2012年03月20日

血痰・喀血の鑑別・Wegener肉芽腫症

最近知ったのですが、この疾患、国際的には名前を変更しようという流れになっているようですね。


それがまた、味も素っ気もない、というかなんというか、

glanulomatosis with polyangiitis

肉芽腫性血管炎…?



こういう、人名のついた病名は、より科学的?で、病理、疾患の機序を表す病名に取って代わられるべきだ、という論調が、最近のレビューにちょこちょこ書かれてきています。


ただ、他の用語を提唱しているところもあり、日本でもまだ一般的でないようですが、そのうち変わってくるのではないかと思われます。今のところ、ここではWegener肉芽腫症と表記しておきます。



さて、このWegener肉芽腫症については、是非知っておいていただきたいことが2点あります。



■C-ANCA(PR3-ANCA)は感度、特異度ともに高い。

C-ANCAはWegener肉芽腫症における感度、特異度が高い、これは是非知っておきましょう。他疾患でほとんど陽性にならない、特異度の高さは臨床の現場で大変便利?です。つまりこれが陽性になれば、他疾患の除外はほとんどできたも同然なのです。

公費負担のための診断基準にも、C-ANCA陽性、という項目が含まれています。


■E-L-Kの順に症状が出る。

Eは上気道、Lは肺、Kは腎臓です。Eは元々ear(耳)のEですが、上気道を代表させています。
多くの場合はE-L-Kの順に症状が出てきます。Eだけ、あるいはEとLだけに症状が限局していれば、ELKすべてに病変が出てしまった場合よりも軽症である、とされています。Kまで行ってしまうと、結構難儀します。


また、上気道症状は副鼻腔炎〜鞍鼻が有名ですが、眼(眼痛、視力低下、眼球突出)、耳(中耳炎)、口腔、咽頭(咽頭痛、潰瘍、嗄声、気道閉塞)にも病変は出現します。眼なんか上気道か?と思われるかもしれませんが、つながってるんですねー。


抗菌薬に不応な頭部、上気道に始まる炎症、次いで血痰や喀血、発熱などが出てくる、というのが典型的な病歴。加えて特徴的な胸部レントゲン写真(空洞など)をみればC-ANCAを早めに測定すべきでしょう。

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posted by 長尾大志 at 17:50 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2012年03月19日

びまん性肺胞出血の鑑別診断・炎症のない肺胞出血とDAD

週末を挟みましたが、話を元に戻しましょう。


血管炎や膠原病など、炎症がないのに肺胞出血が起きている、そんな状態をbland pulmonary hemorrhageといいます。この場合のblandは、無菌の、とか炎症のない、とかいう意味です。


このジャンルに含まれるのは、なんといっても肺のうっ血。疾患名としては僧帽弁狭窄症が挙げられています。


それ以外には、特発性肺ヘモジデローシスをはじめ、少し稀な疾患群。あと、薬剤では前回挙げたワーファリンをはじめとする、凝固異常を来すものが挙げられています。


また、SLEは膠原病ですが、炎症のない病態というものもあるようで、こちらの範疇にも入れられていたりします。同様に?Goodpasture症候群も、血管炎にもこちらにも入っていたりします。



ですから、これらの鑑別は、まずは心不全の除外、うっ血性心不全を来すような弁膜疾患があるかどうかを確認、同時に凝固異常の有無を見る…という手順が必要かと思います。


また、まれではありますが、びまん性肺胞障害(diffuse alveolar damage:DAD)を来すような疾患でも肺胞出血は起こるとされていて、多くの疾患、原因薬剤が挙げられています。


症例報告レベルではIPF/UIPの急性増悪でも肺胞出血あり、とのことですが、そのあたりになるとちょっと機序不明ですね。



ちなみに本症例は、現在までのところ、各種検査でなにも陽性所見が得られておらず、確たる診断には至っておりません。もうちょっと、書いている間に、何かご報告できるかと思っていたのですが…。また、何か判明しましたら、ご報告させていただきます。

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posted by 長尾大志 at 17:06 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2012年03月16日

独り立ちの刻(とき)・びまん性肺胞出血の鑑別診断・血管炎の鑑別

血管炎や膠原病など、血管に炎症が生じた結果、血管透過性の亢進、血管壁の破壊が生じて出血に至る、という機序を考えますと、


  • 症状、病歴が合致するか確認

  • 所見、肺外病変の有無を確認

  • そして、血清マーカー、特異抗体出現確認



を確認せねばなりません。
本症例ではどうだったでしょうか。


■症状、病歴

1ヶ月前からの症状、労作時の呼吸困難と血痰以外に、発熱や神経筋症状、関節症状、皮膚症状など、血管炎や膠原病を思わせる症状はありませんでした。


既往歴・家族歴でも特にそういう病歴はなく、アレルギー性鼻炎はあるものの副鼻腔炎(Wegener肉芽腫症の初期症状)、喘息(アレルギー性肉芽腫性血管炎に先行)はなし。


■所見、肺外病変の有無

身体所見、肺外病変では、血管炎や膠原病を思わせる所見、特に血管炎や膠原病の予後を決めることの多い腎障害の有無を見たいところですが、尿所見や腎機能上、異常は認められませんでした。


■血清マーカー、特異抗体

これも、ANCA を含め、主なものは入院時の採血(結果は1週間後に判明)ではnegative。



以上に加えて重要な情報が、薬剤使用歴です。血管炎、あるいは他の機序で肺胞出血を来す薬剤は数多く、UpToDateを見てもいろいろ書いてありますね。


以前にも書いたそれぞれの機序において、
原因となる薬剤を挙げますと、

  • 広い意味での血管炎:ジフェニルヒダントイン・プロピルチオウラシル・レチノイン酸

  • 炎症のない出血:抗凝固薬

  • びまん性肺胞障害:アミオダロン・ペニシラミン・プロピルチオウラシル・シロリムス・細胞障害性抗腫瘍薬など



薬剤…
本症例は、ワーファリンを内服している…


一元的に考えると、よくあるのは、

ワーファリン内服、血中濃度上昇→凝固能低下→出血、です。

ただ、PT-INRは2.85と、伸びてはいるものの、それだけで説明するのも無理があるように思います。感染の関与?はたまた…。

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posted by 長尾大志 at 19:22 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2012年03月15日

独り立ちの刻(とき)・肺胞出血の鑑別診断・血管炎

急性、ないし亜急性に生じた、血痰や喀血があり、両側びまん性にすりガラス影を来す病態といえば、肺胞出血。ただ、肺胞出血というのは、あくまで症候群であり、診断名ではありません。

肺胞領域から(典型的にはびまん性に)出血しておれば、肺胞出血です。

ですから、診断には、肺胞から出血していることを証明する必要があります。臨床の現場では、気管支鏡による気管支肺胞洗浄がよく使われます。


本症例でも…


DAH_BALF0003.JPG


回収は悪いですが、BALF血性であり、肺胞領域での出血に矛盾しない所見でした。


肺胞出血の鑑別としては、まず多いのは血管の炎症。
血管炎や膠原病など、血管に炎症が生じた結果、血管透過性の亢進、血管壁の破壊が生じて出血に至る、という機序の疾患をまず考えます。


これらの疾患の鑑別手順としては、


  • 症状、病歴が合致するか確認

  • 所見、肺外病変の有無を確認

  • そして、血清マーカー、特異抗体出現確認



となります。
治療を急ぐこともありますから、特異抗体のオーダーは初期段階で行われることも多いでしょうが…それでも、頭の中では、鑑別をしっかり行ってから提出するようにしましょう。

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posted by 長尾大志 at 14:17 | Comment(4) | 血痰・喀血・肺胞出血

2012年03月14日

独り立ちの刻(とき)・亜急性に生じたびまん性肺胞出血の鑑別診断

血痰、あるいは喀血があり、両側びまん性にすりガラス影を来す病態。
というわけで、陰影からは、肺胞出血の存在が疑われます。
fine cracklesやKL-6高値はどう説明するのか…。


もう一度、以前の(腹部)CTを見てみましょう。


110311CT2このへん.JPG


このへん。蜂巣肺のような網状影が。
そう、元々線維化を伴うような間質性肺疾患があったと考えられます。


そこに、肺胞出血がsuperimpose。
では、肺胞出血の原因は?


UpToDateやレビューを見てみると、いろいろな鑑別疾患があるものですが、いくつかのジャンルに分けますと…。


  • 広い意味での血管炎

  • 炎症のない出血

  • びまん性肺胞障害



となります。


■広い意味での血管炎

ANCA関連疾患、血管炎が有名ですが、SLEをはじめとする膠原病、免疫疾患の多くが含まれます。


■炎症のない肺胞出血

いわゆる特発性肺胞出血、毛細血管の圧上昇によるうっ血性心不全や弁膜症など、あるいは抗凝固薬などの、薬剤によるものが含まれます。


■びまん性肺胞障害

そうお目にかかることはありませんが、鑑別には入ってくるようです。


この中で多いのは…。
支持する所見はあるでしょうか…。

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posted by 長尾大志 at 19:07 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2012年03月13日

独り立ちの刻(とき)・亜急性に生じた呼吸不全+血痰2

入院時身体所見です。

体温 36.4℃ 脈拍 89bpm 血圧110/71mmHg SpO2 92%(nasal3L)

意識清明
結膜:貧血黄染なし
口腔咽頭:発赤なし 白苔なし 
頸部:リンパ節触知せず 甲状腺腫大なし bruit聴取せず 頸静脈怒張なし 呼吸補助筋肥大なし 鎖骨上窩陥凹なし ばち指なし
胸部:呼吸音:両下肺野吸気終末にfine crackle聴取 R>L
   心音:心拍不整あり、雑音なし
腹部:平坦 軟 腸蠕動音亢進減弱なし 圧痛・自発痛なし
四肢:下腿浮腫なし 足背動脈触知良好 皮疹なし 関節症状なし


検査所見は以下の通り。
HT 39.4  HB 13.6  WBC 7.9  PLTS 182  PT-INR 2.85 H
TP 6.7  ALB 3.3 L  AST 29  ALT 17  LDH 466 H
ALP 254  G-GTP 24  CHE 231  LAP 100  T-BIL 1.23 H
NA 138  CL 106  K 4.1  UN 21.9  CRE 0.88  eGFR 64.7
CRP 11.73 HH  BNP 173.01 H  
補体価 65.6 H  C3 154  C4 28 
RF 0  KL-6 1285.0 H
【ABG】nasal 3L にて
PH 7.439   PCO2 34.0   PO2 69.2 L   HCO3 22.5   BE -0.9


発熱、頻拍なく、血圧も保たれています。胸部にcrackleがあるようですが、ばち指や関節症状、皮膚症状などもないようです。


検査所見では、貧血はないのですが、ヘモグロビンで2程度、前値からの低下があります。WBC高くありませんが、CRPは高値ですね。KL-6も上昇。


まとめますと、発熱はないものの、若干の炎症所見あり(細菌感染かどうかは?)、心不全徴候もありませんが、fine cracklesあり、間質マーカー高値で間質性肺疾患の存在を疑う所見あり、ただし、ばち指や膠原病を疑う特異的な所見はない、血痰による若干の失血あるが、貧血とまでは行かない、ということになります。


胸部レントゲン写真は、


120309CR.jpg


2年ほど前の写真をコントロールにしましょう。


091225CR.jpg


胸部CTはこんな感じ。


120309CT1.jpg


120309CT2.jpg


昨年の腹部CTを見てみますと…


110311CT2.jpg


ああ、そういうことですか。となります。
さて、どういうことでしょうか。

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posted by 長尾大志 at 18:16 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2012年03月12日

独り立ちの刻(とき)・亜急性に生じた呼吸不全+血痰

後期研修医のN先生。医師になって3年目も後半に入り、チーム全体として「独り立ち」の予行演習に入ってきています。ご自分での意志決定、方針決定とそれに対するフィードバックを日々行っています。


今回の症例は、きっちりと鑑別を進めていきたい、亜急性に生じた呼吸不全+血痰を主訴とする方です。



症例 70歳代 男性

<現病歴>
1ヶ月前頃より労作時の呼吸困難が出現、症状改善せずまた血痰も増加したため、当院かかりつけ某科を受診された。
胸部単純写真/胸部単純CTにて両側肺に広範囲に広がるGGOを認めたため、精査加療目的で当科紹介され、即日入院となった。

<既往歴>
53歳 右肺瘢痕性腫瘤(当院呼吸器外科にて右肺部分切除術)
56歳 慢性胃炎、逆流性食道炎
63歳 大腸ポリープ
64歳 胃潰瘍
69歳 高血圧、CTにてCOPDの指摘あり
72歳 脂質異常症、PAF、胆嚢ポリープ

<家族歴>
父:突然死
長兄:ペースメーカー植え込み 突然死

<生活歴>
喫煙:20本×18〜32歳 現在は禁煙
アルコール:ビール350ml/day
職業:元市バス運転手 アスベストや粉塵の曝露歴なし

<アレルギー>
アレルギー性鼻炎あり

<内服薬>
アーチスト
ジゴシン
ミカルディス
パリエット
ワーファリン
エパデール

漢方薬、サプリメント、健康食品などの摂取なし


という症例。


徐々に進行する呼吸困難と血痰…
これを、一元的に説明する病態を考えたいですね。


どのような鑑別を挙げていきましょうか。

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posted by 長尾大志 at 17:09 | Comment(1) | 血痰・喀血・肺胞出血