2016年03月09日

ARDSの診断基準

昨日ああ書きましたが、全力で校正をした結果、一旦完了出来そうです。なかなかしんどかったですね…。


今日は、ARDSの診断基準について、校正の過程で加筆しておりますので、それを掲載しましょう。


ARDSの診断基準は、これまでにも変遷がありました。できる限り広く臨床医にARDSの概念を知らしめ、早期治療を可能にするために、また、さまざまな臨床試験の基準とするために、出来るだけ簡便かつ明快な基準が求められていました。


現在使われている診断基準(ベルリン定義)は、2011年の欧州集中治療医学会で原案が公表され、その後最終版が2012年JAMAに掲載されたものです。
Acute respiratory distress syndrome: the Berlin Definition.
ARDS Definition Task Force. JAMA. 2012 Jun 20;307(23):2526-33


ベルリン定義以前は急性肺損傷(ALI)という用語があり、その中の重篤なものをARDSとしていたのですが、ALIは廃止され、すべてARDSで統一、分類は重症度で、ということになりました。


定義の考え方としては先に述べたとおりで、急速に進行する(1週間以内)心原性でない(両側の)肺障害でもって、酸素化が著しく悪くなる、ということになります。


診断基準は以下の通りです(文献より引用改変)。


  • 急性の経過:既知の危険因子による侵襲や、呼吸器症状の出現・増悪から1週間以内の経過である

  • 胸部画像:両側性の陰影(胸水、無気肺、結節では説明出来ない)

  • 肺水腫の原因:心不全、輸液過剰のみでは説明出来ない(心エコーなどで除外が必要)

  • 酸素化(P/F比):201〜300(PEEP、CPAP≧5cmH2O下にて)⇒軽症(mild)
    101〜200(PEEP≧5cmH2O下にて)⇒中等症(moderate)
    100以下(PEEP≧5cmH2O下にて)⇒重症(severe)

トップページへ

posted by 長尾大志 at 12:59 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年11月24日

症例検討クイズ4・慢性呼吸不全の急性悪化・その後

その後痰の分泌が多くなり、一旦ベンチュリーマスクに変更したり戻したり、ということがありました。また、内服が出来ずパーキンソン病自体が悪化して呼吸運動が低下しましたが、それも注射薬への変更で対応でき、少し紆余曲折がありましたが、その後は呼吸器の設定をあまりいじることなく



pH 7.254、PaO2 84.6Torr、PaCO2 61.3 Torr、HCO3- 26.5mmol/L
 ↓
pH 7.289、PaO2 74.3 Torr、PaCO2 56.3 Torr、HCO3- 26.4mmol/L
 ↓
PH 7.473、PaO2 79.0 Torr、PaCO2 42.1 Torr、HCO3- 30.2 mmol/L


と改善してきました。


厳密にはSpO2を見ながら、FiO2のセッティングを少しずつ減らしてはいますが、それはもうおわかりでしょうからここでは省略します。


今回はどちらかというと換気不全(によるCO2貯留)への対応としてNPPVを使っていますから、PaCO2を見て改善傾向あり⇒このまま継続、という感じで経過しているのがおわかり頂ければいいと思います。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 18:06 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年11月19日

症例検討クイズ4・慢性呼吸不全の急性悪化・マスク換気開始

その時点で上級医に相談があり、意識レベルはやや改善していてCO2も若干改善しているものの、呼吸回数多く浅薄、呼吸筋疲労も考慮し、マスクによるNPPVを導入されました。器械はBiPAP Visionを用いました。


・初期設定は、S/Tモード、I/E:8/4、FiO2:60%で開始し、SpO2を見ながらFiO2を下げていきます。


基本的にはNIPネーザルもほぼ同じことで、FiO2が定まらないことが異なります。SpO2を見ながら、横から流すO2の流量を調整します。


モニター上TVは400-500mL台で、MVは11-13L/分と換気は十分に保たれ、SpO2も95-96%でした。



今日はここまで外来+臨床実習からの3回生講義2コマで、これから第5回胸愛会ですので、これにて失礼します。今日はクリッカーを使ってみましたが、好感触でした。もう少し問題を練ればイイものが出来そうです。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 17:09 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年11月18日

症例検討クイズ4・慢性呼吸不全の急性悪化・動脈血ガス分析

(室内気 安静臥床)pH:7.235, PaO2:28.2mmHg, PaCO2:78.5mmHg、HCO3-:32.1mmol/L


pH:7.235のアシデミア、その原因はPaCO2:78.5mmHgのU型呼吸不全、HCO3-は32.1mmol/Lですから、ある程度慢性にCO2蓄積があり、代償機転でHCO3-が上昇していたところに、今回の増悪がCO2をさらに増加させ、pHが破綻した、と解釈出来ます。


そこで、研修医の先生はベンチュリーマスクによる酸素投与を開始しました。PaO2:28.2mmHgと低酸素がかなり強いので、FIO2 50%、12Lで開始されました。


するとpH:7.190、PaO2:91.8mmHg、PaCO2:90.0mmHg、HCO3-:33.1mmol/Lと、酸素化は改善しましたがCO2の上昇、アシデミアの悪化を来します。


そこでベンチュリーのFIO2を減らして40%、8Lとしたところ、pH:7.223、PaO2:88.4mmHg、PaCO2:76.2mmHg、HCO3-:30.7mmol/Lと若干改善傾向になりました。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 20:16 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年11月17日

症例検討クイズ4・慢性呼吸不全の急性悪化・症例提示続き

<入院時検査所見>
HB 13.3   
WBC 18,600 H
PLTS 175
PT-P 11.4  
APTTP 23.4 L
PT-INR 0.98
TP 6.6    
ALB 3.9 L
AST 40 H  
ALT 9
LDH 430 H  
T-BIL 0.96
NA 143   
CL 104
K 3.7    
UN 36.0 H
CRE 1.50 H  
eGFR 35.1
CRP 1.26 H  
BNP 497.06 H

【血液ガス】
(室内気 安静臥床)pH:7.235, PaO2:28.2mmHg, PaCO2:78.5mmHg、HCO3-:32.1mmol/L
(その後、ベンチュリー50%、12L)pH:7.190、PaO2:91.8mmHg、PaCO2:90.0mmHg、HCO3-:33.1mmol/L
(さらにその後 ベンチュリー40%8L)pH:7.223、PaO2:88.4mmHg、PaCO2:76.2mmHg、HCO3-:30.7mmol/L


【胸部単純X線】右中下肺、左中肺野に浸潤影あり。


入院時写真.jpg


さてさて、如何致しましょうか…。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 14:00 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年11月13日

症例検討クイズ4・慢性呼吸不全の急性悪化・症例提示

80歳代男性

<主訴>
呼吸困難


<現病歴>
元々、パーキンソン病で神経内科、肺気腫で当科加療中であった。数年前から施設に入所して生活していた。前日夜までは普通に食事をし、元気に過ごしていたが、当日夜中に不隠となり、呼吸があらかったために明け方SpO2を測定すると80%と低値を認めたために、当院救急外来を受診された。受診時、SpO2:50%と低値で、両肺に喘鳴を聴取し、胸部単純X線写真で右中肺野を中心に濃度上昇を認めた。肺炎によるCOPD急性増悪と診断して、加療のため入院となった。


<既往歴>
肺気腫→SFC250、テオフィリンで加療中。
パーキンソン病→メネシット、レキップ内服中。


<喫煙歴>
40本×50年 ex-smoker


<職歴>
主に営業


<粉塵暴露歴>
特になし


<アレルギー>
特になし


<入院時身体所見>
BP: 128/56、努力呼吸、呼吸数:37回/分、HR:104bpm
SpO2:47%(room air)→95%(マスク5L)→95%(ベンチュリー50% 12L)→93-94%(ベンチュリー40% 8L)
るいそうあり。意識レベル:JCS2-20
呼吸音:両肺でwheeze(+), 左呼吸音減弱
心音:頻脈のみ 整
両下肢edema(-)


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 16:38 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年11月12日

症例検討クイズ4・慢性呼吸不全の急性悪化・・症例提示をしたいところですが…

もう1例、COPD症例を提示しようかと思いますが、今日は講義3時間(する方)が終わって、つい今午後の外来が終わって、これから講義1時間半(聴く方)+2時間(聴く方)があるので、時間がありません。明日にさせて頂きます。


講義で導入したアクティブ・ラーニング(グループワーク)はしっかり機能していたように見受けました。これは収穫です。これからどんどん取り入れていきたいですね。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 17:11 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年11月11日

死腔換気とは3

すなわち、1回換気量が少なくなればなるほど、1回換気量のうち死腔の占める割合が増え、ガス交換に関係のないムダな空気の動きが多くなり、呼吸回数を増やしてもあまり正味の換気量が増えない、ということになるのです。


逆に言えば、1回の呼吸には必ず死腔分の容量が含まれているので、呼吸回数が増えれば増えるほど、ムダ換気が増える、ということになるわけです。そんなわけで、呼吸回数をいたずらに増やすことは推奨されませんし、自発の状態で頻呼吸になっているなら、いっそ鎮静をかけて器械による換気に乗せてしまう方が、効率がいいということになるわけです。


というわけで、「1回換気量が減ったから呼吸回数を増やして換気量を補う」は半分正解ですが、半分は間違いということになります。


死腔換気のことがあるゆえに、程度問題ではありますが、1回換気量はそんなに極端には減らせませんし、呼吸回数もそんなには増やせない、このように理解しましょう。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 14:10 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年11月10日

死腔換気とは2・1回換気量によって、正味の換気量が変わる。

人工呼吸器でモニターできる分時換気量は、1回換気量✕呼吸回数ですから、1回換気量500mLで呼吸回数12回だと、


500✕12=6,000mL


となります。


1回換気で実際にガス交換される=肺胞に出入りする空気の量が350mLであれば、1分間に12回呼吸すると、1分間に正味肺胞に出入りする空気の量は、


350✕12=4,200mL


となりますね。


例えば、1回換気量が減った、そうすると分時換気量を保つために呼吸回数を増やして補おう、となるわけですが、例えば1回換気量が300mLになったとしましょう。


モニターできる分時換気量を先ほどと同じ6,000mLにしようとすると、呼吸回数は


6,000÷300=20回


ですから、設定を20回にして、「ああ、前と同じだ」と思っていると…。



1回換気量が300mLになっているということは、1回換気で実際にガス交換される=肺胞に出入りする空気の量は、


300−150=150mL


ですから、1分間に20回の呼吸では、正味肺胞に出入りする空気の量は、1分間で


150✕20=3,000mL


となり、ずいぶん少なくなります。これは死腔の分(死腔換気)を計算に入れていないからで、見かけの換気量が同じであっても、呼吸回数で稼ぐ場合には思ったほど換気していないことがあるわけです。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 16:11 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年11月09日

死腔換気とは1・死腔とは

死腔換気の前に、死腔のお話をしなくてはなりません。死腔とは、要するに肺の中で、呼吸に関係のない部分をいいます。


具体的には、呼吸、ガス交換は肺胞腔で行われていて、口腔・鼻腔から気管、気管支や細気管支といった「気道」では行われていません。これら、肺胞を除いた気道のことを解剖学的死腔といいます。


血ガス呼吸管理図スライド169.jpg


厳密に言いますと、換気血流ミスマッチを起こしている肺胞でもガス交換はなされていませんので、それを含めたものを生理学的死腔と呼びますが、健常人ではこれらはほぼ等しく、150mL(2mL/kg)程度とされています。


いずれにしても、ガス交換に寄与しない部分を死腔というわけです。


例えば、体重50kg、1回換気量500mLの場合、1回換気で実際にガス交換される=肺胞に出入りする空気の量は、おおよそ


500−150=350mL


となります。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 16:23 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年11月06日

症例検討クイズ3・慢性呼吸不全の急性悪化・設定の変更

波形モニターを確認すると、やはりまだオートPEEPがありました。何とか血圧が100前後と安定してきていたので、PEEPを上げて8cmH2Oとしました。


それでもなかなかTVが上がらなかったのですが、呼吸回数はあえて減らして、従量式に変えてTVを330mLと設定することで、呼吸回数を20回程度にしても換気量が保てるようになりました。結果、


pH 7.283, PaCO2 71.7Torr, PaO2 80.2, HCO3- 32.8


と、少し落ち着いて参りました。



当初はTVが少なめで呼吸回数が多く、なかなかCO2が捌けなかったようですが、その理由の1つは死腔換気が増えたことによると考えられます。


以前の記事を見直してみると死腔換気について説明がありませんので、それについては来週取り上げたいと思います。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 18:30 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年11月05日

症例検討クイズ3・慢性呼吸不全の急性悪化・当初の経過

モニター上、TVは250mL程度であり、自発はほぼなし。呼吸回数は24回でMVは6L。


挿管後何度か血ガスを採ったのですが、数時間経過後の血ガス結果を見てみましょう。


pH 7.135, PaCO2 92.1, PaO2 73.3, HCO3- 29.9。


う〜んもう少し、というところでしょうか。CO2は減ってきましたが、まだpHも低いし…。


換気量はMVが6Lと保たれていますが、オートPEEPがどうなのか、というところ、それにそもそも呼吸の回数がちと多くて、きちんと息が吐けてるのかな、というところが気になりますね。そこで…。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 16:58 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年11月04日

症例検討クイズ3・慢性呼吸不全の急性悪化・呼吸器の設定

pH 7.051, PaCO2 104.9, PaO2 82.8, HCO3- 28.4, BE -6.1(O2 4L 鼻カニュラ)。


pH<7.25で危険なアシデミア、PaCO2が異常高値であり、呼吸性アシドーシス、代謝はHCO3-がそれほど上がってきておりませんので、あまり代償していない、つまり急性の呼吸性アシドーシスということになります。


PaO2はO2吸入で何とかなりそうですが、とにもかくにもしっかり換気をして、PaCO2を迅速に飛ばさなくてはなりません。ですから換気に重点を置いた設定となるでしょう。


COPDの病態と呼吸管理〜オートPEEPに対する戦略〜の項目でも書きましたが、COPDに対する人工呼吸管理の要点は、やわやわでふくらみやすく、縮みにくい、そんな肺に換気をしっかりさせる、そのために気をつけることは…


  • I:Eは1:2以上、吸気時間は1秒以内

  • 呼吸回数はせいぜい15回まで(吸気時間をしっかり取るため)

  • TVは10mL/kg以下でよいが換気量が維持できるように

  • オートPEEPが見られなくなるように適切なPEEPをかける

  • 大事なところは、設定後、モニターや血ガスの結果を見ながら微調整する点



でありました。それで、当初研修医の先生が決めた設定は、


  • 【SIMV+PSモード】

  • FiO2:50%

  • PEEP:4cmH2O

  • PS圧:4 cmH2O

  • PC圧(PC above PEEP):20 cmH2O

  • 換気回数: 24回



でした。結果…


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 17:33 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年11月02日

症例検討クイズ3・慢性呼吸不全の急性悪化・症例提示

症例 60歳代男性

数年前より咳、痰が多く近医受診し投薬を受けたが改善せず、当院初診となる。COPDと診断し投薬にて症状は軽減していた。

2週間前より労作時呼吸困難を自覚した。定期受診時に胸部X線写真で肺炎が疑われ、入院となった。



ちなみに元々の動脈血ガス分析は、

pH 7.436, PaCO2 39.4, PaO2 56.5, HCO3- 25.9, BE 1.7(室内気、安静)で、在宅酸素療法の導入予定でした。


入院時の動脈血ガスは、

pH 7.051, PaCO2 104.9, PaO2 82.8, HCO3- 28.4, BE -6.1(O2 4L 鼻カニュラ)。


いかにも具合が悪そうですね…。血圧低下、意識障害もあり、挿管人工呼吸管理としました。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 18:40 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月30日

症例検討クイズ2・急性呼吸不全・その後の経過3

PaO2は何とか保たれていますが、PaCO2の急速な悪化で呼吸性アシドーシス、pHの低下が出てきました。換気量の低下が背景にありそうですから、換気量を増やすためにしっかりと器械換気をさせる必要がありそうです。


  • 【SIMV+PSモード】

  • FiO2:70%

  • PEEP:8cmH2O

  • PS圧:12 cmH2O

  • PC圧(PC above PEEP):16 cmH2O

  • 換気回数: 14回



PC圧を上げてTVを増やし、器械換気の回数も増やす。その後PaCO2は40台、pHも7.3を超えて数日は小康状態でしたが、途中でファイティングが多くなり、鎮静をかけてPCVにしました。PaO2はよかったのでFiO2、PEEPを下げています。


  • 【PCVモード】

  • FiO2:60%

  • PEEP:8cmH2O

  • PC圧(PC above PEEP):14 cmH2O

  • 換気回数: 22回



その後治療に抗して悪化しました。その都度FiO2を上げ(60⇒70⇒80)、PEEPは血圧低下があったので上げず、換気回数を上げ(22⇒25)、とギリギリのところで調整を試みましたが、最後は残念ながら…となりました。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 16:40 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月29日

症例検討クイズ2・急性呼吸不全・その後の経過2

pH正常範囲でPaCO2もHCO3-も問題なし。問題は酸素だけですね。ただ、SpO2低下があったときに呼吸状態が乱れ、若干頻呼吸気味となっていたようで、主治医はCPAPからSIMVに変更しています。


  • 【SIMV+PSモード】

  • FiO2:70%

  • PEEP:8cmH2O

  • PS圧:8 cmH2O

  • PC圧(PC above PEEP):8 cmH2O

  • 換気回数: 8回



おそるおそる様子を見ながら、という感じでしょうか。しかしその後状態はさらに悪化し、自発が減って、


pH 7.265, PaCO2 53.1, PaO2 81.6, HCO3- 23.1

となってしまいました。このままではいけませんね。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 16:16 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月28日

症例検討クイズ2・急性呼吸不全・その後の経過1

第9病日には自発もしっかり出て、設定もCPAPになるまで改善していました。鎮静はほとんどかかっていない状態で、意識もしっかりしています。


  • 【CPAPモード】

  • FiO2:50%

  • PEEP(CPAP):6cmH2O

  • PS圧:6 cmH2O



O2がもう少し改善すれば、と思われていた矢先に、状態が急変。SpO2低下があり、血ガスを測定したところ、


pH 7.392, PaCO2 37.6, PaO2 56.1, HCO3- 22.4


となっていました。さて、どう解釈して、どう設定し直しますか?


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 16:46 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月27日

症例検討クイズ2・急性呼吸不全・人工呼吸設定1

敗血症でARDS、意識状態が悪く挿管、当初の設定は型どおりフルで器械に換気させる持続強制換気(continuous mandatory ventilation:CMV)、PCV(従圧式)でスタートしています。


ただ、意識障害のため高CO2となっており、pHにも影響が出ているので、hypercapnia(高CO2)はそれほどpermissive(許容できる)ものではありません。逆にO2には少し余裕がありますね。


本症例では、O2を決めるFIO2とPEEPはゆるめに、CO2を飛ばし気味にするべく換気量を多くするよう、PC圧と換気回数を多めに設定しました。


  • 【PCモード】

  • FIO2:70%

  • PEEP:8cmH2O

  • PC圧(PC above PEEP):18 cmH2O

  • 換気回数: 20回



で開始、その後状態は落ち着き、4時間後の血液ガスは


pH 7.348, PaCO2 40.7, PaO2 120.1, HCO3- 21.5


となりました。その後状態は改善し、一旦抜管直前まで向かったのですが…。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 18:16 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月26日

症例検討クイズ2・急性呼吸不全・症例提示

65歳女性

<主訴>
発熱、呼吸困難


<現病歴>
左大腿部滑液包炎によるDIC、敗血症、ARDSの治療をCTRX、DAP、CLDMで行い、滑液包の洗浄、デブリを施行して一旦軽快していたが、その後呼吸困難が生じ、胆嚢炎による敗血症、ARDS発症と考えられた。
TAZ/PIPC投与、気管内挿管を行い、人工呼吸器管理となった。


血ガス所見と呼吸器のみに注目しまして、見て参りましょう。


血液ガス:pH 7.294, PaCO2 55.0, PaO2 103.9, HCO3- 21.3


意識状態がよろしくありません。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 21:10 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月23日

症例検討クイズ1・まとめ

本症例は市中肺炎による急性呼吸不全でした。幸い初期治療で用いた抗菌薬が奏効し、比較的早い段階で軽快傾向となりましたので、呼吸器の設定も途中からはほぼ一本調子で緩めていけました。


まあ良くなるときというのはこんなモノかもしれません。そういうときって、多少設定がアレでも何とかなるものですから。


問題は悪い状態が続く、あるいは悪化してくるときでしょう。いろいろな制約がconflict、干渉してきて、「あちらを立てりゃ、こちらが立たず」状態になってしまいます。


そういうときにどちらを立てるか?決まり事はありませんのでその都度主治医の裁量によるところが大きいように思います。


ギリギリの攻防という症例、お役に立つかどうかはわかりませんが、来週取り上げられたら取り上げてみたいと思います。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 17:43 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月22日

症例検討クイズ1・急性呼吸不全・人工呼吸設定8

そこで血液ガス。


pH:7.418 PaO2 : 103.0 mmHg PaCO2 : 42.1 mmHg B.E : 1.8 mmol/L HCO3 : 26.6 mmol/L Na : 140.7 mmol/L K : 3.1 mmol/L CL : 107.0 mmol/L A.G : 10.7 mmol/L  Glu : 99.0 mg/dL  


しごく平和な感じの結果となっております。自発もしっかり出ておりました。これを受けて、ウイーニングを進めて参ります。


ウイーニングにあたっては自発呼吸トライアル(spontaneous breathing trial:SBT)の開始基準を確認しておきましょう。


  • 原疾患が治療により改善

  • 痰の喀出が可能

  • PEEP<5cmH2O

  • P/F比>200mmHg

  • 血行動態が安定(昇圧剤使用不要)

  • 意識清明

  • 1回換気量が充分ある



上記の基準はほぼ満たしておりますから、次はTピース、またはCPAP+PSVに切り替えて見守り、OKならば抜管へ、という流れになります。


ここでは設定をCPAP+PSV:FiO2 0.35(35%)、PEEP(CPAP)6 cmH2O、PS圧 8 cmH2Oとし、呼吸や循環に異常がなかったため抜管としました。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 17:29 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月21日

症例検討クイズ1・急性呼吸不全・人工呼吸設定7

この血ガスを受けて、呼吸器の設定をさらに緩めていきます。SpO2を見ながらFIO2を下げ、換気量を見ながらPC圧やサポート圧を減らします。


血行動態も改善してきましたので、徐々にノルアドレナリンやドーパミンを下げていきます。経腸栄養、リハビリも開始しました。


人工呼吸器の設定:

モード:SIMV+PS
FIO2 0.35(35%) PEEP 6 PS圧 8 PC圧 8 呼吸回数12回


自発呼吸が増えてきましたので、SIMVの呼吸回数を減らしていきます。最終的に、呼吸回数を8回まで減らして…。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 19:19 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月20日

症例検討クイズ1・急性呼吸不全・人工呼吸設定6

採血結果を書くのを忘れていました。


HT 37.1
HB 12.6
WBC 53,000
PLTS 29.9万
TP 5.4
ALB 2.6
AST 86
ALT 56
NA 142
CL 108
K 3.5
UN 20.9
CRE 1.02
CRP 41.40



PaO2/FiO2=144/0.5=288なので 中等症ARDS→軽症ARDS に改善しました。酸素化は良好で、このまま、抜管を目指せる雰囲気です。


そこでFIO2を下げて肺傷害の軽減とウイーニングを図ります。
⇒FiO2を40%にします。


現在PEEP8cmH2Oなので、今後こちらも減らすことができるでしょう。まあ、慌てて減らすほど血圧やプラトー圧に問題がなければ、このままでも構わないでしょう。


昨日と比較して、アシドーシスは改善しています。

AG=Na+ −(Cl- +HCO3- )
  =142 −(108 + 19)
  =15

AGは前日20が15に低下していました。こちらも改善傾向が見られます。


呼吸状態はは落ち着いており、SpO2 100%でほとんど強制換気に乗っている状態でしたので、ウイーニングに向けて自発呼吸を出すべく、SIMV+PSに変更しました。また、換気量を減らして呼吸刺激を与えるために、PC圧も 16→12に下げました。


設定:SIMV PC 12, PEEP 8 PC16 FiO2 50%


この結果、1回換気量は700⇒500ml程度に減り、自発呼吸が少し出始めたので、観察しながら再調整を行いました。


換気量を見ながらPC圧、PS圧を少しずつ絞り、SpO2が良好なのでPEEPも下げ、最終的に下の設定で動脈血ガスを採りました。


モード:SIMV(PC)+PS
FiO2 40% PEEP6 PS圧 10 PC圧 10 SIMV回数12

モニター上TV380 SpO2 97%


血液ガス
pH7.421、PaO2 137、PaCO2 42.8、HCO3 27


だいぶ良さそうですねー。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 18:30 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月19日

症例検討クイズ1・急性呼吸不全・人工呼吸設定5

その後翌日にかけて、尿量が回復して(9.0時間で600ml)血圧が安定してきました(収縮期血圧 129(ノルアドレナリン0.03γ、ドーパミン3γ)。良さそうな気配が漂ってきます。


呼吸器は、PEEP 8 FiO2 60% PC 16 PR 12の設定でSpO2 100%であり、FiO2 を50%としました。血圧が戻ってきましたので、無理にPEEPをいじる必要もないと考えました。


設定変更後には必ず動脈血液ガスを取ります。結果は、pH 7.405、PaCO2 31.0、PaO2 144.8、HCO3 19.0、BE -4.3。


アシデミアは解消されています。まだ換気量が多いからかPaCO2は低めですが、PaO2は充分すぎるほどですね。


さて、いかがしましょうか。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 18:15 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月16日

症例検討クイズ1・急性呼吸不全・人工呼吸設定4

・モニター上TV 700mL、MV 8.4L/分を示し、プラトー圧は28cmH2OでSpO2 94%。血圧は90/50程度でした。


⇒ TV700mLは十分で、もっと減らしても良さそうです。プラトー圧が28cmH2Oはいささか高めなので、PC圧を下げるといいでしょう。



・動脈血液ガス所見は、pH7.368 、Pa 74.8Torr、Pa2 29.4、HCO3- 16.5でした。


上でも書きましたが、換気量が多く、PaCO2が低値です。PaO2は低めなので、少し何とかするか、もう少し粘るか、といったところですが、PEEPをいじろうにも血圧が低く(ノルアドレナリン使用中)、FIO2で対応せざるを得なかったのです。


結果、PC圧(PC above PEEP )を下げて16にしました。


その後も厳しい状態は続きます。ただ、数時間後の動脈血液ガスは、pH 7.346、PaCO2 28.8、PO2 139.7、HCO3 15.4、BE -8.7とO2とアシデミアは何とか落ち着いてきました。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 17:18 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月15日

症例検討クイズ1・急性呼吸不全・人工呼吸設定3

引き続きますが、今日はこれからも全く自由時間がないため、データのみ示します。


モニター上TV 700mL、MV 8.4L/分を示し、プラトー圧は28cmH2Oでした。自発はありません。SpO2 94%。


動脈血液ガス所見は、pH7.368 、pO2 74.8Torr、pCO2 29.4、HCO3- 16.5でした。


さて、この結果を受けて、設定はどうしましょうか。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 16:00 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月14日

症例検討クイズ1・急性呼吸不全・人工呼吸設定2

なんやかんやご託を並べましたが、基本方針(PCVで、permissive hypercapniaでいく)が決まってしまえば、最初に設定しないといけない項目は意外と少なかったりします。どちらかというと一旦決めてから、モニターや血ガスを見て再調整する、そちらの方が大事です。


  • FiO2:まずは100%で開始。SpO2の経過を見ながら下げていく。

  • PEEP:だいたい6〜8cmH2Oくらいで開始。SpO2、血圧、プラトー圧を見ながら調節する。

  • PC圧(PC above PEEP):プラトー圧20(〜25)くらいに抑える。*プラトー圧≒PC圧+PEEP

  • 換気回数:普通の人は12回くらい。それを参考に、換気量、血ガスを見ながら12〜20くらいまで。




本症例では、

  • 【PCモード】

  • FiO2:80%

  • PEEP:8cmH2O

  • PC圧(PC above PEEP):20 cmH2O

  • 換気回数: 12回


で開始しました。モニター上はTV 700mL、MV 8.4L/分を示し、プラトー圧は28cmH2Oでした。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 17:05 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月13日

症例検討クイズ1・急性呼吸不全・人工呼吸設定1

なんせ低酸素と敗血症ですから、酸素を充分投与するのと抗菌薬で肺炎の原因菌を叩くのと、両方行っていきます。


抗菌薬は、最重症の市中肺炎ですから、肺炎球菌は想定しつつも治療失敗が許されませんので広域抗菌薬を使います。de-escalationが出来ればそうします。



で、呼吸管理ですが、悪化が急速なのと、循環動態、意識状態がよくないので、挿管人工呼吸を選択しました。まずはフルで器械に換気させる持続強制換気(continuous mandatory ventilation:CMV)に乗せてしまい、全身状態を落ち着かせることを考えます。



呼吸管理は、動脈血ガス分析結果をふまえて、人工呼吸管理の基本的戦略を思い出して下さい。



低酸素がメインで、高二酸化炭素は問題にならないと考えられますから、方向性としては

  • PaO2、SpO2を適正値にするために、FIO2、PEEPを上げる。

  • FIO2>60%の時間を出来るだけ短く(24時間未満に)する。

  • PEEPは、できるだけ血圧を正常に保つように、かつできるだけプラトー圧を30cmH2O以下に保つように設定する。



そのためには、従圧式PCVでプラトー圧を決めておく方が安心です。PC圧を低めに設定しておき、結果1回換気量は低めになりますが、モニターで換気量を確認し、血ガスでpH異常にならないかどうかを確認しておきます。


1回換気量が低くなって、分時換気量が減りますとCO2は貯留気味になるのですが、pHが異常にならない限りは高CO2を許容しましょう、というpermissive hypercapnia(許容できる高CO2)戦略で参りましょう。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 17:37 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月11日

10月以降の告知・アップデート最新版

その後いくつかの予定が加わったり、ちょっと?変更になったりしたので最新版にアップデートしておきます。


■ 10月18日(日) 岡山県医師会 今さら学ぶ胸部単純写真読影

2つめの講演なのですが、1つめに胸部単純写真の基礎、肺癌検診的なお話がありますので、私はもう少し違った視点のお話も入れ込もうかなと思いました。


例えば、病歴の使い方とか、シルエットサインの活用法とか、まあちょっとしたことなんですが、胸部X線写真の「謎解き」を楽しめる方法をお伝えしようかと。



■ 11月7日(土) 呼吸器学会スキルアップセミナー 明日から上級医に「お、こいつやるな…」と思わせる胸部単純写真読影法

日時  2015年11月7日(土) 14時〜17時(懇親会 17時〜19時)
会場  TKPガーデンシティ大阪梅田(各線大阪・梅田駅、福島駅から徒歩)
参加費 無料 ※事前登録制
定員  100名(先着順) ※定員に達し次第、受付を締め切ります。


申込先 E-mail:jrskinki@adfukuda.jp FAX:06-6231-2805
詳しくは、http://plaza.umin.ac.jp/~kinki/forum.htmlをご覧下さい。


内容としてはタイトル通りです。初心者は同じようなところでつまずき、上級医は「ああ、やっぱりここがわかってない」と思うものです。これがわかっているべき、というポイントをおさえるとこれまた胸部X線写真読影は楽しくなるわけです。時間が限られてはいますが、盛り込みすぎでお送りします。



■ 11月10日(火) 滋賀県立成人病センター呼吸ケアチーム勉強会 呼吸音の聴診

これはちょっと内輪の会になるのでしょうか。何気なくやっている聴診の奥深さをご紹介します。



■ 11月15日(日) 宿坊合宿 胸部のX線

http://shukubo.wix.com/shukubo2015

今回宿望合宿のテーマが「Choosing Wiselyを考える」。頂いたテーマが「胸部画像」。


普通のお話をしてもつまらないので、胸部写真1枚を読むために、手に入る情報の全てを駆使して読影していく、その過程をご紹介します。けっこう楽しそうです。



■ 11月27日(金) 徳島県板野郡医師会

当初『クリニック・外来で扱う肺炎』というタイトルの予定でしたが、胸部画像のお話をご希望の先生が多い、とのことで、急遽タイトル、というかテーマが変更となりました。どうにもこうにも、今シーズンは画像のお話ばかりになりました。



■ 12月12日(土) 第3回生活習慣病フォーラム 実地医科の先生が知っておくべき画像診断

大阪で一般のドクター向けにお話しするのは久しぶりですので気合いを入れていきます。いや、いつでも気合いを入れているのは確かです。



■ 1月10日(日) 医療技術セミナースキルアップ『呼吸器科領域の疾患の聴診、打診による診断、そして治療』



■ メディカ出版セミナー Dr.長尾の「呼吸にまつわる」シリーズ第4弾!急性期・術後の呼吸器ケア

2016年03月26日(土) 大阪 クリスタルタワー
2016年04月16日(土) 東京 建築会館

http://www.medica.co.jp/seminar/detail/131

今回は、これまでに好評だった『呼吸の基礎』『人工呼吸』『胸腔ドレナージ』を詰め合わせてパワーアップ!呼吸器で看護師さんが「よくわからない」ポイントを次々に解消します。初めての方もそうですが、これまでに受講された方にもより深く理解していただけるよう、テーマを絞って解説します。

トップページへ

posted by 長尾大志 at 14:34 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月09日

症例検討クイズ1・急性呼吸不全・血ガスの解釈

というわけで、1週間ほど前より倦怠感があり、1日前から38℃の発熱あり、SpO2の低下があると。右胸部でcrackleを聴取し、胸部X線写真上どうやら浸潤影を認めるので、肺炎の診断は妥当でしょう。血圧低下、意識混濁認め、ショック状態となった、ということですから重症肺炎、敗血症性ショックですね。


前医到着時に抗菌薬を使用されていて、当院で(抗菌薬投与後)7時間後に採取した喀痰では有意な菌を認めませんでした。基礎疾患がない若年?者、激しい症状、X線上大葉性パターン、菌がすぐにいなくなった、などから原因菌には肺炎球菌を想定しました。



診断は特に問題ないと思います。では次に呼吸管理を考えましょう。


50歳代で喘息以外に呼吸器疾患の既往がなく、CO2蓄積もないことから、呼吸管理の要諦は酸素にあると想定されます。


実際、O2 15L/min吸入下での血ガス所見は


pH 7.30
pO2 69 mmHg
pCO2 35 mmHg
HCO3 20.6 mmol/L


で、CO2蓄積はありません。ちゃんと解釈してみると…


まずはpHを確認します。


  • pH<7.350:アシデミア

  • 7.350〜pH〜7.450:正常範囲

  • pH>7.450:アルカレミア



pH=7.30のアシデミアです。


続いてはPaCO2とHCO3-を確認。pH<7.350のアシデミアですから、その原因が肺なのか腎臓なのかを知る必要があります。HCO3-とCO2を確認します。


すると、HCO3- <22⇒代謝性アシドーシスで、PaCO2<<35→代謝性アシドーシスを呼吸性に代償していると考えられます。また、低酸素で呼吸数が多いゆえにCO2が飛んでいる面もあると解釈されます。


代謝性アシドーシスですから、AG(アニオンギャップ)を計算しましょう。

AG=Na+ −(Cl- +HCO3- )でした。
(正常値は12±2mmol/L)


AG=139−(105+20.6)=13.4
正常範囲とはいえますが多めであり、敗血症の病初期である点を考慮しても妥当かと考えます。


ちなみにAGが増加する代謝性アシドーシス

  • 敗血症

  • 乳酸アシドーシス

  • 糖尿病性ケトアシドーシス

  • 飢餓状態

  • 尿毒症

  • 中毒



やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 15:39 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月08日

症例検討クイズ1・急性呼吸不全・臨床データ

【血液検査】

WBC 32900
Hb 14.3
Plt 24.6万
Aln 3.7
BUN 22.0
Cre 1.40
eGFR 31.9
CRP 10.39
Na 139
K 3.1
Cl 105
PT INR 0.94
APTT 25.7
フィブリノーゲン417
PCT 27.6


尿中肺炎球菌抗原 陰性
尿中レジオネラ抗原 陰性
マイコプラズマIgM抗体 陰性 


【動脈血液ガス】O2 15L/min リザーバーマスク

pH 7.30
pO2 69 mmHg
pCO2 35 mmHg
HCO3 20.6 mmol/L
BE -2.4


さて、このような症例の呼吸管理、いかが致しましょうか。
あ、ついでに?診断も。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 17:28 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年10月07日

症例検討クイズ1・急性呼吸不全・症例提示

紆余曲折を経ておりますが、ようやく人工呼吸器導入時の症例検討を始めることが出来ます(たぶん)。ただ、救命救急の場において、人工呼吸器のセッティングは唯一絶対の正解がある、というものではありません。あるのは「こうするのは妥当か」という判断だけです。ですのであくまで、私たちはこういう感じで考えていく、という考えの実例として、ご自分の考えをまとめる助けにして頂ければと思います。



症例は50歳代女性、主訴は呼吸困難。気管支喘息に対して7年前より某病院で治療通院中であった。 1週間ほど前より倦怠感があったが医療機関を受診していない。昨夜38℃の発熱あり、本日午前に某病院救急外来受診(walk in)。来院時は収縮期血圧90mmHg台、SpO2(室内気)92%であり、肺炎との診断で同病院で入院を予定していた。しかし、来院して1時間経過したところ、血圧低下、意識混濁認め、ショック状態となり、当院での集中治療依頼あり、同日13時半当院救急転送となった。

ill contactなし 

【既往歴】
気管支喘息
手術歴なし

【内服薬】
ステロイド吸入薬
発作時にプレドニン5mg 4T/day×4day頓用として内服

【喫煙歴】
なし

【アレルギー】
薬物・食物ともになし 

【Vital signs 】
BT 36.3℃ Pulse 102/min sinus BP 60/37mmHg SpO2(O2 8L/min リザーバー)89%→O2 12Lでも90%、呼吸数: 30回/分

身長:147cm 体重54kg
ADL自立(母親と二人暮らし)
末梢冷感あり
口腔内きれい
呼吸音:右肺野優位にcrackles聴取 wheezeなし


胸部X線写真

初診時XP.jpg


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 16:40 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年09月29日

欧州呼吸器学会2015 in アムステルダム 3日目

昨日はbossに、発表の先生を元気づける会食をして頂きました。写真がないのが残念ですが、オランダというかヨーロッパを感じるお食事を頂きました。これで、G先生も勇気100倍でしょう。


昨日のシンポジウムなど、なかなか目新しい内容が多かったのですが、自分の中で消化し切れていないので、まとまったらまたアウトプット出来るかもしれません。とりあえず、ACOS反対派の先生がいることがわかってホッとしました。


今日は空き時間を利用して課外活動。来てよかったです。

トップページへ

posted by 長尾大志 at 03:42 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年09月24日

NPPVについて10・NPPVの設定2

PaO2に関わる項目は、FIO2と肺胞の数(≒PEEP圧)でしたね。


FIO2はBiPAP Visionレジスタードマーク・V60レジスタードマークですと設定で決めることが出来ますが、簡易式のNIPネーザルレジスタードマークなどでは最初に決めることは出来ず、酸素流量を決めてモニターしていく形になります。まあ簡易式を使う、という場面では、厳密なFIO2の設定は必要ない、という感じでしょう。簡易式の出番は換気の補助がメインになることが多いように思われます。



PEEP圧=EPAP圧です。標準的には4cmH2Oから開始します。特に簡易式であれば、あまりEPAP圧を上げる場面はないでしょう。COPDでオートPEEPが高い、そのような場合にはトリガーの同調がうまくいきませんので、もう少しEPAPを上げる必要があるかもしれません。


もちろん昨今決して少なくない、睡眠時無呼吸症候群を合併したりしている方では、EPAPを上げる必要があるでしょうが、COPDや肺結核後遺症などによるU型呼吸不全症例では、それほど高いEPAPは必要ないでしょう。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 19:28 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年09月21日

NPPVについて9・NPPVの設定

今日はお彼岸で妻子は実家へ。私は原稿など進めるために大学へ。というわけで比較的一般的なbilevel positive airway pressureのBIPAPにおける、設定項目についてボチボチ取り上げます。


まあ、基本的な考え方はIPPVと同じですから、基本がわかっていればそれほど難しくありません。


主に設定する項目は、PaCO2に関わる、換気量を決める項目(呼吸回数、1回換気量←【IPAP圧−EPAP圧=PS圧】)、それとPaO2に関わる、PEEP=EPAP圧とFIO2です。


換気量を決める項目では、まずモード(S、S/T、T)を決めます。まずはバックアップがあって自発呼吸を活かすS/Tモードが、無理なく導入できるということで使われることが多いですが、CO2蓄積のあるU型呼吸不全では、Tモードで完全に器械に乗せてしまう方が呼吸筋の休息によいといわれていて、そういう場合にはTモードを使うことも増えています。


呼吸回数は、S/Tモードの場合、自発呼吸よりも2回ぐらい少なめに設定して、患者さんが無理やり感を受けないようにしますが、Tモードのときは、自発が出る余地がないくらいに多め(20回以上)に換気するのがよいようです。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 19:35 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年09月18日

NPPVについて8・もう一つのBIPAP

ややこしいことに、換気モードであるBIPAPにはもう一つの意味があります。これは書くべきかどうか迷ったのですが、やはり混同されることもあろうかと思い、書いておきます。


biphasic positive airway pressure、こちらはIPPVにおけるモードとなり、CPAPモード(自発呼吸のあるとき)の、CPAPが2相性(biphasic)になっているものです。本来CPAPはcontinuous positive airway pressure、つまりずっと持続的に陽圧をかける、というのが原義ですが、高いCPAP(自発あり)と低いCPAP(ここでも自発あり)の2相を定期的に切り替えて、各々の相で自発呼吸をする、というコンセプトになります。


そもそもやっていることはPCVと同じなのですが、PCVで自発が出ても無視?されるのに対して、自発を許容してCPAPみたいに呼吸をさせてくれる点が異なります。


血ガス呼吸管理図スライド168.jpg


人工呼吸導入時には自発が荒く頻呼吸で、PCVだとファイティングが起こったり、深い鎮静が必要になったりしがちですが、自発が自由に出来るので乗りやすいといわれています。それでいて、高い圧←→低い圧の行き来で大きく換気をされているので、換気量も確実に確保することが出来る、というものです。


ただまあ、明らかに他のモードに比べてメリットがある、エビデンスがある、というものでもありませんし、ややこしいので、bilevelの方をしっかり理解しておけばいいでしょう。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 17:29 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年09月17日

NPPVについて7・換気モード

NPPV専用機では、呼吸の回数を決める設定も少し独特です。


患者さんの自発呼吸にあわせて換気補助をするモードと、器械が回数やタイミングを決めて換気を行うものとがあるのです。


  • Sモード

  • S/Tモード

  • Tモード

  • CPAPモード




■ S(spontaneous)モード

患者さんの自発呼吸に合わせて圧をかけます。吸気時間、呼気時間、呼吸回数いずれも患者さんが決めます。基本的に息を吸っている間IPAPをかけ、息を吐いている時間はEPAPにする、と理解しておけばいいでしょう。


IPPVでいいますとCPAP+PSV、にあたるモードになると思います。



■ T(timed)モード

吸気、呼気のタイミング、時間、それに呼吸回数を器械に任せてしまうモードです。呼吸数、吸気時間・吸気率(%)を設定して、患者さんは器械の送気にあわせて呼吸をします。IPPVでは調節呼吸、CMVにあたります。



■ S/Tモード

SモードとTモードのいいとこ取り、といいますかミックスといいますか、基本はSモードで自発にあわせて圧補助をしているわけですが、設定した時間内に自発呼吸がない場合にバックアップ呼吸を行うもので、基本はSでバックアップにT、という感じです。


SIMV+PSVに似ている、と思われるかもしれませんが、SIMVは自発があっても入ってくるので異なります。あくまでこちらのTはバックアップであることを理解しましょう。



■ CPAPモード

これはIPPVのCPAPモードと同じです。常に一定の圧をかけておくものです。NPPVでは、睡眠時無呼吸(SAS)でおなじみです。常に圧をかけて上気道の閉塞を防ぐ、ということですね。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 18:43 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年09月16日

NPPVについて6・BiPAPとBIPAP

以前にも書きましたが(NPPVの始まりのところで)、この領域は方式・設定の名称と商標の名称がごっちゃになっているので大変ややこしいものです。


次から次へと新しい、改良された商品が出てきて、その商品に、アドバンテージを訴求する、優れた方式・設定を思わせる名称をつけてしまっているところがその所以でしょう。


新しい器械を導入するたびに、新名称の新機能が追加されている。


常に最新鋭機に触れていればどんどん知識がアップデートされるかもしれませんが、施設によって、部署によって、必ずしもそういうわけにはいかないでしょう。久しぶりに見たら、何かわけがわからなくなっていた、とお困りの方も多いかもしれません。それでも、基礎がわかっていれば、名称の理解だけで何とかなるのも事実です。



BiPAPとBIPAPも、「どこが違うの?」と思われがちな用語です。BiPAP(iが小文字)は前回紹介した、BiPAP Visionレジスタードマークに使われている名称で、商標名(商品名?)です。BIPAP(Iが大文字)は、換気モードの呼び方で、bilevel PAPとも呼ばれていました。


BIPAPにも微妙に異なる2つのニュアンスがあって、bilevel positive airway pressureであったりbiphasic positive airway pressureであったりしますが、理解しやすい方、簡単な方から説明しましょう。


bilevel、つまり2つレベルがあるということは、高い圧と低い圧の2つです。高い圧がかかっているときに息を吸って、圧が低くなったときに息を吐く、という感じで、呼吸のサポートになるわけです。それで、高いときの圧をIPAP(inspiratory positive airway pressure:吸気圧)、低いときの圧をEPAP(expiratory positive airway pressure:呼気圧)と呼びます。あらっぽく書くと、こんな感じの圧波形がかかっています。


血ガス呼吸管理図スライド166.jpg


あくまでもこのモードは自発呼吸をサポートするモードでありますから、PEEP+PCVとは異なるのですが、全体的な圧波形のイメージはPEEP+PCVとよく似ています。PEEP=EPAP、PEEP+PCV=IPAP、みたいな感じです。そう考えて頂くと理解しやすいと思います。自発呼吸に圧をかける、という意味ではPSVと考える方がわかりやすいかもしれません。


血ガス呼吸管理図スライド167.jpg


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 19:05 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年09月15日

NPPVについて5・NPPVを行う器械

一口にNPPVといっても、人によっては思い浮かべる器械が違うのではないでしょうか。


というのも、急性期疾患を取り扱う方と、慢性期の病棟の方は見ている器械が違うと思われるのです。もちろん「呼吸器病棟」にお勤めだとどちらもご覧になっているでしょうが…。




1つはBiPAP Vision・V60(専用機)を用いて行うもので、言ってみれば挿管でやっていたことをマスクに置き換えたもの、と考えるのが最も理解しやすいと思います。空気を酸素と混ぜて送り込みまして、FIO2もきちんと決まります。こちらが急性期に使われるものです。


ただ呼気側の回路がなくて、吐いた息はマスクに空いた孔から出て行くので、そこが挿管の場合と異なります。また、設定も独特の言葉があるので、知らない方は戸惑うかもしれません。でもこれまでに学んだこととある程度対応していますから、きちんと知っておけば大丈夫です。



もう1つは主に慢性のU型呼吸不全症例に対する在宅人工呼吸用に使われるもので、もう少し器械が簡易型になります。NIPネーザルなどが有名です。こちらはFIO2を上げようとすると、酸素チューブを直接マスクや本体につなげて投与する形になり、FIO2自体、キッチリとは決まりません。鼻カニューレやシンプルマスクと同様に、呼吸様式、換気量などによって変わってきます。


こちらはあくまで簡易型で、換気の補助をする、という位置づけで考えて頂くといいと思います。それゆえ酸素に関してはキッチリ決められるものではないということです。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 19:35 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年09月14日

NPPVについて4・NPPVの適応と禁忌

NPPVは人工換気ですから、適応となるのはCO2を減らしたいとき、U型呼吸不全がまずあります。それから、O2投与だけ足りずPEEPを掛けたいT型呼吸不全も適応になります。それ以外のものもあわせて列挙しますと…。


NPPVの適応疾患

  • U型呼吸不全:COPDの増悪時、喘息の重積発作時、神経筋疾患

  • T型呼吸不全:急性心原性肺水腫、ARDS

  • 抜管後の呼吸障害、呼吸器離脱困難時など

  • 免疫不全患者の呼吸不全



NPPVが禁忌とされる病態

絶対禁忌
  • 呼吸停止

  • マスク装着が出来ない(外傷や頭部・顔面の解剖学的理由による)



相対禁忌

  • 意識障害、昏睡

  • 興奮状態、治療に非協力的

  • 循環動態が不安定

  • 多臓器障害

  • 分泌物が多量である

  • 最近顔面・上気道・食道・胃の手術歴あり

  • 気胸の存在(ドレナージしていない)

  • 誤嚥・嚥下機能障害



やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 18:50 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年09月11日

NPPVについて3・IPPVとの違い

NPPVはかなり普及してきていますから、実際に患者さんが装着しているところをご覧になる機会は増えていると思います。一度でもご覧になるとおわかりだと思いますが、NPPVはIPPVに比べて、いろいろとメリットがあります。


  • 名前が「非侵襲的」というぐらいであり、侵襲が少ない。

  • マスクの装着で導入できるので、手技が容易・簡便である。

  • 容易ゆえに開始のハードルが低く、早期に導入できる。

  • 挿管の手間なく気軽にon-offできる。

  • 侵襲が少ないので鎮静をかける必要が無い。

  • 管が入らないので気道損傷・口腔内損傷がない。

  • 鎮静をかけないのでコミュニケーションが取りやすい。

  • 鎮静をかけないのでリハビリを継続できる。

  • 飲食可能である。

  • 医療費の面でIPPVより有利。

  • そして、なにより人工呼吸器関連肺炎(ventilator associated pneumonia:VAP)のリスクが少ない。



最後の項目。挿管チューブを入れると、口腔内と気管内がツーツーになります。口腔内の常在菌がチューブに沿って気管内に流れ込んできます。そして肺炎(VAP)の元になるのです。


血ガス呼吸管理図スライド164.jpg


カフがあるじゃないか!と思われるかもしれませんが、あんなすき間だらけのものでは気管内に細菌が流れ込んでくるのを防ぐことは出来ません。


血ガス呼吸管理図スライド165.jpg


NPPVのデメリットはその裏返しです。NPPVは気管内にチューブを入れないので、気道確保がなされません。舌根沈下してしまうとアウトであります。停止している呼吸を再開させるということも出来ません。自発呼吸に器械を乗せる感じの換気ですからそれ以外にもいろいろあります。下に列挙してみます。


  • 本人の理解や協力が必須で、抵抗があると導入困難である。

  • どうしても覚醒状態で器械の呼吸と患者さんの呼吸が合わない場合がある。

  • 簡単に吸痰できないので、気道内分泌物の多い患者には使いづらい。

  • 舌根沈下(意識障害)や呼吸停止時には気道が閉塞し呼吸できない

  • 顔面の形状、サイズによって、また胃管などによってマスクがフィットしない。

  • マスクの圧迫によってびらんや潰瘍ができる。

  • 呑気により腹部膨満が生じる。

  • 重症度が過少評価されがちである。

  • 常にリークが存在するため…

    気道内圧をあまり上げられない。

  • 換気量のモニターが不正確。




というわけで、これらの特徴を頭に入れておくと、NPPV適応となる条件が決まってきますね。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 16:31 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年09月10日

NPPVについて2・NPPVでやっていること

NPPVを行うには、NPPV専用の器械を使う場合と、一般の人工呼吸器にマスクをつけてNPPVに適用する場合とがありますが、一般の呼吸器を適用する場合はIPPVと同じような理屈になりますから、ここではちょっと独特な、NPPV専用機を使うときの様子を説明します。


NPPV専用機では、人工呼吸器からマスクにやってくる回路は一本道です。マスクに孔があいていて常にリークというか空気が漏れており、呼気はそこから出ていくようになっています。


代表的な専用機であるBiPAP Visionレジスタードマークでは、酸素と空気を然るべき割合でブレンドし、FIO2の定まった混合気を送り込みます。


血ガス呼吸管理図スライド159.jpg


一般的な人工呼吸器同様、吸気のときには陽圧を掛けて一本道から混合気を送り込み…。


血ガス呼吸管理図スライド160.jpg


吸気が終わると圧がストップして…。


血ガス呼吸管理図スライド161.jpg


呼気相になるとマスクの孔から呼気がどんどん出ていきます。で、肺が縮んでいきます。


血ガス呼吸管理図スライド162.jpg


血ガス呼吸管理図スライド163.jpg


今日は一から書き直したので時間がなくなりました…。また書き直すかも。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 19:39 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年09月09日

NPPVについて1

胸部X線写真を一旦締めて、久しぶりに人工呼吸のテーマに帰って参りました。


人工呼吸も一通りのことは書いたつもりでありましたが、しばらく離れていると、書けていなかったこと、抜けていることが見えてきます。そのうちの一つがNPPVについてですので、これからNPPVについて説明していこうと思います。


とはいえ、NPPVについては、原理の名前と商品名がしばしばごっちゃになりがちで、今何の話をしているかをいちいちしっかりとおさえておく必要があります。ここでは自分の理解を整理することも兼ねて、基本事項から一つ一つおさえていこうと思いますが、できる限り混乱を防ぐために、あえて取り上げるモード、器械を絞ります。


技術革新、進歩の早い人工呼吸器業界ではどんどん新しいモードが出てきますが、それはマニアの方にお任せして(;゚Д゚)、基本をガッチリとおさえることを重視して、お話を進めていきたいと思います。



まず用語ですが、NPPVというのはnon-invasive positive pressure ventilation:非侵襲的陽圧換気のことで、平たく言うと挿管や気管切開といった侵襲的換気をせずに人工換気を行うことを指します。それに対して侵襲的な陽圧換気をinvasive positive pressure ventilation:IPPVといいます。
IPPVは元々人工呼吸器の動作モードの略称でもありましたが、ややこしいのでここではこれだけを取り上げます。


NPPVと紛らわしいのがNIPPV、NIP、NIVという言葉です。NIPPVはまさにnon-invasive positive pressure ventilationで、一昔前に使われていた略称ですが、日本では呼吸器学会のガイドラインをはじめ、最近はNPPVに統一されてきているようです。どうやらNPPVが米国、NIPPVは欧州で使われている用語のようで、ここでもか、という感じですが、まあ日本では”NPPV”を使えばいいと思います。


NIPというのは、NIPPVにちなんで?つけた名称で、帝人の取り扱っているポータブル人工呼吸器の名称です。正式にはNIPネーザルレジスタードマークといいます。これは商品名ですので混同しないようにしましょう。


あと、NIV(non-invasive ventilation)は陽圧でない換気も含む概念ですが、陽圧でない人工換気はまだまだ一般的ではないのでここでは取り上げません。



ということで、気管内にチューブを入れずに≒鼻マスクや顔マスクを用いて人工換気をする、NPPVについて学んで参りましょう。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 18:06 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年07月31日

ARDSの病態と呼吸管理4・ARDSの治療戦略

まずARDSの病態そのものの治療は、いまだに大変困難です。わけのわからん炎症病態に出番となるステロイドの効果はイマイチで、使うとしても早期に、低用量で効果が期待できる可能性があるものの、感染に対する悪影響も指摘されており、積極的に推奨されていないというのが現状です。


ARDSの病態に好中球が関与していることから、好中球エラスターゼ阻害薬が開発され、鳴り物入りで発売開始となりました。でも結局のところ臨床の現場では、否定的な見解も見られ、「使うんだったら早期に」「効果は限定的」みたいな評価になっています。


それ以外にも薬剤で有望なものは、現状ではあまり見られません。そもそもARDSという症候群、つまり病因も病態も実はバラバラな症例群、しかもかなり切迫した状況で、大規模臨床試験が難しいという面もあり、なかなか検討が進んでいない感じです。



ということで人工呼吸の設定に関するウンチクです。ここでのキーワードは「肺が硬くなる=肺コンプライアンスの低下」。硬くなった肺には、同じ量の空気を入れても気道内圧は上昇しやすくなり、同じ圧で圧すと換気量は低下しやすくなる、これが基本です。


気道内圧の上昇は以前に書いた圧損傷にもつながりますが、ARDSの場合、それだけではなく人工呼吸器関連肺障害(ventilator associated lung injury:VALIとかventilator induced lung injury:VILI)の原因になります。


圧損傷は気胸や縦隔気腫のように「破れる」現象を指しますが、VALI(VILI)は硬くなった肺胞の過伸展や虚脱の繰り返しによって肺がダメージを受ける、と説明されています。


ですから以前に書いた原則通り、PEEPを上げて有効肺胞数を増やし、プラトー圧を低めに維持します。PEEPを上げることで肺胞の虚脱を防止し、プラトー圧を低めにすることで過伸展を予防するというわけです。有名な無作為化比較臨床試験でTVを6mL/kgと12mL/kgで比較し、6mL/kgで生存率が高かった、という結果が出て以降、低容量換気、permissive hypercapniaが主流となっています。


とはいえ、6mL/kgがベストな値なのかどうか、などなど、まだまだわかっていないことが多いのも紛れもない事実であります。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 18:19 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年07月30日

活動報告・湖北医師会(長浜市)にて学術講演会

今日は午前外来+学生実習のあと長浜までひとっ走りして、湖北医師会(長浜市)の学術講演会でお話をさせて頂きました。


タイトルは「息が苦しい」。


DSCF4942.JPG


「息が苦しい」のメカニズムとその鑑別、そして代表疾患であるCOPDの機序とその治療について、お話をさせて頂きました。


DSCF4946.JPG


終了後も質問を引きも切らずお寄せ頂き、勉強熱心な先生方の気迫に圧倒されました。


というわけですっかり遅くなりましたので、今日は報告にて失礼致します。m(__)m

トップページへ

posted by 長尾大志 at 20:16 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年07月29日

ARDSの病態と呼吸管理3・結局ARDSではどうなるか

肺の線維化が起こるということは、肺が硬くなり縮んでくるということです。すなわち、

肺が硬くなる=コンプライアンスが低下し、拘束性障害となる

ことが問題です。同時に末梢気道の抵抗は間質性肺炎の線維化と同様に小さくなります。



以上をまとめますとARDSになるということは、呼吸生理の観点で考えると

  • 肺胞壁の血管透過性が亢進して肺胞内に浸出液が出てくる

  • 結果、換気血流不均衡が生じて低酸素になる

  • 呼吸中枢が低酸素を感知して呼吸数を増やす

  • 肺が硬くなる=コンプライアンスが低下し、拘束性障害となる

  • 末梢気道が牽引され拡張する=呼気抵抗が減る



そして循環生理の観点からは、これまで同様

  • 心拍数が増える

  • 低酸素となっている局所の血管が攣縮し、血流が低下する



ということになります。それではこの病態の治療はどうするか。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 18:05 | Comment(3) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年07月28日

ARDSの病態と呼吸管理2・ARDSの病態生理

肺局所の機序でいいますと細菌性肺炎のときと似ていて、肺局所の炎症で血管透過性が亢進した結果、肺胞内に水があふれ出してくるという現象になります。


肺炎との違いは、肺局所の炎症なのか、もっと全身性の出来事が肺に波及したものか、という点になります。細菌性肺炎はあくまで肺の出来事で、通常原因微生物を排除すれば治っていきますが、ARDSでは全身が強いダメージを受けた時に、何らかのスイッチが入ったことによってサイトカインの嵐が吹き荒れ、制御困難な全身性炎症が生じて広範な臓器障害が起こってしまう、そういう違いです。


なんだかんだいっても結局のところ本質的に何が起こっているのかがイマイチわかっていないため、本質的な治療法がない、というのが現状です。



呼吸生理的には肺胞内にあふれ出した水分によって、細菌性肺炎と同様に換気血流ミスマッチが生じ、低酸素となります。ただし細菌性肺炎は細菌が増殖したところだけが病変となり通常片側、限局性であるのに対し、ARDSではサイトカインによる無差別攻撃を食らうわけですから、両側、びまん性に病変が生じていることが多いので、その分低酸素は甚だしくなります。


大元の制御が難しいことに加えて低酸素も甚だしいことが多い、ということでARDSは人工呼吸管理となることが多く、予後もよろしくありません。逆に人工呼吸の経験は蓄積されているので、ずいぶん前から人工呼吸の設定についてはいろいろとウンチクが出来ております。permissive hypercapneaみたいな。



水が肺胞に溜まる以外に、元々生じている炎症によって、肺が線維化を起こして縮んでくる、という現象も観察されます。間質性肺炎の線維化と同じようなことが起こっているわけですが、線維化した部分は非可逆的変化で元に戻らないことが多く、これも予後の悪さにつながっています。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 15:24 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年07月27日

ARDSの病態と呼吸管理1・ARDSの起こり方

さて次は、皆さんお待ちかね?ARDSについて、病態生理と呼吸管理のメカニズムを取り上げましょう。


ARDSの本態は、一言で言いますと「心臓が原因じゃない肺水腫=非心原性肺水腫」ということになります。


肺水腫といえば心臓が悪くて血液をしっかり圧すことが出来ず、血液が渋滞を起こしてしまって血管外に血液中の水分がはみ出してくる「うっ血性心不全」のときに、肺胞内に水分がしみ出してくる現象が代表的ですね。


血ガス呼吸管理図スライド145.jpg


これは正常な肺胞図ですけど、正常でしたら肺胞の中には空気が存在するものです。でもうっ血性心不全では、血管から水分があふれ出してきて肺胞内に溜まります。


血ガス呼吸管理図スライド157.jpg


これがうっ血性心不全=心臓が原因の(心原性)肺水腫のイメージです。


それに対してARDSでは、心臓は何にも悪くありません。まず起こってくることは「炎症」であります。さまざまな原因で起こった「炎症」によって毛細血管の目が粗くなり(血管透過性が亢進し)、水が肺胞内にあふれ出してきたものがARDSです。


血ガス呼吸管理図スライド158.jpg


ARDSの原因としては、


  • 感染症・敗血症

  • 有毒ガス・薬剤

  • 溺水

  • 誤嚥

  • 熱傷・多発外傷

  • 脂肪塞栓症候群

  • 肺挫傷



などが挙げられます。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 18:06 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年07月24日

COPDの病態と呼吸管理11・オートPEEPに対する戦略2

一昨日も書きましたが、オートPEEPがかかりやすくなるのは、COPDのように気道抵抗が高い・肺胞が虚脱しやすい肺で、かつ呼吸回数が多い≒呼気時間が短いようなときです。


COPDで人工呼吸管理を要する状況、となると増悪時にCO2ナルコーシス、呼吸性アシドーシスとなった状態となりますので、気持ち的には換気量を多くしたい、そうなると呼吸回数は多めがいいかな、TVも大きくするのかな、となるのが人情ですが、オートPEEPのことを思うと、あまり極端なことは出来ません。


というよりもむしろ、吸った空気を吐かせるために、しっかりと呼気に時間を掛けること、これが重要です。そうでなくては過膨張がますます悪化してしまいます。そのためには


  • I:E比のIを小さく、Eを大きくする

  • 呼吸回数はあまり多くしない

  • TVはあまり大きくしない



ことになります。具体的には、


  • 吸気時間は1秒以内

  • I:E比は1:2以上

  • 呼吸回数はせいぜい15回まで

  • TVは10mL/kg以下で



くらいがよいようです。こんなんできちんとCO2排出できるの?もっと換気量を増やさないとダメじゃないの??と思われるかも知れませんが、(人工呼吸前の)弱々しい自発呼吸からキッチリと人工換気に替えるだけでCO2は飛んでいくものです。


従圧式か従量式か、こちらでなくては、ということはありませんが、プラトー圧が上がりすぎないようモニターする必要はあります。以前に書いた原則通り、プラトー圧は30cmH2Oを超えないようにします。原則にあるpermissive hypercapneaはCOPDにおいてもその通りで、pHが正常である限りはTVを低めにして圧を上げないことを優先させます。



繰り返しになりますが、これまでのことをまとめますと、COPD等でオートPEEPの存在するときには、人工呼吸管理の基本コンセプトは以下のようになります。


  • I:E比のEを大きくする|1:2以上・吸気時間は1秒以内

  • 呼吸回数はあまり多くしない|せいぜい15回まで

  • TVは必ずしも大きくなくてよい|10mL/kg以下で換気量が維持できる最低量に

  • 適切なPEEPをかける|4〜8cmH2O程度で、オートPEEPが見られなくなるように

  • 細かいところは、モニターや血ガスの結果を見ながら微調整する



やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 16:56 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理

2015年07月23日

COPDの病態と呼吸管理10・オートPEEPに対する戦略1

オートPEEPが生じているかどうかを見る手っ取り早い方法は、流量の波形を見ることです。昨日はその手前でつまずきましたので、仕切り直します。


オートPEEPが生じているということは、息を吐ききらないうちに、つまり呼気流速がゼロにならないうちに吸気相に転じてしまう、ということですから、流量(フロー)の波形を見て、呼気の終末時にゼロまで戻っていない、そういう波形がオートPEEPの存在を示唆します。


血ガス呼吸管理図スライド156.jpg


さらに、オートPEEPがかかっている状態、というのは肺胞から空気が出きらない、すなわち肺胞から気道内に空気が有り余っている状態です。このときには患者さんが自発呼吸をしようと吸気努力をして(胸腔内圧を陰圧にして)も、気道内に余っている空気がまた肺胞に流れ込んで、中枢の気道にまで陰圧が届きにくくなります。


人工呼吸器のトリガーは中枢気道の内圧が陰圧になることを感知してかかりますから、オートPEEPがかかるとトリガーがその分かかりにくくなる、ということになります。


そこで昨日も書きましたが、オートPEEPを上回る程度のPEEPを掛けて、呼出をしやすくすると共にトリガーがかかりやすくするわけです。


どの程度PEEPを掛けるか。オートPEEPを測定するのはしばしば難しいのですが、それほど高圧にはなるわけではありませんので、4~8cmH2O程度のPEEPを掛けて微調整しながら、フロー波形が呼気時終末にゼロに戻る、あるいはトリガーがちゃんとかかる、そういう値を模索する感じになるでしょう。



ところで数日前にお願いしたアンケートですが、お答え頂けたでしょうか?自分としては少し意外な結果になってきていて、もう少しご回答を頂きたいと思います。手間はほとんどかかりませんので、ぜひ貴重なお声を聞かせて頂ければ。


やさしイイ血ガス・呼吸管理

トップページへ

posted by 長尾大志 at 19:42 | Comment(0) | やさしイイ血ガス・呼吸管理