このシリーズ、最初に書きましたが、90歳の超高齢者ともなりますと、大なり小なり心臓は弱ってきていて、若い頃に比べると「心臓」が、「不全」な状態である、とは言えるわけです。
もちろん、相当な喫煙歴と樽状胸郭が見られたとのことですから、COPDの存在も考慮し、随分以前から治療されていた喘息もあるとして、まずは喘息・COPD悪化の治療を開始されました。
mPSL250mg/日div.開始し、β2刺激薬のネブライザー吸入(アレベール+ベネトリン+吸入用滅菌水)を1日3回開始しました。翌日には、仰臥位可能となり、SpO2 95%(O2 3L nasal)と改善してきました。続いて第4病日よりシムビコート1日4吸入・1回2吸入開始したのですが、wheezeの改善認めませんでした。
そこで主治医は悩んだわけですが、入院時体重より2kgの体重増加を認めたこともあり、心不全の要素、ステロイド投与による水分貯留傾向の要素もあると考え、ステロイド減量し、ラシックス40mg内服開始されました。
その後、尿量2000ml前後と反応良く、体重も減少に転じ、wheezeも消失し、強制呼気時にもラ音は聴取しなくなりました。その後経過良好にて退院となりました。
入院時50.8kgあった体重は、退院時には47.6kgとなり、BNPは、入院時623.34が退院時には 169.9まで改善しました。
高齢の方であり、COPDや喘息といった病名だけに引っ張られて通り一遍の治療を継続していたのでは、うまくいかなかった可能性もあります。途中でうまく軌道修正できました。
このように(ここからが本題?)、高齢の患者さんでは、潜在的、あるいは顕在的に心不全を合併しているということを想定して、診療にあたりましょう。注意深い病歴聴取と身体所見をみれば、早い段階から診断可能ですが、他の疾患として治療開始したものの経過がよくない、という場合にも、想起することが大切ですね。
2012年04月13日
2012年04月12日
今日の症例・COPD・喘息と心不全の狭間で3
身体所見、追加情報では、頸静脈圧の上昇と肝・頸静脈逆流、それに肝腫大が見られました。
また、気管短縮や胸鎖乳突筋の発達も認めました。
胸部レントゲンを見てみましょう。

左の肋横角が鈍ですが、割と平坦で結核性胸膜炎後の印象があります。
坐位で心拡大は評価困難ですね。COPDがあるとより難しい。
胸部CTはこんな感じ。

両側の背側、葉間に胸水+α。HRCTでは気腫もありました。
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また、気管短縮や胸鎖乳突筋の発達も認めました。
胸部レントゲンを見てみましょう。

左の肋横角が鈍ですが、割と平坦で結核性胸膜炎後の印象があります。
坐位で心拡大は評価困難ですね。COPDがあるとより難しい。
胸部CTはこんな感じ。

両側の背側、葉間に胸水+α。HRCTでは気腫もありました。
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posted by 長尾大志 at 15:19
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2012年04月11日
今日の症例・COPD・喘息と心不全の狭間で2
超高齢の喫煙者(既往に高血圧、COPD、喘息があるという)、呼吸困難を主訴とする患者さんです。
入院時の身体所見は…
意識清明、起坐呼吸あり。
体温37.3℃、血圧 96/37、HR 94、RR 29、SpO2 99%(O2 6L マスクにて)
樽状胸郭(+)、ばち指(+)、湿性咳嗽(+)
lung:両側で吸呼気時ともにrhonchi、両側末梢で呼気時に軽度wheeze(+)
heart:reg., no murmur
abd.:soft, flat, no pain, no tenderness, liver impalpable, spleen impalpable, BS normal
legs:no edema、両側足背動脈触知良好
喘息発作としたときの重症度
中等度〜高度
(起坐呼吸、会話はフレーズ、興奮なし、呼吸数増加、呼吸補助筋使用なし、喘鳴中等度で呼気時、HR<100、PaCO2>45torr、SpO>95%だがO2 6L必要)
普段のHugh-Jonesは1〜2度(50mの歩行や坂道・階段で息切れする。)
とのこと。
まあ、喘息発作だと言われて駆けつけたわけですから、こんな感じでしょうか。
できれば、心不全、COPDを鑑別できるような身体所見が知りたいですね。
たとえば、Framingham基準の大基準に当てはまる…
や、小基準に当てはまる
があるかないか、
あるいは、樽状胸郭が見られたとのことですから、さらに高度のCOPDで見られるという、
などの所見は見られないか、という観点での診察があると、もう少しふくらんだかな、と思います。
入院時検査所見は…
貧血なく、凝固系異常なし、肝胆道系酵素や腎機能にも大きな問題はありませんでした。
BNPは623と高値で、動脈血ガスはPH 7.3、PCO2 53、PO2 148、HCO3- 29で、呼吸性アシドーシスの代謝性代償が見られました。
と、いうところで、皆さんの印象はいかがでしょうか。
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入院時の身体所見は…
意識清明、起坐呼吸あり。
体温37.3℃、血圧 96/37、HR 94、RR 29、SpO2 99%(O2 6L マスクにて)
樽状胸郭(+)、ばち指(+)、湿性咳嗽(+)
lung:両側で吸呼気時ともにrhonchi、両側末梢で呼気時に軽度wheeze(+)
heart:reg., no murmur
abd.:soft, flat, no pain, no tenderness, liver impalpable, spleen impalpable, BS normal
legs:no edema、両側足背動脈触知良好
喘息発作としたときの重症度
中等度〜高度
(起坐呼吸、会話はフレーズ、興奮なし、呼吸数増加、呼吸補助筋使用なし、喘鳴中等度で呼気時、HR<100、PaCO2>45torr、SpO>95%だがO2 6L必要)
普段のHugh-Jonesは1〜2度(50mの歩行や坂道・階段で息切れする。)
とのこと。
まあ、喘息発作だと言われて駆けつけたわけですから、こんな感じでしょうか。
できれば、心不全、COPDを鑑別できるような身体所見が知りたいですね。
たとえば、Framingham基準の大基準に当てはまる…
- 頸静脈圧の上昇
- ラ音
- V音ギャロップ
- 肝・頸静脈逆流
や、小基準に当てはまる
- 両足首の浮腫
- 肝腫大
- 胸水
- 頻脈(≧120bpm)
があるかないか、
あるいは、樽状胸郭が見られたとのことですから、さらに高度のCOPDで見られるという、
- 気管短縮
- 胸鎖乳突筋の発達
- 吸気時に鎖骨上窩が陥凹
- 吸気時に頸静脈が虚脱
などの所見は見られないか、という観点での診察があると、もう少しふくらんだかな、と思います。
入院時検査所見は…
貧血なく、凝固系異常なし、肝胆道系酵素や腎機能にも大きな問題はありませんでした。
BNPは623と高値で、動脈血ガスはPH 7.3、PCO2 53、PO2 148、HCO3- 29で、呼吸性アシドーシスの代謝性代償が見られました。
と、いうところで、皆さんの印象はいかがでしょうか。
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posted by 長尾大志 at 18:19
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| ああ心不全
2012年04月10日
今日の症例・COPD・喘息と心不全の狭間で
最近の症例ですが、少々改変しております。
90歳代の男性で、主訴は咳嗽、呼吸困難。
【現病歴】
従来、湿性咳嗽を認めていたが、○月5日頃から咳嗽悪化、○月9日は咳が重積しており、近医で肺炎疑いとしてGRNX400mg投与された。食事はもともとあまり摂らず、大量の飲酒とつまみのみで、3月9日の朝も飲酒量は変わらなかった。
GRNX内服後20分頃より呼吸困難出現し、当院救急受診し喘鳴に対してmPSL 125mg点滴施行、また、収縮期血圧170mmHg台と高くミオコールスプレー、ラシックス1A使用後、収縮期血圧90mmHgに低下した。
急性心不全による呼吸状態増悪と考えられ、循環器内科対診され、UCG施行したところ、心不全の可能性は否定できないが、この時点では血圧も安定し、呼吸困難がメプチン吸入後やや軽減したこともあり、気管支喘息およびCOPD増悪の可能性が高いとのことで当科対診された。身体所見などから喘息発作と診断、著明なSpO2の低下があり当科入院となった。
【既往歴】
COPD
喘息(テオドール200mg、ムコソルバン30mg使用中)
HTN(ブロプレス1T)
前立腺肥大症(ハルナール1T)
白内障(点眼加療中)
結核(若いときに)
【アレルギー】 食物、薬物ともなし。
【家族歴】 父;脳卒中、HTN、弟;肝癌
【喫煙】 40本以上/日 3ヶ月前まで(現在は5本/日以上)
【飲酒】 焼酎、日本酒を朝〜晩に約1L/日
【職業】 昔に自営業
【ペット】 2,3年前より室内犬
【家屋】 鉄筋コンクリート
【加湿器】 使用している(3年前に購入)水は毎日入れ替えて、自動洗浄されている。
病歴、結構しっかりとられていますね。現在の投薬もきっちり押さえています。
ここまでの病歴から、大量飲酒家、喫煙者の超高齢者に見られた呼吸困難、ということで、まあ既往も含め、喘息、COPD、心不全、なんでもありの印象ですね。
ここで一言。
高齢になるほど、心不全となる可能性は高くなります。高血圧があるとなおさら。
90歳ともなれば、(程度の差こそあれ)ほぼ皆さん心不全、といえるでしょう。
COPDも、高齢であるほど進行します。ただし、喫煙歴は必須であり、喫煙者の3割程度しか罹患しませんので、90歳の方でも、割合は半分もないでしょう。
90歳の方の喫煙率がわかりませんので何とも言えませんが…。少なくとも女性ではほとんど無いかと思います。
かたや喘息は、人口の5-10%を占めます。若年発症者が多く、高齢者ではさほど多くない、というのが定説でしたが、最近はある程度中高年の発症も増えてきているようです。ただ、中高年の発症率についてはデータがありません。
アレルギー疾患自体、ここ数十年で増えてきたものであり、昔の人には少なかったわけですから、それほど多くないというのが感触ですが…。
ということで、昨今激増されている「超高齢者」が「呼吸困難」を主訴に受診された場合、可能性が高いのは「心不全」ではないか、とまず考えられるように思います。
しかし当然、これまでにCOPDや喘息という診断がしっかり(ここが曲者)なされておれば、そちらの増悪ということを考えるべきです。
若い先生も聞かれたことがあるでしょう。
「心臓喘息」
という言葉。
そんな病気はありません。
うっ血性心不全の時に間質(気道周囲)の浮腫が生じたり、気道内の分泌物が増えたりすると、空気の通り道が狭くなって、狭窄音(喘鳴)が聞こえたりするので、心臓が原因の喘息、という意味合いで昔の人が命名されたものです。
実はうっ血があると、気道過敏性も亢進したりして、少しβ刺激薬が症状を和らげたりして、喘息と紛らわしい状態になります。
本当であれば、うっ血のコントロールをしっかり行って、それから気道の可逆性を見る、ということでないと「喘息」の診断には至らないわけですが、何となく「喘息」と言っておくと何となく診断したような気になる、ということで、喘息を知らない先生ほど「喘息」の診断が多くなります。
ということで本症例。既往の高血圧、COPD、喘息について、ふむふむと情報収集が必要です。
いつ頃、どのような症状で診断されたのか。診断の根拠は明らかか。
喫煙歴はどの程度か。アレルギー歴はあるか。
繰り返す症状や症状の消長はあるか。症状増悪の契機はあるか。
…などなど。
(結局本症例においては、あやふやな情報しか得られませんでした)
それでは、身体所見を診ていきます。
ああ心不全を最初から読む
90歳代の男性で、主訴は咳嗽、呼吸困難。
【現病歴】
従来、湿性咳嗽を認めていたが、○月5日頃から咳嗽悪化、○月9日は咳が重積しており、近医で肺炎疑いとしてGRNX400mg投与された。食事はもともとあまり摂らず、大量の飲酒とつまみのみで、3月9日の朝も飲酒量は変わらなかった。
GRNX内服後20分頃より呼吸困難出現し、当院救急受診し喘鳴に対してmPSL 125mg点滴施行、また、収縮期血圧170mmHg台と高くミオコールスプレー、ラシックス1A使用後、収縮期血圧90mmHgに低下した。
急性心不全による呼吸状態増悪と考えられ、循環器内科対診され、UCG施行したところ、心不全の可能性は否定できないが、この時点では血圧も安定し、呼吸困難がメプチン吸入後やや軽減したこともあり、気管支喘息およびCOPD増悪の可能性が高いとのことで当科対診された。身体所見などから喘息発作と診断、著明なSpO2の低下があり当科入院となった。
【既往歴】
COPD
喘息(テオドール200mg、ムコソルバン30mg使用中)
HTN(ブロプレス1T)
前立腺肥大症(ハルナール1T)
白内障(点眼加療中)
結核(若いときに)
【アレルギー】 食物、薬物ともなし。
【家族歴】 父;脳卒中、HTN、弟;肝癌
【喫煙】 40本以上/日 3ヶ月前まで(現在は5本/日以上)
【飲酒】 焼酎、日本酒を朝〜晩に約1L/日
【職業】 昔に自営業
【ペット】 2,3年前より室内犬
【家屋】 鉄筋コンクリート
【加湿器】 使用している(3年前に購入)水は毎日入れ替えて、自動洗浄されている。
病歴、結構しっかりとられていますね。現在の投薬もきっちり押さえています。
ここまでの病歴から、大量飲酒家、喫煙者の超高齢者に見られた呼吸困難、ということで、まあ既往も含め、喘息、COPD、心不全、なんでもありの印象ですね。
ここで一言。
高齢になるほど、心不全となる可能性は高くなります。高血圧があるとなおさら。
90歳ともなれば、(程度の差こそあれ)ほぼ皆さん心不全、といえるでしょう。
COPDも、高齢であるほど進行します。ただし、喫煙歴は必須であり、喫煙者の3割程度しか罹患しませんので、90歳の方でも、割合は半分もないでしょう。
90歳の方の喫煙率がわかりませんので何とも言えませんが…。少なくとも女性ではほとんど無いかと思います。
かたや喘息は、人口の5-10%を占めます。若年発症者が多く、高齢者ではさほど多くない、というのが定説でしたが、最近はある程度中高年の発症も増えてきているようです。ただ、中高年の発症率についてはデータがありません。
アレルギー疾患自体、ここ数十年で増えてきたものであり、昔の人には少なかったわけですから、それほど多くないというのが感触ですが…。
ということで、昨今激増されている「超高齢者」が「呼吸困難」を主訴に受診された場合、可能性が高いのは「心不全」ではないか、とまず考えられるように思います。
しかし当然、これまでにCOPDや喘息という診断がしっかり(ここが曲者)なされておれば、そちらの増悪ということを考えるべきです。
若い先生も聞かれたことがあるでしょう。
「心臓喘息」
という言葉。
そんな病気はありません。
うっ血性心不全の時に間質(気道周囲)の浮腫が生じたり、気道内の分泌物が増えたりすると、空気の通り道が狭くなって、狭窄音(喘鳴)が聞こえたりするので、心臓が原因の喘息、という意味合いで昔の人が命名されたものです。
実はうっ血があると、気道過敏性も亢進したりして、少しβ刺激薬が症状を和らげたりして、喘息と紛らわしい状態になります。
本当であれば、うっ血のコントロールをしっかり行って、それから気道の可逆性を見る、ということでないと「喘息」の診断には至らないわけですが、何となく「喘息」と言っておくと何となく診断したような気になる、ということで、喘息を知らない先生ほど「喘息」の診断が多くなります。
ということで本症例。既往の高血圧、COPD、喘息について、ふむふむと情報収集が必要です。
いつ頃、どのような症状で診断されたのか。診断の根拠は明らかか。
喫煙歴はどの程度か。アレルギー歴はあるか。
繰り返す症状や症状の消長はあるか。症状増悪の契機はあるか。
…などなど。
(結局本症例においては、あやふやな情報しか得られませんでした)
それでは、身体所見を診ていきます。
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2012年04月09日
心不全の治療・実際問題…
いろいろ書きましたが、心不全の治療、なかなか難しいですね。
evidenceももちろん、大事でありますが、当直や救急の場で「急性期の、その場をしのぐ」ということも大事であります。
また、予後を見据えた(あるいは、evidenceを構築すべく行われるような)治療は、さすがに専門医にお願いしたいところであります。
…ということを踏まえ、2012年4月現在における、心不全診断・治療のおおよその指針を考えましょう。
だいたいこれまでに書いてきたことですが、最後の陽圧換気について補足します。挿管してのPEEPや、NPPV(非侵襲的陽圧換気)と呼ばれるマスクによる人工呼吸器は、特に急性期での効果が認められています。
また、慢性期でも、SASのある方で陽圧換気のエビデンスが出てきていますので、マスクによる陽圧換気には広く習熟しておかれることが勧められます。
ああ心不全を最初から読む
evidenceももちろん、大事でありますが、当直や救急の場で「急性期の、その場をしのぐ」ということも大事であります。
また、予後を見据えた(あるいは、evidenceを構築すべく行われるような)治療は、さすがに専門医にお願いしたいところであります。
…ということを踏まえ、2012年4月現在における、心不全診断・治療のおおよその指針を考えましょう。
- まずは、病歴と理学所見から、心不全を疑う。
- BNPと心エコーで、確証を得る。
- 虚血が疑われれば、循環器内科に依頼。
- 血行動態不良となる不整脈があれば、循環器内科に依頼。頻脈性心房細動で、除細動に至らない場合、ジギタリスを使うことも。
- うっ血所見があれば、少量の利尿薬and/or血圧がある程度あれば、ACE阻害薬(ARB)。
- 治療後尿量、体重を観察し、反応があれば心不全と確定。
- さらに、禁忌などに注意し、β遮断薬を注意深く開始。
- 酸素化が不良であれば、(挿管、あるいは非侵襲的)陽圧換気。
だいたいこれまでに書いてきたことですが、最後の陽圧換気について補足します。挿管してのPEEPや、NPPV(非侵襲的陽圧換気)と呼ばれるマスクによる人工呼吸器は、特に急性期での効果が認められています。
また、慢性期でも、SASのある方で陽圧換気のエビデンスが出てきていますので、マスクによる陽圧換気には広く習熟しておかれることが勧められます。
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posted by 長尾大志 at 20:44
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2012年04月07日
心不全の本格治療・ジギタリスと利尿薬
私のような「非専門医」にとっては、とっても身近な存在であったジギタリスと利尿薬。一昔前には本当によくお世話になった、これらの薬に今、黄信号がともっています。
その理由はなんといっても、大規模臨床試験における「予後」が改善しなかった、というもの。ジギタリスは心筋の収縮力を上げて収縮不全を改善させ、利尿薬は前負荷を軽減し状態改善につながるのでは?という思いは打ち砕かれたのでありました。
昨今のエビデンス、という点から言いますと、利尿薬(特にループ系)には予後を改善させる、というデータに乏しい。で、ARB+サイアザイド少量、という合剤が花盛りで、こちらのデータを出さんと各社躍起になっているわけです。
いくつかデータは出ているようですが、合剤でも果たしてサイアザイドとの組み合わせがいいのか、Ca拮抗薬との組み合わせがいいのか、など、いろいろと考える余地はあり、まだこれで決定、という感じではないようです。
とはいえ、うっ血所見がある(特に急性期の)患者さんに一切利尿薬を使わない、というのはかなり勇気がいりますし、まだまだ現役で使われていくのでしょう。
強心薬、いわゆるジギタリスも、一時代が終わったかな、という印象です。
収縮不全の病態で、収縮力を上げる、理にかなっているように思うのですが、実際、短期的には症状改善につながるのですが、長期予後に関してのデータがちょっと…というわけで、最近(特に循環器科では)心房細動で心拍数が高い…という場合などをのぞいて、だんだんと使われなくなってきたようです。
これまでに書いてきたことについて、エビデンスといっても全て収縮不全のことで、拡張不全にはエビデンスが乏しいのが実情です。
収縮不全であっても、エビデンスは様々で、まだGold standardとか、これで治る、といったものはなく、いろいろな先生方が好き勝手(?)おっしゃっている印象です。
そんな中、パッと手出しできて、方針がかっちり定まっているのは虚血性心疾患であります。故に、若くてイキのいい先生は、
虚血→パッと治る→カッコイイ
それ以外→よくわからないし、そもそも治らない→興味なし
となってしまいがちなのですかねー。
ああ心不全を最初から読む
その理由はなんといっても、大規模臨床試験における「予後」が改善しなかった、というもの。ジギタリスは心筋の収縮力を上げて収縮不全を改善させ、利尿薬は前負荷を軽減し状態改善につながるのでは?という思いは打ち砕かれたのでありました。
昨今のエビデンス、という点から言いますと、利尿薬(特にループ系)には予後を改善させる、というデータに乏しい。で、ARB+サイアザイド少量、という合剤が花盛りで、こちらのデータを出さんと各社躍起になっているわけです。
いくつかデータは出ているようですが、合剤でも果たしてサイアザイドとの組み合わせがいいのか、Ca拮抗薬との組み合わせがいいのか、など、いろいろと考える余地はあり、まだこれで決定、という感じではないようです。
とはいえ、うっ血所見がある(特に急性期の)患者さんに一切利尿薬を使わない、というのはかなり勇気がいりますし、まだまだ現役で使われていくのでしょう。
強心薬、いわゆるジギタリスも、一時代が終わったかな、という印象です。
収縮不全の病態で、収縮力を上げる、理にかなっているように思うのですが、実際、短期的には症状改善につながるのですが、長期予後に関してのデータがちょっと…というわけで、最近(特に循環器科では)心房細動で心拍数が高い…という場合などをのぞいて、だんだんと使われなくなってきたようです。
これまでに書いてきたことについて、エビデンスといっても全て収縮不全のことで、拡張不全にはエビデンスが乏しいのが実情です。
収縮不全であっても、エビデンスは様々で、まだGold standardとか、これで治る、といったものはなく、いろいろな先生方が好き勝手(?)おっしゃっている印象です。
そんな中、パッと手出しできて、方針がかっちり定まっているのは虚血性心疾患であります。故に、若くてイキのいい先生は、
虚血→パッと治る→カッコイイ
それ以外→よくわからないし、そもそも治らない→興味なし
となってしまいがちなのですかねー。
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posted by 長尾大志 at 21:14
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2012年04月06日
心不全の本格治療・エビデンスと実際と
心不全の本格的な治療指針を考えましょう。
まずは、わかりやすい、対処しやすいやつから。
心不全徴候、EF低下がある、壁運動低下…
たとえば心電図に所見があり、血清マーカーなどから虚血性心疾患が考えられる場合、
当然血行再建など、その治療が必要になります。
この場合はおそらく文句なく循環器内科医が喜んで対応され、対応に困ることはそうないと思います。
心電図上心房細動、頻脈性不整脈で血行動態不安定であれば、その治療が必要です。場合によりDC、CRT、ICDなど、このあたりもおそらく文句なく循環器内科医が喜んで(しつこい)対応され、対応に困ることはそうないでしょう。
問題は、そんなんないけど、でも確かに心不全らしい、という場合。ある程度の基礎治療を開始したいところです。
心不全におけるエビデンスとしては、ACE阻害薬の予後改善効果を証明した大規模臨床試験があります。
これは心不全患者さんにおいて、レニン-アンジオテンシン系が活性化されており、それによって臓器障害(心肥大やリモデリング)が生じる、その悪循環を断ち切ることで予後を改善すると理解されています。
で、日本人の特に女性にはACE阻害薬による空咳が多いため、咳の問題を考えなくて良いARBが今では普及しています。このあたり、日本人特有の「何も考えなくていい選択肢を選んでしまう」性向が色濃く出ている感じですね。
ということもあって、「心臓が悪そうな人には、何となくARB」は、かなり普及しているように思われます。
昔心不全について教えていただいたとある循環器の先生は、「高齢患者さんがアップアップして来られたら、ともかく少量ACE阻害薬を使って落ち着かせる」みたいなことを教えてくださいました。
これは心不全の急性期であっても、血管を拡張させて後負荷をとる、そして亢進したレニン-アンジオテンシン系を落ち着かせることが有効である、という観点での治療になるかと思います。
また、レニン-アンジオテンシン系の最終産物、アルドステロンに対する拮抗薬もエビデンスが出ています。長らくは女性化乳房という男性にとって致命的な副作用を持つスピロノラクトン(アルダクトンA)しかなかったのですが、それを解消する目的で開発されたエプレレノン(セララ)も使えるようになっています。
そして、随分普及してきたのがβ遮断薬ですね。レニン-アンジオテンシン系とは別に、交感神経系の過緊張が予後に大きく関連している、ということは以前からいわれていました。
わかりやすい例でいいますと、いわゆるA型性格、几帳面でせっかち、いつもイライラしている人は血圧が高く、いろいろと心血管イベントが発症しやすく、寿命が短い、みたいなデータを見かけられることがあるかと思います。
また、心不全の患者さんにおいて頻脈や末梢の血管収縮、それに伴う四肢の冷感、腎血流の低下による尿量減少なども見られます。
もちろん、心不全患者さんにおいてのこういう症候は、循環不全状態に対して対症的に交感神経系が緊張しているわけで、ただブロックすればいい、というものではありません。
下手にブロックすると心不全の悪化が見られます。
したがって、慢性心不全患者さんに対してβ遮断薬を投与する際には、少量から、血圧や症状に十分注意を払って、「慎重に」開始しましょう、ということになっています。特に重症の患者さんには入院での導入が勧められているところです。
また、エビデンスがあって日本で使えるのがカルベジロール(アーチスト)とビソプロロール(メインテート)の2剤だけで、β遮断薬であれば何でもいい、というわけではない点も注意が必要です。
そんなわけで、非専門医にとって、β遮断薬による治療はいささかハードルが高いのですが、それでも自施設の循環器内科医が心不全患者さんを相手にしてくださらない、という場合にはそーっと始めてみざるをえないかもしれません。
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まずは、わかりやすい、対処しやすいやつから。
心不全徴候、EF低下がある、壁運動低下…
たとえば心電図に所見があり、血清マーカーなどから虚血性心疾患が考えられる場合、
当然血行再建など、その治療が必要になります。
この場合はおそらく文句なく循環器内科医が喜んで対応され、対応に困ることはそうないと思います。
心電図上心房細動、頻脈性不整脈で血行動態不安定であれば、その治療が必要です。場合によりDC、CRT、ICDなど、このあたりもおそらく文句なく循環器内科医が喜んで(しつこい)対応され、対応に困ることはそうないでしょう。
問題は、そんなんないけど、でも確かに心不全らしい、という場合。ある程度の基礎治療を開始したいところです。
心不全におけるエビデンスとしては、ACE阻害薬の予後改善効果を証明した大規模臨床試験があります。
これは心不全患者さんにおいて、レニン-アンジオテンシン系が活性化されており、それによって臓器障害(心肥大やリモデリング)が生じる、その悪循環を断ち切ることで予後を改善すると理解されています。
で、日本人の特に女性にはACE阻害薬による空咳が多いため、咳の問題を考えなくて良いARBが今では普及しています。このあたり、日本人特有の「何も考えなくていい選択肢を選んでしまう」性向が色濃く出ている感じですね。
ということもあって、「心臓が悪そうな人には、何となくARB」は、かなり普及しているように思われます。
昔心不全について教えていただいたとある循環器の先生は、「高齢患者さんがアップアップして来られたら、ともかく少量ACE阻害薬を使って落ち着かせる」みたいなことを教えてくださいました。
これは心不全の急性期であっても、血管を拡張させて後負荷をとる、そして亢進したレニン-アンジオテンシン系を落ち着かせることが有効である、という観点での治療になるかと思います。
また、レニン-アンジオテンシン系の最終産物、アルドステロンに対する拮抗薬もエビデンスが出ています。長らくは女性化乳房という男性にとって致命的な副作用を持つスピロノラクトン(アルダクトンA)しかなかったのですが、それを解消する目的で開発されたエプレレノン(セララ)も使えるようになっています。
そして、随分普及してきたのがβ遮断薬ですね。レニン-アンジオテンシン系とは別に、交感神経系の過緊張が予後に大きく関連している、ということは以前からいわれていました。
わかりやすい例でいいますと、いわゆるA型性格、几帳面でせっかち、いつもイライラしている人は血圧が高く、いろいろと心血管イベントが発症しやすく、寿命が短い、みたいなデータを見かけられることがあるかと思います。
また、心不全の患者さんにおいて頻脈や末梢の血管収縮、それに伴う四肢の冷感、腎血流の低下による尿量減少なども見られます。
もちろん、心不全患者さんにおいてのこういう症候は、循環不全状態に対して対症的に交感神経系が緊張しているわけで、ただブロックすればいい、というものではありません。
下手にブロックすると心不全の悪化が見られます。
したがって、慢性心不全患者さんに対してβ遮断薬を投与する際には、少量から、血圧や症状に十分注意を払って、「慎重に」開始しましょう、ということになっています。特に重症の患者さんには入院での導入が勧められているところです。
また、エビデンスがあって日本で使えるのがカルベジロール(アーチスト)とビソプロロール(メインテート)の2剤だけで、β遮断薬であれば何でもいい、というわけではない点も注意が必要です。
そんなわけで、非専門医にとって、β遮断薬による治療はいささかハードルが高いのですが、それでも自施設の循環器内科医が心不全患者さんを相手にしてくださらない、という場合にはそーっと始めてみざるをえないかもしれません。
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posted by 長尾大志 at 16:52
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2012年04月05日
心不全の治療・急性期、まずは?
心不全がありそうだ、となったときに、治療についてどう考えるか。
実は、急性心不全と慢性心不全とでは話が少し違ってきます。
急性心不全の場合、今起こっている症状をとらなくてはならない。
慢性心不全は、基本的に生命予後を改善させる「基礎治療」を行わなければならない。
根本的なスタンスが少し違うわけです。
もちろん、急性心不全の延長上に慢性心不全があるわけです。急性期であっても、慢性心不全の治療を開始する、ということに変わりはないのですが…。
一般内科医として心不全治療に当たるのは、どちらかと言いますと急性期が多いかと思いますので、誤解を恐れずにシンプルに申しますと、
うっ血所見があれば、利尿薬を少しずつ使いましょう。
ということです。
もちろん、浮腫がある、というだけでは甲状腺機能低下や低アルブミンなど、鑑別すべき疾患がいろいろとあります。他疾患の鑑別が可能で、先のFramingham基準を満たす、特にV音ギャロップや頸静脈の拡張が見られる場合、少量の利尿薬を使ってみて反応を見る、診断的治療を行ってみましょう、ということです。
実はFramingham基準の「大または小基準」に、
治療に反応して5日間で4.5kg以上の体重減少
という項目があります。
つまり利尿薬、あるいはARBなどを使ってみて、反応があれば心不全と診断できる、ということなのです。診断的治療、というやつですね。
うっ血所見、ということは、
前負荷が大きくなっていて、
後方不全になっていて、
全身臓器、あるいは肺に水分が余っている状態。
ですから、水分を絞り出す利尿薬を使う。
まあシンプルですね。
問題はここから。
特に拡張不全の状態においては、水分がものすごく余っているわけではなくても、うっ血を来すことがあり、その場合ドカンと利尿薬を使うと、却って脱水になってしまう、ですので「少しずつ」使う方が安全、ということになります。
また、長期予後、という点では、利尿薬(特にループ)のデータは必ずしもほめられたものではありません。
ですから、急性期だからといってガンガン利尿薬を使う、というのは、ちょっと違う。
とはいえ、まずは「心不全である」という診断ができなければ次に進みませんから、診断的治療から入るのは間違いではないと思うのです。尿量、体重チェックは忘れずに行いましょう。
心不全の確証が得られたら、次には本格治療です。ここで、各種エビデンスを考慮した治療を行います。
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実は、急性心不全と慢性心不全とでは話が少し違ってきます。
急性心不全の場合、今起こっている症状をとらなくてはならない。
慢性心不全は、基本的に生命予後を改善させる「基礎治療」を行わなければならない。
根本的なスタンスが少し違うわけです。
もちろん、急性心不全の延長上に慢性心不全があるわけです。急性期であっても、慢性心不全の治療を開始する、ということに変わりはないのですが…。
一般内科医として心不全治療に当たるのは、どちらかと言いますと急性期が多いかと思いますので、誤解を恐れずにシンプルに申しますと、
うっ血所見があれば、利尿薬を少しずつ使いましょう。
ということです。
もちろん、浮腫がある、というだけでは甲状腺機能低下や低アルブミンなど、鑑別すべき疾患がいろいろとあります。他疾患の鑑別が可能で、先のFramingham基準を満たす、特にV音ギャロップや頸静脈の拡張が見られる場合、少量の利尿薬を使ってみて反応を見る、診断的治療を行ってみましょう、ということです。
実はFramingham基準の「大または小基準」に、
治療に反応して5日間で4.5kg以上の体重減少
という項目があります。
つまり利尿薬、あるいはARBなどを使ってみて、反応があれば心不全と診断できる、ということなのです。診断的治療、というやつですね。
うっ血所見、ということは、
前負荷が大きくなっていて、
後方不全になっていて、
全身臓器、あるいは肺に水分が余っている状態。
ですから、水分を絞り出す利尿薬を使う。
まあシンプルですね。
問題はここから。
特に拡張不全の状態においては、水分がものすごく余っているわけではなくても、うっ血を来すことがあり、その場合ドカンと利尿薬を使うと、却って脱水になってしまう、ですので「少しずつ」使う方が安全、ということになります。
また、長期予後、という点では、利尿薬(特にループ)のデータは必ずしもほめられたものではありません。
ですから、急性期だからといってガンガン利尿薬を使う、というのは、ちょっと違う。
とはいえ、まずは「心不全である」という診断ができなければ次に進みませんから、診断的治療から入るのは間違いではないと思うのです。尿量、体重チェックは忘れずに行いましょう。
心不全の確証が得られたら、次には本格治療です。ここで、各種エビデンスを考慮した治療を行います。
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posted by 長尾大志 at 11:22
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2012年04月04日
心不全の診断・現実的にどーするか
慢性心不全の診断、学会によるフローチャートがあります。細かいところはどうにも煩雑なのですが、非専門医が現実的にどう考えたらよいか、参考にしていただくべく簡単にフローチャートを紹介しましょう。
まずは病歴、身体所見から、明らかに心不全であるという所見がそろっていた場合、あるいは所見はそろっていないが、BNP>100またはNT-proBNP>400の場合、経胸壁心エコーを行います。
エコーでEF<40-50%なら、収縮力が低下した心不全としてさらに精査。
EF≧40-50%なら、収縮力が保たれた心不全を疑う、となっています。
その後、原因疾患を検索するためにエコーにて評価を行います。
具体的には、先天性心疾患、弁膜症、心膜疾患、肺高血圧など。それ以外に、左室拡大(高心拍出状態を示唆)なんかもエコーでわかりますから、これらがあればそこに当てはめます。
問題はそれらがない場合。ドプラ法を用いた指標などを組み合わせて拡張不全を診断していきますが、BNP濃度が左室の拡張末期圧と相関があることから、BNP>200またはNT-proBNP>900、というのが一つの指標になるようです(超えていれば即心不全、ではありません…念のため)。
少しばかりこのあたり(BNPが100〜200あたり)がgray zoneではあるのですが、少なくとも200を超えていれば、心不全の存在を疑いたいところです。
ちなみに、左室の拡張末期圧は送り込まれてきた血液の量に関係しますから、前負荷と相関する、ということになりますね。
ここまでをまとめますと、
要するに、まずは病歴と身体所見。
Framingham基準を再掲します。
大基準
大または小基準
・治療に反応して5日間で4.5kg以上の体重減少
小基準
2つ以上の大基準、
または、1つの大基準と小基準
で心不全の存在を想定します。
上の基準に挙げられている所見の中でも、大事な、といいますか、特異度が高い所見として挙げられるのが「V音」ギャロップと頸動脈の拡張です。これらが存在するとかなりクサイ。逆に、非特異的な所見(特に小基準)しかない場合は、エコーやBNPを確認する必要があるでしょう。
素人?としては、ここまでは見ておきたいところ、ですね。
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まずは病歴、身体所見から、明らかに心不全であるという所見がそろっていた場合、あるいは所見はそろっていないが、BNP>100またはNT-proBNP>400の場合、経胸壁心エコーを行います。
エコーでEF<40-50%なら、収縮力が低下した心不全としてさらに精査。
EF≧40-50%なら、収縮力が保たれた心不全を疑う、となっています。
その後、原因疾患を検索するためにエコーにて評価を行います。
具体的には、先天性心疾患、弁膜症、心膜疾患、肺高血圧など。それ以外に、左室拡大(高心拍出状態を示唆)なんかもエコーでわかりますから、これらがあればそこに当てはめます。
問題はそれらがない場合。ドプラ法を用いた指標などを組み合わせて拡張不全を診断していきますが、BNP濃度が左室の拡張末期圧と相関があることから、BNP>200またはNT-proBNP>900、というのが一つの指標になるようです(超えていれば即心不全、ではありません…念のため)。
少しばかりこのあたり(BNPが100〜200あたり)がgray zoneではあるのですが、少なくとも200を超えていれば、心不全の存在を疑いたいところです。
ちなみに、左室の拡張末期圧は送り込まれてきた血液の量に関係しますから、前負荷と相関する、ということになりますね。
ここまでをまとめますと、
- 原疾患は何であれ、出てくる症状、症候は左心不全、右心不全に基づくもの。
ゆえに、出てきた結果(身体所見)を見ればよい。 - エコーでEFを見れば、収縮不全はわかる。
拡張不全は、若干ハードル高し。 - BNPを見れば、左室の拡張末期圧がわかる。つまり、前負荷を反映する。
要するに、まずは病歴と身体所見。
Framingham基準を再掲します。
大基準
- 夜間の発作性呼吸困難
- 頸静脈の怒張(拡張?)
- ラ音
- 胸部レントゲン写真における心拡大
- 急性肺水腫
- V音ギャロップ
- 中心静脈圧上昇(>16cmH2O)
- 循環時間延長(≧25秒)
- 肝・頸静脈逆流
- 剖検での肺水腫、内臓うっ血や心拡大
大または小基準
・治療に反応して5日間で4.5kg以上の体重減少
小基準
- 両足首の浮腫
- 夜間の咳嗽
- 労作性呼吸困難
- 肝腫大
- 胸水
- 肺活量の低下(最大の1/3以下)
- 頻脈(≧120bpm)
2つ以上の大基準、
または、1つの大基準と小基準
で心不全の存在を想定します。
上の基準に挙げられている所見の中でも、大事な、といいますか、特異度が高い所見として挙げられるのが「V音」ギャロップと頸動脈の拡張です。これらが存在するとかなりクサイ。逆に、非特異的な所見(特に小基準)しかない場合は、エコーやBNPを確認する必要があるでしょう。
素人?としては、ここまでは見ておきたいところ、ですね。
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2012年04月03日
心不全の原因とその病態について
随分回り道をしましたが、心不全の原因について考えてみます。
最近読み始めた方は、このブログが何だかよくわからん説教ブログか、と思われるかもしれませんので、そろそろ本来の路線に戻りましょう。
まずは理解しやすい、心筋そのものの障害から。
もちろん、循環器の花形、虚血性心疾患があります。いろいろな意味で対処しやすいやつですね。それ以外には、心筋症、心筋炎の後遺症もありますね。
次は、心筋がやられる疾患ではないけれども、血液を押し出すときの抵抗がかかり(つまり、後負荷が大きくなり、その結果血液が出て行かない、心拍出量の低下とうっ血が起こる病態があります。
血管の抵抗が上がる、つまり高血圧です。
で、高血圧といえば、普通は上腕にマンシェットを巻いて測定する血圧が高い状態を指しますが、そちらは左心系の高血圧です。それ以外に、肺動脈系の圧が上がる、肺高血圧、これも(右)心不全の原因になります。
それから、心臓の内部で血液の通り道が狭くなったりして、拍出に必要な仕事量が増える状態が弁膜症です。
似た病態で、先天性心疾患も、心臓の内外で血液の余計な通り道ができる、その拍出のためには余計な仕事がかかる、ということになります。
最初に分けたように、心不全の病態分類には以下のようなものがありました。
じゃあ、これらはどれにあてはまるのか。なかなか明確に分けられない、というのが実際のところですね。
たとえば、虚血性心疾患は、収縮不全を来す。これ、理解しやすいんですが、線維化がおこると拡張障害も来すんですね。心拍出量は低下しますから、前方不全になるのですが、血液が前に行かないという意味では後方不全にもなります。
また、虚血性心疾患は通常、左心系の梗塞が多く、左心不全が起こるわけですが、左心の後方障害から肺うっ血が生じると、肺静脈圧・肺動脈圧が上昇し肺高血圧となり、その結果右心不全を呈する様になるわけです。
心筋症、心筋炎も同じことで、まず収縮不全ありきなのですが、心筋症などでは収縮障害に加えて拡張障害もわかりやすく生じますね…以下同文であります。
高血圧の場合はどうでしょう。これは、慢性に血管抵抗が生じて後負荷が存在することから、心筋に常時高い圧がかかり、線維化などを来す…その結果拡張不全が起こる、と理解されます。ただ、この場合にもその後起こってくる左心不全、右心不全のくだりは同じことであります。
あとは弁膜症・先天性心疾患ですね。心臓の内部に狭い場所(狭窄)、あるいは逆流している場所、変な流れがある、ということになりますから、心拍出量が減る。そのために前方不全、後方不全が生じる、という具合です。
少なくとも、「心不全の存在」を疑うのであれば、病歴聴取の際にこれらの既往については確認しておく必要がありますが、高血圧など、全く自覚されず放置されていることも少なくありません。で、高血圧による心不全は拡張不全の要素も大きいので、診断されにくい、という感じなのです。
心不全になると血圧は下がってきますから、そうなるとその時点では高血圧の判断ができない、ということになりかねないのですね。そういうわけで、診断がなかなか難しいこともあるのが実際です。
それでは、現実的にどうやって診断、治療をするか、というところを考えて参りましょう。
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最近読み始めた方は、このブログが何だかよくわからん説教ブログか、と思われるかもしれませんので、そろそろ本来の路線に戻りましょう。
まずは理解しやすい、心筋そのものの障害から。
もちろん、循環器の花形、虚血性心疾患があります。いろいろな意味で対処しやすいやつですね。それ以外には、心筋症、心筋炎の後遺症もありますね。
次は、心筋がやられる疾患ではないけれども、血液を押し出すときの抵抗がかかり(つまり、後負荷が大きくなり、その結果血液が出て行かない、心拍出量の低下とうっ血が起こる病態があります。
血管の抵抗が上がる、つまり高血圧です。
で、高血圧といえば、普通は上腕にマンシェットを巻いて測定する血圧が高い状態を指しますが、そちらは左心系の高血圧です。それ以外に、肺動脈系の圧が上がる、肺高血圧、これも(右)心不全の原因になります。
それから、心臓の内部で血液の通り道が狭くなったりして、拍出に必要な仕事量が増える状態が弁膜症です。
似た病態で、先天性心疾患も、心臓の内外で血液の余計な通り道ができる、その拍出のためには余計な仕事がかかる、ということになります。
最初に分けたように、心不全の病態分類には以下のようなものがありました。
- 前方不全と後方不全
- 右心不全と左心不全
- 低心拍出性不全と高心拍出性不全
- 収縮不全と拡張不全
じゃあ、これらはどれにあてはまるのか。なかなか明確に分けられない、というのが実際のところですね。
たとえば、虚血性心疾患は、収縮不全を来す。これ、理解しやすいんですが、線維化がおこると拡張障害も来すんですね。心拍出量は低下しますから、前方不全になるのですが、血液が前に行かないという意味では後方不全にもなります。
また、虚血性心疾患は通常、左心系の梗塞が多く、左心不全が起こるわけですが、左心の後方障害から肺うっ血が生じると、肺静脈圧・肺動脈圧が上昇し肺高血圧となり、その結果右心不全を呈する様になるわけです。
心筋症、心筋炎も同じことで、まず収縮不全ありきなのですが、心筋症などでは収縮障害に加えて拡張障害もわかりやすく生じますね…以下同文であります。
高血圧の場合はどうでしょう。これは、慢性に血管抵抗が生じて後負荷が存在することから、心筋に常時高い圧がかかり、線維化などを来す…その結果拡張不全が起こる、と理解されます。ただ、この場合にもその後起こってくる左心不全、右心不全のくだりは同じことであります。
あとは弁膜症・先天性心疾患ですね。心臓の内部に狭い場所(狭窄)、あるいは逆流している場所、変な流れがある、ということになりますから、心拍出量が減る。そのために前方不全、後方不全が生じる、という具合です。
少なくとも、「心不全の存在」を疑うのであれば、病歴聴取の際にこれらの既往については確認しておく必要がありますが、高血圧など、全く自覚されず放置されていることも少なくありません。で、高血圧による心不全は拡張不全の要素も大きいので、診断されにくい、という感じなのです。
心不全になると血圧は下がってきますから、そうなるとその時点では高血圧の判断ができない、ということになりかねないのですね。そういうわけで、診断がなかなか難しいこともあるのが実際です。
それでは、現実的にどうやって診断、治療をするか、というところを考えて参りましょう。
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2012年03月28日
心不全の病態6・収縮不全と拡張不全
心不全の病態、最後は収縮不全と拡張不全について定義しましょう。
収縮不全は、理解しやすいと思います。
心筋の収縮力が低下して、ポンプとして期待される量の血液を送り出せなくなる。結果、前方不全、ないしは後方不全になります。
収縮力の低下はエコーでもEFの低下などを評価することで、比較的容易に検出することができます。また、虚血性心疾患による収縮力の低下ですと、カテーテル治療の対象になりますから、循環器科内科医のテンションがあがる瞬間です。
結果、その後の対処は循環器内科で行われることになり、そういう意味でも収縮不全は、割と対処しやすい病態であると言えるでしょう。
問題は拡張不全です。
私が他の病院にいた頃は、「循環器内科では拡張不全は診てもらえない」というのが定説であったのですが、昨今の一般病院ではどうなのでしょうか。
定義としては、左室の収縮能(EF)は保たれているものの、拡張期に左室が充分拡張せず、その結果血液が充分入らない、入らないから出ていかない、ということで心拍出量が低下する、と説明されます。
実際は入院するような重症の心不全のうち、半分程度が拡張不全、とも言われています。結構多いのですね。
最近では、収縮不全を駆出率の低下した心不全(HFrEF:Heart Failure with reduced Ejection Fraction)、拡張不全を駆出率が正常な心不全(HFpEF:Heart Failure with preserved Ejection Fraction、またはHFNEF:Heart Failure with Normal left ventricular Ejection Fraction)と呼ぶようになっている…とのことですが、私の周囲ではあまり呼ばれていないようです。そもそも用語も統一されていないし。
で、たとえば拡張障害の定義、診断基準、となりますと、結構ややこしいフローチャートになります。収縮能の評価にはEFを見ればいい、というのとは訳が違います。
実際は収縮不全も、EF<35%なのか、<40%なのか、はたまた50%で切るのか、再現性はどうなのか、など議論が尽きないところでありますが…。
具体的にはエコーのドプラー法できちんと波形を出し、E/AとかE/e’とか、結構いろんな指標を出さなくてはならない。ちょっと非専門医にはハードルが高いんじゃないかと思います。
私自身、EFや壁運動は見ますが、ドプラーは昔勉強したときの器械が対応していなかったこともあり…ハードル高いですね。循環器専門医にとっては常識なのでしょうか。あまり「拡張不全ありません」というコメントをいただいた記憶がないのですが。
そんなこんなで、学会ガイドラインを見ると結構ややこしいフローチャートがありますが、全ての患者さんにこれを適用しているとも思えない。結局のところ、まずは最初に挙げたFramingham基準にのっとって診断するのが、現実的なところかな、と思います。
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収縮不全は、理解しやすいと思います。
心筋の収縮力が低下して、ポンプとして期待される量の血液を送り出せなくなる。結果、前方不全、ないしは後方不全になります。
収縮力の低下はエコーでもEFの低下などを評価することで、比較的容易に検出することができます。また、虚血性心疾患による収縮力の低下ですと、カテーテル治療の対象になりますから、循環器科内科医のテンションがあがる瞬間です。
結果、その後の対処は循環器内科で行われることになり、そういう意味でも収縮不全は、割と対処しやすい病態であると言えるでしょう。
問題は拡張不全です。
私が他の病院にいた頃は、「循環器内科では拡張不全は診てもらえない」というのが定説であったのですが、昨今の一般病院ではどうなのでしょうか。
定義としては、左室の収縮能(EF)は保たれているものの、拡張期に左室が充分拡張せず、その結果血液が充分入らない、入らないから出ていかない、ということで心拍出量が低下する、と説明されます。
実際は入院するような重症の心不全のうち、半分程度が拡張不全、とも言われています。結構多いのですね。
最近では、収縮不全を駆出率の低下した心不全(HFrEF:Heart Failure with reduced Ejection Fraction)、拡張不全を駆出率が正常な心不全(HFpEF:Heart Failure with preserved Ejection Fraction、またはHFNEF:Heart Failure with Normal left ventricular Ejection Fraction)と呼ぶようになっている…とのことですが、私の周囲ではあまり呼ばれていないようです。そもそも用語も統一されていないし。
で、たとえば拡張障害の定義、診断基準、となりますと、結構ややこしいフローチャートになります。収縮能の評価にはEFを見ればいい、というのとは訳が違います。
実際は収縮不全も、EF<35%なのか、<40%なのか、はたまた50%で切るのか、再現性はどうなのか、など議論が尽きないところでありますが…。
具体的にはエコーのドプラー法できちんと波形を出し、E/AとかE/e’とか、結構いろんな指標を出さなくてはならない。ちょっと非専門医にはハードルが高いんじゃないかと思います。
私自身、EFや壁運動は見ますが、ドプラーは昔勉強したときの器械が対応していなかったこともあり…ハードル高いですね。循環器専門医にとっては常識なのでしょうか。あまり「拡張不全ありません」というコメントをいただいた記憶がないのですが。
そんなこんなで、学会ガイドラインを見ると結構ややこしいフローチャートがありますが、全ての患者さんにこれを適用しているとも思えない。結局のところ、まずは最初に挙げたFramingham基準にのっとって診断するのが、現実的なところかな、と思います。
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2012年03月27日
心不全の病態5・低心拍出性心不全と高心拍出性心不全
これまでに述べてきた機序では、心拍出量が低下する、低心拍出性心不全が理解しやすいでしょう。まあ、普通?の心不全は低心拍出性です。いわゆるポンプが具合悪い、ということですね。
心拍出量が低下するから、循環不全(前方不全)になる。
心拍出量が低下するから、うっ血(後方不全)になる。
これに対して、心拍出量がむしろ増加しているにもかかわらず、末梢に酸素が行き渡らず心不全徴候を呈する病態があり、これを高心拍出性心不全といいます。
高心拍出性心不全を来す病態は…
これらは、心拍数が上昇する、あるいは体液量が増える、Hbの濃度が低下する、などの理由で、末梢に酸素が行き渡らないわけです。
心拍出量が低下する、いわゆる「わかりやすい」機序ではないため、「心不全」と診断されにくい心不全の一群です。
今日は大幅な書き直しもあり、時間の関係で、ここまでとします。
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心拍出量が低下するから、循環不全(前方不全)になる。
心拍出量が低下するから、うっ血(後方不全)になる。
これに対して、心拍出量がむしろ増加しているにもかかわらず、末梢に酸素が行き渡らず心不全徴候を呈する病態があり、これを高心拍出性心不全といいます。
高心拍出性心不全を来す病態は…
- 甲状腺機能亢進症
- 脚気(ビタミンB1欠乏症)
- (高度の)貧血
- 動静脈シャント
これらは、心拍数が上昇する、あるいは体液量が増える、Hbの濃度が低下する、などの理由で、末梢に酸素が行き渡らないわけです。
心拍出量が低下する、いわゆる「わかりやすい」機序ではないため、「心不全」と診断されにくい心不全の一群です。
今日は大幅な書き直しもあり、時間の関係で、ここまでとします。
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2012年03月26日
心不全の病態4・左心不全と右心不全2
右心系は、右室−肺動脈−肺循環(毛細血管)−肺静脈−左房
ですから、肺循環に影響が来る右心系による症状を、前方障害と後方障害という切り口で考えましょう。
右室の前方には肺動脈と肺循環がありますので、右室の前方障害ということは右心の拍出量の減少によって肺に血行が行き渡らない状態、となるわけです。
これは、やはり換気と血流ミスマッチを起こし、A-aDO2開大、つまり低酸素血症になりますから、それに伴う症状、つまり(労作時、夜間の)呼吸困難、起座呼吸といった症状が生じます。

しかしながら、実はこれ(右心の前方不全)が単独で起こることはまれで、左室の後方不全による肺うっ血が出る、という事態が圧倒的です。左心の障害の方が起きやすいことと、右心系の圧が比較的低圧であることによると思われます。
右室の後方は体循環系があります。後方障害では体循環系から心臓に帰る血液の流れがスムーズでなくなるわけですから、体循環系に水がたまるうっ血が生じます。

体循環系に水がたまると、全身の臓器、末梢に水があふれ出してきます。すぐ近所にありうっ血の影響が出やすい臓器は肝臓ですから、肝のうっ血、腫大が見られます。
また、末梢に水があふれ出してくる所見として、全身の浮腫、静脈系の拡大、拡張、圧の上昇などが見られるようになります。全身の浮腫に伴い、体重増加も見られるようになり、消化管のうっ血では食思低下、嘔気などの消化器症状も出てきます。
ここまでをまとめますと、
右心の前方不全では、(労作時、夜間の)呼吸困難、起座呼吸が、
右心の後方不全では、全身の浮腫、静脈系の拡大、拡張、肝のうっ血と腫大、消化器症状が
症状として認められる、ということです。
もちろん、前方不全、あるいは後方不全だけ起こるということではなく、心不全の時には両方とも起こってきます。また、前回書いた左心不全も肺うっ血から肺動脈圧の上昇が起こり、右心不全を来してくるため、こちらも併発してくることになります。
ですから、ある患者さんの症状について、これはどっち、と分類することを目標とするものではありません。あくまで、病態を理解する一助としていただくために、機序と症候を分けて考えてみています。
ああ心不全を最初から読む
ですから、肺循環に影響が来る右心系による症状を、前方障害と後方障害という切り口で考えましょう。
右室の前方には肺動脈と肺循環がありますので、右室の前方障害ということは右心の拍出量の減少によって肺に血行が行き渡らない状態、となるわけです。
これは、やはり換気と血流ミスマッチを起こし、A-aDO2開大、つまり低酸素血症になりますから、それに伴う症状、つまり(労作時、夜間の)呼吸困難、起座呼吸といった症状が生じます。
しかしながら、実はこれ(右心の前方不全)が単独で起こることはまれで、左室の後方不全による肺うっ血が出る、という事態が圧倒的です。左心の障害の方が起きやすいことと、右心系の圧が比較的低圧であることによると思われます。
右室の後方は体循環系があります。後方障害では体循環系から心臓に帰る血液の流れがスムーズでなくなるわけですから、体循環系に水がたまるうっ血が生じます。
体循環系に水がたまると、全身の臓器、末梢に水があふれ出してきます。すぐ近所にありうっ血の影響が出やすい臓器は肝臓ですから、肝のうっ血、腫大が見られます。
また、末梢に水があふれ出してくる所見として、全身の浮腫、静脈系の拡大、拡張、圧の上昇などが見られるようになります。全身の浮腫に伴い、体重増加も見られるようになり、消化管のうっ血では食思低下、嘔気などの消化器症状も出てきます。
ここまでをまとめますと、
右心の前方不全では、(労作時、夜間の)呼吸困難、起座呼吸が、
右心の後方不全では、全身の浮腫、静脈系の拡大、拡張、肝のうっ血と腫大、消化器症状が
症状として認められる、ということです。
もちろん、前方不全、あるいは後方不全だけ起こるということではなく、心不全の時には両方とも起こってきます。また、前回書いた左心不全も肺うっ血から肺動脈圧の上昇が起こり、右心不全を来してくるため、こちらも併発してくることになります。
ですから、ある患者さんの症状について、これはどっち、と分類することを目標とするものではありません。あくまで、病態を理解する一助としていただくために、機序と症候を分けて考えてみています。
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2012年03月25日
心不全の病態3・左心不全と右心不全1
左心系は、左室−動脈−体循環(毛細血管)−静脈−右房
右心系は、右室−肺動脈−肺循環(毛細血管)−肺静脈−左房
ですから、左心系が不全状態になる左心不全と右心系が不全状態となる右心不全では、出てくる症状は異なります。
まずは体循環に影響が来る左心系を考えましょう。
左室の前方には動脈と体循環がありますので、左室の前方障害ということは心拍出量の減少によって末梢の臓器に酸素が行き渡らない状態、となるわけです。
血圧は低くなり、手足の血行が悪くなって冷たくなります。また、倦怠感というか疲労感が起こりやすくなります。また、腎血流が低下することで、尿量減少、つまり水分やNa貯留が生じ、うっ血を来しやすくなります。

では、呼吸困難はこちらか…と思いがちですが、呼吸困難はうっ血、つまり後方障害で起こります。前方障害では酸素化はできるのに、その酸素の運搬障害なので、呼吸困難よりむしろ、組織そのものの疲労感が来る、と理解しましょう。
左室の後方は肺循環系があります。後方障害では肺循環系から心臓に帰る血液の流れがスムーズでなくなるわけですから、肺循環系に水がたまるうっ血が生じます。

肺循環系に水がたまると、肺胞内に水があふれ出してきます。空気が入るべき肺胞内に水が入ってきますので、換気ができない肺胞が出てきます。そのため、換気と血流がミスマッチを起こしてきます。
換気血流ミスマッチが起こるとA-aDO2開大、つまり低酸素血症になりますから、それに伴う症状、つまり(労作時、夜間の)呼吸困難、起座呼吸といった症状、それにうっ血自体で肺の湿性ラ音が聴取されます。
ここまでをまとめますと、
左心の前方不全では、倦怠感・疲労感に四肢の冷感、
左心の後方不全では、(労作時、夜間の)呼吸困難、起座呼吸、それに肺の湿性ラ音が
症状として認められる、ということです。
もちろん、前方不全、あるいは後方不全だけ起こるということではなく、心不全の時には両方とも起こってくるので、ある患者さんの症状について、これはどっち、と分類することを目標とするものではありません。あくまで、病態を理解する一助としていただくために、分けて考えてみています。
ああ心不全を最初から読む
右心系は、右室−肺動脈−肺循環(毛細血管)−肺静脈−左房
ですから、左心系が不全状態になる左心不全と右心系が不全状態となる右心不全では、出てくる症状は異なります。
まずは体循環に影響が来る左心系を考えましょう。
左室の前方には動脈と体循環がありますので、左室の前方障害ということは心拍出量の減少によって末梢の臓器に酸素が行き渡らない状態、となるわけです。
血圧は低くなり、手足の血行が悪くなって冷たくなります。また、倦怠感というか疲労感が起こりやすくなります。また、腎血流が低下することで、尿量減少、つまり水分やNa貯留が生じ、うっ血を来しやすくなります。
では、呼吸困難はこちらか…と思いがちですが、呼吸困難はうっ血、つまり後方障害で起こります。前方障害では酸素化はできるのに、その酸素の運搬障害なので、呼吸困難よりむしろ、組織そのものの疲労感が来る、と理解しましょう。
左室の後方は肺循環系があります。後方障害では肺循環系から心臓に帰る血液の流れがスムーズでなくなるわけですから、肺循環系に水がたまるうっ血が生じます。
肺循環系に水がたまると、肺胞内に水があふれ出してきます。空気が入るべき肺胞内に水が入ってきますので、換気ができない肺胞が出てきます。そのため、換気と血流がミスマッチを起こしてきます。
換気血流ミスマッチが起こるとA-aDO2開大、つまり低酸素血症になりますから、それに伴う症状、つまり(労作時、夜間の)呼吸困難、起座呼吸といった症状、それにうっ血自体で肺の湿性ラ音が聴取されます。
ここまでをまとめますと、
左心の前方不全では、倦怠感・疲労感に四肢の冷感、
左心の後方不全では、(労作時、夜間の)呼吸困難、起座呼吸、それに肺の湿性ラ音が
症状として認められる、ということです。
もちろん、前方不全、あるいは後方不全だけ起こるということではなく、心不全の時には両方とも起こってくるので、ある患者さんの症状について、これはどっち、と分類することを目標とするものではありません。あくまで、病態を理解する一助としていただくために、分けて考えてみています。
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2012年03月24日
心不全の病態2・前方不全と後方不全
「前方不全」と「後方不全」という用語は、血液の流れの方向を向いたときの、前の方(つまり、血流でいうと下流方向)か後ろ(上流方向)か、という意味合いです。

不全、ということは、「末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍出できない状態」ですから、前方不全、とは
・前方にしっかり血液が行かない、
・そのために、末梢臓器に酸素が行かない
状態を、そしてそれによって生じる症状を表します。

具体的には、心拍出量が低下している状態並びにそれによる症状になります。
それに対して、後方不全、とは
・後方に血液がたまってくる状態
すなわち、うっ血ですね。
うっ血による症状を表すのです。

もちろん、前方不全があると後方にも影響があり、逆もまた真、ですので、どちらかだけが生じるというよりはどちらも生じる、というのが実際のところですが、まずは病態の基本として理解しておきましょう。
左心不全や右心不全を考える上でも、どちらの要素でどのような症状が出てくるのか、考えて理解しておかれると良いでしょう。
ああ心不全を最初から読む
不全、ということは、「末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍出できない状態」ですから、前方不全、とは
・前方にしっかり血液が行かない、
・そのために、末梢臓器に酸素が行かない
状態を、そしてそれによって生じる症状を表します。
具体的には、心拍出量が低下している状態並びにそれによる症状になります。
それに対して、後方不全、とは
・後方に血液がたまってくる状態
すなわち、うっ血ですね。
うっ血による症状を表すのです。
もちろん、前方不全があると後方にも影響があり、逆もまた真、ですので、どちらかだけが生じるというよりはどちらも生じる、というのが実際のところですが、まずは病態の基本として理解しておきましょう。
左心不全や右心不全を考える上でも、どちらの要素でどのような症状が出てくるのか、考えて理解しておかれると良いでしょう。
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posted by 長尾大志 at 19:38
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2012年03月23日
心不全の病態1・前負荷と後負荷
心不全の病態分類には以下のようなものがありました。
臨床症状を考える上では、右心不全と左心不全を定義するべきですが、まず全ての基本となる、前方不全と後方不全を理解しましょう。
まず、心臓がやっていることを図で表します。
下手な画ですが、心臓は真ん中のポンプです。

やってきた血液を、押し出しているのがわかりますね。
静脈を通って心臓にやってくる血液の分量(ポンプの左側)、これを推す…いや、押すにはそれなりの力が必要です。そのための仕事量を「前負荷」といいます。

押し出した血液は動脈を通ってポンプの右側に流れていきます。しかし、これも押し続けないと流れていきません。右側に存在する血液自体が抵抗となってきます。この抵抗に打ち勝って押すための仕事量を「後負荷」といいます。
前負荷を規定しているのは静脈系〜心房までの血管、それと血液の量、後負荷を規定しているのは心室〜動脈系の血管、そして血管抵抗(血圧)です。

ここでいう「前」「後」は、心臓を通る血液の流れを考えたときに、心臓の前か、心臓を通った後か、という意味合いでつけられているのだと思うのですが、ややこしいことに、「前方不全」と「後方不全」という用語は、血液の流れの方向を向いたときの、前の方(つまり、血流でいうと下流方向)か後ろ(上流方向)か、という意味合いになるのです。

このあたり、混同しないよう、気をつけましょう。初学者が混乱しやすい場所でもあると思います。
…ということで、図を書くだけで今日は力尽きましたので、明日に続きます。
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- 前方不全と後方不全
- 右心不全と左心不全
- 低心拍出性不全と高心拍出性不全
- 収縮不全と拡張不全
臨床症状を考える上では、右心不全と左心不全を定義するべきですが、まず全ての基本となる、前方不全と後方不全を理解しましょう。
まず、心臓がやっていることを図で表します。
下手な画ですが、心臓は真ん中のポンプです。
やってきた血液を、押し出しているのがわかりますね。
静脈を通って心臓にやってくる血液の分量(ポンプの左側)、これを推す…いや、押すにはそれなりの力が必要です。そのための仕事量を「前負荷」といいます。
押し出した血液は動脈を通ってポンプの右側に流れていきます。しかし、これも押し続けないと流れていきません。右側に存在する血液自体が抵抗となってきます。この抵抗に打ち勝って押すための仕事量を「後負荷」といいます。
前負荷を規定しているのは静脈系〜心房までの血管、それと血液の量、後負荷を規定しているのは心室〜動脈系の血管、そして血管抵抗(血圧)です。
ここでいう「前」「後」は、心臓を通る血液の流れを考えたときに、心臓の前か、心臓を通った後か、という意味合いでつけられているのだと思うのですが、ややこしいことに、「前方不全」と「後方不全」という用語は、血液の流れの方向を向いたときの、前の方(つまり、血流でいうと下流方向)か後ろ(上流方向)か、という意味合いになるのです。
このあたり、混同しないよう、気をつけましょう。初学者が混乱しやすい場所でもあると思います。
…ということで、図を書くだけで今日は力尽きましたので、明日に続きます。
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posted by 長尾大志 at 16:24
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2012年03月22日
心不全の診断・Framingham基準
昨日「続きを楽しみにしています」とコメントをいただきました。少し張り切って進めていきたいと思います。引き続き、日本内科学会雑誌2月号「慢性心不全」特集記事をベースに書いて参ります。
さて、皆さんは、日常臨床の場において、「心不全」の有無をどうやって判断されていますか?
なんとなく、「心不全がありそう。でも、この人にエコーするのもあれだし、病棟でSwan-Ganzカテーテルも無理だし、まあ経過を見よう。」で終わっていませんか?
この場合の経過を見よう≒何もしない、でなければよいのですが…。
心不全には厳然たる診断基準があります。
Framingham基準というもので、これによると心不全は、詳細な問診と注意深い診察によって診断をされるべきものである、とされます。
早くも言いたいことが出ちゃいました。
心不全は、詳細な問診と注意深い診察によって診断をされるべきものであり、エコーやBNPは診断基準には含まれていません。
(まあ、基準自体が古いものなので、今後変わるのかもしれませんが、現時点でも記載が取って代わられていない、という点は特筆すべきかと思います。)
Framingham基準
大基準
大または小基準
・治療に反応して5日間で4.5kg以上の体重減少
小基準
2つ以上の大基準、
または、1つの大基準と小基準
で心不全と判断します。
改めて眺めてみると、問診と診察で得られる情報ばかりですね。
中心静脈圧上昇、循環時間延長、剖検での(!)肺水腫、内臓うっ血や心拡大、それに肺活量の低下、というところは無理ですが、あとは全て問診と診察で得られます。
まずは、そのつもりで、もう一度患者さんの診察に当たってみましょう。
これまで、「咳が出て呼吸困難でラ音があるから、呼吸器内科に頼もう。」となっていた患者さん、ひょっとしたらこの基準を満たされるのではないですか?
さて、皆さんは、日常臨床の場において、「心不全」の有無をどうやって判断されていますか?
- 足がむくんでいるから…
- レントゲンで心拡大があるから…
- たまたまとったBNPが高いから…
なんとなく、「心不全がありそう。でも、この人にエコーするのもあれだし、病棟でSwan-Ganzカテーテルも無理だし、まあ経過を見よう。」で終わっていませんか?
この場合の経過を見よう≒何もしない、でなければよいのですが…。
心不全には厳然たる診断基準があります。
Framingham基準というもので、これによると心不全は、詳細な問診と注意深い診察によって診断をされるべきものである、とされます。
早くも言いたいことが出ちゃいました。
心不全は、詳細な問診と注意深い診察によって診断をされるべきものであり、エコーやBNPは診断基準には含まれていません。
(まあ、基準自体が古いものなので、今後変わるのかもしれませんが、現時点でも記載が取って代わられていない、という点は特筆すべきかと思います。)
Framingham基準
大基準
- 夜間の発作性呼吸困難
- 頸静脈の怒張(拡張?)
- ラ音
- 胸部レントゲン写真における心拡大
- 急性肺水腫
- V音ギャロップ
- 中心静脈圧上昇(>16cmH2O)
- 循環時間延長(≧25秒)
- 肝・頸静脈逆流
- 剖検での肺水腫、内臓うっ血や心拡大
大または小基準
・治療に反応して5日間で4.5kg以上の体重減少
小基準
- 両足首の浮腫
- 夜間の咳嗽
- 労作性呼吸困難
- 肝腫大
- 胸水
- 肺活量の低下(最大の1/3以下)
- 頻脈(≧120bpm)
2つ以上の大基準、
または、1つの大基準と小基準
で心不全と判断します。
改めて眺めてみると、問診と診察で得られる情報ばかりですね。
中心静脈圧上昇、循環時間延長、剖検での(!)肺水腫、内臓うっ血や心拡大、それに肺活量の低下、というところは無理ですが、あとは全て問診と診察で得られます。
まずは、そのつもりで、もう一度患者さんの診察に当たってみましょう。
これまで、「咳が出て呼吸困難でラ音があるから、呼吸器内科に頼もう。」となっていた患者さん、ひょっとしたらこの基準を満たされるのではないですか?
posted by 長尾大志 at 13:20
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| ああ心不全
2012年03月21日
血痰・喀血の鑑別・心不全
bland(無菌の、炎症のない)pulmonary hemorrhageの中では、最も多いと思われる、肺のうっ血について、ちょうど日本内科学会雑誌の2月号に「慢性心不全」の特集がありましたので、この機会に勉強してみましょう。以降の記載は、主に日本内科学会誌の記事をベースに作成します。
これを読まれているドクターの方々には、「うっ血があるんじゃないか」と思って循環器内科にコンサルトしたところ、「心エコーで壁運動良好であり、心不全ではありません」と、けんもほろろの回答をいただいたことがある、そういう方もおられるんじゃないかと思うのですが、いかがでしょうか。
私がかつて勤めていた施設だけのことであればよいのですが…(むろん、今は違いますが)。
そんな回答でつらい思いをしないためにも、心不全ぐらいは自分で診断、治療できるようになっておきたいところです。
また、超高齢化社会を迎え、どんな(高齢の)患者さんであっても、ある程度は心機能の低下、というものは不可避であります。ですから、循環器内科医でなくても、何科の医師であっても、心不全の診療は身につけておかれることが望まれるのであります。
例によって、難しい用語はなるべく使わないようにしていきたいと思いますので、どうぞしばらくお付き合いください。
まず慢性心不全の定義です。
日本循環器学会のガイドラインによると、慢性心不全とは「慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し、末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍出できない状態であり、肺、体静脈系または両系にうっ血を来たし日常生活に障害を生じた状態」ということです。
ふむふむ。まず「慢性の心筋障害」ありきなのですね。
心不全の病態分類には、以下のような分け方があります。
前方、後方、というのは、血液の流れをイメージしていただいて、流れる方向を前方、後ろ側を後方、と呼ぶものです。前方不全とは、要するに前に向かって血液が出て行かない、心拍出量の低下を意味します。
後方不全では、後ろの方の流れが悪くなりますから、血流がうっ滞する、うっ血が生じるわけです。
通常心不全といえば心拍出量がへる、低心拍出性不全なのですが、甲状腺機能亢進、脚気、高度貧血、感染など、心臓以外の理由で心拍出量が増加するような状態では、結局「カラ打ち」のようになって末梢臓器に酸素が行き渡らなくなるのです。
元々、心不全といえば収縮能が低下することが主因と考えられていましたが、収縮能が保たれていても、拡張が妨げられることでうっ血を起こす、拡張不全の概念も知られてきました。
これらの分類を知った上で、心不全の診断、ということを今一度考えましょう。
これを読まれているドクターの方々には、「うっ血があるんじゃないか」と思って循環器内科にコンサルトしたところ、「心エコーで壁運動良好であり、心不全ではありません」と、けんもほろろの回答をいただいたことがある、そういう方もおられるんじゃないかと思うのですが、いかがでしょうか。
私がかつて勤めていた施設だけのことであればよいのですが…(むろん、今は違いますが)。
そんな回答でつらい思いをしないためにも、心不全ぐらいは自分で診断、治療できるようになっておきたいところです。
また、超高齢化社会を迎え、どんな(高齢の)患者さんであっても、ある程度は心機能の低下、というものは不可避であります。ですから、循環器内科医でなくても、何科の医師であっても、心不全の診療は身につけておかれることが望まれるのであります。
例によって、難しい用語はなるべく使わないようにしていきたいと思いますので、どうぞしばらくお付き合いください。
まず慢性心不全の定義です。
日本循環器学会のガイドラインによると、慢性心不全とは「慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し、末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍出できない状態であり、肺、体静脈系または両系にうっ血を来たし日常生活に障害を生じた状態」ということです。
ふむふむ。まず「慢性の心筋障害」ありきなのですね。
心不全の病態分類には、以下のような分け方があります。
- 前方不全と後方不全
- 右心不全と左心不全
- 低心拍出性不全と高心拍出性不全
- 収縮不全と拡張不全
前方、後方、というのは、血液の流れをイメージしていただいて、流れる方向を前方、後ろ側を後方、と呼ぶものです。前方不全とは、要するに前に向かって血液が出て行かない、心拍出量の低下を意味します。
後方不全では、後ろの方の流れが悪くなりますから、血流がうっ滞する、うっ血が生じるわけです。
通常心不全といえば心拍出量がへる、低心拍出性不全なのですが、甲状腺機能亢進、脚気、高度貧血、感染など、心臓以外の理由で心拍出量が増加するような状態では、結局「カラ打ち」のようになって末梢臓器に酸素が行き渡らなくなるのです。
元々、心不全といえば収縮能が低下することが主因と考えられていましたが、収縮能が保たれていても、拡張が妨げられることでうっ血を起こす、拡張不全の概念も知られてきました。
これらの分類を知った上で、心不全の診断、ということを今一度考えましょう。
posted by 長尾大志 at 19:31
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