麦門冬湯:上に書いた感染後咳嗽の論文で有名になりました。使われることも多いようですが、時に「痰を伴う咳」に使われる場面を見かけます。麦門冬湯は「乾性咳嗽」「乾燥を潤す」ために使われるものです。
清肺湯:こちらは逆に喀痰の多い症例に向きますが、まずは基礎疾患の治療、去痰薬が優先されると思います。それでもダメなときに加える感じ。
小青竜湯:鼻炎の項でも書きましたが、水様鼻汁のある症例、体力まあまあある症例に向きます。心窩部振水音(チャポチャポ水の音がする)があるとよく効くようです。
滋陰降火湯:高齢者などの比較的体力が低下した症例の就寝時や夜間の咳嗽、粘調性喀痰などに用います。
半夏厚朴湯:咳に用いるというよりは誤嚥による咳、すなわち高齢者や脳神経障害のある症例で食事に伴って咳が出るというケースに用います。それ以外には喉や食道の詰まり感(いわゆるヒステリー球)のような神経症傾向を目標に用いると効果が期待できます。
麦門冬湯(に限らずここで挙げた漢方はだいたい共通) 1回1包 1日3回 食前または食間
最後に咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019に取り上げられた難治性咳嗽の項目で挙げられている咳嗽治療薬をご紹介します。
・neuromodulatory agents(ガバペンチン、プレガバリン、アミトリプチン)など
これらの薬物が難治性の咳嗽に効果を示すことがあると記されています。1つの例として「耳掃除をした時に咳が出る」という方が時々おられるのですが、これは外耳道に分布する(迷走神経の側枝である)アーノルド神経反射によって咳が出ていて、そのような神経学的機序が関与する咳には上記のような薬剤が効果があるかもしれませんから、試してみる価値はあるでしょう。
・抗コリン薬
チオトロピウムは難治性喘息、あるいはICS/LABAによる喘息の治療にある程度反応するものの咳だけが残っている、というようなケースで作用を示すことが報告されています。それ以外にも難治性の咳で効果を示したという報告が散見されます。
・ゲーファピキサントクエン酸塩(リフヌア

P2X3阻害薬は気道にあるC線維上に発現しているATP受容体で、咳の発生に関与していることがわかり、その拮抗薬であるゲーファピキサントが最近発売されました。主にターゲットは原因疾患が判明している慢性の咳で、さんざん特異的治療をしても治まらない場合に使われることが多いと思いますが、味覚障害という困った副作用があるため、それが出たらすぐに止める方が望ましいと思われます。