引き続き「成人気道感染症診療の基本的考え方」より。
(ここから大意を引用)
かぜの対症療法。
発熱、疼痛に対して解熱鎮痛薬を使用されることは多いが、発熱は生体防御に有利に働くことを考慮し、安易に投薬することは慎むべきである。患者の苦痛が強くメリットがデメリットを上回る場合を相対的適応とし、基本的には頓用で投与すべきである。
小児では非ピリン系のアセトアミノフェンが推奨されるが、成人では酸性NSAIDsが用いられることが多い。
鼻汁、鼻閉、くしゃみは副交感神経系の亢進、アセチルコリンの作用による鼻粘膜の充血、腫脹によってみられる症状である。抗ヒスタミン薬、吸入副交感神経遮断薬、点鼻血管収縮薬などが鼻粘膜のうっ血、浮腫を改善する目的で使用されるが、これらの長期連用には問題があり、短期間、回数を限って使用するのが原則である。
湿性咳嗽では去痰のための咳反射であるから、鎮咳薬は用いないのが原則である。しかし咳嗽が激しく、不眠や体力消耗につながると判断される場合には薬物治療の対象となる。
@中枢性鎮咳薬 麻薬に属するものとしてリン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデイン、非麻薬性としてデキストロメトルファン(メジコン

)、リン酸ジメモルファン(アストミン

)、クロペラスチン(フスタゾール

)がある。いずれも副作用に留意するべきもので、慎重に用いる。
A末梢性鎮咳薬 含嗽水・トローチは咽頭痛、咽頭不快感などを伴う咳嗽に用いる。去痰薬は喀痰を伴う咳嗽に用いる。気管支拡張薬は喘鳴や呼吸困難を伴う咳嗽に用いる。
漢方薬では葛根湯や麻黄湯などが「かぜ症候群」によく用いられているが、使用にはある程度の経験と知識が必要である。
ウイルス性上気道炎(かぜ症候群)は基本的に抗菌薬の適応ではない。しかし、ウイルスの上気道粘膜への先行感染が細菌感染症を続発することはある。明確に細菌感染を思わせる臨床症状、所見を見た場合には適正に抗菌薬を用いる。次の症状、所見が認められる場合には抗菌薬の適応と考える。
・高熱の持続
・膿性の喀痰・鼻汁
・扁桃腫大と膿栓・白苔付着
・中耳炎・副鼻腔炎の合併
・強い炎症反応(白血球増多、CRP陽性、赤沈亢進)
・ハイリスク患者
抗菌薬選択について
βラクタム系薬は同一用量の注射薬での投与に比べて、経口薬での血中濃度や組織移行濃度は十〜数十分の1である。特に頻用されている第3世代経口セフェム系薬は気道への組織移行が低く、エンピリックに低用量で用いるのは好ましくない。
βラクタム系薬の気道病巣への移行は、炎症の急性期には比較的良いが、炎症の消退に伴って濃度移行が低下する。
マクロライド系、テトラサイクリン系経口薬の気道病巣への移行濃度は、血中濃度と同等か、むしろ高いものもある。
(引用ここまで)
いやあ彼我の違いというか、新しさの問題というか、何というか。
UpToDate
とはいろいろな点で異なりますね。
片やいちいち選択された薬剤にエビデンスが付いている。片やなし。その他の項目でも、此方は結構ふんわりとした根拠が述べられていて、
UpToDate
とは異なる見解も多い。異なるところは、新しい方、エビデンスの多い方を尊重すべきかなとは思います。
ただ、10年前から、抗菌薬に関してはキッチリとした見解を述べておられる点は素晴らしいと思います。しかし一般医家に対して、十分な啓蒙ができているとは決して言い難い…。
また、日本のガイドラインで新しいものとして、日本感染症学会・日本化学療法学会の「感染症治療ガイド」も見ておきましょう。
(ここから大意引用)
まず普通感冒については、咳、鼻汁、咽頭痛の3つを同程度の症状で訴えることが多い。
特に咽頭痛が強い場合は急性咽頭・扁桃炎とする。咽頭痛を主訴とし、咳、鼻汁、発熱を伴うことが多い。ウイルス性上気道炎が4〜6日で改善せず、咽頭痛、発熱などの主症状が増悪したときに急性咽頭・扁桃炎の病態をとっていて、細菌感染の可能性が高いと考える。
常にウイルス感染と細菌感染の鑑別を心がけ、抗菌薬を適正使用する。
耳鼻科コンサルテーションのタイミング:口蓋扁桃、咽頭粘膜の腫脹や頸部リンパ節腫脹が著しい場合、開口障害を伴う場合、咽頭痛に呼吸困難、流涎、喘鳴を伴う場合(急性喉頭蓋炎)
急性咽頭・扁桃炎の原因微生物として推定されるのは、
Streptococcus pyogenes(A群β−溶血性)が最も重要。推奨される抗菌薬は第1選択がAMPC。第2選択以降は、各方面に「配慮」された何でもあり状態。
重症例ではAMPC点滴静注かCTRX点滴静注。
急性喉頭蓋炎の原因微生物として推定されるのは、やはり
Streptococcus pyogenes(A群β−溶血性)と
Haemophilus influenzaeなど。推奨される抗菌薬は第1選択がCTRX点滴静注。第2選択はSBT/ABPC他。
(大意ここまで)
簡潔ですが鋭いですね。新しさも感じます。しかし、どうにもこうにも各方面に配慮しすぎ、と思うのは私だけでしょうか。
かぜ(風邪・感冒・カゼ)をちゃんと診療する