ちょっと間に色々挟まりましたが(お忘れの方も多いでしょうが)、ACEが出てきたついでに、肺胞洗浄液の構成成分のうちリンパ球が増える疾患について、もう少し触れておきます。
肺胞洗浄液の細胞分画、正常値の目安は以下の通りです。
- マクロファージ:80%以上
- リンパ球:15%以下
- 好中球:3%以下
- 好酸球:0.5%以下
- CD4/CD8:1〜2
これを逸脱したものを、一応異常とします。
以前にも書きましたが、疾患、病態によって、細胞分画でどの細胞が優位になっているか(増加しているか)が異なるため、疾患を鑑別するおおよその目安となります(あくまで「目安」ですが)。既出ですがおさらいをして置きましょう。
- リンパ球が増加: NSIP、COP、膠原病性間質性肺炎、薬剤関連性肺疾患、過敏性肺炎、サルコイドーシスなど
- 好中球が増加:細菌性肺炎、びまん性汎細気管支炎、AIP、IPの急性悪化、ARDSなど
- 好酸球が増加:好酸球性肺炎、好酸球増多症候群、一部の薬剤関連性肺疾患など
そして、リンパ球が増加する疾患でも、リンパ球のうちCD4+とCD8+、どちらが優位であるかによって、疾患を推定することができることもおさらいしておきます。
- CD4+>CD8+:サルコイドーシス、農夫肺、慢性ベリリウム肺、結核
- CD4+<CD8+:COP、NSIP、AIP、薬剤関連性肺疾患、夏型過敏性肺炎など
肺胞洗浄液でリンパ球の分画が増加している場合、想定される病態として過敏性肺炎は以前取り上げました。
ということで、ようやくサルコイドーシスのお話になります。
サルコイドーシスは結局のところ、原因がよくわかっていないまま放置されてしまっている疾患の代表みたいな感じになっています。一時期アクネ菌が原因では…などという話が出てきた頃はそれなりに盛り上がっていた感がありましたが、どうも最近話題がございません。
なぜか。やはりそれは、「自然に治る症例が多い」というところが大きいでしょう。もちろん、一部の症例ではどうにもうまくいかないことが経験されるのですが、実感としてはBHL(両側肺門リンパ節腫脹)のみなら8〜9割方、経過を見ているだけで勝手によくなっていきます。で、よくなるのか悪くなるのか、予測が困難である点が問題なのですね。
例えば薬を開発しよう、という話になったときに、今日日は二重盲検ランダム化試験が要求されますが、自然寛解する可能性がある症例が少なからず含まれていると、薬効がサッパリ評価できませんね。これは薬が効いたのか、勝手に治ったのか…そういうこともあり、製薬会社の薬剤開発意欲、ひいては各種研究へのスポンサーシップ意欲が失われた…のではないか、と勝手に空想しています。
そういうわけでか否か、昨今では盛り上がりに欠ける感の強い(以前いた施設が盛り上がりすぎていたのかも…汗)サルコイドーシスですが、肺胞洗浄液の分析は以前からなされていて、ある程度病態に関する説明(仮説)はできあがっています。
抗原物質(これが謎)が気道を通して肺に進入します。抗原は肺胞マクロファージに貪食され、マクロファージがサイトカインを産生し、これによって炎症部位にTリンパ球が集まってきます。リンパ球は活性化されて各種サイトカインを産生し、炎症細胞の集積、増殖が促されます。また、サイトカインによってマクロファージが類上皮細胞に分化し、肉芽腫を形成するのです。
おそらく抗原は肺から時に血行性、あるいはリンパ行性に運搬され、全身の臓器に播種されて各々の場所で同様の反応が起こり、類上皮細胞肉芽腫を形成していくのでしょう。
リンパ球はそんなわけで炎症の起こっている局所に多数動員されていますので、リンパ球を介した免疫反応は手薄になります。このためツ反(結核抗原に対するT細胞性免疫反応を見る検査)は陰性になるのです。
難治例においては、おなじみステロイドを使用しますが、大量に使うと効果を現すものの減らすと再燃、というケースも多いため、適応は限られています。具体的には、命に関わるか、よほど患者さんが困るケースでないと使いません。
呼吸器領域で使うことは滅多になくて、
- 点眼でコントロール困難なブドウ膜炎
- 心臓のブロック・不整脈(突然死の危険性)
- 腎障害・高カルシウム血症
- 神経病変
などが適応になることが多いです。
今回記事を書くにあたって、細胞分画の正常範囲は、正確を期すために「気管支肺胞洗浄(BAL)法の手引き(日本呼吸器学会びまん性肺疾患学術部会・厚生労働省難治性疾患克服研究事業びまん性肺疾患調査研究班編集)」を参考にしました。
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posted by 長尾大志 at 19:26
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