2011年11月04日

栄養と補液の話5・それでは投与経路はどのように選択するか。

まず大原則。

腸を使える人は、腸を使え

何となく、いつまでも点滴してませんか?


まあ、外来で、「なんかしんどいから点滴してくれ」とおっしゃる方もおられるのが現実ではありますが…。


たとえば急性肺炎。
発熱があり、しんどくて食べられない。水分も摂れない。


こういう患者さんには、点滴(経静脈的補液)が必要でしょう。


しかし、全く食事をされず、点滴だけで過ごす期間が長くなってくると問題です。
腸を使わないと、腸管粘膜に対する機械的な刺激が減り、腸自体への栄養供給もへってきて、腸上皮の萎縮が起こります。

腸管粘膜、腸上皮の萎縮が起こると、いざ経腸栄養を再開する際に吸収不良が起きて下痢が続いたりします。


また、腸管粘膜の萎縮や障害によって腸管免疫能が低下します。腸管の免疫能が低下すると、バリア機能が落ちるため、腸管から細菌や細菌由来毒素が入り込む、bacterial translocation(BT)という状態に陥りやすくなります。

そういう患者さんは広域抗生剤を使われていることが多いため、腸内細菌の菌交代も起こりがち。これも下痢やBTの危険因子となります。



そういうわけで、栄養的には、ICUに入室されるようなcliticalな病態の方でも、できる限り速やかに腸を使いましょう、ということになっています。逆にそういう方ですと、胃管から経腸栄養剤、ということになるでしょう。


問題は食べられなくもない、という方だと思いますが、そういう方の場合、実際の摂食量を確認して、不足分を経腸、あるいは経静脈的に補うことになります。

確かに、「咀嚼、嚥下、消化」には結構エネルギーを使い、腸を使うことで消耗する面もありますので、急性期にはある程度経静脈的に栄養を補い、回復されたらなるべく早く腸を使っていく、ということになるでしょう。



栄養と補液の話、もう少し続けようかと思ったのですが、そろそろ系統講義の時期となりましたので、ここでいったんお休みさせていただきます。


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posted by 長尾大志 at 16:23 | Comment(0) | 栄養と輸液の話

2011年11月02日

栄養と補液の話4・栄養の具体的計算法

70歳男性 身長161cm 体重49.5kg


1.BMI、標準体重

BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×BMI標準値(22)

ですから、

BMI=49.5÷1.61÷1.61≒19
標準体重=1.61×1.61×22≒57kg

です。


2.基礎エネルギー消費量

男性なので
BEE=66.47+13.75W+5.0H−6.76A≒1080kcal

となります。


3.活動係数・ストレス係数

活動係数はベッド上安静で1.2、
ストレス係数は1.3〜1.5程度と見積もられています。

この前の会では、併せて1.7程度で計算されていました。
結構このあたりは、栄養士さんの裁量の部分もあるみたいです。

BEE1080kcal×AF1.2×SF1.3≒1680kcal


ざっくりいけば、
30kcal/kg×57kg=1710kcal

くらいですが、ざっくり法でも、そう大間違いはなさそうですね!


ともかくいいたいことは、おおまかでもよいので、その患者さんの必要カロリー量を知って診療に当たりましょう、ということです。


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posted by 長尾大志 at 14:33 | Comment(0) | 栄養と輸液の話

2011年11月01日

栄養と補液の話3・不足を補う

基礎エネルギー消費量、必要エネルギー量を算出したら、実際に投与されているエネルギー量を確認し、差を計算します。


そうやって、どの程度栄養が不足しているか、どの程度付加しなければならないかを見積もります。


そしてその不足分をどのように補うかを考えるのです。

経口でいけるのか、食事形態は、輸液が必要なのか、などなど。食事形態などになると、栄養士さん、NSTの助けが必要かと思いますが、経口か輸液か、というところは医師の判断が必要なのですね。



では、実際の症例で、具体的に計算してみましょうか。
この前の症例で恐縮ですが…。



【症例】 70歳代 男性 無職

【主病名:臨床診断】肺炎、慢性閉塞性肺疾患 [中等症 FEV1.0 1.06L(予測値の50.7%)]
【主訴】 発熱 咳嗽 呼吸困難

【現病歴】
2年前:慢性閉塞性肺疾患にて近医で通院加療されていた。
3か月前:右細菌性肺炎、慢性閉塞性肺疾患急性増悪により緊急入院となったが、治療を受け軽快退院された。
1か月前:在宅酸素療法(O2 2L)導入した。、
今回、全身倦怠感有り、呼吸困難増悪を認め、呼吸器内科受診した。WBC6600/μL、CRP 18mg/dL、胸部レントゲン、胸部CTにて肺炎と診断され入院となる。

【身体所見】身長161cm 体重49.5kg(6か月前55kg)体温36.6℃ 下肢浮腫 なし
胸部:ビア樽様胸郭  呼吸音:喘鳴を聴取 酸素療法 O22L(軽労作に呼吸困難あり)


入院時の栄養評価、また今後の栄養管理について評価します。

1.BMI、標準体重を求めましょう。
2.基礎エネルギー消費量を計算しましょう。
3.所見より活動係数・ストレス係数はどのくらいでしょうか。


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posted by 長尾大志 at 18:02 | Comment(0) | 栄養と輸液の話

2011年10月31日

栄養と補液の話2・一日必要エネルギー量の求め方

本来その人が摂取すべき量の指標は、まず心臓や肺など、生きていく上で必要なエネルギー量(基礎エネルギー消費量)に、患者さんの活動状況やストレスの程度を加味することで求めます。


基礎エネルギー消費量(≒基礎代謝量)の求め方は、
ざっくりと20〜22kcal/kg(理想体重)で計算するか、
Harris-Benedict式(業界用語でハリベネ)による方法でした。


一日に必要なエネルギー量、ざっくり法では、
身長(m)×身長(m)×22×仕事量

仕事量は、労作の度合いによって
  • 軽労作:25〜30kcal/kg

  • 中等労作:30〜35 kcal/kg

  • 重労作:35 kcal/kg


となります。


身長1.65mで、事務作業をしている方ですと、
1.65×1.65×22×25〜30≒1,500〜1,800 kcal/kg

ざっくりこんな感じになります。
まあ、ざっくり法だけに、幅も広いですが、目安にはなりますね。


Harris-Benedict式(ハリベネ)法ですと、

男性 BEE=66.47+13.75W+5.0H−6.76A
女性 BEE=655.1+9.56W+1.85H−4.68A
W:体重(kg)  H:身長(cm)  A:年齢(年)


一日に必要なエネルギー量
=BEE × activity factor(活動係数)×stress factor (ストレス係数)

となります。


病歴、身体所見から、活動係数・ストレス係数を推し量ります。多く活動している人はより多くのエネルギーを必要とするため、エネルギー消費を少し多めにしてあげるわけです。


活動係数は以下の通り

  • 1.0〜1.1:寝たきり

  • 1.2:ベッド上安静

  • 1.3:ベッド以外での活動

  • 1.5:やや低い活動

  • 1.7:適度な活動

  • 1.9:高い活動



ストレス係数は以下の通りです。

  • 手術:1.1(軽度)、1.2(中等度)、1.8(高度)

  • 外傷:1.35(骨折)、1.6(頭部損傷でステロイド使用)

  • 感染症:1.2(軽度)、1.5(中等度)

  • 熱傷:(体表面積の40%)、1.95(体表面積の100%)

  • 癌:1.1〜1.3

  • 体温:36℃から1℃上昇ごとに0.2増加



ハリベネ式は煩雑で、iPhoneの中にでも入れておかないと、とっさには出てこないでしょう。NSTが介入されると、ほぼ自動的?に計算していただけるので、それを参考にしますが、そうでない場合、ざっくり法でもおおよそ大外れはないのではないか、と思います。


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posted by 長尾大志 at 12:31 | Comment(0) | 栄養と輸液の話

2011年10月28日

栄養と補液の話1・大原則

栄養、あるいは補液について考えるときの大原則は、

  • 本来その人が摂取すべき量に対して、現実にはどうなっているか

  • その過不足をどの程度補うか

  • どのような経路で補うか


ということです。


栄養指導であるとか、栄養士さんの絡みでよく経験する症例は、糖尿病やメタボにおける栄養の「制限」が多いと思いますが、NSTの活動では、むしろ栄養の「補充」「付加」がメインになります。
ですから、過不足とは書きましたが、主に不足分を評価することになります。


不足しているのかどうかを知るためには、

  • 本来その人が摂取すべき量はどれだけで

  • 今現実に摂取している量はどれだけか


を把握しなければなりません。


本来その人が摂取すべき量の指標は、まず心臓や肺など、生きていく上で必要なエネルギー量(基礎エネルギー消費量)に、患者さんの活動状況やストレスの程度を加味することで求めます。


基礎エネルギー消費量(≒基礎代謝量)の求め方は、
ざっくりと20〜22kcal/kgで計算するか、
Harris-Benedict式(業界用語でハリベネ)による方法があります。

Harris-Benedict式は、こんな式です。

男 BEE=66.47+13.75W+5.0H−6.76A
女 BEE=655.1+9.56W+1.85H−4.68A
W:体重(kg)  H:身長(cm)  A:年齢(年)


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posted by 長尾大志 at 09:46 | Comment(0) | 栄養と輸液の話