低酸素だ!大変だ!で、どのくらい大変なの??SaO2は?PaO2は?ところでSaO2の見かた、PaO2との関係は?
SaO2は酸素飽和度ですから0%から100%の間をとり、100%が満点です。静脈血でもある程度はヘモグロビンが酸素とくっついてますので、SaO2が60〜70%程度あるわけです。
PaO2とSaO2の間にはちゃんと決まった関係があって、それを表したグラフが酸素解離曲線と呼ばれています。ご覧になったことがある方も多いと思いますが、ちょっとクセのある形をしています。

これ自体を覚えるのは大変なんで大体の代表的な SP O2とPaO2の対照表というのがあってこんな感じです
PaO2 Torr 80 60 55 50 40
SaO2 % 95 90 88 80 75
正常ではSaO2 95%(PaO2 80Torr以上)は保たれているものです。SaO2 90%(PaO2 60Torr)を下回ると、組織に十分酸素が行きわたらず生命の危険を生じるので呼吸不全と呼ばれます。
この解離曲線にも合理的な理由があって、酸素のたくさんある(つまりPaO2の高いところ)、それは肺ですね。肺では酸素が飽和しやすい、つまりくっつきやすい。酸素を積み込みやすいわけです。で、多少肺が傷んでPaO2が低下しても酸素のくっつきやすさというのがそう変わらない、大勢に影響がないということになります。

一方、末梢の組織ではヘモグロビンからO2が外れやすい方がいい。酸素が少ない環境ではヘモグロビンと酸素はくっつきにくい方がいいってことですね。酸素解離曲線が急降下しているので、ちょっと酸素の分圧が減ってもヘモグロビンからじゃんじゃん酸素が離れて組織に移行するということになります。
ついでに酸素解離曲線の右方シフトについて簡単に説明します。これはボーア(Bohr)効果とも言われています。この曲線自体が右に動くということは、同じPaO2でもSaO2が低い、ヘモグロビンがより酸素を離しやすいということを意味します。水素イオン濃度や PaCO2、温度、それから赤血球内の2.3-DPG の濃度が何れも上昇すると右方シフトするのです。

これは何れも、末梢の組織(筋肉など)において、ヘモグロビンがより酸素を離しやすいようなメカニズムになっています。
筋肉では、より多くの二酸化炭素が産生されていますし、その結果pHはより低い(酸性=水素イオン濃度が多い)、それから筋肉ではより体温・温度が高いわけです。2.3-DPG の赤血球内濃度は慢性の低酸素状態で上昇しますのでこれもまた同じメカニズムということになります。
さて、SaO2やPaO2を見ることで、その時の「酸素飽和度」「酸素分圧」はわかりますが、果たしてそれだけで正味の評価になるのでしょうか?
例えば、救急車に乗ったり医療機関に到着したりすると、低酸素血症の患者さんには当然酸素投与がなされます。O2を吸っていない、室内気の患者さんと、O2を12L、リザーバーマスクで吸っている患者さんと、挿管下人工呼吸で、FIO2が100%の患者さんとは、同じSaO2であっても話がずいぶん違います。
酸素をたくさん吸入すればSaO2やPaO2は当然上昇するわけで、今実際どの程度の酸素吸入をしているかということを勘定に入れて SaO2やPaO2を評価する指標が必要になります。そのためにP/F 比を計算するのです。
これは簡単な計算で、PaO2をFIO2で割ったものになります。
P/F 比=PaO2÷FIO2
ただし、この計算をするためにはFIO2が正確である必要があります。つまり酸素流量の少ないローフローシステムだと、FIO2は正確でないので P/F比は計算できません。
通常は挿管人工呼吸管理、またはネーザルハイフローなどのハイフローシステムによって酸素が供給されているときに限ります。
例えばFIO2が50%でPaO2が100Torrのとき、PF 比は100÷50で200になります。ここでFIO2を70%に上げてPaO2を測定したら140でした。さて、肺はよくなっているでしょうか…??
PaO2だけ見ると、一見よくなったように見えますが、P/F比を確認してみましょう。
P/F比=140÷70=200
…同じですね。
このように、P/F比を計算すれば「本質的には」状態は変わっていない、ということがわかるわけです。
ナースのための呼吸器道場
posted by 長尾大志 at 19:56
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