2013年09月18日

在宅人工呼吸療法症例におけるご質問・基本的な考え方

在宅酸素と在宅人工呼吸。同じようなものかと思われがちですが、似て非なるものです。さらにいえば、在宅持続陽圧換気は全く異なるものです。


何となく一般のイメージとしては、在宅酸素<在宅人工呼吸???みたいなところがありますが(ないですか…)、コレもちょっと意味合いが違います。直接比較すべきものではありませんね。


在宅酸素はT型呼吸不全、つまり酸素が不足しているときに、不足している酸素を補うために行われます。


それに対して在宅人工呼吸はU型呼吸不全、すなわち換気が不足しているときに、換気をむりやりしてもらうために行うのです。


もちろん、T型呼吸不全は慢性に経過するとU型になりますから、在宅酸素をやっている患者さんが在宅人工呼吸も併用、という経過をたどることもありますが、そうではないこともけっこうある、ということです。


一例を挙げると、神経筋疾患症例においては、肺は悪くないけれども、肺を動かす筋肉、指令する神経の問題で胸郭運動が低下→換気量が低下、ということになるのです。


肺は悪くないので、昨日書いたような感染から急性増悪を来すとか、そういったことはあまり考える必要はないでしょう。気をつけるべきは、呼吸数、換気量がこちらの設定通りに作動しているか、というところです。


酸素量はSpO2を見ればすぐにわかりますが、二酸化炭素量(≒換気量)をダイレクトに知ることは難しいですね。そのため、人工呼吸器のモニターを確認することが重要になるのです。設定通りに動いているか、漏れはないか、マスクのフィッティングは良好か…などなど、チェックする項目を決めてしっかり確認しましょう。


もちろん肺が悪いケースもあります。特に、在宅酸素と併用するようなケースでは、昨日述べたような感染時の対処にも注意が必要ですし、呼吸の深さやパターンによってFiO2が変化しますから、換気の乱れでSpO2が乱高下することもあります。こういうこともある、ということは知っておかれる方がいいと思いますので、リンク先をご一読ください。



最後に、在宅持続陽圧換気について一言。


在宅持続陽圧換気は、睡眠時無呼吸症候群の「閉塞しているところの、通りをよくする」ために行う、という一点の理解で差し支えないでしょう。常に同じ圧を流していますので、換気は完全に患者さんが行います。どちらかというとメタボとか、そういう関係の患者さんが多いので、肺が悪いというわけではないですね。


ですからこちらも、特段呼吸器専門的に気をつけるべきこと、というのはないでしょう。装着が定期的に、忘れることなくできているか、マスクフィッティングはどうか、漏れはないか、といった基本的なことであろうと思います。


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2013年09月17日

在宅酸素療法症例におけるご質問・基本的な考え方

先週頂いたご質問、続きです。呼吸リハビリの具体的なやり方に関しては、在宅酸素の業者さん(テイ○ンなど)が私なんかよりずっと詳しい資料をお持ちなので、そちらで尋ねていただく方がよいでしょう。


もう1つのご質問、


「在宅に関わる医療者向けの在宅酸素療法・NIPPV時の注意事項やこうみてほしいなどの記事をお願いできれば幸いです。」


に関して、考え方の基本と注意点をお伝えしておこうかと思います。


まず大切なことは、


在宅酸素とは、不足する酸素を補うもので、それ以上でもそれ以下でもない


ということ。当たり前やんけ、と思われるでしょうが、「酸素を吸っている」というだけで、「もう私には手に負えません」みたいに及び腰になられることもあったりするのです。


もちろん多くの場合、肺が悪くて低酸素血症になっており、FIO2を上げることでその治療を図るものであります。しかしながら、酸素投与は肺の治療になるものではありません。肺の治療は他にある、または終了している(もう行われていない)ことになります。


在宅酸素療法というのは、慢性に低酸素状態が続いたときに心臓に負荷がかかり、肺性心を来す、その対策であります。すなわち在宅酸素療法は「心臓の治療(心臓が悪化することを予防すること)」をしていることになるのです。


それで「肺」に関してですが、酸素を吸っていること自体で過度に神経質になる必要はありません。眼鏡をかけているのと一緒です(たとえが極端?)。例えば人工透析をしている患者さんでしたら、薬一つ投与するにも量などに注意が必要ですが、在宅酸素をしているからといって、投与量には変わりはありません。


じゃあ、特に在宅に関わっておられる方にとって問題となるのはどんなときか。それは上気道感染などの発熱時でしょう。もちろん、その場合も他の患者さんと変わるものではないのですが、基礎に呼吸器疾患がある場合には、

@感染から原疾患(特にCOPD、間質性肺炎など)の増悪を来す場合がある

A気道感染の原因菌がインフルエンザ桿菌などのグラム陰性桿菌になっていることが多い

点で、特段の注意を要することがあります。


そういう場合、具体的には

@咳や痰といった症状、痰の性状、呼吸数、呼吸音、SpO2モニター等で、普段と呼吸状態に変化がないかどうかを確認する

A抗菌薬の使用履歴、喀痰検査歴を確認し、正しく抗菌薬を使用いただく


ことがポイントとなるでしょう。


抗菌薬については、こちらの記事も参考にして下さい。


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2013年09月12日

在宅酸素療法・在宅人工呼吸療法症例におけるご質問

以前、記事が1,000になったところでいくつかメッセージを頂きました。お送り頂いた方には厚くお礼申し上げます。


Tさんよりいただきましたメッセージをご紹介します(一部体裁を整えております)。

(以下引用)
私の職種は看護師です。現在は訪問看護師をして在宅医療に関わっています。高齢者の呼吸器疾患利用者も多くいます。間質性肺炎やCOPDの人も・・・

そこでもしお時間とスペースがありましたら、在宅に関わる医療者向けの(もちろん今の記事でも勉強になっていますが)在宅酸素療法・NIPPV時の注意事項やこうみてほしいなどの記事をお願いできれば幸いです。

個人的には現在間質性肺炎利用者の夜間咳嗽(主治医はフスコデシロップを処方しています)を軽減させる方法や自宅で本人ができる呼吸リハビリをお願いできればうれしいです。

今後も記事を楽しみににしている人たちのためにも末永くよろしくお願い致します。
(引用ここまで)


Tさん、メッセージをありがとうございました!


在宅の患者さんを診ていただいているドクター、ナースなど関係者の皆さんには、常日頃大変お世話になっております。本当にありがとうございます。


そういうことで、リクエストにお答えしたいと思いますが、各論もさることながら、在宅酸素療法、在宅NIPPVなどをしている患者さんに関する、基本的な考え方もお伝えできればと思います。


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2013年08月06日

何気なく投与している酸素についてちゃんと考える15・ネーザルハイフローシステムの理屈5・ネーザルハイフローのメリットいろいろとデメリット

ネーザルハイフローにはメリットがたくさんあります。とにかくこれまでになくFIO2を上げることが出来るので、これまでだと人工呼吸になっていた低酸素血症の症例でも人工呼吸を回避できるでしょう。


また、加湿がしっかり効いているので、鼻から流してもほとんど不快さを感じません。これまでの鼻カニュラであればせいぜい5L/分が限界であったのが30L/分以上流せるというのがいい。鼻腔だけでなく、口腔内の乾燥も予防される、というデータもあるようです。


これまでFIO2を上げようと思うとリザーバーマスクなど、「マスク」を使う必要がありました。で、食事時に鼻カニュラにしたときにSpO2の低下が起こったりして具合が悪かったのですね。ただでさえ食事時にはO2消費が増えるのに供給が追いつかなかったわけです。それがネーザルハイフローだと付け替える必要もなく、食事時にもFIO2は変わりません。


すなわち、ネーザルハイフローを使うと飲食、それに会話や口腔ケアも可能なのです。そもそもマスクのうっとうしさも軽減され、夜も寝やすくなりますから、全体的にQOLの改善にもつながるようです。


低酸素血症の患者さんでもSpO2を落とすことなく気管支鏡が出来る、というのもメリットです。間質性肺炎症例など、何例かやって発表しようかと思ったのですが、ぐずぐずしてたら先を越されました…。


流量が高いので何となくPEEPがかかる、ということもメリットとして挙げられていますが、それはそれほど期待しない方がいいでしょう。あくまでオマケ程度で。



デメリットといえば、それほどはありませんが、やはり高流量流すだけにうるさいです。個室で使う方がいいように思います。ウチではそうしています。


また、鼻の手前まで蛇腹が来るのがうっとうしい、とおっしゃる患者さんも居られます。確かにずっとだとうっとうしいかも。


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2013年08月05日

何気なく投与している酸素についてちゃんと考える14・ネーザルハイフローシステムの理屈4・ようやくネーザルハイフロー

前置きが長かったのですが、ここまで理解頂ければ、ネーザルハイフローシステムを理解頂くことは難しくありません。すぐに終わります。


要は、「これまでになかったぐらい高流量の酸素を、経鼻で流せるシステム」ということになります。簡単ですね。




器械の説明はきっとメーカーさんが色々やって頂けるでしょうから、原理の説明をしますけれども、ブレンダー(酸素と空気を混合する器具)の進化で高流量が流せるようになり、吸気流速以上の流量が流せるようになったものです。


7ネーザルハイフローの理屈.jpg


実際のシステム一式はこんな感じになります。


8ネーザルハイフローシステムの全景.jpg


見えにくいですが、鼻腔に差し込むチューブが2本、鼻カニュラと同じようにでていますが、その手前までは高流量を流すために蛇腹になっています。


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2013年08月02日

何気なく投与している酸素についてちゃんと考える13・ネーザルハイフローシステムの理屈3・インスピロンの使い方

やはり画像がないとわかりにくいですよね、ということで、インスピロンの画像を撮ってみました。


3インスピロン(全景).jpg


酸素目盛りの部分を拡大します。ここを動かすと空気孔の大きさが変わり、ブレンドされる空気の量が変わり、結果、蛇管に何%の酸素が流れるか、ということが決まります。


4酸素目盛り(%調節ダイアル).jpg


具体的な使用例を見てみましょう。こんなふうに使っています。この症例では気管切開孔にTピースをつないで吹き流し(酸素を流しっぱなし)で使用しています。


5インスピロンの使用例.jpg


Tピースとは、Tの字の形をした蛇管で、Tの横棒部分を酸素が流れ、縦棒が患者さん側につながっています。患者さんが息を吸うと縦棒の管から酸素が流れ込み、息を吐くと断端から排気されます。人工呼吸器を外した後に、気管切開チューブや気管内挿管チューブに取り付けて使用されることが多いです。


ちょうど管の径が気管切開チューブや気管内挿管チューブにフィットするようになっているのですね。それでしばらく(人工呼吸器による)補助のない状態に慣れていただいてから抜管、とか、そんな感じのタイミングで使用します。


6インスピロンの使用例・図.jpg


基本、図で示す「蛇管の断端」からは、常に空気が出ているはずです。吸気時に空気が吸い込まれていたりしようものなら、流量不足!呼気を再吸入している可能性がありますので、直ちに流量を上げましょう。


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2013年08月01日

何気なく投与している酸素についてちゃんと考える12・ネーザルハイフローシステムの理屈2・インスピロンとは

昨日のお話で、ハイフローシステムだったら知ってるよ!インスピロンでしょ!昔からあるじゃん!と思われた方もおられるかもしれません。


…うーん残念。いや、確かにハイフローではあるのですが、今回お話しするネーザルハイフローとは随分違うもので、ベンチュリーマスクと同じ原理です。


インスピロンは確かに、私が医師になった頃からありますから、昔?からありますね。その頃施設にあったものはピューリタンと呼ばれていましたが…。会社が変わったのか、別のものなのか、ちょっとわかりません。ご存じの方はお教えいただければ幸いです。


そのインスピロンは今でも外科病棟など、術後の患者さんを中心によく使われていると思います。O2の流量に加えて根元のダイヤルでFIO2を調節するので、あたかもFIO2=100%まで投与できるかのごとく錯覚されがちなシステムですね。


でも前に説明したとおり、壁から出る酸素はせいぜい15L/分なのですから、吸気中のO2=100%にはなりません。


FIO2=100%、というのは、その後続く蛇管の中の酸素濃度が100%、ということです。ですからO2を15L、FIO2を100%にして、マスクを通して息を吸うと、


1酸素スライド.JPG


のごとく、マスクの横から空気が吸入され、吸気中のO2(いわゆるホントのFIO2)はせいぜい50%程度になるのです。


…という使い方は正しくありません。本来は吸気流速(30L/分)以上になるように酸素流量と酸素濃度目盛りを合わせて使います。トータル流量早見表(日本メディカルネクスト株式会社のHPを参照)がありますので、それを守って使います。


正しく使うとハイフローシステムとして働き、設定されたFIO2を患者さんが吸うことになりますが、酸素%に対して流量が少なすぎると、FIO2が上がりません。もちろん、1回換気量が少ない小児症例や拘束性肺障害のある症例などでは、FIO2はもっと上がりますが、多くの場合にはそうはいかないですね…。酸素%はせいぜい35%〜50%の設定で、表に指定されたO2流量で使いましょう。


例えば、酸素15L流して50%に合わせると、目盛りのところで空気が入って混合され、蛇管のところではO2が50%含まれた30L/分の混合気が流れてくるわけです。それでFIO2が50%になるのですね。理屈としてはベンチュリーマスクと同じです。


2インスピロンの理屈.JPG


本来、インスピロンは術後、抜管後の患者さんの気道が乾燥するのを防ぐために、温めて加湿した空気を送るのが目的の器具です。そのために水を温める装置、電源が装備されています。決して、FIO2を上げるための器具ではありません!


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2013年07月31日

何気なく投与している酸素についてちゃんと考える11・ネーザルハイフローシステムの理屈1・そもそもローフローシステムとは

いささか唐突ですが、最近そこここでご質問も多いネーザルハイフローについて、取り上げたいと思います。まあ、ずーっとCTばっかりだと読んでいて飽きるかなあと思いまして(本当は書く方が飽きてきたのですが…)。


今はどうか知りませんが、当施設への導入当時、テ○モやF&○の説明があまりにもひどかったので、わかりやすい説明を作って多くの方に知ってもらおう、と思い立ったわけです。


ところが他のことに手を取られてなかなか時間が取れず、随分時間が経ってしまいました。と思っていたところ、この前の「わかあゆ呼吸ケア勉強会」でスライドを作りましたもので、お蔵だし、ご紹介をさせていただきたいと思う次第です。



通常私たちにとってなじみのある酸素投与システム、壁から酸素を引っ張ってきてチューブを通して鼻のところに持っていったりマスクにしたりするやつ、アレはローフローシステムと言います。


何が「ロー(低い)」なのかと言いますと、流速。流速が吸気流速よりも遅いものをローフローシステムというわけです。


そもそもこれまでは、壁から出てくる酸素の流速はせいぜい15L/分(=250ml/秒)であり、400〜600ml/秒とも言われる吸気流速よりは圧倒的に遅かったわけです。ただ、それしかなかったため、あえて「ロー」フローとも呼ばれてこなかった。


実は昔からあるベンチュリーマスクはハイフローシステムでしたが、理屈が難しかったからか、最大でもFIO2が50%にしかならなかったからか、あまり大々的に使われていなかった印象があります。CO2ナルコーシスをよく扱う呼吸器病棟ぐらいでしか使われていなかったんじゃないでしょうか?


しかし!れっきとしたハイフローシステムが登場した以上、これらの酸素システムは「ロー」フローシステムと呼ばれるようになったのです。


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2011年09月20日

パルスオキシメータ(SpO2モニター)の見方

パルスオキシメータ(SpO2モニター)とは、指にはさんで動脈血酸素飽和度を測定する器械です。これもいろいろな呼び名がありますが、酸素療法ガイドラインの表記に従ってパルスオキシメータと表記することにします。


ヘモグロビンのうち、酸素と結合したヘモグロビンの割合を酸素飽和度といい、動脈血の酸素飽和度をSaO2と呼びます。


パルスオキシメータで求めた酸素飽和度を、動脈血ガスで求めたPaO2と区別するためにSpO2と表記することになっています。ちなみにSpO2のpとは、percutaneous、つまり、経皮的に測定した酸素の値、ということです。


酸素と結合したヘモグロビン、すなわち酸化ヘモグロビンは鮮やかな赤色です。それに対し、酸素と結合していない、還元ヘモグロビンは黒っぽい赤色になります。この色の違いは、ヘモグロビンの吸光度、すなわち吸収する光の波長が違うことによるわけです。

パルスオキシメータでは、赤色光と赤外光を出して、その比から酸素飽和度を計算します。器具を指にはさむと、動脈のみならず静脈や組織(毛細血管)でも吸光されますが、動脈には拍動がありますから、拍動している成分を拾い上げて分析するという、結構高度なことをやっているのでした。


おおよそPaO2とSpO2の相関は、以下のごとくと見積もられています。
ここで大事なのは、PaO2=60mmHgに相当するSpO2=90%です。


PaO2 torr 97  80  60  55  40
SpO2 %  98  95  90  88  75



SpO2測定時に誤差が出る要因として、次のようなものがありますので、なんだかおかしな値になっているときには、一考を要します。


  • 体動や光による干渉

  • 末梢循環障害

  • マニキュア





<生体監視モニターにおけるSpO2波形の見方>

2年目のK君からご質問をいただきました(彼はこの1年でものすごく伸びた、将来の有望株です)。


ECG波形の下に出ているやつです。


あれは検知している脈波を波形化したものです。簡易式のSpO2モニターでも数字の横に
シグナルインジケータ表示が出ますが、それと同じです。


脈波ですから、基本的にはECGとリンクして出ているはずです。大きい波だと脈波が大きく、.小さいと脈波も小さい。脈波が検知できていないと測定値も当てになりませんので、ある程度ちゃんと測れているかどうかの目安になります。

その波が脈拍やECGとずれていたりすれば、ちゃんと測定できていないと考えるわけです。


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2011年09月16日

何気なく投与している酸素についてちゃんと考える10・ベンチュリーマスクの理屈

これまでに述べたどの方式(鼻カニュラ、簡易酸素マスク、リザーバーマスク)も、FIO2は呼吸パターンによって上下してしまいます。


それは、流れてくる酸素が吸気流速に対して圧倒的に遅いから


ゆっくり、深く息を吸うと、リザーバーに酸素がたまるのでFIO2は上がります。
早く、浅く息を吸うと、リザーバーに酸素がたまる時間がないのでFIO2は下がってしまいます。


これでは、2つの意味で困ったことが起こります。


まず、息が苦しい、と感じている患者さんは頻呼吸です。頻呼吸で分時換気量が増えると、CO2はどんどん飛んでいくのですが、O2に関してはそれほど稼げません。それゆえT型呼吸不全になるのですが、その場合に酸素投与をしても、頻呼吸だと思ったようにFIO2が上がらない、ということはままあるわけです。


2つめは、U型呼吸不全でCO2貯留、CO2ナルコーシスの危険が生じている場合です。高CO2になると意識状態が悪化し、呼吸回数が減ってきます。すると結果的に、ゆっくりとした深い呼吸になり、FIO2が上昇してしまうのです。結果、ナルコーシスが悪化、果ては呼吸停止となってしまいます。



これらのようなケースでは、FIO2を厳密に決める必要があり、そういうときに使われるのがベンチュリーマスクです。


こういう風に組み立てて使います。


酸素スライド11.JPG


図ではオレンジ色の器具がついていますが、この器具部分で流れてきた酸素と周りの空気を一定割合で混ぜ、500ml/秒以上の流速(高流量)の、FIO2の定まった酸素+空気にしてマスク部分に流します。

この方式だと、頻呼吸であろうが、徐呼吸であろうが、FIO2が一定の空気を吸入することになるのです。


酸素スライド12.jpg


酸素スライド14.JPG


器具は目標とするFIO2によって孔の大きさが変えられており、流す酸素量も異なります。この器具を交換することで、FIO2を変化させるのです。

当院で使っている器具は、以下の通り。


酸素スライド13.JPG


設定できるFIO2は24%から、最大で50%までとなっているのです。




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2011年09月15日

何気なく投与している酸素についてちゃんと考える9・リザーバーマスクの理屈

壁から流れる酸素を吸っていては、どう逆立ちしてもFIO2はせいぜい60%にしかならない、それ以上吸うにはどうするか。


酸素スライド9.JPG


これは、「ためておいた酸素を、吸気にあわせて放出する」しかありません。

酸素をためておく場所=リザーバー、でしたね。

鼻カニュラの場合、鼻腔が解剖学的リザーバーになるのですが、その容量はたかだか50ml程度。マスクでも150mlぐらいのものです。ですから、FIO2もさほど上がりません。


それが、マスクとチューブとの間に袋(リザーバー)を挿入すると、吸気時にはそれまでに袋にためてあった酸素を吸い込むことになり、FIO2が上昇するという寸法なのです。


酸素スライド10.JPG


とはいえ、なかなかFIO2は上がらない、というのが実際のところです。

それ以上必要となってくると、酸素を機械的に圧縮して高流量を送り込む、人工呼吸器の出番です。


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2011年09月14日

何気なく投与している酸素についてちゃんと考える8・簡易酸素マスク(シンプルマスク)の限界

というか、壁から流れる酸素をそのまま吸う、そのことの限界です。


1回の呼吸で出入りする空気の量を1回換気量(タイダルボリューム Tidal Volume:TV)といいます。


健康な人のおおよそのTVは体重1kgあたり10ml。つまり体重50kgなら500ml。体重(kg)に10を掛けた数字(ml)になります。

1回換気量(TV)=体重(kg)×10(単位:ml)


それで、息を吸うのにかかる時間(吸気時間)、だいたい1秒でしたね。
ですから、1秒間で500mlの空気を吸い込むのです。


500ml/秒=30L/分


つまり、普通の吸気流速を分あたりに換算すると、1分あたり30Lになります。


ここで、壁から出ている酸素の流量計を思い出すと…一番上は15L/分でした。

ということは、壁から出ている酸素の流速は、目一杯でも吸気の半分程度である、ということになります。15L/分ですと、250ml/秒にしかなりません。残りの250mlは周りの空気を吸うことになります。


とすると、吸気中の酸素量は、


250+(250×20%)=300ml


吸気500ml中の酸素濃度は、


300÷500=60%


となります。


つまり15l/分の酸素流量では、FIO2はせいぜい60%にしかならない、という感じなのです。

それ以上あげたいときにはどうするか。リザーバーマスクの出番であります。


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2011年09月13日

何気なく投与している酸素についてちゃんと考える7・簡易酸素マスク(シンプルマスク)について

簡易酸素マスク(シンプルマスク)による酸素投与時のおおよその吸入気酸素濃度(FIO2)は、以下のごとくとされています。

O2流量 FIO2
5〜6L/分 40%
6〜7L/分 50%
7〜8L/分 60%


マスク部分に酸素をためておける、つまりマスク部分がリザーバーになりますから、鼻カニュラより多くの酸素をためておけるのです。そのため、FIO2も上がると期待されます。


とはいえ、なかなか理論通りに上がらないことが多く(一応文献に基づいているのですが)、あくまで参考値です。それよりも大事なことは、5L/分未満では使わないということです


それはなぜか。


例えば、1L/分で酸素を流したとしましょう。


酸素スライド7.JPG


CO2を多く含む、吐いた息(呼気)がマスク内にたまるのがおわかりでしょうか。
酸素流量が1L/分ですと、そのまま呼気を吸い込むことになります。患者さんによっては、ヘタをするとナルコーシスへ一直線、ですね。

これが5L/分であれば…


酸素スライド8.JPG


息を吐いてから次に吸うまでの間に、マスク内に酸素がたまり、呼気のCO2を押し出してくれます。このため、呼気の再吸入は起きないのです。


マスク使用時には、必ず5L/分以上流しましょう。


8L/分以上流したときはどうか。

実際、FIO2は50%以上にはなかなか上がらなくなります。
なぜか。続きは明日。


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2011年09月12日

何気なく投与している酸素についてちゃんと考える6・鼻カニュラにおいて、患者さんの呼吸様式(呼吸の深さ、呼吸数)で吸入気酸素濃度(FIO2)が変化する理屈

実は実は、酸素療法の大切なところはここからだったりするのです。


管から流れてくる酸素の量はたかがしれています。
でも、呼吸休止期にちょろちょろと流れてくる酸素を鼻腔にためておき、それを一緒に吸うことでFIO2を効率よくあげることができる。


この、酸素をためておくところをリザーバーと呼びます。

特に鼻腔は、元々人間が持っているリザーバーですので、解剖学的リザーバーと呼んでいます。



さて、患者さんの呼吸様式(呼吸の深さ、呼吸数)は状態によってまちまちです。


たとえば「息が苦しい」と感じると、普通は呼吸が速く、浅くなります。

そうなるとどうでしょう。
息を吐いてから次に吸うまでの時間が短くなる。


すると、解剖学的リザーバー(鼻腔)内に酸素がたまる暇がなくなってしまい、結果、FIO2は低下してしまいます。

患者さんが苦しくてがんばって呼吸するほど、低酸素になってしまうという、なんとも裏腹な事態になってしまうのです。



逆に、呼吸がゆっくりであると、FIO2が上昇します。

特に、CO2が貯留しているU型呼吸不全の患者さんでは、呼吸がゆっくり〜FIO2が上昇〜さらに呼吸がゆっくり〜さらにCO2貯留〜CO2ナルコーシスとなるため危険なのです。


つまり、患者さんの呼吸様式(呼吸の深さ、呼吸数)が変わると、解剖学的リザーバーにたまる酸素の量が変わるため、吸入気酸素濃度(FIO2)が変化するのです


酸素投与の際には、是非理解しておきたいことです。


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2011年09月09日

何気なく投与している酸素についてちゃんと考える5・鼻カニュラから5L/分の酸素を流したときに、FIO2が40%ぐらいになるが、それ以上流量を増やしてもFIO2はあまり上がっていかない理屈

今日もこ横顔の断面図にお世話になります。鼻腔は50ml程度の空間になっています。


酸素1.jpg


鼻カニュラを当てて、5リットル(1L)/分の流量で酸素を流します。
1分あたり、5リットル酸素が流れてきます。
1秒あたりでは、


5L=5,000ml÷60(秒)≒83ml/秒


となります。


酸素スライド5.JPG


鼻腔は50ml程度の空間ですから、ほぼ酸素で満たされます。


1回の呼吸で出入りする空気の量=1回換気量は、体重1kgあたり10ml。つまり体重60kgなら600ml。吸気時間を1秒として、吸気1秒間で600mlの空気を吸い込むのです。


で、次に息を吸うときには、1秒間で、


鼻腔にたまった50mlの酸素と、
次の1秒間でカニューレから流れてくる83mlの酸素と、
そのあたりにある空気(21%酸素を含んでいる)を
あわせて600ml吸い込みます。


酸素スライド6.JPG


そうすると、その600ml中に含まれる酸素は、


(600-83-50)×21%+83+50≒230ml


ですから、吸気中に含まれる酸素濃度(FIO2)は


230÷600≒38%


となります。


まあ一昨日書いた40%とは少し誤差がありますけど、だいたいこういう考え方です。
一度理解しておくといいでしょう。


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2011年09月08日

何気なく投与している酸素についてちゃんと考える4・鼻カニュラから1L/分の酸素を流したときに、FIO2が24%ぐらいになる理屈

今からのお話は、厳密に言うと少〜しばかり計算がアレなところがあるのですが、とにかくここではわかりやすさ、伝わりやすさ重視で進めていきたいと思います。


鼻カニュラの理屈を考えるには、やはりこの図が欠かせません。


酸素1.jpg


これは横顔の断面図です。鼻腔は50ml程度の空間になっています。
鼻カニュラを当てると、このように酸素が流れてきます。


酸素2.jpg


ここで、酸素流量を考えてみましょう。
普通は1リットル(1L)/分、とかいう単位ですね。


1分あたり、1リットル酸素が流れてきます。
それでは、1秒あたりではいかほどでしょうか。


1L=1,000ml÷60(秒)≒16.7ml/秒


となります。


ここで、呼吸の基礎(お忘れの方はクリックを)を思い出して下さい。


1回の呼吸で出入りする空気の量を1回換気量(タイダルボリューム Tidal Volume:TV)といいます。


健康な人のおおよそのTVは体重1kgあたり10ml。つまり体重60kgなら600ml。体重(kg)に10を掛けた数字(ml)になります。

1回換気量(TV)=体重(kg)×10(単位:ml)


それで、息を吸うのにかかる時間(吸気時間)、だいたい1秒でしたね。
ですから、1秒間で600mlの空気を吸い込むのです。


息を吐いてから吸うまでの時間も1秒程度とすれば、その1秒間に


16.7ml/秒×1秒=16.7mlの酸素が鼻腔内にたまります。


酸素3.jpg


で、次に息を吸うときには、1秒間で、

鼻腔にたまった16mlの酸素と、
次の1秒間でカニューレから流れてくる16mlの酸素と、
そのあたりにある空気(21%酸素を含んでいる)を
あわせて600ml吸い込みます。


酸素4.jpg


そうすると、その600ml中に含まれる酸素は、


(600-16-16)×21%+16+16≒150ml


ですから、吸気中に含まれる酸素濃度(FIO2)は


150÷600=25%


となります。


まあ昨日書いた24%とは少し誤差がありますけど、だいたいこういう考え方です。
一度理解しておくといいでしょう。


この考え方が理解できれば、どうして6L/分以上流してもFIO2が上がらないのかがわかるはずです。明日解説しますので、考えておいて下さいね。


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2011年09月07日

何気なく投与している酸素についてちゃんと考える3・鼻カニューレ経由の酸素流量とFIO2の関係について

鼻カニューレによる酸素投与時のおおよその吸入気酸素濃度(FIO2)は、以下のようになります。

O2流量 FIO2
なし 21%
1l/分 24%
2l/分 28%
3l/分 32%
4l/分 36%
5l/分 40%

「1l/分ごとに4%ずつ上がる」と覚えておくとよいでしょう。


6l/分以上流してもFIO2は40%以上にはなかなか上がらなくなります。従って鼻カニューレでは、鼻への刺激のことも考えて、5l/分を限界とすることが多いのです。


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2011年09月06日

何気なく投与している酸素についてちゃんと考える2・鼻カニューレか、マスクか

低酸素血症、さあ、酸素投与、となったときに、まず出てくる選択肢は

「鼻カニュラか、マスクか」

です。


ちなみに鼻カニュラ、カニューレとか、カヌラとか、いろいろな言い方がありますが、ここでは「酸素療法ガイドライン」に準拠して鼻カニュラとします。


また、簡易酸素マスク(シンプルマスク)、これもいろいろ言い方がありますが、やはり「酸素療法ガイドライン」に準拠して簡易酸素マスクとします。


鼻カニュラとマスク、それぞれに特徴がありますので、知っておきましょう。

鼻カニュラは、鼻の下にあてがったチューブから酸素を流すもので、以下のような特徴があります。

  • 簡便で圧迫感、閉塞感がなく、患者さんの負担が少ない

  • 患者さんの呼吸様式(呼吸の深さ、呼吸数)で吸入気酸素濃度(FIO2)が変化する

  • 鼻孔の通りが悪かったり、口呼吸の時は効果が減少する

  • 鼻粘膜の乾燥が避けられない(特に4L/分以上の高流量の時)

  • ある程度(5L/分)以上の高流量にしても、FIO2は頭打ちになる



簡易酸素マスクというのは、口と鼻を覆うドーム状の器具で、つながっているチューブから酸素を流します。鼻カニュラの裏返しとでもいうべき、以下のような特徴があります。


  • 圧迫感、閉塞感があり、患者さんによっては「息苦しさ」を感じることがある

  • 鼻孔の通りや口呼吸に影響されにくい

  • 鼻粘膜の乾燥は少ない

  • 流量が少ないと呼気中の二酸化炭素を再吸入してしまう



あと、流量による使い分けがあります。


一般的に、鼻カニュラは5L/分以下で、簡易酸素マスクは5L/分以上で使われることが多いです。鼻カニュラで5L/分以上にすると、乾燥と刺激によって鼻の粘膜が痛くなったり、鼻出血が起こったりするからです。

一方、簡易酸素マスクで鼻カニュラは5L/分未満にすると、二酸化炭素を再吸入してしまい、CO2ナルコーシスの原因となることがあります。


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2011年09月05日

何気なく投与している酸素についてちゃんと考える1・T型呼吸不全のおさらい

もうずいぶん前になりますが、人工呼吸器の設定簡単マスターコース8・T型呼吸不全のところで、低酸素血症のお話をいたしました。お忘れの方は↑↑↑クリックを。


あのときは、そのまま人工呼吸器に入ってしまい、酸素療法については後回しになっていましたね。こんなに開いてしまった理由は特になくて、別に、間が開いたから練りに練っていて、素晴らしい話になっているとかでもないのですが(この間他のことをしていたので)、研修医の先生からもご質問が多いので、そろそろ始めて参ります。


クリックも面倒、という方のために、今一度、簡単に復習をしておきましょう。



体重60kgの健康な人は、FIO2=21%の空気を、1分間に

600ml/回×12〜15回=7200〜9000(ml)換気することで、
PaO2(動脈血ガス酸素分圧)を80〜100mmHgに維持しています。


PaO2は、誤解を恐れずシンプルに書けば、

肺胞の数とFiO2で決まる

と言っておきましょう。


そんな中、たとえば肺炎がおこると、その範囲の肺胞は浸出物で埋め尽くされるわけです。


肺炎肺モデル.jpg


そうすると、そこには空気が入らず、ガス交換が成立しないことになります。


T型呼吸不全.pdf


↑ このスライド2枚目のように、空気が入っていない肺胞を巡る毛細血管の血流は、ガス交換を経ることなく、汚いまま左房に帰ることになります。


スライド3枚目のように、例えば半数の肺胞がやられてしまった状態では、PaO2が1/2になります。

これが、低酸素血症です。


正常値が80〜100mmHg のPaO2が60mmHgを下回るとき、低酸素によって臓器障害が起き、生命の危険が生じます。このような状態をT型呼吸不全といいます。


低酸素血症の治療は、スライド4枚目のようにFiO2を上げる、つまり酸素投与になります。


すなわち、

肺胞がやられる(=呼吸を行う肺胞の数が減る)病気(肺炎、心不全、肺気腫、肺線維症、結核など)では、低酸素血症になります(T型呼吸不全)。治療法は酸素投与です。


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