
(レビューここから)
著者の永田理希先生は感染症倶楽部を長期間にわたり一人で運営され、感染症に関する有用な情報を発信されてこられた先生です。永田先生の講演を一度でも聞いたことがあれば、その「熱意」を体感されていると思いますが、元々耳鼻科専門医と言う属性に加え、開業医として総合診療に携われ(=膨大な症例経験がある)、感染症に関して大変な質・量の勉強をされている。以前から申し上げているのですが、症例をたくさん経験されている開業医の先生が文献にしっかり当たって勉強されると、最強の臨床医になられるんですね。ただそういう先生は稀であり貴重な存在というところがあるわけです。
この書籍の参考文献をざっと眺めるだけでも永田先生のこれまでの勉強が推察されるかと思いますが、とにかく「風邪様症状」診療に対する、これまで経験的に行われていたような対症療法であったり、抗菌薬治療投与であったり、一つ一つのプラクティスに関する根拠を、本当に丁寧に文献にあたり解説をしてくださっている本になります。私も「風邪」診療や診断に関して色々と勉強しなくてはならない立場でありますが、上気道の分野に関してはこの書籍一冊あれば、他に文献を集める必要もなく、座右に置いておくには最強の書籍だと思います。
底流にある思想としては、とにかく風邪症候群をはじめとするウイルス性疾患や鼻炎などに対し、無駄な抗菌薬を使わないということで、薬剤耐性(AMR)対策アクションプランが厚生労働省によって言われるずっと前から、感染症倶楽部を通して永田先生が訴えてこられていたことがしっかりと丁寧に語られています。私自身もプラクティスとしてはやっていたものの、その根拠に関してしっかりとした根拠を必ずしもパッと提示できなかったことも多々あり、大変勉強になります。
上気道炎に関連して、咽頭痛を呈する性行為感染症(STD)に関してもページを割かれていますし、いわゆる風邪薬(対症療法薬)の使い方に関してもその根拠が丁寧に示されています。耳鼻科の先生ならでは、耳・鼻・喉の診かた図説も親切です。そしてなかなかデメリットの多い西洋薬に対して、副作用の少ない漢方薬を用いる方法を示されていて、漢方薬の成分からしっかりと紹介されていて、大変勉強になります。
世に「風邪本」は名著がたくさんありますが、風邪の患者さんを多く診療される開業されている先生や病院勤務であっても一般内科外来をされている先生方は、今一度風邪に関するプラクティスをしっかりと確立されることをお勧めしたいところでありますので、やはり何冊か通読されることをお勧めします。その中の一冊としてこの書籍がお手元にあるのが理想的です。
(感想ここまで)