2013年05月24日

データの解釈19・腫瘍マーカー

データの解釈の最後は、毎度おなじみ?、ボヤキのコーナーです。


腫瘍マーカー。すっかり一般の方にも市民権を得ました。

腫瘍があったら増える。増えてたら腫瘍がある。
こんなふうに一般の方には思われているようです。


まさか、皆さんもこんなふうに思っておられないですよね。



腫瘍マーカーは腫瘍が産生したり腫瘍のあるところで多く見られたりする物質であります。なので、確かに腫瘍があると高値を取る、それはそうですが、逆は必ずしも真ならず。


最初にクギを刺しておきますが、腫瘍マーカーが多少高値であったとしても、腫瘍とは限りません。というか、そもそも腫瘍があるのかどうかもわからない段階で腫瘍マーカーを測定するのはナンセンスです。


言うまでもなく、腫瘍診断のgold standardは生検による組織診断です。ですからまずは生検で診断確定をする。その後に、例えば治療効果を見る、再発や悪化を見る、そういう目的で腫瘍マーカーをフォローする、というのは全く正しい使い方でしょう。


また、腫瘍を疑うような腫瘤が発見された時点で、その臓器、考え得る組織型に対応したマーカーを測定する。例えば気管支鏡による生検で診断がつかない場合に、「悪性腫瘍っぽいか、組織型は何が考えられるか」を知ることで、次に行うアクション(手術をするのか、再チャレンジか、経過観察か…などなど)の手がかりになるでしょう。


ここまでは私たちもよくやりますし、充分許容範囲だと思います。あるいはある腫瘍のハイリスク群に対して、発症しているかどうかの確認のために定期フォローする、これもありでしょう。



ただ…現時点で、何ら症状、問題のない方の、健康診断、人間ドックにおいて、闇雲に腫瘍マーカーを測定する、というのは、マーカーの感度、特異度を考えてもきわめて無駄の多い、非効率的なやり方と言わざるを得ません。


そもそも発症率が人口あたりべらぼうに高くない疾患を、感度、特異度ともに低い検査でスクリーニングする。1人の患者さんを発見するために、何人のマーカーを測定せねばならないか。そして、それが早期発見に本当につながるのか…。


「健康診断」に関するエビデンスはいろいろと出ておりますが、「胸部X線写真」でも結構微妙なことになっております。マーカーはお値段も決して安くありませんし、やる方としては実入りのよい検査、ナノでしょうか。


それで何となく正常範囲を逸脱していた、そういう方が医療機関を受診して保険診療で各種検査を受ける。しかもマーカーが陽性になる臓器は1つではないこともあり、色々と検査を受ける…。


これって、保健医療で行ってもいいものでしょうか。医療費高騰の折、こういう検査は自費扱いが理に叶っているような気もします。



今回の記事に関するご質問やコメントは一切お受けいたしかねます。あしからずご了承ください。

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posted by 長尾大志 at 19:29 | Comment(0) | データの解釈

2013年05月23日

データの解釈18・膠原病、血管炎と自己抗体

さて、膠原病が出てきたところで、例のアレ問題を取り上げないわけには参りません。


例のアレとはもちろん、自己抗体の話です。さんざん同じことを言うてますけど、膠原病やら血管炎を疑ったときには、自己抗体を測定するのが定番になっています。これはOK。


この時に順番を間違えてはアキマセン。膠原病やら血管炎を疑ったときに、疑った膠原病や血管炎に対応する自己抗体を、測定するのですよ。



たまに見かけるのが、なんかよくわからない〜手当たり次第に知ってる抗体を全部測定〜陽性になったのを見てそれから考える、というもの。


これをやっている人は、まあ、それなりの思考回路ですね。
もちろん、どんどん悪化している、測定にも時間がかかる、一つ一つ待っている暇はない、検査を出すだけ出しておいて早くステロイド投与したい…そういう状況もあるでしょう。



ですから、これはあくまで思考過程の問題。どれだけ矜恃を持って鑑別を考えていくか、そういう姿勢のことを言っています。


膠原病や血管炎は、全く症状がそろわないことも決して珍しくありませんが、多くの場合にはそれっぽい症状、というものが出てくるのですね。それから推測される鑑別診断を「確認する」ために抗体を測定する、という感じ。



特に、比較的特異性の高い症状、所見は鑑別診断のカギとなります
例えば…


  • 左右対称に生じている多発関節炎:RF、抗CCP抗体

  • 乾燥症状、環状紅斑:抗SS-B抗体

  • 中途半端に重複する膠原病症状、肺高血圧:抗U1RNP抗体

  • 頑固な上気道の炎症に引き続いての発熱、喀血や肺の結節:PR3-ANCA

  • 喘息を基礎に持つ頑固な炎症症状、神経症状:MPO-ANCA



などなど。他にも色々とありますが、こんな感じで考えられるようになると、臨床が楽しく、興味深くなるはずです。


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posted by 長尾大志 at 18:04 | Comment(0) | データの解釈

2013年05月21日

肺胞洗浄液の構成成分とその意義・肺胞洗浄液の成分について・細胞成分14・リンパ球が増える場合8・間質性肺炎の鑑別7・原因が特定できる=特発性群じゃないやつ1・薬剤性間質性肺炎

これまでに挙げた以外の間質性肺炎について、肺胞洗浄液の分画はどうなっているのでしょう。果たして、「間質性肺炎としての分類はともかくとして、肺胞洗浄液の分画がリンパ球優位であれば、ステロイドを投与する価値があろうかと思われる。」はこでも通用するのでしょうか。


間質性肺炎の分類を思い出してみましょう。特発性群はもう済みましたので、特発性以外の、原因が特定できるやつを見てみます。


原因が特定できる間質性肺炎は、原因ごとに予後、治療法が異なるため、分類も原因ごとに行うのでしたね。


主な原因は、以下の通り。

薬剤
膠原病
粉塵曝露(職業・環境)
 過敏性肺臓炎・じん肺・金属肺
 放射線肺臓炎・酸素中毒
感染
 ウィルス・ニューモシスチス・結核
 サイトメガロ・マイコプラズマ・真菌



薬剤性肺障害(薬剤によって起こった肺の障害)にも色々あって、分類のやり方も微妙に色々なものがあります。ここでは日本呼吸器学会の「薬剤性肺障害の診断・治療の手引き」に準じて臨床像を分類してみます。つまり、下に挙がっている疾患は本来薬剤以外の原因で起こるものですが、薬剤によって同様な臨床像を呈したものをその分類に当てはめているわけです。


  • 間質性肺炎(特発性群のうちAIPをのぞく6病型に準じたもの)

  • ARDS・急性肺損傷(AIP様病変を含む)

  • 好酸球性肺炎

  • 過敏性肺炎

  • 肉芽腫性間質性肺疾患

  • 肺水腫

  • capillary leak syndrome

  • 肺胞蛋白症

  • 肺胞出血

  • その他、気道病変、血管病変、胸膜病変など



これだけ見ると気が遠くなりそうな分類ですが、幸いなことに上に挙がっている(元々の)疾患に準じた予後、治療反応性を持っていると考えていただいて大間違いはありません。


しかも!ご安心下さい(笑)。肺胞洗浄液の分画も、おおよそ準じておるものであります。すなわち特発性間質性肺炎群のNSIPやCOPに似たタイプの薬剤性肺障害は肺胞洗浄液のリンパ球分画が増加し、ステロイド反応性が良好ですし、好酸球性肺炎タイプのものは肺胞洗浄液の好酸球分画が増加し、やはりステロイド反応性が良好、さらにARDS・AIPに似たものでは好中球が増加していて、予後不良となります。同じですね!


ということですから、

「間質性肺炎としての分類はともかくとして、肺胞洗浄液の分画がリンパ球優位であれば、ステロイドを投与する価値があろうかと思われる。」

と理解していただいて結構であります。


ここまで、臨床病態的、あるいは肺胞洗浄液の分画から薬剤性肺障害を分類してみましたが、大元の原因、ということで考えますと、やはり原因薬剤による分類が予後、治療反応性を予見する、と言ってしまえると思います。


すなわち、例えばパラコートが原因の場合、病理組織はDADをとり、予後不良であるし、
イレッサが原因の場合、病理組織にかかわらず予後不良であるし、
ミノマイシンが原因の場合、好酸球性肺炎をとり、予後は比較的良好である、というようなことです。


ただ、昨今はたくさんの薬を内服されていることも多く、どれが原因か絞りきれない、ということも決して少なくありませんから、上のような臨床病態的分類、ならびに肺胞洗浄液の所見も理解しておかれると良いでしょう。



肺胞洗浄液と言えば、あと、肺胞洗浄液を使用したDLSTがあまり当てにはならない、ということ、それと、アミオダロンによる肺障害ではリン脂質貯留によると考えられる泡沫状マクロファージが特徴的、ということが特記されています。


今日の記事は思いっきりかいつまんで書いておりますので、薬剤性肺障害の勉強をしたい方は日本呼吸器学会の「薬剤性肺障害の診断・治療の手引き」を参照されることをオススメします。

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posted by 長尾大志 at 19:06 | Comment(0) | データの解釈

2013年05月14日

肺胞洗浄液の構成成分とその意義・肺胞洗浄液の成分について・細胞成分9・リンパ球が増える場合7・間質性肺炎の鑑別5・特発性間質性肺炎群の分類3・特発性器質化肺炎(COP)

特発性器質化肺炎(cryptogenic organizing pneumonia:COP)は亜急性の発症で徐々に進行するもので、IPFの「慢性(月〜年単位)」に対して「亜急性(週〜月単位)」の経過と言われます。時に自然消退もあるほどで、一般的にはステロイドが著効し、予後良好といわれています。


画像所見は一見細菌性肺炎に似た、浸潤影が胸膜直下主体・斑状に分布します。器質化肺炎は分類としては間質性肺炎に含まれるのですが、病理学的に肺胞領域の胞隔炎・浸出液(器質化肺炎:OP)と、細気管支のポリープ様閉塞性変化(閉塞性細気管支炎:BO)が特徴的で、肺胞を埋め尽くす病変が多いため、すりガラス影というよりもむしろ浸潤影よりの濃い陰影を取ることが多いとされています。


それ以外のポイントはこちらを見ていただければと思いますが、胞隔炎のところではリンパ球浸潤がみられますので、肺胞洗浄液の中にもリンパ球が多く含まれるであろうことは想像に難くありません。


診断基準として明確なカットオフ値があるわけではありませんが、ある報告で提唱されているものでは、

  • 肺胞洗浄液中リンパ球分画>25%、かつ

  • CD4+/CD8+<0.9、

  • そして、次の3つのうち少なくとも2つを満たす
    泡沫マクロファージ>20%
    好中球>5%
    好酸球 2〜25%


というものがありますので、リンパ球分画>25%というのは診断の一つの目安になるでしょう。


このようにリンパ球が多く、やはりステロイド反応性がよいため、結局のところ、

「間質性肺炎としての分類はともかくとして、肺胞洗浄液の分画がリンパ球優位であれば、ステロイドを投与する価値があろうかと思われる。」

というセリフに合致すると思われます。


今回記事を書くにあたって、「気管支肺胞洗浄(BAL)法の手引き(日本呼吸器学会びまん性肺疾患学術部会・厚生労働省難治性疾患克服研究事業びまん性肺疾患調査研究班編集)」を参考にしました。


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posted by 長尾大志 at 18:44 | Comment(0) | データの解釈

2013年05月12日

学会見聞録・プロカルシトニンのusefulness2・empiric therapyと抗菌薬使用期間など

日本呼吸器学会ランチョンセミナー見聞録の続きです。


昨日の最後にお示ししたデータは耐性菌の蔓延を防ぐため、抗菌薬の使用期間をなるべく短くしよう、という考えに基づいています。


いくつかの研究でその試みがなされていますが、そもそものempirical timeを減らそうという試み(JAMA 2003)では、原因菌によって(緑膿菌などのグラム陰性桿菌)具合が悪いものもあったものの、おおむね良さそうな結果が得られていました。


また、PCTを使う研究では、5病日にPCTが90%以上減少していれば抗菌薬を中止し、その後毎日PCTを測定して、90%以上の減少に至ったらその時点で抗菌薬を中止できる、としたデータが紹介されました。いずれにしても5日間抗菌薬を使用したら、再悪化の率は2-3%ということで、思っているよりも抗菌薬使用期間は短くていいのかもしれない、という印象でした。


これにはさすがに「毎日PCTを測定するなんて日本では無理」という意見がフロアーからあり、それに対して「フランス、イタリア、ドイツ、スイス…などではPCTは何度も測定できるそうですが、アメリカでは権威者が否定的(苦笑)なんで困難なんですよ…」とのコメントでした。


また、ポロリと「ICUでは何となく抗菌薬続けといたらええやん、みたいな態度になってますからね〜」、みたいなこともおっしゃり、日本だけじゃないのだな〜と妙にホッとしたりしました。




最後のまとめとして、PCTは炎症が起こったときに、身体中の全ての臓器が産生するものであり、全身に及ぶ、severeな感染症で上昇するものであり、sepsisの診断には”classical, clinical, paraclinical signs”とPCTを組み合わせるのが有用である。ぶっちゃけ、PCTを測定して低ければ細菌感染の可能性は低く、高ければ(細菌感染の可能性は)高いと言える。

ICU症例の抗菌薬投与期間は、empirical ruleをより症例に合わせて決める方がよいが、それにはPCTを使用したガイドラインが一助になると思われる。

てな感じできれいにまとめられました。エレガントな講演でした。


*文中の引用部分は私の勝手な訳であり、実際に演者の先生が意図されたこととずれている可能性があります。こんな感じなんか〜という雰囲気を知っていただければ。
もっときっちりしたことを知りたい方は、原著にあたってお勉強しましょう。

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posted by 長尾大志 at 17:09 | Comment(0) | データの解釈

2013年05月11日

学会見聞録・プロカルシトニンのusefulness・speakerの力量

気がつけば日本呼吸器学会から3週間も経っていました。日本呼吸器学会の記事は拙著の宣伝一色でしたが、ちゃんとお勉強もしてきましたよ。


ちょうど学会の前にプロカルシトニン(PCT)のお話をこちらで書いていたのですが、学会のランチョンセミナーで、タイムリーなお話を聞くことができ、大変参考になりましたので少しシェアを。


まあ、こういうお話は、多くはそれ関連の論文、データをたくさん紹介して下さるので、普段からその分野の論文をしっかり読んでいる方にとっては、「まあ知ってるよね」「今更だよね」だったりするのでしょうが、私は普段からそれほど論文を読んでいないこともあり( ̄▽ ̄;)、大体いつも「おーなるほど」「へー知らなかった」となることが多いのですね…。


加えてこのたびのお話はProf. Jerome Puginという方で、プレゼンテーションがとてもsmart。わかりやすい英語でいろいろなデータを有機的に関連づけてお話しいただきました。まあその次に聴いたお話がちょっとアレでしたので、余計にお話の上手さが際だった、という感じでしょうか。



■SIRS、sepsis、severe sepsis、septic shockの4群に分けた検討

PCTは各群できれいに別れて分布し、SIRSとsepsisを分けるカットオフ値は1.1で、感度97%、特異度78%となった。PCTを診断に加えたことで診断率が向上した。一方、同様に炎症マーカーであるIL-6では、そうはいかなかった。


■IL-6とPCTの比較

初診時?に測定したIL-6は、予後とよく相関し、予後予測因子としてすぐれている一方、PCTは経過とよく相関する。すなわち、予後がいい(生存した)症例ではPCTは低下し、1.1を下回ることが多かったが、死亡症例ではPCTは横ばいで、1.1を下回ってくることはなかった。


■PCTを、市中肺炎において抗菌薬を中止するための参考にする(AJRCCM 2006)

PCT値 開始または継続
<0.1   NO(強くno)
0.1-0.25  no
0.25-0.5  yes
>0.5   YES(強くyes)


抗菌薬使用期間を12日→6日に6日間短縮したものの、予後は不変であった。

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posted by 長尾大志 at 17:47 | Comment(0) | データの解釈

2013年05月02日

データの解釈17・アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme:ACE)

アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme:ACE)はそもそも、血圧の調節、というところで(特に最近は、降圧薬の競争が激しく、同じような説明をあちこちで聞かれていると思いますが…)よく出てくる物質です。


ACEは肺の血管内皮細胞に存在し、アンジオテンシンTをUに変換して血圧を上昇させる働きを持っています。ACEは同時に血管拡張や血管透過性の亢進を司るブラジキニンを不活性化させていて、やはり血圧を上げる方向に持って行きます。


このACEをブロックするのがACE阻害薬で降圧作用を持つことは皆さんご存じだと思います。同時に、ブラジキニンが不活性化されなくなり増加することで、咳が多くなる副作用があることもよく知られています。



このように健常者であってもACEはある程度体内に存在するのですが、サルコイドーシスにおいて、類上皮細胞肉芽腫においてACEが産生される、とされていて、特に活動性が高いとACEが上昇することが知られています。


ACEの動きはある程度活動性と並行して動くようで、最初のACE値が正常範囲であってもそれは言えるようです。


ただ、難しいのは、明確なカットオフ値がない、ということ。原因不明、治療法が確立していないため、重症度によっては公費負担の対象にもなるサルコイドーシスですが、診断基準にも「ACE上昇」と書かれているだけで具体的な数値は記されていません。いわゆる正常範囲も検査系によってまちまちで、私がいた施設でも正常上限が23ぐらいのものと29ぐらいのものを使っていました。


ですので、自施設の正常範囲をわきまえておくこと。それを超えて高い場合、「上昇してるな」ということで、まずはよろしいかと思います。ACEが正常上限の2倍以上になることは、サルコイドーシス以外では滅多に見られない、といわれますが、2倍以上になること自体、滅多にお目にかかりません。


例によって、ACEはサルコイドーシスのみで上昇するものではありません。糖尿病や腎不全、甲状腺機能亢進症や慢性肝炎などでも上昇するとされています。ですから、これまた例によってACEは盲目的に測定されるべきものではなく、症状、所見から「サルコイドーシスを疑う」時にはじめて測定されるべきものであると言えるでしょう。


サルコイドーシス患者さんの受診動機で多いものは、「眼症状」と「健診胸部X線写真で異常影」あとは皮膚病変あたりでしょう。


ここで強調しておきたいキーワードは「両側」であります。ブドウ膜炎でも肺門リンパ節腫脹でも、「両側にある」ということがサルコイドーシスを強く疑わせるものです。


片側か両側かのところでも書きましたが、片側にしか病変がない、ということがそこに原因があることを表すのに対し、両側にある病変は免疫学的な機序を表すのです。


こういった情報からサルコイドーシスを疑う、そしてACEを測定する。この順番を意識しましょう。


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posted by 長尾大志 at 12:11 | Comment(0) | データの解釈

2013年05月01日

データの解釈16・SP-D、SP-AとKL-6まとめ

ということで、SP-D、SP-AとKL-6の正しい使い方を通して、データというものの正しい扱い方を少し考えましょう。これは他の検査所見に関しても同じ考え方が適用できると思います。もちろん、これらのように感度、特異度のすぐれた検査については、この限りではないことは承知しておりますが、若手の方々に「原則論」を語っておきたいと思うのです。


まずは臨床現場での正しい論理展開。


病歴→所見→診断→治療

のハズですよね。


病歴、身体所見、そしてせいぜい画像所見から間質性肺炎の存在を疑う場合に、診断を補強する(結構有力な)状況証拠の一つとして検査する、ということを意識しましょう。


病歴では、経過の長さはさまざまながら、悪化する呼吸困難、乾性の咳、特に労作で強い呼吸困難が特徴的と言えます。ここで呼吸器疾患、心疾患、貧血といった大きな網をかけておきます。心疾患は発作性、発症の様子、夜間呼吸困難など特有の症状がありますから、そういう要素を除外していきます。貧血にも特有の症状、ありますよね?もちろんこの段階で完全な除外は出来ませんから、後に身体所見や検査などで網を狭めていきます。


呼吸器疾患関連としては生活歴として、喫煙はもちろん、昨今非常に増えている、薬剤性肺障害を意識し、薬剤、漢方、サプリメント、健康食品の使用歴に注意しましょう。昨今では減っていますが、職業や住居環境における粉塵曝露の有無も確認します。既往歴では基礎に膠原病や血管炎がないか、ステロイドや免疫抑制薬、抗癌剤などが使われていないか、これらのことから、「原因のある」間質性肺炎の存在を想定していきます。


そして身体所見ではやはりfine crackles(捻髪音)、吸気時の終末にかけて、だんだん大きくなる断続性のラ音を聞いたら、間質性肺炎の存在を強く疑います。


それ以外に、特に肺線維症でよく見られるばち指は特徴的ですし、膠原病や血管炎特有の身体所見(皮疹、皮膚硬化、関節、神経筋所見など)があれば、そちらも参考に出来ます。また、線維化を来している場合には胸郭運動の制限も身体所見として見られます。


そして胸部X線写真。これで両側に、すりガラス影、網状影があれば間質性肺炎の存在を強く考えます。


これらの所見を確認して、鑑別診断の上位に「間質性肺炎」が挙がってきて初めて、SP-D、SP-AやKL-6の測定に踏み切るのです。順番を間違えてはアキマセン。これはどのようなジャンルの疾患でも常に意識しておきたいものです。


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posted by 長尾大志 at 19:44 | Comment(0) | データの解釈

2013年04月30日

データの解釈15・間質性肺炎のマーカー・KL-6、SP-D、SP-A(肺サーファクタントプロテインDおよびA)3・SP-D、SP-A

SP-D、SP-AもKL-6同様に、間質性肺炎で頻用されている血清マーカーです。以前書いたように、サーファクタント蛋白ですので、上皮の障害で血中に移行し、量が増える、というのはわかりやすいところだと思います。


研究によると、特発性間質性肺炎に対しての陽性率はKL-6とSP-D、SP-Aは同様ですが、
SP-D、SP-Aは細菌性肺炎、喫煙者、心不全患者でも上昇することがあり、特異性はKL-6が優れているとされています。


増悪時、治療奏功時には、KL-6よりもSP-Dの方が、動きが速いようです。また、SP-D、SP-AはCT所見ですりガラス影の広がりと相関すると言われている一方で、蜂巣肺の広がりとはほとんど相関しないともされています。


それに対して、KL-6はすりガラス陰影、線維化、いずれの広がりとも相関が見られるというデータがあります。


他にもいくつかSP-D、SP-AとKL-6との違いを見た文献があるっちゃあるのですが、おおよそは似たような動きになっていて、データの取り方によって(微妙な)差がある、という風な記載が多く、KL-6≒線維化という理解との兼ね合いでいいますと、SP-D、SP-A≒すりガラス影、という理解で、大きな外れはないように思います。


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posted by 長尾大志 at 18:21 | Comment(0) | データの解釈

2013年04月26日

データの解釈14・間質性肺炎のマーカー・KL-6、SP-D、SP-A(肺サーファクタントプロテインDおよびA)2・KL-6

そんなKL-6、SP-D、SP-Aの持つ意味、使い分けなどを整理しましょう。


まずKL-6ですが、これは開発された河野先生らのデータを参照します。特発性間質性肺炎群、過敏性肺炎、放射線肺炎、膠原病関連間質性肺炎、サルコイドーシス、ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス肺炎、肺胞蛋白症など、まあ「間質性肺炎系」の疾患においてKL-6は70〜100%の陽性率である一方、細菌性肺炎(実質性肺炎)ではほとんど上昇がみられません。


KL-6値は肺胞上皮の障害、上皮の血管透過性の程度を反映するとされていて、それ以外の各種データをみていると、線維化の程度、広がりともある程度の相関があるようです。ということでKL-6は比較的特異度が高く、上昇が見られれば間質性肺炎、特に線維化を伴う間質性肺炎である可能性が高いということになります。


ステロイド治療に対する反応性もみられますが、症例によっては治療によって病勢が落ち着いても高値をとり続けることがあるのです。そういう場合、線維化が結構残っている、という判断をしたりします。


また、特発性肺線維症症例では、診断時のKL-6値が高いほど予後が不良であった、とする報告があります。他にもARDSで、予後予測因子としても有用とされています。


ただし!昨日書いたように、KL-6は直接線維芽細胞が産生するものではないので、あくまで線維化と「相関がみられる」だけであって、サイトメガロウイルス肺炎や肺胞蛋白症などで、線維化がなさそうでも上昇がみられます。KL-6=線維化、とは考えないようにしましょう。KL-6≒線維化ぐらい?


あと、元々腫瘍マーカー的なものとして開発されていただけのことはあり、肺癌や膵癌、乳癌といった悪性腫瘍でも高値となることがあります。ここは要注意です。


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posted by 長尾大志 at 17:18 | Comment(0) | データの解釈

2013年04月25日

データの解釈13・間質性肺炎のマーカー・KL-6、SP-D、SP-A(肺サーファクタントプロテインDおよびA)

もう随分普及してきているように思います。KL-6、SP-D、SP-A(肺サーファクタントプロテインDおよびA:pulmonary surfactant protein-D、A)。


これらはいずれも間質性肺炎のマーカーとして使われています。保険適応もあり、採血で気軽に検査できますので、他科の先生にもオーダーされる機会は多いと思います。


周りの(他科の)先生方を拝見していると、おそらくよくある使われ方としては、肺炎がよくならない、何かよくわからないという場合にKL-6(など)を測定し、高値であれば「間質性肺炎です。ご高診ください。」と呼吸器内科紹介…。


おおよそ、それで間違いはございません。まあでもせっかくですから、もう一声。



KL-6、SP-D、SP-Aは何となく同列で語られ、違いがわからない、という声も多いようですが、ものとしては違うジャンルのものです。


KL-6は元々腫瘍マーカー探索の際に発見され、間質性肺炎で上昇し、細菌性肺炎では上昇せず、治療による病勢の改善とある程度相関する、ということがわかってから上記のように頻用されるに至ったものです。


ですが、これの問題は結局そもそも何をしているものか、間質性肺炎で上昇する意味合いは何か、本当のところがわかっていない、ということでしょう。そのため、肝心なところがどうも漠然としている。まあ、そういう項目、少なくありませんが。


わかっているのは、呼吸細気管支上皮細胞やU型肺胞上皮細胞に発現しており、間質性肺炎における再生肺胞上皮細胞に強い発現がみられる、ということです。上皮細胞の過形成、破壊に伴って出てくるのかな、という感じですが、血中でKL-6が上昇する理由として、炎症による血管透過性の亢進が挙げられています。



一方、SP-D、SP-Aはまだしもわかりやすい。肺サーファクタント蛋白です。主にU型肺胞上皮細胞、クララ細胞で産生されます。上皮の破綻、血管透過性の亢進で血中に移行すると説明されています。


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posted by 長尾大志 at 18:20 | Comment(0) | データの解釈

2013年04月24日

データの解釈12・サイトメガロウイルス肺炎の診断・C7-HRPその2

C7-HRP。私の周りでは「しーせぶんはーぷ」と読むことが多いです。
末梢血の多核白血球内に発現しているCMVの抗原を検出する検査です。


CMVが細胞に感染すると産生される抗原には色々あるのですが、このうちpp65という抗原に対するモノクローナル抗体で免疫化学染色し、その染まった細胞(陽性細胞)の数を数える、という定量というか何というか、微妙な感じの(半定量、といわれます)検査です。


このモノクローナル抗体がHRP-C7とC10/11の2種類あり、HRP-C7でやる方の検査系をC7-HRPと呼んでいます。


通常は末梢血を採取し、末梢血の白血球5万個あたり陽性細胞がいくつみられたか、で評価します。CMV感染症の診断において、感度、特異度ともに高い上、病勢や治療経過とよい相関を示すことから、ガイドラインでも重要な位置づけをされています。


多く言われているカットオフ値?は5万個あたり陽性細胞が10個、というもので、10個以上の場合にはCMV感染症、あるいはこれから感染症が発症すると考えてガンシクロビル(GCV)の適応になる、としているものが多いです。


さらに、10個以上で臨床症状があるものは治療量、臨床症状がないと予防量、としているところもあります。


造血細胞移植患者さんにおいてはもう少し厳しく、3個でGCVの先制治療を開始、という施設もあるそうです(造血細胞移植ガイドラインより)。また、そもそもの症例のリスク度合いに応じて基準値が決められていることもあります。


ウチの科では移植患者さんを診ることはあまりなく、ステロイドや免疫抑制薬使用、担癌状態といった、中ぐらい?の免疫抑制状態にある症例で測定することがほとんどですので、10個を目安にしています。



問題点としては、白血球の数を数える検査なので、好中球減少時には信頼性が低下する、ということです。しかも移植後や免疫低下状態では好中球減少が起きがちだったりしますので、注意が必要です。
白血球<1,000の症例では実施不能となったり、参考値扱いとなったりするようです。


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posted by 長尾大志 at 16:40 | Comment(0) | データの解釈

2013年04月22日

データの解釈11・サイトメガロウイルス肺炎の診断・C7-HRP

感染症の診断は、直接病原体を見つける塗抹鏡検、培地に生やして観察する培養検査、抗原や抗体を測定する検査に、PCR法に代表される遺伝子検査などによって行われます。


で、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)のようなウイルス性疾患は、診断が結構大変なんです。なぜか。


そもそも普通の顕微鏡で見える大きさではありませんから、塗抹鏡検の意味がない。ただし、CMVが細胞に感染して核内で増殖すると、核内に封入体(いろんな物質がゴミみたいに集積した部分)ができて核がふくれあがり、細胞が大きく(=巨細胞)なります。


9封入体細胞.jpg


国試的にはこれを見つければCMV感染症、としてよいのですが、実臨床では他の証拠をも証明することが望ましいですね。


次は培養ですが、結果の判明までに数週間を要するのが欠点で、短期間で迅速診断可能なシェルバイアル法が開発されていますが、いずれにしても2013年4月現在、保険診療で認められていません。


抗原検査は後述するC7-HRPなどで、こちらは保険診療も認められており、近頃ではバンバン行われています。抗体の測定はウイルス特異的IgM抗体が活用できますが、免疫低下を背景とするCMV感染症においては少し判定が難しいところがあります。


遺伝子の定量法は、まだまだ保険診療が認められて居らず、行いにくいようです。


ということで、ウチでも結局C7-HRPばっかり測定していることになっておりますが、後日取り上げたいと思います。


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posted by 長尾大志 at 18:36 | Comment(0) | データの解釈

2013年04月19日

データの解釈10・β-D-グルカン2・β-D-グルカンを測定すべき場面

β-D-グルカンを測定すべき状態、すなわち、真菌症、あるいはニューモシスチス感染症を疑う場面は以前にも書きましたが、ここで復習しておきましょう。


深在性のカンジダ症(菌血症や膿瘍など)が発症しそうな、リスクがあるというのは次のような状況をいいます。

  • カテーテルが留置されている

  • 繰り返し広域抗生剤を使用されていた

  • 絶食/中心静脈栄養

  • 腹部手術・穿孔の病歴

  • 糖尿病や透析

  • 悪性腫瘍があり、化学療法を受けたりしている

  • 白血球減少


こういう状況にある患者さんで抗菌薬不応の発熱や炎症症状などが続く場合、カンジダによる感染症を想定して、血液培養と共にβ-D-グルカンやカンジダ抗原検査を測定、というやり方が望ましいでしょう。



深在性のアスペルギルス症が疑われるのは、以下のような場合。

  • 好中球減少

  • ステロイド大量長期投与

  • 免疫抑制薬投与

  • 既存の肺病変

  • 低栄養

  • 糖尿病

  • ADL低下


一般的にT細胞の働きが弱っている場面、あるいは好中球がいない状況で起こりがちです。冒される臓器は、まず進入する肺から、血行性に全身に及びます。したがって、上記のような状況の方で、画像状特徴的な陰影(holo sign、air crescent、結節、空洞)をみる、こういう場合に抗原検査と共に測定します。


ただアスペルギルス症において抗原検査やβ-D-グルカンの感度、特異度には限界があり、気管支鏡などによる培養、生検などが望ましいんですね。なかなか大変な疾患です。



そして、もう一つ、β-D-グルカン高値となる重要疾患は、ニューモシスチス肺炎。どちらかというと、呼吸器内科やってて見かける機会は、昨今こちらが一番多いような。


  • HIV感染症

  • 膠原病・リウマチ性疾患に対するステロイド長期投与

  • 膠原病・リウマチ性疾患に対する免疫抑制薬投与

  • 骨髄・臓器移植後

  • 血液疾患


などの時にリスクがあります。臨床的には他の真菌と比べてもβ-D-グルカン値は高めで、両側すりガラス影(地図状の分布)、A-aDO2開大(著明な低酸素血症)、LDH高値などの特徴的所見が見られます。


リスクのある患者さんに低酸素血症など上記の所見がみられた場合、測定。またはリスクのある患者さんで定期的に測定し、上昇が見られたらすぐ検査、治療、というのが推奨される使い方であろうかと思います。


「リスクのある患者さんで」というのがミソで、ここでかなり症例を絞り込んでいるが故に、リスクのない患者さんで測定した場合と比べて、β-D-グルカン陽性、あるいは陰性、という結果の持つ意味合いが全く異なってくるのです。


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posted by 長尾大志 at 18:15 | Comment(0) | データの解釈

2013年04月18日

データの解釈9・β-D-グルカン1

β-D-グルカン。べーたでぃーぐるかんと読みます。


こちらも、何となく測定されて、何となく「真菌症だ」となって、何となく高額な抗真菌薬を使われて…みたいなことがあったりなかったり、という検査ですね。


β-D-グルカンは真菌の細胞壁に含まれる成分で、酵母の出芽や糸状菌の菌糸先端が発育する際に細胞外へ出てくるため、真菌による侵襲性病変、すなわち深在性真菌症で上昇するとされています。


また、Pneumocystis jiroveciiも細胞表層にβ-D-グルカンが存在するため、ニューモシスチス感染症でも高値を取ります。



検査としての基本的注意事項としては、

  • 表在性真菌症では上昇しない

  • クリプトコッカス感染症と接合菌症では上昇しない

  • 治療をして菌量が減ったからといって、必ずしもすぐには低下しない

  • 偽陽性が少なからずある


などが挙げられます。


で、偽陽性となるケースは、

  • セルロース素材の透析膜を使用した血液透析

  • 血液製剤の投与

  • 溶血検体

  • 高グロブリン血症

  • アガリクスみたいなキノコ類を大量に摂取

  • ガーゼが体内に…


などがよくあるものです。


ともかく、検査そのものに関する知識も重要ですが、それよりもやはり、

どういうときに検査をするか

の方が重要なように思います。これを測定するときは、真菌症、あるいはニューモシスチス感染症を疑うときに限って頂きたい。肺炎、良くならないな〜というときに何となく測定されるべきものではないと思います。


こういう検査データには各々感度、特異度というものがあります。ただしそれも、状況証拠から疑わしい、という場面で使うのと、特に疑う状況ではないときに「測定してしまったら少し高かった」というのとでは話が随分違ってきます。


いわゆる検査前確率、というやつです。これを出来るだけ上げておかないと(かなり疑わしい、という状態でないと)、折角の検査に意味がなくなってしまうのです。


統計や臨床推論とかをきちんと勉強しておりませんので、はなはだふんわりした理解しかしておりませんが、言いたいことは伝わりますでしょうか?

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posted by 長尾大志 at 19:03 | Comment(0) | データの解釈

2013年04月17日

データの解釈8・QFT(クォンティフェロン)

QFTとはクォンティフェロンと読みます。こちらは商品名(の一部)になりますが、絆創膏=バンドエイドみたいなもので、商品名がほぼ一般名的に使われています。


ちなみに一般名はIGRAs(interferon gamma release assays:インターフェロンガンマ放出試験)といいますが、あまり私の周りでは使われていない用語です。QFT以外にも同様の検査キットがありますので、こちらの名称の方がいいと思うのですが、本項は普及しているQFTで記載します。


結核菌の抗原である蛋白(ESAT-6, CFP-10, TB7.7)を患者さんの血液に加えると、患者さんのTh1リンパ球が抗原を認識してIFN-γを産生します。その産生されたIFN-γの量を測定する検査がQFTなのです。


結核菌が体内にいる、すなわち感染していて細胞性免疫が成立していると、抗原を認識したTh1リンパ球がIFN-γをじゃんじゃん産生しますが、感染が成立していないと「あんた誰ですか?」てなもんで、知らん顔なのです。IFN-γはその場合、産生されません。


以前取り上げたように、QFTのメリットは、ツ反で問題になった「BCGによる陽性」がなく、より特異度が高いということです。なぜなら、使用する抗原蛋白がヒト結核菌由来のものであり、BCGや非結核性抗酸菌など、結核菌以外の抗原には反応しないからです。



具体的な判定基準としては、以下の通りです。

  • 陽性:≧0.35IU/ml

  • 陰性:<0.1IU/ml

  • 判定保留:0.1〜0.35IU/ml



評価として、明らかな陽性(≧0.35IU/ml)は結核感染が疑われる、明らかな陰性(<0.1IU/ml)は結核感染がないと考えられる、ここは問題ないでしょう。


問題はその間の判定保留というやつです。こりゃなんでしょう?要するに、QFTだけでは決められない、ということです。ということは病歴や状況から感染リスクを考慮し、総合的に判定することになります。例えば、ある集団でQFT検査を行い、陽性率が高い場合には、ここであっても感染ありとして扱う、とされているのです。



注意点。あくまでQFTは、結核菌感染の有無を判定するツールであり、発病しているかどうかを判定するものではありません感染した人のうち、発病するのは10%ですから、QFT陽性=結核発症、とは言えません。これがなかなか若い先生には理解していただけない。


しばしば臨床の現場で、「肺結核(発症)の診断」に使われているのを見かけますが、肺結核の診断はあくまで痰の中に結核菌を証明すること、あるいは100歩譲って画像診断が本道であります。QFTを使うべき場面はなんといっても「接触者健診」。要するに感染の有無を見る、こういうときに限ります。


診断に使うことがあるとしたら、状況証拠から限りなく結核が疑わしい若年者で、何をどうやっても菌やその他の物的証拠が得られない時ぐらいかと個人的には思います。


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posted by 長尾大志 at 16:30 | Comment(0) | データの解釈

2013年04月16日

データの解釈7・プロカルシトニン(PCT)

最近測定される機会が増えているように思います。特に若い先生はお好きなようですね。一口で言いますと、細菌性感染症の診断に有用です。PCTが高ければ抗菌薬を投与する、みたいな使われ方をしている方もおられるようです。


まあこれも、カルシトニン(Caバランスを取るためのペプチドホルモン)の前駆体ですから、そもそも細菌が産生するとかそういうものではありません。結果的に、細菌感染症のときに「なぜか」産生される、それを診断に用いているだけです(本当は何か関係があるのかもしれませんが、今のところ機序は明らかでありません)。


機序的に直接関係があるわけではないものですから、細菌感染症では「必ず」上昇する、といいきれないところですが、多くの研究から、特に重症の細菌感染症の場合、「ほぼ」上昇する、ということがわかっているようです。ナンデでしょうね〜。


研究によっては感度、特異度ともばらつきがあり、CRPより良いのだとするものも大して変わらないというものもあるようですが、炎症が起こってからの反応時間、立ち上がりやピークになるのがCRPよりも早い、というのはメリットと言えるかのもしれませんね。


PCTは立ち上がりはじめるのが2-4時間、ピークになるのが8-24時間後、
CRPは立ち上がりはじめるのが4-6時間、ピークになるのが36-50時間後。


研究によっては色々な切り口でのアプローチがあります。CRPもPCTも、値によって重症度に差があるとか、あるいはカットオフ値を設定して抗菌薬を使用する、しないを決定し、アウトカムを比較する、という研究もあります。


でも細菌感染症、敗血症を疑う項目としては、PCTより寒気、悪寒戦慄だ、とする論文もあったりで、まあまとまらないのですが、色々見ていて、一応の目安としては


>0.5 細菌感染あり
>2 重症
>10 かなり重篤


あたりかな、と思います。


ただ、何度も言いますが、数値が絶対ではありませんので、過剰に引っ張られないようにしたいものです。順番としては、細菌感染を疑う→PCTで重症度、予後の目安を知る、という感じが望ましい使い方なのではないでしょうか。


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posted by 長尾大志 at 18:39 | Comment(0) | データの解釈

2013年04月12日

データの解釈6・WBC(白血球数)とCRP(C反応性蛋白)5・採血のタイミングと結果の評価

初学者の皆さんは、どうもこんなふうに考えておられることが多そうです。


「炎症が起こると、WBCとCRPは直ちに同時に上昇する。治療が奏効して炎症が収束すると、WBCとCRPは直ちに同時に下降し、正常値に復する。」


「治療を行ってWBCやCRPが低下してこないのは、治療が奏効していないからである。」



そんなことはございません。WBCやCRPは感染症を考える上でとても重要な指標であることは間違いありませんが、これまでにも書いたとおり、注意すべき点が少なからずあるのです。


採血したタイミング、も結果を左右するポイントです。炎症が起こってから、WBCとCRPに変化が起こってくるまではかなり時間的に差があります。まずWBCが上昇し、次にCRPが上昇するのです。


7WBCとCRPの経時的変動.jpg


WBCは炎症が生じて数時間で上昇し、半日程度でピークに達します。その後(炎症が無くなっていれば)数日以内に元の値に戻ります。


一方、CRPは炎症反応の12時間後に上昇をはじめ、ピークになるのは48時間後。結構タイムラグがあるのですね。


例えば、病初期に採血し、効果判定のため3日後採血するとします。何だったら入院日の採血は夕方で、3日後の採血は早朝だったりしますね。すると、図の赤矢印のタイミングで採血することになります。


8CRPが上昇抗菌薬が効いてない.jpg


どうでしょう。入院時の採血よりも3日目の採血の方が、「CRPが高い」ことになりますね。その結果、「いやーセフトリアキソン効かないなー、やっぱゾシン(メロペンetc)じゃないと…」てな判断をされ、ジャブジャブゾシン…T正T山さん(DS友さん?)ホクホク…。


少なくとも、身体所見その他の「より信頼性の高い指標」を「組み合わせて」判断すれば、このようなワナに陥らないでしょうに…。


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posted by 長尾大志 at 18:53 | Comment(0) | データの解釈

2013年04月11日

データの解釈5・WBC(白血球数)とCRP(C反応性蛋白)4・CRPが上昇する、ということ

そもそもCRP(C反応性蛋白)というのは、炎症反応が起こった結果血中に出てくる蛋白質のことです。ですから、炎症が起こると上昇する。それは間違いありません。WBCのようにもともとの値にばらつきがないので、よりわかりやすい指標であると言えます。


ただし、例によって疾患、研究によって結果がさまざまで、カットオフ値の設定が難しいことも問題です。まあ一般的に、ある程度の規模?の細菌感染症の時には、10〜12以上になることが多いようです。


WBC同様に、炎症と完全にリンクしているというわけではなく、いくつか注意しておくべき事項があります。



  • 低栄養、肝障害ではCRPが上昇しない。
    あくまでただの?蛋白質なので、そもそも材料が少ないと産生されません。また、ほとんどが肝臓で合成されますので、肝障害が著しいと産生されにくくなります。

  • 低下は炎症の回復よりも1〜2日遅れる。
    血中半減期は19時間程度といわれており、炎症が沈静化してもしばらくは血中に存在するものです。

  • 腎障害があると、炎症が回復してもなかなか低下しない。
    腎から排泄されるので、腎障害があるとなかなか出て行かず、「良くならないな〜」と判断を誤ることになります。

  • トシリズマブ投与、ステロイド投与下などではCRPが上昇しにくい。
    いずれも免疫反応自体を低下させてしまう薬ですので、CRP、というより、反応自体が抑圧されてしまいます。肺炎を起こしているのに熱も出ず、血液データにも動きがない、ということがあります。



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posted by 長尾大志 at 17:09 | Comment(0) | データの解釈

2013年04月10日

データの解釈4・WBC(白血球数)とCRP(C反応性蛋白)3・WBCが上昇するとき

というわけで、細菌感染症の時には好中球、特に幼若な好中球(桿状核球など)が増えてくる、ということを理解頂けたと思います。



話をWBC(白血球数)に戻しましょう。細菌感染に限らず、なんか除去したい異物やら外敵やらがあり、その除去に白血球が動員された場合、WBCが増えることになります。よく見かけるのが喫煙でWBCが上昇する現象ですね。これはタバコに含まれる有害物質を除去するために、WBCが動員されているということでしょう。


それ以外に、悪性腫瘍や自己免疫疾患などでもWBCは上昇します。で、WBC上昇時に、臨床上は好中球が増えているのか、幼若な桿状核球が増えているのか、分葉核球なのか、はたまたリンパ球が増えているのか、好酸球なのか、これを把握しておく必要があります。それも%ではなく、WBC×分画の%で得られる絶対数を常に計算する癖をつけておきましょう。


ただやっかいなことに、何が増えていたらどういうことが考えられる、みたいな1対1対応にはなりにくい、非常に色々な因子に左右されてしまうのもWBCの特徴です。


例えば、細菌感染症の時には好中球が動員される。そこだけ考えると、「細菌感染症=好中球増多」と考えてしまいがちなのですが、重症感染症の時には動員された好中球が病変部で使い果たされて産生が間に合わず、WBCは却って低い、ということもしばしば経験されます。要は産生が間に合わない、ということでしょうか。


で、全身状態が復活したころにWBCが増えてくる。「病勢がよくなってるのにWBCが上がってくる」という、1対1対応で考えていては理解不能な出来事も起こるわけです。


また、癌化学療法中の患者さんのように、骨髄機能が低下している場合には、細菌感染症があっても骨髄がぴくりともしないこともあるのです。



ということで、WBCの解釈をする上で、是非知っておきたいことを挙げておきましょう。


  • 正常範囲はおおよそ、3,000〜9,000(各施設の正常範囲を必ず参照してください)

  • そもそもその患者さんのWBC値が平常時どの程度であるかを把握しておく。

  • 各白血球分画の絶対値が、どのように変化したか(増えたか、減ったか)が、臨床的に意味がある。

  • 肺炎患者さんでWBC>10,000であると、細菌感染症を疑う、とガイドラインには書いてあるが、WBC全体の数よりも白血球のどの成分が増えているのか、左方移動があるか、という情報が鑑別に有用である。

  • 全身に症状の出ているアレルギー性疾患の場合は好酸球が増える。

  • なんだかんだいって、WBC単独ではなく、他の指標と組み合わせて初めて診断的な意義を持つ(身もフタもありませんが…)。




WBCは細菌性感染症の時に上昇しやすく、ウイルス感染症や非定型病原体による感染症ではそれほど高値とならないことが多い、とされています。ウイルス感染症の場合、動員されるのはリンパ球であり、また、細菌との戦いと異なり、「好中球の物量作戦」ではなく、ネットワークで戦う、って感じで、数がものすごくは増えないのが特徴です。


WBCの数、どの程度の値が「高値」なのか、研究によってカットオフ値の設定が難しいのですが、10,000をカットオフ値としている研究が多く、例えば市中肺炎で原因菌が非定型病原体か細菌か、を鑑別する指標には10,000が使われているのです。


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posted by 長尾大志 at 18:56 | Comment(0) | データの解釈

2013年04月09日

データの解釈3・WBC(白血球数)とCRP(C反応性蛋白)2・核の左方移動

好中球の分化過程において、造血幹細胞からしばらくの間は骨髄内で分化し、桿状核球になると末梢血中に出てきます。さらに成熟して行くにつれ、核がどんどん分葉していきます。


2健康体の末梢血における好中球の分画.JPG


健常者では、末梢血に存在するのは大半が成熟した分葉核球で、幼若な桿状核球の割合は少ない(10%程度)ものです。


これが細菌感染症になると、戦いの最前線に成熟好中球がかり出され、じゃんじゃん戦い、バタバタ死滅していきます。この好中球の屍骸が集積して白っぽく見えるものが「膿」でしたね。


3細菌感染症.JPG


最前線で死にゆく好中球たちを補うために、骨髄が頑張ってじゃんじゃん好中球を作ります。出来た好中球は成熟しきる前にどんどん最前線に送られるべく、末梢血に出てきます。そうなると幼若な好中球(桿状核球)がどんどん増え、何だったらその前の段階の幼若な後骨髄球なども末梢血中に出現してきます。


4細菌感染症における好中球の分画.JPG


ここで、縦軸に細胞数、横軸に核の分葉をとったグラフを描くと、健常者では…


5健康体の末梢血における好中球の分画グラフ.JPG


のようにピークが右側に寄っているのですが、細菌感染症になると…


6細菌感染症における好中球の分画グラフ_左方移動.JPG


のように、ピークが左に移動する(=左方移動)現象が見られます。
左方移動、とは、グラフ上でのピークが左方に寄っていく現象を表すのです。


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posted by 長尾大志 at 19:15 | Comment(0) | データの解釈

2013年04月08日

データの解釈2・WBC(白血球数)とCRP(C反応性蛋白)1

PCに表示される各種の「データ」。これからいくつかの代表的なデータを取り上げて、その解釈や気をつけるところを勉強していきたいと思います。


まず1番手は、みんな大好き、WBCとCRPを取り上げましょう。
もちろんWBCは白血球数、CRPはC反応性蛋白の略称です。


どうしてみんな大好きか。それはもう「日常的に上がり下がりして、解釈が簡単だから」に他なりません。


WBCとCRPが高いから肺炎だ、抗菌薬を使って低くなった、ああ良くなった…。
と、あまり考えなくても評価した気分になる。これが良くない。



確かに肺炎の時には、WBCやCRPが上昇することが多い。それはそう。良くなったら減っていくことも多い。でも、必ずしも常にそうとは限らない。ここが大事です。



基本事項を知っておきましょう。WBCは白血球の数を表します。白血球は何か外敵が現れたときにそれを退治するもの。中でも代表的なものは化膿菌を貪食、殺菌する好中球です。化膿菌というのはその昔、抗生物質がなかった頃、人類の生存をもっとも脅かす存在であった、ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌、大腸菌、緑膿菌などです。


こういった菌が侵入して暴れ出すと、好中球がやってきて直接貪食、殺菌を行います。直接の対戦になりますから数で勝負、ということは、好中球が増えるわけですね。そういうわけで、多くの細菌感染症では白血球、中でも好中球がドーンと増えるわけです。


好中球のでき方としては、まず骨髄内で、大元の造血幹細胞(全ての血球の元になるもの)から何段階かの分化(変身?)を経て、立派な好中球のできあがり、となります。


その分化過程で最終形態(もっとも成熟した、立派なやつ)の好中球は、核が分葉しているので分葉核球といいます。その分葉核球になる手前の、少し幼若な好中球は核が棒というか、曲がった棒のように(桿状)見える、これを桿状核球といいます。


1好中球の分化過程.JPG


(骨髄中の分化段階は、もう少し多いですが…)
分化過程において、好中球はおおよそ桿状核球の段階から末梢血中に出てきます。


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posted by 長尾大志 at 21:31 | Comment(0) | データの解釈

2013年04月05日

働きはじめる研修医の先生へ・データの解釈1

働きはじめる研修医の先生へ(だけでもないけど)、もう少しメッセージを書いておきましょう。


しばらく前から言われ続けていることですが、「医師が診察時に患者さんの方を見ない」「PCばっかり見ている」みたいなこと、皆さんも聞いたことがあると思います。


これはどういうことか。


PCには各種の「データ」が表示されます。そのデータを見て、診療をする。そうなると、どうしてもそちらばかりに気を取られるわけですね。


でも、そういう時代だからこそ、あえて「患者さんを診る、見る」ことの大切さを強調しておきたいと思います。


データはあくまで、その患者さんから得られた情報の一部でしかありません。数字を見ると、何だか正確なことをしている気分になりますが、その数字に引っ張られて誤った判断を下す陥穽にはまることもあるわけです。どのようなデータも、感度、特異度が100%ではありません。「状況証拠」に過ぎないのです。


できる限り正確な判断をするためには、まずは物的証拠を得ること。
物的証拠を得れば、「お前はクロだ!」と犯人を特定できますね。血培から肺炎球菌が出たら肺炎球菌による菌血症とか。


そういうものが得られない場合、できる限り状況証拠を積み重ねて、検討を重ねて、最終的に「犯人はお前に違いない」と逮捕状を取る(治療を決定する)ことになります。


この過程で、はなはだ弱い状況証拠と思い込みで犯人を決めつける、ということが、あちこちで日常茶飯事となっている、としたら…。


時々新聞で見かける「冤罪」になってしまい、罪のない人に濡れ衣を着せる(誤った治療を行う)ことになりかねません。何よりも迷惑を被るのは患者さんです。


で、繰り返しますが、データはあくまで状況証拠なのです。さらに聴取した病歴や身体所見、画像所見といった、それ以外の状況証拠を積み重ねて、最終的な診断の精度、確度を上げる努力が必要です。


これは自分でもしばしば陥りそうになるもので、自戒を込めて、書いておきたいと思います。


臨床推論のところでは、感度が○%、特異度が○%で、L/Rがナンボ、であるから…といった数字が出てくるとどうしても苦手、という方も決して少なくないと思うのですが(私がそうなので少なくないと信じているのですが)、これとこれ、これだけの状況証拠があるからこの診断が妥当である、という「臨床的」判断はそう決して難しいことはないはず。


逆に、身体所見でも感度、特異度が高いものだってたくさんあるのです。そういったものを拾い上げるようになる、これも初期研修で是非身につけて頂きたいものであります。初期でそのあたりをスルーする習慣が身につくと、なかなか後で身につけるのは大変なのです(実感しています…)。


「データ」を見るだけなら、「お医者さん」でなくても、極端な話、誰でもできることです。お医者さんの価値は、お医者さんにしかできないこと、臨床診断、総合判断にあるんじゃないか、と思っています。プライドを持って診療を行うために、今身につけておくべきことがあるはずです。



とはいうものの、ブログ上で身体所見や臨床推論に触れるのは少し難しいところです。とはいえ、次の書籍化のオファーでそんな感じのものもあったり無かったりするので、機が熟したらやっていきたいと思っていますが、さしあたっては、データの解釈をする上で陥りやすい罠について、いくつか取り上げていきたいと思います。身体所見や臨床推論は研修で指導していきます。



もちろん、「患者さんと向き合って、お話しして、患者さんを理解する」こと自体も劣らず重要なことですが、またそれは別の機会に取り上げます。


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posted by 長尾大志 at 10:45 | Comment(0) | データの解釈