2025年05月27日

長い長い結核の話16〜結核の治療法5・結核の治療継続

初回標準治療の効果は絶大で、2週間投薬しただけで、咳は1/10に、排菌は平均1/1000(1/100〜1/100万)にもなるといわれています。つまり、治療は最大の感染対策といえるのです。できるだけ早く診断して、できるだけ早く治療を開始することが、結局周りへの感染、結核の蔓延を防ぐことになるのです。

逆に治療開始が遅れれば遅れるほど、周りにうつす可能性が高くなり、大変な影響があります。医師の診察を受けているのに診断に至らず、治療開始が遅れることをDoctor's delayといいますが、そういうことのないよう気をつけたいものです。

感受性菌に対し、4剤で開始し標準治療を完遂できた症例については、ほぼ再発はないとされています。途中で治療をdropoutした症例や、耐性菌であったりした症例では再発の危険があり、注意が必要です。
そう、結核治療で最も大切なことは、開始した標準治療をきちんと決められた期間遂行し、終わらせることです。そのために、1日1回投与にしたり、DOTS(directly observed treatment with short course:医療者、あるいは保健機関の誰かが見ている前で確実に内服させること)を行ったりという工夫をしているのです。

現在では、初期の4剤治療×2ヵ月の間は毎日服薬し、その後のINH+RFP×4ヵ月の期間(維持期といいます)は、週2回、または3回にしてでも、DOTSをして確実に服薬させる、というやり方(間欠法)も導入されています。特にコンプライアンスに問題がある、目を離していると薬を飲まなくなるような方々が対象になります。
維持期においても、短期間で止めてしまうよりは、間欠的であっても長期間内服した方がよいのですね。

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posted by 長尾大志 at 19:24 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2025年05月17日

長い長い結核の話15〜結核の治療法4・結核治療薬の順位・Second-line drugs

Second-line drugsとは、First line drugsに比して抗菌力は劣るが、多剤併用で効果が期待される薬剤です。

•レボフロキサシン(LVFX)
•カナマイシン(KM)
•エチオナミド(TH)
•エンビオマイシン(EVM)
•パラアミノサリチル酸(PAS)
•サイクロセリン(CS)

この群を使う際には、必ず感受性を確認し、3剤以上の多剤併用で、耐性獲得に気をつけて長期間の投与となります。

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2025年05月16日

長い長い結核の話14〜結核の治療法3・結核治療薬の順位

現時点(2025年5月現在)での治療薬の順位は以下の通りです。(Kekkaku 93(1) : 61-68, 2018より引用改変)

First-line drugs (a)
最も強力な抗菌作用を示し、菌の撲滅に必須の薬剤です。
•リファンピシン(RFP)10mg/kg(1日最大600mg)
•リファブチン(RBT)5mg/kg(1日最大300mg)
•イソニアジド(INH)5mg/kg(1日最大300mg)
•ピラジナミド(PZA) 25mg/kg(1日最大1500mg)

First-line drugs (b)
First line drugs (a) との併用で効果が期待される薬剤です。
•ストレプトマイシン(SM)15mg/kg(1日最大750mg)週3回投与の場合1日最大1g
•エタンブトール(EB)15mg/kg(初期は20mg/kg・1日最大1000mgとしてよい。3か月目以降も使用する場合は15mg/kg、1日最大750mg)

標準治療は、First-line drugs (a)のRFP、INH、PZAにFirst-line drugs (b)のEBまたはSMを併用する4剤で行うというわけです。SMは筋注製剤なので、外来治療の現場ではEBを選択することが多いです。
First-line drugs (a)のいずれかが使えない場合、First-line drugs (b)のどちらか使っていない方(通常SM)を選択することになります。

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posted by 長尾大志 at 17:27 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2025年05月06日

長い長い結核の話14〜結核の治療法2・薬剤耐性や副作用があるとき

INHもしくはRFP、それに他の抗結核薬に耐性を有するような場合 、あるいは副作用で使えないという場合には、1剤ずつ置き換えてその次の優先順位の薬剤に置き換えて行きます。順番としてはエタンブトール(EB)の次にレボフロキサシン(LVFX)が入り、4剤のいずれかが使えない時の代用として用いられるようになりました。

さらに、INHとRFPの両方に耐性を有する多剤耐性結核に限定して、デラマニド、ベダキリンという新しい抗結核薬を使うことができるようになりました。適応は多剤耐性結核だけで、デラマニドやベダキリン以外に3剤以上を併用して使用することが原則となっています。ですから、かなりハードルの高い薬で、一般の先生方が使われることは多分ないだろうと思います。

優先順位、とさりげなく書きましたが、抗結核薬の使用にあたっては厳密に優先順位が付けられています。つまり、この順番に選びましょうという順番。副作用や耐性で1つの薬剤が使えなくなったら、優先順位が次の薬剤を選択していきます。

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posted by 長尾大志 at 09:18 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2025年05月05日

長い長い結核の話13〜結核の治療法1

結核の治療法は以前から大きく変わるものではありませんが、それでもちょいちょい微調整されています。2018年に改訂された「結核医療の基準」による現時点(2019年2月現在)での治療方針を説明します。

標準治療
イソニアジド(INH)とリファンピシン(RFP)が治療の柱であることは以前から全く変わらず、そのままです。その2剤を軸として、通常はINH、RFP、EB、PZAの4剤から始め、2ヵ月継続してその後INH、RFPの2剤に減らしてさらに4ヵ月、という計6ヵ月での治療が中心です。

再治療例や重症の結核であったり、糖尿病や免疫低下状態であったり、排菌がなかなか治まらない、ということがあったりすると治療期間を3ヵ月延ばし、合計9ヵ月の治療を行います。

今は標準治療というのはこれだけで、たとえばよほど肝機能が悪いなどの事情で、ピラジナミド(PZA)が使えない状況だと3剤スタートということもありえますが、この場合は3剤2ヵ月+2剤7ヵ月の合計9ヵ月治療します。

最初だけ4剤で、あとは2剤でいいのはなぜか? それは、治療開始時の菌量が多いから。2ヵ月間4剤投与すれば、ぐんぐん菌は減って、その後は2剤で事足りるというわけです。

最初の2ヵ月は初期の急性炎症であり、病変部は酸性の組織です。PZAは酸性組織下の菌にのみ効果があるという特徴があり、治療開始後3ヵ月も経てば組織は中性〜アルカリ性となるため、もはや効果を発揮しないという面もあります。ですから、PZAは初期のみの併用薬として使われるわけです。

また、治療は何よりもコンプライアンスといいますか、ちゃんと治療終了まで薬を飲むことが重要ですので、原則として1日1回投与になっています。

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2025年04月30日

長い長い結核の話12〜潜在性結核感染症(LTBI)治療の実際

潜在性結核感染症というのは発病していないわけですから、体内の菌量はごく少量です。ですから、発病してからの治療とは異なり、抗結核薬は1剤でOKです。

具体的には、対象者に対して、INH 5mg/kg(成人:最大300mg/日)、または8〜15mg/kg (小児:最大300mg/日)の予防内服を6〜9ヵ月間行います。

また、INH+RFP(10mg/kg・1日最大600mg)の3ないし4か月の投与も標準治療になっています。

LTBI治療中は、副作用(肝障害や末梢神経障害など)の出現、ホンモノの結核発病に注意が必要です。また、れっきとした治療扱いですので、保健所への届け出や公費負担申請が必要です。

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posted by 長尾大志 at 18:49 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2025年04月29日

長い長い結核の話11〜潜在性結核感染症治療について2

潜在性結核感染症治療の対象となるのは、今後発症のリスクが高い人です。まず何といっても、2年以内に結核感染を起こした人、つまり明らかな曝露があって、その後IGRA陽性となった人です。

それ以外には、IGRA陽性(感染している)で、

•HIV/AIDS
•臓器移植
•珪肺
•慢性腎不全による血液透析
•胸部X線画像で陳旧性結核があり未治療の場合
•生物学的製剤の使用など
があれば、発病リスクが高いため積極的に治療を考慮します。

また、下記の発病リスクが複数重複した場合も、LTBI治療の検討が必要とされています。

•経口および吸入副腎皮質ステロイド剤の使用
•その他の免疫抑制剤の使用
•コントロール不良の糖尿病
•低体重
•喫煙
•胃切除
(潜在性結核感染症治療指針 Kekkaku 88(5) : 497-512, 2013より引用)

医療従事者は上記に次ぐリスクとされていますが、IGRA陽性=LTBI治療となるのではなく、発病リスクの高い、最近陽性になった例で治療の対象とすることになっています。

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2025年04月26日

長い長い結核の話10〜潜在性結核感染症治療について

潜在性結核感染症(latent tuberculosis infection : LTBI)治療とは、結核菌に感染していて、今後発病の恐れがある人に、抗結核薬を投与してその発病を防ぐために行われる治療のことです。

以前は「予防内服」と呼ばれていたものが、2007年に結核予防法が廃止され、改正感染症法によって結核対策が行われるようになったときに「潜在性結核感染症の治療」と変わりました。かつては発病を防ぐという意味で「予防」となっていたものが、今では感染している菌を殺す治療、という意味で「治療」と言われています。まあ、本質的には同じことをしているんですが。

予防内服の対象は29歳以下の若者に限られていました。というのも、かつての高齢者はほとんどの方がすでに結核菌に感染していたからです。接触したからといってことさらに予防内服をしなくても、どうせ持ってるじゃん…という理由でした。

それと、抗結核薬の副作用、特に肝障害が高齢者では頻度が高い、ということもありました。発病者の治療では副作用がある程度許容されるとしても、発病していない人に対する投薬で肝障害が起こるのはいかがなものか、という問題があったのです。

しかし、現在、潜在性結核感染症治療に年齢制限はありません。今やある程度高齢の方でも、もともと結核菌を持っていない人の方が多くなっています。新たに感染したときに将来の発病を予防することには意味がありますから、年齢制限はなくなったのです。

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posted by 長尾大志 at 20:58 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2025年04月17日

長い長い結核の話9〜IGRAについて

近年では、感度・特異度ともに問題のあるツ反ではなく、IGRA(interferon gamma release assays;インターフェロンガンマ放出試験)を用いて結核感染の有無を判定することが多くなってきています。ツ反は主に、IGRAの感度が低い5歳未満の小児に用いられています。

ツベルクリン反応は、生体の遅延型過敏性(W型アレルギー)の強さを評価する皮膚反応でした。それに対し、IFN-γを直接定量する血液検査がIGRAです。

製品としてはQuantiFERON TB ゴールド プラス(QFT-Plus)Ⓡ 、T-スポットⓇ.TBがあります。方法が少し違いますが、原理としては同じです。
結核菌に存在する抗原蛋白(ESAT-6, CFP-10, TB7.7など)を患者さんの血液やリンパ球に加えると、患者さんのTh1リンパ球が抗原を認識してIFN-γを産生します。その産生されたIFN-γの量(QFTⓇ)やIFN-γを産生するTリンパ球の数(T-スポットⓇ.TB)を測定する検査です。

この検査で使用する抗原蛋白は、ヒト結核菌由来のものですから、BCGや非結核性抗酸菌など、結核菌以外の抗原では反応せず陰性になります。ツ反で問題になった「BCGによる(偽)陽性」がなく、より特異度が高いことになります。
ただし例外的にM. kansasii, M. szulgai, M. marinum, M. gordonaeにもESAT-6, CFP-10が存在するため、陽性となる可能性があります。

問題点としてはツ反より価格が高いという点が挙げられますが、ほとんどの国民がBCG接種を受けている日本ではあまり問題にならず、むしろ接触者健診において便利に使われ、ほとんどツ反に取って代わっています。

感度・特異度とも良好なIGRAですが、あくまで結核菌感染の有無を判定するツールであり、それが過去のものか最近のものか、発病しているかどうかを判定できるものではありません。いまだに肺結核症(発病)の診断目的でIGRAを用いている現場を見かけますが、肺結核の診断は、あくまで痰の中に結核菌を証明することが王道であり、IGRAは補助ツールであるべきだと個人的には思います。

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posted by 長尾大志 at 15:35 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2025年04月16日

長い長い結核の話8〜結核の発病しやすい状況とは?

チョット間があきましたが……長い長い結核の話7から続きます。

……と、いうたとえ話を踏まえて、発病に至る状況をもう少し、詳しく書きましょう。

ヒトの体内に入った結核菌は、通常、すぐに暴れ出すということはありません。なぜならば、怖〜いお目付役のT細胞やマクロファージたちがにらみをきかせているからです。彼らはちょこちょこ結核菌のいるところ(初感染巣)に顔を出し、「オイこら、おとなしくしてるか? 変な動きをしやがったら、ただじゃおかねーぞ」と脅しをかけています。そうしている間は、結核菌たちも「ハイ、おとなしくしております」と言うことを聞いているのですね。

ところが、免疫能が低下したヒトでは、そうしたT細胞やマクロファージの巡回が減ってきたり、なくなってしまったりします。たとえば、こういう場合です。

•珪肺
•糖尿病
•血友病
•喫煙・飲酒
•人工透析中
•胃切除術後
•HIV感染、AIDS
•担癌状態(特に頭頚部癌)
•ステロイド、免疫抑制薬使用

上に挙げたのは主に高齢の患者さんのケースを想定していますが、若い人でも結核を発症しやすい状況というのはあるわけです。

•不規則な生活
•偏食・栄養障害・やせ
•喫煙・飲酒

こういう方は免疫能が低下し、発病リスクがあります。

免疫能が低下したヒトでは、T細胞やマクロファージの巡回はありませんから、結核菌が「これはチャンスだ」と思うのか、あるいは「(宿主が死にそうだから)ピンチだ」と思うのかわかりませんが、いずれにしても冬眠状態にあった結核菌が目覚め、子作りに励んで暴れ出す、これが「発病」なのです。

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posted by 長尾大志 at 12:48 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2025年04月10日

長い長い結核の話7〜たとえ話で理解する「結核の発病」

SF・アニメなどでよくあるストーリーです。地球が汚染され、もはや人類が住むには適さなくなってしまった。そこで人類は、居住に適した惑星を求めて宇宙船団を組んで旅立つ。そして、人類の生存に適した環境を持つ惑星に到達し、そこで繁栄する。そこへ異星人がやってきてドンパチ、とかなんとかいうストーリー、どこかで聞いたことがあるでしょう。

この話のポイントは、
 「今居住している環境が危機に瀕した場合、種の存続を図るべく、その生命集団は他の地へ旅立たざるを得ない」
ということです。

この話の「人類」を「結核菌」に、「地球」を「ヒト」に置き換えて考えてみましょう。
 「今居住しているヒトが死亡の危機に瀕した場合、種の存続を図るべく、結核菌は他のヒトへ旅立たざるを得ない」
ということになります。

結核菌はヒトの体内でしか生きられません。彼らとしては、今住み着いている「ヒト」が永遠に生きていてくれたら、それで全く問題ないのです。いつまでもぬくぬくと暮らしていける(感染すれども発病していない状態)。

しかしヒトには寿命がある。いつかは住めなくなります。そのままだと結核菌も全滅してしまう。それでは困るので、他のヒトに移住を図ります。このとき、ヒトの防衛システム(免疫系)は脆弱になっています。その隙に結核菌は子作りに励み、できる限り仲間を増やして、どんどん他のヒトへと旅立つのです。この状態を「発病」といいます。

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2025年04月09日

長い長い結核の話6〜結核菌の特徴から結核の臨床を理解する

結核菌は細胞分裂速度が遅く、増えるときはゆっくりと増え、減るときもゆっくりと減るという性質があります。1個の大腸菌が2個になるには20分くらいしかかかりませんが、結核菌では15時間かかるのです。

そうすると、結核の進行は比較的ゆっくり、慢性に起こってくるということが想像していただけると思います。一般細菌による肺炎が、症状の覚知から「もうダメだ」と来院するまでせいぜい数日〜1週間程度であるのに対し、結核の場合数週間〜数か月かかるのです。

一方結核の治療は抗結核薬で、結核菌の細胞分裂を止めることで死に追いやるわけですが、細胞分裂がゆっくり、ということはなかなか薬が効果を示すタイミングが訪れない、ということでもあります。ですから、治療を開始して効果が出てきても、症状改善には肺炎よりも時間がかかり、治療期間も長期間にわたるということです。

こうした結核菌の特徴を知っておくことで、結核という病気の臨床的特徴を理解することができるのです。

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posted by 長尾大志 at 18:07 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2025年04月08日

長い長い結核の話5〜結核菌の特徴

いよいよこちら、明日4月9日にはお届けされるようですね!
https://www.amazon.co.jp/dp/4784943757

奇しくもNMB48 31stシングル「チューストライク」と同じ発売日。お互い頑張りましょう!?


さて、結核菌は脂質に富み、いったん染色されると酸では脱色されない抗酸性を持った菌です。そのため、最後に酸で脱色するZiehl-Neelsen(チール・ニールセン)染色で色が残り、オレンジ色に浮き上がって見えるのです。抗酸性のため、胃液内でも生存できる数少ない菌です(抗酸菌はすべてそうですが)。

結核菌は好気性菌で、至適発育温度37℃、少量のCO2が存在すると発育が促進されます。このような場所は、地球上のどこを探してもヒトの体内しかないでしょう。結核菌はヒトの体内でしか生きられないのです。これに対して、非結核性抗酸菌のほとんどは、環境での生息が可能です。

たとえば咳などで体外に出ても、飛沫核が他人の気管支に入らなければ、地面に落ちてしまい、じきに失活します。ですから、食器や衣服などの共用も、神経質になる必要はありません。

ヒトの体外では長期間生存できないということは、感染はヒトからヒトにうつることでのみ、成立することになります。これに対して、非結核性抗酸菌ではヒト−ヒト感染は通常起こらないと言われています。

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2025年04月06日

長い長い結核の話4〜一次結核と二次結核の違い

そんなわけで戦後すぐの結核蔓延期に青春時代を過ごされた、多くの高齢者の体内には、結核菌がぬくぬくと暮らしています。

体内に入った菌は、まず肺内で病巣を作りますが、そこでマクロファージによって貪食され、そのマクロファージがリンパ路を通じて肺門や縦隔のリンパ節に移動します。それからリンパ節で抗原提示をしてT細胞などに免疫の教育を行いますが、多くの方はそのまま、結核菌が目覚めることなく冬眠状態のまま寿命を迎えられます(冬眠状態なのにぬくぬくとはこれいかに……)。

しかし、結核菌を冬眠状態で持っている(感染が成立している)方のうち10%程度は、免疫力の低下とともに結核菌が目を覚まし、発病します。このような、一旦体内に入って処理された後、ときを経て発病するような、通常よくあるタイプの結核を二次結核といいます。二次結核では、よくみられる空洞病変や小葉中心性粒状影といった肺病変が中心となります。

二次があれば一次もあるわけで、結核菌が体内に入ってすぐに発病するタイプを一次結核といいます。一次結核になる場合というのは、結核菌が体内に入ったときにしかるべき処理をするための免疫力がない、たとえば乳幼児とか、高齢者であるとか、HIV感染とかの理由があるときです。

一次結核では、乾酪壊死巣となって空洞を作って… という通常の肺結核のパターンをとらず、肺門リンパ節腫大や胸膜炎、粟粒結核、あるいは髄膜炎といった肺外結核を来すことも多いのが特徴です。

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2025年04月05日

長い長い結核の話3〜結核の疫学つづき

つまり、戦後すぐの敗戦国日本は途上国状態であり、国民の住宅事情・栄養状態は最悪であったため、その頃には結核が蔓延していて多くの菌が国民の体内に入っていました。その後急速に発展して経済的に先進国の仲間入りをし、結核が蔓延する状況ではなくなってきたわけですが、体内の菌は抜けてくれませんから、結核の感染率・罹患率で見ると、途上国レベルが長く続いていた、ということになります。それでも、菌を持っている高齢者が寿命を迎えることによって、最近罹患率が低下傾向にあり、2022年のCOVID-19流行下では罹患率8.2(人/人口10万人)と、低蔓延国(10未満)の仲間入りを果たしました。

ちなみに、主な国の2023年の罹患率(人口10万人あたり)は、以下の通りです。

米国 3.1 英国 7.6
デンマーク 3.6 フランス 8.3
スウェーデン 3.7 日本 9.3
オランダ 4.5 (罹患率が高い国)
カナダ 5.8 ブラジル 49
オーストラリア 6.2 インド 195
WHO TB country. Regional and global profiles より

日本国内でも、地域によって罹患率に差があります(2023年)。

罹患率が低い 罹患率が高い
岩手県 3.6 大阪府 13.1
山梨県 4.0 大分県  12.2
山形県 4.4 奈良県 10.8
宮城県 5.2 兵庫県 10.2
長野県 5.2 京都府 9.9
厚生労働省 2023年結核登録者情報調査年報集計結果 より

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2025年04月04日

長い長い結核の話2〜結核の疫学

世界的に見て、結核は決して「終わった疾患」ではなく、今解決すべき問題として厳然と存在します。WHOの統計によると、2023年には全世界で推定1080万人が結核に罹患し、125万人が死亡したという、途方もない数字です。

感染の拡大という点では、居住環境が整備されていないことが大きいのでしょう。大家族で一部屋に住んでいるとか、誰かが咳をすると傍らの人が容易に飛沫核を吸い込んでしまう、という環境ですね。

日本も、かつてはそういう時期がありました。第二次世界大戦後、多くの都会は廃墟となり、大人数が狭い部屋に住み、栄養状態も不良と、結核が蔓延する要素がそろっていました。当時、日本人の大半は結核菌に感染していたといっても過言ではありません。

1950年(終戦後5年)の統計で、年齢別結核感染率を見てみましょう。

1歳 2.9%
20歳 54.3%
40歳 79.5%
60歳 90.8%
70歳 93.8%

1歳で感染している国民はさすがに少ないものの、周りの大人からどんどん菌をもらい、20歳では半数以上の人が結核菌に感染していて、60歳になる頃には9割が感染しているという、大変な状況であったわけです。

いったん感染が成立すると、結核菌は居座りを決め込みます。いなくなることはありません。40年後の1990年の統計を見てみましょう。すっかり都市化され、新規の感染、菌の伝搬は起こりにくくなっている状況です。

1歳 0.06%
20歳 2.6%
40歳 22.7%
60歳 64.8%
70歳 76.4%

1950年に20歳だった人は60歳になっています。感染率は、40年間で54.3%から64.8%と少し増えています。この間、多くの方は、結核菌を持ったまま過ごしていたと考えられます。

1990年の20歳の感染率は2.6%で、かなり低下してきています。感染率が低下すれば、発症する患者数も減少し、新たに感染する人も減りますから、今後時間の経過とともに、国民全体の感染率は低下すると思われます。

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posted by 長尾大志 at 07:39 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2025年04月03日

長い長い結核の話1〜プロローグ

いよいよ発売日が近づいてまいりました、「レジデントのためのやさしイイ呼吸器教室 第4版」なんですが、その改訂作業をしていて、実に多くの項目を書き直すに至りました。「長い長い結核の話」も、もちろん基礎的なところ、話の根幹は変わるものではありませんが、表記・表現に書き直したいところがたくさん出てきたため結構な量を書き直しました。

表紙1.jpg

こちらのブログでも整合性を図るためにいったん過去記事は削除し、改めて記事を作成して参ります。


さて、結核はほんの数十年前まで、世界中、そしてわが国でも死因の第1位でしたし、現在でも途上国といわれる国では死因の上位を占めていて、今なお世界的に単一の感染因子による死因のトップです(なお2020〜22年は新型コロナウイルス感染症でした)。

古くは紀元前から結核の病巣が見つかっていて、19世紀ごろには伝染病として知られていましたし、その病原体について1882年にKochが菌を発見して以降、多くの研究者が大変な労力を払って調査研究を行ってきました。そこで結核の成り立ちや菌の伝搬、病理などについて、多くのことが明らかになっています。

いろいろ勉強してみると、結核菌という1つの種が、生きとし生けるものとして種の存続を図るためにあらゆる手段を用いている、その努力(?)に驚嘆するばかりであります。結核菌は至適発育温度が37℃、酸素と少量の二酸化炭素を必要とする菌です。ずっと37℃で酸素と二酸化炭素が同居している、そのような場所は、地球上で、いや、おそらく全宇宙を探しても、ヒトの体内しかないでしょう。そうです。結核菌はヒトの体内でしか生きられないのです。それゆえお互いに運悪く、ヒトに対して病原性というものを持ってしまった。

そうなると、いかにしてそれを排除するのか。ある程度いろいろなことがわかっている結核菌を題材にすると、感染症とその予防・治療についていろいろ理解が深まりますから、この機会にしっかりとご理解いただきたいと思います。

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posted by 長尾大志 at 08:56 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2022年12月28日

第117回医師国家試験対策講座 肺結核5

第117回医師国家試験の呼吸器分野対策講座として「肺結核の基礎的な理屈から治療まで」を収録いたしました。国試までの期間限定で公開しますので、よろしければご利用ください。

第5回は肺結核の治療について述べています⇒
https://youtu.be/x2mZ4R5zDu0

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2022年12月27日

第117回医師国家試験対策講座 肺結核4‐2

第117回医師国家試験の呼吸器分野対策講座として「肺結核の基礎的な理屈から治療まで」を収録いたしました。国試までの期間限定で公開しますので、よろしければご利用ください。

第4回の後半は昨今話題のワクチンと、誤解している人がとっってても多い、IGRAについて取り上げました⇒
https://youtu.be/D_FFIPwIYZ8

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2022年12月26日

第117回医師国家試験対策講座 肺結核4-1

第117回医師国家試験の呼吸器分野対策講座として「肺結核の基礎的な理屈から治療まで」を収録いたしました。国試までの期間限定で公開しますので、よろしければご利用ください。

第4回の前半は一次結核と結核発症の危険因子について述べています⇒
https://youtu.be/t2E0_YbV15k

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2022年12月25日

第117回医師国家試験対策講座 肺結核3

第117回医師国家試験の呼吸器分野対策講座として「肺結核の基礎的な理屈から治療まで」を収録いたしました。国試までの期間限定で公開しますので、よろしければご利用ください。

第3回は感染と発病の違い・喀痰検査について取り上げています⇒
https://youtu.be/6jISU8N8tiI

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2022年12月24日

第117回医師国家試験対策講座 肺結核2‐2

第117回医師国家試験の呼吸器分野対策講座として「肺結核の基礎的な理屈から治療まで」を収録いたしました。国試までの期間限定で公開しますので、よろしければご利用ください。

第2回の後半は発病から結核菌がばらまかれるまでを考えてみます⇒
https://youtu.be/rC_RCVbiASg

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2022年12月23日

第117回医師国家試験対策講座 肺結核2-1

第117回医師国家試験の呼吸器分野対策講座として「肺結核の基礎的な理屈から治療まで」を収録いたしました。国試までの期間限定で公開しますので、よろしければご利用ください。

第2回の前半は結核菌の立場になって物事を考えてみます。⇒
https://youtu.be/bTbuJwrqYeM

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posted by 長尾大志 at 12:15 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2022年12月22日

第117回医師国家試験対策講座 肺結核1

第117回医師国家試験の呼吸器分野対策講座として「肺結核の基礎的な理屈から治療まで」を収録いたしました。国試までの期間限定で公開しますので、よろしければご利用ください。

第1回は導入、疫学編です⇒
https://youtu.be/zfzJQrKGwrg

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posted by 長尾大志 at 10:20 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2021年11月23日

潜在性結核感染症治療

潜在性結核感染症(潜在性結核症)の治療としては、これまでINHを5mg/kg/日を6〜9か月の投与となっていました。しかし既に米国などではRFPを使用して、短期間で終了(=服薬コンプライアンス?アドヒアランス?向上に寄与)する投与方法があったのです。

そこで、遅まきながら2021年10月、厚生労働省結核感染症課長から「潜在性結核症の治療について、INH及びRFPの2剤併用療法を3〜4か月行うことを追加する。ただしINHが使用できない場合またはINHの副作用が予測される場合は、RFP単独療法を4か月行うこととする」と、ようやく通知されました。

これによって、RFP(追加または単独)治療でようやく治療期間の短縮が可能となりました。

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posted by 長尾大志 at 14:11 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2012年11月23日

肺結核と文豪、文学

先日の京都新聞「凡語」欄より。


昭和10年〜25年、戦前〜戦後にかけて、日本には結核が蔓延していました。国民の死亡原因の第1位であり、年間10数万人が結核で死亡する、という状況であったのです。


明治以降の文豪で主な方々でも、

  • 樋口一葉

  • 二葉亭四迷

  • 国木田独歩

  • 正岡子規

  • 石川啄木

  • 森鴎外

  • 梶井基次郎



いずれも肺病(肺結核)を得て生涯を閉じておられるとのこと。


特に梶井基次郎氏は、京都の三高在学中、四条大橋の上で文学仲間に「肺病になりたい、肺病にならんとええ文学はでけへん。」と叫んだそうです(祖母も弟も肺病で先に亡くしています)。


その直後、肺結核を発病し、その後名作「檸檬」を残しましたが、31歳で生涯を閉じたのです。

(引用ここまで)


肺結核は、栄養不足がリスクでありますから、細くて弱々しい人がなりやすい。そのためか、その当時佳人薄命、早世といったある種の美的なイメージがありました。


また、特効薬もなく、今よりずっと高い確率で死に至る病であったことから、儚くこの世を去る、一種の滅びの美学があったようです。当時の文学作品でも、そのような描写が多く見られました。



梶井氏は死を目前にしてこそ書ける文学、というものを求めたのでしょうか。


「温故知新」のところでも書きましたが、人は死んでしまうと終わりではなく、先祖から子孫へと脈々と受け継がれる命の系譜があるのですね。そして自分の生き様、言葉を後の者に残していく。言葉を換えると、人は、「語り継ぐ」ために生きているのだ、そんなことを聞いたこともあります。


死を前にすることで、他者に語るべき言葉が出てくるのか。梶井氏のエピソードはそんなことを思い起こさせます。


長い長い結核の話を最初から読む

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posted by 長尾大志 at 22:19 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2012年02月17日

今日の症例 潜在性肺結核の指導

29歳男性、勤務先で喉頭結核患者に接触し、その後QFT陽性が判明、胸部X線写真とCT検査では所見なし、という症例です。


ここまでの結果わかったことは、明らかな接触歴の後にQFTが陽性である、ということ。

入職時の検査は不明でありますが、排菌患者さんとの明らかな接触があり、QFT-Gが陽性である、となりますと、結核菌が体内に入り、IFN-γを産生する程度の免疫反応が起こった、ということになります。


将来ある若者であれば、このままにしておくと将来10%程度ですが結核を発病する恐れがあります。特に医療関係者であれば、自身が発症されると患者さんに伝染し、大きな問題となる恐れがあります。また、若いドクターは食事や睡眠も不規則になりがちで、発症リスクは高いと見込まれます。


そういうことを勘案しますと、、抗結核薬をあらかじめ内服しておくことで将来の発病を予防することが望ましい、ということになります。


長い長い結核の話・潜在性結核感染症治療(予防内服)についてを参考にしましょう。




抗結核薬の副作用、特に肝障害が、高齢の場合頻度が高い、ということがあり、しばしば心配されるようです。発病者の治療については、ある程度副作用が許容されるとしても、発病していない人に対する投薬で肝障害が起こるのはいかがなものか、ということですね。


では実際どの程度でおこるのか。INHによる肝障害は、35歳未満で0.3%という統計があります。それ以上だと1〜2%で、少しリスクが上昇します。それで、以前の「予防内服」の時代には、対象が29歳未満となっていたわけです。


また、末梢神経障害においても、主に問題になるのは高齢者で、ビタミンB6投与である程度予防可能です。若い方ではビタミンB6投与もあまりしませんが、どうしても心配であれば、内服されても良いでしょう。


…というような説明になるかと思います。



本で「肝障害」とか、「末梢神経障害」という知識だけを知っていると、そういうことを警戒しすぎて医学的に妥当な選択を行えなくなる、ということに気をつけたいもの。

以て他山の石となす、です。

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posted by 長尾大志 at 10:30 | Comment(4) | 長い長い結核の話

2012年02月16日

今日の症例 潜在性肺結核

29歳男性、某病院某科のドクターです。
その病院にも相談できる呼吸器科医がいない、とのことで実際に外来にお越しになってご相談を受けました。


勤務先で喉頭結核患者に接触し、その後確認のためにQFT、胸部X線写真、CT検査を行いました。


結果は…
QFT陽性、胸部X線写真とCTは異常なし、でした。


その結果を受けて最近INHの内服を開始されたのですが、お兄さんが呼吸器科医とのことで、「INHは肝障害や末梢神経障害といった副作用がある、そんなものを飲んでいていいのか?」といわれた、とのことで不安になられたようです。


さて、この方に、どのように指導を行いますか?


長い長い結核の話・潜在性結核感染症治療(予防内服)についてを参考に、考えてみてください。

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posted by 長尾大志 at 09:40 | Comment(2) | 長い長い結核の話