2012年12月11日

今日の症例・褐色の痰5

Nocardiaみたいなグラム陽性桿菌…褐色痰…。ということでO澤先生に尋ねてみました。


(以下メールを引用)
ノカルジア肺炎は膿性痰を伴う浸潤影でもよいし、肉芽腫による結節影でもよいし、それらの混合でもよい、となっております。ノカルジアは細菌ではありますが菌糸が放射状に伸びるなどの特徴は真菌を思わせるところもあり、陰影(≒宿主と病原体の攻防)も細菌と真菌の間をうろうろしているのかもしれません。また、ノカルジアに罹患する方は免疫不全の方も多いので、陰影は宿主の免疫状態にも大きく左右されるのでしょう。討って出るのが得策(病原体を殺しきれる)と免疫が判断したのであれば浸潤 影を呈する、囲い込んで兵糧攻めにするのが得策(病原体を殺しきれない)と免疫が判断したのであれば肉芽腫性結節影を呈する、と考えております。


茶色の喀痰ですが、千葉大学の真菌センターのサイトを見ますと、ノカルジア・ファルシニカは茶色のコロニー、ノカルジア・アステロイデスは赤いコロニーとして掲載されています。コロニーの色は培地の組成で大きく左右されるとはいえ、ノカルジア・ファルシニカが培養されれば非常に有益な内視鏡所見であったと思われます。
(引用ここまで)


果たせるかな、気管洗浄液よりNocardia farcinica検出。時を同じくして、静脈血からも同じ菌が得られました。おおー。結構ゾクゾクしますね。


この結果を受け、ST合剤+IPM/CSで治療を開始し、良好な治療効果を得ました。痰の色にも色々な意味があるのですねー。


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posted by 長尾大志 at 18:14 | Comment(0) | 肺の防御機構と痰

2012年12月10日

今日の症例・褐色の痰4

ようやく褐色の痰が出てきました。しかし痰がうまく採れなかったようで、喀痰検査からは有意菌が得られていません。そこで気管支鏡を施行しました。


内腔には白色喀痰が多く見られました。右B9中心に下葉で採痰、生検を行いました。吸引をすると、褐色の粘調な痰が引けたとのこと。お…。


BronchoNoc.jpg


すると、Nocardiaを疑うグラム陽性桿菌を検出しました。


Nocardia…?褐色痰…。


こういうときは草加市立病院 健康管理課 医長の大澤先生に聞いてみよう!ということで尋ねてみました。すると…


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posted by 長尾大志 at 16:44 | Comment(0) | 肺の防御機構と痰

2012年12月07日

今日の症例・褐色の痰3

昨日のコメントで指摘がありましたが、β-D-グルカンの上昇にあまり引きずられるのは、決して良いことはありません。


病歴から考えずに検査所見から考えると、偽陽性の罠にはまることになります。まず、病歴から妥当な鑑別を挙げ、それを支持する所見があるかどうか確かめるために検査があるはずです。


本症例の場合ですと、ステロイド使用+β-D-グルカン上昇というワードにひきずられると「真菌症」「ニューモシスチス肺炎」という鑑別が挙がってくるでしょう。でも真菌症が起こってくる状況はもっと好中球が(局所、または全身性に)減った状況が多いでしょうし、ニューモシスチス肺炎ではすりガラス影が生じて著しい低酸素血症になるでしょう。


もちろん否定できるものではありませんが、「典型的ではない」とは言えると思います。


β-D-グルカンが上昇する病態、偽陽性となる場面を知っていれば、そちらの可能性も想定できるわけです。



さて前振りはこのぐらいにして、喀痰検査を施行しました。しかしこちらには有意な菌が認められていません。ただ、ご本人からは「茶色い痰が時々出る」というセリフが聞かれました。これって…?


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posted by 長尾大志 at 12:03 | Comment(0) | 肺の防御機構と痰

2012年12月06日

今日の症例・褐色の痰2

それでは、昨日の症例の診断を考えましょう。


基礎に免疫疾患(書いてなかった…( ̄▽ ̄;) 汗)があり、ステロイドを中等量使用している症例で、比較的緩徐な発症をしつつ長い経過をとってきた痰、呼吸困難、発熱という症状を呈する疾患となります。


素直に考えると現病の悪化、もしくは免疫低下を背景とした感染症が鑑別に挙がるでしょう。しかしPSL25mgで現病が悪化したとすれば、もうこれは相当悪い病態、比較的稀な出来事といえるでしょうから、どちらかといえば感染を考えたくなるところです。


ここで検査所見を見てみましょう(何度も書きますけど、先に検査所見を見てはアキマセンよ)。WBC26,700と増加(前値は14,000)していることやβ-DGが若干上昇、PCT高値から、何らかの感染はあるようです。画像上浸潤影が拡がっていますから、肺炎のように浸出液が肺胞内に充満している様子が想像されます。


しかし、経過としては比較的緩徐。PSL内服中とはいえ、このゆっくりした経過は一般的な細菌感染を考えにくいところ。そこで経過からまず挙げるべき鑑別としては、抗酸菌感染でしょう。


ところが抗酸菌感染としては空洞、結節などがないのが画像的にはあいません。じゃあ真菌感染か…?この程度の免疫抑制で、アスペルギルスはないでしょう。侵襲性であればもっと好中球が減ってくるような病態で起こるでしょうし、アスペルギローマの陰影でもない。また、クリプトコッカスカンジダは臨床的に違うでしょう。


てことは、もう少しrareなやつ、例えばアレとかソレとかだったらあうかな…いずれにしても、気管支鏡は要るな、という感じでしょうか。


担当医はβ-D-グルカンが高いことを気にされ、真菌症やニューモシスチス肺炎の存在を疑っていたようです。果たして…。


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posted by 長尾大志 at 17:31 | Comment(2) | 肺の防御機構と痰

2012年12月05日

今日の症例・褐色の痰

予告通り、症例を見ていただきましょう。本筋に関係ないところなど、一部端折ってご紹介します。


60歳代男性。とある他疾患で(こちらもそのうち採り上げますが、今回は本筋とは外れるため割愛します)外来にてプレドニゾロン投与中(減量途上で25mg)。


数週間前から次第に黄色痰が出現、労作時呼吸困難も増悪していた。
○月24日レントゲンにて右下肺野、右上肺野に浸潤影増加。胸水もわずかに増量したため気管支鏡で採痰後プレドニン25mgから20mgに減量、アジスロマイシン処方された。○月31日画像上はやや改善を認めたが本人の自覚症状は変化なく、(○+1)月7日のCTで両肺多発浸潤影を指摘。その後2週間で3回38.5度の高熱あり、再度アジスロマイシン投与したが効果なく(○+1)月28日右肺の浸潤影増強し肺炎との診断で入院となった。


<既往歴>
肺結核(30歳代)、ネフローゼ症候群、慢性腎不全(人工透析中)、大腿骨頭壊死

<生活歴>
喫煙:20歳から10本/日を7,8年間
飲酒:缶ビール1本+日本酒1合

<家族歴>
特記すべきことなし

<アレルギー>
特になし


<入院時身体所見>
バイタルサイン異常なし 意識レベル:清明 
結膜:眼瞼結膜 黄染なし 眼球結膜 蒼白なし
心音:整、雑音なし
肺音:清、副雑音なし  SpO2:98% 呼吸数12回
腹部:平坦、軟、圧痛なし、腸蠕動音正常
四肢:浮腫なし、紫斑なし
表在リンパ節腫脹なし


<入院時検査所見>
【血液】
HT (% ) 32.3 L
HB (g/dl ) 10.3 L
RBC (×1000000 ) 3.77 L
WBC (×1000 ) 26.7 H
PLTS (×1000 ) 312
SEG/NEUT (% ) 95.7 H
BAND (% )
EOSIN (% )
BASO (% )
LYMPH (% ) 2.0 L
MONO (% ) 2.3
MCV (μ3 ) 86
MCH (pg ) 27.3
MCHC (% ) 31.9
TP (g/dl ) 6.7
ALB (g/dl ) 2.5 L
AST (U/l ) 14
ALT (U/l ) 30
LDH (U/l ) 204
ALP (U/l ) 371 H
G-GTP (U/l ) 122 H
CHE (U/l ) 177 L
T-BIL (mg/dl ) 0.48
A/G 0.60 L
NA (mmol/l ) 138
CL (mmol/l ) 99
K (mmol/l ) 5.0 H
UN (mg/dl ) 62.0 H
CRE (mg/dl ) 8.83 H
UA (mg/dl ) 5.5
CA (mg/dl ) 7.9 L
P (mg/dl ) 6.5 H
T-CHO (mg/dl ) 209
AMY (U/l ) 203 H
CPK (U/l ) 13 L
CRP (mg/dl ) 13.87 HH

β-DG 18.4H
PCT 5.83H


胸部レントゲン写真はこんな感じ。


CR1.jpg


右肺に浸潤影が見られます。


CT1.jpg


CTでも同様ですね。色々なことを素直に考えると、浸潤影=細菌性肺炎でいいのでしょうか…?


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posted by 長尾大志 at 17:46 | Comment(2) | 肺の防御機構と痰

2012年12月04日

痰の評価・「良い痰」とはどのようなものか・Geckler分類

肉眼的に「良さそうな痰」かどうかを評価するMiller & Jonesの分類に引き続いて、今度は顕微鏡をのぞいて評価する、Gecklerの分類を取り上げます。


これは100倍で1視野あたり白血球(病変部=肺由来と考えられる)と扁平上皮(口腔内由来と考えられる)の数がどれだけあるか、というもので、当然白血球が多くて扁平上皮が少ないものが「良い痰」なわけです。



Geckler分類(100倍で1視野あたりの細胞数)

  • グループ1:白血球数<10、扁平上皮>25

  • グループ2:白血球数10〜25、扁平上皮>25

  • グループ3:白血球数>25、扁平上皮>25

  • グループ4:白血球数>25、扁平上皮10〜25

  • グループ5:白血球数>25、扁平上皮<10

  • グループ6:白血球数<25、扁平上皮<25



このうちグループ1〜3は扁平上皮が多く、唾液成分が多いものと思われるため、検査には適していないとされます。グループ4と5、すなわち扁平上皮が25個より少なくて白血球数が25個より多いものを良い検体である、としています。


グループ6は扁平上皮が少なく唾液成分は少ないと考えられるものの、白血球も多くないため、病変部から得られたものではない可能性もあります。ただ、気管支鏡や穿刺によって直接得られた検体であれば、検査に値するとされています。


また、白血球減少のある患者さんから得られた検体であっても、そもそも白血球が少ないわけですから、これは意味のある検体でしょう。


痰については以上で一旦〆とさせていただきます。明日は1例、印象深い症例を見ていただこうと思います。


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posted by 長尾大志 at 18:20 | Comment(0) | 肺の防御機構と痰

2012年12月03日

痰の評価・「良い痰」とはどのようなものか・Miller & Jones分類

細菌学的検査を行うに足る「良い痰」とはどのようなモノか、客観的な指標がちゃんとあります。


痰の中に肺炎の原因菌が含まれているだろう、と考えられる痰が「良い痰」なわけですから、やはり好中球が多く含まれていて、実際に菌と戦っている姿が見えるとそれっぽいわけです。


まずはパッと見、前回にも書きましたが採った痰の性状を確認して、膿性、あるいは色の濃い、粘調度の高い部分が多ければ多いほど、おそらく「良い痰」であるといえるでしょう。その肉眼的な見え方で分類をしたものがMiller & Jonesの分類です。



Miller & Jonesの分類

  • M1:膿を含まない粘液痰

  • M2:粘液痰に少量の膿が含まれるもの

  • P1:全体の1/3以下が膿性

  • P2:全体の1/3〜2/3が膿性

  • P3:全体の2/3以上が膿性



M1やM2の検体というのは、見た感じほとんど膿成分が含まれておらず、(要はほとんど唾液であるということで)細菌検査には適していない検体である、とされています。


sputum3.JPG


例えば、これだったらちょうど1/3ぐらいが膿性なので、P1といったところでしょうか。


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posted by 長尾大志 at 14:24 | Comment(0) | 肺の防御機構と痰

2012年11月30日

痰の評価・「良い痰」とはどのようなものか。

痰の見た目、性状が大事であることはおわかり頂いたでしょうか。とはいえ、性状でわかるのはあくまで「印象」であって、実際菌がいるのか、というようなことはグラム染色や培養をしてみなければわかりません。


難しいのは、患者さんが「痰が出ました」といって持ってこられたモノ、それが果たしてグラム染色や培養をするに値するモノかどうか、結果を信頼するに値するモノかどうか、というところになります。


口腔内(を通って)から出てきた分泌物を分析する際に最も問題になるのは、「それは(肺の)病変部から出てきたモノか、口腔内にあったものか」。


理想的には肺の病変部から湧いてきた膿性の分泌物を調べ、そこにいる菌から肺炎の原因菌を想定する、ということになるのですが、途中で通過する口腔内の常在菌、そこにたまたまいた菌が結構しばしば混入してくると、判断に困ることがしばしば。


そのまま鵜呑みにすると、「カンジダ肺炎」、「MRSA肺炎」大発生の原因にもなりかねません。




できる限り理想的な痰を採るための正しい痰の取り方は、まずうがいを数回してもらって口腔内を清浄にし(うがいで痰が出やすくなる面もあり)、深く息を吸って「お腹から」痰を喀出してもらいます。「痰が少ない」「痰が出ません」という場合、3%の食塩水(10%NaClと生理食塩水を1:2の割合で混ぜて作ります)を吸入してもらうと出やすくなります。

自己にての喀出ができない場合、チューブを用いて吸引することもあります。



採った痰の性状を確認して、膿性、あるいは色の濃い、粘調度の高い部分が多ければ多いほど、おそらく「良い痰」であるといえるでしょう。そういう部分を採り上げて迅速に検査に使います。採れた痰の性状を確認する習慣は、抗菌薬の効果判定にも役立ちますから、できるだけ自分の眼で見る習慣をつけたいものですね。


痰の色が治療と共にきれいになってきた、というだけで、抗菌薬の効果が出てきていることが窺い知れたりもするのです。


sputum2.JPG


こんな痰がいいですね。これは吸引で採ったモノです。


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posted by 長尾大志 at 17:30 | Comment(0) | 肺の防御機構と痰

2012年11月29日

痰のにおい・見た目には意味がある

痰は色だけでなく、そのにおいや性状にも成り立ちがあり、意味があります。


■におい(悪臭・腐敗臭)

有名どころではありますが嫌気性菌感染では、発酵のメカニズムによって臭気を発生しているために腐ったような悪臭がします。


口がクサイ、口臭も口腔内の嫌気性菌が発生しているにおいであり、あんな感じのにおいが痰や胸水から漂ってきたら、嫌気性菌の関与が考えられます。


ただし、嫌気性菌感染でも悪臭が発生しないことは多々あり、逆は必ずしも真ならず、ということも知っておきましょう。



■粘液栓

これは性状の部類に入ることだと思いますが、気管支内で固まった粘調度の高い痰がそのままの形で出たものを指します。形が気管支の栓に見える?ため、このような呼び方をされます。


喘息、発作時は痰の粘調度が高くなります。特にABPA(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)における粘液栓は有名で、しばしば出題のネタになります。


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posted by 長尾大志 at 19:11 | Comment(0) | 肺の防御機構と痰

2012年11月28日

痰の色には意味がある・痰の性状と色5・褐色〜赤色の痰

■鉄さび色

肺炎球菌肺炎で有名です。古い肺出血(凝血)を含む膿性痰、という理屈で説明されています。



■オレンジジェリー様

クレブシエラによる肺炎で出る、とされています。組織破壊を伴う(おそらく出血を伴う)濃厚な(粘調度の高い)痰である、とのことです。



■茶色

古い出血・食物やたばこの混入などによってこのような色に見えることが多い、とされています。



■鮮赤色

これはそのまま血痰ですね。原因については以前にも触れましたが、肺胞からの出血は炎症による肺胞の破壊と血管透過性の亢進によって、気管支からの出血は気管支の血管壁の破壊や、炎症で傷がつくことで起こります。



■ピンク色の泡沫(あぶく)状

いわゆる「泡を吹いてひっくり返る」という時の泡。肺水腫が生じた際に、血液由来の水分が肺胞内に溢れ出し、肺胞内の空気と少量の血液が混入した水分があふれ出してくるものを見ています。


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2012年11月27日

痰の色には意味がある・痰の性状と色4・黄色〜緑色の痰

■黄色痰

感冒の治りかけの時期のように、多く分泌されていた痰の量が減って、粘性が増してくるとサラサラだった痰が黄色くなってくる、という経験は多くの方がされていると思います。


黄色い痰、というのはサラサラであった痰が濃縮されただけでも診られる色調です。もちろんそれだけではなく、痰の中に細胞成分が多いと黄色っぽく見えてくるものです。


この黄色がきれいな段階では、ウイルス感染やアレルギー、喘息など、分泌亢進に伴うものが原因であることが多いようです。



■黄色〜緑色の膿性痰

きれいな黄色ではなく、濁ったような、グレーがかったような黄色になってくると、膿の成分が混じってきていると考えられます。


膿ということは、細菌と白血球が戦って、バタバタと屍骸ができている状態。すなわち細菌感染の存在を思わせるものです。細菌や炎症細胞や壊死組織を含む痰は汚くグレーがかった色になってきます。


黄色〜緑色の色調変化については、痰の中に含まれる好中球ミエロペルオキシダーゼ、IL-8、白血球エラスターゼの量や活性が多いと緑色が濃くなる、と説明されています。


また、緑膿菌のように緑色の色素を産生するものについては、やはり緑がかって見えてくるものです。


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posted by 長尾大志 at 18:09 | Comment(0) | 肺の防御機構と痰

2012年11月26日

痰の色には意味がある・痰の性状と色3・ドロリとした粘液性・着色した痰

痰がドロリと粘液性になり、着色する理由は、主に細菌感染などにより、蛋白・白血球に富む浸出液(と赤血球)が産生され、元々気道に分泌されていた粘液とブレンドされることによります。


細菌の産生する物質や赤血球とのブレンド具合によって痰の「色」や「性状」が決まるとされていて、おおざっぱに言うと次のような分類になります。


  • 黄色:痰の中に細胞が多い

  • 黄色・緑色の膿性:細菌性・化膿性病変

  • 鉄さび色:肺炎球菌

  • オレンジジェリー様:クレブシエラ

  • 茶色:古い血液・食物・たばこの混入

  • 鮮赤色:血痰

  • ピンク色・泡沫(あぶく)状:肺水腫

  • におい(悪臭・腐敗臭):嫌気性菌

  • 粘液栓:喘息・ABPA



明日から各論です。そう長くはなりません…。


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posted by 長尾大志 at 17:20 | Comment(0) | 肺の防御機構と痰

2012年11月22日

痰の色には意味がある・痰の性状と色2・サラサラ・透明(漿液性)の痰

サラサラ?(ドロリと粘調ではない、という程度の意味です)で透明な、いわゆる漿液性の痰、これはそもそも気道粘膜面の掃除のために粘液線や杯細胞から分泌されている粘液であります。それが何らかのきっかけで産生亢進となり、あふれ出してきたものが絡んだり、喀出されたりする、という現象の結果、痰が増加するのです。


産生亢進になる理由は以下のようなものがあります。

  • 喫煙:吸気中の様々な刺激物による

  • アレルギー:刺激による

  • ウイルス感染:壊死などを伴わない炎症




■喫煙

喫煙すると何千種類ともいわれるさまざまな粒子、化学物質が煙と共に気道内に流入します。それを掃除するために粘液の分泌が亢進し、痰の量が増えます。


これが毎日毎日、何十年も続きますと、杯細胞の増生やら粘液線の肥大やらを生じ、慢性気管支炎といわれる病態につながることもあります


「痰が出る」という主訴で受診された中高年の方が、禁煙しただけで痰が出なくなった、という事例はしばしば経験されるものです。



■アレルギー

日常臨床で多いのは鼻炎による後鼻漏じゃないでしょうか。とにかく粘液がのどにあふれてくる(経験者)。痰が絡む、エヘン虫が…という訴えで来院されることが多いですね。


特徴的な病歴から、点鼻薬等でスッキリすれば診断に迷うことはあまりないと思いますが、慣れるまでの最初の数症例はちょっと難しいかもしれませんね。


また、気管支喘息でも杯細胞や粘液腺の過形成を生じ、分泌が亢進します。特に喘息発作時には、漏出した蛋白や細胞成分が加わることで粘調な痰が「粘液栓」を形成し、窒息の原因などになったりします。



■ウイルス感染

細菌と異なり、炎症そのものは軽度、というか、好中球がバタバタ死んで膿性になる、というケースは少ないようです。分泌が亢進して痰が増える以外に、気道上皮の障害によって乾性の咳が強いこともあります。


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2012年11月21日

痰の色には意味がある・痰の性状と色1

肺炎のお話で、さんざん「痰」について強調して参りました。「良い痰」って何だ?痰の性状にはどのような意味があるのか?について考えてみましょう。


そもそも痰は、気道の掃除のために産生されています。気管支におけるフィルター効果と気管支のお掃除の記事でも書きましたが、気道内の粘液が異物とかゴミとかを絡め取って、線毛の動きで口方向に運ばれる、そのお掃除の過程でできるのが痰であります。


ですからできたての痰は無色透明の、いわゆる粘液のような見かけなのです。それが吸気中の様々な刺激物、細菌・ウイルスなどの感染及び癌などの発生によって量がふえ、あるいは膿性・血性など、さまざまな色がついてくることで性状の変化が生じるのです。


ですからどのようなメカニズムで性状・色が変わってくるかを理解すると、原因を推測することができるのです。


大きく分けると、

  • サラサラ・透明(漿液性):喫煙・アレルギー・ウイルス感染

  • ドロリとした粘液性・色有り:感染

  • 血性・血液(血痰):出血



という感じになります。


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2012年06月11日

胸部レントゲン道場24・肺野に注目する4・場所に注目する2・中枢か末梢かの話で脱線・肺の防御機構3・気管支におけるフィルター効果と気管支のお掃除機構から考える、疾患好発部位の機序・びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis:DPB)

閑話休題、本題に戻りましょう。


とてつもなくタイトルが長くなってきていますが、ようやく脱線から復旧です。先週述べたような、巧みな役割分担によるお掃除機構のどこかが破綻すると、その「お掃除される」場所が病気になる、そういうお話です。


  • 太めの気管支 径数μm〜10μmの粒子が沈着、咳と線毛運動で掃除

  • 細気管支(さいきかんし)径数μmの粒子が沈着、線毛運動で掃除

  • 肺胞 径1μm内外(2μm未満)の粒子が沈着、マクロファージによる貪食で掃除



でしたね。



ここで思い出していただきたいのが、びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis:DPB)です。この疾患は機序がなかなか難しくて病態が理解しづらいですね。覚えることもたくさんあります。


でも、そもそもの病因が

線毛運動の低下

であることを理解すれば、あら不思議、全てが納得、なのです。


線毛運動が低下することで、気道系は全体的に掃除能力が落ちます。クリアランスが悪くなる、といういい方をします。


ただし、中枢の気道、太い気管支では、ある程度のことであれば、咳で飛ばせば何とかなる。鼻腔内に粘液がたまっても、鼻をかめば何とかなるわけです。


ところが…線毛運動に、掃除のほとんどを依存してしまっている場所があります。

それは、先ほどから述べている、細気管支

実はもう一つ。

鼻腔と小さな穴で続いている、副鼻腔


細気管支は咳をするとcollapseしてしまい、咳で掃除するのが難しい。
副鼻腔は小さな穴で鼻腔とつながっているだけであるため、鼻をかんでも掃除ができない。


おのおのそんな理由で、お掃除をほとんど線毛に頼っているのです。

そんな中、線毛機能が落ちてしまうとどうなるか。


副鼻腔炎と、両肺あまねくびまん性に細気管支炎が起きてしまうわけです。


XP (94).jpg


細気管支炎になると細気管支に痰が詰まります。息を吸うときには肺がふくらみ、まだ空気が通るのですが、息を吐くときに肺が縮むと細気管支の通りが悪くなり、閉塞性障害を生じます。


また、細気管支に痰が詰まるため、膿性痰や聴診上湿性ラ音・断続性ラ音(coarse crackle)が所見として見られるわけです。細気管支が狭窄したりするため、ときに連続性ラ音などが聴かれることもあります。



機序を理解することで、好発部位や症状、症候が理解できる好例として、DPBについて取り上げてみました。皆さんの理解の助けになれば幸いです。


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posted by 長尾大志 at 18:50 | Comment(3) | 肺の防御機構と痰

2012年06月07日

胸部レントゲン道場24・肺野に注目する4・場所に注目する2・中枢か末梢かの話で脱線・肺の防御機構1・世の中敵だらけ

「男子家を出ずれば七人の敵あり」という言葉があります。


昔の言葉で、男性(≒外に出て働く人)が外に出ると、そこには多くの敵がある、世の中に出ると苦労が多い、というような意味だと思います。現代においてはまず「男性」と限定している点で状況が異なりますけど、意味合いはご理解いただけるでしょうか。


まあ、誰しも世の中に出れば、多くの敵、不都合、困ったことにあうものだ、位の意味ですね。


で、その古い言い回しを持ち出して何が言いたいかというと、外界は敵だらけだ、ということ。


私たちの周りにある空気は、実に多くの有害な粒子、物質を含んでおります。病原微生物、アレルゲン、発癌物質、有機粉塵、無機粉塵などなど…。


男子に限らず何人(なんびと)も、呼吸をしていると、そのような多くの有害粒子に肺胞がさらされ、そのままではあっという間に病気になってしまいそうですね。


もちろん現実にはそんなことはなく、きちんと有害物質を排除するフィルターが何重にも張り巡らされているんですよ。





ちょっと横道ですが、この防衛機構のお話をしましょう。


まず最初の防衛システムは、鼻です。


「口呼吸してると風邪を引きやすい」みたいなことを、聞いたことがおありかもしれません。鼻には非常にすぐれた防衛システムがあるのです。


鼻の構造を思い出してください(これって、耳鼻科ブログだったっけ?と思わないように)。鼻は入り口(鼻腔)こそ狭いですが、奥に入ると大きな空間がありますね。これ、無駄に大きな空間に見えるのですが、ちゃんと意味があるのです。


XP (88).jpg


鼻腔には鼻甲介という盛り上がり?があり、実際はそれほど広々とした「がらんどう」のような空間ではありません。


XP (89).jpg


この鼻甲介と、わんさか生えている(私は生えてない!と主張する方もおられますが、奥にはわんさか生えています!)鼻毛によって、鼻腔から吸入された空気は乱流となり、渦を作ります。


XP (90).jpg


渦を作ると、吸入した空気に含まれている、ある程度以上の大きさの粒子(10μm以上と言われています)は、遠心力で飛ばされ、鼻毛や周囲の粘膜に付着して除去されるのです(蛇足ですが、これを粘液で絡め取って固めたものが、鼻ク○ですね)。


いわゆるダ○ソンのサイクロン式掃除機も、まあ同じ理屈ですね。遠心力で吹き飛ばす、と考えていただくと、わかりやすいでしょう。


長くなったので、(レントゲンには一切触れないまま…汗)明日に続きます。


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