咳、痰を主訴に受診した患者さん、典型的な陰影があり、喀痰検査で塗抹陽性であった…。最近しばしばあるケースです。
ここで、慌てて結核だ、と紹介されることも多いのですが、必ずしも結核とは限りません。以前は結核が多く、抗酸菌陽性患者さんの8割は結核だったのですが、最近では非結核性抗酸菌症が増加していて(結核が減っていることもあり)、結構な割合を占めるようです。
ですから、喀痰塗抹陽性(ガフキー何号…)だけでは、結核とも何とも言えないのが現状です。
喀痰塗抹陽性となった場合、まずPCRを確認し、TB陽性であれば結核として扱いますが、TB陰性となった場合、非結核性抗酸菌症の可能性があります。
非結核性抗酸菌症のうち8割を占めるMACは
Mycobacterium avium complexの略で、これはPCRで検出できます。MAC-PCR陽性であれば、MAC症疑い、となります。MAC症である、と言い切れない理由はのちほど。
問題はTB陰性、MAC陰性であった場合で、この場合、以下の2つの理由が考えられます。
1.MAC以外の非結核性抗酸菌である。
2.塗抹陽性は抗酸性のゴミを見ていた。
これらの鑑別は、培養検査の結果を待たねばなりません。
培養で何も生えなければ、2.の可能性が高いです。
培養で何か生えてきた場合、遺伝子検査などで菌種の同定ができます。
問題は、実はここから。
痰の中に、何らかの非結核性抗酸菌がいたと判明した。
これは、どういう意味でしょうか。
そりゃ
非結核性抗酸菌症ってことでしょ、とはなりません。
これが結核菌であれば、
痰から結核菌が出た、ハイ、肺結核ですね、となります。
なぜならば、結核菌はヒトの身体の中にしかいないはずだからです。
痰の中から出てきたら、その結核菌は、痰を出したあなたの体内にいた、ということになります。
でも、非結核性抗酸菌は、
どこにでもいるのです。
痰を容器に出したとき、その辺から紛れ込んだ可能性もあるのです。いわゆるコンタミ(contamination=混入、汚染)というやつですね。
ですから、1回提出した喀痰の中に非結核性抗酸菌がいても、イコール非結核性抗酸菌症とはならないのです。逆に言うと、非結核性抗酸菌症と診断するためには、喀痰から再現性をもって同じ非結核性抗酸菌が検出される必要がある、ということになります。
例外として、気管支鏡で採取した検体から検出されれば、それは確からしい、とします。
そういうわけで、非結核性抗酸菌症の「細菌学的」診断基準は以下の通りとなります。
1.2回以上の異なった喀痰検体での培養陽性。
2. 1回以上の気管支洗浄液での培養陽性。
3. 経気管支肺生検または肺生検組織の場合は,抗酸菌症に合致する組織学的所見と同時に組織,または気管支洗浄液,または喀痰での1回以上の培養陽性。
4.稀な菌種や環境から高頻度に分離される菌種の場合は,検体種類を問わず2回以上の培養陽性と菌種同定検査を原則とし,専門家の見解を必要とする。
お気づきのように、MAC-PCR陽性かどうかは診断基準に入っておりません。あくまで、PCRは目安にしかならず、きちんとした診断は培養の結果を待つ必要があるのです。結核とは対照的ですが、これは、結核は他人にうつすという面もあり、診断、治療を急ぐ必要があるのに対し、MAC症は他人にうつすものではなく、比較的経過が緩徐であり、治療は1分1秒を争うものでなく、むしろ確実に診断して方針を立てる方が重要であるからです。これに、画像所見をあわせて臨床的基準としています。
それほど長くない非結核性抗酸菌症の話を最初から読む
posted by 長尾大志 at 08:23
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それほど長くない非結核性抗酸菌症の話