2025年01月04日

抗インフルエンザ薬ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)の使い方

ゾフルーザレジスタードマーク(バロキサビル マルボキシル)は、インフルエンザウイルスのメッセンジャーRNA合成を阻害するという、新しい作用機序を持ちます。1回の経口投与でいいとか、より早いウイルス力価の低下が見られるとか、メリットを喧伝されてかなり使われているようですが、症状消失には差がなく、臨床上明らかにメリットがあるというほどではないように思います。

内服薬であるがゆえに副作用として消化器症状があり、血中半減期が長いことから、副作用が出た時に長引く恐れもがあります。また、耐性が生じやすいのではないかという懸念もあり、あまり積極的に勧められるものではないのかもしれません。

なお、これらの抗インフルエンザ薬を使わないケースで、漢方薬の麻黄湯を使われている先生方も多いかと思います。大規模なエビデンスという点では難しい面もありますが、症状の軽減には効果があるという報告が見られています。

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2025年01月02日

あけましておめでとうございます 抗インフルエンザ薬の使い分け

新年あけましておめでとうございます。

引き続きインフルエンザについての記事を。

現在使える抗インフルエンザウイルス薬は多くがノイラミニダーゼ阻害薬と呼ばれるもので、
・ザナミビル(リレンザⓇ)
・オセルタミビル(タミフルⓇ)
・ペラミビル(ラピアクタⓇ)
・ラニナミビル(イナビルⓇ)
の4種類です。

では、同じ機序をもつノイラミニダーゼ阻害薬の4剤をどう使い分けるか。そもそも、これらの薬剤の効果は、どれも有症状期間を1日程度短縮するくらいのものです。この4剤は、解熱までの時間(期間)もほぼ変わらず、臨床効果にあまり違いはないと考えていいでしょう。
大きな違いは剤形で、オセルタミビルは内服、ラニラミビルとザナミビルが吸入薬、ペラミビルが点滴という違いになります。

ラニラミビルは1回吸入で投与が完了するという利便性と、服薬アドヒアランス向上の点から、特に開業医の先生方はよく使われているかと思います。エビデンスというところで申しますと海外の第U相試験でコケて承認されず、という経緯がありましたのでちと弱い。
また、吸入薬(ラニラミビルとザナミビル)は、吸入力が不足しているとうまく吸い込めませんから、高齢者や4歳以下の患者さんでは使うのが難しいところです。

ペラミビルは点滴製剤であるがゆえに、外来患者さんだと点滴が終わるまでの時間、院内に留め置くことになり、感染対策上あまり好ましくありません。入院を必要とするような重症例や、内服も吸入も難しい患者さんに限られるように思います。なお「点滴」ゆえに「内服薬」より効果が高いと思われがちですが、効果としては同等です。

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2024年12月31日

抗インフルエンザ薬は使うべきなの?

本日も昨日に引き続き、インフルエンザについて寄稿します。少しでも現場の皆様のお役に立てば幸いです。皆様、よいお年をお過ごしください。


抗インフルエンザ薬をこんなにたくさん使っている国は、日本だけです。保険制度が行き届いて、さほど負担がないこともありますし、「使わなくて悪化したら患者さんに訴えられるかも」という消極的な理由もあるでしょう。

ですが、あえて抗ウイルス薬を投与せず「布団をかぶって寝ときましょう」という選択肢もあるのです。なんてったって20年前(タミフル以前)はそうだったのですし、今でも日本以外の国では多くの場合そのようにされています。感染症のエキスパートの多くは、口を揃えて「抗インフルエンザ薬はそんなに処方するものではない」とおっしゃいます。以下のような根拠によります。

多くの研究結果から、健康な大人やある程度の年齢の子供が抗インフルエンザ薬を使用しても、症状のある期間が平均1日前後短縮するだけで、重症化率などは減少しないことが分かっています。
そういう人が軽症のインフルエンザになっても、基本的には何もしなくても自然に改善していく(self-limited)疾患であると考えられています。
その一方で、重症の患者さんや合併症リスクの高い患者さんでは、抗インフルエンザ薬を服用することで、死亡・重症化・入院などのリスクが減少します。

*抗インフルエンザ薬を使うデメリット
抗インフルエンザ薬を使うデメリットの1つは副作用です。一時有名になったオセルタミビルによる異常行動については、因果関係が明確でないと判断され、処方制限を解除されましたが、それ以外にも吐き気・嘔吐などの消化器症状があります。

それからもう1つは、あまりに広く使われると耐性ウイルスが広がってしまうのではないか、という懸念です。すでにオセルタミビルは耐性ウイルスが流行した実績(?)があり、他の治療薬においても、耐性ウイルスへの懸念は常に持っておく必要があります。

これらの事情を総合して、インフルエンザの患者さんには何でもかんでも抗インフルエンザ薬、ではなく、症例を選んで投与することが推奨されています。

*抗インフルエンザ薬を使うメリット
抗インフルエンザ薬による治療が医学的に明らかにメリットがある(推奨される)人は、合併症の恐れのある患者さんです。アメリカ疾病管理予防センター(CDC)によると、

・5歳未満の小児(特に2歳未満)
・高齢者(65歳以上)
・妊婦・産後すぐの女性
・療養施設などに入所中の人
・慢性疾患・免疫機能低下のある人
  慢性呼吸器疾患
  神経疾患・神経発達疾患
  内分泌疾患
  心疾患
  腎疾患
  肝疾患
  血液疾患
・肥満者(BMI≧40kg/m2)

が挙げられています。私どもの施設でも慢性呼吸器疾患(喘息、COPD、間質性肺炎など)を有する通院患者さんが多く、そういう患者さんがインフルエンザになった時には、抗インフルエンザ薬を処方する機会が多いのが現実です。

それ以外にも、患者さんにはいろいろな事情があります(受験生、医療従事者など)。よくよくメリットとデメリットを勘案されて、処方を検討していただければと思います。

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2024年12月30日

インフルエンザ診断のポイント

例年でしたら年末年始モード、となるところですが、今年はインフルエンザの大流行もあり、急遽インフルエンザの記事をお送りすることにしました。これまでにない患者さんの数、薬が足りず替わりの薬にお困りの先生方、患者さんに説明をする必要のあるメディカルスタッフの皆様に、何らかのお役に立てると幸いです。


インフルエンザとは、ご存じの通り、普通の風邪とは全く違う、インフルエンザウイルスによって起こる病気です。普通の風邪が、くしゃみ・鼻水・咳などが主な症状なのに対し、インフルエンザの症状は、39℃以上の高熱と、全身の激しい症状(頭痛、全身の筋肉痛、関節痛、嘔吐、下痢、倦怠感)などです。
それが、数日から、長い人で10日ぐらい続くわけです。また、肺炎、脳炎など様々な合併症もあります。まれですが、乳幼児が脳炎、脳症になると命を落としたり、後遺障害を来したりすることもあります。
そのため、日本では治療薬が随分普及しています。ほんの十数年前までは、安静にしておくぐらいしか手がなかったインフルエンザですが、抗ウイルス薬がたくさん開発されて、隔世の感がありますね。

インフルエンザ診断のポイントは、
•急な発熱
•全身症状(筋肉痛、頭痛、関節痛など)+上気道症状(咳、鼻閉、咽頭痛)
•周囲で流行
などです。流行シーズンで基礎疾患がなく、これらのポイントがそろっていれば、検査なしでも診断していい、と考えられます。

もちろん、迅速キット陽性なら診断は容易ですが、問題は陰性のときです。感度100%の検査ではありませんので、陰性だからといって否定はできません。特に、病初期、B型などの場合、陽性率は低くなります。
迅速キット陰性でも、sick contactが明らかで症状が典型的であれば、診断することは可能です。投薬もOKですし診断書だって書けます。

じゃあ、検査しなくてもいいじゃない…。全くその通り。念のため、とか、患者さんに説明しやすい、という理由で検査されているのでしょう。学校や職場にインフルエンザと診断されたと申し出て休むためのお墨付き、という側面もありますよね。

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2024年12月28日

COVID-19治療に用いる抗ウイルス薬

ニルマトレルビル・リトナビル(パキロビッドレジスタードマークパック)
外来症例、軽症〜中等症T症例における第1選択薬です。遅くとも発症5日目までに投与する必要があります。
薬物相互作用が多いので注意が必要です。
腎機能障害があると投与量を調節する必要があります。

モルヌピラビル(ラゲブリオレジスタードマーク
外来症例、軽症〜中等症T症例においてニルマトレルビル・リトナビルが使えないとき(薬物相互作用や腎機能の問題で)の代替薬として出番があります。発症5日目までに投与します。妊婦さんや妊娠の可能性がある女性には使えません。重症化予防効果はニルマトレルビル・リトナビルに及ばないようです。

レムデシビル(ベクルリーレジスタードマーク
主に入院症例、中等症U〜重症症例に使いますが、外来症例、軽症〜中等症T症例にも使用可能です。発症7日目までに投与する必要があります。中等症U〜重症症例では5日間、軽症〜中等症T症例では3日間投与します。
副作用としては肝機能障害、腎機能障害、Infusion reaction(投与関連反応)が挙げられます。

エンシトレルビル(ゾコーバレジスタードマーク
2024年12月現在では重症化予防効果ではなく症状の早期改善が主なエビデンスである上にメーカーの振る舞いにお行儀の悪さが目立ち、微妙な立ち位置となっています。

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2024年12月27日

COVID-19について2

COVID-19の重症度分類をおさらいしておきます。

軽症 SpO2≧96% 呼吸器症状なし、あっても咳のみ 胸部X線写真などで肺炎所見なし
中等症T 93%<SpO2<96% 呼吸困難あり、肺炎所見あり
中等症U SpO2≦93% 酸素投与を要する呼吸不全
重症 ICU入室ないし人工呼吸器が必要
(新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き第10.1版)

診断時の重症度とともに薬剤選択にあたって検討が必要なのが、重症化リスク因子です。インフルエンザと考え方は似ていますが、重症化しそうな患者さんでしたら抗ウイルス薬を使う根拠になります。

重症化リスク因子
高齢者(60歳以上)
肥満者(BMI≧25kg/m2)
喫煙者(過去および現在)
悪性腫瘍
糖尿病
心血管疾患・高血圧
慢性呼吸器疾患
肝疾患
慢性腎臓病
精神疾患・神経発達疾患
妊娠・産褥
基礎疾患のある小児
鎌状赤血球症
免疫低下状態
(新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き第10.1版)

リスク因子に該当する項目がなければ基本的には対症療法で、該当する項目があれば抗ウイルス薬を投与します。重症化リスク因子を有する症例では、抗ウイルス薬投与が予後の改善につながりますが、ウイルス量が増え切ってしまってからでは遅く、可能な限り早期の投与が望まれます。

また中等症U以上の症例では、抗ウイルス薬が終わるタイミングでデキサメサゾン(デカドロンレジスタードマーク)を免疫抑制療法として投与します。それ以上の集中治療を要するようなケースではトシリズマブなどの抗体製剤も選択肢に挙がりますが、専門的な話になるためこちらでは言及しないでおきます。

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2024年12月26日

COVID-19について

喘息について一段落しましたので、次は肺炎以外の感染症に参ります。

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の診療については、2024年になってエビデンスも診療実績も出そろい、いろいろと落ち着いた感がありますので、ここで一旦原則をまとめておきましょう。

COVID-19は新型コロナウイルスが体内で増殖し、それに対して免疫系が過剰に反応してサイトカインストーム(各種サイトカインが過剰に産生されて臓器障害をきたす)が起こってしまう感染症です。

ウイルス感染症にありがちですが、ウイルスによる直接の臓器障害もさることながら、サイトカインストームによる臓器障害も予後に関係するため、治療の考え方としては

ウイルス量の多い病初期は抗ウイルス薬
        ⇓
時が経ってサイトカインストームが吹き荒れる頃には免疫抑制療法

ということで間違いありません。

抗ウイルス薬は薬価も高く副作用、薬剤相互作用もありますので、基本的にはある程度悪化しそうな患者さんに使うべきです。というか、ワクチン接種や感染の蔓延によってある程度免疫がついている状態で、いわゆる「ただの風邪」となる症例が増えている現在、軽症者に対しては対症療法でよろしい、ヤバそうなら抗ウイルス薬、ということになります。

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2021年03月22日

『風邪を診るすべての医療従事者のための Phaseで見極める! 小児と成人の風邪の診かた&治しかた』読了

先日献本いただきました『風邪を診るすべての医療従事者のための Phaseで見極める! 小児と成人の風邪の診かた&治しかた』永田理希(希惺会 ながたクリニック院長/感染症倶楽部シリーズ統括代表) (著) 読了いたしまして、amazonレビューを投稿しましたが、しばらく掲載されないようですので、こちらでも宣伝しておきます。それだけ、多くの方に読んでいただきたい本ということです。

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(レビューここから)
著者の永田理希先生は感染症倶楽部を長期間にわたり一人で運営され、感染症に関する有用な情報を発信されてこられた先生です。永田先生の講演を一度でも聞いたことがあれば、その「熱意」を体感されていると思いますが、元々耳鼻科専門医と言う属性に加え、開業医として総合診療に携われ(=膨大な症例経験がある)、感染症に関して大変な質・量の勉強をされている。以前から申し上げているのですが、症例をたくさん経験されている開業医の先生が文献にしっかり当たって勉強されると、最強の臨床医になられるんですね。ただそういう先生は稀であり貴重な存在というところがあるわけです。
この書籍の参考文献をざっと眺めるだけでも永田先生のこれまでの勉強が推察されるかと思いますが、とにかく「風邪様症状」診療に対する、これまで経験的に行われていたような対症療法であったり、抗菌薬治療投与であったり、一つ一つのプラクティスに関する根拠を、本当に丁寧に文献にあたり解説をしてくださっている本になります。私も「風邪」診療や診断に関して色々と勉強しなくてはならない立場でありますが、上気道の分野に関してはこの書籍一冊あれば、他に文献を集める必要もなく、座右に置いておくには最強の書籍だと思います。
底流にある思想としては、とにかく風邪症候群をはじめとするウイルス性疾患や鼻炎などに対し、無駄な抗菌薬を使わないということで、薬剤耐性(AMR)対策アクションプランが厚生労働省によって言われるずっと前から、感染症倶楽部を通して永田先生が訴えてこられていたことがしっかりと丁寧に語られています。私自身もプラクティスとしてはやっていたものの、その根拠に関してしっかりとした根拠を必ずしもパッと提示できなかったことも多々あり、大変勉強になります。
上気道炎に関連して、咽頭痛を呈する性行為感染症(STD)に関してもページを割かれていますし、いわゆる風邪薬(対症療法薬)の使い方に関してもその根拠が丁寧に示されています。耳鼻科の先生ならでは、耳・鼻・喉の診かた図説も親切です。そしてなかなかデメリットの多い西洋薬に対して、副作用の少ない漢方薬を用いる方法を示されていて、漢方薬の成分からしっかりと紹介されていて、大変勉強になります。
世に「風邪本」は名著がたくさんありますが、風邪の患者さんを多く診療される開業されている先生や病院勤務であっても一般内科外来をされている先生方は、今一度風邪に関するプラクティスをしっかりと確立されることをお勧めしたいところでありますので、やはり何冊か通読されることをお勧めします。その中の一冊としてこの書籍がお手元にあるのが理想的です。
(感想ここまで)

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2014年01月13日

風邪の民間療法3

■風邪をひいた時は風呂に入らない方が良い

入浴自体は体温を上げることになりますから、そこだけを見るとウイルスの除去に役立つようにも思います。しかし、湯船につかるのはホンの少しの時間ですね。で、あがってから寒い脱衣場で身体を拭き…ということをやっていると、すぐに体温が下がっています。いわゆる「湯冷め」です。これでは却ってよろしくないですね。


また、湯船につかると水圧で心臓に負担がかかります。そのため体力の消耗につながります。これも風邪で体力が低下しているときには、好ましくないでしょう。


そのため、数日のことであれば、入浴しなくても差し支えない、ということであれば別に入らなくていいでしょう。昔から?「身体が汚くても命に関わることはない」と言われていますし。


それでも(あたたかくして寝ていることで)汗をかいて痒い、とか、入らないと気持ちが悪い、とかいうことであれば、上記の問題点をクリアーした上で入っても差し支えない、とは思います。


具体的には体力を消耗しないよう、シャワーや、入ってもぬるめのお湯に短時間入る。それから湯冷めしないように脱衣場を暖めて、上がったらすぐに布団へ入る、というあたりのこと方法が勧められるでしょう。

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2014年01月12日

風邪の民間療法2

■風邪をひいたら首にネギを巻くと良い

昨日も書いたように、「これをしたから風邪が早く治る」と証明することはなかなか困難ですが、「何となくスッとする」「楽になったように思う」と感じることが出来る方法はいくつかあるようです。


ネギに含まれる成分で硫化アリルというものがあります。それがビタミンB1の吸収効率をよくするため、エネルギーの代謝が活発になり体温が上昇すると言われています。


ネギに限らずニンニクやショウガなどにも同様の成分が含まれており、体温を上げる作用がありますから、食べればある程度効果はあるでしょう。生姜湯とか飲むと温まりますね。また、硫化アリルは刺激臭の元ですから、首に巻いて吸入しても効果が得られるのかもしれません。あるいは首に巻くのは、喉に接触させることで喉の炎症を軽減させる効果があるのでしょうか。


硫化アリルには殺菌作用があるとする説もありますが、いわゆる薬のような効果が期待できるものかどうかはハッキリしたデータがないようです。印象としては、消炎(炎症を鎮める)効果かなあと思っています。

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2014年01月11日

風邪の民間療法1

ちょっと未確定ですが、とあるTVのクイズ番組に使う問題の監修を依頼頂きました。いわゆる民間療法というか、巷間で言われている「風邪の対処法」が、医学的に正しいのかどうか、みたいな問題なのですが、これがなかなか難問であったりするのですね。


「医学的に証明されていない」「データがない」場合にどう考えるか、という話になるのです。というのも、今や医学界では「比較試験」が常識。比較試験というのは、たくさんの患者さんを2群(例えば1,000人を500人ずつ)に分けて、片方の群は薬を使って、もう片方では偽薬(見た目が薬と同じで、効果がない成分のもの)を使う。それで明らかに薬を使った方が早く治ったとか、そういうことが科学的に証明されたら「効果あり」となるわけです。


これが風邪とかになると、そもそも風邪というのは以前書いたように、「自然に治る」ものなんですね。そんな風邪に対して風邪薬が「効果あり」と言うためには、使わなければ治るのに平均5日かかるところを、薬を使ったら平均3日で治った、という具合のデータが必要なのです。


で、まあ前提条件として、そういう「風邪が早く治る、という明らかな効果」を認められている「カゼ薬」は無い、ってことです。まあ、咳が治まる、とか、鼻症状が、とか、そのあたりだとちょこちょこデータはあるのですが…。


ですので、巷間言われている民間「療法」について語ろうとしても、「医学的に」はデータもないし、難しいわけです。ですので、理論的にこうだろうな、というところを申し上げる形になるのですが…根拠はあるようなないような。


まあでも同じようなことはよく尋ねられますから、こんなふうに答えています、みたいな参考にしていただけたらと思い、載せてみます。



■風邪をひかない為には厚着より薄着の方が良い?

これは、身体を鍛える、って感じのことでしょうか。「子供はカゼの子」「乾布摩擦」「寒稽古」などで、寒いときに敢えて寒そうなことをするのが健康によさそう、みたいなイメージがあるのかもしれません。


理論的には体温が高い方が免疫は活性化し、一般的な風邪の原因になるウイルスは生存しにくくなるので、薄着で体温を低くするのが風邪の予防になる、とは考えにくいと思います。一時的に薄着で稽古などをすると、その後血行が良くなって身体が温まるかも…とは思いますが、ずっと薄着とはまた意味が違いますね。


例えばインフルエンザにかかると高熱が出るのは、インフルエンザウイルスが高温に弱いので、身体がウイルスを排除するためにわざと熱を出すのです。まあ、風邪の症状(鼻汁とか下痢とか…)はおおよそ、ウイルス排除のために身体がわざとやっていることですから、症状を止めると却って治りにくくなる、とも言われています。


ですから風邪を引いたときは、「あたたかくして寝る」が一番、というのが理に叶っています。ただ、あたたかくしすぎて汗をかくとそれで身体を冷やしてしまうので、こまめに着替えることも必要ですね。

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2013年08月23日

かぜ症候群についてあらためてガイドラインなどを勉強9・ガイドラインの目指すところ・医師の教育・患者さんの教育

そんなわけで、かぜ症候群、普通感冒に関する国内外のガイドラインではいずれも、今ある抗菌薬を大切に使うために、正しくウイルス性上気道感染を診断して、その患者さんには抗菌薬を処方しない、という共通の考え方がなされているのです。


そのためには、ガイドラインの一般医家、非専門医への一層の普及も望まれますが、先に述べたとおりガイドラインは相当に古いものであり、また、熱心なメーカーによるスポンサーシップも望めません。したがって、地道にこうやって訴えかけ続ける、これしかありません。


実はそれよりも大切なのは「患者さんへの」教育ではないかと思うのです。患者さんが正しい知識を持てば、「喉が痛いから抗生物質を処方してほしい」とか「あそこは抗生物質を出してくれないからダメ」などと言われることはないでしょう。


「風邪だったら、抗生物質はいりませんね?」とか、「あそこは簡単に抗生物質を出さないから信頼できる」みたいなことを患者さんがおっしゃるようになれば、医師も変わる。変わることができる。抗菌薬を処方しなくてもよくなる、そんなふうに思うのです。


そういうことができるのはやはりマスコミかな〜と。でも巨大な風邪薬スポンサーを敵に回すか?いや、回さないか。むしろ風邪薬でいいんですよ的な感じにすれば(まあ、それも決して真ならずですけど)、いけるんじゃないでしょうか。


かぜ(風邪・感冒・カゼ)をちゃんと診療する

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2013年08月21日

かぜ症候群についてあらためてガイドラインなどを勉強8・ガイドラインの目指すところ・人類の未来はどうなるのか

えらく大きなタイトルで恐縮です。今回の内容は、キッチリ裏付けを取ったわけではなくて私の個人的な感想、妄想も含まれております(妄想が大半であればよいのですが…)。こんな考えもあるんだ、程度に読み飛ばして頂ければ。



耐性菌が蔓延ると、抗菌薬は効かなくなってくる。それで、より強力?な、より広域な抗菌薬を開発する…これが、これまでの人類の歴史でありましたね。


ところが残念なことに、新規抗菌薬の開発は滞っております。


ナゼでしょう?



それは明白で、儲からないから。抗菌薬って、必要なとき(感染症に罹ったとき)だけ使って、治れば終了、ですよね。例外はいくつかありますが…。いくら単価が高くても、それでは売り上げに限りがある。


そうではなくて、「ずーっと使ってもらえる薬」これが、製薬メーカーの目指すところになっています。もっと言えば、効果がそれほどなくても( ̄▽ ̄;)、まあ副作用がなくて、患者さんが生きておられる限り使って頂ける薬。


昨今エビデンスエビデンスとうるさいので、なんか統計学的に差が出たら、そこを宣伝。タイミング的に私の立場でこれ以上のことは書けませんが…。そういう薬がメーカー的には、安定した収益となるのでいいんですよね。


ですから、最近出る新薬と言えば、降圧薬、高脂血症薬、抗凝固薬…みたいな、「何となく処方してしまう」薬ばかり。いや、そりゃきちんと使われていることはわかるのですが、抗菌薬に対して、使われ方の印象です。あくまで。


あとは、リウマチの薬ですね。リウマチの患者さんは発症されてから何十年も生きられることが多いですから、ダラダラ何年〜何十年にもわたって使われる。


決してこれらの薬を批判しているわけではありません。必要な薬です。製薬業界も合併だ、M&Aだ、リストラだ、と世知辛い世の中ですから、しっかり儲かる薬を販売する、ということもうなずけます。


しかし!もはや新規作用機序の抗菌薬が発売されない、ということになりますと、今後の人類の運命は如何に、と心配になる気持ちもわかって頂きたいのです。


今でも多剤耐性緑膿菌、VRE、アシネトバクターなど、かなりキツイ耐性菌が続々と生み出されているのに。これ以上ややこしい菌を作ったら…という以前に、キノロン耐性菌とか、カルバペネム耐性菌が普通に市中肺炎とかで原因菌になるようだと、本当に困るでしょう。


マクロライドの轍を踏まないように、キノロン、カルバペネム、ゾシンを大切に使いましょう…でも、大切に使う、ということは、なるべく使わないようにする、ということ。メーカーとしては、それは困ったりするのですね。大事にされると売れなくなる、ということは、新製品を開発する意欲が削がれますよね。


正しいことをするとお金が儲かるのが理想ですが、現実の世の中では、正しいことをするほどお金にならなくなる、という現象が起こりえます。個人レベルでは理想を追い求めることが幸せにつながることもあるわけですが、会社レベルでそれをすることは会社の存続にすら関わることとなり、なかなか踏み出せなくなっている、.そんな状況なのかなあ、と思います。


そうなれば、せめて今ある薬を大切に使う。せめて個人レベルでは正しいことをしたいものです。そういう背景がガイドラインの根底に流れている感じなのかなあ、と思う今日このごろです。


かぜ(風邪・感冒・カゼ)をちゃんと診療する

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2013年08月20日

かぜ症候群についてあらためてガイドラインなどを勉強8・ガイドラインの目指すところ・抗菌薬が尽きてゆく現状に

いろいろとガイドラインを読んで参りましたが、もちろん策定された時期、国などによる細かな違いはありますが、目指すところはそう大きく変わりません。



やはり根本にあるのは、「抗菌薬の使い過ぎを、どげんかせんといかん」ということ。


抗菌薬は使えば使うほど、生き残りの菌が蔓延る結果となり、その抗菌薬が「効かない」菌が増えてくるのです。これは間違いない。


クラリスロマイシン。元々はグラム陽性球菌にスペクトラムを持つ抗菌薬。呼吸器感染症の原因として大変多い肺炎球菌、連鎖球菌に加え非定型病原体にも効果があり、大変「便利」な薬でした。しかもさらに便利なことには、問題となる副作用、特に小児に対する副作用が少ない。


そのため、「発熱」で外来を訪れる小児にこれでもかこれでもか、と使われ続けたわけです。「念のため」。そりゃ親にしたら「熱が出てるんだから、バイ菌を殺す薬ぐらい出してほしい。」と思われるのは、まあ宜なるかな。問題は医師が、「まあ念のため抗菌薬を処方しとこうか。熱が下がらなくて『ヤブだ』と思われても困るし。」と、処方をしたところにあります。


そのため、短期的にはとってもよかった。小児は解熱し、親は「あの先生が出してくれた薬はよく効いた」となり、めでたしめでたし。別に抗菌薬がなくても解熱したんですけど。でその結果、小児の副鼻腔、口腔、咽頭なんかに常在する菌たちは繰り返し投与されるクラリスロマイシンにいつしか耐性を持つようになってきたのです。


下手なたとえで恐縮ですが、年金制度や健康保険制度も、短期的に皆がハッピーになるような施策をとった結果、もう破綻寸前になっている、まあそんなイメージでしょうか。


どうも人間というやつは、短期的なメリットを見るばかりに長期的なデメリットに眼をつぶってしまう、そういう性質があるようです。一事が万事。


閑話休題。


もはやクラリスロマイシンは、肺炎球菌にスペクトラムを持つ、とは言えなくなりました。70%以上が耐性菌です。細菌による上気道感染には効かなくなってしまった。同じようなことが、多くの抗菌薬で現在進行形、起こりつつあるのです。


かぜ(風邪・感冒・カゼ)をちゃんと診療する

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2013年08月19日

かぜ症候群についてあらためてガイドラインなどを勉強7・self limitingな呼吸器感染症に対する抗菌薬処方に関するNICE guidance

UpToDateレジスタードマークでも引用されていた2008年のNICE (National Institute for Health and Clinical Excellence)guidanceに、呼吸器感染症(respiratorytract infection=RTI)ケアのフローチャートが掲載されていましたのでご紹介。イギリス版のガイドラインです。結局これが一番新しいガイドラインになるようです。


(引用ここから)
初診時には病歴(現在の症状、OTC薬による自己治療歴、既往歴、関連する危険因子と併存症)を確認し、診断に必要な検査を行って臨床的に評価をする。


抗菌薬を使用するにあたり、患者の懸念と希望を考えて、@抗菌薬を処方しない A抗菌薬を後で処方する B直ちに抗菌薬を処方する の3つのやり方を考慮し同意を得る。


急性中耳炎、急性咽喉頭炎、急性扁桃炎、普通感冒、急性鼻副鼻腔炎、急性の咳/気管支炎に対しては@またはAでいく。

@抗菌薬は直ちに必要なく、症状にはほとんど効果がないし、下痢や嘔吐や湿疹といった副作用の可能性がある、と説明し納得してもらう。悪化したり経過が長引くときには受診してもらう。

A抗菌薬は直ちに必要なく、症状にはほとんど効果がないし、下痢や嘔吐や湿疹といった副作用の可能性がある、と説明し納得してもらう。症状が終息しない、あるいは明らかに悪化した場合「後で処方」の抗菌薬を使用する。「後で処方」の抗菌薬を使用しても明らかに悪化する場合、再受診するよう説明しておく。「後で処方」の抗菌薬(の処方箋)と説明の書面は最初から患者に渡しておいても良いし、決められたところに後日取りに来る、でもよい。


以下の疾患に対しては、RTIの程度によって@、AあるいはBを選択する。

・2歳未満の小児の両側急性中耳炎
・急性中耳炎の小児の耳漏
・急性咽喉頭炎/扁桃炎患者でCentorの基準を3項目以上満たすもの

(参考)Centorの基準
・扁桃滲出物の存在
・圧痛を伴う前頸部リンパ節腫大
・問診状の発熱
・咳嗽の欠如


下記の状態は合併症のリスクがあり、B直ちに抗菌薬を開始するとともに/またはさらなる精査が必要。

・全身状態が明らかによくない。
・特に肺炎、乳様突起炎、扁桃周囲膿瘍、扁桃周囲蜂窩織炎、眼窩内または頭蓋内の合併症などを示唆する所見がある。
・合併症の高リスクとなる併存症状がある。重症の心、肺、腎、肝、神経筋疾患や、免疫不全、未熟児など。
・65歳以上で急性の咳があり、下の項目を2個以上満たすか80歳以上で急性の咳があり、下の項目を1個以上満たす。
 前年度に入院歴あり
 1型または2型の糖尿病
 うっ血性心不全の既往
 経口ステロイド薬を使用中


どの場合においても、通常の自然経過についてと、病状が持続する平均日数を伝える。

・急性中耳炎:4日間
・急性咽喉頭炎/急性扁桃炎:1週間
・普通感冒:10日間
・急性鼻副鼻腔炎:2.5週間
・急性咳/気管支炎:3週間

(引用ここまで)


ここで強調されているのは、やはり「プライマリ・ケアにおいて抗菌薬使いすぎ。どうやって減らそうか」ということです。で、かの国でも「患者さんの要望により」抗菌薬を多く処方されている状況が愚痴られて…いや、問題視されています。オランダの倍使っているとか。


で、患者さんに正しい情報を伝えて理解していただき、抗菌薬の節約を納得していただこう、そんな感じの流れになっています。もちろん、悪化がみられる場合には抗菌薬を開始、あるいは再受診という流れまでここで規定されていて、かなり「できあがった」感が強いように思います。


かぜ(風邪・感冒・カゼ)をちゃんと診療する

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2013年08月16日

かぜ症候群についてあらためてガイドラインなどを勉強6・「風邪」の診かた

かぜ症候群について語る上で参考にするべき書籍として、2012年に発行された「誰も教えてくれなかった『風邪』の診かた」(岸田直樹先生著)は今や外せないでしょう。


きちんと筋道立てて、またしっかりと根拠を提示しながら、明快に鑑別診断を進めていく、私がこんなことを言うのもアレですが、まさに名著だと思います。


風邪の患者を診る可能性のある(要するに全ての)外来に携わるドクターにご一読いただきたいところではありますが、ちと項目が多くて大変だ、ということも理解できます。


そこで、少しだけそのspiritをご紹介しておきましょう。とっても大事な視点です。こういう、「今まで何となくぼんやりと思っていたこと」を見事に言語化して下さっている内容が満載です。これは、もうちょっと読まなくては、と思われた方は是非ご一読を。



(spiritここから)
細菌感染は1臓器(器官)が被害を被るが、ウイルス感染は多臓器(器官)が同時に、多発性にやられる。「同時」「多発」がウイルス感染の特徴である。


上気道炎に引き続いて細菌による二次感染が生じる際には、症状が一旦収束してから二峰性に症状が生じる。その場合は1カ所の症状になる。


したがって、咳・鼻汁・咽頭痛の3つを同時に同程度訴える患者さんは「風邪」であると言える。
(spiritここまで)


同時に同程度、多発。これはウイルス感染といってよい、ここが大事なのです。この考え方が後々、かぜ症候群の鑑別をしていく上で、役に立つのです。


かぜ(風邪・感冒・カゼ)をちゃんと診療する

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2013年08月15日

かぜ症候群についてあらためてガイドラインなどを勉強5・日本のガイドライン2

引き続き「成人気道感染症診療の基本的考え方」より。


(ここから大意を引用)
かぜの対症療法。

発熱、疼痛に対して解熱鎮痛薬を使用されることは多いが、発熱は生体防御に有利に働くことを考慮し、安易に投薬することは慎むべきである。患者の苦痛が強くメリットがデメリットを上回る場合を相対的適応とし、基本的には頓用で投与すべきである。
小児では非ピリン系のアセトアミノフェンが推奨されるが、成人では酸性NSAIDsが用いられることが多い。

鼻汁、鼻閉、くしゃみは副交感神経系の亢進、アセチルコリンの作用による鼻粘膜の充血、腫脹によってみられる症状である。抗ヒスタミン薬、吸入副交感神経遮断薬、点鼻血管収縮薬などが鼻粘膜のうっ血、浮腫を改善する目的で使用されるが、これらの長期連用には問題があり、短期間、回数を限って使用するのが原則である。

湿性咳嗽では去痰のための咳反射であるから、鎮咳薬は用いないのが原則である。しかし咳嗽が激しく、不眠や体力消耗につながると判断される場合には薬物治療の対象となる。
@中枢性鎮咳薬 麻薬に属するものとしてリン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデイン、非麻薬性としてデキストロメトルファン(メジコンレジスタードマーク)、リン酸ジメモルファン(アストミンレジスタードマーク)、クロペラスチン(フスタゾールレジスタードマーク)がある。いずれも副作用に留意するべきもので、慎重に用いる。
A末梢性鎮咳薬 含嗽水・トローチは咽頭痛、咽頭不快感などを伴う咳嗽に用いる。去痰薬は喀痰を伴う咳嗽に用いる。気管支拡張薬は喘鳴や呼吸困難を伴う咳嗽に用いる。

漢方薬では葛根湯や麻黄湯などが「かぜ症候群」によく用いられているが、使用にはある程度の経験と知識が必要である。

ウイルス性上気道炎(かぜ症候群)は基本的に抗菌薬の適応ではない。しかし、ウイルスの上気道粘膜への先行感染が細菌感染症を続発することはある。明確に細菌感染を思わせる臨床症状、所見を見た場合には適正に抗菌薬を用いる。次の症状、所見が認められる場合には抗菌薬の適応と考える。
・高熱の持続
・膿性の喀痰・鼻汁
・扁桃腫大と膿栓・白苔付着
・中耳炎・副鼻腔炎の合併
・強い炎症反応(白血球増多、CRP陽性、赤沈亢進)
・ハイリスク患者

抗菌薬選択について
βラクタム系薬は同一用量の注射薬での投与に比べて、経口薬での血中濃度や組織移行濃度は十〜数十分の1である。特に頻用されている第3世代経口セフェム系薬は気道への組織移行が低く、エンピリックに低用量で用いるのは好ましくない。
βラクタム系薬の気道病巣への移行は、炎症の急性期には比較的良いが、炎症の消退に伴って濃度移行が低下する。
マクロライド系、テトラサイクリン系経口薬の気道病巣への移行濃度は、血中濃度と同等か、むしろ高いものもある。
(引用ここまで)


いやあ彼我の違いというか、新しさの問題というか、何というか。UpToDateレジスタードマークとはいろいろな点で異なりますね。


片やいちいち選択された薬剤にエビデンスが付いている。片やなし。その他の項目でも、此方は結構ふんわりとした根拠が述べられていて、UpToDateレジスタードマークとは異なる見解も多い。異なるところは、新しい方、エビデンスの多い方を尊重すべきかなとは思います。


ただ、10年前から、抗菌薬に関してはキッチリとした見解を述べておられる点は素晴らしいと思います。しかし一般医家に対して、十分な啓蒙ができているとは決して言い難い…。




また、日本のガイドラインで新しいものとして、日本感染症学会・日本化学療法学会の「感染症治療ガイド」も見ておきましょう。


(ここから大意引用)
まず普通感冒については、咳、鼻汁、咽頭痛の3つを同程度の症状で訴えることが多い。

特に咽頭痛が強い場合は急性咽頭・扁桃炎とする。咽頭痛を主訴とし、咳、鼻汁、発熱を伴うことが多い。ウイルス性上気道炎が4〜6日で改善せず、咽頭痛、発熱などの主症状が増悪したときに急性咽頭・扁桃炎の病態をとっていて、細菌感染の可能性が高いと考える。
常にウイルス感染と細菌感染の鑑別を心がけ、抗菌薬を適正使用する。

耳鼻科コンサルテーションのタイミング:口蓋扁桃、咽頭粘膜の腫脹や頸部リンパ節腫脹が著しい場合、開口障害を伴う場合、咽頭痛に呼吸困難、流涎、喘鳴を伴う場合(急性喉頭蓋炎)

急性咽頭・扁桃炎の原因微生物として推定されるのは、Streptococcus pyogenes(A群β−溶血性)が最も重要。推奨される抗菌薬は第1選択がAMPC。第2選択以降は、各方面に「配慮」された何でもあり状態。
重症例ではAMPC点滴静注かCTRX点滴静注。

急性喉頭蓋炎の原因微生物として推定されるのは、やはりStreptococcus pyogenes(A群β−溶血性)とHaemophilus influenzaeなど。推奨される抗菌薬は第1選択がCTRX点滴静注。第2選択はSBT/ABPC他。
(大意ここまで)


簡潔ですが鋭いですね。新しさも感じます。しかし、どうにもこうにも各方面に配慮しすぎ、と思うのは私だけでしょうか。


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2013年08月14日

かぜ症候群についてあらためてガイドラインなどを勉強4・日本のガイドライン

ガイドライン外来診療「かぜ症候群」結局困っている理由というのが、この「日本のガイドライン」にあるのですね。現在参照する日本のガイドラインで「かぜ症候群」について語っているのは、日本呼吸器学会による「成人気道感染症診療の基本的考え方」であります。


これは、市中肺炎ガイドラインの前身である「成人市中肺炎診療の基本的考え方」、院内肺炎ガイドラインの前身である「成人院内肺炎診療の基本的考え方」、と同時期に作られたものでありまして、とにかく古い。2003年の刊行です。


まあガイドラインというやつは、スポンサーが付けば(≒新薬が出れば)毎年のように?改訂されるのですが、そうでない場合はそうではない、ということになってしまっておりまして。


COPDのガイドラインは早くも2004年、2009年に続いて今年第4版に改訂されました。次々と新しく薬が発売されるのですね。シ○ブリとかオ○ブレスとか。盛り上がっております。


それに対して、かぜ症候群の薬なんて…PL?大昔からの薬、薬価は1包6円。こんな薬、売れても売れなくてもメーカーにとっては…てなもんで、熱心に学会のサポートをしても、ムダと言えばムダ。


ガイドラインは必要があれば、エビデンスが蓄積されてスタンダードが替われば、改訂されると思っていたのですが、必ずしもそうとも言えないようです。もちろん、かぜ症候群に関する新しいエビデンスが多くない、といえばそうなのかもしれません。



独り言はこのぐらいにして、ガイドラインの内容を。あくまで2003年当時の内容であることにご留意ください。


「成人気道感染症診療の基本的考え方」は、かぜ症候群だけが採り上げられているわけではなく、急性上気道炎(ここにかぜ症候群が含まれます)、急性下気道感染症、慢性下気道感染症の3群が取り扱われています。


(ここから大意を引用)
かぜ症候群の原因微生物は、ライノウイルス(30-40%)、コロナウイルス(10%)、RSウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスといったウイルスが全体の80-90%を占め、残りを一般細菌、マイコプラズマ、クラミジアが占めている。

実地外来診療の場では、患者の身体所見から診断を下し、対症療法を行わなければならないことが多い。

いわゆる「かぜ症候群」の治療方針決定のためには、まず正しく臨床診断することが求められる。通常成人は1年間に3〜4回の「かぜ症候群」に罹患する。ほとんどがウイルスによる急性上気道炎であり、鼻汁、咳、咽頭痛、微熱などの臨床症状を示す。軽症の場合、患者は自宅療養で自然治癒するが、一部の患者はいわゆる市販「かぜ薬」を服用し、一部の患者は医師による診断、治療を求めて病院・診療所を訪れる。そして医師はこれら来院した患者の半分以上に抗菌薬を投与しているのが実情である。

多くの感染症専門家は、このウイルス感染症に対する抗菌薬の処方こそが耐性菌増加の原因となっていることを指摘している。

かぜ治療薬の大衆広告も、「かぜ」に対する過剰な治療を推奨するかのような印象を人々に与えている。

大切なのは、かぜは自然治癒するもので、「かぜ薬でウイルス感染そのものを治すものではない」ことを、患者に理解させることである。
(引用ここまで)


10年前に、ここまでガイドラインは言い切っていたのですね!

果たして、10年間で、私たちはどれほど患者さんに大切なことを伝えてきたでしょうか。


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2013年08月13日

かぜ症候群についてあらためてガイドラインなどを勉強3・普通感冒の治療と予防

UpToDateレジスタードマーク、あまりこればかり読んでいてもアレですが、結構いろいろといいことが書いてありますので、もう少しだけ駆け足で見ておきます。


(ここから大意を引用・斜字は私が追加しました
二次的な細菌感染の徴候がなければ、抗菌薬は効果がないし、使用すべきではない。普通感冒の治療は対症療法が主である。
鼻汁の培養は現実的ではないし、細菌感染患者を発見するコストも見合わない。また、色の付いた鼻汁をもって二次細菌感染の証拠と考えるべきではない。

対症療法に関して、2008年の英国NICE(National Institute for Health and Clinical Exellence)ガイドラインでは、患者さんに対して以下のようなアドバイスをするよう勧められている。

・罹病期間はせいぜい10日間。喫煙者では14日間である。

・鎮痛薬と解熱薬を含め、対症療法のメリットとデメリットを説明する。

・抗菌薬は必要なく、副作用の危険性もあることを説明、確認する。

・困っている問題と希望を議論する。

・治るはずの日数が経過しても治らなかったり、悪化したりしたときは再受診するよう伝える。


勧められる薬剤
・点鼻イプラトロピウム(日本には同製剤はありません。吸入薬のアトロベントがイプラトロピウムです

・点鼻クロモリンナトリウム(日本ではインタールレジスタードマーク

・局所または経口の鼻充血緩和薬であるpseudoephedrine(プソイド(偽)エフェドリン)、フェニレフリン(ちなみに塩酸メチルエフェドリンは日本ではメチエフレジスタードマーク。フェニレフリンはネオシネジンレジスタードマークというα刺激薬で、ショック時に使われる、あるいは散瞳に使われる薬剤ですが、フェニレフリン配合の感冒薬は多数販売されています)。
ただしpseudoephedrineを含んだ感冒薬が広く販売されていたが、アンフェタミン系ドラッグの材料として不法に使われるにいたり、FDAによって購買に制限が掛けられた。フェニレフリンはpseudoephedrineより効果が弱いため、制限もない。

・もしくは抗ヒスタミン薬と鼻充血緩和薬の合剤は勧められる。
抗ヒスタミン薬単独では、鼻症状は改善するものの全体症状は改善しなかった。第1世代は効果の割に副作用(眼・鼻・口の乾燥、眠気)が多く、勧められないと結論づけている。鎮静の少ないものは効果がない。


咳に対しては、普通感冒の咳はたいてい鼻閉か後鼻漏によるので、いわゆる「鎮咳薬」を必要とされることはほとんど無い。American College of Chest Physiciansのガイドラインでも、上気道感染症による咳に対する鎮咳薬(コデインやデキストロメトルファン=日本ではメジコンレジスタードマーク)は勧められないとしている。ただ、デキストロメトルファンは単独、またはβ2刺激薬との併用で効果があったとする研究もあるので、去痰薬であるグアイフェネシン(日本ではフストジルレジスタードマーク)と共に咳症状に対しては使ってよいと考えられる。コデインは効果がないとする研究があり、上気道感染による咳には使わない方がいい。

点鼻ステロイドは、アレルギー性鼻炎や急性、慢性の鼻副鼻腔炎には効果が証明されているが、普通感冒に対しては効果が認められていない。

1970年代半ば、亜鉛イオンがライノウイルスの増殖を抑制した、という報告以降、多くの研究が行われたが、嗅覚喪失を含む副作用のため使用は勧められない。

多くの研究で、ビタミンCの予防効果は、極限状況の人で見受けられる以外にはわずかであるとされている。エキナセア(ハーブの1種)やビタミンEは感冒の予防に使わない。
(引用ここまで)


いやあ面白かったです。もう日本のやり方と随分違う。結構身もフタもないことが書いてあったり、あるいは何じゃこりゃ、という薬剤について大まじめに(当たり前か…)議論されていたり。


確かに「PLが効く、PLでないと効かない」とおっしゃる患者さんはたくさんおられるのです。おそらくそれはPLに含まれるメチレンジサリチル酸プロメタジンが効くのでしょう。


上で言うところの抗ヒスタミン薬+鼻充血緩和薬の合剤って感じなのでしょうね。


そしてまあ、いつも問題になる「抗菌薬を投与すべきかどうか」問題。いや、別にいつも問題になるわけではなく、こちらとしては「二次細菌感染がなければ使わない」でいいのですが…いつも患者さんが「抗生物質を出してほしい」と希望されるので問題になる、というところです。


上でいうところの、「困っている問題と希望を議論する。」にあたるんでしょうか。


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2013年08月12日

かぜ症候群についてあらためてガイドラインなどを勉強2・普通感冒の診断

UpToDateレジスタードマーク、あまりこればかり読んでいてもアレですが、結構いろいろといいことが書いてありますので、ちょっと駆け足で見ておきます。


(ここから大意を引用)
ウイルスの伝搬において手指による接触感染が重要であることはこれまでに繰り返し示されている。ウイルスは手に付着しても2時間は失活しないことがわかっている。ルゴールによる手指消毒が感染を予防したという古い報告があるが、アルコール消毒はどうも効果が限られるようである。殺ウイルス処理をされたティッシュを使うと伝搬抑制になるかもしれない。

飛行機の中で空気が循環しているが、それで感染のリスクが上がるというデータはない。90%の普通感冒患者の唾液にはウイルスがいない。

普通感冒の症状は、大方が感染に対する免疫反応によって起こっている。膿性鼻汁は普通感冒でも、合併する細菌性鼻副鼻腔炎によっても生じうるので、両者を鑑別する手段としては使えない。

普通感冒の症状としては鼻症状がもっともよく見られる。他に咽頭痛、咳と倦怠感が多い。発熱は小児ではよくあるが、成人ではあまり見られない。

普通は初期から鼻症状が見られ、咽頭痛、あるいは喉がいがらっぽい、という症状が、発症初日のもっとも煩わしい症状である。咽頭痛はすぐに治まり、2日目、3日目には鼻症状が優位になり、咳は通常4〜5日目に強くなり、その頃には鼻症状が治まってくる。

通常の免疫力を持つ患者であれば、普通感冒は3〜10日程度で治るが、合併症、特に副鼻腔炎などを併発するともっとかかる。

診断は通常症状と徴候からなされる。身体診察では結膜充血、鼻粘膜の腫脹、鼻閉、咽頭発赤を認めうる。肺は気管支攣縮が合併していない限り無所見である。

よく似た症状を呈する、鑑別すべき疾患は、アレルギー性鼻炎、季節性鼻炎(花粉症)、細菌性喉頭炎・扁桃炎、急性細菌性鼻副鼻腔炎、インフルエンザ、百日咳。

鼻炎との鑑別は咽頭痛や咳の存在で、細菌性扁桃炎との鑑別は鼻症状の存在で可能である。急性細菌性鼻副鼻腔炎だったら鼻症状に加えて顔面(頬部)痛があるし、インフルエンザなら高熱、頭痛、筋痛がある。
百日咳は、病初期は普通感冒に似た症状であるが、そのうち遷延する発作性の、嘔吐や無呼吸を伴う咳嗽が残るので典型的であればすぐにわかる。

合併症は急性鼻副鼻腔炎、下気道疾患、喘息発作、急性中耳炎。ウイルス性副鼻腔炎は大変しばしば感冒に合併するが、抗菌薬治療なしで軽快する。
(引用ここまで)


何気なく?たいへん重要なことが書いてありましたね。鼻をかんだティッシュを介して手に付着したウイルスが遷っていく、ってことでしょうか。やはり手洗いは重要。


咽頭痛→鼻症状→咳、という流れは納得できるもので、ご自分の経験を思い出してみても、咳が出だして、鼻汁が固く(濃く)なってきて、それで治る、という流れが多いでしょう。


診断と鑑別診断に関しては、治療にも関わってくるところですが、症状から鑑別可能、というところがミソであります。common diseaseは症状から鑑別可能、なのです。


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2013年08月09日

かぜ症候群についてあらためてガイドラインなどを勉強1・普通感冒の概要

「かぜ症候群」のガイドライン外来診療。


まずは困ったときのUpToDateレジスタードマークを紐解いてみましょうか。意訳ですけど。そもそも「かぜ症候群」という用語はなく、common cold(普通感冒)がそれに近いかなと思いますので、その項目を読んでみましょう。


(ここから引用)
普通感冒は、いくつかのグループのウイルスによって引き起こされる、一連の良性の、そんなに悪くならない疾患の総称である。
米国や先進国においてもっとも頻度の高い急性疾患である。
「普通感冒」という用語は、さまざまな程度の鼻症状、咽頭痛、咳、微熱、頭痛や倦怠感症状を呈する軽症の上気道ウイルス性疾患のことである。
普通感冒はインフルエンザや喉頭炎、急性気管支炎、急性細菌性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、百日咳とは鑑別すべき概念である。

米国では毎年5億もの非インフルエンザ呼吸器感染症が発生し、莫大なコストがかかっている。

普通感冒の発症率は、就学前児童で平均年間5〜7回、成人で年間2〜3回。米国では感冒のために年間学校を2600万日、職場を2300万日欠席していることになる。人々が欠勤する時間の40%が感冒によるとされていて、多くの研究費が感冒の予防、治療に費やされている。

200種類以上のウイルスが普通感冒の原因になっている。ライノウイルスは100以上の型があり、感冒の原因の30〜50%を占めている。次がコロナウイルス。アデノウイルスは喉頭炎や発熱を普通感冒よりも強く起こしたりするが、基本臨床症状からウイルスの型を推測することは出来ない。

ほとんどの呼吸器ウイルス感染症は、再曝露により再感染しうるが、初回よりは症状が軽度であることが多い。
(引用ここまで)


ふむふむ。大体あちらの教科書は、最初にこういう大局的な、というか定義があってお金のことがあって…みたいな流れになりますね。人数を掛けているので欠席日数などは多いか少ないのかよくわかりませんが、とにかくカゼで休む人はそれなりにいるようです。


ウイルスによって、症状は違うこともあるわけですが、そんなに分けてもしょうがない、みたいな感じでしょうか。○○ウイルスにはこの薬が…とかなると話は全然違ってくるのでしょうが、現状ではウイルスによって治療が異なるわけでもなく、あまり細かく鑑別する意味はないように思います。


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2013年08月08日

かぜ症候群についてあらためてガイドライン?などを勉強

以前少し書きましたが、このたび「ガイドライン外来診療 2014」という立派な書籍の執筆依頼をいただきました。


私自身、そもそも勉強熱心な方ではなく、体系立てて教科書を読む、とか、文献を山ほど読む、ということが苦手なものですから、このブログも教科書的な知識の「網羅」にはほど遠く、日々の教育で「これは伝えなくては」と感じた事柄や、ご質問いただいたことなどを順不同に書き綴っているものであります。


なので、タイトルを決めるときに、当初「やさしイイ教科書」としていたものを、「とてもじゃないけど、教科書とは言えないな〜」と思い直して、「呼吸器教室」としたわけです。今では、教室で教えている感じがでて、いい名前じゃないかなあと思っています。


(余談ですが、アマゾンのレビューで「研修に必要な知識が網羅されているわけではない」とのご指摘をいただいております。誠にごもっともなご指摘ですが、特につまずきやすいポイントを取り上げて解説した、とご理解いただければ幸いであります)


そんな私がまさに教科書的な執筆依頼をいただきますと、いい加減なことは書けませんから「さあ大変、どうしましょう」と一から勉強することになりまして、大変ためになることは間違いありません。それだけになかなか腰が重くなり、取りかかれないのもまた事実であります。


しかし今回は、他ならぬ大恩ある京大名誉教授の泉孝英先生からの直々のご指名ですので、しっかりと書かねばなりません。キッチリ勉強していきます。



しかし今回のご依頼は「かぜ症候群」。


うーむ。


ガイドライン、ありましたか?


いつも書いているような診断、治療の「根拠」って、どうなんでしょう?


執筆にあたっては、結構勉強しなくてはならないような気がします。ちょっとお付き合いいただけますでしょうか?


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