2025年03月25日

非結核性抗酸菌症(特にMAC症)の治療適応(目安)つづき

非結核性抗酸菌症の場合、治療の開始時期は、菌種や病勢、患者さんの状態に応じて個別に決めるべき事項となってきているのが実際です。微妙な問題を含んでいますので、専門家にコンサルトしましょう。

2020年ATSガイドラインでは、診断確定後すぐに治療開始すべきものとして、

・喀痰抗酸菌塗抹陽性例
・空洞を有する症例

が挙げられています。

また、「成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解―2023年改訂―」でも基本的には上記方針を支持していますが、結節気管支拡張型で塗抹陰性、排菌量が少ない、無症状の軽症例では、治療開始時期については注意深い観察を前提として、年齢含めた忍容性、基礎疾患、病変の範囲、画像所見の推移、菌種などを加味して個別に検討するということになっています。

ということで、ここはできれば呼吸器専門医などにご相談されて総合的に決められることをお勧めします。

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2025年03月24日

非結核性抗酸菌症(特にMAC症)の治療適応(目安)

非結核性抗酸菌症に関しましても「レジデントのためのやさしイイ呼吸器教室第4版」で当然書き直しておりますが、このあたりもどんどんガイドラインが書き換わってきており、結構大変であります。

特に以前から議論のあるところで、よくご質問を頂くのが、肺MAC症をはじめとする肺NTM症の治療をそもそも開始すべきかどうか?いつ開始するのか?というものですが、まあこれはケースバイケース、と言ってしまうと見も蓋もありませんが……。

どうしてこんなに議論が尽きないのか。それはもちろん、「決定的な治療がない」からに他なりません。この薬(の組み合わせ)を使えば、まあ大体よくなるし、副作用も許容範囲だよね……っていう薬があれば、それを積極的に使えばいいだけの話。そんな薬がないから苦労するわけです。

軽症なら軽症で、画像的に不変〜自然軽快もありうるため、無作為二重盲検試験などが立てにくく、薬剤の効果が立証できない。反面、空洞形成して、難治性になってきたりすると今度は治療効果がはっきりと得られない例が増えてくる。いったん排菌が陰性化しても、治療を止めれば再燃することもあります。

また、単剤での効果が期待できないだけに複数の薬剤を長期間併用することになり、ただでさえ少なくない副作用のリスクも増えることになるのです。実に悩ましい。
つまり、治療のリスクに対する保証がないわけです。ここが、結核との大きな違いです。結核は(耐性菌でなければ)治療すれば必ず効く。きちんと効果が保証されていて、かつ、他人にうつす危険がある。それゆえ、治療は絶対に行うべきものなのです。

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2011年09月03日

それほど長くない非結核性抗酸菌症の話6・非結核性抗酸菌症の治療

まあ、そもそも、治療をするかしないか、というところが重要であります。


というのも、非結核性抗酸菌症に対する治療は、一般的に多種、多数の薬剤を長期間使用しないと成立しない、それゆえに副作用が問題になることもしばしばだからです。


しかも、治療すれば必ず治癒するか、というと、そうでもない。いったん排菌が陰性化しても、治療を止めればまた再燃、ということもある。


つまり、治療のリスクに対する保証がないわけです。ここが、結核とのかなり大きな違いです。結核は(耐性菌でなければ)治療すれば必ず効く。きちんと効果が保証されていて、かつ、他人にうつす危険がある。それ故、治療は絶対に行うべきものなのです



それゆえ、非結核性抗酸菌症の治療、開始時期は、個別に決めるべき事項となってきているのが実際です。色々と微妙な問題を含んでいますので、ここではこれ以上踏み込まず、専門家にコンサルトしましょう、としておきます。



参考までに、一応、基準とされている治療を挙げておきます。


MAC症:CAM、RFP(RFB)、EBの3剤併用長期間(1-2年、あるいは菌陰性化後12ヶ月)。重症例ではSM併用。副作用でいずれかの薬剤が使えない場合には、FQなどで代用。

M.kansasii:INH、RFP、EBの3剤×12ヶ月。


これら以外の菌については、治療適応を含め、色々難しいので、やはり専門家にコンサルトしましょう、としておきます。


ということで、割とあっさりとになりますが、非結核性抗酸菌症のお話はいったん終わらせていただきます。


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2011年09月02日

それほど長くない非結核性抗酸菌症の話5・発症要因

非結核性抗酸菌は水環境や土壌などに常在する、別にヒトの体内に入る必要もない菌なのですが、そんな彼らを吸いこんで、その菌が「たまたま」定住、増殖するとこれが非結核性抗酸菌症となるのです。


この発症にはおそらく宿主側の(免疫学的機序による?)要因が関与していると考えられていて、それゆえ罹ってしまうということは、それなりの原因があるはずなのですが。


発症の機序を含め、まだまだ謎が多い非結核性抗酸菌症ですが、どういう方に起きやすいのか、藤田先生によるとある程度知られているのは、以下のようなケースです。


  • 膠原病・IFN抗体の存在する例

  • シャワーの乱用

  • 女性ホルモンの低下

  • やせ型の例



何となく、高齢のほっそりした女性に多いイメージはありますね。

「なぜ」そうなるのかは今後明らかにされるべき課題であります。


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2011年09月01日

それほど長くない非結核性抗酸菌症の話4・非結核性抗酸菌症の画像所見とその成り立ち

非結核性抗酸菌症の画像所見、典型的と言われている所見は、以下のようなものがあります。


MAC症:細気管支の粒状影(tree-in-bud、小葉中心性粒状影)、気管支拡張とその末梢の胸膜肥厚、空洞形成

M.kansasii症:薄壁空洞


これはMAC症

ntmct1.jpg


これも同じ症例、細気管支の粒状影(tree-in-bud、小葉中心性粒状影)、気管支拡張とその末梢の胸膜肥厚、空洞形成すべての所見がそろっています。

ntmct2.jpg


MAC症についてはいろいろな知見があり、これらの所見が成立する機序がある程度推測されています。


環境中(シャワーや植物、公園の水飲み場など)に存在していた菌が、まず肺内に入る場所は肺の一番外側、胸膜に比較的近い線毛のない呼吸細気管支です。


そこで病変(肉芽腫)を作り、菌はリンパの流れに乗って肺門リンパ節の方に流れていきます。
気管支粘膜に沿ってリンパ流がありますから、その粘膜下に肉芽腫を作っていくわけです。その肉芽腫が気管支軟骨、平滑筋を破壊し、周囲に線維化が起こってその結果、気管支拡張を来すと考えられます。

リンパの流れは肺の外側から肺門に向かって流れますから、気管支拡張も肺の外側から肺門に向かって進行していくというわけです。


だいたい、小さな粒状影(肉芽腫)が気管支拡張を作ってくるのに10年かかるといわれています。ゆっくりゆっくり、進行していくのです。



ちなみに、肉芽腫病変の成分、リンパ球や類上皮細胞、ランゲルハンス巨細胞などは、肺胞隔壁のcohn孔を通り抜けられる大きさではないため、呼吸細気管支周囲で5mm程度の粒状の病変を作ります。

気管支病変に続くこの粒状の病変こそが、特徴的なtree-in-budをなすのです

肺炎球菌などが作る病変は好中球主体であり、cohn孔を容易に通り抜けるため、肺胞から肺胞へ、連続性に広がります。その結果できるのは、べたっとした浸潤影なのです。


陰影の性状の成り立ちには、きちんとわけがあるのですね。
このあたりのことはポリクリで詳しく触れるのですが、著作権の問題などあり、このブログで触れることはできません。


また、いつの日か、オリジナルの図表ができましたら、ご紹介したいと思います。


今日のお話は、7月の呼吸器学会地方会でお話を伺った、琉球大学の藤田次郎先生のご講演内容をベースにさせていただきました。この場を借りましてお礼を申し上げます。


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2011年08月31日

それほど長くない非結核性抗酸菌症の話3・非結核性抗酸菌症の診断

咳、痰を主訴に受診した患者さん、典型的な陰影があり、喀痰検査で塗抹陽性であった…。最近しばしばあるケースです。


ここで、慌てて結核だ、と紹介されることも多いのですが、必ずしも結核とは限りません。以前は結核が多く、抗酸菌陽性患者さんの8割は結核だったのですが、最近では非結核性抗酸菌症が増加していて(結核が減っていることもあり)、結構な割合を占めるようです。


ですから、喀痰塗抹陽性(ガフキー何号…)だけでは、結核とも何とも言えないのが現状です。

喀痰塗抹陽性となった場合、まずPCRを確認し、TB陽性であれば結核として扱いますが、TB陰性となった場合、非結核性抗酸菌症の可能性があります。


非結核性抗酸菌症のうち8割を占めるMACはMycobacterium avium complexの略で、これはPCRで検出できます。MAC-PCR陽性であれば、MAC症疑い、となります。MAC症である、と言い切れない理由はのちほど。


問題はTB陰性、MAC陰性であった場合で、この場合、以下の2つの理由が考えられます。

1.MAC以外の非結核性抗酸菌である。
2.塗抹陽性は抗酸性のゴミを見ていた。


これらの鑑別は、培養検査の結果を待たねばなりません。

培養で何も生えなければ、2.の可能性が高いです。


培養で何か生えてきた場合、遺伝子検査などで菌種の同定ができます。



問題は、実はここから。


痰の中に、何らかの非結核性抗酸菌がいたと判明した。
これは、どういう意味でしょうか。


そりゃ非結核性抗酸菌症ってことでしょ、とはなりません


これが結核菌であれば、痰から結核菌が出た、ハイ、肺結核ですね、となります。
なぜならば、結核菌はヒトの身体の中にしかいないはずだからです。


痰の中から出てきたら、その結核菌は、痰を出したあなたの体内にいた、ということになります。


でも、非結核性抗酸菌は、どこにでもいるのです。
痰を容器に出したとき、その辺から紛れ込んだ可能性もあるのです。いわゆるコンタミ(contamination=混入、汚染)というやつですね。


ですから、1回提出した喀痰の中に非結核性抗酸菌がいても、イコール非結核性抗酸菌症とはならないのです。逆に言うと、非結核性抗酸菌症と診断するためには、喀痰から再現性をもって同じ非結核性抗酸菌が検出される必要がある、ということになります。


例外として、気管支鏡で採取した検体から検出されれば、それは確からしい、とします。


そういうわけで、非結核性抗酸菌症の「細菌学的」診断基準は以下の通りとなります。

1.2回以上の異なった喀痰検体での培養陽性。

2. 1回以上の気管支洗浄液での培養陽性。

3. 経気管支肺生検または肺生検組織の場合は,抗酸菌症に合致する組織学的所見と同時に組織,または気管支洗浄液,または喀痰での1回以上の培養陽性。

4.稀な菌種や環境から高頻度に分離される菌種の場合は,検体種類を問わず2回以上の培養陽性と菌種同定検査を原則とし,専門家の見解を必要とする。



お気づきのように、MAC-PCR陽性かどうかは診断基準に入っておりません。あくまで、PCRは目安にしかならず、きちんとした診断は培養の結果を待つ必要があるのです。結核とは対照的ですが、これは、結核は他人にうつすという面もあり、診断、治療を急ぐ必要があるのに対し、MAC症は他人にうつすものではなく、比較的経過が緩徐であり、治療は1分1秒を争うものでなく、むしろ確実に診断して方針を立てる方が重要であるからです。


これに、画像所見をあわせて臨床的基準としています。


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2011年08月30日

それほど長くない非結核性抗酸菌症の話2・代表的非結核性抗酸菌症

非結核性抗酸菌症の代表、というか、代名詞のような存在がMAC症です。非結核性抗酸菌症の8割を占める菌です。


MAC:Mycobacterium avium complex
Mycobacterium aviumMycobacterium intracellulareの総称です。この2菌種はいろいろな意味で似通っていて、厳密に分別する必要があまりないことから、ひとまとめにしてMACと呼ばれているのです。


だいたいavium(アビウム)が70%、がintracellulare (イントラセルラーレ)が30%を占めるといわれていて、細かくいうとaviumの方が、少したちが悪いようです。



感染症としてのMAC症の病型は以下の2つがありますが、厳密に分類しにくいケースや、途中で移行する(ように見える)ケースもあります。

結節・気管支拡張型
  全体の8割。ゆっくり進行、あるいは自然(治療により)治癒もある。

空洞・破壊型
  喫煙男性に多く、1-2年で進行し予後不良。


いずれにしても、特効薬というべき薬剤はないため、発病してしまったものを治癒に持って行くのはけっこう困難を伴うこともあります。
喀痰塗抹陽性で、PCRでMAC陽性であった患者さんが、「結核じゃなくてよかった〜」と言われることが多いのですが、本当によかったのかどうかは、その後の経過を見てみないとわからないのです。




非結核性抗酸菌症の8割はMAC症で、残りのうち約1割を占めるのがM.kansasii(カンサシ)症です。こちらは教科書的には薄壁空洞が特徴、とされていて、抗結核薬であるINH、RFP、EBの効果が確認されています。ですから、MAC症よりも治療しやすい菌である、といえます。


あ、ちなみに、気づかれた方もおられるかもしれませんが、菌名を書くときは斜体で標記するのが常識です。電子カルテ上でも斜体にしておけば、上の先生から「キミ、わかってるね!」とほめられること請け合いです


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2011年08月29日

それほど長くない非結核性抗酸菌症の話1・基本事項

結核にあれだけ長く触れたので、こちらにも触れないわけにはいかないでしょう。とはいえ、あれほどは長くならないと思います。


今回のシリーズでは、7月の呼吸器学会地方会でお話を伺った、琉球大学の藤田次郎先生のご講演も、一部参考にさせていただきます。



そもそも非結核性抗酸菌症、抗酸菌のうち、人に病原性のある代表的な菌、結核菌とらい菌以外の、雑多な抗酸菌の総称です。

種類は結構多く、数十種類以上もありますが、そのうちヒトに対して病原性を持つものは少数です。


菌としては抗酸菌であり、胃内でも生きていける、というところは結核菌と似ていますが、生息している場所は結核(ほぼヒトの体内に限られる)とは異なり、自然環境内に広く存在します。ヒトの体内に生息するのはむしろirregularであり、基本的には、ヒトーヒト感染はないというのが定説です。


水環境や土壌などに常在する菌を吸引し、「たまたま」定住することで感染が成立し、増殖するとこれが発症となるのです。


おそらく宿主側の(免疫学的機序による)要因で罹る人、罹らない人が決まるのだと考えられていて、それゆえ罹ってしまうということは、それなりの原因があるわけで、治癒、除菌が難しいケースもあるのです。


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