というわけで、雲南市立病院リポート、実習病院フローチャートの作成、NTM診断と治療のまとめとかいうてるその前に、慢性咳嗽について少し書かなければならなくなりましたので、まずそちらを済ませたいと思います。とは言っても何度か今までにも書いてきたことではありますのでそれほど新しいことはないのですが。慢性咳嗽治療薬を考えるのに、その原因疾患を正しく診断、治療することは外せません。
とにもかくにも8週間以上、つまり2ヶ月ぐらい咳がある患者さんを診る時には慢性咳嗽の疫学上最も多い喘息(気管支喘息や咳喘息)の可能性を必ず想定する必要があります。何といっても臨床推論の原則は「頻度の多いものから考えていく」。もちろんもう一つ、「致死率の高い危険なものを必ず除外する」という原則もありますね。
ですから2ヶ月ぐらい咳が続いてる患者さんにおいては、喘息の特徴である「変動性」を確認します。具体的には咳が出る時間帯(特に夜間)と出ない時間帯があるか、咳が出る期間と出ない期間があるか(悪化要因として寒冷や乾燥、タバコの煙や香水などの刺激物、感冒などの感染症などの契機がある)というところです。
喘息の診断は【診断的治療ないし治療的診断】をすることが現実的です。要はICS(吸入ステロイド)/LABA(長期間作用型β2刺激薬)合剤を使ってみて、喘息であれば「明らかによくなる」ので、それで診断する、ということです。ポイントは「明らかにすっきりする」というところで、「なんとなくよくなったような気が……」程度の場合には、喘息という診断に飛びつかない方が安全です。他疾患の合併やそもそも他疾患である可能性などを考えましょう。
レルベア

(100)1回1吸入 1日1回
シムビコート

1回2吸入 1日2回
フルティフォーム

1回2吸入 1日2回
咳がかなり強く、長期間続いてる場合レルベアは200でもいいでしょう。
これで良くならない場合、あるいは変動性に乏しい場合、それに比較的短期間の場合は感染性咳嗽・感染後咳嗽、すなわち気管支炎後の咳嗽(の残り)を考える必要があります。その場合に通常は「日にち薬」いう言葉がぴったりで、徐々に軽快傾向となるわけですが、すでに数週間咳が続いている場合には「日にち薬ですよ」と言う言葉だけでも気の毒ですので、鎮咳効果のある薬を使うことになります。その場合によく使われるのは中枢性鎮咳薬、そして以前感染性慢性咳嗽に効果があるとして広まった麦門冬湯あたりでしょうか。この場合喀痰は少ないことが多いため、去痰薬はあまり用いないことが多いです。
デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物(メジコン

)1回1錠 1日3回
麦門冬湯 1回1包 1日3回 食前または食間
それ以外にも慢性咳嗽としては鼻炎や副鼻腔炎からの後鼻漏やGERDなど、各々の原因となる疾患に対して特異的な治療薬を用いないと鎮咳効果が期待出来ない場面が多々あります。
後鼻漏は「痰の絡む感じが続く」「エヘン虫」等のキーワードや咽頭の観察、副鼻腔の透過性やX線・CTなどで鼻炎/副鼻腔炎を診断します。こちらもある程度は診断的治療/治療的診断となることが多いものですが、例えばアレルギー性鼻炎に抗アレルギー薬、として新世代の「眠気の少ない」モノを使ってもあまり効きません。ここは旧世代のものを用いて、点鼻ステロイド薬も併用します。
ポララミン 1回1錠 夕食後 眠くならなければ朝食後も使用
アラミスト点鼻 1回2噴霧 1日1回
水様鼻汁が多ければ 小青竜湯 1回1包 1日3回 食前または食間
GERDは逆流症状(胸焼け、食後胃重感、喉頭違和感、喉頭痛、呑酸、おくび)の存在、臥床・前屈位で増強といった症状の特徴から目星をつけ、PPIの診断的治療/治療的診断で効けば診断可能ですが、スキっと効かないことも。消化管運動機能改善薬との併用が必要かもしれません。
エソメプラゾール(ネキシウム

)20mg 1回1カプセル 1日1回
モサプリドクエン酸塩水和物(ガスモチン

)5mg 1回1錠 1日3回
posted by 長尾大志 at 12:52
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咳の鑑別