2021年07月08日

胸部X線読影道場ふたたび543

久々の画像で、ちょっと勝手がわからなくなってしまいましたが、ビミョーな陰影は左肺門の少し外側にございます。CTではこんな風に見えました。

スライド397.JPG

結構、骨や血管の重なりによる合成像がそこここで見られるので、それに埋もれてしまって見にくい陰影だと思いました。

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posted by 長尾大志 at 17:21 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年07月06日

血痰・喀血14 症例の診断手順・もう一度病歴

例えば、喀血の症例があったとしましょう。数ヶ月前から血痰が出現した。近医を受診して止血剤や去痰薬等の投薬を受けたが、内服中は多少軽快するものの内服が終了するとまた血痰が出る、みたいな病歴としましょうか。

そこでまず聴きたいことは…やはり「これまでに肺の病気をされたことはありますか?」とか、「健康診断などで肺に影があると言われたことはありますか?」ではないでしょうか。

基礎に陳旧性肺結核や非結核性抗酸菌の病巣、あるいは気管支拡張症が存在する可能性をあぶり出しましょう。陳旧性肺結核や非結核性抗酸菌症、それらを基礎とした気管支拡張症などといった気管支の病変には、非結核性抗酸菌やアスペルギルス感染が合併し、気管支出血をきたして血痰・喀血を起こすような病態が生じやすいということがあります。

そして特に高齢者の場合、1940年から60年頃までの結核蔓延期に結核にかかり、ある程度後遺症といいますか、キッチリ治癒していない状態をずっと持ち続けている、という場合、また肺非結核性抗酸菌症においては、無症状で陰影だけが指摘され、長期間経過するといったこともしばしば経験されます。

最終的にこれらの慢性気道感染症は、菌体を直接検出することで確定診断に至りますから、侵襲性の少ない検査としては喀痰(塗抹・培養・結核菌や非結核性抗酸菌の場合PCR)、それで診断がつかない場合気管支鏡による経気管支洗浄や経気管支生検などで確定診断に至る、大体そのような手順になります。

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posted by 長尾大志 at 20:27 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年07月05日

血痰・喀血13 気管支鏡について

もちろん血痰や喀血がある場合、検査として胸部X線写真は必須ですし、多くの場合胸部CTも必要となるでしょう。しかしながら画像診断だけで確定診断が得られるものではない、ということです。画像所見からは鑑別診断を絞るまで、診断、特に感染症や癌の確定診断には、菌の検出や生検標本が必要ということになります。

では気管支鏡検査で生検をしては、ということになりますが、気管支鏡検査につきましては、もちろん出血が活動性であるときに気管支鏡で生検などということはまあまあ無理があります。生検したい病変部≒出血源となっている場所なわけで、生検するとせっかく止血していたのがまた大出血を起こしたり、という危険性もあるわけで、なかなか積極的な診断は難しいかもしれません。

おそらく大出血している場面では、診断というのは「疾患を絞り込む」診断ではなく、出血源を探してそこを血管造影をして動脈塞栓術に持ち込むという意味での「存在診断」、場所の絞り込みということになるかと思います。

しかしながら仮に塞栓術を施行したとしても、それが感染症である場合、引き続き感染のコントロール行わなければ再出血の危険性も高いといわれています。ですから、NTMにしてもアスペルギルスにしても、出来る限り診断を追求する必要があります。喀痰に加えて可能な限り(止血前提で)気管支鏡検査が望まれるところです。

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posted by 長尾大志 at 20:01 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年07月04日

血痰・喀血12 アスペルギルス考2

今日も今日とて、適々斎塾ヴァーチャルクリニックでお話+勉強をさせて頂きました。いや〜呼吸器疾患って、本当に奥が深くて、突き詰めると興味深いことがいっぱいですね。先生方、ありがとうございました!!


さて血痰・喀血の続きですが、そんなわけでなかなか進みませんが…。

アスベルギルスといえば、βDグルカンやアスペルギルス抗体・抗原などの血清検査が連想されますが、残念ながらこれらの検査でも感度はそれほど期待できず、診断に至らない。そして不良の転帰を経てから剖検にて診断される…といったケースが少なからずあるような印象があります。

ですからこのアスペルギルスという診断、もちろん特徴的な胸部CT所見(air-crescent sign:エアクレッセントサイン)のようなものがあれば話は別ですが、侵襲性肺アスペルギルス症などでもあまり特徴的な所見がないケースでは、なかなか診断がつかないこともあるということは知っておきましょう。

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posted by 長尾大志 at 17:10 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年07月01日

血痰・喀血11 アスペルギルス考1

肺非結核性抗酸菌症以外に大量の気道出血をきたす、すなわち大量喀血につながる病態としては、やはり高圧系の気管支動脈からの出血、すなわち気管支に病変をつくる疾患が考えられるということになります。

気管支を直接障害・破壊して血管の破綻に結びつくような疾患ということになると、やはり感染症の割合が多いでしょう。で、非結核性抗酸菌症に次いで多いというわけではないかもしれませんが、昨今注目されているのがアスペルギルス感染症ではないでしょうか。

アスペルギルス感染症は、例えば喀痰検査(塗抹・培養)でそれと診断できることは少ない(痰の中に菌体が紛れ込んでくることが少ない)ので、診断には組織の生検標本などが必要になってきます。

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posted by 長尾大志 at 23:16 | Comment(2) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年06月30日

血痰・喀血6.1 鑑別を絞るために、もうちょっと聞きたい病歴1.1

先日の記事「血痰・喀血6 鑑別を絞るために、もうちょっと聞きたい病歴1」の中で、「もう少しデータがないものでしょうか〜?」とお尋ねしましたところ、K立K賀病院のT岡先生から情報をいただきました。

厚生労働省のNDBデータサイト、こんなサイトがあったんですね……不勉強でした。このサイトより個々の薬剤の総処方数を見ることができますので、概ねの処方人数がわかります。

色々な剤型がありますが、本当にザックリと総処方「数」を見ると、約7億個(錠・カプセル・包)。

7億÷365≒195万(人)、となります。前回の試算より少し多め。

平成29年厚労省統計では、定期通院している65歳以上の人口は360万人余り、とすると、ザックリ通院患者さんの1/2程度がDOACを内服している…???まあまあ、多そうですね…。

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posted by 長尾大志 at 17:41 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年06月29日

血痰・喀血10 次のステップ⇒検査

急性に出現した喀血の原因として多いものはやはり感染症です。ということで、次の診断ステップとしては喀痰検査が大変重要で、グラム染色や抗酸菌塗抹検査にて診断がつけば、治療方針決定に寄与しますから儲けものです。

特に昨今では、肺結核以上に肺非結核性抗酸菌症による喀血に遭遇する頻度が高まっていると感じます。診断にはCTなど画像検査ももちろん重要ですが、肺非結核性抗酸菌症の診断には喀痰検査が必須ですので、診断確定のために喀痰の抗酸菌塗抹・培養、そしてPCR検査を是非とも行っていただきたいと思います。

塗抹とPCRは比較的すぐに結果が得られますが、培養検査は最終結果が得られるまでに最長で8週間かかりますから、結果が出ていない段階で陰性であるという判断をしないようにしましょう。もちろん菌量が多ければ塗抹が陽性になりますし、培養も早い段階で陽性になってきますが、出血しているから菌量が多いとは必ずしも限りません。出血するかどうかは、病変が血管付近にあって血管の破綻につながっているかどうかで決まります。出血の量もその血管の圧力の強さによって決まります。ですから、派手な出血であっても菌量が少ない=なかなか診断がつかない、という可能性もありますので注意しておきましょう。

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posted by 長尾大志 at 19:47 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年06月28日

血痰・喀血9 血の出どころ

血痰・喀血の出血源は肺胞から口腔(鼻腔)までのどの部分なのか、という観点で鑑別診断を考えます。

気管支からの出血は、急性気管支炎、慢性気管支炎(の増悪)、気管支拡張症、副鼻腔気管支症候群、海外の方だと嚢胞性線維症、そして肺癌などが原因疾患としては多いです。肺癌からの出血で血痰・喀血が起こる場合、末梢の肺癌よりも中枢型の肺癌、すなわち扁平上皮癌や一部の小細胞癌、特に気管支内腔に癌組織が露出してることも多い扁平上皮癌で多く見られます。これは同じように血管に浸潤して破綻が起こるとしても中枢の血管の方が太いというところによります。

これら気管支からの出血では、一般的に気管支動脈からの出血になるためより多量に出血します。一方で肺胞からの出血は肺循環の破綻によるもので、血圧が低いため、大喀血を起こすということは少ないようです。もちろんびまん性肺胞出血のように、出血量自体が多くなってくると出血量は多くなります。

肺胞領域の出血のうち、両側びまん性に生じたものはびまん性肺胞出血と呼ばれ、出血量によって血痰・喀血の原因になります。その原因は炎症性のものと非炎症性のものがあります。炎症性というのは血管炎、全身性エリテマトーデスのような自己免疫疾患、それにGoodpasture症候群のような抗基底膜抗体による肺胞基底膜の障害などがあります。肺炎における病変部での出血も、くくりでいうとこちらに入ります。

炎症でないものとしては出血傾向によるもの、これは全身性疾患による血小板減少や凝固障害よりも、昨今では先に挙げた抗凝固薬によるものが多い印象です。それと心不全、こちらは圧力でしみだしてくる血液ですが、泡沫状の痰に血液が混じってピンク色に見える、という感じであり、喀血、となることは少ないでしょう。

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posted by 長尾大志 at 17:18 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年06月27日

血痰・喀血8 鑑別を絞るために、もうちょっと聞きたい病歴3・探すべき所見

月経周期に伴って出血があるという場合には、やはり子宮内膜症など考えるべきですが、なかなか「月経周期に伴う」という観点で患者さんは語ってくださいませんので、「月に1回程度」という頻度から想起し、月経周期との関係を確認する必要があります。

うっ血性心不全の時には、教科書的には労作時呼吸困難、全身倦怠感、発作性の夜間呼吸困難や起座呼吸、ピンク色の泡沫状の喀痰といった症状を聴取します。


確認すべき身体診察所見として、もちろん胸部の視診・触診・打診・聴診は基本です。特に左右差に注意し、正常でない方(打診で濁音・呼吸音減弱など)を下の側臥位にするなどの配慮が必要です。頸部の視診では頸静脈の怒張を確認し、COPDに特徴的な各種の所見等にも注意を払いましょう。

ばち指が見られた場合、肺癌、肺膿瘍、気管支拡張症などの存在を疑います。肺癌がある場合、病変の存在部位にまつわる嗄声やHorner症候群などが見られることもありますし、腫瘍随伴症候群(低Na血症/SIADH・高Ca血症・Cushing症候群・Lambert-Eaton症候群・Trousseau症候群など)、悪液質からの体重減少なども確認されると診断の一助になります。

また、肺血栓塞栓症の時は頻呼吸、頻脈、呼吸困難、U音の固定性分裂などが所見として見られます。

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posted by 長尾大志 at 20:41 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年06月26日

血痰・喀血7 鑑別を絞るために、もうちょっと聞きたい病歴2

それ以外に、病歴で聞きたいこととしては…

発熱(や、高齢者の場合発熱がなくても寝汗)があるという場合、それに湿性咳嗽がある、となると感染症が想起されます。比較的経過が早い場合は一般細菌による感染症、経過が長い場合には肺結核、肺非結核性抗酸菌症、肺膿瘍・肺化膿症などがここに含まれます。昨今ではこのあたりの疾患が多いですね。

結核の既往があったり、COPDや肺線維症などの慢性の肺疾患が存在するという場合、肺膿瘍や気管支拡張症からの出血の可能性を想定しておく必要があります。免疫抑制状態、HIV感染症などの基礎疾患そのものでもありますし、ステロイドや免疫抑制薬などを使用している場合に血痰や喀血が見られたら、肺結核、肺非結核性抗酸菌症、悪性腫瘍などをまずは想定し、細菌検査・細胞診や画像検査に向かいます。

胸痛がある・急に発症した・息切れも見られる・胸部X線写真で特段の所見がないという場合、肺血栓塞栓症の存在を想定しましょう。血栓から肺梗塞になると、限局性の高吸収域が斑状に見られることもあります。

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posted by 長尾大志 at 19:50 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年06月25日

血痰・喀血6 鑑別を絞るために、もうちょっと聞きたい病歴1

病歴として、まずは抗凝固薬を使用しているかどうかを確認したいですね。抗凝固薬の副作用として出血傾向が生じ肺胞出血をきたしますから、この薬剤使用歴を調査することはきわめて重要です。

昨今で具体的にどのくらいの人が抗凝固薬を使っているかというデータはなかなかないのですが、2019年05月の記事で「第一三共の眞鍋淳社長は、抗凝固剤エドキサバン(リクシアナ)が国内経口抗凝固薬(DOAC)市場の売上シェア1位に浮上、昨年度国内売上高が649億円」との記事がありました。(薬事日報 2019年05月09日)

リクシアナ60rが416円、30r411円なので、649億÷365日÷約410円≒43万人、4剤あって30%程度のシェアとすると、143万人程度が内服しているような計算になります。ザックリと。どなたか正確なデータのありかをご存じの方、こっそり教えてください。

平成29年厚労省統計では、定期通院している65歳以上の人口は360万人余り、そんなに若い人は内服していないだろう、と考えると、ザックリ通院患者さんの1/4〜1/3程度はDOACを内服している…???出血傾向が数%に起こるとすると、通院患者さんの0.数%に何某かの出血イベントが起こる……こんな計算で合っているのでしょうか??

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posted by 長尾大志 at 16:59 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年06月24日

血痰・喀血6 原因疾患

喉より下からの出血、となると気管〜気管支〜肺からの出血ということになります。典型的には、胸がモヤモヤして、何か湧き上がってきて、ゴホンと咳をしたら血が出た、みたいな症状ですが、例外も数多くあるため、あまり症状で絞ってしまわない方がよいかと考えます。

喉より下からの出血、鑑別診断としては以下のようなものが挙げられます。なかなか頻度…というと、これ!というデータは見当たらないのですが、まあ経験的に、あといくつかの教科書的に、並べてみました。


■ 頻度が高いもの

肺癌
慢性気管支炎
気管支拡張症


■ 時々みられるもの

肺結核
非結核性抗酸菌症
細菌性肺炎
肺膿瘍・肺化膿症
肺真菌症
肺塞栓症
肺胞出血:膠原病・グッドパスチャー症候群・多発血管炎性肉芽腫症などの血管炎・出血傾向/抗凝固薬・子宮内膜症(月経随伴性)


■ まれなもの

薬剤・有毒物質
異物
気管支腺腫
肺動静脈瘻


なお、心不全はもっと頻度が高そうですが、通常は呼吸困難なんかとセットで生じ、「血痰・喀血」を主訴に受診というケースはあまり多くないと思われますので、肺胞出血のところに入れておきます。

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posted by 長尾大志 at 19:00 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年06月23日

血痰・喀血5 鼻からの出血

口(鼻)から出ている血が血痰・喀血であると考えられる場合、次のステップは喉より上からの出血か、喉より下からの出血かの鑑別です。

喉より上あたりからの出血は、あまり深刻な疾患であることが少ないので、「こっちだったらいいなあ」と思いながら話を聞くわけです。鼻副鼻腔炎が基礎にあることが多い鼻腔・副鼻腔腔からの出血が多く、それ以外には中高年や喫煙者の場合、口腔内の洗浄に問題があり歯周病部位からの出血、という例をしばしば見かけます。

例えば鼻をすすると出血する、鼻出血を伴う、などというエピソードがあると分かりやすいですが、普段から後鼻漏様の症状(痰が絡んだ感じ)があって、痰を切って出すと血が混じっていたというepisodeも鼻からの出血を思わせます。もちろん鼻出血でも大量に出血することがありますし、大量喀血ですと鼻からも血が出ることがありますから、大量鼻出血と大量喀血の区別は時に困難になります。そうなると病歴や基礎疾患、取り急ぎの胸部X線写真あたりで目星を付けることになるでしょう。

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posted by 長尾大志 at 18:58 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年06月22日

血痰・喀血4 喀血量について・続き

喀血量について明確な基準がない理由として、実際問題、喀血量を厳密に測定することが困難である点があります。

出た血液が一体何mLであったか?ということは、患者さん自身や家族の方の目分量でしかないことが多く、(血を吐いた瞬間からしっかり洗面器などで受けるなどして)キッチリ測定できることはほとんどないでしょう。通常は吐いた血は衣服や寝具などに染み込んでしまい、測定は困難です。

ですからあくまで目分量で、盃一杯とか茶碗一杯とかいう表現になってしまいます。おおよそ24時間に茶碗一杯強、200〜300mL以上喀血がある場合を大量喀血ということが多いようです。

通常気管支動脈は左心系で血圧が高く、気管支動脈からの出血となる気管支拡張症や中枢の肺癌、動静脈奇形などのような疾患の方が出血量は多く、大量喀血につながることが多いとされています。

一方、肺動脈は右心系で血圧が低いため、肺胞出血などは量が多くなければ、それほど大量喀血にはつながらないことが多いかなあという印象です。

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posted by 長尾大志 at 18:20 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年06月21日

血痰・喀血3 喀血量について

もちろん、肺から出た血液を飲み込んで吐血、あるいは逆に吐血した物を誤嚥して喀血、ということもあり得ますから、ある程度「こっちかな?」という目星をつけておいて、その上で診断・検査を進めていくことになるでしょう。

血痰・喀血の診療を進めていくうえで、まず大切なのがその血痰・喀血が「命に関わるもの」であるかどうかという判断です。気道内の出血では、消化管出血と違って血液の溜まる場所(逃げ場)がないため、ある程度の量の出血で気道閉塞・窒息を起こしてしまう可能性がありますから、大量喀血の場合一番怖いのは窒息・呼吸停止です。

まずは気道の確保が必要かどうかという観点で、バイタルサイン及び酸素飽和度の評価をします。バイタルサインは脈拍数、血圧、そして呼吸数・酸素飽和度が重要ですね。ひとまずバイタルサインに問題があれば、すぐに気道確保〜気管内挿管を試みることになります。元々肺病変があることがわかっていれば、病変のある側からの出血であると想定されるので、そちらを下の側臥位とし、健側の換気を確保します。

大量喀血の定義というのは報告によってまちまちで、24時間の喀血量が200mLとか300mLとか600mLとか、いろいろな基準が用いられてきており、統一された量というのはありません。

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posted by 長尾大志 at 17:43 | Comment(2) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年06月18日

血痰・喀血2

喀血と吐血の見分け方としては、まず症状の出かたとして

・咳とともに出る
・喀出した血液が鮮血〜ピンク色であり泡沫を含む、液状もしくは凝血様である
・呼吸器疾患(気管支拡張症・肺結核・肺非結核性抗酸菌症・肺癌など)の既往がある
・重喫煙者である
・聴診してコースクラックルなどラ音が聴取される
・悪心・嘔吐はない

これらの場合には喀血の方がより考えやすいです。吐血の場合は

・悪心嘔吐に伴って血を吐いた
・吐物が暗赤色から黒色
・吐物がコーヒー残渣様、あるいは吐物に食物残渣が混入している
・胃・肝疾患の既往がある

というような特徴があります。

検査としては尿試験紙などで吐物のpHを測定し、アルカリ性であれば喀血、酸性であれば吐血(胃酸が混入)、また塗抹でマクロファージや好中球が見られる場合には喀血と言えるでしょう。

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posted by 長尾大志 at 16:34 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2021年06月17日

血痰・喀血1

さて、胸部X線写真も一段落ついたということで、また新しいシリーズを始めようかなと思います……といいますか、ちょっとお仕事の都合でこれをやらせていただきたいというものがでてきました。

ずいぶん前ですが、『呼吸器内科 ただいま診断中!』という書籍を上梓させていただいたのですが、ご存知の方はおられるでしょうか?あの大ベストセラー『救急外来 ただいま診断中!』とか『感染症内科 ただいま診断中!』とか『総合内科 ただいま診断中!』とか『女性の救急外来 ただいま診断中!』とかのベストセラーシリーズのに中にあって、あまり売れていない…ものではありますが、実は!人知れず!『ただいま診断中!』シリーズの先駆け、一番最初にでた書籍だったんですね。

その本で、呼吸器疾患に関して診断の手順をご紹介したわけですが、これが出たのがもうずいぶん前、2015年のことでして、その後色々な診断の基準が変わったり、あるいは自分の中でも診断に関して色々勉強し理解が進んだり、ということもありまして、今一度診断に関して見直してみようかなというところがございます。

そこでこのたび、診断に関してちょっと考えていきたいかなと思います。まずは今回のきっかけとなった血痰、そして喀血ということをしばらく考えていきたいと思いますので、少しお付き合いいただければ幸いです。

血痰・喀血というのは、口(鼻)から血を吐くという点で吐血としばしば混同されるわけですが、これを見分けることが最初のステップということになります。

気道から血が出て、それがそれほど多くなく、痰に混じる程度のものを血痰、量が多くて、ある程度の量の血そのものを口(や鼻)から吐くのが喀血ということになります。それに対して、食道・胃(消化管)から出血して、その血液が口ないし鼻から出てくる、これが吐血です。

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posted by 長尾大志 at 20:10 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2012年03月20日

血痰・喀血の鑑別・Wegener肉芽腫症

最近知ったのですが、この疾患、国際的には名前を変更しようという流れになっているようですね。


それがまた、味も素っ気もない、というかなんというか、

glanulomatosis with polyangiitis

肉芽腫性血管炎…?



こういう、人名のついた病名は、より科学的?で、病理、疾患の機序を表す病名に取って代わられるべきだ、という論調が、最近のレビューにちょこちょこ書かれてきています。


ただ、他の用語を提唱しているところもあり、日本でもまだ一般的でないようですが、そのうち変わってくるのではないかと思われます。今のところ、ここではWegener肉芽腫症と表記しておきます。



さて、このWegener肉芽腫症については、是非知っておいていただきたいことが2点あります。



■C-ANCA(PR3-ANCA)は感度、特異度ともに高い。

C-ANCAはWegener肉芽腫症における感度、特異度が高い、これは是非知っておきましょう。他疾患でほとんど陽性にならない、特異度の高さは臨床の現場で大変便利?です。つまりこれが陽性になれば、他疾患の除外はほとんどできたも同然なのです。

公費負担のための診断基準にも、C-ANCA陽性、という項目が含まれています。


■E-L-Kの順に症状が出る。

Eは上気道、Lは肺、Kは腎臓です。Eは元々ear(耳)のEですが、上気道を代表させています。
多くの場合はE-L-Kの順に症状が出てきます。Eだけ、あるいはEとLだけに症状が限局していれば、ELKすべてに病変が出てしまった場合よりも軽症である、とされています。Kまで行ってしまうと、結構難儀します。


また、上気道症状は副鼻腔炎〜鞍鼻が有名ですが、眼(眼痛、視力低下、眼球突出)、耳(中耳炎)、口腔、咽頭(咽頭痛、潰瘍、嗄声、気道閉塞)にも病変は出現します。眼なんか上気道か?と思われるかもしれませんが、つながってるんですねー。


抗菌薬に不応な頭部、上気道に始まる炎症、次いで血痰や喀血、発熱などが出てくる、というのが典型的な病歴。加えて特徴的な胸部レントゲン写真(空洞など)をみればC-ANCAを早めに測定すべきでしょう。

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posted by 長尾大志 at 17:50 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2012年03月19日

びまん性肺胞出血の鑑別診断・炎症のない肺胞出血とDAD

週末を挟みましたが、話を元に戻しましょう。


血管炎や膠原病など、炎症がないのに肺胞出血が起きている、そんな状態をbland pulmonary hemorrhageといいます。この場合のblandは、無菌の、とか炎症のない、とかいう意味です。


このジャンルに含まれるのは、なんといっても肺のうっ血。疾患名としては僧帽弁狭窄症が挙げられています。


それ以外には、特発性肺ヘモジデローシスをはじめ、少し稀な疾患群。あと、薬剤では前回挙げたワーファリンをはじめとする、凝固異常を来すものが挙げられています。


また、SLEは膠原病ですが、炎症のない病態というものもあるようで、こちらの範疇にも入れられていたりします。同様に?Goodpasture症候群も、血管炎にもこちらにも入っていたりします。



ですから、これらの鑑別は、まずは心不全の除外、うっ血性心不全を来すような弁膜疾患があるかどうかを確認、同時に凝固異常の有無を見る…という手順が必要かと思います。


また、まれではありますが、びまん性肺胞障害(diffuse alveolar damage:DAD)を来すような疾患でも肺胞出血は起こるとされていて、多くの疾患、原因薬剤が挙げられています。


症例報告レベルではIPF/UIPの急性増悪でも肺胞出血あり、とのことですが、そのあたりになるとちょっと機序不明ですね。



ちなみに本症例は、現在までのところ、各種検査でなにも陽性所見が得られておらず、確たる診断には至っておりません。もうちょっと、書いている間に、何かご報告できるかと思っていたのですが…。また、何か判明しましたら、ご報告させていただきます。

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posted by 長尾大志 at 17:06 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2012年03月16日

独り立ちの刻(とき)・びまん性肺胞出血の鑑別診断・血管炎の鑑別

血管炎や膠原病など、血管に炎症が生じた結果、血管透過性の亢進、血管壁の破壊が生じて出血に至る、という機序を考えますと、


  • 症状、病歴が合致するか確認

  • 所見、肺外病変の有無を確認

  • そして、血清マーカー、特異抗体出現確認



を確認せねばなりません。
本症例ではどうだったでしょうか。


■症状、病歴

1ヶ月前からの症状、労作時の呼吸困難と血痰以外に、発熱や神経筋症状、関節症状、皮膚症状など、血管炎や膠原病を思わせる症状はありませんでした。


既往歴・家族歴でも特にそういう病歴はなく、アレルギー性鼻炎はあるものの副鼻腔炎(Wegener肉芽腫症の初期症状)、喘息(アレルギー性肉芽腫性血管炎に先行)はなし。


■所見、肺外病変の有無

身体所見、肺外病変では、血管炎や膠原病を思わせる所見、特に血管炎や膠原病の予後を決めることの多い腎障害の有無を見たいところですが、尿所見や腎機能上、異常は認められませんでした。


■血清マーカー、特異抗体

これも、ANCA を含め、主なものは入院時の採血(結果は1週間後に判明)ではnegative。



以上に加えて重要な情報が、薬剤使用歴です。血管炎、あるいは他の機序で肺胞出血を来す薬剤は数多く、UpToDateを見てもいろいろ書いてありますね。


以前にも書いたそれぞれの機序において、
原因となる薬剤を挙げますと、

  • 広い意味での血管炎:ジフェニルヒダントイン・プロピルチオウラシル・レチノイン酸

  • 炎症のない出血:抗凝固薬

  • びまん性肺胞障害:アミオダロン・ペニシラミン・プロピルチオウラシル・シロリムス・細胞障害性抗腫瘍薬など



薬剤…
本症例は、ワーファリンを内服している…


一元的に考えると、よくあるのは、

ワーファリン内服、血中濃度上昇→凝固能低下→出血、です。

ただ、PT-INRは2.85と、伸びてはいるものの、それだけで説明するのも無理があるように思います。感染の関与?はたまた…。

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posted by 長尾大志 at 19:22 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2012年03月15日

独り立ちの刻(とき)・肺胞出血の鑑別診断・血管炎

急性、ないし亜急性に生じた、血痰や喀血があり、両側びまん性にすりガラス影を来す病態といえば、肺胞出血。ただ、肺胞出血というのは、あくまで症候群であり、診断名ではありません。

肺胞領域から(典型的にはびまん性に)出血しておれば、肺胞出血です。

ですから、診断には、肺胞から出血していることを証明する必要があります。臨床の現場では、気管支鏡による気管支肺胞洗浄がよく使われます。


本症例でも…


DAH_BALF0003.JPG


回収は悪いですが、BALF血性であり、肺胞領域での出血に矛盾しない所見でした。


肺胞出血の鑑別としては、まず多いのは血管の炎症。
血管炎や膠原病など、血管に炎症が生じた結果、血管透過性の亢進、血管壁の破壊が生じて出血に至る、という機序の疾患をまず考えます。


これらの疾患の鑑別手順としては、


  • 症状、病歴が合致するか確認

  • 所見、肺外病変の有無を確認

  • そして、血清マーカー、特異抗体出現確認



となります。
治療を急ぐこともありますから、特異抗体のオーダーは初期段階で行われることも多いでしょうが…それでも、頭の中では、鑑別をしっかり行ってから提出するようにしましょう。

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posted by 長尾大志 at 14:17 | Comment(4) | 血痰・喀血・肺胞出血

2012年03月14日

独り立ちの刻(とき)・亜急性に生じたびまん性肺胞出血の鑑別診断

血痰、あるいは喀血があり、両側びまん性にすりガラス影を来す病態。
というわけで、陰影からは、肺胞出血の存在が疑われます。
fine cracklesやKL-6高値はどう説明するのか…。


もう一度、以前の(腹部)CTを見てみましょう。


110311CT2このへん.JPG


このへん。蜂巣肺のような網状影が。
そう、元々線維化を伴うような間質性肺疾患があったと考えられます。


そこに、肺胞出血がsuperimpose。
では、肺胞出血の原因は?


UpToDateやレビューを見てみると、いろいろな鑑別疾患があるものですが、いくつかのジャンルに分けますと…。


  • 広い意味での血管炎

  • 炎症のない出血

  • びまん性肺胞障害



となります。


■広い意味での血管炎

ANCA関連疾患、血管炎が有名ですが、SLEをはじめとする膠原病、免疫疾患の多くが含まれます。


■炎症のない肺胞出血

いわゆる特発性肺胞出血、毛細血管の圧上昇によるうっ血性心不全や弁膜症など、あるいは抗凝固薬などの、薬剤によるものが含まれます。


■びまん性肺胞障害

そうお目にかかることはありませんが、鑑別には入ってくるようです。


この中で多いのは…。
支持する所見はあるでしょうか…。

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posted by 長尾大志 at 19:07 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2012年03月13日

独り立ちの刻(とき)・亜急性に生じた呼吸不全+血痰2

入院時身体所見です。

体温 36.4℃ 脈拍 89bpm 血圧110/71mmHg SpO2 92%(nasal3L)

意識清明
結膜:貧血黄染なし
口腔咽頭:発赤なし 白苔なし 
頸部:リンパ節触知せず 甲状腺腫大なし bruit聴取せず 頸静脈怒張なし 呼吸補助筋肥大なし 鎖骨上窩陥凹なし ばち指なし
胸部:呼吸音:両下肺野吸気終末にfine crackle聴取 R>L
   心音:心拍不整あり、雑音なし
腹部:平坦 軟 腸蠕動音亢進減弱なし 圧痛・自発痛なし
四肢:下腿浮腫なし 足背動脈触知良好 皮疹なし 関節症状なし


検査所見は以下の通り。
HT 39.4  HB 13.6  WBC 7.9  PLTS 182  PT-INR 2.85 H
TP 6.7  ALB 3.3 L  AST 29  ALT 17  LDH 466 H
ALP 254  G-GTP 24  CHE 231  LAP 100  T-BIL 1.23 H
NA 138  CL 106  K 4.1  UN 21.9  CRE 0.88  eGFR 64.7
CRP 11.73 HH  BNP 173.01 H  
補体価 65.6 H  C3 154  C4 28 
RF 0  KL-6 1285.0 H
【ABG】nasal 3L にて
PH 7.439   PCO2 34.0   PO2 69.2 L   HCO3 22.5   BE -0.9


発熱、頻拍なく、血圧も保たれています。胸部にcrackleがあるようですが、ばち指や関節症状、皮膚症状などもないようです。


検査所見では、貧血はないのですが、ヘモグロビンで2程度、前値からの低下があります。WBC高くありませんが、CRPは高値ですね。KL-6も上昇。


まとめますと、発熱はないものの、若干の炎症所見あり(細菌感染かどうかは?)、心不全徴候もありませんが、fine cracklesあり、間質マーカー高値で間質性肺疾患の存在を疑う所見あり、ただし、ばち指や膠原病を疑う特異的な所見はない、血痰による若干の失血あるが、貧血とまでは行かない、ということになります。


胸部レントゲン写真は、


120309CR.jpg


2年ほど前の写真をコントロールにしましょう。


091225CR.jpg


胸部CTはこんな感じ。


120309CT1.jpg


120309CT2.jpg


昨年の腹部CTを見てみますと…


110311CT2.jpg


ああ、そういうことですか。となります。
さて、どういうことでしょうか。

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posted by 長尾大志 at 18:16 | Comment(0) | 血痰・喀血・肺胞出血

2012年03月12日

独り立ちの刻(とき)・亜急性に生じた呼吸不全+血痰

後期研修医のN先生。医師になって3年目も後半に入り、チーム全体として「独り立ち」の予行演習に入ってきています。ご自分での意志決定、方針決定とそれに対するフィードバックを日々行っています。


今回の症例は、きっちりと鑑別を進めていきたい、亜急性に生じた呼吸不全+血痰を主訴とする方です。



症例 70歳代 男性

<現病歴>
1ヶ月前頃より労作時の呼吸困難が出現、症状改善せずまた血痰も増加したため、当院かかりつけ某科を受診された。
胸部単純写真/胸部単純CTにて両側肺に広範囲に広がるGGOを認めたため、精査加療目的で当科紹介され、即日入院となった。

<既往歴>
53歳 右肺瘢痕性腫瘤(当院呼吸器外科にて右肺部分切除術)
56歳 慢性胃炎、逆流性食道炎
63歳 大腸ポリープ
64歳 胃潰瘍
69歳 高血圧、CTにてCOPDの指摘あり
72歳 脂質異常症、PAF、胆嚢ポリープ

<家族歴>
父:突然死
長兄:ペースメーカー植え込み 突然死

<生活歴>
喫煙:20本×18〜32歳 現在は禁煙
アルコール:ビール350ml/day
職業:元市バス運転手 アスベストや粉塵の曝露歴なし

<アレルギー>
アレルギー性鼻炎あり

<内服薬>
アーチスト
ジゴシン
ミカルディス
パリエット
ワーファリン
エパデール

漢方薬、サプリメント、健康食品などの摂取なし


という症例。


徐々に進行する呼吸困難と血痰…
これを、一元的に説明する病態を考えたいですね。


どのような鑑別を挙げていきましょうか。

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posted by 長尾大志 at 17:09 | Comment(1) | 血痰・喀血・肺胞出血