2015年03月09日

呼吸器疾患診断手順ガイド272・各疾患の診断手順・副鼻腔炎・副鼻腔気管支症候群

「呼吸器疾患診断手順ガイド」、出版社さんとの打ち合わせが終わりまして、不足している記事を追加させていただきます。


副鼻腔気管支症候群は、咳嗽に関するガイドライン第2版によると、日本における慢性咳嗽の3大原因疾患の1つであるとされています。実際、少なくとも副鼻腔炎による後鼻漏を含めれば、「慢性の咳」症例の原因としては相当多い印象があります。


おそらく線毛機能の低下によって、元々クリアランスの悪い副鼻腔や中葉、舌区などに慢性感染が生じ、長期間の経過で気管支壁の破壊、修復〜気管支拡張が起こってくると考えられています。


困ったことに欧米には「副鼻腔気管支症候群」という概念がなく、(おそらく人種によって表現型が異なり、びまん性汎細気管支炎(DPB)などはほとんどないようです)後鼻漏や鼻副鼻腔炎、上気道咳症候群といった病名に含められているようで、欧米と日本の疾患概念をすり合わせることが難しいのが現状です。


日本の概念、定義としては、上気道〜下気道の慢性・反復性好中球性気道炎症で、慢性副鼻腔炎に慢性下気道感染症や気管支拡張症、甚だしいものでは両側びまん性に病変が生じる、DPBを合併した病態となります。



診断基準は割とハードルが低い、というか副鼻腔炎+後鼻漏だけでもコレに入ってしまうような基準になります。


  • 8週間以上続く呼吸困難発作を伴わない湿性咳嗽

  • 次のうち1つ以上を認める
    1)後鼻漏、鼻汁、咳払いなどの副鼻腔炎症状
    2)敷石状所見を含む口腔鼻咽頭における粘液性あるいは粘膿性の分泌液
    3)副鼻腔炎を示唆する画像所見

  • 14,15員環マクロライド系抗菌薬や去痰薬による治療が有効



参考所見として、画像的に副鼻腔炎と気管支拡張や細気管支炎を認めますが、X線写真では一般に副鼻腔炎の診断には感度が低いとされていて、副鼻腔のCTで液の貯留などを判定することが多いです。


スライド51.jpg


また、胸部X線写真で索状影、CTでは気管支拡張や小葉中心性粒状影などの存在が見られることも診断の参考になります。


鼻汁や喀痰中の好中球増加を証明すればそれに越したことはありませんが、特段治療方針が変わるわけでもありませんので、それほど熱心にはされていないと思います。


呼吸器診断手順をガイドされる

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2015年03月06日

早わかり動脈血ガスの見かた20・P/F比

酸素化の指標はPaO2ですが、実際の症例では酸素投与を受けていたり人工呼吸をされたりしますから、それによってPaO2値は影響を受けます。同じPaO2値でも酸素をたくさん吸っている(FIO2が高い)方が状態としては悪いことになりますから、その条件をそろえた指標が必要になるのです。


そこでクリティカルケアの場面でよく使われるのがP/F比(P/F ratio)。PaO2をFIO2(%を小数換算したもの)で割ったものです。FIO2が正確にわかる、ということは、人工呼吸中であることが前提みたいなものですから、使われる場面は自ずとわかります。


       PaO2
P/F比 = ━━━━━
       FIO2


PaO2は同じでもFIO2が高くなるほどP/F比は低くなるので、よろしくない、ということになります。


例えばFIO2=0.21(大気中)で、PaO2=105TorrとするとP/F比=500、ということになります。この辺が正常値ですね。


ALI(acute lung injury:急性肺障害)やARDS(acute respiratory distress syndrome:急性呼吸窮迫症候群)の定義というか診断基準として用いられています。これらは心不全じゃないけど両側の肺野にびまん性の浸潤影が出現して呼吸状態が悪くなる、という病態を表しているのですが、最近の欧州集中治療医学会でALIという用語は使わない方向になる決定がなされたようです。


旧い診断基準

  • ALI:PaO2/FIO2<300

  • ARDS:PaO2/FIO2<200



新しい診断基準

  • 軽症ARDS:PaO2/FIO2が201〜300

  • 中等症ARDS:PaO2/FIO2が101〜200

  • 重症ARDS:PaO2/FIO2<100



PaO2/FIO2値以外の詳しい基準については、病態の説明で詳しく述べたいと思います。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

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2015年03月05日

早わかり動脈血ガスの見かた19・まとめ4

■ 7.350〜pH〜7.450:正常範囲

pHが正常範囲の場合、そう慌てる必要はありませんが、何が起こっているのかを評価しておきます。


・PaCO2、HCO3-共に正常→正常な血ガス分析結果、ということで終了。



・PaCO2、HCO3-が動いている場合

PaCO2>45⇒呼吸性アシドーシス かつ HCO3- >26⇒代謝性アルカローシス


の場合、どちらがどちらを代償しているのか、病態を考えます。多くの場合は、既に治療が始まっていて、pHが正常化している、ということになりますが、評価の練習をするために、


● 呼吸性アシドーシスになる要素

  • 肺にCOPDなどの基礎疾患がある

  • 側彎や神経筋疾患など、換気の減る疾患がある

  • PaO2の低下が見られる




● 代謝性アルカローシスになる要素

  • 利尿薬

  • 嘔吐

  • 低カリウム血症




逆の

PaCO2<35⇒呼吸性アルカローシス かつ HCO3- <22⇒代謝性アシドーシス


の場合も考え方は同様です。


● 呼吸性アルカローシスになる要素

  • PaO2の低下が見られる

  • 情動変化、疼痛の存在

  • 薬剤摂取歴




● 代謝性アシドーシスになる要素

  • (AGの増加)敗血症

  • 循環不全

  • 糖尿病性ケトアシドーシス

  • 飢餓状態

  • 尿毒症

  • 各種中毒

  • (AGの増加なし)下痢

  • 尿細管アシドーシス



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2015年03月04日

早わかり動脈血ガスの見かた18・まとめ3

■ pH>7.450:アルカレミア

PaCO2<35⇒呼吸性アルカローシス

(この場合、PaO2も要確認)

 HCO3- ≒24→急性呼吸性アルカローシス
 HCO3- <22→呼吸性アルカローシスを代謝性に代償


HCO3- >26⇒代謝性アルカローシス

 PaCO2≒40→急性代謝性アルカローシス
 PaCO2>>45→代謝性アルカローシスの呼吸性代償


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2015年03月03日

早わかり動脈血ガスの見かた17・まとめ2

代謝性アシドーシスの場合、AG(アニオンギャップ)を計算する。

AG=Na+ −(Cl- +HCO3- )

(正常値は12±2mmol/L)


■ AGが増加するもの

  • 敗血症

  • 乳酸アシドーシス

  • 糖尿病性ケトアシドーシス

  • 飢餓状態

  • 尿毒症

  • 中毒




■ AGが増加しないもの

  • 下痢

  • 尿細管アシドーシス



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2015年03月02日

早わかり動脈血ガスの見かた16・まとめ

まずはpHを確認する。


  • pH<7.350:アシデミア

  • 7.350〜pH〜7.450:正常範囲

  • pH>7.450:アルカレミア



続いてはPaCO2とHCO3-を確認。



■ pH<7.350:アシデミア

PaCO2>45⇒呼吸性アシドーシス

(この場合、PaO2も要確認)

 HCO3- ≒24→急性呼吸性アシドーシス
 HCO3- >26→呼吸性アシドーシスを代謝性に代償


血ガス呼吸管理図スライド11.jpg



HCO3- <22⇒代謝性アシドーシス

 PaCO2≒40→急性代謝性アシドーシス
 PaCO2<<35→代謝性アシドーシスを呼吸性に代償


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2015年02月27日

早わかり動脈血ガスの見かた15・この症例の「呼吸状態」は悪いのか?

初診の患者さんで病態が未だ把握できていない、という場合、呼吸性の非常事態が起こっているのか、代謝性の異常事態なのか、どうやったらわかるのでしょうか。


例えば呼吸数を見る。呼吸数が増えていると、「しんどそう」ということはわかりますが、「なぜ」しんどいのかはわかりません。肺が悪くなって低O2、高CO2になりかけているから呼吸数が増えているのか、代謝性アシドーシスを代償しようとして呼吸が頑張っているのか、わからないのです。



じゃあ何を見るか。PaO2ですね。PaO2が低値であるということは、呼吸器系のトラブルがあると考えられます。


例えばpH正常で、PaCO2が低値でHCO3-も低値、というときに、呼吸性アルカローシスと代謝性アシドーシス、どちらが原因でどちらが代償なのかよくわからない、ということがあります。まあ、pH正常であれば、それほど慌てる必要はないのですが…。


その場合、PaO2が低値、A-aDO2が開大していれば、肺に障害があることがわかります。そうすると、呼吸数が増して呼吸性アルカローシスが生じ、それを代謝が代償している可能性が高い、ということになるのです。


代謝性アシドーシスを呼吸が代償している、というケースでは、肺は正常であるわけで、PaO2の低下は見られません。呼吸数はどちらが原因であっても増加して、換気量が増えているわけですが、肺に異常があってPaO2が低下すると、換気量が増えてもPaO2は良くなりません(後述)からある程度区別が出来ます。


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2015年02月26日

早わかり動脈血ガスの見かた14・代謝性アルカローシスの原因を鑑別する

代謝性アルカローシスの原因は、酸を失う、もしくはHCO3-が増加する、いずれかの機序によります。


前者は嘔吐で胃酸を喪失する、ループ利尿薬の長期間投与など。後者はHCO3-を含む物質を摂取、ないし投与した場合に起こります。


もう一つ、しばしば見かけるのが、長期間呼吸性アシドーシスがあってそれを代謝性アルカローシスで代償している。そこへ人工呼吸など、強制換気を行って呼吸性アシドーシスを是正した結果、代謝性アルカローシスが残ってしまい、結果アルカレミアになってしまう、というものです。


血ガス呼吸管理図スライド8.JPG


血ガス呼吸管理図スライド9.JPG


血ガス呼吸管理図スライド10.JPG


また、低カリウム血症になると、細胞内のK+と血中のH+が入れ替わり、H+(酸性成分)が細胞内に入ってしまうことで代謝性アルカローシスを来します。


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2015年02月25日

早わかり動脈血ガスの見かた13・代謝性アシドーシスの原因を鑑別する3・アニオンギャップが増加するとき、しないとき

■ AGの増加を伴う

AGが増えてくるときに増加していると考えられる酸は、乳酸、ケトン体、リン酸、メタノールなどがあります。


ということは、代謝性アシドーシスのうち、上に挙げたような、酸が増えてくる病態であるとAGが増加する、ということで、AGが増加しているかどうかは代謝性アシドーシスの原因を考える上で役立つのです。


AGが増加するものを増えている酸ごとに分類すると、以下のようになります。

  • 敗血症・乳酸アシドーシス:乳酸

  • 糖尿病性ケトアシドーシス:ケトン体

  • 飢餓状態:ケトン体

  • 尿毒症:リン酸

  • 中毒:メタノールなど




逆に言いますと、代謝性アシドーシスで、AGの増加を確認したら、上の病態を鑑別していくことになります。それらの鑑別はやはり病歴、病態を確認します。いずれも病歴をきちんと聴取できれば診断、判断できるものが多いですね。



■ AGの増加を伴わない

代謝性アシドーシスではHCO3-が減少しているわけですから、AGが増加しない場合にはCl-が増加するはずです。


AG=(Na+)−{(Cl-)+(HCO3- )}ですからね。


この場合多いのは、HCO3-が失われて相対的にCl-が増加したパターン。以下のようなことが考えられます。


下痢:消化液とともにHCO3-が失われる
尿細管アシドーシス:尿細管でのHCO3-再吸収が障害される


それ以外にはCl-を含む酸を投与しても起こりますが、数は少ないです。


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2015年02月24日

早わかり動脈血ガスの見かた12・代謝性アシドーシスの原因を鑑別する2・アニオンギャップ1

代謝性アシドーシスの鑑別をするにあたって、CO2以外の酸が産生されているかどうか、目星をつけるためにアニオンギャップ(Anion gap:AG)を計算します。


AG=(Na+)−{(Cl-)+(HCO3- )} または
AG={(Na+)+(K+)}−{(Cl-)+(HCO3-)}


K+(カリウムイオン)は狭い範囲を変動するだけですので、簡便な上の式を使われることが多いと思います。


さてこのAGで何がわかるか、といいますと、普通の血液検査で直接測定できない酸(リン酸、硫酸、有機酸など)の量がわかるのです。有機酸には乳酸やケトン体など、代謝性アシドーシスの原因として重要な物質が含まれているのですが、これらは気軽には測定できません。そこでAGの出番です。


アニオン(陰イオン=マイナスイオン)ギャップとは、気軽に測定できるカチオン(陽イオン=プラスイオン)とアニオンの差。


体内の気軽に測定できるカチオンはNa+とK+、アニオンはCl-とHCO3-、というわけで、これらの差がAGなのです。なんでカチオンギャップじゃなくてアニオンというか、といいますと、カチオンはそのほとんどがNa+とK+なのに対し、アニオンはCl-とHCO3-以外にも測定できないものがいろいろ含まれているからなのです。それゆえ、


測定できるカチオン>測定できるアニオン


てことで、


AG=(測定できるカチオン)−(測定できるアニオン)
  =Na+ −(Cl- +HCO3- )


となります。正常値は12±2mmol/Lです。
ちなみに体内はほぼ中性なので、体内のカチオンとアニオンの合計はほぼ等しいハズ、というのが大前提。


で、このAGが増加するということは、測定できないアニオンが増加しているということになりますが、その測定できないアニオンの多くが、先ほどの「測定できない酸(リン酸、硫酸、有機酸など)」なのです。


これでもうおわかりと思いますが、AGが増加する=測定できない酸が増加している、ということになるのです。


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2015年02月23日

早わかり動脈血ガスの見かた11・代謝性アシドーシスの原因を鑑別する

代謝性アシドーシスの原因は、呼吸によらず体内にCO2以外の酸が蓄積することになります。


最も理解しやすい理屈は、激しい下痢などによって消化液とともにHCO3-(アルカリ性物質)が失われ、結果血液が酸性に傾く、というものです。この場合は症状から、直ぐに見当が付くでしょう。


それ以外には、尿細管でのHCO3-再吸収が障害される尿細管アシドーシス、腎不全でH+の排泄が低下した場合もありますが、多いのはCO2以外の酸が体内で産生された場合で、鑑別のためにアニオンギャップを計算します。


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2015年02月20日

早わかり動脈血ガスの見かた11・呼吸性アルカローシスの原因を鑑別する

呼吸性アルカローシスの原因は、換気量が増えてCO2が体内から出て行くこと。病態としては低酸素による呼吸刺激(換気量の増加)が代表ですが、過換気症候群もしばしば見かけます。それ以外に疼痛による呼吸促迫やサリチル酸などの薬剤中毒も原因になります。


そこでPaO2を確認します。PaO2<60Torrと低酸素が認められていれば、これは肺胞の数が減っている、すなわち肺に異常が起こっている、ということがわかります。そこで診察では呼吸数が増えていることを確認し、さらに呼吸音や胸郭運動、打診などを確認して、胸部X線につなげていく、という感じです。


PaO2低下が見られず、情動的な要素が感じられたら過換気症候群を疑いますし、疼痛があるか、あるいは薬剤摂取があるかなども確認すれば、「この呼吸性アルカローシスは、原因があって起こっているかどうか」はわかると思います。


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2015年02月19日

早わかり動脈血ガスの見かた10・呼吸性アシドーシスの原因を鑑別する

呼吸性アシドーシスの原因は、換気量が減ってCO2が体内に貯留すること。すなわち、呼吸数が減る、あるいは1回換気量が減るなど、分時換気量の低下を引き起こす病態が呼吸性アシドーシスの原因となります。


代表は肺の疾患であれば、COPDなどの閉塞性疾患ですね。理由はまた後で述べますが、気道が閉塞して空気の通り、出入りが悪くなることで、換気量が減ってしまう、と考えましょう。



肺の疾患以外には、肺胞低換気症候群や脊柱側湾症などの胸郭運動が制限される疾患、あるいは神経筋疾患によって胸郭運動が低下する、薬剤で呼吸抑制がかかる、などの病態が考えられます。


これらの鑑別は、割とわかりやすいと思います。元々基礎にあった病態が何か、閉塞性肺疾患か神経筋疾患か、薬剤は何を使っているか、そういうことがわかれば目星は付きますね。


逆に患者さんの病態を把握していれば、血ガスを採取する前に、結果が「アシドーシスがあるはずか、アルカローシスがあるはずか」目星が付いているはず。検査をする前には、必ず結果の予測をすべし、ということですね。


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2015年02月18日

早わかり動脈血ガスの見かた9・アシデミアでもなくアルカレミアでもない、pH=7.4付近の場合

pHが7.35〜7.45の間、つまりちょうど中性近辺の場合、どう解釈を進めるか。


まずはそれほど慌てる必要はない、ということです。pHが動くほどの状態であれば、生命の危険が生じますので急いで補正が必要ですが、pHが正常範囲、ということは、アシドーシスもアルカローシスも起きていない、平和な状態か、どちらかが起きたのだが良くなって代償によって正常に戻った状態、で、とりあえずは考える時間がありそうです。


PaCO2もHCO3-も正常範囲であれば、これはもういいでしょう。「正常範囲」という評価で終了です。


でもどちらかがアシドーシスでどちらかがアルカローシスだったら…「結局どっちが原因でどっちが代償かわからないじゃないか!」とお嘆きかもしれません。


いや、これは病態を考えるとわかるはずです。というか、本来は血ガスを採る前に、異常だったら酸性に行くかアルカリに行くか、ある程度目星が付くはずなのです。


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2015年02月17日

早わかり動脈血ガスの見かた8・アルカレミアの場合

@ pH>7.450とアルカレミアの場合。


A PaCO2とHCO3-のどちらがアルカリ性に持っていってる(アルカローシス)のかを確認します。PaCO2<35Torrであれば呼吸性アルカローシス、HCO3->26 mEq/Lであれば代謝性アルカローシスです。


B-1 呼吸性アルカローシスであれば、反対側、HCO3-の動きがあるのかどうかを確認。HCO3-<22 mEq/Lと代謝性アシドーシスであれば、呼吸性アルカローシスを代償するために腎臓が頑張っているということ。HCO3-が正常範囲であれば、まだ代償が始まっていない=急性期である、ということになります。


B-2 代謝性アルカローシスであれば、反対側、PaCO2の動きがあるのかどうかを確認。PaCO2>45Torrと呼吸性アシドーシスであれば、代謝性アルカローシスを代償するために呼吸が頑張っているということ。PaCO2が正常範囲であれば、まだ代償が始まっていない=急性期である、ということになります。


アシデミアの時と同様、換気量が減れば、比較的CO2は速やかに貯留しますから、代謝性アルカローシスがあってPaCO2が代償を始めていない、というのはよほどの急性期です。それに対して腎臓による代償は時間がかかる。数日〜5日ぐらいかかるのです。


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2015年02月16日

早わかり動脈血ガスの見かた7・アシデミアの場合

それでは、具体的な解釈の流れを見てみましょう。


@ pH<7.350とアシデミアの場合。


A PaCO2とHCO3-のどちらが酸性に持っていってる(アシドーシス)のかを確認します。PaCO2>45Torrであれば呼吸性アシドーシス、HCO3-<22 mEq/Lであれば代謝性アシドーシスです。


B-1 呼吸性アシドーシスであれば、反対側、HCO3-の動きがあるのかどうかを確認。HCO3->26 mEq/Lと代謝性アルカローシスであれば、呼吸性アシドーシスを代償するために腎臓が頑張っているということ。HCO3-が正常範囲であれば、まだ代償が始まっていない=急性期である、ということになります。


B-2 代謝性アシドーシスであれば、反対側、PaCO2の動きがあるのかどうかを確認。PaCO2<35Torrと呼吸性アルカローシスであれば、代謝性アシドーシスを代償するために呼吸が頑張っているということ。PaCO2が正常範囲であれば、まだ代償が始まっていない=急性期である、ということになります。


ただ、肺が頑張れば、比較的CO2は速やかに飛んでいきますから、代謝性アシドーシスがあってPaCO2が代償を始めていない、というのはよほどの急性期です。それに対して腎臓による代償は時間がかかる。数日〜5日ぐらいかかるといわれています。


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2015年02月13日

早わかり動脈血ガスの見かた6・血ガスを解釈する

代償にはそれなりに時間がかかりますので、急性期には代償がなされていないことも多いです。逆に、代償が間に合っていないということは、急性期である、ということになります。


ですから、PaCO2とHCO3-、そしてその関係を見ることで、アシドーシスかアルカローシスか、代償が起こっているのか、急性期かどうかを解釈することになります。


ここまでをまとめますと、以下のようになります。


@ pHを見てアシデミアかアルカレミアか、正常範囲かを評価する。

A アシデミアであれば、その原因は呼吸性アシドーシス(PaCO2が増加)か、代謝性アシドーシス(HCO3-が低下)かを解釈する。アルカレミアの場合はその逆。

B アシデミアの原因でない方が代償をしているかどうかを確認する。代償をしていなければ、急性期であり、代償をしていれば慢性期と考える。


具体例は来週お示しします。


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2015年02月12日

早わかり動脈血ガスの見かた5・代償という現象

呼吸か腎臓、どちらかの理由で酸性に傾く(アシドーシス)あるいはアルカリ性に傾く(アルカローシス)と、人間の体はそれを何とか正常範囲に持っていこうとします。


呼吸性、あるいは代謝性のアシドーシスになると、それと違う方がそれを中和する方向(この場合アルカローシス)へ作用するのです。


例えば呼吸性アシドーシスになると、腎臓が頑張ってアルカリ方向へ動かし(代謝性アルカローシス)、何とか元に戻そうとします。


血ガス呼吸管理図スライド4.JPG


血ガス呼吸管理図スライド5.JPG


代謝性アシドーシスになると、呼吸性アルカローシスで元に戻そうとします。このような反応を代償(だいしょう)といいます。


逆もまた然り。呼吸性アルカローシスが生じると、代謝性アシドーシスで代償されますし、代謝性アルカローシスが起こると呼吸性アシドーシスで代償されます。


血ガス呼吸管理図スライド6.JPG


血ガス呼吸管理図スライド7.JPG


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2015年02月10日

早わかり動脈血ガスの見かた4・代謝性アシドーシス・アルカローシス

■ HCO3-

HCO3-は重炭酸イオン。こちらはアルカリ性の物質です。CO2が呼吸によって調節されているのに対して、こちらは主に腎臓が排泄量を加減することで調節されています。


腎臓や他の臓器において代謝機能障害が起こったときに、HCO3-値の増減と共にpHが変化することを代謝性○○、と呼びます。



HCO3-が減少するということは、アルカリ性物質が減ったわけですから血液は酸性に向かいます。HCO3-<22mEq/Lと減少した状態を、HCO3-が減少して酸性に向かう=代謝性アシドーシス、といいます。


逆にHCO3->26mEq/Lと増えると、血液はアルカリ性に向かう=代謝性アルカローシス、となります。


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2015年02月09日

早わかり動脈血ガスの見かた3・呼吸性アルカローシス

血中のCO2が減少すると、酸性物質が減りますから血液はアルカリ性に向かいます。PaCO2<35Torrと減少した状態を、CO2が減少してアルカリ性に向かう=呼吸性アルカローシスといいます。


アシドーシス同様、


アルカレミア=現在アルカリ性であること
アルカローシス=アルカリ性にしようとする力


と理解しましょう。


血ガス呼吸管理図スライド2.jpg


血ガス呼吸管理図スライド3.jpg


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2015年02月06日

早わかり動脈血ガスの見かた2・呼吸性アシドーシス

■ PaCO2

pHの次は、そのpHに影響する因子を見ましょう。すなわちPaCO2とHCO3-です。


CO2は炭酸ガス(=酸性)ですから、血中のCO2が増えると血液は酸性に傾きます。PaCO2>45Torrの状態を、CO2が増加して酸性に向かう=呼吸性アシドーシスといいます。


呼吸性、というのはCO2の量によって、という意味です。アシドーシスは酸性方向に向かう、ということを表します。


昨日の記事で出てきた「アシデミア」は、現在酸性であることを表します。アシデミアとアシドーシスはとっても混同されやすいので、よ〜く注意して下さい。


アシデミア=現在酸性であること
アシドーシス=酸性にしようとする力


と理解しておくといいでしょう。


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2015年02月05日

早わかり動脈血ガスの見かた1

血液ガスを採るとき、何を見たいから採るのですか?O2ですか?


O2だったら、SpO2モニターである程度わかりますよね。血ガスを採るときは、O2だけではなく、CO2とHCO3-、そしてそれらの関係性で成立するpHが見たいはずです。もちろんO2もわかりますが…。


早速、これらの正常値を確認しましょう。


  • pH=7.350〜7.450

  • PaCO2(動脈血ガス二酸化炭素分圧)=35〜45Torr

  • PaO2(動脈血ガス酸素分圧)=80〜100Torr

  • HCO3-(重炭酸イオン)=22〜26mEq/L



血ガスの解釈をする際に重要なことは、この正常値から外れている値はないか?ということです。正常値から外れているものには意味づけが可能です。


■ pH

まず、最初に書いてあるpHの解釈をします。


pH=7.350〜7.450、すなわち7.4±0.05です。7.4を中心に、0.1という狭い範囲しかありません。


血ガス呼吸管理図スライド.jpg


pHは低くなると酸性、高くなるとアルカリ性です。7.350未満の酸性になった状態をアシデミア、7.450より大きくアルカリ性になった状態をアルカレミアといいます。


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2012年10月11日

今日の症例・Parkinson病、COPDのある患者さんの急な悪化4・鼻マスク人工換気導入後の血液ガスの解釈

pH改善に乏しく、患者さんに疲労感が見られてきたため、担当医は鼻マスク人工換気を開始しました。開始後採取した血ガス所見は以下の通り。それでは解釈していきましょう。

pH   PaCO2 PaO2 HCO3- BE
7.269  70.6  71.5  31.6  2.8


@pHは7.269、改善傾向ですね。その理由はAPaCO2が70.6と低下してきたから。人工換気が奏功してきているようです。ただし、まだまだ換気不全状態は続いています。BHCO3-は同様。まだ動くほどではないようです。



この時点では、COPDの急性増悪による換気不全と、Parkinson病の悪化による換気低下などが想定されたため、人工換気に加えて前者対策として全身ステロイド投与、後者対策として点滴でドパストン投与としました。そして翌日。


pH   PaCO2 PaO2 HCO3- BE
7.254  61.3  84.6  26.5  -1.6


@pHは7.254。横ばいですが、APaCO2は61.3と回復基調にありますね。Bそのためか、HCO3-も低下傾向となっています。


そしてさらに翌日。

pH   PaCO2 PaO2 HCO3- BE
7.462  44.2  86.8  30.9  6.4


お、どうですか。突然いい感じですね。

身体所見上も、この日からwheezeが軽減してきて、閉塞性障害が解除されてきた、という実感がありました。


@pHは7.462と改善、というかむしろアルカレミアとなっています。ナゼ??


APaCO2は正常範囲!なので、アルカレミアの原因は、HCO3-が増えすぎているからですよね。HCO3-が増えていたのはナゼかというと、PaCO2が高かったから、それを代償していたわけです。


Bそれが、PaCO2が急に低下しています。この理由はやはり閉塞性障害が解除されたからでしょう。つまり良くなったんですね。結果的には、Parkinsonの要素はほとんど無く、COPDの急性増悪がほとんど状態悪化の要因であったと考えられます。



ということで、解釈としては、

「全身ステロイドなどによる治療のため、閉塞性障害が解除されたことで、換気障害が軽快。そのため、PaCO2が急速に低下し呼吸性アシドーシスは改善したが、HCO3-は急に変化し得ないため、高値のままであり、代謝性アルカローシスが残っている状態。そのために結果的にアルカレミアになった。」


ということになります。
いやもう、ここまでできたら、立派なもんじゃないでしょうかね。そりゃ、もっときっちりした理屈はありますが、それは成書にお譲りしましょう。


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2012年10月10日

今日の症例・Parkinson病、COPDのある患者さんの急な悪化3・血液ガスの解釈

一昨日の症例、血液ガスの推移を解釈していきましょう。


血液ガスの解釈の仕方はこちらで解説しています。一番下からお読みください。



大まかな流れとしては、

@pHを見て、酸性(アシデミア)かアルカリ性(アルカレミア)かを確認する。
pHの正常値は7.350〜7.450です。


A次にPaCO2とHCO3-を見て、呼吸性(PaCO2が動く)か代謝性(HCO3-が動く)、どちらがpHの異常行動に寄与しているかを考える。

PaCO2の正常値は35〜45 増えていれば酸性へ 減っていればアルカリへ
HCO3-の正常値は22〜26 増えていればアルカリへ 減っていれば酸性へ


酸性へ持って行く力(方向)をアシドーシス、アルカリ性に持っていく力をアルカローシスと言います。


BPaCO2とHCO3-どちらかがpHを異常にしていれば、もう一方が戻そうとしている(代償)はずで、それを確認する。

*呼吸性のpH異常を代謝性に代償するには時間がかかります。代償し切れていなければ「急性呼吸性」。
*代謝性アシドーシスの時は、アニオン・ギャップ(AG)を評価します。


CPaCO2の動きとPaO2の動きがリンクしているかどうかを見ますと、肺の障害があるのかどうかが推定できます。


こういう流れであります。



それでは、症例の解釈をしてみましょう。まずは救急来院時。

pH   PaCO2 PaO2 HCO3- BE
7.235  78.5  28.2  32.1  2.6


@pHは7.235と酸性。つまりアシデミアですね。


APaCO2は78.5と高値。PaCO2は高い方がアシドーシス、すなわち酸性に動かす力となりますので、呼吸性に酸性へと移動していることがわかります。


B逆にHCO3-は32.1と高値。HCO3-が増えていればアルカリへの力となるので、呼吸性アシドーシスを代謝性に戻そうとしている(代償)ことがわかります。


CPaO2は極端に低い。呼吸不全状態です。


病歴からは比較的急速に症状が出ている。でもHCO3-はある程度代償している(でもし切れていない)。これをどう考えるか。


元々は慢性呼吸不全があって、それをHCO3-が代償して釣り合っていた(pHが正常であった)ところに、急性増悪があり呼吸性アシドーシスが急に進行、代謝性の代償が追いつかずにその結果アシデミアとなった、こういう解釈ができますね。



次に、ベンチュリーマスクでFiO2を50%にすると、どうなったか。

pH   PaCO2 PaO2 HCO3- BE
7.190  90.0  91.8  33.1  2.5


@pHは7.190と、アシデミアが強くなっています。よろしくないですね。


APaCO2が90.0と上昇。なぜか。CPaO2が91.8と改善したことで、呼吸中枢が「ホッ」としてしまったために呼吸数が減ったのでしょう(ここで、身体所見の「呼吸数」が効いてきますね)。CO2ナルコーシスです。


BHCO3-はがんばり続けていますが、代償は間に合っていません。



ということで、担当医はFiO2を40%に下げて、ナルコーシスの解除を試みたわけです。

pH   PaCO2 PaO2 HCO3- BE
7.223  76.2  88.4  30.7  1.0


@pHは7.223と若干改善。APaCO2も少し低下傾向ですが、まだしんどい。

ということで、鼻マスクによる人工呼吸を導入されました。


これ(黄矢印)はその蛇腹ですね。


120905CRjabar.JPG


導入後はどうなったでしょうか。

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2012年10月09日

今日の症例・Parkinson病、COPDのある患者さんの急な悪化2・血液ガスの解釈

昨日の症例、血液ガスの推移を見ていきましょう。各々、どのように解釈できるか、考えてみてください。


まずは救急来院時。

pH   PaCO2 PaO2 HCO3- BE
7.235  78.5  28.2  32.1  2.6


ベンチュリーマスクでFiO2を50%にすると…

pH   PaCO2 PaO2 HCO3- BE
7.190  90.0  91.8  33.1  2.5


ということで、FiO2を40%に下げると…

pH   PaCO2 PaO2 HCO3- BE
7.223  76.2  88.4  30.7  1.0


その後、鼻マスク人工換気を開始。

pH   PaCO2 PaO2 HCO3- BE
7.269  70.6  71.5  31.6  2.8


第2病日

pH   PaCO2 PaO2 HCO3- BE
7.254  61.3  84.6  26.5  -1.6


第3病日

pH   PaCO2 PaO2 HCO3- BE
7.462  44.2  86.8  30.9  6.4


酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシスを参考にして、解釈してみましょう。

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2012年10月08日

今日の症例・Parkinson病、COPDのある患者さんの急な悪化

抗菌薬の話があまりにも続きそうなので、閑話休題。


前のシリーズでやった血ガス所見の実践例を見てみましょう(随分前ですが、覚えていますか?)。

症例は80歳代の男性です。


<主訴>
呼吸困難

<現病歴>
元々、パーキンソン病、肺気腫で加療中であった(介護施設入所中)。某月31日の晩までは普通に食事をし、元気に過ごしていたが、某月1日の夜中に不隠となり、「呼吸があらかった」ために明け方SpO2を測定すると80%と低値を認めた。そこで当院救急外来を受診され、加療のため入院となった。

<既往歴>
肺気腫→アドエア、テオドールで加療中。
パーキンソン病 メネシット、レキップ内服中。
肺炎→1ヶ月前、K総合病院で入院。

<喫煙歴>40本×50年 ex-smoker
<職歴>主に営業
<粉塵暴露歴>特になし
<ADL>しんどくなる前までは身の回りの事は可能であった。
<アレルギー>特になし


<入院時身体所見>
血圧128/56、努力呼吸、呼吸数:37回/分、HR:104bpm 整
SpO2:47%(room air)→95%(マスク5L) るいそうあり。
意識レベル:JCS2-20
頸静脈怒張なし
肺音:両肺でwheeze(+), 左呼吸音減弱
心音:頻拍のみ
両下肢 浮腫なし

<入院時検査所見>
HB (g/dl ) 13.3   WBC (1000 ) 18.6 H
PLTS (1000 ) 175
PT-P (秒 ) 11.4  APTTP (秒 ) 23.4 L
PT-INR ( ) 0.98
TP (g/dl ) 6.6    ALB (g/dl ) 3.9 L
AST (U/l ) 40 H  ALT (U/l ) 9
LDH (U/l ) 430 H  T-BIL (mg/dl ) 0.96
NA (mmol/l) 143   CL (mmol/l) 104
K (mmol/l) 3.7    UN (mg/dl ) 36.0 H
CRE (mg/dl ) 1.50 H  eGFR 35.1
CRP (mg/dl ) 1.26 H  BNP 497.06 H

<血液ガス>(room air)
pH:7.235, PaO2:28.2mmHg, PaCO2:78.5mmHg


胸部レントゲン写真を供覧しましょう。


120826CR.jpg


悪化時。


120901CR.jpg


入院後経過。何かついていますね…。


120905CR.jpg


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2012年08月21日

酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシス14・医師国家試験を解いてみよう4

引き続き、医師国家試験の過去問を解いてみましょう。


86D-4

15歳の男子。2ヶ月前から全身倦怠感があり、1ヶ月前から多飲と多尿とが出現した。2週間前から悪心と嘔吐とを繰り返し、今朝から意識混濁を来たし救急車で搬送されてきた。脈拍96/分、呼吸数28/分、整。血糖736mg/dl、尿ケトン体3+。

この患者で予想される動脈血の所見はどれか。

  pH  PaCO2 HCO3- Na  Cl
a 7.00  43   11  137  102
b 7.18  23   9  136  96
c 7.21  36   14  136  108
d 7.40  40   24  141  107
e 7.46  32   32  145  98



意識混濁、高血糖と尿ケトン体3+ということから、糖尿病性ケトアシドーシスの診断は問題ないと思います。代謝性アシドーシスの鑑別ということで、アニオンギャップ(AG)の計算も必要です。

覚えていますか?
AG=(Na+)−{(Cl-)+(HCO3-)}
(正常値12±2mmol/L)でした。


  • a:アシデミアがあり、その理由としてHCO3-が低値、すなわち代謝性アシドーシスであります。AG=24と増大しており、AG増大する代謝性アシドーシスに矛盾しません。しかし、それでいてPaCO2が低下を示しておらず、呼吸性代償が働いていないのは話が合いませんね。

  • b:アシデミアがあり、その理由としてHCO3-が低値、すなわち代謝性アシドーシスです。PaCO2が低下し、呼吸性代償が起こっています。AG=31と増大しており、すべて糖尿病性ケトアシドーシスに合致します。

  • c:アシデミアがあり、その理由としてHCO3-が低値、代謝性アシドーシスです。しかしAG=14と正常範囲であり、糖尿病性ケトアシドーシスに合致しません。

  • dとe:アシデミアではありません。HCO3-低値でもないし。



練習できましたか?酸塩基平衡については、このあたりでいったん〆としておきましょう。



ここでお知らせです。

毎日更新が原則のこのブログですが、明日以降、ネット環境に接続できず、どうしても更新することができないと予想されます(夏休みともいう)。毎日楽しみに?ご覧頂いている方が万一おられましたら、申し訳ございませんが、再開をしばしお待ちください。


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2012年08月20日

酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシス13・医師国家試験を解いてみよう3

引き続き、医師国家試験の過去問を解いてみましょう。


87D-36

75歳の女性。10日前から38℃の発熱、痰量増加および息切れが強くなり来院した。意識もうろう。発汗著明。呼吸数24/分。脈拍100/分、整。血圧110/60mmHg。全肺野に吸気時coarse crackle聴取。(中略 炎症所見と胸部X線写真で浸潤影)

予想される動脈血ガス所見(room air、自発呼吸)はどれか。

  pH PaO2 PaCO2 HCO3-
a 7.20  50  80   30
b 7.28  120  65  30
c 7.40  95  40   24
d 7.44  40  35   22
e 7.53  60  30   25


この症例は状況として肺炎があり、意識もうろう、発汗著明となっていることから、肺炎、肺胞低換気によるCO2ナルコーシスを考えさせる問題のようです。


選択肢の動脈血ガス所見を解釈してみましょう。

  • a:アシデミアがあり、PaCO2高値でHCO3-も高値であることから、呼吸性アシドーシスを代謝性に代償しようとしている状況と考えられます。低酸素血症もあることから、肺胞低換気に矛盾しない所見です。問題の答えとしてはこれです。

  • b:アシデミアがあり、PaCO2高値でHCO3-も高値である点はaと同様ですが、これほどの高CO2になるのであれば低酸素血症にもなるはずで、この症例にはあわないようです。

  • c:pH、PaCO2、PaO2いずれも正常範囲内です。

  • d:低酸素血症があるのに、PaCO2正常(少し過換気気味)で、意識もうろう、というキーワードにはあわないようです。

  • e:アルカレミア、低酸素と過換気があり、T型呼吸不全による呼吸性アルカローシスパターンです。



こんな感じで解釈できるよう、練習しましょう。


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2012年08月17日

酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシス11・医師国家試験問題を解いてみよう

昨日までの理解で、医師国家試験レベルの問題は解けるはずです。
過去問を解いてみましょう。


84D-18

64歳の男性。38年前に肺結核で右側胸郭形成術を受けた。5年前から労作時息切れが出現し来院。(中略。チアノーゼや右心不全所見あり)血清生化学所見:尿素窒素17mg/dl、Na 136mEq/l、Cl 92mEq/l、%VC 42%、1秒率63%。
動脈血ガス分析:pH 7.27、PaO2 48Torr、PaCO2 67Torr、HCO3- 28mEq/l。
胸部X線写真:胸郭形成後と透過性の亢進

この患者の状態で誤っているのはどれか。

a 代償性呼吸性アシドーシス b 混合性換気障害 c 肺胞低換気 d 静脈混合率上昇 e 肺高血圧



早速動脈血ガス分析の評価をしてみましょう。

pH 7.27、すなわちpH<7.350のアシデミアですね。
アシデミアの理由は呼吸性か代謝性か。


PaCO2 67Torrであるため、呼吸性アシドーシスがあります。
HCO3- 28mEq/lで、これは代謝性アルカローシス。


この2つの病態が共存して、その結果のアシデミア…ということは、まず呼吸性アシドーシスがあり、代謝性アルカローシスによる代償機転が働いている、と考えるとつじつまが合いますね。


呼吸性アシドーシスの原因は、胸郭形成術によって肺容量が減少したことと、おそらく存在する肺気腫によって%VCが42%と低下し拘束性障害を来していますので、肺胞低換気があると考えられます。


PaO2 48Torrであることも肺胞低換気で説明可能です。
こんな感じで、実際の症例にあたってみましょう。


ちなみに、選択肢についても考えておきます。

  • a 代償性呼吸性アシドーシス:代償しているのは代謝の方です。

  • b 混合性換気障害:%VCの低下と1秒量の低下、いずれも見られ、混合性の換気障害であります。

  • c 肺胞低換気:上にも書きましたとおり、肺胞低換気状態と考えられます。

  • d 静脈混合率上昇:これ、シャント率のことですね。換気していないところの静脈血が換気してせっかくきれいな動脈血になったものに混じってしまい、PaO2が低下することをいいます。気腫性病変がありそうなので、これもありそうかと。

  • e 肺高血圧:右心不全所見から、肺高血圧もありそう、となります。



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2012年08月16日

酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシス10・まとめ

ここまで長々と書いてきましたが、まとめに入りましょう。


血ガスを採ったら、まずpHを見る。


そして、PaCO2とHCO3-を確認。


pHに動きがある場合、つまりアシデミア、またはアルカレミアである場合、その理由はPaCO2とHCO3-が教えてくれるわけです。



pH<7.350のアシデミアで、

  • PaCO2>45 HCO3≒24→急性呼吸性アシドーシス

  • PaCO2>45 HCO3>26→呼吸性アシドーシスの代謝性代償

  • HCO3<22 PaCO2≒40→急性代謝性アシドーシス

  • HCO3<22 PaCO2<<35→代謝性アシドーシスの呼吸性代償



pH>7.450のアルカレミアで、

  • PaCO2<35 HCO3≒24→急性呼吸性アルカローシス

  • PaCO2<35 HCO3<22→呼吸性アルカローシスの代謝性代償

  • HCO3>26 PaCO2≒40→急性代謝性アルカローシス

  • HCO3>26 PaCO2>>45→代謝性アルカローシスの呼吸性代償

と考えられます。



呼吸性アシドーシスの原因は、CO2が貯留する、すなわち換気量が減少することによります。ですから鑑別疾患は、

  • (分時)換気量が減少してU型呼吸不全の病態を呈する、気管支疾患(喘息、肺気腫などの閉塞性障害)

  • 神経筋疾患などによる呼吸筋の運動障害

  • 中枢性換気応答低下状態

となります。


基本的にこうなると、人工呼吸が必要と考えましょう。


呼吸性アルカローシスの原因は逆に、CO2が減少する、すなわち換気量が増加することによります。ですから鑑別疾患は、(分時)換気量が増加する病態、

  • 過換気症候群

  • 低酸素血症による呼吸中枢刺激


が挙げられます。


こちらは、換気を鎮めることが必要です。
過換気症候群の際の紙袋による再換気は有名ですね。低酸素に対しては原疾患の治療と酸素投与。



代謝性アシドーシスの原因は様々です。まずはアニオンギャップ(AG)を計算しましょう。

AG=(Na+)−{(Cl-)+(HCO3-)}
(正常値12±2mmol/L)


AGが増えている場合、乳酸、ケトン体、リン酸、メタノールなどが増えていると考えられますので、病態でいいますと乳酸アシドーシス、糖尿病性ケトアシドーシス、飢餓状態、尿毒症、メタノールなどの中毒や敗血症などが鑑別に挙がります。


AGが増えない場合、下痢や尿細管性アシドーシスなどが考えられます。


代謝性アルカローシスの原因としては、嘔吐などによる胃液(酸性)の喪失、利尿薬投与などが挙げられます。


代謝性の治療は、病態に応じてのものとなりますので、ここでは総論のみにとどめておこうと思います。



ともかく、血ガスを採ったときには、まずここまでの原則を理解しておきましょう。


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2012年08月15日

酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシス9・pH>7.450のアルカレミアを見たら・代謝性アルカローシス

pH>7.450のアルカレミアであった場合、PaCO2とHCO3-を確認して、ナゼアルカレミアであるかを考えます。アルカレミアはアルカローシスの結果起こることですから、呼吸性アルカローシスなのか、代謝性アルカローシスなのかを評価しましょう。


正常値は、
PaCO2:35〜45mmHg
HCO3-:22〜26mEq/L


アルカレミアがあってHCO3->26mEq/Lであれば、HCO3-が異常に増えることで血液がアルカリ方向に移動する、代謝性アルカローシスである、といえます。


アルカローシスとなりますと、代償機構が働きます。代謝性アルカローシスになりますと、肺は低換気となってCO2(酸性物質)を蓄積することで、血液pHを正常に戻そうとするわけです(肺による代償)。


ですから代謝性アルカローシスの時は、PaCO2は上昇傾向になるわけですが、呼吸による代償は比較的速やかに開始され、24時間程度で成立すると言われています。


とすると代謝性アルカローシスの場合、つまり、pH>7.450で、かつHCO3>26の場合…。


PaCO2>>45と上昇が見られたら、それは正しく代償されている、ということになりますが、PaCO2が45とか40近くであると、それはまだ代償が始まったばかりであることを意味するわけで、代謝性アルカローシスの急性期であると考えられます。


すなわち、pH>7.450で、
HCO3>26 PaCO2≒40→急性代謝性アルカローシス
HCO3>26 PaCO2>>45→代謝性アルカローシスが呼吸性に代償された時期と考えられます。


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2012年08月14日

酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシス8・pH>7.450のアルカレミアを見たら・呼吸性アルカローシス

血ガスを採ったら、まずpHを見る。


pH>7.450のアルカレミアであった場合、PaCO2とHCO3-を確認して、ナゼアルカレミアであるかを考えます。アルカレミアはアルカローシスの結果起こることですから、呼吸性アルカローシスなのか、代謝性アルカローシスなのかを評価しましょう。


正常値は、
PaCO2:35〜45mmHg
HCO3-:22〜26mEq/L


アルカレミアがあってPaCO2<35mmHgであれば、CO2が異常に飛んだ(呼出された)結果、血液がアルカリ性方向に移動する、呼吸性アルカローシスである、といえます。


(一方、HCO3->24mEq/Lであれば、HCO3-が異常に増えることで血液がアルカリ性方向に移動する、代謝性アルカローシスである、といえるのです)。



アルカローシスとなりますと、代償機構が働きます。呼吸性アルカローシスになりますと、腎臓はHCO3-を減少させることで、血液pHを正常に戻そうとするわけです(腎臓による代償)。


ですから呼吸性アルカローシスの時は、HCO3-は減少傾向になるわけですが、代謝性の代償は腎臓におけるHCO3-の再吸収、排泄の調節によって行われますから、数日間かかるといわれています。つまり、呼吸性アルカローシスに成り立てホヤホヤの時は、代償はまだ働かない状態である、といえます。


ということで、呼吸性アルカローシスの場合、つまり、pH>7.450で、かつPaCO2<35の場合を考えます。


HCO3-<22と減少が見られたら、それは正しく代償されている、ということになりますが、PaCO2<35なのにHCO3-≒24、つまり、HCO3-が減少に転じていないということは、まだ代償が完成していないタイミングである、ということになります。つまり、呼吸性アシドーシスの急性期であると考えられます。


すなわち、pH>7.450で、
PaCO2<35 HCO3≒24→急性呼吸性アルカローシス
PaCO2<35 HCO3<22→呼吸性アルカローシスの代謝性代償
と考えられます。


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2012年08月13日

酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシス7・BE(Base excess)とAG(Anion gap)

血液ガスを採ったときに得られる結果に、BE(Base excess)とAG(Anion gap)があります。私も初心者の頃はこの2つがごちゃ混ぜになって、結局よくわからなかった、苦い記憶があります。


BEの定義としては、その血液をpH7.4に戻すために必要な酸、あるいは塩基のことで、酸や塩基がどれだけ過剰であるかを示す数値です。代謝性障害による変動を表しますので、HCO3-と意味合いは同じということになります。


特に初心者の方は、少しでも覚えることを減らすため、あえて見ない方がいいかもしれません。HCO3-を見ておけば充分でしょう。



一方AG(Anion gap)というのは、Anion=陰イオンのことですから、陰イオンを計算するための式になります。


人体は電気的に中性のはずですから、陽イオンと陰イオンの数は同じ。陽イオンはほとんどがNa+で、陰イオンはCl-やHCO3-、普段はそれらの濃度がつりあっているのですが、それ以外の有機酸など、訳のわからん酸が増えてくると、そこの差(gap)が増えてくるのです。


AG(Anion gap)は、Na+と、通常測定しやすいCl-やHCO3-との差(gap)で求められます。


AG=(Na+)−{(Cl-)+(HCO3-)}

となり、正常値は12±2mmol/Lです。
K+を含む式もありますが、ややこしいのでこちらだけにしておきましょう。



AGが増えてくるときに増加していると考えられる酸は、乳酸、ケトン体、リン酸、メタノールなどがあります。


ということは、代謝性アシドーシスのうち、上に挙げたような酸が増えてくるような病態であるとAGが増加する、ということになり、鑑別に役立つのです。


病態でいいますと、乳酸アシドーシス、糖尿病性ケトアシドーシス、飢餓状態、尿毒症、メタノールなどの中毒や敗血症などが、AGが増加するものとして挙げられます。


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2012年08月10日

酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシス6・アシデミアとアシドーシスの違い

呼吸性アシドーシスになると、腎臓がHCO3-の再吸収、排泄を調節し、HCO3-は数日かかって増加傾向になります。これが腎臓による代償。


一方代謝性アシドーシスになりますと、肺は過換気となってCO2(酸性物質)を排出することで、血液pHを正常に戻そうとするわけです(肺による代償)。こちらは比較的速やかに開始され、24時間程度で成立すると言われています。



むむ、待てよ、どちらにせよ代償されたんだったら、アシデミアじゃなくなるんじゃないの?と思ったアナタ、鋭いですね。


代償されてpH7.400付近に戻ればそれはアシデミアではありません。つまり、アシドーシスはあるが、きちんと代償されているということです。その程度であれば、治療は不要であります。


アシドーシスの結果、代償機構に打ち勝ってアシデミアになるほどの強いアシドーシスの場合、治療が必要となります。原因によって治療が異なるわけですから、しっかりと評価しなければなりません。



アシデミアとアシドーシスは違う。pH<7.350を見ると「アシデミア」でなくて「アシドーシス」と言っちゃっているのは、病態としてのアシドーシスに対して治療が必要なので、そちらを取り上げているわけです。結果としてなったアシデミアよりも、より病態を重視した姿勢である、といえるでしょう。



…ということまでわかった上で、pH<7.350をみたら、自信をもって「アシドーシス」と言いましょう。何となくアシドーシス、ではなく。



もう一度まとめておきますと、pH<7.350で、

  • PaCO2>40 HCO3≦24→急性呼吸性アシドーシス

  • PaCO2>40 HCO3>24→呼吸性アシドーシスが代謝性に代償されている時期

  • HCO3<24 PaCO2≦40→急性代謝性アシドーシス

  • HCO3<24 PaCO2<<40→代謝性アシドーシスが呼吸性に代償された時期


と考えられます。


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2012年08月09日

酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシス5・pH<7.350のアシデミアを見たら・代謝性アシドーシス

pH<7.350のアシデミアであった場合、PaCO2とHCO3-を確認して、ナゼアシデミアであるかを考えます。アシデミアはアシドーシスの結果起こることですから、呼吸性アシドーシスなのか、代謝性アシドーシスなのかを評価しましょう。


正常値は、
PaCO2:35〜45mmHg
HCO3-:22〜26mEq/L


アシデミアがあってHCO3-<22 mEq/Lであれば、HCO3-が異常に減ることで血液が酸性方向に移動する、代謝性アシドーシスである、といえます。


アシドーシスとなりますと、代償機構が働きます。代謝性アシドーシスになりますと、肺は過換気となってCO2(酸性物質)を排出することで、血液pHを正常に戻そうとするわけです(肺による代償)。


ですから代謝性アシドーシスの時は、PaCO2は低下傾向になるわけですが、呼吸による代償は比較的速やかに開始され、24時間程度で成立すると言われています。


とすると代謝性アシドーシスの場合、つまり、pH<7.350で、かつHCO3<22の場合…。


PaCO2<<35と低下が見られたら、それは正しく代償されている、ということになりますが、PaCO2が35とか40近くであると、それはまだ代償が始まったばかりであることを意味するわけで、代謝性アシドーシスの急性期であると考えられます。


ホンマモンの場合、CO2はぐんぐん低下していき、20台になることも珍しくありません。


すなわち、pH<7.350で、
HCO3<22 PaCO2≒40→急性代謝性アシドーシス
HCO3<22 PaCO2<<35→代謝性アシドーシスが呼吸性に代償された時期と考えられます。


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2012年08月08日

酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシス4・pH<7.350のアシデミアを見たら・呼吸性アシドーシス

血ガスを採ったら、まずpHを見る。


pH<7.350のアシデミアであった場合、PaCO2とHCO3-を確認して、ナゼアシデミアであるかを考えます。アシデミアはアシドーシスの結果起こることですから、呼吸性アシドーシスなのか、代謝性アシドーシスなのかを評価しましょう。


正常値は、
PaCO2:35〜45mmHg
HCO3-:22〜26mEq/L。


アシデミアがあってPaCO2>40mmHgであれば、CO2が異常に貯まった結果、血液が酸性方向に移動する、呼吸性アシドーシスである、といえます。


(一方、HCO3-<22 mEq/Lであれば、HCO3-が異常に減ることで血液が酸性方向に移動する、代謝性アシドーシスである、といえるのです)。



アシドーシスとなりますと、代償機構が働きます。呼吸性アシドーシスになりますと、腎臓はHCO3-を増加させることで、血液pHを正常に戻そうとするわけです(腎臓による代償)。


ですから呼吸性アシドーシスの時は、HCO3-は増加傾向になるわけですが、代謝性の代償は腎臓におけるHCO3-の再吸収、排泄の調節によって行われますから、数日間かかるといわれています。つまり、呼吸性アシドーシスに成り立てホヤホヤの時は、代償はまだ働かない状態である、といえます。


ということで、呼吸性アシドーシスの場合、つまり、pH<7.350で、かつPaCO2>45の場合は、次のように考えます。


HCO3->26と増加が見られたら、それは正しく代償されている、ということになります。
PaCO2>45なのにHCO3-≒24、つまり、HCO3-が増加に転じていないということは、まだ代償が完成していないタイミングである、ということになります。つまり、呼吸性アシドーシスの急性期であると考えられます。


すなわち、pH<7.350で、
PaCO2>45 HCO3≒24→急性呼吸性アシドーシス
PaCO2>45 HCO3>26→呼吸性アシドーシスが代謝性に代償されている
と考えられます。


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2012年08月07日

酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシス3・血液ガス所見を見たときの評価手順

というわけで、昨日までの基本事項を押さえた上で、実際血液ガス所見を見たときに評価していく手順を考えていきましょう。



血液ガスをとると、だいたいこういう順番で結果が帰ってくると思います。

pH 7.370
PaCO2 41.2Torr
PaO2 85.7Torr
HCO3- 24.2mEq/L




ご覧の通り、pHが最初に書いてあります。


すなわち、血液ガスを採ったときに、最初に評価すべきはpHであります。

なぜか。


PaO2は、SpO2を見ればわかる。
それ以外の要素で、命にかかわる最も大事な指標がpHであるから、に他なりません。


PaCO2もHCO3-も、pHを決める要素に過ぎない訳ですから、(もちろんその後の検討には必要なんですが)まずはpHが生死を分ける。これは肝に銘じておきましょう。


ですから、血ガスを採ったら、まずpHを確認。
カンファレンスでは、まずpHから報告する。
上級医に「血ガスどうだった?」と聞かれたら、「pHは…」と、まずpHから言い始める。


このように、生活のすべてを(大げさ)pHから始めるように意識してください。そうすると、まずpHに目がいくようになります。



pHの正常範囲は、7.350〜7.450、つまり、7.400±0.050です。


この範囲よりもpHが低い、つまり血液が標準値よりも酸性である状態をアシデミア(酸:acid)といい、血液がアシデミアに向う状況のことをアシドーシスといいます。


ここは初心者ほど「アシデミアとアシドーシス、いっしょやないかい!」と思われがちなのですが、違うんです。


というのは、例えばアシドーシスが生じると、代償としてアルカローシスが必ず起こる、その結果pH7.400になることもあれば、アシデミアになることもあるのです。結果として起こったことと、その原因となる状況の用語は分けて理解しておいた方がいいのですね。


それでは、pH<7.350のアシデミアを見たらどう考えるか。明日に。


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2012年08月06日

酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシス2・代償とは

アシドーシス(酸:acid)というのは、pHが低くなっていく状態のことでした。


肺が原因で起こるアシドーシスのことを呼吸性アシドーシスといいますが、これはCO2(酸性物質)の値が増加することで、pHが低下することを意味します。


また、代謝性因子が原因で起こるアシドーシスのことを代謝性アシドーシスといいますが、これはHCO3-(アルカリ性物質)の値が減少することで、pHが低下することと理解しましょう。


アシドーシスになると、肺か腎臓、どちらか問題のない方の臓器が、pHを正常に保つため、アルカリ方向へと働きます。これを代償といいます。


例えば、CO2が貯まった結果、呼吸性アシドーシスになりますと、腎臓はHCO3-を増加させることで、血液pHを正常に戻そうとするわけです。これを腎臓による代償とします。


逆に、HCO3-が減ることで代謝性アシドーシスになった場合、肺は過換気となり、CO2を減少させることで、pHを正常に戻そうとします。これが肺による代償です。




アルカローシスはアシドーシスの反対で、pHが高くなっていく状態のことです。


肺が原因で起こるアルカローシスのことを呼吸性アルカローシスといいますが、これはCO2(酸性物質)の値が減少することで、pHが上昇することを指します。


また、代謝性因子が原因で起こるアルカローシスのことを代謝性アルカローシスといいますが、これはHCO3-(アルカリ性物質)の値が増加することで、pHが上昇することを指します。


アルカローシスになると、肺か腎臓、どちらか問題のない方の臓器が、pHを正常に保つため、酸性方向へと働きます。これを代償といいます。


例えば、CO2が過換気によって低下した結果、呼吸性アルカローシスになりますと、腎臓はHCO3-を減少させることで、血液pHを正常に戻そうとするわけです。これを腎臓による代償とします。


逆に、HCO3-が増えて代謝性アルカローシスになった場合、肺は低換気となり、CO2を蓄積させることで、pHを正常に戻そうとします。これが肺による代償です。



なお、呼吸性の代償は換気量の調節でよいわけですから、割とすぐに始まりますが、きっちり代償が完了するまでには12〜24時間を要します。


また、代謝性の代償は腎臓におけるHCO3-の再吸収、排泄の調節によって行われますから、代償には数日間かかるといわれています。


アシドーシスやアルカローシスでは、多かれ少なかれ必ずこの代償機構が働いて、いろいろな指標が動くことになり、ややこしくなってくるわけです。しかしながら、見るべきポイント、順番があって、それに基づけばそれほど難しくはありません。


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2012年08月05日

酸塩基平衡〜アシドーシス・アルカローシス1

胸部CTの基本も終わり、一段落ついたところで、先日えのむらさんからご質問のあった、アシドーシスとアルカローシスについて、取り上げてみます。


実はこの領域に踏み出すのは、いささか勇気が必要でした。


滋賀医大の関係者では名前を知らない人はいないであろう、東近江総合医療センター(国立滋賀病院)内科のS先生がこの分野に大変お詳しいわけですが、なんとそのS先生が、このブログを読まれているのです。


それで、内容に関してコメントを頂いたりもするのですが、やはりすごく勉強しておられるのです。付け焼き刃の私とは、深みが違う。


そういうことで、正直、何となく、無意識に、この内容は避けて通ってきた、そんな感じなのですが。やはり、よくわからなくて困っている方々も多いだろう、と思い直しまして、取り上げるに至りました次第です。


ともかく初歩的なところを、しっかりわかりやすく、を合い言葉に開始いたします…。




さて、pHの正常範囲は、7.350〜7.450、つまり、7.400±0.050という、ものすごーく狭い範囲です。


化学の実験をやったことのある方ならおわかりでしょうが、試薬を1滴多く垂らしても、pHはすぐに大きくずれてしまう。そんな微妙〜な、繊細なモノなのです。人間の(生物の)身体は。


pHが低い=血液が酸性であるということ。これをアシデミア(酸:acid)といい、体液のpHがアシデミアに向かっている状態をアシドーシスといいます。


逆に、pHが高い=血液がアルカリ性であるということで、アルカレミアといい、体液のpHがアルカレミアに向かっている状態を、アルカローシスといいます。



pHを決めるのは、主に肺と腎臓です。他にも色々な要素があるわけですが、初心者の方は、まずはこの2つの臓器に注目しましょう。


肺はCO2(酸性物質)の量を変え、腎臓はHCO3-(アルカリ性物質)の値を変えることでpHに影響するのです。


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