2012年11月23日

肺結核と文豪、文学

先日の京都新聞「凡語」欄より。


昭和10年〜25年、戦前〜戦後にかけて、日本には結核が蔓延していました。国民の死亡原因の第1位であり、年間10数万人が結核で死亡する、という状況であったのです。


明治以降の文豪で主な方々でも、

  • 樋口一葉

  • 二葉亭四迷

  • 国木田独歩

  • 正岡子規

  • 石川啄木

  • 森鴎外

  • 梶井基次郎



いずれも肺病(肺結核)を得て生涯を閉じておられるとのこと。


特に梶井基次郎氏は、京都の三高在学中、四条大橋の上で文学仲間に「肺病になりたい、肺病にならんとええ文学はでけへん。」と叫んだそうです(祖母も弟も肺病で先に亡くしています)。


その直後、肺結核を発病し、その後名作「檸檬」を残しましたが、31歳で生涯を閉じたのです。

(引用ここまで)


肺結核は、栄養不足がリスクでありますから、細くて弱々しい人がなりやすい。そのためか、その当時佳人薄命、早世といったある種の美的なイメージがありました。


また、特効薬もなく、今よりずっと高い確率で死に至る病であったことから、儚くこの世を去る、一種の滅びの美学があったようです。当時の文学作品でも、そのような描写が多く見られました。



梶井氏は死を目前にしてこそ書ける文学、というものを求めたのでしょうか。


「温故知新」のところでも書きましたが、人は死んでしまうと終わりではなく、先祖から子孫へと脈々と受け継がれる命の系譜があるのですね。そして自分の生き様、言葉を後の者に残していく。言葉を換えると、人は、「語り継ぐ」ために生きているのだ、そんなことを聞いたこともあります。


死を前にすることで、他者に語るべき言葉が出てくるのか。梶井氏のエピソードはそんなことを思い起こさせます。


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posted by 長尾大志 at 22:19 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2012年02月17日

今日の症例 潜在性肺結核の指導

29歳男性、勤務先で喉頭結核患者に接触し、その後QFT陽性が判明、胸部X線写真とCT検査では所見なし、という症例です。


ここまでの結果わかったことは、明らかな接触歴の後にQFTが陽性である、ということ。

入職時の検査は不明でありますが、排菌患者さんとの明らかな接触があり、QFT-Gが陽性である、となりますと、結核菌が体内に入り、IFN-γを産生する程度の免疫反応が起こった、ということになります。


将来ある若者であれば、このままにしておくと将来10%程度ですが結核を発病する恐れがあります。特に医療関係者であれば、自身が発症されると患者さんに伝染し、大きな問題となる恐れがあります。また、若いドクターは食事や睡眠も不規則になりがちで、発症リスクは高いと見込まれます。


そういうことを勘案しますと、、抗結核薬をあらかじめ内服しておくことで将来の発病を予防することが望ましい、ということになります。


長い長い結核の話・潜在性結核感染症治療(予防内服)についてを参考にしましょう。




抗結核薬の副作用、特に肝障害が、高齢の場合頻度が高い、ということがあり、しばしば心配されるようです。発病者の治療については、ある程度副作用が許容されるとしても、発病していない人に対する投薬で肝障害が起こるのはいかがなものか、ということですね。


では実際どの程度でおこるのか。INHによる肝障害は、35歳未満で0.3%という統計があります。それ以上だと1〜2%で、少しリスクが上昇します。それで、以前の「予防内服」の時代には、対象が29歳未満となっていたわけです。


また、末梢神経障害においても、主に問題になるのは高齢者で、ビタミンB6投与である程度予防可能です。若い方ではビタミンB6投与もあまりしませんが、どうしても心配であれば、内服されても良いでしょう。


…というような説明になるかと思います。



本で「肝障害」とか、「末梢神経障害」という知識だけを知っていると、そういうことを警戒しすぎて医学的に妥当な選択を行えなくなる、ということに気をつけたいもの。

以て他山の石となす、です。

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posted by 長尾大志 at 10:30 | Comment(4) | 長い長い結核の話

2012年02月16日

今日の症例 潜在性肺結核

29歳男性、某病院某科のドクターです。
その病院にも相談できる呼吸器科医がいない、とのことで実際に外来にお越しになってご相談を受けました。


勤務先で喉頭結核患者に接触し、その後確認のためにQFT、胸部X線写真、CT検査を行いました。


結果は…
QFT陽性、胸部X線写真とCTは異常なし、でした。


その結果を受けて最近INHの内服を開始されたのですが、お兄さんが呼吸器科医とのことで、「INHは肝障害や末梢神経障害といった副作用がある、そんなものを飲んでいていいのか?」といわれた、とのことで不安になられたようです。


さて、この方に、どのように指導を行いますか?


長い長い結核の話・潜在性結核感染症治療(予防内服)についてを参考に、考えてみてください。

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posted by 長尾大志 at 09:40 | Comment(2) | 長い長い結核の話

2011年11月23日

QFTがらみでもう1例

とあるところでコンサルトを受けた症例です。個人情報の点で少し改変しています。


「20歳代女性、Sjogren症候群の患者さんですが、入院中にQFT検査すると陽性でした。肺結核でしょうか。ご教授ください」


この対診依頼の書き方もなかなかですが、それはさておき。


そもそも1週間程度続く急性発症の発熱と頸部の表在リンパ節腫脹を主訴に来院されました。実習で老人介護施設に行っていたそうです。入院後皮疹、関節痛が生じてきました


WBC 6,000程度で、CRP7程度の炎症所見がありました。全身状態は比較的良好で、急性の症状と多彩な症候からウイルス感染を疑われたようなのですが…。


なぜか、QFTをとられていました。
胸部X線写真では異常なし。喀痰塗抹陰性。


検査の目的がわかりません。「不明熱」だから?しかも、陽性だったらどうするのか、ビジョンなし。


さらに、入院時にいろいろ抗体検査をされていて、「SS-B陽性」という結果。
それからついた病名が「Sjogren症候群」。


いやいやいやいや……乾燥症状は??

とかいっているうちに、突然「腎盂腎炎」という診断がついて、CTRX開始となりました。どうやら検尿で何か出たらしい。



とりあえずいろいろ検査をオーダーし、出た結果で右往左往。
苦笑いするしかありません。最初の「ウイルス感染」はどこへ行ったのでしょう。




原則を確認しておきますが、検査というのは、症状、症候などから疑われる疾患を確定するために行うものです。検査を行う前に、その結果陽性だったらどうするか、陰性だったらどうするかということが見通せていない検査はすべきではありません。検査結果によって鑑別診断が増える、というのはおかしい。言うてる意味わかりますか?

○乾燥症状があって、シルマーテスト、ガムテスト陽性で、SS-Bをとるんです。
○腎盂腎炎を疑う症状があったらすぐに検尿。
○肺に陰影があったら喀痰検査。

これが本来の流れなのです。


順番がすごすぎて、どう申し上げていいかわからず、「肺結核ではありません」とだけコメントいたしました…。

こういう教育を受けた研修医諸君の行く末が案じられます…。



このような「やっている医療の質」みたいなものは、外から見てもなかなかわかりにくいものです。

学生さんが研修病院を選ぶときも「救急○○例!」とか、「手術件数○○例!」みたいな、数に引きずられて選んだりしがちなわけです。


以前にも書きましたが、ブランド、見た目にとらわれずに、物事の「本質」を見る目を養いたいものですね。


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posted by 長尾大志 at 15:21 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年11月22日

感染と発病の違い・QFTについて3

一昨日の症例です。

@ レントゲンで異常な陰影があった。

として、考えられるシナリオを。


A. 異常な陰影が陳旧性肺結核であった。

一番患者さんにとって望ましい結末ですね。昔結核に罹患された痕を陳旧性肺結核といいますが、そのような陰影があって、前回との比較ができなかった場合、医師が「過去に結核の既往があるなら、QFTだ」と考えて測定したようなケースです。


前回フィルムとの比較は胸部X線写真読影の鉄則なのですが、手に入らないことも多々あるため、ある程度石灰化の有無やCT所見から状況を推測せざるを得ないこともあります。

しっかりとした読影技術を要求されますね。



B. 肺炎、または結核以外の活動性肺病変があった。

これも、ある程度読影技術があれば診断可能な部分もあるのですが。
じゃあQFTが陰性でない(判定保留)のはなぜ?と思われるかもしれません。


一度肺結核を治療されている場合、治療後も体内に結核菌がごく少量残っている可能性があります。ごく少量なので、それによって再発、というのはほぼないと言われているのですが、QFTには影響することがあるのですね。


既治療患者さんのQFTは当てにならない、ということも知っておきましょう



C. 肺結核があった。

実は、感受性菌に対し、きっちり治療を完了された、免疫のきちんとある患者さんの再発はほぼない、といわれています。

なので、この可能性は低いと思います。


仮にそうである場合、喀痰なりの検査がなければ診断には至りません。


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posted by 長尾大志 at 17:58 | Comment(3) | 長い長い結核の話

2011年11月21日

感染と発病の違い・QFTについて2

昨日のご質問の状況を考えてみると、いくつか疑問点がありますが、その解釈、想定される点を含めて考えましょう(>に続くのは引用部分です)。


特に若い、非専門の先生方にとっては身につまされるであろうところも多い今回のご質問。
是非参考にされてください。



>8年前に培養にて1という結果でがでて入院治療し完治し退院しました


培養では1+、2+等と判定するので、1は「1+」という意味でしょう。8年前に培養陽性の肺結核に罹患されて、完治された(治療を完遂された)ということだと思います。



>その後普通に生活していたのですが,先日風邪、多少の咳が1週間続いたので内科で受診したところクオンティフェロン3Gの検査をうけた方がよいとのことで検査をしました


咳が続いて内科受診された。このときに胸部X線写真で異常があったのかなかったのか、いくつかの可能性が想定されます。それによって、話の筋がだいぶ変わってきますね。


@レントゲンで異常な陰影があった。

結核の既往がある患者さんに異常影を見た場合、確かに結核再燃も除外する必要があります。ご年齢がわかりませんが、若い方であればなおさらです。


で、その結核除外にあたって、QFTをされた。ここの意図が少しわかりません。
肺結核を考えるなら喀痰検査をすべきです。痰が出なかったということでしょうか。

痰が出ない場合は胃液培養、気管支鏡と行うべきです。QFTを肺結核の診断に使用すべきではありません


Aレントゲンで異常な陰影がなかった。

ではなぜQFTを行ったのか。長引く咳の鑑別のため?でしょうか。
確かに「長引く咳は肺結核を除外すべき」ではありますが、肺結核の場合、まずレントゲンで異常影が出るはず。

レントゲンで異常な陰影がないのであれば、レントゲンで異常がない場合の鑑別診断を考えるべきでしょう。



>前述の検査において,TB抗原0、23という結果が出て,判定保留と診断がでました


困ったことに、判定保留という結果が出ました。
判定保留ということは、この値だけでは判断できないので、臨床的に総合判断しましょうということです。


あくまで臨床的に「今回結核菌に曝露したかもしれない人」が「結核菌が今回体内に入ったかどうか」を見る目的で施行を思考すべきであって、臨床的に「結核かどうか判断できないのでQFTをやってみる」、ということをするとこのような陥穽にはまることになります。



>判定保留ということで後日,ツベルクリン検査を受けることになりました。
>微熱もありませんし食欲もあります。今後のことが不安で,入院することになるのでしょうか



QFTよりも感度、特異度ともに劣るツ反をQFTのあとに行う、ひょっとしたら判定不能という結果を得て判断材料を増やす目的で行われるのでしょうか。


あまり現状のご説明もないようで、患者さんはかなりご不安な様子です。
こちらとしても、情報がそろっていないため、なかなかこれ以上のことは申せませんが、若い先生方のために、ある仮定条件でのお話を明日。


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posted by 長尾大志 at 15:01 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年11月20日

感染と発病の違い・QFTについて

このブログは医学生や研修医の先生方を意識して書いているため、あまり一般向けの内容ではないと思っているのですが、結核のところでは、困っておられる方が多いのか、しばしばご質問のコメントをいただきます。

今回いただいたご質問はこんな感じでした。


(ここから引用)

先日,クオンティフェロン3Gの検査において,TB抗原0、23という結果が出て,判定保留と診断がでました。

8年前に培養にて1という結果でがでて入院治療し完治し退院しました。
その後普通に生活していたのですが,先日風多少の咳が1週間続いたので内科で受信したところ前述の検査をうけた方がよいとのことで検査をしました。

判定保留ということで後日,ツベルクリン検査を受けることになりました。
微熱もありませんし食欲もあります。今後のことが不安で,入院することになるのでしょうか。

(ご質問ここまで)


さて、この情報から、みなさんは、どのように説明されますか?
あるいは、もっとほしい情報はあるでしょうか。

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posted by 長尾大志 at 00:36 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年11月15日

「結核」を疑うべき状況とは?

今2年目で回ってくれているK先生からのご質問です。

「どういうときに『結核かも』と疑ったらいいんですか?」

ごもっともな質問です。


病歴から、結核を疑うべき状況というのがあります。
たとえ話「結核の発病」、続きでも書いたように、

高齢の方ですと、

  • 糖尿病

  • 胃切後

  • 担癌状態

  • ステロイド使用

  • 透析中

  • HIV感染

  • 喫煙・飲酒



若い方であれば、

  • 不規則な生活

  • 偏食・栄養障害・やせ

  • 喫煙・飲酒


といったことがあれば、特にT細胞免疫能が低下し、発病リスクがあるということです。


そういうリスクがあって、慢性(2〜3週間以上)に咳、痰、微熱が続き、体重も減ったりしている人には要注意です。いや、長引く咳、というだけでも、結核の否定はしておくべきでしょう。


そして胸部X線写真を撮影して陰影がある。
どんな陰影か?典型的には、片側の上肺野に、

  • 小葉中心性粒状影、tree-in-bud

  • 気管支拡張(tram line、signet ring sign)を伴う

  • 空洞形成結節、腫瘤影


となりますが、別に肺炎みたいな浸潤影でも、ARDSみたいなすりガラス影でも、どんな陰影でもとりうるのが結核ですから。
除外のためには必ず喀痰塗抹検査を行っていただきたいと思います。


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posted by 長尾大志 at 18:31 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月27日

長い長い結核の話31・昨日の「今日の症例」回答

まず、陰影はすりガラス影なんですね。しかも両側。
結核に特徴的な粒状影や空洞を伴う結節なんかもありません。

まあ、単純レ線ではわかりにくいかもしれませんが…。


それと末梢血の好酸球高値。

これだけで、「好酸球性肺炎」という診断がついてしまいます。


鑑別すべきは、その他の間質性肺炎+薬剤性好酸球増多。


本症例は、BALにて好酸球著増(>80%)しており、しかもMPO-ANCA陽性というおまけまであったことから、好酸球増多症、なかでも、喘息をbaseに発症するChurg-Straussの要素が考えられました。
薬剤の影響は完全には除外できないものの、薬剤中止後も症状、検査所見が改善しないこと、また、それと疑わしい使用薬剤がなさそうであったことから、一応否定的と考えました。


発熱以外に血管炎症状はなく、生検でも血管炎所見が得られなかったことから、疑い例としてステロイド+エンドキサンを投与しまして、すっかり改善しました。


100915CR.jpg

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しかし、この症例を「結核」とは…。
昔の先生は、「影があれば結核」と思っておられましたが…。


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posted by 長尾大志 at 19:20 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月26日

長い長い結核の話30・今日の症例

元々基礎疾患として喘息のある患者さん。
上肺野主体の浸潤影が生じ、微熱、咳なども認めました。


他院にかかられ、一般抗生剤使用しましたが効果がなく、
胸部X線写真などから「結核」と診断され、抗結核薬開始されました。


病状は当初少し軽快したものの、一進一退で、1年ほど投薬を継続されていましたが、結局よくならない、とのことで当科に紹介されました。


胸部X線写真、CTはご覧の通りです。


080716CR.jpg

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持参された血液検査の結果を見ると、末梢血の好酸球が20%。
これは…!?


さて、鑑別診断は?
経過での問題点は?


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posted by 長尾大志 at 11:34 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月25日

長い長い結核の話29・エピローグに換えて・レッドデータブックの意味

興味のない人にとっては苦痛であったかもしれない結核の話を長々と続けて参りました。日常臨床では、そうお目にかかることはない、しかしお目にかかるときは結構慌ててしまう、そんな疾患について、一度は理解を深めておかれるとよいのではないでしょうか。


さて最後に、少し見方を変えたお話を。



レッドデータブックってありますね。

絶滅危惧種、主に人間の乱獲や、人間が環境を変えたことによって、絶滅に瀕している生物を集めているのですが。


例えばトキとか、あと何羽、みたいなことになってから、突然人工授精してみたり、過保護にしたりするわけです。


生物の多様性が失われるのは地球環境にとってよくない、ということのようです。


一方で、古くは天然痘が地球上から根絶されたとき、人類は喝采をあげました。
おそらく結核菌も、(まだまだ先でしょうが)絶滅することになれば、人類は喝采をあげるでしょう。
ゴキブリだって(まあ、人類より先に絶滅することはないでしょうが)。


じゃあ、彼らは絶滅してもいいのか。
絶滅してもいい生物種と、絶滅させてはいけない生物種は、どこで線を引くのか。


考え出すときりがないお話であります。


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posted by 長尾大志 at 10:13 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月24日

長い長い結核の話28・結核治療の「特にINHに関する」歴史について

日本では、諸外国に比べて、妙にINH耐性の結核菌が多いといわれています。率でいうと4%程度の耐性率だったりします。
それはなぜか。

ちゃんと歴史的な、理由があるのですね。


INHという薬は、長い長い結核の話26・抗結核薬についてで書いたように、すぐれた抗結核作用を有している割に副作用が比較的少なく、投与が容易であること、安価なことから、結構安易に使われていた事実があります。


例えば、菌は出ていない(結核ときっちり診断がついていない)けれど、なんかそれっぽい陰影があるから、まあINHだけ投与して様子を見ようとか。


例えば、塗抹陽性結核で入院が必要だが、患者さんの都合で今日すぐに入院できない。じゃあ入院まで数日あるから、その間副作用の少ないINHだけでも投与しておこうかとか。


例えば、6ヶ月治療が済んだけど、まだ塗抹陽性で、生存菌がいるかもしれないから、INHだけでもしばらく投与して様子を見ようとか。



こんな風に、念のため〜とか、じゃあちょっと〜とかいう安易な単剤投与が、昭和の時代にはすごく多かった。そのために、日本全国で、耐性菌が生み出されてしまったのです。


耐性菌機序.jpg


まさにこの図の理論通り、自然耐性菌が選択されて、耐性を獲得してしまったわけです。

INHの自然耐性率は100万個に1個、つまり0.0001%なのが、4%=4万倍にまで煮詰められてしまったわけです


まあこれは日本に限ったことではなく、MRSAにしても耐性肺炎球菌にしても、同じようなことを人類は繰り返していますが、日本で抗生剤が多く使われていることも確かで…。


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posted by 長尾大志 at 15:04 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月23日

長い長い結核の話27・結核治療の歴史について

結核の治療について考える場合に、歴史を知っておくと理解が深まります。


結核の化学療法はストレプトマイシン(SM)より始まりました。
だいたいの開発、発見の歴史は以下の通りです。


昭和19年(1944年)SM発見
昭和21年(1946年)PAS合成
昭和27年(1952年)INHに抗結核作用発見、PZA発見
昭和36年(1961年)EB発表
昭和41年(1966年)RFP開発
昭和46年(1971年)INH、RFP併用による短期化学療法が提唱。日本でも使用可能となりました。


終戦後の昭和20年代には、結核に「肺浸潤(肺結核)」「肋膜、肋膜炎(結核性胸膜炎)」などという病名がついていて、治療といえば「大気、安静、栄養」。空気のよい療養所に長期間入院させて、寝かせておくしかない、そういう時代でした。治療薬にもSM+PASしかなく、しかもしばらくは入手困難だったので、治療というにはほど遠い状況だったようです。


ですから、その頃結核にかかった患者さんは、ほとんど自分の免疫力で結核を治癒させていたのです。それができないほど弱っていた人はお見送りするしかなかった。胸郭形成術や気胸療法といって、病変のある肺を機械的につぶすことで菌の量を減らすという治療ともいえないような治療が普通に行われていました。


ですから、治癒したといっても、菌が結構たくさんいる状態で病変が固まったような感じです。また、結核を発病した患者さんから菌がたくさんばらまかれて、多くの人が感染をしていた。まさに結核蔓延期でした。


その頃の呼吸器科医の仕事は、当然ほとんどが結核の相手。まあ、ごほごほ咳をしていれば結核、胸部X線写真で肺に影があれば結核、喀血したら結核、と言っておればいい時代でした。診断学的に迷うことはほとんどなかったと言ってもいいでしょう。


そしてそれは、INH、EBが使用されるようになって少しずつ改善していましたが、この状況を根底から覆したのは、なんといってもRFPの登場です。


ある程度治療を行った後には、徐々に病巣が硬化してきます。この中には半休止菌という、通常とは異なる代謝状態にあって増殖をしない菌が少量生き残っています。厄介なことに、それまでの抗結核薬は、活発に活動している菌の細胞分裂を止めるような働きであったため、そういう菌には効果が薄く、その分長期間にわたる治療が必要であったわけです。

RFPはそのような半休止菌に対しても効果があり、INHとの併用によって、菌陰性化率は急上昇。治療期間も一気に短くてすむようになりました。


そう、RFPが広く使われるようになった昭和46年(1971年)以降、はじめて殺菌という意味での結核治療が行われるようになったと言えるのです。ですから、結核治療を受けたといっても、昭和46年以前に治療を受けたのと以降の治療とでは、かなり意味合いが異なる、ということを意識しておく必要があります。


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posted by 長尾大志 at 18:59 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月22日

長い長い結核の話26・抗結核薬について

それでは、主な抗結核薬について見ていきましょう。


INH:イソニコチン酸ヒドラジド・イソニアジド

すぐれた抗結核作用を有し、副作用が比較的少なく投与が容易であること、安価なことから、今日の多剤併用結核治療の柱となる薬剤です。経口薬のみならず筋肉注射用薬もあり、経口投与困難な場合にも使えます。

主な副作用:肝障害・末梢神経障害があります。末梢神経障害の予防と治療にはビタミンB6補充が行われます。

投与が容易であることから、INHのみを安易に使用されていた時代があり、日本におけるINH耐性株の割合が高率である原因となっています(詳しくはまた触れます)。


RFP:リファンピシン

すぐれた抗菌作用があり、これまた比較的副作用が少ないことから結核治療のもう1本の柱となる薬剤です。
INHが無効である「持続生残菌」に対してもすぐれた殺菌効果を示しますので、INHとの併用はベストカップルなのです。単独で使用すると、すぐに耐性を発現させてしまうために、単剤での使用はしません。唯一の例外は、INH耐性結核患者に接触した潜在性結核感染症治療の時です。

カプセルがどぎつい赤色で、尿が赤くなったり、汗が赤く着色したりします。患者さんの大多数が、びっくりされますのであらかじめ説明が必要です。


主な副作用:肝障害・アレルギー(発疹・発熱・血球減少など)などがあります。
また、薬剤代謝酵素誘導作用のため、他薬剤との相互作用が結構あります。多くは併用薬剤の血中濃度を下げるので、併用禁忌や併用注意に注意しましょう。



SM:ストレプトマイシン

消化管より吸収されず、筋肉注射によって生体内でほとんど代謝を受けずに糸球体濾過により排泄されます。注射薬しかないため、退院したあとも継続する、というのはハードルがやや高く、最近ではあまり使われていないようです。耐性結核や非結核性抗酸菌症の治療で存在感があります。

副作用:第8脳神経障害と腎障害があります。75歳以上の高齢者には使わない方がいいです。また、腎機能が低下している症例には昔から禁忌といわれています。第8脳神経障害は不可逆なので、できるだけ早く兆しを見つけて中止すべきです。



EB:エタンブトール

副作用として視神経障害があります。初期には視力というよりも視野が損なわれるといわれていて、新聞を広げて端の方が見えるか毎日チェックするよう患者さんに指導したものです。

また、この視神経障害はある程度可逆的であるといわれていますが、それでも度を超すとダメですので、やはり早期発見が大切です。



PZA:ピラジナミド

結構重症になる肝障害のために一時ほとんど使用されなかったのですが、初回治療結核に対する治療期間の短縮に重要な役割を果たすことがわかって注目を浴びました。以前よりも少ない量でOK、となったこともあり、以前よりは肝障害は少ないようです。


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posted by 長尾大志 at 12:09 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月20日

長い長い結核の話25・結核の治療継続について

初回標準治療の効果は絶大で、2週間投薬しただけで、咳は1/10に、排菌は平均1/1000(1/100〜1/100万)にもなるといわれています。


つまり、治療は最大の感染対策といえるのです。できるだけ早く診断をして、できるだけ早く治療を開始することが、結局周りへの感染、結核の蔓延を防ぐことになるのです。


逆に治療開始が遅れれば遅れるほど、周りに移す可能性が高くなり、大変な影響があります。医師の診察を受けているのに結核という診断に至らず、治療開始が遅れることをDoctor’s delayといいますが、そういうことのないよう気をつけたいものです。



感受性菌に対し、4剤で開始し標準治療を完遂できた症例についてはほぼ再発はないとされていますが、途中で治療をdropoutした症例や、耐性菌であったりした症例では再発の危険があり、注意が必要です。


そう、結核治療で最も大切なことは、開始した標準治療をきちんと決められた期間遂行し、終わらせること。

そのために、1日1回投与にしたり、DOTS(directly observed treatment with short course:医療者、あるいは保健機関の誰かが見ている前で確実に内服させること)を行ったりという工夫をしているのです。

なお現在では初期の4剤治療×2ヶ月の間は毎日服薬し、その後のINH+RFP×4ヶ月の期間(維持期といいます)は、週2回、または3回にしてでも、DOTSをして確実に服薬させる、というやり方(間欠法)も導入されています。特にコンプライアンスに問題がある、目を離していると薬を飲まなくなるような方々が対象になります。

維持期においても、短期間で止めてしまうよりは、間欠的であっても長期間内服した方がよいのですね。


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posted by 長尾大志 at 11:57 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月19日

長い長い結核の話24・結核の標準的治療法について

それでは、標準療法の紹介です。これまでにもいくらか細かい点で変更はあったのですが、現在のところは下の治療がスタンダードです。


A法(普通はこちら)
INH, RFP, SM (orEB), PZAの4剤をを2ヶ月間投与、
その後、 INH, RFPの2剤を4ヶ月間投与、計6ヶ月間で治療を終了する。


B法
非代償性肝硬変、AST、ALTが基準値の3倍以上で経過する慢性C型肝炎、高齢(80歳以上)、などで、薬剤性肝障害を合併したときに重篤化が予想される場合にはPZAを使わないでおくため、3剤併用からスタートします。

INH, RFP, SM (orEB)の3剤を2ヶ月間投与、
その後、 INH, RFPの2剤を7ヶ月間投与、計9ヶ月間で治療を終了する。


要するにあくまで、結核をきっちり治すためのスタンダードは当初4剤併用6ヶ月で、最初の治療に4剤使えない場合には、3ヶ月間長めに治療することでそれを補おうという考え方なのです。


それ以外に、以下のようなケースではA法、B法いずれの場合でもさらに3ヶ月間治療を追加します。


  • 広範な空洞を有して菌量が極端に多いと思われる例

  • 粟粒結核などの重症例

  • 初期2ヶ月の治療終了後も培養陽性である例

  • 糖尿病、じん肺など、免疫抑制を来す疾患の合併例

  • ステロイドなど、免疫抑制治療中の例




最初だけ4剤で、あとになると2剤でいいのはなぜか?

それはもう、治療開始時の菌量が多いから。
2ヶ月間4剤投与すれば、ぐんぐん菌は減って、その後は2剤で事足りるというわけです。


最初の2ヶ月は、初期の急性炎症であり、病変部は酸性の組織です。で、PZAという薬は酸性組織下の菌にのみ効果があるという特異性があり、治療開始して3ヶ月も経てば組織は中性〜アルカリ性となるため、もはやPZAは効果を発揮しないという面もあります。

ですから、特にPZAは初期のみの併用薬として使われるわけです。



また、治療は何よりもコンプライアンスといいますか、ちゃんと治療終了まで薬を飲む、ということが重要ですので、原則として1日1回投与になっています。


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posted by 長尾大志 at 09:24 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月18日

長い長い結核の話23・結核の治療についての大原則2・耐性菌出現の機序

治療の大原則はもう1つあります。それは、耐性菌の出現を防ぐため、単独ではなく複数の薬を組み合わせて使用するということです。


同じ薬をずっと使っていると、その薬が効かない菌がだんだん増えてくる、これを薬剤耐性といいますが、結核は治療が長期にわたるため、この耐性が出やすいようです。



結核菌がたくさんいる病巣の中には、1万分の1〜数億分の1の割合で必ず何らかの薬剤に対する自然耐性菌が含まれています。


空洞をもつ病変内には1億〜10億個程度の結核菌がいるわけで、1億の1万分の1としても1万個の自然耐性菌がいることになります。


で、抗結核薬を単独で使用すると、使用した薬に対する自然耐性菌が生き残り、最終的にはその患者の菌がほとんど「その薬の耐性菌」になるのです。
これが薬剤耐性を『獲得する』メカニズムなのです。


耐性菌機序.jpg


そんなわけで、耐性菌の出現を防ぐためには単独ではなく、最低2剤の薬が必要となります。はじめから耐性菌の感染である可能性や、病巣内の菌量がきわめて多い可能性もあるので、3剤以上の使用が望ましく、現在日本での標準治療は、当初2ヶ月間は4剤!併用となっています。


少なくとも、3剤使うと…

1万分の1×1万分の1×1万分の1=1兆分の1ですから、

10億個菌がいても大丈夫!となりますね。


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posted by 長尾大志 at 09:16 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月17日

長い長い結核の話22・結核の治療についての大原則

ここまでずいぶん時間がかかりましたが、いよいよ結核の治療について取りかかりましょう。


治療の大原則は、ずいぶん前に書いたような気がする、結核菌の特徴とそれによって臨床的事項を理解するを思い出して下さい。思い出せない人はクリックしましょう。


結核菌は細胞分裂速度が遅く、増えるときはゆっくりと増えますが、減るときもゆっくりと減るという性質があります。1個の菌が2個になるには15時間かかるのですが、大腸菌では20分くらいしかかかりません。


つまり、結核という病気自体、進行は比較的ゆっくり、慢性に起こってくるということ。そして治療開始して効果が出てきても、症状改善に時間がかかり、治療期間も長期間にわたるということを理解する必要があります。


ですから他の一般細菌感染症と異なり、ある程度長期間(最低半年以上)薬を使って治療する必要があります。


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posted by 長尾大志 at 10:28 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月16日

長い長い結核の話21・潜在性結核感染症治療(予防内服)について

2007年から結核予防法が廃止され、改正感染症法によって結核対策が行われています。その中で、以前は「予防内服」とよばれていたものが「潜在性結核感染症の治療」というふうに変わりました。


かつては発病を防ぐという意味で「予防」となっていたものが、今では感染している菌を殺す治療、という意味で「治療」といわれるようになった、ということです。


まあ本質的には同じことで、最近結核菌に感染したと思われる(接触した)若者?の発病を防ぐ目的で行われる治療です。


すなわち、排菌患者さんとの明らかな接触があり、QFT-Gが陽性の若者は、このままにしておくと将来10%程度発病する恐れがありまして、抗結核薬をあらかじめ内服しておくことで将来の発病を予防することができる、というものです。



ちなみに若者って何歳まで?ということですが、自分が若いと思っていれば、何歳でもよいようです…。冗談はさておき、実は現在、潜在性結核感染症治療に年齢制限はありません。

そもそもなぜ「若者」かといいますと、かつての高齢者はほとんどの方が、元々結核菌に感染していたということがあります。接触したからといって殊更に予防内服をしなくても、どうせ持ってるじゃん…ということでした。


また、抗結核薬の副作用、特に肝障害が、高齢の場合頻度が高い、ということもありました。発病者の治療については、ある程度許容されるとしても、発病していない人に対する投薬で肝障害が起こるのはいかがなものか、ということがあったわけです。


というわけで、「予防内服」の時代には、それ(予防内服)を受ける条件は29歳以下となっていたわけです。


でも今や、ある程度の年齢でも「元々」結核菌を持っていない人の方が多く、新たに感染したときに将来の発病を予防する、ということには意味がありますから、年齢制限はなくなったのですね。

とはいえ、高齢者はやはり、副作用などの問題から対象にはなりにくいと思います。



さて具体的な治療法ですが、潜在性結核感染症というのは発病していないわけですから、このときは体内の菌量はごく少量であるわけです。ですから発病してからの治療とは異なり、抗結核薬は一剤でOKです。



わが国では、明らかに最近感染を受けた(接触歴があり、QFT-G陽性である)主に若年者に対して、INH 5mg/kg(成人:最大300mg/日)、または8〜15mg/kg (小児:最大300mg/日)の予防内服を6〜9ヶ月間行う、ということになっています。


接触した排菌患者がINH耐性であった場合は、RFPを使って治療を行います。


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posted by 長尾大志 at 18:13 | Comment(17) | 長い長い結核の話

2011年08月15日

長い長い結核の話20・QuantiFERON-TB(QFT-G)について

QuantiFERON-TB-Gold(QFT-G/QFT-3G)は商品名で、一般名はIGRAs(interferon gamma release assays:インターフェロンガンマ放出試験)といいます。


ツベルクリン反応が生体の遅延型過敏性(W型アレルギー)の強さを評価する皮膚反応であるのに対し、QFT-GはIFN-γを直接定量する血液検査である点で、原理としてはまったく異なる検査です。

潜在する結核感染診断に使われるという意味では、同じ目的の検査であるとも言えますが…。


結核菌の抗原蛋白(ESAT-6, CFP-10, TB7.7)を患者さんの血液に加えると、患者さんのTh1リンパ球が抗原を認識してIFN-γを産生します。その産生されたIFN-γの量を測定する検査なのです。


この検査のミソは、使用する抗原蛋白がヒト結核菌由来のものである点です。BCGや非結核性抗酸菌など、結核菌以外の抗原では反応せず陰性になりますから、ツ反で問題になった「BCGによる陽性」がなく、より特異度が高いということになります。



問題点としてはツ反より価格が高いという点が挙げられますが、(お金持ちの?)日本では接触者健診などにおいて、ほとんどツ反に取って代わっていると言えます。


ただ、過信は禁物です。あくまでQFT-Gは、結核菌感染の有無を判定するツールであり、発病しているかどうかを判定するものではありません。しばしば臨床の現場で、「肺結核の診断」に使われているのを見ますが、肺結核の診断はあくまで痰の中に結核菌を証明することが王道であり、QFT-Gは補助ツールであるべきだと個人的には思います。


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posted by 長尾大志 at 09:48 | Comment(2) | 長い長い結核の話

2011年08月13日

長い長い結核の話19・ツベルクリン反応についてもう少し

ツ反は日本人の結核感染を確認するために用いると、感度、特異度ともに低く、使い物にならないのが現状です。


排菌陽性患者の9%がツ反陰性であり、
粟粒結核患者においては70%がツ反陰性であるとのデータがあります。
結核なのにツ反陰性の人は結構いるのです。


粟粒結核になるということは、結核に対する細胞性免疫が低下しているわけで、そういうヒトではツ反陰性になる、当たり前といえば当たり前ですね。



日本人ではツ反は基本的に陽性であるため、以前と比べて発赤径が明らかに大きくなっている、または絶対値が大きい場合、陽性として意味があるとされています。

しかしこれもあくまで、「結核かどうか」ではなく、「感染しているかどうか」の指標であることに注意が必要です。疾患の診断には使えません。




感染は発病とは違う、と言っていたのに、どうして感染かどうかを判定する必要があるんだ?と思われるでしょう。
実は感染を疑った場合、潜在性結核感染症治療(INH予防内服)の適応となりうるのです。


具体的には、例えば結核患者さんに接触した人で、以下のような基準を満たす場合にINH予防内服(潜在性結核感染症治療)を考慮する、といった具合です。



<BCG接種済みの人における一応の基準>

・長径40mm以上、または硬結20mm以上は感染を疑う。
・患者と明らかな接触があった場合、長径30mm以上、または硬結15mm以上で感染を疑う。径が小さくても水疱、壊死などの副反応は重要。



しかし、近年では、感度・特異度ともに問題のあるツ反ではなく、クォンティフェロンに代表されるインターフェロンガンマ放出試験を用いて結核感染の有無を判定することが多くなってきています。ツ反は主に、5歳未満の小児(クォンティフェロンの感度が低いため)にもちいられるようになってきています。


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posted by 長尾大志 at 11:34 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月12日

長い長い結核の話18・ツベルクリン反応について

ツベルクリン反応(ツ反)について、なかなかちゃんと学ぶ機会は少ないと思いますので、この機会に知識を付けておくとよいでしょう。


そもそも、小学校とかで、ツ反をやった記憶はあるけど、結果がどうであったか覚えている人はあまりいないでしょう。また、結果の意味がわかっている方はもっと少ないと思います。


あなたは、陽性でしたか?陰性でしたか?


ツ反は結核菌の蛋白抗原に対するT細胞性免疫反応を見る検査です。

精製ツベルクリン(ヒト型結核菌株の培養濾液を殺菌、濃縮、塩析し凍結乾燥した原末)の溶解液0.1mlを左前腕の皮内に注射します。すると、T細胞が集まってきて炎症が起こり、注射局所が赤く腫れてきます。


ツ反結果.jpg


接種してから48時間後に観察し、長径が10mm以上あれば陽性、9mm以下だと陰性です。


陽性の中でも特に反応の大きなものは、二重発赤や水疱、潰瘍が生じ、強陽性とします。そこまでは行かなくても、硬結の生じたものを中等度陽性とします。



ツ反は結核菌の蛋白抗原に対する(T細胞性)免疫が成立しているかどうかを見る検査なのですから、普通に考えれば、結核菌が感染していれば陽性、感染がなければ陰性、ということになります。実際、欧米ではツ反をそのように「結核菌感染の有無」を判定する目的で使用しています。


しかしながら、日本では乳児期にBCGを接種し、T細胞性免疫が成立してしまっているため、日本人のほとんどはツ反陽性となってしまうのです。逆に陰性だと、結核に対する細胞性免疫が弱いということになってしまいます。


つまり、日本においてはツ反陽性であっても結核感染があるかどうかはわからないことになります。

実は、BCG接種後、正しく「ついている」かどうかを判定するために、小中学生のツ反が行われていたのです(ちなみに現在は行われていません)。結核感染を確認する目的に用いると、感度・特異度ともに低い検査であるということになります。


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posted by 長尾大志 at 12:21 | Comment(2) | 長い長い結核の話

2011年08月11日

長い長い結核の話17・ワクチンの原理と結核菌の予防・BCGについて

ワクチンの原理はどのワクチンでも同じです。


人体においては(ヒトに限ったことではありませんが)、一度も経験したことのない菌に対してはうまく免疫機構が働かないことも多いのです。でもあらかじめ、病原体の一部でも体内に入っておれば、それに対して「慣れておく」ことができ、実際菌が入ってきたときに「うまく」対処できると考えられます。すなわちワクチンとは、病原体(の一部)を体内に入れておく作業なのです。


ですから、擬似的にその病気にかかったような症状を呈することもあるわけです。例えばインフルエンザワクチンを接種すると、熱が出たり関節痛が生じたりといったインフルエンザ様の症状が出るわけです。
(そもそも、インフルエンザの症状のほとんどが、ウイルス排除のための生体反応ですから)


結核のワクチンといえば、BCG。これはBacille bille de Calmette et Guerin(カルメット・ゲラン桿菌)の略で、ウシ型結核菌を継代培養して得られた、動物に病原性のない菌株なのです。これを接種しておくことで、T細胞免疫を賦活しておくのです。


ちなみにエビデンスとしてはなかなか苦しいところでありますが、小児の髄膜炎にいいというデータがあるようです。なお、先進国でBCG接種を行っているのは日本ぐらいです。明日以降述べるツ反の解釈を考える際に、この日本独自の習慣が問題になってくるのです。


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posted by 長尾大志 at 09:11 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月10日

長い長い結核の話16・結核を疑った場合の喀痰検査(塗抹・培養・PCR)の解釈と流れについて

これまでの話について、患者さんを診る医師の立場で流れをまとめます。


咳、痰、微熱、倦怠感、体重減少などを主訴に患者さんが受診します。

     ↓

胸部X線写真を撮影し、空洞を伴う結節影や粒状影(結核を疑うような陰影)を確認。

     ↓

喀痰検査(抗酸菌塗抹+培養)×3+PCR×1をオーダー。

(痰の塗抹・培養検査は感度が低いため、3日連続で採ります。PCRは感度もよく、数日で結果が出るため使い勝手がよいのですが、お値段が高いため、3日連続といった出し方はできず、3日のうち1回だけの施行となります。)

     ↓

塗抹陽性の結果。
主治医が胸部X線写真などから「結核らしい」と診断すれば、この時点で届け出。
治療開始となります。

     ↓

数日後、PCRにて、Tb陽性の結果。
遅くともこの時点で、治療開始です。

     ↓

1週間程度経過し、液体培地で培養陽性。これは、「ふむふむ」と思っておきます。
通常、ここから小川培地に植え替え、培養継続し、菌種の同定や薬剤感受性検査を行います。

     ↓

最終的に菌種の確認。これは2ヶ月程度かかります。
そしてさらに幾ばくかかかって薬剤感受性検査結果。
これで使用薬すべてに感受性があれば、このまま治療継続でOK、という流れになります。


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posted by 長尾大志 at 12:29 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月09日

長い長い結核の話15・結核菌培養陽性とは

痰の1滴を培地に塗りつけ、生えてくる菌を観察します。
培地に菌が生えてきたとき、培養陽性といいます。


痰1mlあたり200個菌がいれば陽性になるといわれており、1mlの痰に5千〜1万個の菌が必要な塗抹検査よりも感度は高いです。

また、生きている菌しか生えてきませんので、死菌をカウントする間違いもありません。

培養した菌の遺伝子を用いて菌の同定もでき、培養した菌を用いて薬剤感受性もわかります。


しかしながら、最大の欠点は、「時間がかかる」ということ。
昔ながらの小川培地で、4〜8週間かかります。


迅速に生えてくるといわれている液体培地でも、1〜2週間はかかります。
しかも、液体培地は一般細菌のコンタミがありますので、確認にまた時間がかかるのです。
(小川培地は抗酸菌しか生えません)


ですから、塗抹検査と必ずセットでオーダーします。
上記のような事項をよく理解した上で、正しく結果を解釈しましょう。


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posted by 長尾大志 at 07:45 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月08日

長い長い結核の話14・結核菌塗抹陽性とは

痰をスライドグラスに塗りつけてZiehl-Neelsen染色し、顕微鏡で見たときに、オレンジ色に染まる抗酸性物質が見えた場合、塗抹陽性といいます。


最近では、Ziehl-Neelsen染色より抗酸性物質が浮き上がって見えるため見つけやすく、低倍率でよいためスクリーニングに適した蛍光法がよく使われます。


痰のほんの1滴をスライドグラスに塗り広げるわけですから、1mlの痰のなかに5千〜1万個の菌が存在して、初めて菌が発見できる、つまり塗抹陽性になるといいます。



Gaffky(ガフキー)号数とは、塗抹標本を顕微鏡で見たとき、どのくらい見えるかの目安(0〜10号で表す)です。


0号 全視野に 0個
1号 全視野に 1〜4個
2号 数視野に 1個
3号 1視野平均 1個
4号 1視野平均 2〜3個
5号 1視野平均 4〜6個
6号 1視野平均 7〜12個
7号 1視野平均 13〜25個
8号 1視野平均 26〜50個
9号 1視野平均 51〜100個
10号 1視野平均 101個以上(無数)



ガフキー号数は細かすぎて意味がないとか、スライドグラスへの塗りムラで変わってくる、という理由から+、++、+++という3段階の簡便法もよく使われます。


+:1〜2号
++:3〜6号
+++:7〜10号

に相当します。



ちなみに喀痰を直接染色して顕微鏡で観察する塗抹検査では、塵や非定型抗酸菌(抗酸菌の20%以上を占める)も陽性にでてしまうため、「Gaffky陽性・塗抹陽性」=結核とはいえません。


菌種の確認には喀痰PCR法、MTD法、培養検査が必要です。多くの場合は数日遅れで結果が出るPCRの結果で最終的に診断しています。ただ、公衆衛生的な考え方でいうと、早めの隔離が望ましいため、レントゲンがそれっぽいときは、塗抹陽性の時点で届け出するのが望ましいようです。


そう、結核は2類感染症であるので、診断したら直ちに届け出なければなりません


また、結核治療中には痰の中に多量の死菌が排出されますが、塗抹だと死菌もカウントされますので、治療後の患者さんで陽性になることもあります。



このようにいくつか注意する点はありますが、(院内で検査できれば)染色して1時間程度で結果が出る迅速性は魅力です。正しく理解し、正しく使いましょう。


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posted by 長尾大志 at 09:48 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月05日

長い長い結核の話13・結核を周りの人にどの程度うつすかの目安

結核の感染率は昨日も書きましたが、

  • 患者さんの同居家族:25〜50%

  • 親戚や親友、つまり時々会って顔を近づけて話す人で2.5〜5%

  • 同僚、友人など、会ったときにも距離のある人で0.25〜0.5%


程度の割合とされています。



感染のしやすさは、

・ばらまかれる菌の数が多い
・感染源(患者さん)から出た飛沫を多く吸い込む

ほど高くなります。


つまり、痰の中に含まれている結核菌の数が多いほど・また接触時間が長く接触時の患者さんとの距離が近いほど、感染の危険性は高くなるのです。



これらの指標を数字で表してみると、「どの程度」感染していそうか、の目安になります。


感染源としてのリスクは、痰の中にどの程度菌が含まれるかで、以下のような目安があります。


塗抹・培養陽性 10
塗抹陰性・培養陽性 2
塗抹・培養陰性 1


つまり、塗抹・培養陽性の場合、いずれも陰性の場合に比べて10倍感染しやすいということです。ですから、痰の検査で塗抹陽性の場合は入院が必要というわけです。



周りの人にどれだけうつしているであろうか、という観点からは、感染危険度指数というものがあります。


これは、ガフキー号数×咳をしていた月数のかけ算で、


0:その他
1−9:重要
10以上:最重要


となっています。


つまり、ガフキー0号では危険度は無視できるが、ガフキー10号の人が1ヶ月間咳をしているともうそれは周りにうつっている可能性大ということ。


ガフキー2号でも、5ヶ月間咳をしていれば(診断されていなければ)、周りにうつっている可能性は大きいということになります。



感染を防ぐもっとも確実な方法は、「近づかない=隔離」ことですから、痰の塗抹陽性の場合は、周りの人にこれ以上うつさないため、入院が必要ということです。


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posted by 長尾大志 at 09:21 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月04日

長い長い結核の話12・咳と飛沫と飛沫核と感染

結核を発病した患者さんは咳をされます。すると、増殖した結核菌は痰にのってどんどん喀出され、新天地を求めて外界へ飛び出します。


このときに出るしぶきを飛沫といいますが、だいたいこのぐらいは出ているそうです。


  • 会話 200個

  • 咳 3,500個

  • くしゃみ 4,500〜1,000,000個



100万個!といえば、餃子の王○が1日に作る餃子の数と同じ…って、
多いのか少ないのか、わかりにくいたとえでスミマセン。


咳やくしゃみが、いかに多くの飛沫をばらまいているのかをイメージしていただければと思います。


飛び出した飛沫核の大きさは、5μmという、気管支に沈着しやすい大きさであり、次の宿主の気管支内に入り込み沈着することで「感染」が成立します。


この感染率については以前にも書きましたが、

  • 患者さんの同居家族:25〜50%

  • 親戚や親友、つまり時々会って顔を近づけて話す人で2.5〜5%

  • 同僚、友人など、会ったときにも距離のある人で0.25〜0.5%



程度の割合で感染するとされています。
感染する率というのは、実はそれほど高くありません。



医療従事者の感染予防のためにはN-95マスクを装着します。
結核以外にも麻疹、水痘といった空気感染をする感染症治療にあたってはN-95マスクを装着するのです。


これは微粒子も通さないマスクですが、患者さんには、飛沫が飛び散るのを防止する目的で、普通のマスク(サージカルマスク)を装着していただきます。


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posted by 長尾大志 at 09:21 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月03日

長い長い結核の話11・一次結核と二次結核

戦後すぐの結核蔓延期に青春時代を過ごされた、多くの高齢者の体内には、結核菌がぬくぬくと暮らしています。


多くの方はそのまま、結核菌が目覚めることなく寿命を迎えられるのですが、結核菌を持っている(感染が成立している)方のうち10%程度は、免疫力の低下とともに結核菌が目を覚まし、発病します。


このような(通常よく見られる)発病のカタチを二次結核といいます。


二次があれば一次もあるわけで、結核菌が体内に入ってすぐに発病するカタチを一次結核と言います。


一次結核になる場合というのは、結核菌が体内に入ったときにしかるべき処理をするための免疫力がない、例えば乳幼児とか、高齢者であるとか、HIV感染とかの理由があるときです。


この場合、通常の、乾酪壊死を作って空洞を作って…という肺結核のパターンを取らず、
肺門リンパ節腫大や胸膜炎、あるいは粟粒結核や髄膜炎といった肺外結核を来すのが特徴です。


それに対して二次結核では、よく見られる空洞病変や小葉中心性粒状影といった、肺病変が中心となります。


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posted by 長尾大志 at 11:17 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月02日

長い長い結核の話10・県別の統計

日本国内でも、県によって罹患率に差があります。

罹患率の低い県は、以下の通り。


  • 長野県 10.4

  • 山形県 10.5

  • 山梨県 12.2

  • 岩手県 14.1

  • 群馬県 15.1



やはり、お隣の家、部屋が遠い県では、患者さんが発生してもなかなかうつらないのでしょうか。


罹患率が高いのは、皆さんの想像通り…。


  • 大阪府 41.2

  • 東京都 30.4

  • 兵庫県 29.0

  • 佐賀県 27.3

  • 鹿児島県 26.2



○○地区を有する大阪がやはり断トツです。
2位、3位も、人口の密集を考えると納得できますね。

4位、5位はなぜでしょう。
呼吸器科医が少ないのか、保健師の数とかも関係あるのか…。


いずれにしても、上位8都府県で全国の56%の患者さんが集中しています。
集中的な感染予防対策が求められているところです。


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posted by 長尾大志 at 18:06 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年08月01日

長い長い結核の話9・結核という疾患の基礎事項

疫学の話です。


昨今でも世界的に見て、結核というのは決して「終わった」疾患ではなく、今そこにある解決すべき問題として厳然と存在します。


で、どこで問題になっているかというと、主に途上国。HIV感染症に関連して感染が拡大しています。


WHOの統計によりますと、全世界では…。

毎年920万人が結核に罹患し、170万人が死亡。
(20年前は800万人が罹患し、死亡が300万人)
感染者は20億人(人口の1/3)、20年前は17億人という、途方もない数字です。



おそらく感染の拡大という点では、居住環境が整備されていないというのが大きいのでしょう。大家族で一部屋に住んでいるとか、隣の人が薄壁一枚しか隔てていないとか、誰かが咳をすると、容易に傍の多くの人が飛沫核を吸い込んでしまう、という環境ですね。


で、日本も、かつてはそういう時期がありました。第二次世界大戦後、終戦後ですね。多くの都会は廃墟となり、バラックのようなところに居住。そして、栄養状態も不良と、結核が蔓延する要素がそろっていました。


その当時は、日本人の大半は結核菌に感染していたといっても過言ではありません。


1950年(終戦後5年)の統計では、年齢別結核感染率が

1歳 2.9%
20歳 54.3%
40歳 79.5%
60歳 90.8%
70歳 93.8%


つまり、1歳時点で感染している国民はさすがに少ないものの、周りの大人からどんどん菌をもらい、20歳時点で既に2人に1人は結核菌に感染していて、60歳になる頃には日本人の9割が感染しているという、大変な状況であったわけです。


で、一度感染が成立すると菌は居座りを決め込みます。
出ていかない。


40年後の1990年の統計を見てみましょう。
すっかり都市化され、新規の感染、菌の伝搬はかなり起こりにくくなっている状況です。


1歳 0.06%
20歳 2.6%
40歳 22.7%
60歳 64.8%
70歳 76.4%


1950年に20歳であった人が60歳になっています。40年で54.3%が64.8%と、少し増えていますが、多くの方は元々入っていた菌を持ち越されているわけです。

1990年の20歳は2.6%で、40歳の感染率も低下してきています。
感染率が低下すれば、発症する患者数も低下し、新たに感染する人も減りますから、今後時間の経過とともに、日本国民全体の感染率は低下すると思われます。


つまり、戦後すぐは途上国であった日本が、その後急速に発展して、経済的には先進国の仲間入りをしたわけですが、結核の感染率・罹患率で見ると、いまだ途上国レベル、まだまだ発展途上ということになります。


ちなみに、いわゆる先進国の2003〜2004年の罹患率(人口10万人あたり)は、以下の通りです。

スウェーデン 4.3
オーストラリア 4.8
米国 5.1
イタリア 7.4
オランダ 7.9
フランス 9.5
英国 10.8
デンマーク 7.0
ドイツ 7.9
日本 23.3


あとどのくらいで先進国の仲間入りができるのでしょうか…。


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posted by 長尾大志 at 09:20 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年07月29日

長い長い結核の話8・結核菌の特徴とそれによって臨床的事項を理解する

ここで、結核菌の特徴をまとめておきましょう。


結核菌は脂質に富み、一旦染色されると酸では脱色されない抗酸性を持った菌です。最後に酸で脱色するチール・ニールセン染色で色が残り、オレンジ色に浮き上がって見えるのです。抗酸性のため、胃液内でも生存できる数少ない菌です(まあ、抗酸菌はすべてそうですが…)。


菌としては好気性菌で、至適発育温度37℃、少量のCO2が存在すると発育が促進されます。このような場所は、地球上で、いや、おそらく全宇宙を探しても、ヒトの体内しかないでしょう。そうです。結核菌はヒトの体内でしか生きられないのです。

これに対して、非結核性抗酸菌のほとんどは、環境での生息が可能です。


例えば咳などで体外に出ても、飛沫核が他人の気管支に入らなければ、地面に落ちてしまい、じきに失活します。ですから、食器や衣服などの共用も、神経質になる必要はありません


ヒトの体外では長期間生存出来ないということは、感染はヒトからヒトにうつることでのみ、成立することになります。これに対して、非結核性抗酸菌ではヒト−ヒト感染は通常起こらないと言われています。



また結核菌は細胞分裂速度が遅く、増えるときはゆっくりと増えますが、減るときもゆっくりと減るという性質があります。1個の菌が2個になるには15時間かかるのですが、大腸菌では20分くらいしかかかりません。

つまり、進行も比較的ゆっくり、慢性に起こってくるということ。そして治療開始して効果が出てきても、症状改善に時間がかかり、治療期間も長期間にわたるということです


こうした特徴を知っておくことで、結核という病気の特徴を理解することができるのです。


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posted by 長尾大志 at 09:40 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年07月28日

長い長い結核の話7・結核菌の基礎事項

長いイントロ(たとえ話)から、以下のようなことがおわかりいただけたかと思います。

おさらいをしておきましょう。


結核菌が体内に入ると、通常の免疫力があるヒトの場合、「感染」が成立する。「感染」状態では他人にうつすことはない。


免疫力が低下するような状況になると、「発病」する。
「発病」すると感染力を持つ。


免疫力が低下するような状況

  • 糖尿病

  • 胃切後

  • 担癌状態

  • ステロイド使用

  • 透析中

  • HIV感染

  • 不規則な生活

  • 偏食・栄養障害・やせ

  • 喫煙・飲酒



ただし、皆が皆、発病するわけではありません。
だいたい感染者の10%、1割が発病するといわれています。


発病すると、結核菌は増殖し、病変を作る。病変は乾酪壊死巣を形成し、気管支内から壊死物質が流出することで空洞を形成する。


空洞を形成すると一気に菌量が爆発的に(1,000倍)増加し、痰にのってどんどん喀出され、新天地を求めて外界へ飛び出します。


しかし感染も、かなり率としてはよくありません。
患者さんの同居家族で25〜50%、
親戚や親友、つまり時々会って顔を近づけて話す人で2.5〜5%
同僚、友人など、会ったときにも距離のある人で0.25〜0.5%の割合で感染するとされています。


つまり感染率自体、それほど高いものではありません。飛び出す飛沫核も、ほとんどが死にゆく運命にある決死隊、という感じなのです。


仮に地球が住めなくなったら、人類はよっぽど心して移住計画を立てないと、種の保存は叶わない、ということだと思います。


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posted by 長尾大志 at 10:44 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年07月26日

長い長い結核の話5・結核菌のすごい増殖システム「空洞形成」の意味

「空洞形成」実は大変重要な意味を持っています。


空洞を形成していない病変の内部には、ある程度の大きさになるとほとんど酸素が供給されません。そのため、菌の発育に適した環境ではありません。


しかしひとたび空洞を形成すると、病変内部にまで空気(酸素)が入り込んできますから、菌は途端に元気になり、爆発的に子作りを開始し…いや、爆発的に増殖します。


爆発的ってどのくらいか、といいますと、一気に菌量が1,000倍(100万個→10億個!)にもなるとのことです。



まとめますと、


結核菌が作る病巣は気管支と交通を持ち、乾酪壊死を作るため、容易に空洞を形成する。そのこと自体が、結核菌を爆発的に増やす、たいへん理にかなったシステムである


と、いうことになります。


大自然の不思議、生命の不思議を感じずにはおられません。


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posted by 長尾大志 at 18:11 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年07月25日

長い長い結核の話4・結核菌のすごい増殖システム「空洞形成」と空洞の作られ方

「結核になると空洞ができる」皆さんご存じの通りです。
このシステムもすごく理にかなっています。



結節や腫瘤内に空洞ができるためには、2つの条件があります。

1つは、結節内部が壊死すること

そして、もう1つは、その壊死した組織が排出されるルートがあること

具体的には、気管支と結節内部が交通を持つことで、壊死組織が気管支を通じて流れ出します。


空洞.jpg


この2条件を満たす病変はそんなに多くありません。

まずは扁平上皮癌と… そして、結核、非結核性抗酸菌です。


扁平上皮癌はいいですね。
癌ですから壊死を起こしますし、扁平上皮というのは気管支の上皮ですから、そもそも気管支内に病変があります。従って、容易に空洞を形成します。


結核はどうでしょうか。
病変自体が乾酪壊死という、壊死巣を容易に形成する性質があります。そして、結核の主な病巣は気管支に生じます。従って、こちらも容易に空洞を形成します。


この「空洞形成」実は結核菌の増殖に関して、大変重要な意味を持っています。


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posted by 長尾大志 at 09:28 | Comment(8) | 長い長い結核の話

2011年07月21日

長い長い結核の話3・たとえ話「結核の発病」、続き

発病のところをもう少し、詳しく書きましょう。


ヒトの体内に入った結核菌は、通常、すぐに暴れ出すということはありません。なぜならば、怖〜いお目付役のT細胞やマクロファージたちがにらみをきかしているからです。彼らはちょこちょこ結核菌のいるところ(初感染巣)に顔を出し、「オイこら、おとなしくしてるか?変な動きをしやがったら、ただじゃおかねーぞ!」と脅しをかけています。


そうしている間は、結核菌たちも「ハイ、おとなしくしております。」と言うことを聞いているのですね。


ところが、免疫能が低下したヒトでは、そうしたT細胞やマクロファージの巡回はありません。


例えば、こういう場合です。


  • 糖尿病

  • 胃切後

  • 担癌状態

  • ステロイド使用

  • 透析中

  • HIV感染

  • 喫煙・飲酒



すなわち、こういうヒトでは結核が発病しやすいのです。


上に挙げたのは主に高齢の患者さんのケースを想定していますが、若い方でも結核を発症しやすい状況というのはあるわけです。


ハ○セ○ボンの箕○さんを思い浮かべて下さい…。
どうして相方の近○さんと同じような生活をしているのに、箕○さんだけ発病したのか。


  • 不規則な生活

  • 偏食・栄養障害・やせ

  • 喫煙・飲酒



こういう若いヒトは免疫能が低下し、発病リスクがあります(箕○さんがこのすべてに当てはまるというわけではありませんが、2番目の項目には当てはまりそうな気がします…)。



このように免疫能が低下したヒトでは、T細胞やマクロファージの巡回はありませんから、結核菌が「これはチャンスだ!」と思うのか、これは(宿主が死にそうだから)ピンチだ!」と思うのか、いずれにしても子作りに励んで暴れ出す、これが「発病」なのです。


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posted by 長尾大志 at 10:54 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年07月20日

長い長い結核の話2・たとえ話「結核の発病」

SFアニメなどでよくある?ストーリーです。


地球が汚染され、もはや人類が住むには適さなくなってしまった。
そこで人類はどうするか、というと、他に居住するに適した惑星を求めて宇宙船団を組み、旅立つのであった…。

人類の生存に適した環境を持つ惑星に到達し、そこでまた繁栄する。そこへなにやら異星人がやってきてドンパチ、とかなんとかいうストーリー、どこかで聞いたことがあるでしょう。



この話のポイントは、

〜〜〜今居住している環境が危機に瀕した場合、種の存続を図るべく、その生命集団は他の地へ旅立つのである〜〜〜

ということです。



この話の「人類」を「結核菌」、「地球」を「ヒト」に当てはめて考えます。



つまり、

〜〜〜今居住しているヒトが死亡の危機に瀕した場合、種の存続を図るべく、結核菌は他のヒトへ旅立つのである〜〜〜

ということになります。


結核菌はヒトの体内でしか生きられません。彼らとしては、今住み着いている「ヒト」が永遠に生きていてくれたら、それで全く問題ないのです。いつまでもぬくぬくと暮らしていける(感染すれども発病していない状態)。


しかしヒトには寿命がある。いつかは住めなくなります。そのままだと結核菌も全滅。それでは困るので、他のヒトに移住を図ります。それにあたっては、ヒトの防衛システム(免疫系)が脆弱になってくる(弱る)わけですから、その隙に子作りに励み、できる限り仲間を増やして、どんどん他のヒトへと旅立つのです。


…この状態を「発病」といいます。


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posted by 長尾大志 at 07:10 | Comment(0) | 長い長い結核の話

2011年07月19日

長い長い結核の話1・プロローグに換えて

かつて、結核病棟に1年半勤めていました。

その時は呼吸器科医が1人で結核病棟52床だったこともあり、結構大変でしたが、耐性菌や薬剤の副作用、粟粒結核やリンパ節結核、腸結核に膿胸、カリエスなど、さまざまな経験ができました。現在近畿中央病院におられる、鈴木克洋先生には、結核のイロハからさまざまな事例まで相談に乗っていただき、本当にお世話になりました。深く感謝しております。


そのときは、「結核というのは本当に困った病気だ」と思っていたのですが、その場を離れて、色々勉強してみると、結核菌という一つの種が、種の存続を図るためにあらゆる手段を用いている、その努力?に驚嘆するばかりであります。


そこで、ある程度いろいろなことがわかっている結核菌を題材に、感染症とその治療について考察をしていこうと思います。


主に当時に勉強した、あるいは教えていただいたいろいろなデータを元にお話を勧めて参ります。特に鈴木先生に教えていただいた、数々の興味深いデータをお借りしておりますので、重ねてお礼申し上げます。


結核菌は至適発育温度が37℃、酸素と少量の二酸化炭素を必要とする菌です。
このような場所は、地球上で、いや、おそらく全宇宙を探しても、ヒトの体内しかないでしょう。そうです。結核菌はヒトの体内でしか生きられないのです。




生きとし生けるものがいかにして種の存続を図らんとしているか、そして運悪く、ヒトに対して病原性というものを持ってしまった。そうなると、いかにしてそれを排除するのか。などなど、いろいろと語らねばならないことがあるのです。いつも学生さんに話しはじめると長くなってしまうのですが、ご興味のある方はおつきあい下さい。


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posted by 長尾大志 at 07:36 | Comment(0) | 長い長い結核の話