2023年07月25日

肺非結核性抗酸菌症の治療2023D肺MAC症

AMKやSMは、ずいぶん以前から(効果と副作用のバランスが良いと期待される)吸入での投与が試みられていました。私も研修医〜大学院のころ、よく吸入の準備をさせられしたものでした。

これが最近では商品化され、ALIS(アリケイスレジスタードマーク)として保険収載されています。ALISはAMKをリポソーム粒子に封入した吸入用懸濁液剤で、専用のネブライザシステムを用いて吸入することにより、肺末梢の肺胞まで効率的に分布するそうです。リポソーム粒子によって、マクロファージへの取り込みが促進されており、効率よく患部に薬剤が届くとされています。

それはいいのですが、吸入器の組み立てや吸入手技、それと薬価が高いことなど、気軽に導入、とするにはいささかハードルの高い薬剤になります。ガイドライン的には難治例、すなわち多剤併用療法を6カ月以上実施しても細菌学的効果が不十分な症例に用いる、となっていますが、まあ、ここまでくるようでしたら専門医に治療をお任せいただく方がいいように思われます。

肺MAC症の治療期間については、2020ATSガイドラインはじめ「喀痰抗酸菌培養陰性となってから少なくとも12カ月以上」の治療が推奨されています。その後得られたデータですともう少し長めの治療期間の方が、再燃が少なくなりそうで、副作用が許容できれば期間は長め、という傾向になるかと思います。

また、菌の陰性化を確認するためには痰を喀出して検査をする必要がありますが、特に高齢女性だと痰が喀出できない、得られないことが多いのですがその場合どうするか。これも議論のあるところかと思いますが、そもそも痰が出なくなったということは治療効果ありという解釈もできる、という考えもありますし、現場ですととにかく唾液であってもなんであっても提出してもらって、それで菌が陰性であればそれで陰性と解釈せざるを得ないという考えもあるようです。

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2023年07月21日

肺非結核性抗酸菌症の治療2023C肺MAC症

A空洞のあるNB型、およびFC型
この場合やはり効果に優れる連日投与になります。上記連日の方のレジメンに加え、
SM15mg/kg以下(1000mgまで)週2,3回筋注
あるいは
AMK15mg/kg連日または15〜25mg/kg週3回点滴、TDMで調節
(50歳以上の場合 8〜10 mg/kg週 2〜3 回、最大500 mgまで、TDMで調節)
必要に応じて外科治療の併用を検討する。となっています。

B難治例(多剤併用療法を6カ月以上実施しても細菌学的効果が不十分な患者)
Aと同様の併用療法、あるいは
ALIS(amikacin liposome inhalation suspension)590 mg/日吸入

というわけで、かなり2020ATSガイドラインに近づいてきました。

ちなみに@空洞のないNB型のEB20〜25mg/kg(最大1000mg)ですが、普通に体重50sで計算しても軽く1000mgを超えてしまいます。添付文書上日本では1000mg/日とせざるを得ませんが、用量設定に関する日本人のデータはなく、今後臨床試験が待たれるところであります。

またAMKの用量は日本の添付文書上1回100〜200mgを1日2回、1日の最高投与量は500mgまでとされていますが、これではお話にならないくらい少ないため、国際的な用量が使えるように社会保険診療報酬支払基金の審査事例において留意事項として記載され、上記の量を使用することができるようになっています。ただ、もちろん副作用の懸念があるため「TDMで調節」の文言があるわけです。

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2023年07月20日

肺非結核性抗酸菌症の治療2023B肺MAC症

肺MAC症は、大きく分けてNB型(nodular bronchiectatic disease:結節・気管支拡張型)とFC型(fibrocavitary disease:線維空洞型)がありますが、NB型はさらに空洞(cavity)のないもの(nonavitary nodular bronchiectatic disease)と空洞のあるもの(cavitary nodular bronchiectatic disease)に分けられ、空洞のあるものは臨床的にもFC型に近いと考えられます。

一般的に空洞があるものは菌量が多く、既存構造が破壊されているため、化学療法もより強力に行う必要があるわけです。一方で空洞のないNB型では自然に菌が排除されて軽快するケースも見かけますが、別の菌による再燃が起こりやすい、つまり菌排除能自体のバグがありそうですね。

@ 空洞のないNB型
2020ATSガイドライン・2023日本ガイドラインともに週3回投与としています。用量は日本のものを記しますが、ほぼATSガイドラインと同じです。
CAM1000mg分2またはAZM500mg/日
EB20〜25mg/kg(最大1000mg)/日
RFP 600mg/日

2023日本ガイドラインでは連日投与も挙げられています。連日の場合、累積投与量が多くなると特にEBの副作用が増加することが知られており、1回の投与量は少なめになります。
CAM800mg分2またはAZM250mg/日
EB10〜15mg/kg(最大750mg)/日
RFP 10mg/kg(最大600mg)/日

元々以前は連日投与が一般的でしたが、間欠的治療レジメンで副作用(による薬剤修正)がかなり少なかった(認容性に差がある)こと、そしてマクロライドの耐性化に差がなかったとのことで、海外では一足先に間欠的投与が進んでいます。この辺日本人でのデータが少なく、日本人において果たして連日がいいのか間欠がいいのか、はたまた至適投与量はどうなのか、今後の研究が待たれるところです。

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2023年07月19日

肺非結核性抗酸菌症の治療2023A

肺MAC症をはじめとする肺NTM症の治療をそもそも開始すべきかどうか?どうしてこんなに議論が尽きないのか。それはもちろん、「決定的な治療がない」からに他なりません。この薬(の組み合わせ)を使えば、まあ大体よくなるし、副作用も許容範囲だよね……っていう薬があれば、それを積極的に使えばいいだけの話。そんな薬がないから苦労するわけです。

軽症なら軽症で、画像的に不変〜自然軽快もありうるため、無作為二重盲検試験などが立てにくく、既存薬の効果が立証できない。反面、空洞形成して、難治性になってきたりすると今度は治療効果がはっきりと得られない例が増えてくる、ということです。また、単剤での効果が期待できないだけに複数の薬剤を併用することになり、ただでさえ少なくない副作用のリスクも増えることになるのです。実に悩ましい。

もちろんそうはいっても、指をくわえて悪化を眺めているわけには参りません。少なくともごく早期・軽症の症例以外には治療を試みてみる必要はあるでしょう。問題は「ごく早期・軽症の症例」ってどのくらい?ということです。

2020年ATSガイドラインでは、診断確定後すぐに治療開始すべきものとして、
・喀痰抗酸菌塗抹陽性例
・空洞を有する症例
が挙げられています。

これ以外のケースでは、治療開始時期については注意深い観察を前提として、年齢含めた忍容性、基礎疾患、病変の範囲、画像所見の推移、菌種などを加味して個別に検討するとされています。ここはできれば、呼吸器専門医などにご相談されて総合的に決められることをお勧めします。

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2023年07月18日

肺非結核性抗酸菌症の治療2023@

もうずいぶん以前の話になってしまうのですが、難治性肺Mycobacterium avium complex(MAC)に関する講演会で勉強させていただいた、そのまとめをしておりませんでした。今となっては「思い出」程度にしか残っておりませんのですが、この機会に最新のガイドラインに絡めた肺NTM症の治療について、まとめておこうかなと思います。


肺非結核性抗酸菌症の診断から治療のところは、以前はガイドラインがあるようなないような、海外のガイドラインでは本邦では保険適応がない薬剤が推奨されていたり、(体格差もあるのか)用量がかなり異なっていたりと、そのまま適応するのが難しかったという経緯がありました。

その後学会からの要望により注射用アミカシン(AMK)、アジスロマイシン(AZM)、イミペネム(IPM)、クロファジミン(CFZ)が非結核性抗酸菌に保険審査上使用可能となりました。また、アミカシンリボゾーム吸入用懸濁液(amikacin liposome inhalation suspension : ALIS)が難治性肺Mycobacterium avium complex(MAC)症に使えるようになり、世界基準の治療とそれほど変わらない治療を行えるようになりました。

現在世界的には2020年のATS/ERS/ESCMID/IDSAガイドラインが使われているのですが、その少し前の2017年に出たBTSガイドラインと併せ、日本での実情に合わせて「日本結核・非結核性抗酸菌症学会と日本呼吸器学会より成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解―2023年改定」が2023年に発出されました。そちらの内容を少し見ていきましょう。

以前から議論のあるところで、よくご質問を頂くのが、肺MAC症をはじめとする肺NTM症の治療をそもそも開始すべきかどうか?というものですが、まあこれはケースバイケースと言ってしまうと見も蓋もありません……。

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2011年09月03日

それほど長くない非結核性抗酸菌症の話6・非結核性抗酸菌症の治療

まあ、そもそも、治療をするかしないか、というところが重要であります。


というのも、非結核性抗酸菌症に対する治療は、一般的に多種、多数の薬剤を長期間使用しないと成立しない、それゆえに副作用が問題になることもしばしばだからです。


しかも、治療すれば必ず治癒するか、というと、そうでもない。いったん排菌が陰性化しても、治療を止めればまた再燃、ということもある。


つまり、治療のリスクに対する保証がないわけです。ここが、結核とのかなり大きな違いです。結核は(耐性菌でなければ)治療すれば必ず効く。きちんと効果が保証されていて、かつ、他人にうつす危険がある。それ故、治療は絶対に行うべきものなのです



それゆえ、非結核性抗酸菌症の治療、開始時期は、個別に決めるべき事項となってきているのが実際です。色々と微妙な問題を含んでいますので、ここではこれ以上踏み込まず、専門家にコンサルトしましょう、としておきます。



参考までに、一応、基準とされている治療を挙げておきます。


MAC症:CAM、RFP(RFB)、EBの3剤併用長期間(1-2年、あるいは菌陰性化後12ヶ月)。重症例ではSM併用。副作用でいずれかの薬剤が使えない場合には、FQなどで代用。

M.kansasii:INH、RFP、EBの3剤×12ヶ月。


これら以外の菌については、治療適応を含め、色々難しいので、やはり専門家にコンサルトしましょう、としておきます。


ということで、割とあっさりとになりますが、非結核性抗酸菌症のお話はいったん終わらせていただきます。


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2011年09月02日

それほど長くない非結核性抗酸菌症の話5・発症要因

非結核性抗酸菌は水環境や土壌などに常在する、別にヒトの体内に入る必要もない菌なのですが、そんな彼らを吸いこんで、その菌が「たまたま」定住、増殖するとこれが非結核性抗酸菌症となるのです。


この発症にはおそらく宿主側の(免疫学的機序による?)要因が関与していると考えられていて、それゆえ罹ってしまうということは、それなりの原因があるはずなのですが。


発症の機序を含め、まだまだ謎が多い非結核性抗酸菌症ですが、どういう方に起きやすいのか、藤田先生によるとある程度知られているのは、以下のようなケースです。


  • 膠原病・IFN抗体の存在する例

  • シャワーの乱用

  • 女性ホルモンの低下

  • やせ型の例



何となく、高齢のほっそりした女性に多いイメージはありますね。

「なぜ」そうなるのかは今後明らかにされるべき課題であります。


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2011年09月01日

それほど長くない非結核性抗酸菌症の話4・非結核性抗酸菌症の画像所見とその成り立ち

非結核性抗酸菌症の画像所見、典型的と言われている所見は、以下のようなものがあります。


MAC症:細気管支の粒状影(tree-in-bud、小葉中心性粒状影)、気管支拡張とその末梢の胸膜肥厚、空洞形成

M.kansasii症:薄壁空洞


これはMAC症

ntmct1.jpg


これも同じ症例、細気管支の粒状影(tree-in-bud、小葉中心性粒状影)、気管支拡張とその末梢の胸膜肥厚、空洞形成すべての所見がそろっています。

ntmct2.jpg


MAC症についてはいろいろな知見があり、これらの所見が成立する機序がある程度推測されています。


環境中(シャワーや植物、公園の水飲み場など)に存在していた菌が、まず肺内に入る場所は肺の一番外側、胸膜に比較的近い線毛のない呼吸細気管支です。


そこで病変(肉芽腫)を作り、菌はリンパの流れに乗って肺門リンパ節の方に流れていきます。
気管支粘膜に沿ってリンパ流がありますから、その粘膜下に肉芽腫を作っていくわけです。その肉芽腫が気管支軟骨、平滑筋を破壊し、周囲に線維化が起こってその結果、気管支拡張を来すと考えられます。

リンパの流れは肺の外側から肺門に向かって流れますから、気管支拡張も肺の外側から肺門に向かって進行していくというわけです。


だいたい、小さな粒状影(肉芽腫)が気管支拡張を作ってくるのに10年かかるといわれています。ゆっくりゆっくり、進行していくのです。



ちなみに、肉芽腫病変の成分、リンパ球や類上皮細胞、ランゲルハンス巨細胞などは、肺胞隔壁のcohn孔を通り抜けられる大きさではないため、呼吸細気管支周囲で5mm程度の粒状の病変を作ります。

気管支病変に続くこの粒状の病変こそが、特徴的なtree-in-budをなすのです

肺炎球菌などが作る病変は好中球主体であり、cohn孔を容易に通り抜けるため、肺胞から肺胞へ、連続性に広がります。その結果できるのは、べたっとした浸潤影なのです。


陰影の性状の成り立ちには、きちんとわけがあるのですね。
このあたりのことはポリクリで詳しく触れるのですが、著作権の問題などあり、このブログで触れることはできません。


また、いつの日か、オリジナルの図表ができましたら、ご紹介したいと思います。


今日のお話は、7月の呼吸器学会地方会でお話を伺った、琉球大学の藤田次郎先生のご講演内容をベースにさせていただきました。この場を借りましてお礼を申し上げます。


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2011年08月31日

それほど長くない非結核性抗酸菌症の話3・非結核性抗酸菌症の診断

咳、痰を主訴に受診した患者さん、典型的な陰影があり、喀痰検査で塗抹陽性であった…。最近しばしばあるケースです。


ここで、慌てて結核だ、と紹介されることも多いのですが、必ずしも結核とは限りません。以前は結核が多く、抗酸菌陽性患者さんの8割は結核だったのですが、最近では非結核性抗酸菌症が増加していて(結核が減っていることもあり)、結構な割合を占めるようです。


ですから、喀痰塗抹陽性(ガフキー何号…)だけでは、結核とも何とも言えないのが現状です。

喀痰塗抹陽性となった場合、まずPCRを確認し、TB陽性であれば結核として扱いますが、TB陰性となった場合、非結核性抗酸菌症の可能性があります。


非結核性抗酸菌症のうち8割を占めるMACはMycobacterium avium complexの略で、これはPCRで検出できます。MAC-PCR陽性であれば、MAC症疑い、となります。MAC症である、と言い切れない理由はのちほど。


問題はTB陰性、MAC陰性であった場合で、この場合、以下の2つの理由が考えられます。

1.MAC以外の非結核性抗酸菌である。
2.塗抹陽性は抗酸性のゴミを見ていた。


これらの鑑別は、培養検査の結果を待たねばなりません。

培養で何も生えなければ、2.の可能性が高いです。


培養で何か生えてきた場合、遺伝子検査などで菌種の同定ができます。



問題は、実はここから。


痰の中に、何らかの非結核性抗酸菌がいたと判明した。
これは、どういう意味でしょうか。


そりゃ非結核性抗酸菌症ってことでしょ、とはなりません


これが結核菌であれば、痰から結核菌が出た、ハイ、肺結核ですね、となります。
なぜならば、結核菌はヒトの身体の中にしかいないはずだからです。


痰の中から出てきたら、その結核菌は、痰を出したあなたの体内にいた、ということになります。


でも、非結核性抗酸菌は、どこにでもいるのです。
痰を容器に出したとき、その辺から紛れ込んだ可能性もあるのです。いわゆるコンタミ(contamination=混入、汚染)というやつですね。


ですから、1回提出した喀痰の中に非結核性抗酸菌がいても、イコール非結核性抗酸菌症とはならないのです。逆に言うと、非結核性抗酸菌症と診断するためには、喀痰から再現性をもって同じ非結核性抗酸菌が検出される必要がある、ということになります。


例外として、気管支鏡で採取した検体から検出されれば、それは確からしい、とします。


そういうわけで、非結核性抗酸菌症の「細菌学的」診断基準は以下の通りとなります。

1.2回以上の異なった喀痰検体での培養陽性。

2. 1回以上の気管支洗浄液での培養陽性。

3. 経気管支肺生検または肺生検組織の場合は,抗酸菌症に合致する組織学的所見と同時に組織,または気管支洗浄液,または喀痰での1回以上の培養陽性。

4.稀な菌種や環境から高頻度に分離される菌種の場合は,検体種類を問わず2回以上の培養陽性と菌種同定検査を原則とし,専門家の見解を必要とする。



お気づきのように、MAC-PCR陽性かどうかは診断基準に入っておりません。あくまで、PCRは目安にしかならず、きちんとした診断は培養の結果を待つ必要があるのです。結核とは対照的ですが、これは、結核は他人にうつすという面もあり、診断、治療を急ぐ必要があるのに対し、MAC症は他人にうつすものではなく、比較的経過が緩徐であり、治療は1分1秒を争うものでなく、むしろ確実に診断して方針を立てる方が重要であるからです。


これに、画像所見をあわせて臨床的基準としています。


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2011年08月30日

それほど長くない非結核性抗酸菌症の話2・代表的非結核性抗酸菌症

非結核性抗酸菌症の代表、というか、代名詞のような存在がMAC症です。非結核性抗酸菌症の8割を占める菌です。


MAC:Mycobacterium avium complex
Mycobacterium aviumMycobacterium intracellulareの総称です。この2菌種はいろいろな意味で似通っていて、厳密に分別する必要があまりないことから、ひとまとめにしてMACと呼ばれているのです。


だいたいavium(アビウム)が70%、がintracellulare (イントラセルラーレ)が30%を占めるといわれていて、細かくいうとaviumの方が、少したちが悪いようです。



感染症としてのMAC症の病型は以下の2つがありますが、厳密に分類しにくいケースや、途中で移行する(ように見える)ケースもあります。

結節・気管支拡張型
  全体の8割。ゆっくり進行、あるいは自然(治療により)治癒もある。

空洞・破壊型
  喫煙男性に多く、1-2年で進行し予後不良。


いずれにしても、特効薬というべき薬剤はないため、発病してしまったものを治癒に持って行くのはけっこう困難を伴うこともあります。
喀痰塗抹陽性で、PCRでMAC陽性であった患者さんが、「結核じゃなくてよかった〜」と言われることが多いのですが、本当によかったのかどうかは、その後の経過を見てみないとわからないのです。




非結核性抗酸菌症の8割はMAC症で、残りのうち約1割を占めるのがM.kansasii(カンサシ)症です。こちらは教科書的には薄壁空洞が特徴、とされていて、抗結核薬であるINH、RFP、EBの効果が確認されています。ですから、MAC症よりも治療しやすい菌である、といえます。


あ、ちなみに、気づかれた方もおられるかもしれませんが、菌名を書くときは斜体で標記するのが常識です。電子カルテ上でも斜体にしておけば、上の先生から「キミ、わかってるね!」とほめられること請け合いです


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2011年08月29日

それほど長くない非結核性抗酸菌症の話1・基本事項

結核にあれだけ長く触れたので、こちらにも触れないわけにはいかないでしょう。とはいえ、あれほどは長くならないと思います。


今回のシリーズでは、7月の呼吸器学会地方会でお話を伺った、琉球大学の藤田次郎先生のご講演も、一部参考にさせていただきます。



そもそも非結核性抗酸菌症、抗酸菌のうち、人に病原性のある代表的な菌、結核菌とらい菌以外の、雑多な抗酸菌の総称です。

種類は結構多く、数十種類以上もありますが、そのうちヒトに対して病原性を持つものは少数です。


菌としては抗酸菌であり、胃内でも生きていける、というところは結核菌と似ていますが、生息している場所は結核(ほぼヒトの体内に限られる)とは異なり、自然環境内に広く存在します。ヒトの体内に生息するのはむしろirregularであり、基本的には、ヒトーヒト感染はないというのが定説です。


水環境や土壌などに常在する菌を吸引し、「たまたま」定住することで感染が成立し、増殖するとこれが発症となるのです。


おそらく宿主側の(免疫学的機序による)要因で罹る人、罹らない人が決まるのだと考えられていて、それゆえ罹ってしまうということは、それなりの原因があるわけで、治癒、除菌が難しいケースもあるのです。


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