしっと統一された見解がないのですね。まあ例えば入院のハードルがすごく高い米国とハードルが低い日本においてはやり方が違う。米国は気胸キット入れて外来管理。日本はドレナージ・チェストドレーンバック。

同じ日本の中ででも、呼吸器外科医や胸腔鏡でブラ切除をやってくださる外科医が院内におられるかどうかでプラクティスは異なるでしょう。

それはそれとして、気胸の本質というものを理解しておれば自ずとマネジメントは同じようなことになるであろうと思われます。気胸の本質とは、臓側胸膜に孔が開いておこった気胸の場合、この孔は通常自然に塞がり修復されるということです。それで閉じなければ外科手術です。

孔が修復されたら再膨張を確認してチューブを抜きます。逆に孔が修復されないと絶対にチューブは抜けない。孔が修復されたかどうかを知ることができるのは、エアリークですね。エアリークの存在によって孔がまだふさがっていないということを知ることができるわけです。ですから 穴が塞がった≒エアリークがなくなってから、胸部X線写真を撮影し、肺の再膨張を確認するという手順が気胸マネジメントの本質ということになるかと思います。

トップページへ

posted by 長尾大志 at 19:01 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2012年02月25日

今日の症例・同門会、一般演題の部より。両側胸水、低アルブミン血症の鑑別4

これだけ引っ張ったので、もったいぶらずに鑑別を出しましょう。
両側胸水の鑑別としては…


  • 心不全

  • 肝硬変・肝疾患

  • ネフローゼ症候群・腎疾患

  • 悪性腫瘍

  • 脚気

  • Meigs症候群

  • SLEないしMCTDなどの膠原病



などを想定し、追加検査をいくつか。
病歴と滲出性〜漏出性の感じから、膠原病かなあと。では低アルブミンは…。



  • 心不全: BNP上昇はごく軽度で、心エコー所見も否定的。

  • 肝硬変:採血結果およびCT検査所見で所見なし。

  • ネフローゼ症候群: 尿蛋白陰性。

  • 悪性腫瘍: 胸水・腹水細胞診結果はclassU。造影CT検査所見からも否定的。

  • 脚気:ビタミンB欠乏なし。

  • Meigs症候群: CA125 高値。しかし、MRI検査にて卵巣腫瘍は否定的であった。



ということで、SLEないしMCTDなどの膠原病以外は除外されました。


皮疹の生検結果はLEに合致する病理組織像で、採血で補体の低下、さらに抗核抗体   640倍(Speckled)、抗SS-A抗体と抗RNP抗体 も陽性でした。


皮膚科にて生検を行った皮疹の病理がループスエリテマトーデスに合致したことと、入院後新たに無痛性の口腔潰瘍が出現したことから、SLEの診断基準のうち、


  • 頬部皮疹

  • 円板状皮疹

  • 日光過敏

  • 口腔潰瘍

  • 関節炎

  • 漿膜炎  a.胸膜炎  b.心外膜炎

  • 腎障害

  • 神経障害

  • 血液異常

  • 免疫異常 a.抗二本鎖DNA抗体 b.抗Sm抗体 c.抗リン脂質抗体

  • 抗核抗体



太字の4項目を満たし、診断に至りました(その後の経過中、神経障害も生じました)。


低アルブミン血症は、蛋白漏出性胃腸症を想定し、

蛋白漏出シンチ
α1-アンチトリプシンクリアランス試験

を行いました。結果、蛋白の漏出が確認され、最終診断に至りました。


本症例は高齢発症のSLEです。高齢発症群はSLE全体の5〜10%を占め、

  • 65歳以上

  • 男女比は1:5

  • 発症は潜行性で緩徐に進行(平均3〜5年)

  • 典型的SLEと表現型が異なる

  • ステロイドに対する反応性が良い


といった特徴があります。


本症例は上の特徴によく合致しますが、蛋白漏出性胃腸症は高齢者には稀です。そもそも膠原病による胸水は滲出性か漏出性かはっきりしない(微妙)であったりするのですが、蛋白漏出性胃腸症の合併で、なお見極め困難でありました。


気胸・胸水・ドレナージを最初から読む

トップページへ

posted by 長尾大志 at 14:00 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2012年02月24日

今日の症例・同門会、一般演題の部より。両側胸水、低アルブミン血症の鑑別3

検査所見を見ましょう。

気になるところでは、
TP 6.0g/dL
Alb 2.2g/dL 低アルブミンはあるものの、
LDH 183U/L

F-T4 1.75ng/dL
F-T3 2.3pg/mL
TSH 3.53μIU/mL

ACE 11.9IU/L
BNP 18.44pg/mL

このあたりはまあまあ、正常範囲から大きく逸脱せず。


尿は異常所見なし。


胸部X線写真は、こんな感じで、両側胸水が見られます。


図CAM.png


さて、その胸水ですが、

TP3.5 g/dL
LDH103 U/L
AMY52 U/L
ADA15.5 IU/L
比重1.017
リバルタ反応陰性
Glu105 mg/dL

細胞数2336/3
細胞分画は
  好中球2.0%
  リンパ球35.0%
  マクロファージ37.0%

細胞診 classU
一般細菌・抗酸菌培養 陰性

でした。これは、どのように解釈されるべきでしょうか。結構、漏出性か、滲出性か、微妙な気がいたします。


Lightの基準

蛋白:0.5>胸水中蛋白/血清蛋白
LDH:0.6>胸水中LDH/血清LDHまたは
施設の血清LDHの正常上限の2/3以上

実はこの後、症状が続くため何度か穿刺排液を繰り返し、その都度滲出性であったり、漏出性になったりだったのですが…。カンのいい方なら、このあたりでピンと来られるかも。



さて、ここまでの情報で、鑑別疾患を考えましょうか。


気胸・胸水・ドレナージを最初から読む

トップページへ

posted by 長尾大志 at 11:02 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2012年02月23日

今日の症例・同門会、一般演題の部より。両側胸水、低アルブミン血症の鑑別。2

両側胸水でよく見かけるもの。


何はなくとも、心不全でしょう。
だから、同門会で提示したわけです。


両側胸水があって、心拡大が見られ、下腿〜全身の浮腫があれば、ほぼ決まりといってもいい。そのくらい、よくある病態ですね。


それ以外に、ネフローゼなどの腎障害や、肝機能の悪化などでも両側胸水が見られます。で、これらの胸水は漏出性、これが基本。


あと一つ、忘れてはならないものは…。



わかりますか?




寒がり、便秘、倦怠感、徐脈など…。
といえば…




甲状腺機能低下ですね。
もうこれは、主治医が気づくかどうか、この一点にかかっているわけです。全てのドクターが知っておかれるべきでしょう。


他にも、あまり見ませんが、脚気なんかも鑑別に入れておきます。


さて、診断を進めていくわけですが、追加で必要な情報、これは、上記疾患を支持する所見はあるか、というところでしょう。


心疾患の既往(一応なし)、心電図異常を指摘されたことはないか(なし)、
腎疾患の既往(一応なし)、検尿異常を指摘されたことはないか(なし)、
肝疾患の既往(一応なし)、肝酵素異常を指摘されたことはないか(なし)、
高体温、むしろ下痢気味、徐脈でなく、浮腫は圧すと容易に凹む。

…このあたりはあまり当てはまらないようですね。


それでは、胸水の鑑別・マネジメントを参考にしましょう。そうです。胸腔穿刺によって、胸水を得るのです。

あ、ちなみに、ドクターによっては、「胸水穿刺」とおっしゃることもありますが、私が教わった先輩は、「水なんて刺せないものを穿刺する訳じゃない。胸腔を穿刺するのだ。」といわれていましたので、こちらで統一します。


気胸・胸水・ドレナージを最初から読む

トップページへ

posted by 長尾大志 at 10:06 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2012年02月22日

今日の症例・同門会、一般演題の部より。謎の胸水、低アルブミン血症。

先日の同門会、一般演題の部で、当科から2つの症例呈示を行いました。
聴衆のほとんどが循環器Dr. ということを考慮して、興味を持って頂けるような症例を選択。

1つめは循環器の先生にはなじみの深い、両側胸水の症例です。


70歳代 女性
主訴:咳嗽・全身浮腫
3ヶ月前頃から顔面と前腕に軽度掻痒を伴う皮疹が出現し、8月に当院皮膚科を受診。病理診断は扁平苔癬であり外用薬で加療されていた。1ヶ月前咳嗽と呼吸困難を認めたため、当科を紹介受診。その後両側胸水・全身浮腫が出現し、急速に胸水が増加し、浮腫の悪化を認めたため、精査加療目的にて当科入院。

既往歴・家族歴に特記事項なし、never smokerで1日にビール350 mL/day程度飲酒。
金属アレルギーあり。

身体所見
身長:150 cm 体重:56 kg (1週間で約4kgの増加) 体温:36.8 ℃ 心拍数:78 回/分 血圧:116/72 mmHg SpO2:90〜92 % (room air) 呼吸数:18 回/分 
著明な全身浮腫あり
頭部、右頬部、四肢に暗赤色皮疹 硬口蓋に発赤あり
表在リンパ節:触知せず
肺音:両側下肺野で呼吸音減弱
心音:整、心雑音なし
腹部:膨満、軟、腸蠕動音正常、圧痛なし
関節痛なし


さて、この時点で、どのような疾患を想起されますか?
追加で必要な情報は何でしょうか。


気胸・胸水・ドレナージを最初から読む

トップページへ

posted by 長尾大志 at 15:16 | Comment(2) | 気胸・胸水・ドレナージ

2011年07月06日

「嵐」の相葉雅紀さん・自然気胸回復、退院。再発の可能性は?生活面で気をつけることは?

相葉雅紀さん、無事に退院されたそうです。軽症であったようで、よかったです。

報道によりますと、


  • 今回は軽症であり、手術もなく薬を飲んでいた?程度で回復した。

  • 前回の手術は右側(つまり、今回と反対側)であった。

  • ちなみにそのときはサックスを吹きすぎて発症したとのこと。

  • 主治医からは、「日常生活には全く支障がない」と太鼓判を押された。



とのことです。


自然気胸の治療方針から考えると、やはりごく軽度の気胸であったと思われます。穿刺やドレナージも不要であったのでしょうか。


で、こうなると、問題は再発の可能性です。


以前手術を受けられた左でなく、右側ですので初発とすると、2回目を起こす可能性は一般的には50%程度、つまり2人に1人は再発するといわれています。ひとたび再発すれば、以降は何度も起こすといわれており、手術が勧められますが、初発の場合は必ずしも手術は「必須」ではありません。


ということで、再発しやすそうな状況はなるべく避けていただきたいものですが、芸能活動をされている以上、身体を張ったお仕事も多いかと思います。教科書的には以下のような状況はなるべく避けるべき、といわれていますので、老婆心ながら挙げておきます。



■体内(気道内)の圧が上昇するような状況

  • サックスを吹く、というのはちょっと気づきませんでした。でも確かに気道内圧が上がりますね。

  • 今後お仕事としてありそうなのはダイビング。これは気道内圧がかなり上がります。ダイビング中に発症すれば命取りになりかねません。

  • 人工呼吸による陽圧換気。




■体外の圧が低下するような状況

  • 小さな飛行機(圧力調節装置がない)で急上昇する。

  • 台風や前線など、急に気圧が下がるときには注意が必要です(避けようがありませんが)。



これらのことに気をつけて、これからも、お仕事頑張っていただきたいと思います。
家族皆で応援しています!


気胸・胸水・ドレナージを最初から読む

トップページへ

posted by 長尾大志 at 09:37 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ

2011年06月30日

「嵐」相葉雅紀が入院 安静加療必要(Yahoo!ニュースより)

ニュース速報です。
以下Yahoo!ニュースより引用します。


「嵐」の相葉雅紀(28)が1週間程度入院すると29日、所属のジャニーズ事務所が発表した。

 相葉は28日、胸に痛みを感じ、レギュラー出演する日本テレビ「嵐にしやがれ」(土曜後10・00)の収録後、都内の病院で検査。当直の医師の判断でそのまま入院した。

 29日に肺に穴があき空気が漏れる「左自然気胸」と判明。1週間ほど入院して安静加療が必要と診断された。


引用ココまで。


うちの子供たちにも人気のです。車の中ではずっと嵐。2歳の娘もTVでメンバーの1人でも出ると「あーし!あーし!」と叫びます。そんなにあって、相葉さんといえば絶妙のポジション。


息子(9歳)は、「1番好きなのは櫻井くん、2番が相葉くん」といい、
娘(5歳)は、「1番はマツジュン、2番が相葉くん」といいます。


このように、大活躍中の相葉さんですが、心配ですね。


初期の対応としては、 気胸・胸水・ドレナージにも書いたように、虚脱率が低ければ安静加療で自然軽快します。ドレナージとか手術とかいう記載はニュースにはないので今回は軽度のものかと想像しますが、気になるのは9年前にも自然気胸で入院、手術しているという点です。果たして今回と同じ左なのか、はたまた右なのか。

左だとすれば手術しているにもかかわらずの再発、右ならタイミングとしては少し遅いですが、初発ということになります。今後のことを考えて手術に踏みきるかどうか、軽度なのでこのまま経過観察、とされるのか、注目されます。


なお、一般的には、初発でも5割程度の再発、再発の場合は8割以上再々発するといわれています。なかなか穴が閉じない場合や、再発予防のためには積極的に手術を行いますが、手術した側での再発、となりますと、施設によって方針や治療成績が異なるのが現状です。


気胸・胸水・ドレナージを最初から読む

トップページへ

posted by 長尾大志 at 12:54 | Comment(0) | 気胸・胸水・ドレナージ