2019年01月10日

肺癌の新たな薬剤・併用療法たちについて4

■ デュルバルマブ(イミフィンジレジスタードマーク

デュルバルマブも抗PD-L1抗体ですが、他のPD-1、PD-L1抗体と立ち位置がちょっと違います。というのは他の抗体製剤がW期の非小細胞肺癌に対して使われるのに対して、こちらはV期の非小細胞肺癌に対して、化学放射線療法を施行した後に限って使える抗PD-L1抗体になるのです。

効能・効果は「切除不能な局所進行(つまりV期)の非小細胞肺癌における根治的化学放射線療法後の維持療法」としてのみ認められているのです。

非常に独特ですね。これは放射線治療をやった後に抗腫瘍T細胞が活性化するのですが、それがPD-L1によって免疫逃避を行われている、そこに作用するという機序になっています。

先行する化学療法に関して、決まりがあるというわけではありませんが、国際共同第V相無作為化二重盲検プラセボ対照試験(PACIFIC試験)ではプラチナ併用化学療法+局所の放射線療法を施行した後、あまり間隔をあけずに(最終照射後T〜42日以内)デュルバルマブ(又はプラセボ)を使う、そういったプロトコールで試験デザインが組まれました。

で、デュルバルマブ群はプラセボ群対して有意に生存期間(PFS)の延長が見られたということになります。

特に副作用で問題になるのは、やはり放射線治療後ですから放射線肺炎がよく起こっていて、抗PD-L1抗体で間質性肺炎の副作用があることからその辺は投与に際してどうなんだ、ということが気がかりなところです。

そういう、放射線肺炎が起こっている時に使っていいのかどうかということに関しては、今のところGradeに分けて対処法が言われていますが、今後色々と検討されていくであろうと思われます。

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2019年01月09日

肺癌の新たな薬剤・併用療法たちについて3

■ アテゾリズマブ(テセントリクレジスタードマーク)併用療法

新しめの免疫チェックポイント阻害薬である、抗PD-L1ヒト化モノクローナル抗体のアテゾリズマブも、化学療法との併用療法が認められました。

こちらは用法用量のところで併用薬剤がキッチリ定められていて、「カルボプラチン、パクリタキセル及びベバシズマブとの併用において」という文言が加えられました。

つまり併用薬剤はカルボプラチン、パクリタキセルそしてベバシズマブと定められているのです。

一見何気なく、昨日のペムブロリズマブと同じことじゃないかと思われるかもしれませんが、ベバシズマブってこれまた結構薬価が高い薬です。発売当初はウン十万円という、かなりのインパクトを持って受け取られた薬なのです。

今となっては桁違いの薬が出てきておりますけれども…アテゾリズマブ、これまた高いですね。これとの併用ということで。実はアテゾリズマブとベバシズマブは同じメーカーの某C社さんのお薬で、これが通ってウハウハ笑いが止まらないのではないかと言われたり言われていなかったりします…。

研究デザインは
アテゾリズマブ+ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル
  ↓↓↓
アテゾリズマブ+ベバシズマブで維持療法

VS

アテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル
  ↓↓↓
アテゾリズマブで維持療法

VS

ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル
  ↓↓↓
ベバシズマブで維持療法

の3群です。

アテゾリズマブを3剤に併用した群では、3剤群に比べて有意にPFSおよびOSの延長が得られました。エラいことです。

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2019年01月08日

肺癌の新たな薬剤・併用療法たちについて2

■ ペムブロリズマブ併用療法

免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブと、プラチナ併用療法の併用、ややこしいですが、要するにペムブロリズマブ+プラチナ製剤+もう1剤、ってことです。

根拠となった試験は国際共同第V相試験(KEYNOTE-189試験)で、使ったのは

ペムブロリズマブ+ペメトレキセド+シスプラチン又はカルボプラチン×4サイクル
  ↓↓↓
ペムブロリズマブ+ペメトレキセドで維持療法

VS

プラセボ+ペメトレキセド+シスプラチン又はカルボプラチン×4サイクル
  ↓↓↓
プラセボ+ペメトレキセドで維持療法

です。

もう1つ、国際共同第V相試験(KEYNOTE-407試験)で、使ったのは

ペムブロリズマブ+パクリタキセル又はnab-パクリタキセル+カルボプラチン×4サイクル
  ↓↓↓
ペムブロリズマブで維持療法

VS

プラセボ+パクリタキセル又はnab-パクリタキセル+カルボプラチン×4サイクル
  ↓↓↓
プラセボで維持療法

です。

いずれも有意差あり、ということで、ペムブロリズマブと併用で使うなら、

ペメトレキセド+シスプラチン又はカルボプラチン
又は
パクリタキセル又はnab-パクリタキセル+カルボプラチン

ということになります。

免疫チェックポイント阻害薬と、従来の抗癌剤。ついにパンドラの箱を開けた…という感があります。いや、もっと前から開いていたのかも。

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2019年01月07日

肺癌の新たな薬剤・併用療法たちについて・愚痴?

…肺癌化学療法に関して、つい先日まとめたと思ったら…。

またまた新規抗癌剤が発売されたり、既存抗癌剤の適応追加がなされたり、新たな投与法が定まったりしてきております…エライコッチャ…。


@ ロルラチニブ(ローブレナレジスタードマーク)発売

本邦で4剤目のALK-TKIです。

クリゾチニブ(ザーコリレジスタードマーク)と同じ某P社によるもので、クリゾチニブの構造をいじくって?耐性変異を克服し、かつ血液脳関門を通過して中枢神経系への移行を良好にした、というのが売り文句です。

保険適応常の効能・効果は「ALKチロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性又は不耐容のALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」となっていて、要するにALK-TKI既治療でうまくいかなかった症例に使う、という縛りがあります。

以前からそうでしたが、この領域はグンと予後が伸びたTKI以降、TKI耐性との戦いになってきていて、大変な叡智と労力が集約されて創薬されています。その分、薬価も…。

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2018年12月21日

肺癌初診時・またはフォロー中に起こってくる諸々4

以上を総合すると、肺癌初診時・またはフォロー中に起こってくる症状は、各々調べるべきことがら・検査などがある程度決まっている、といえるでしょう。


疼痛:骨転移・皮下転移など転移病変や直接浸潤による→痛い場所のX線写真・CTを撮影、(最近撮っていなければ)全身の骨シンチやFDG-PETを撮影。

意識障害:脳転移や高Ca血症・低Na血症による→(最近撮っていなければ)頭部CT・MRIを撮影、電解質の測定。

四肢麻痺・筋力低下:脳転移・脳梗塞(Trousseau症候群)、Lambert-Eaton症候群による→頭部CT・MRIを撮影、筋電図の反復刺激試験で漸増現象(waxing)を確認する、など。

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2018年12月20日

肺癌初診時・またはフォロー中に起こってくる諸々3

■ 腫瘍随伴症候群

直接の浸潤や転移ではなく、腫瘍の産生するホルモンなどが原因となって生じる様々な症状のことです。定義としては腫瘍本体や転移巣から離れたところで起こる出来事をいいます。


内分泌系(ホルモン異常産生による)

・低Na血症 SIADH(secretion of inappropriate antidiuretic hormone:抗利尿ホルモン(バゾプレシン)分泌過剰症)による|小細胞肺癌でよくみられる

・高Ca血症 PTHrP(parathyroid hormone−related peptide:副甲状腺ホルモン関連ペプチド)過剰による|肺扁平上皮癌でよくみられる|意識障害や腎障害がみられる

・Cushing症候群 ACTH(adrenocorticotropic hormone:副腎皮質刺激ホルモン)過剰産生による|小細胞肺癌でよくみられる


神経系

・Lambert-Eaton症候群 抗VGCC(voltage-gated Ca channel)抗体産生による|小細胞肺癌でよくみられる|近位筋優位の筋力低下


血液系

・Trousseau症候群 ムチン産生などにより凝固亢進状態となり、脳の動静脈血栓症が生じる


小細胞肺癌は神経内分泌細胞由来であり、ホルモンやペプチドなどを産生しやすいことから、上記のような現象が起こりやすいといえます。

また、小細胞肺癌に特異的な腫瘍マーカーとして、NSE(neuron specific enolase:神経特異エノラーゼ)、Pro GRP(Pro-gastrin-releasing peptide:ガストリン放出ペプチド前駆体)がありますが、これらも神経やペプチド関係の物質で、小細胞肺癌が神経内分泌細胞由来であることと絡めて覚えて頂ければ、覚えやすいのではないかと思います。

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2018年12月19日

肺癌初診時・またはフォロー中に起こってくる諸々2

■ 肺以外の遠隔転移で起こる症状

・脳転移・髄膜播種(頭部CT、MRIで確認)
麻痺、神経症状
頭痛、悪心・嘔吐
意識障害

・骨転移(X線写真、骨シンチ、FDG-PETで確認)
骨由来の疼痛
病的骨折
脊髄圧迫による疼痛や麻痺

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2018年12月17日

肺癌初診時・またはフォロー中に起こってくる諸々1

担癌患者さんには、その疾患の性質上、様々な出来事が起こって参ります。もちろん肺癌も例外ではありません。ある程度経験されれば、大体のパターンには慣れてこられると思いますが、思わぬ出来事〜思考停止、とならないように、肺癌に比較的頻度の高い病態を知っておきましょう。


■ 原発巣(付近)で起こる症状

・中枢型腫瘍
頑固な咳嗽、喀痰、血痰・喀血、喘鳴
閉塞性肺炎(繰り返す肺炎)
無気肺(片側の濁音・呼吸音低下・胸壁運動低下)

・末梢型腫瘍
胸水(片側の濁音・呼吸音低下・胸壁運動低下)
胸痛(胸膜・胸壁浸潤時)

・肺尖部腫瘍
Pancoast症候群(上肢痛・しびれ・麻痺、上肢浮腫、Horner症候群)

・縦隔リンパ節転移
上大静脈症候群(顔面・上肢の浮腫、表在静脈怒張)
横隔神経麻痺
嚥下困難

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2018年12月13日

うっ血のときに肺で起こること

なるほど血液の流れが悪くなってたまる。そういうことであれば、例えば下腿の浮腫なんかはイメージがしやすいですね。一番重力のかかる足先に血液が溜まってしまって、血管も腫れるし、血管の外にも水分が染み出して皮下組織に水分が溜まってしまう=むくむわけです。

肝腫大もよく観察されます。これも肝臓のむくみが起こっていると考えると理解しやすいでしょう。

それでは肺においてうっ血が起こると、どういう現象が見られるでしょうか。

肺(肺静脈)においてうっ血が起こると、@静脈の拡張が起こるのと、A血管外に血液中の水分がしみ出してくる、2つの現象が起こります。

@静脈の拡張は、胸部X線写真で肺紋理の増強やカーリーのB線などのように、「線が太くなる」現象として現れます。
胸部画像の成り立ちなどについて、詳しくは『レジデントのためのやさしイイ胸部画像教室』をご参照ください。

A血管外に血液中の水分がしみ出すと、以下のようなことが起こります
a肺胞壁内に水分がたまり、壁がむくむ(間質水腫)
b肺胞腔内に水分がたまる(肺胞水腫)
・a、bあわせて肺水腫といいます。肺水腫では肺の中が水びたし状態になり、胸部X線写真で肺野の濃度が上昇して白っぽく見えます。
 c肺の外(胸腔内)に水分がたまる=胸水

図解しますと、正常の肺胞ではこんな感じで、空気がしっかり入っているところ…

スライド4.JPG

肺胞の壁が分厚くむくみ、肺胞腔内にも水分がたまり…

スライド5.JPG

胸水もたまってきます。

スライド6.JPG

肺水腫は肺内(肺胞壁+肺胞腔)の水、胸水は肺外の水です。通常心不全のときには同時に起こりますから、下のようになります。

スライド7.JPG

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2018年12月12日

心不全のメカニズム・うっ血とは?

心不全で肺うっ血、といいますが、そもそも「うっ血」とはどういう状態でしょうか。

うっ血(鬱血)は、血液がうっ滞(鬱滞)している状態。うっ滞とは、停滞してたまっている状態ですから、うっ血は、血液がたまってしまってなかなか流れない状態を指します。

通常はポンプでもって、血流が保たれているのが…

スライド3.JPG

ポンプ機能がおかしくなると、ポンプの先の血流は細くなり、ポンプの手前にはなかなか流れない血液が充満してくるわけです。

スライド4.JPG

血流が細くなると酸素などが十分送れなくなり、臓器障害が起こります。これが循環不全です。

血液の充満、つまりうっ血が起こると、水が余ったことによる諸症状が生じます。

まとめると、心臓のポンプ機能の失調によって、ポンプの先では循環不全が起き、ポンプの手前ではうっ血が起こる、というわけですね。

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2018年11月19日

非結核性抗酸菌症(MAC症)の治療適応・目安

肺MAC症の治療・化学療法をいつ始めるかについては専門医でも迷うことが多々あります。診療マニュアルによれば、

・線維空洞型

・結節気管支拡張型でも、以下のような症例
 病変の範囲が一側肺の1/3を超える症例
 気管支拡張病変が高度な症例
 塗抹排菌量が多い症例
 血痰・喀血のある症例

は、化学療法を開始すべきであろうと。

上記のいずれかに該当しない、特に75歳以上の高齢者では、まずは経過観察とする、となっています。もちろん、経過観察していて、画像所見や症状の悪化があれば、化学療法開始を考慮すること、という書き方になっています。


あと、治療期間については、線維空洞型、もしくは結節気管支拡張型でも空洞があるタイプでは、喀痰培養が陰性化してからおよそ2年間、結節気管支拡張型で空洞のないものは喀痰培養の陰性化から1年間という記載がありますが、そもそも喀痰で培養陰性化を確認出来る例が少なく、しかもこの期間も確たる根拠があるものでもなく、ふわふわした数字になっています。

また、喀痰が陰性にならないとか、治療を中止したら再悪化するとか、そういう例でいつまで続けるのかも明記がありませんが、なかなか治療を終了できない例も経験される、というのが実際のところでしょう。

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2018年11月13日

特発性肺線維症/間質性肺炎の治療ガイドライン10・IPAF2

さすがに用語が乱立しすぎ、もうええわ、ええかげんにせえ、ということで、ATSとERSで相談し、統一しましょう、と2015年に決められたのがIPAFです。

まあさすがにATSが言ってますんで、統一の機運が出てきているようです。どちらかというと臨床のための診断基準、というよりは、現状、こういう風に分類しておいて、それが治療や予後予測に役立つかどうかを今後検討していきましょう、みたいな形の分類であります。

どれか膠原病の診断基準を満たすわけではない、でも膠原病の香りがする、間質性肺疾患のある症例をIPAFとするわけですが、その分類基準は、

1.HRCT検査か外科的肺生検で証明された間質性肺炎がある
2.他の原因による間質性肺炎が除外されている
3.明らかな、確立した膠原病の診断基準を満たさない
4.臨床的・血清学的・形態学的、三つのドメインのうち1項目以上を満たすドメインが2個以上ある

(Eur Respir J. 2015 Oct;46(4):976-87. An official European Respiratory Society/American Thoracic Society research statement: interstitial pneumonia with autoimmune features.
Fischer A, et al.)

現段階ではまだ、IPAF群において、確たる予後予測や治療が定まっているわけではなく、あくまで研究/検討段階ではありますが、今後治療なりが定まってくることが期待されています。

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2018年11月12日

特発性肺線維症/間質性肺炎の治療ガイドライン9・IPAF1

■ IPAF(interstitial pneumonia with autoimmune features)*これも日本名?和名?はありません。

間質性肺炎には、特発性と原因のあるものがあります。そして、原因のあるもので数の上でも、診断や治療の上でも重要なものといえば、やはり膠原病です。膠原病に間質性肺炎を合併するということは結構よくあるのですが、膠原病という疾患概念自体が結構曖昧なところがありますね。

診断基準はありますが、診断基準をガッツリ満たさない、でも膠原病臭い病態、というのがあります。それに一つの膠原病がカチッと決まらず、いくつかの疾患の特徴が少しずつ重なり合う、オーバーラップというところもあるので、膠原病自体考え方が難しいですし、それに間質性肺炎が絡んでくるときには、えらい先生の間でも意見が一致しないところがあるのです。ああややこしい。

肺の立場からいうと、間質性肺炎だけがあり、その時点で他の臓器の膠原病らしさははっきりしていないものの、間質性肺炎をずっと観察しているうちにその他の臓器に膠原病らしき病変が出てきて、後から振り返るとこれは膠原病で、肺病変が先行していたんだな…、というものが少なからずあるのです。肺病変先行型膠原病、という概念で呼ばれることが多いです。

それからもう一つ、最初から間質性肺炎があり、膠原病は何かありそうなんだけれども、各々の膠原病の診断基準はしっかり満たさない、というものもあるのです。こういうものたちはカチッとした「膠原病」や「間質性肺炎」とはまた少し異なる臨床や病理像を呈するのではないか、ということで、特別扱いしよう、と提唱されました。

それはいいのですが、提唱者によって名前や概念が少しずつ異なり、非常にややこしくなっていました。UCTD(undifferentiated connective tissue disease:分類不能の結合組織病)、LD-CTD(lung-dominant connective tissue disease:肺病変優位型の結合組織病)、AIF-ILD(autoimmune-featured interstitial lung disease:自己免疫性の間質性肺炎)などなど…。

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2018年11月11日

久々、質問コーナー3

前回の回答を受けて…
「肺炎に関しては、結核があるからといってややこしく考える必要はない、ということですよね?肺炎は肺炎で、結核は結核で、分けて治療すれば良いわけで両方の相互関係みたいなものを考えるのは、日常診療上あまり必要ではないと。
なんというか、こういった「合併症やリスク因子を持っている有名疾患像」のゲシュタルトとデギュスタシオン(パクりですね)の片鱗を掴めればと思うのですが、中々難しいです。国試は机上のパターン認識になってしまい、実際の感覚が全くついてこないので僕の中では結局知識の羅列にしかなってない感じがします...
実臨床では「なんかおかしい」「これは多分こう」みたいなファジーな感覚が大事なんだと僕は思うのですが...」
と頂きました。

もちろん併存疾患に因果関係があったり相互関係があったりすることもありますが、今回はシンプルに考えて頂いたらよいかと思います。

ご指摘の通り、国試はあくまで「医師をやっていく上での最低限の知識」を問うものなので、国試勉強が実臨床に直結していない感があるのは宜なるかなというところです。実臨床の感覚は、やはり研修で培って頂いている、というのが実際のところです。理想的には臨床実習でそれを補うような指導が出来ればいいのですが…私もそういった指導を取り入れようとは思いますが、まず知識を入れないと話にならないので、なかなかそこまで手が回っておりませんです…。


(質問2ここから)
・ナルコーシスに関して

呼吸化学受容体刺激薬のドキサプラムというのがあると知りました。適応を見てみると、主にNICUや救急・麻酔科領域の薬のようですが、COPDでナルコーシスになった時にも補助的に使えるんじゃないかと思ってしまいました。ポリクリ中には一度もこの薬に遭遇したことはなかったのですが、先生ご自身は使った経験がありましたか?もし使われたことがあったのなら、それはどういう場面においてなのでしょうか?


(回答)
懐かしいですね、ドプラムレジスタードマーク(ドキサプラム)。その名前、久しぶりに聞きました。

呼吸器内科の領域で使わなくなって久しいのですが、私が研修医の頃はU型呼吸不全の方の低換気状態でよく使っていました。当時は換気が落ちてきたら、挿管人工呼吸〜慢性の場合は気管切開しかなかったので、それを回避するにはドプラムとか、あとダイアモックスレジスタードマーク(アセタゾラミド:炭酸脱水酵素抑制作用により肺胞中のHCO3-の尿中排泄を増加させ、H+を増加させることにより呼吸中枢が刺激され、換気量が増大し、低酸素・炭酸ガス換気応答が改善される)なんかもよく使いました。

呼吸刺激薬としての役割を期待して、当時研修医の目から見るとそれなりに効いたような気もしていたのですが、NPPVの普及とともに?いずれの薬剤もCO2ナルコーシスには効果がない、とはっきりしてきて、全く使われなくなりました。

現状ではドプラムレジスタードマークの添付文書にも効能・効果に関する注意として
「呼吸筋・胸郭・胸膜などの異常により換気能力の低下している患者[本剤の効果が期待できず,レスピレータによる補助が必要である。]」
とはっきり記載されています。

ご質問にもあるように、現在は主に麻酔の時やNICU(早産・低出生体重児)に使われています。呼吸器内科でCO2ナルコーシスの時には、問答無用でNPPV→挿管人工呼吸をやります。
(回答ここまで)

Mくん、ご質問ありがとうございました!国家試験勉強、及び研修頑張ってください!

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2018年11月10日

久々、質問コーナー2

(質問ここから)
・肺炎について

『……68歳男性、低所得地域に居住、警備員、DM有(コントロール不良)、同居人は入院費を心配し、外来治療を希望している……』

・この患者背景だと、喀痰塗抹染色陰性・全身状態良好、退院して外来移行OK!となってもアドヒアランス不良でまた再燃する、ということにもなりかねないですが、入院から外来治療への移行は何を基準に判断するのでしょうか?


(回答)
まず、喀痰Ziehl-Neelsen陽性で、これが翌日あたりに結核PCR陽性と判明したら問答無用で入院です。塗抹陽性の結核ですから隔離入院が必要です。結核の治療費用については、感染症法による公費負担制度があり、「入院費を心配し、外来治療を希望」されるようなケースでも入院治療をして頂くことになります。

で、退院のための基準は、喀痰塗沫が連続して3回陰性であることなので、そこそこ退院には時間がかかります。なので、少なくとも「結核において」退院可能となった時点では、「肺炎について」は治癒していると期待されます。なので、「アドヒアランス不良でまた再燃する」、というのは結核についてのご質問、ということでよろしいでしょうか。

確かにこの患者さんの背景だと、いかにも退院後のアドヒアランス不良感が漂います。そこで結核の時は、そういう方は保健所などと協力し、退院後もDOTS(directly observed treatment with short course:直接監視下短期化学療法:医療者側の誰かが薬を飲むところを監視して飲んでもらう)をやるなど、いろいろな工夫をしています。その手の対策は割と歴史もあり、キッチリと決まっているのです。

文脈からは肺炎の再発も心配されている気がしたので、肺炎における入院から外来治療への移行のガイドライン的な話をしますと、外来に移行する(退院する)っていうことは、注射の抗菌薬から内服の抗菌薬に移すということとほぼほぼ同義です。注射薬は1日3回とか4回とか点滴をしないといけないので、これを外来でやるのは現実的ではありません。

注射の抗菌薬から内服の抗菌薬への移行、スイッチ療法と言いますが、これの条件、目安としては、全身状態がよく(循環動態が安定して)、臨床症状が改善して、それからやっぱり口からご飯を食べられて、内服抗菌薬を飲んでそれがちゃんと効果を表すことが期待できるという、まあ消化器の機能が健全である、ということになります。

この症例が肺炎だけで、アドヒアランス不良(薬を飲まないとかご飯を食べないとか)でまた再燃するかもしれないような状態であれば、ちゃんと治るまでは下手に内服にスイッチせずに退院させるべきではないというのが正直なところです。おそらくスイッチしてから治療完遂まではほんの数日、でしょうから。

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2018年11月09日

久々、質問コーナー1

以前はちょいちょいご質問を頂いていたりもしたのですが、最近はあまり頂くことも少なくなりまして。まあ、大概のご質問には、ブログ内で既に答えてしまっているから、かもしれませんが…。

久々に、6年生の学生さんからご質問です。学生さんからのご質問はいつでも受け付けております。いや、学生さんだけでなく、研修医の先生方、コメディカルスタッフの皆さん、などなど、医療関係者の皆さまの疑問・質問を通して、「どういう風にお伝えしたらよいか」こちらもヒントを頂いておりますので、ご遠慮なくどうぞ。


(質問ここから)
・肺炎について

例えば以下のような臨床問題があったとします…

『……68歳男性、低所得地域に居住、警備員、DM有(コントロール不良)、1カ月前より37℃台の発熱、咳が続いていたが医療機関への受診はせず。2日前より発熱が以前より高くなり、咳、呼吸困難感あり我慢できずwalk inで来院。来院時Ht170cm, Wt75kg, PR:92 regular, BP:142/87mmHg, BT:38.3’,RR:24/min, SpO2:94%(RA), 右肺野でcoarse crackle聴取可能、下腿浮腫なし、手背のturgor低下、喀痰塗抹染色でZiehl-Neelsen陽性、グラム染色でGPC陽性、同居人は入院費を心配し、外来治療を希望している……』

これは結核と肺炎球菌性肺炎を疑い、何らかの治療介入を必要とするものだと思いますが、

・実際こういう臨床像は存在するか?
・抗菌薬のレジメンは?結核の治療を優先させるのか、肺炎をまず治療するのか、それともどちらが優先というのは特に考えないのか
(キノロン系使用の慎重考慮や感受性試験後のde-escalation、というのはあると思うのですが、待てる症例ではなさそうですし、何か抗菌薬をempiricに行く必要があると考えます。そこで、こういった普通の肺炎+結核に遭遇した時はどういう筋道を考えておくのでしょうか?単にガイドラインに従う、のもなんか違うのかなと…)


(回答)
68歳の男性で、低所得地域に居住。低所得地域ってどこなんでしょうか、アメリカですかね〜。わかりませんけど、まぁこれでまず先入観っていうのが入ってきます。所得が低い地域の警備員、警備員は所得が低いかもしれん。で、糖尿病があり、コントロールが不良…免疫抑制ありますね。

そういうバックグラウンドを持っている人が、1ヶ月前から37℃台の発熱と咳が続いていたっていうことで、国家試験でこの経過を見たら、もう結核ですよね。で、2日前から発熱が以前より高くなってきた。

1か月前からのエピソードでは医療機関の受診はされてない、つまりまだ耐えられたものの今回来院したというのは、しんどさ・症状の桁が変わってきたということです。咳と呼吸困難感に我慢ができないということでやってきましたという話になります。慢性に経過している結核に加えて肺炎とか感染症が混合?感染してきた、みたいな印象ですね。

身長170cmで体重が75kg、やせ型ではありません。呼吸数は24回、多いです。SpO2 94%なので低酸素です。右の肺野でcoarse cracklesを聴取していますので、普通に考えると気道(気管支)内に何か分泌物が出ているのでしょう。

手背のturgorが低下しているということで脱水があり、喀痰塗抹でZiehl-Neelsen陽性、これは抗酸菌の存在を考えます。グラム染色ではグラム陽性球菌が見えて、肺炎もあるかなということですが、実際にこういう症例は存在するかということですが、治療をしていない結核が少し長い経過で存在して、そこに肺炎球菌性肺炎が混合?感染を起こしてきたということで、存在するかと思います。

この時に抗菌薬治療をどうするかということなのですが、感染症(伝染性疾患)として、公衆衛生的に結核を考えると、とにもかくにも結核と診断したら治療をすぐ始めるのが原則です。

なので通常は肺炎治療しながら抗結核薬も投与します。肺炎の治療はグラム染色で肺炎球菌だなって思ったらペニシリンになりますし、結核はHREZです。キノロン系は肺炎にも結核にも効くには効きますが、肺炎の治療にキノロンが必要、という場面はあまりなくて、レジオネラの時ぐらいです。

それと基礎疾患に呼吸器疾患があって、感染をちゃんと治さないと増悪を起こして具合が悪い、かつ広域な抗菌薬を必要とする(BLNARが想定されるとか)、かつ外来で治療をする、という場面に限られるかなと思います。

結核治療に関しても、あくまで第一選択はHREZであって、キノロンは何らかの理由でそれらの一つが使えない時の代替薬としての意味合いしかないので、この症例では型通り、ガイドライン通りの治療(ペニシリン+HREZ)を同時に開始すると思います。
(回答ここまで)

長くなったので、ご質問の後半と二点目のご質問は明日以降に回します〜。

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2018年11月08日

特発性肺線維症/間質性肺炎の治療ガイドライン8・PPFE2

PPFEは病理組織学的所見の名前で、疾患名としては原因となるもののないidiopathic PPFE(IPPFE)と原因のある二次性PPFEが考えられていますが、間質性肺炎ほど因果関係がハッキリしているわけではありませんので、バシッと厳密にIPPFEかどうかを決めるというよりは、臨床的、画像的に特徴的なものを「PPFE的な」ということが多いようです。

臨床的には、主に上肺が、線維化というか硬くなって縮むことで、ゆっくりと乾性咳嗽や息切れが進行してきます。胸膜が縮むことで再発・難治性の気胸を起こしやすく、胸郭が扁平になってくることが多いです。

ステロイドや免疫抑制治療、それに抗線維化薬といった既存の間質性肺炎に使われる薬剤は、今のところ効果が期待できるような研究結果がありませんし、治療といっても難しいところがあります。進行は人それぞれですが、進み始めると悪い印象です。

病態としては胸膜から始まる線維化が拡がってくるのですが、肺胞領域の炎症ということではなくて弾性線維の増加を伴い、肺胞は破壊されるというより折りたたまれた感じになります。胸膜がガチガチに縮んで固まってきて、拘束性障害を起こすのですが、肺胞領域は換気がなくなるものの比較的早期には拡散障害が起きにくいので、低酸素血症は目立たないのが特徴です。

画像を見ると肺尖の胸膜が分厚くなり、上肺が縮んで肺門や毛髪線が挙上している像が典型的です。CTでも胸膜直下にべたっとした濃度上昇(コンソリデーション)がみられます。

ややこしいことに上肺にはPPFEがあって下肺にはUIPとかNSIPの病理組織を持つという合併例のようなものも少なからずあって、PPFEだったら他の間質性肺炎ではない、IPFではない、とかいうことにもならないのです。例えば画像的に上肺の胸膜が分厚く縮んで、横隔膜の上に蜂巣肺があるようなケースではPPFEと肺線維症の合併かなと考えます。

純粋な上肺だけのPPFEであれば、あまり薬を投与するという話にならないのですが、下肺にUIP病変らしきものがあったりすると、抗線維化薬を使ってみようという話になることもあります。

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2018年11月07日

特発性肺線維症/間質性肺炎の治療ガイドライン7・PPFE

■ PPFE(pleuroparenchymal fibroelastosis)

きましたPPFE。PPAPではありません…というネタはもう古いですね…。

長い名前です。直訳したら胸膜肺実質線維弾性症、そんな感じになるでしょうが、正式な日本語の名称はまだ決まっていません。

その昔、京大の呼吸器感染症科におられ、結核・非結核性抗酸菌症の専門家であられ(て、私が研修医〜大学院時代に大変お世話になっ)た網谷先生が、通常、肺尖部〜上肺に病変が多く、胸膜が肥厚してくることの多い結核や非結核性抗酸菌症の症例の中に、菌がいないのに同じように上肺に線維化が起こったり胸膜が厚くなってきたり、そういう風な症例を集めて「特発性上葉限局型肺線維症(idiopathic pulmonary upper lobe fibrosis: IPUF)」として報告されたのが最初です。

普通の?肺線維症や間質性肺炎では、割と下肺野・胸膜直下に病変の主体があるところ、この一群では上肺野・肺尖部に胸膜が分厚くなるのが特徴とされました。

当初はそれが間質畑からの報告でなかったからか、あまりすぐにそういった概念が広まる感じではなかったものの、徐々にパラパラと報告がなされるにつれて、「そういえばそういうの、みたことある」みたいな感じで認知されるようになり、最初に報告された網谷先生のお名前から網谷病という病名が提唱されだしました。

一方で、その認知の過程で、上葉限局型肺線維症とか、上葉優位型肺線維症とか、上葉肺線維症とかなんとかかんとかいろいろな病名で呼ばれてきましたけれども、病理学的な特徴からPPFEという用語が出てきて、間質性肺炎の中に分類され、なんとなく今はPPFEと呼ぶことが多いと思います。

診断は外科的肺生検による病理組織診断が必要です。胸膜の線維性肥厚と気腔内を充満する線維化があり、肺胞が虚脱し、肺胞壁は折り畳まれ、弾性線維の集蔟が観察されます。線維化巣と下方の正常肺の境界は明瞭であるとされています。

まだまだ、特発性肺線維症との合併例がしばしばあるとか、はたまた特発性肺線維症との異同がはっきりしない症例があるとか、そもそもいわゆる網谷病が、上葉限局型肺線維症と果たして全く同じものを指すのか異なる疾患なのか、などなど議論があり、ガチッと定まった疾患概念とも言えず、流動的な部分がありそうです。

例えば慢性過敏性肺炎やサルコイドーシス、非結核性抗酸菌症といった、そもそも上葉に病変のあるびまん性肺疾患たちや、IPFや間質性肺炎の中でも上肺に病変があるものやじん肺などとの鑑別はしばしば難しいものです。確定診断には病理組織学的診断を必須とするのですが、困ったことに診断したとて治療法が全くない、というのが現状で、外科的肺生検をしてもメリットが少なく積極的に肺生検をしに行く機会が少ないものですから、なおさら病態の解明が進まない、こういう悪循環になっております。

この疾患概念を認識するようになってから、気をつけているとどうやら私たちが思っていたよりもPPFEは多いように感じています。例えば健診で陳旧性結核とか肺尖部の炎症性瘢痕とか胸膜の肥厚とか、そういう所見がついている症例の中にPPFEが潜んでいるかもしれません。しかしながら、まだまだ罹患率であるとかそういった統計は全く出てきていないのが実際です

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2018年11月06日

特発性肺線維症/間質性肺炎の治療ガイドライン6

間質性肺炎がらみの、新しい?診断名・疾患概念について触れておきましょう。

■ CPFE(combined pulmonary fibrosis and emphysema:気腫合併肺線維症)

既にこの名前自体、下火との話もありますが、こういう言葉が使われていた、ということくらいを知っておかれるといいでしょう。最近はあえてCPFEといわずに「気腫合併肺線維症」「気腫合併の線維化」なんていわれることが多いようです。

そもそもは、COPDって喫煙者の病気で、肺線維症もこれまた喫煙者が多くて、以前から、肺線維症症例のCTをよくみると、喫煙者では大概気腫がある、ということがよく知られていました。

典型的には、気腫は上肺優位で、肺胞が破壊されて肺が伸びる病変です。一方線維化は、下肺・胸膜直下優位で、縮む病変で、肺野にすりガラス影などの白っぽい病変、あるいは網状影、蜂巣肺などが出てきます。そういう、COPDと線維化病変の合併したような病態をCPFEと名付けたわけです。

CPFEの典型例では上肺が黒っぽくなって伸びて、下肺が白っぽくなって縮みます。気腫があるところは肺胞がないので、そういうところに線維化が起こってくると、元々正常なところに肺線維症が起こってきたときのようなガチガチの線維化にはならない印象です。

壁の厚い、丸い嚢胞の蜂巣肺が、びっしりガッチリあったら純粋なUIPパターン。気腫が優位で黒っぽくなっている中の胸膜直下に、ちょろっと蜂巣肺みたいな、壁の薄い、大きめの、癒合したりもする嚢胞が主体であればCPFEみたいなもの、と考えていただければいいんじゃないかと思います。

そもそもCPFEという名前が提唱されたのは、気腫が合併した肺線維症には高度のガス交換障害と肺高血圧症が合併しやすく、肺癌の合併も高頻度でみられる、というところから、この合併を独立させた概念として注意を喚起する、という意味合いだったのだろうと思われます。

しかしながら、IPFもCOPDも肺高血圧や肺癌のリスクを持ちますから、合併すれば肺高血圧だって肺癌だって起きるよね、多くて当たり前でしょう、というわけで、独立した疾患として取り扱うほどのモノでもない、といった論調になっているようです。

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2018年11月01日

特発性肺線維症/間質性肺炎の治療ガイドライン5

診断アルゴリズムは、少し変わって以下のようになりました。まあ、「IPFのガイドライン」ですので、あくまで中心はIPFで、IPFの診断のためにどうするか、という観点でのお話になります。それでも特発性間質性肺炎の診断において、IPFかそうでないかは治療を決定する重要事です。

IPF−抗線維化薬、もしくは支持治療(無治療)
IPFでない−免疫抑制治療

ですから。

まず、IPFを疑うような症候(胸部X線写真やCTで両側に陰影が見られる、両側下肺に吸気時cracklesが聴取される、60歳以上)があったり、労作時息切れや咳があったりすれば、まずは間質性肺疾患を来すような原因(前述)がないかを考え、そこで特定の原因がない、となれば胸部HRCTを撮影します。

HRCTでUIPパターン、となりますと、総合的なディスカッション(MDD)を経て最終診断。

HRCTでUIPパターン以外、という場合には、まずそこでMDDをし、気管支鏡検査でBAL、もしくは外科的肺生検を行い、病理診断など総合的にMDDということを経て、間質性肺炎の診断をしていくということになっています。

要するにこれまではUIPパターン以外の(つまり、蜂巣肺がない)症例では外科的肺生検をしなさいよ、であったものが、BALとMDDをすればIPFと診断が出来る、となりました。つまり今回のアルゴリズム変更は、少しでも抗線維化薬を使う方向に行くようなものですねえ(意味深)。

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2018年10月31日

特発性肺線維症/間質性肺炎の治療ガイドライン4

■ Alternative Diagnosis

alternative|二者択一の、代わりとなる、代わりの、慣習的方法をとらない、新しい(weblio英和辞典より引用)

オルタナティブ・ロックといえば、その時の主流とは違ったスタイルのロックを指すわけですが、この場合のAlternative Diagnosisは、UIPと違う・別の診断になる、という意味合いです。

所見としては

・CTの特徴

嚢胞
明らかなモザイクパターン
優位なGGO
多数の小粒状影
小葉中心性粒状影
結節影
コンソリデーション


・分布の特徴

気管支血管束周囲
リンパ系周囲
上肺野〜中肺野優位


・その他

胸膜プラーク(アスベスト肺を考慮)
拡張した食道(膠原病を考慮)
鎖骨遠位びらん(RAを考慮)
著しいリンパ節腫大(他疾患を考慮)
胸水・胸膜肥厚(膠原病/薬剤性を考慮)

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2018年10月30日

特発性肺線維症/間質性肺炎の治療ガイドライン3

問題はここからですが、以前の分類とどう変わった、ということを書いてもややこしいだけなので、変わったあとのことだけを書きます。


■ Probable UIP

probable|(確実ではないが)ありそうな、起こりそうな、まず確実な、たぶん…だろう(weblio英和辞典より引用)

その昔、「Maybe Maybe 好きなのかもしれない Probablyに近い もっと確かなもの」
なんて歌があって、それでMaybeとProbablyの違いを何となく感じ取っていました。

じゃあpossibleとの違いは…

possible|可能な、考えられる、受け入れられる、可能で、できる限りの、ありそうな、起こりうる、(…は)ありそうで、起こりえて、見込みのある
定かではないことについて「可能な」という意味を表す/実行できる可能性が低いが,ないわけではないことを表す.またある事柄が事実である[実現する]可能性も表す(weblio英和辞典より引用)

てことで、Probable UIP はPossible UIPよりUIPっぽい、ということでよさそうです。
で肝腎の所見ですが、

胸膜直下、肺底部優位;分布はしばしば不均一
末梢の牽引性気管支拡張/細気管支拡張を伴う網状影
GGOはあってもよい


■ Indeterminate for UIP

indeterminate|不確定の、不定の、明確でない、漠然とした、あいまいな、未解決の、未定の(weblio英和辞典より引用)

UIPとは決めかねる、ということです。所見としては、

胸膜直下、肺底部優位
微細な網状影 軽微なGGOや構造偏位(早期のUIPパターン)があってもよい
特定の病因を示唆しない肺線維化病変の特徴や分布

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2018年10月29日

特発性肺線維症/間質性肺炎の治療ガイドライン3

で、その「HRCTで特発性肺線維症(IPF)に典型的な画像所見」ですけれども、いわゆるUIPパターン、と呼ばれるものがそれにあたります。

HRCTで両側びまん性の陰影をみたときに、UIPらしいか、そうでないか、ということで、以前のATS/ERS/…ガイドラインではUIP、possible UIP、inconsistent with UIPの3パターンに分けていたのですが、新たなガイドラインではまた増えまして、4つのパターンになりました。

UIP
Probable UIP
Indeterminate for UIP
Alternative Diagnosis


もうこうなったら言葉遊びというか英単語のテストみたいなもので、possibleとprobableとどっちが確実か、みたいな話になってきますね。しかもどうせまた何年かしたら変えるんだろうし。偉い人の論文量産に付き合わされているだけのような気もするんですよね…。

まあそう言っていても仕方がないので、読んでみますと…。

■ UIP

胸膜直下、肺底部優位;分布はしばしば不均一
蜂巣肺(末梢の牽引性気管支拡張/細気管支拡張は伴っても伴わなくてもよい)

ここは、まあそんなに議論のないところですね。

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2018年10月26日

特発性肺線維症/間質性肺炎の治療ガイドライン2

間質性肺炎の存在が疑われた時に行うべき検査としては、一般的な採血、肺機能、動脈血ガス分析などがあります。

採血ではKL-6、SP-D、SP-Aが間質性肺炎に特異的といわれ、保険適用もありますが、残念ながら(2018年10月現在)診療報酬上、『「KL-6」,「SP-A」及び「SP-D」のうちいずれか複数を実施した場合は,主たるもののみ算定する。』ということなので、注意が必要です。

個人的にはまずKL-6が特異度の点などで有用かと考えていますので、まず1つ採るならKL-6としています。採血ではそれ以外に活動性のマーカーとしてLDHなど一般的生化学検査と血算などを採ります。ここで問診や診察所見などから、特発性でない間質性肺炎の可能性が考えられたら、感染症のマーカー(β-D-グルカン、C7-HRPなど)や、膠原病や血管炎に特異的な抗体検査をある程度初診時に測定します。

初診時に施行する血液検査としては、まず抗核抗体(ANA)、RF。ANA陽性の場合、疾患特異的な抗体として、以下のようなものを測定します。

抗ds-DNA抗体・抗Sm抗体−全身性エリテマトーデス
抗RNP抗体−混合性結合組織病
抗SS-A抗体−Sjoegren症候群他多くの膠原病で陽性となる
抗SS-B抗体−Sjoegren症候群
抗トポイソメラーゼT抗体(抗Scl-70抗体)・抗セントロメア抗体・抗RNAポリメラーゼ抗体−強皮症
抗Jo-1抗体などの抗ARS抗体−多発性筋炎、皮膚筋炎
さらに
抗CCP抗体−慢性関節リウマチ
抗リン脂質抗体−抗リン脂質抗体症候群
MPO-ANCA−顕微鏡的多発血管炎
PR3-ANCA−多発血管炎性肉芽腫症
抗GBM抗体−Goodpasture症候群

初診時からそのような抗体を絨毯爆撃的に測定することは、一時期賛否両論ありましたが、最近は後述するIPAFや肺病変先行型膠原病の存在が知られてきて、早期スクリーニング目的で抗体検査をされることが多いようです。

検査などから、原因がはっきりしたものがあればその原因に関してさらに精査を進め、治療を行います。

・感染症であればなるべく検体を採取して、それに対する薬剤を投与
・膠原病であればきちんと診断基準に則って診断をして、疾患に対する免疫抑制治療(主にステロイドや免疫抑制薬)
・過敏性肺炎であれば抗原からの隔離、薬剤性肺炎であれば薬剤の中止+ステロイド
・放射線肺炎であれば(通常はもう放射線治療はもう終わっているタイミングであることが多いのでその原因を取り除くというわけにはいきませんが)、呼吸状態の悪化症状があったりすればステロイド治療

間質性肺炎かな、となったら、原因のあるものの精査加療とほぼ平行して胸部HRCTを撮影されるでしょう。で、HRCTで特発性肺線維症(IPF)に典型的な画像所見がある場合、臨床診断としてIPFと診断して良いということになっています。

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2018年10月24日

特発性肺線維症/間質性肺炎の治療ガイドライン1

というわけで、現存する日本の最新ガイドライン
『特発性肺線維症の治療ガイドライン2017』
『特発性間質性肺炎診断と治療の手引き第3版』

に、最新の米国胸部学会(ATS)/欧州呼吸器学会議(ERS)/日本呼吸器学会(JRS)/南米胸部学会(ALAT)合同の、IPF(特発性肺線維症)の診断に関するclinical practice guideline(2018年)をからめた形で、診断と治療の手順をお届けしようと思います。

なお、今の、特に肺線維症のガイドラインは、どうやって抗線維化薬を使う(使わせる?)か、それと専門医による議論(MDD::multidisciplinary discussion)というところに力点が置かれていますが、正直初学者の皆さんや非専門医の先生方にとってはかなりどうでもいい話なのでそこは端折っていきたいと思います。あくまで現在の診断と治療における、エキスパート以外の方がアクセスできる最新の状況を知っていただくということを目的にしています(2018年10月現在)。


診断への道筋、まずは空咳や労作時の息切れといった症状受診時、あるいは健診でのスクリーニングにおける胸部 X 線写真で、両側下肺野にすりガラス影や網状影が見られるということや、胸部の聴診でファインクラックルが下肺野に聴取されるとか、そういったことで間質性肺炎の存在に気づかれることが多いでしょう。

ウチのような大学病院では、他疾患のために偶然撮影されたCTによって、最初から「間質性肺炎疑い」とされて紹介になることも結構あります。

間質性肺炎の分類としては、とにもかくにも「原因がある」のか、「原因がない」のか、が重要です。原因があるかどうかが治療にもガッツリ関わってきますから。

ということで、こうした所見から間質性肺炎の可能性が疑われた場合、まずは明らかな原因のある間質性肺炎や間質性肺疾患を、除外(あるいは診断)していきたいところですので、さらに問診や身体診察をしっかりと行います。

それらは感染症、膠原病、過敏性肺炎、薬剤性肺炎、放射線肺炎、じん肺などです。問診では、過敏性肺炎を起こすようなカビなどとの接触が生活環境にあるかどうか、鳥との接触があるかどうか(羽毛製品を使用しているか)、加湿器を使用しているか、それから間質性肺炎を起こすことが知られている薬剤の摂取・曝露があるかどうかを確認します。1年以内の放射線照射があれば放射線肺炎は分かりやすいですね。

そして膠原病は特徴的な症状や身体所見(皮疹(皮膚の着色・硬化など)、関節症状や関節炎、筋痛、Raynaud症状、目や口の乾燥、腎障害や血尿などの症状)を聴き取り観察します。

じん肺は職業上、粉じんへのばく露があるかどうか、アスベストなどを取り扱っていないかどうかをよく確認します。

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2018年10月23日

特発性肺線維症の治療ガイドライン

続いては、間質性肺炎・特発性肺線維症について、ガイドラインが最近立て続けに出ましたので、取り上げておかねばなりますまい。

『特発性肺線維症の治療ガイドライン2017』というものが2017年に出ました。これは特発性肺線維症に特化した日本のガイドラインです。

一方、『特発性間質性肺炎診断と治療の手引き第3版』というものが2016年に出ています。こちらは特発性肺線維症を含む、特発性間質性肺炎に関するものです。これらが今の日本の最新のガイドラインになります。

で、いわゆる国際的なガイドラインというものがありまして、これは主に米国胸部学会(ATS)欧州呼吸器学会議(ERS)から日本呼吸器学会、はたまた南米胸部学会(ALAT)の4学会が合同で出していて、それの最新版がついこの前(2018年)出ました。これはIPF(特発性肺線維症)の診断に関するclinical practice guidelineで、診断に関して最新のガイドラインということになります。

特に非専門医の先生方にとって、いや実は我々も一応専門医ということになっていますが、我々専門医にとってすら、ガイドラインが変わるたびに、用語の定義が、あるいは用語そのものがコロコロ変わるという現状は、非常に鬱陶しい、やりにくいものであります。

古くはHammanとRichによる急性症例の報告に始まる「間質性肺炎」という病態に関しては、その後多くの症例の蓄積を経て、疾患概念そのものの変遷、紆余曲折がありました。

急性型のAIPと慢性型のIPFに加えて、NCIPだNSIPだBOOPだOPだCOPだと新しい疾患概念と名前が提唱され、混乱の後に2000年になって、ようやく「特発性間質性肺炎の7つの病理型を元に臨床診断を定める」となって、一旦ガイドラインがきちっと決まったかと思わせておいて、それからも数年に一回用語が変わり、追加され、傍から見ていてかなりうんざりされている先生方が多いのではないかと思います。私もそうです。

最近ではCPFEだPPFEだPPAPだ?IPAFだ、と、またぞろ新しい用語が生まれていますが、すでにCPFEという言葉は下火になってきているようです。一度提唱された先生は、安易に取り下げないで頂きたい。世に出すのであれば、学会での十分な議論の後に、出して頂きたいものです。

それで話は戻りますけれども、ガイドラインの最新版が出たということで、またその最新版に関する色々な話題があるわけなんですけれども、まあどうせこれをまとめてもまたすぐひっくり返されるんだろうなあ、みたいなことを思ったりもしないわけでもありません。

しかしながら現時点ではこれが最新版なわけでして、最新版について触れないわけにも参りませんので、とにもかくにもまず細かいことはさておき、とっても大事なところだけ取り上げて考えていきたいと思います。

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2018年10月22日

急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版解説8

急性心不全の診断を含めた初期対応が、ガイドラインではフローチャートになっています。トリアージのところで収縮期血圧によって病態を(CSをふまえて)分類します。もちろん血圧が絶対ではありませんので、病態を考えながら対処することになります。

収縮期血圧が140mmHg以上であれば、CS1(肺水腫)を考えます。SpO2が低下したり呼吸数25回以上の頻呼吸であれば、NPPV導入が症状軽減に効果的です。

また、硝酸薬の舌下やスプレーにより速やかな血管拡張を図ることも有用です。体液貯留もあるようなら、利尿薬を併用します。これら急速な血管拡張や利尿で、血圧を下げすぎないようモニターが必要です。

LVEFが低く低心拍出徴候があれば、ドブタミンを使用し、それでも循環動態が維持できない症例ではIABPなどの補助循環管理を行います。


収縮期血圧が100〜140mmHgで、全身的な体液貯留がみられる(CS2)場合には、利尿薬を中心に加療を行います。腎機能障害や低アルブミン血症など、コントロールに難渋する場合もあり、利尿薬の追加やカルペリチド(ハンプレジスタードマーク)の併用などが使われます。


収縮期血圧が100mmHg未満で、倦怠感や食欲低下、活動性の低下など低心拍出・低灌流症状を呈する(CS3)場合、体液貯留がなければ容量負荷、低血圧・低灌流が持続する場合は血管収縮薬を投与しますが、強心薬で改善がない場合は血行動態評価が必要です。

収縮期血圧が90mmHg未満、または平均動脈圧65mmHg未満で乳酸値上昇がみられる場合、心原性ショックと考えられ、薬物(ドブタミン+ノルアドレナリンなど)治療+補助循環を考えます。

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2018年10月19日

急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版解説7

CSをふまえて急性心不全の診断を含めた初期対応が、ガイドラインではフローチャートになっています。具体的には、到着から10分以内に行うトリアージ、次の60分の間に行う迅速評価、そしてその次の60分以内に行う再評価という時間軸を設定しています。

トリアージは四肢冷感、バイタルサインなどの臨床所見と、血液ガス分析による乳酸値を参考に、血行動態が安定か、不安定かを手早く評価します。乳酸値は>2mmol/Lあたりで末梢の低灌流を考えます。

血行動態が不安定であれば、補液、強心薬投与、IABP/ECMOなどの処置を追加します。

次の60分で迅速評価を行います。具体的には呼吸不全の有無を評価することと、急性症候群かどうかをこの間に確認します。

検査としては血液検査(BNP/NT-proBNPなど)、心電図、心エコー、肺エコー、胸部X線写真、必要に応じて胸部CTを行います。

呼吸不全があれば、低酸素血症(SpO2<90%またはPaO2<60 mmHg)の患者に対しては酸素を投与し、それでも改善が認められない(呼吸回数>25回/分,SpO2<90%)場合はすみやかに陽圧呼吸を導入します。それでも改善を認めない場合は気管内挿管による人工呼吸管理が推奨されます。

呼吸不全がなければ、まずは心不全の治療として血管拡張薬・利尿剤の投与を行いつつ、急性冠症候群の診断を急ぎます。急性冠症候群の場合、緊急CAG/PCIにうつりますが、そうでない場合、基礎にある心疾患の診断や病態を把握し、治療方針を固めていきます。

呼吸不全や急性冠症候群など、取り急ぎ対処が必要なものを迅速評価で対応した後、続いての60分は病態把握や治療反応性の再評価の時間です。

その時間で特殊な病態の鑑別を行って、各々の急性期医療につなげていくフローチャートになっています。

特殊な病態、つまり疾患特異的な介入を必要とする病態を取り上げて評価するわけで、MR. CHAMPHという語呂合わせがあります。

Myocarditis:心筋炎
Right-sided heart failure:右心不全
acute Coronary syndrome:急性冠症候群
Hypertensive emergency:高血圧緊急症
Arrhythmia:不整脈
acute Mechanical cause:機械的合併症
acute Pulmonary thromboembolism:急性肺血栓塞栓症
High output heart failure:高拍出性心不全

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2018年10月18日

急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版解説6

急性心不全の診療フローチャート

今回のガイドラインは急性・慢性を合わせたガイドラインになっていますが、急性心不全はそのまま急速に心原性ショックになったり、心肺停止になったりする可能性が高い、緊急性の高い状態です。

ですからこのガイドラインの中でも、やはり急性の心不全状態に関しては、特別扱いをして急性期対応のフローチャートというものが作られています。

まず定義ですが、急性心不全とは、「心臓の構造的および/あるいは機能的異常が生じることで、心ポンプ機能が低下し、心室の血液充満や心室から末梢への血液の駆出が障害されることで、種々の症状・徴候が複合された症候群が急性に出現あるいは悪化した病態」であるとされています。これには新規の心不全発症例も含めて考えます。

急性心不全を考えるときにいくつかの分類に当てはめるという作業が必要になってきますこの分類が色々とあってややこしいんですけれども、どうしても必要なものを少し紹介します。

まずクリニカルシナリオ分類(CS)分類です。これは急性心不全症例を救急隊到着時や病院搬送時に素早く治療を開始するための分類で、血圧と病態によって層別化し、各々に対して異なる初期対応を行うというものです。

CS1〜CS5までの5群あるのですが、まずはCS1〜3の病態を把握しましょう。CS1が急性肺水腫で、収縮期血圧が140mmHg以上、病態生理としては急性発症で、充満圧上昇による血管性の要因が関与しています。左室の収縮は保たれていることが多く、全身性の浮腫は軽度で、体液量が正常または低下している場合もあります。

CS2が全身的な体液貯留ないしは溢水です。収縮期血圧は100から140mmHgと正常で、通常は緩徐な発症です。病態生理としては慢性の充満圧/静脈圧/肺動脈圧の上昇によるさまざまな臓器障害(腎障害/肝障害/貧血/低アルブミン血症など)があります。肺水腫は軽度です。

CS3は低灌流です。収縮期血圧100mmHg未満と低値で、急性な発症、緩徐な発症、どちらもみられます。低心拍出・低灌流と心原性ショックを含む病態です。肺水腫も全身浮腫も少なく、進行、終末期心不全の様相がみられることも多いです。

当然これらはひとつの病態だけに限ったものではなく複合することもしばしばありますが、どの病体が主体であるかを評価して治療を考えていきます。


CS4は急性冠症候群に伴う急性心不全です。これは当然特別扱いですね。急性冠症候群にはエビデンスが豊富な治療がありますからそれでしっかり治療します。

CS5は右心機能不全です。肺高血圧や右室梗塞で発症します。急性あるいは緩徐に発症して、通常肺水腫はなく、右室の機能が障害されているということで左心系は低灌流となり、全身の静脈うっ血徴候があるというのが特徴とされています。

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2018年10月17日

急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版解説5

心エコーで測定できるLVEFを左室収縮能の指標として用います。これは必ずしも左室収縮能を正確に表すというものではありませんが、まあ広く使われていますし、簡単におおよその収縮能がわかるということで、ガイドラインに採用されています。

先に述べましたとおり、LVEFを用いて心不全の病態分類をしています。LVEFの保たれたHFpEFヘフペフと、LVEFが低下したHFrEFヘフレフとに分類します。

LVEFが収縮能を表すというのはいいのですが、拡張能の評価が若干難しい。左室拡張能の評価には拡張早期の左室流入血流速波形Eを心房収縮期の流入血流速波形Aで割った比E/A、それから総合弁輪部拡張早期波(e’)、それからE/e’、左房容積係数(left atrial volume index:LAVI)、三尖弁逆流速度(tricuspid regurgitation velocity:TRV)などを用いて総合的に評価をします。

HFpEFとHFrEFでは治療が若干異なります。

具体的には心不全としての治療対象はステージCとDになりますが、ステージCのHFrEF治療薬はエビデンスのある薬剤がいくつかあります。

ACE阻害薬/ARB+β遮断薬+ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)
利尿薬
必要に応じてジギタリス
血管拡張薬
ICD(植込み型除細動器:implantable cardioverter defibrillator)/CRT(心臓再同期
療法:cardiac resynchronization therapy)
運動療法

ステージCのHFpEFは概念自体が新しく、まだまだ治療薬のエビデンスは少ないのが現実です。

利尿剤
併存症に対する治療

ステージCのHFmrEFは個々の病態に応じて判断することとなっています。

ステージDは上記の治療にもかかわらず悪化したものですから、もはやそれ以上の画期的な薬剤はありません。

治療薬の見直し
補助人工心臓
心臓移植
緩和ケア
などを考慮する、となっています。

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2018年10月16日

急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版解説4

1971の発表後、長らく心不全診断基準として使われてきたフラミンガム研究における心不全の症状・所見はよく出来てはいるのですが、左心不全や右心不全、それに低心拍出量の症状や所見が混在していて混乱が見られます。

そこで、これらを分けて考えることで病態の把握をきちんと行うことが勧められています。

・うっ血による自覚症状と身体所見

左心不全の自覚症状|呼吸困難、息切れ、頻呼吸、起坐呼吸

左心不全の身体所見|水泡音(湿性ラ音、coarse crackles)、喘鳴、ピンク色の泡沫状痰、V音(やW音)の聴取

右心不全の自覚症状|右季肋部痛、食欲不振、腹満感、心窩部不快感

右心不全の身体所見|肝腫大、肝胆道系酵素の上昇、頚静脈怒張、(高度になると)肺うっ血所見が乏しい


・低心拍出量による自覚症状と身体所見

自覚症状|意識障害、不穏、記銘力低下

身体所見|冷汗、四肢冷感、チアノーゼ、低血圧、乏尿、身の置き場がない様相

両心不全の患者においては、左心不全の症状・所見、それに右心不全の症状・所見の両者を呈します。


このような症状や既往症、身体所見などに一つでも該当する場合、血中のBNPもしくは NT-Pro BNP値を測定します。BNP で35〜40 pg/mLあるいはNT-Pro BNPで125 pg/mL以上の値を認めて、心不全の可能性が考えられる場合、心エコー図検査を行う、という手順になっています。

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2018年10月15日

急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版解説3

心不全の診断では、自覚症状、既往歴、家族歴、身体所見、それに心電図や胸部X線をまず検討することになっています。

自覚症状では
・労作時の息切れ
・起坐呼吸
・発作性の夜間呼吸困難
などが有名ですね。

既往歴は
・高血圧
・糖尿病
・冠動脈疾患の既往
・心毒性のある薬剤による化学療法歴
・放射線治療歴
・利尿薬の使用歴
など、心不全の発症するリスク因子として一般的に知られているものを指します。

家族歴では遺伝性疾患の有無、特に心疾患の家族歴などを確認します。

それから身体所見を確認しますが、有名なのはフラミンガム研究ですが、これにも問題があると…

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2018年10月12日

急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版解説2

もう一つ、新しいガイドラインで決められたのがステージという考え方です。

そもそも心不全は、心疾患によって心臓機能障害が生じて、その結果血液のうっ滞や循環不全が起こるものです。その流れはあくまでも一連の、段階を追って悪化してくるものであり、これまでのように急性とか慢性とかいうくくりで分けられるものではない、ということです。

ですから、そもそも心疾患のリスクがある状態、例えば高血圧、高脂血症、あるいは糖尿病といった状態も、すでに心不全の一連の流れの、最初の状態であるというふうに考えて、心不全を予防するというのは心不全になる前の状態、すなわち心疾患の予防であると考えるのです。

まだ心不全になっていない、心疾患の予防段階から心不全治療は始まっているので、そういうものも一連のステージの中に含めようというコンセプトでできたのがステージA(器質的心疾患のないリスクステージ)です。

高血圧や糖尿病の治療から心不全の予防は始まっている、ということを、一般医家の先生方や一般の方々に周知する、という意味合いもあるのだと思います。

そして心疾患が発症した段階、ステージB(器質的心疾患のあるリスクステージ)は、その発症した心疾患の進展を抑制するということ、それから今後心不全が発症してくることを予防するといったことを目標にします。

そして心不全になってしまった段階、ステージC(心不全ステージ)では文字通り、心不全自体の予後の改善、それから症状の軽減を目標にするわけです。

そして一番進行した状態、ステージD(治療抵抗性心不全ステージ)、これは有効性が確立している薬物治療、非薬物治療を試みられたにもかかわらず、NYHA(New York Heart Association:ニューヨーク心臓協会)心機能分類III度より改善しない、治療に抵抗性の心不全の段階ということになります。

この段階の治療は基本的にはステージCと同様なのですが、このステージを今回のガイドラインであえて分けた理由というのが、(肺炎でもそうでしたが)いわゆる終末期の心不全を取り上げて、症状緩和・終末期ケア、つまりなにが何でも治していくという方向性とは少し違う考え方が新たに盛り込まれるようになった、これがニュースであります。

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2018年10月11日

急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版解説

さて肺炎について一区切り付きましたが、そういえば心不全のガイドラインもいつの間にか?改訂されていました。少しガイドライン改訂の骨子について取り上げたいと思います。

このガイドライン改訂の主なポイントは、定義の明確化と、急性/慢性という位置づけを止めて、心不全を一続きの「心臓が弱っていく」流れであると見做してその進行を防止する、というコンセプトの導入です。

急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版によりますと、心不全の定義は「なんらかの心臓機能障害,すなわち,心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」とされています。

一般向けのわかりやすい定義として、「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です」という表現もされています。

原因疾患はいろいろですが、悪化していく心機能によって出てくる症状に対処すると共に、悪化を食い止める方策をとる、というのが心不全診療の基本になります。


■ 心不全の分類

心不全の分類にもいくつかありますが、新しいガイドラインで出てきた分類として左室の収縮能≒左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)による分類はおさえておきたいですね。

・HFrEF(heart failure with reduced ejection fraction:LVEFの低下した心不全)

収縮不全、すなわち心臓の動き自体が損なわれているもので、昔ながらの「心不全」です。LVEF<40%のものをいいます。ヘフレフ、と呼ばれています。

かつて循環器内科医の先生方は、これこそが心不全であり、収縮力が保たれていれば心不全ではない、という姿勢であったことを記憶されている方も少なからずおられるかも知れません。


・HFpEF(heart failure with preserved ejection fraction:LVEFの保たれた心不全)

LVEF≧50%と、収縮力が保たれているものをいいます。ヘフペフ、と呼びます。主に拡張不全による機序が主体です。

こちらに対しては、なかなかこれ、といった有効な治療がないのが現状で、実際問題診断しても、循環器内科の先生でなくては…的なところがなかったりする、そんなところも冷淡に取り扱われていた理由かもしれません。


・HFmrEF(heart failure with midrange ejection fraction:LVEFが軽度低下した心不全)

これまで分類はHFrEFとHFpEFだけだったのを、LVEFが40〜50%未満のものをカテゴリー分けしました。HFrEFに有効な薬剤がこの群にも効くのかどうか、エビデンスの構築が期待されるところなので、新たに分類したとのことです。ヘフムレフ…ではなく、ミッドレンジなどと呼ばれているようです。


・HFrecEF(heart failure with preserved ejection fraction, improved; HFpEF improvedまたはheart failure with recovered EF:LVEFが改善した心不全)

こちらも新たな分類で、当初LVEFが低下していた(LVEF<40%)ものの、治療などで改善して40%以上になった群をいいます。HFrEFより予後がいい可能性がありますが、まだ確たるデータはないようです。

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2018年09月04日

血痰・喀血の外来診療5

・専門医にコンサルトすべきケース

血痰が続く場合、何らかの治療が必要になる疾患であることが多く、診断のために喀痰検査及び画像検査を行います。それで診断に至らない場合、気管支鏡など施行のために専門施設への紹介が必要かと考えますし、診断が付いても多くの場合には、専門施設への紹介が必要になります。

喀血の場合にも、原因となっている疾患を治療する必要があり、その診断は重要です。また、止血が困難な場合、気管支動脈造影による塞栓術を行うこともあります

このように、血痰が続く場合や喀血の場合、専門医にコンサルトすべきケースが多くなるであろうと思われます。


今日は台風で、大学もがらんとしています。なんだかフワフワした感じですね。

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2018年09月03日

血痰・喀血の外来診療4

・初期治療のポイント

一過性の歯肉出血や副鼻腔炎、それにちょっとした気道感染などによる血痰であれば、出血も当然一過性のはずで、それほど問題になることは多くありません。

痰に血が混じる、という程度であれば、止血剤を投与する必要はなく、出血が少なくなることで却って精査へのモチベーションが低下する恐れがありますから、まずは診断を付けることを優先したいものです。

一方喀血ともなると、基本的には診断が定まっていないことには対応がしばしば困難であり、後に述べる気管支動脈塞栓術も専門施設でないとできないことが多いためある程度以上の量の喀血は専門施設に紹介される方が良いと思います。

外来でできる気管支出血の対処としては、止血剤(アドナレジスタードマーク+トランサミンレジスタードマーク⇒アドトラ)の点滴そして安静臥床です。アドトラのエビデンスはそんなにないです。出血部位が右か左か、分かっている場合は、出血していない側の換気を確保するため、その側を下にして臥床させます。

明らかな発熱や感染所見がなければ、抗菌薬の使用は不要かと考えます。感染所見があって抗菌薬を使用する場合も、投与前の喀痰検査をするなど、できる限り原因菌に近づく努力をしておきましょう。

入院が必要なケースはある程度以上の出血がある場合ですが、そもそも何mL出たか測定は難しく、何mL以上で入院、とか基準を作るのは難しいものです。ある程度の量の喀血が続いている場合や呼吸状態が悪い場合などでは、迷うことは少ないでしょう。

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2018年08月31日

血痰・喀血の外来診療3

診断のための検査として、ともかくまずは胸部 X 線写真を撮影することになります。これでそもそも肺に病変があるかどうか、そして病変がある場合、それが片側・限局性なのか両側びまん性に存在するのかを確認します。

片側・限局性に存在すれば限局した病変からの出血が考えられますし、両側びまん性に存在すれば肺胞出血を考えやすいです。

胸部CTを追加すれば画像所見、例えば空洞のある結節(肺扁平上皮癌、肺結核、肺非結核性抗酸菌症、肺膿瘍、肺アスペルギルス症、多発血管炎性肉芽腫症など)、気管支拡張像、両側びまん性のすりガラス影(肺胞出血など)、肺末梢の楔形陰影(肺塞栓症)、拡張した異常血管像(肺動静脈瘻)などの所見から、診断を絞れる場合があります。

さらに造影CTでは、うまくすると出血しているかどうかや、出血している箇所がわかることがあります。

それからすぐに出来るものとしては喀痰検査。一般細菌や抗酸菌の塗抹・培養、そして細胞診を行います。出血している箇所から検体を得るわけですから安価で低侵襲な割に情報量が多く、有用です。

喀痰では診断が付かない場合、さらに気管支鏡検査が必要になったりしますが、出血が続いているときには視野が限られ、また不用意に凝血塊を除去することで大出血につながる恐れもあるため、早期に積極的に勧められるものではありません。ただ肺胞出血が疑われるときにはその後の治療にも関わるため、気管支肺胞洗浄で確認することもあります。

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2018年08月30日

血痰・喀血の外来診療2

喀血を診たときに、出血量がどの程度かというのは、もちろんキチッと測定できることは少なくて、かつては目分量で「杯一杯」とか「茶碗一杯」なんていっていたのですが、一応、目安として、100mL以上、コップ半分とかでしょうか、そのくらいを大量喀血、ということが多いようです。キチッとした定義はありません。

まあでもそのぐらいですと窒息の危険があり、挿管の準備が必要、といった具合に考えることが多いと思います。


…いいところですが、今日は1日医局の模様替え+会議+ちょっと遅れられない会があり、ここまでとさせて頂きます。続きはまた明日。

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2018年08月29日

血痰・喀血の外来診療1

血痰や喀血は、気道内のどこかから出血して、その血液が痰に混じって出てきたり(血痰)血液そのものが喀出される(喀血)ような状態のことです。

喀血と吐血の鑑別はしばしば問題になりますね。一般的には血液が泡沫状であったり、咳と共に喀出されたり、呼吸器症状があったりという場合は喀血と考えますし、検査では血液のpHを見てアルカリ性であれば喀血の可能性が高いと考えます。吐血の場合は胃酸で酸性になっているからです。

基礎に呼吸器疾患があったり、胸部X線写真で異常所見が見られたり、それから呼吸状態が悪いという場合にも喀血の可能性は高いと考えられます。

もちろん決定的な診断の決め手には、気道からの出血を確認(かつ/または)胃・消化管からの出血を否定する、というところですが、大量喀血の場合にはそこまでやっていられないかもしれません。


・診断のポイント

血痰や喀血の原因疾患としては、これまで気管支拡張症が最も多いと言われてきました。そして最近では肺癌の頻度が増えています。以前は肺結核症例が多く、喀血といえば肺結核だった時代もありますが、最近はさすがに減ってきています。

近年では、非結核性抗酸菌症が肺結核よりも増えています。肺結核は診断さえされれば、治療はしっかり行われるようになり、その後喀血する、というケースは少なくなってきていますが、非結核性抗酸菌症はなかなか治りきらずに出血したり、気管支拡張症に発展したりというケースが増えてきているように思います。

それから急性の発症であれば肺胞出血、それに肺塞栓や大動脈瘤破裂などの血管系疾患は見逃すと致死的になりますので、鑑別診断に入れておくことが重要です。

肺胞出血の原因で多いのは、血管炎(多発血管炎性肉芽腫症:GPAや顕微鏡的多発血管炎:MPA)とSLEなどの膠原病、それから有名どころ?の抗基底膜抗体症候群(Goodpasture症候群)が挙げられます。後は薬剤性をはじめとする出血傾向によるもの(ワーファリンの過量やDOACなんかで)をしばしば見かけます。

それ以外には感染症(肺膿瘍や気管支炎、それに真菌症など)がしばしば経験されます。心不全も鑑別としては挙げられますが、心不全の痰を「いわゆる血痰」とするのかどうかは微妙なところかもしれません。

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2018年08月28日

肺腫瘍疑い症例の、診断の進め方2

CT検診で見つかったような孤立性の結節について、2005年のFleischner Society や2013年のACCP第3版ガイドラインは、肺癌のリスク因子(喫煙歴・年齢・COPDの有無など)のあるなし、そして大きさによってフォロー期間の分類をしています。

一方、日本CT検診学会による診断アルゴリズムでは、もう少しシンプルに、主に画像所見で分類して、判定基準と経過観察の考え方が示されています。これは日本CT検診学会のホームページに示されています。

こちらの方がまだシンプルですので、簡単にご紹介します。

最大型と短径の平均値が6mm未満の場合は12ヶ月後の検診CTフォローアップが勧められています。

6 mm 以上の時にはsolid nodule、part solid nodule、pure GGNの三つに分類します。

・solid nodule(充実型結節)で最大径10mm以上のものであれば原則として確定診断を実施し、6〜10mmのものは、喫煙者と非喫煙者に分け、喫煙者(肺癌リスクの高い人)の方をよりまめに経過観察し、最大径で2mm以上の増大があれば確定診断します。

・part solid nodule(部分充実型結節)は、全体の最大径が15mm以上の場合と、15mm未満でも充実成分の最大型が肺野条件で5 mmより大きい場合は確定診断を行います。充実成分が5mm以下の場合は経過観察しますが、増大(結節全体あるいは充実成分ともに2 mm以上の増大)があれば確定診断です。

・pure GGN(すりガラス型結節)の場合、最大径が15mm以上であれば4ヶ月後のCTにて縮小していなければ確定診断を行います。15mm未満の場合はまめに経過観察を行い2ミリ以上の増大あるいは濃度上昇をしている場合に確定診断します。24ヶ月後まで大きさが変わらなくてもさらに年1回の経過観察 CT を長期にわたって行うこと、とされています。

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2018年08月27日

肺腫瘍疑い症例の、診断の進め方

ということで、今日日肺癌の治療には、小細胞肺癌か非小細胞肺癌かに加えて、非小細胞肺癌の中でも扁平上皮癌か非扁平上皮癌かという組織型による治療法の選択、さらにそれに加えて遺伝子変異・遺伝子転座の有無、さらにさらに PDL 1陽性腫瘍細胞の割合も確認しておく必要があります。

これらの検討を行うためには、各々そこそこの量、大きさの検体が必要であり、生検でしっかりと組織を採っておかなければなりません。ですから、肺腫瘍を疑う症例では、喀痰細胞診、などというわずかの細胞しか得られない検査ではなく、必ず生検をするのが原則となっております。

生検のために行われる検査としては、以下のようなものがあります。

・気管支鏡検査
・CTガイド下肺生検
・胸腔鏡
・縦隔鏡

まず気管支鏡検査。ポピュラーな検査ではありますが、合併症として生検による出血そして気胸などがあります。それと気道分泌物を減らす目的で抗コリン薬を使用するために緑内障や前立腺肥大を悪化させるおそれがあります。あとは局所麻酔薬(主にリドカイン)に対するアレルギーや中毒も想定しておく必要があります。

気管支を通じて生検をするため、うまく結節に入っていく気管支を通らないと診断がつかない可能性もあります。特に胸膜直下の結節や腫瘤の診断には、CT ガイド下肺生検の方が適している場合があります。

CT ガイド下肺生検は胸壁に針を刺し、胸膜を貫きますので 合併症として気胸や出血などが起こります。

胸水が溜まっている場合、胸腔鏡(局所麻酔)で胸腔内を観察して生検するということも行いますし、肺の切除も胸腔鏡(全身麻酔)で行います。

縦隔リンパ節の腫大がある場合は縦隔鏡を使って生検を行いますがこちらも全身麻酔が必要になることが多いため、ややハードルの高い検査になります。


生検で肺癌と確定したら、画像診断で病期診断(Staging)を行います。ここで使うのは、胸(腹)部造影CT、頭部MRI、FDG-PETなどです。

悪性腫瘍かどうか、診断ができていない段階で、診断のために全身のFDG-PETを行う、ということも見かけますが、FDG-PETは2018年8月現在ではあくまで悪性腫瘍の確定病名がある症例でしか保険適用がありません。

そもそもFDG-PETはあくまでもブドウ糖の取り込みが多い場所=細胞分裂の盛んな組織や炎症の部位が光って見えるもので、もちろん癌組織でも光りますが、癌の診断に使えるわけではないのです(よく使われてますけど…)。

全身が見れるので遠隔転移の検索には適していますが、確定診断にはまず生検を行い、次に造影CD、脳MRI、そしてFDG-PETを行う、こういう順番でステージング(病期分類)を行っていきます。

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2018年08月24日

肺癌診療ガイドライン2017年版解説5・非小細胞肺癌治療の流れ3・W期扁平上皮癌・非扁平上皮癌の2次治療以降

2次治療以降の原則は、1次治療(やそれまでの治療)と系統を替える、ということです。ですから、1次治療で遺伝子変異や転座があり、その阻害薬を使ったケースや、免疫チェックポイント阻害薬を使ったケースでは、2次治療は細胞障害性抗癌剤を使うのが基本ですが、いくつかの場合では阻害薬⇒阻害薬、という流れの治療も行われます。

細胞障害性抗癌剤の中では、2次治療以降に有効性が確認されているのがドセタキセル(+ラムシルマブ)、ペメトレキセド単剤、S-1単剤です。

ラムシルマブはベバシズマブ同様のVEGF阻害薬で、血管新生を抑制します。ドセタキセルに併用が推奨されるのは、これまたベバシズマブ同様、75歳未満、PS0-1の症例です

3次治療以降にもなると、エビデンスはますます乏しいものですが、1次治療が何であっても(遺伝子異常やPD-L1の値に関わらず)、免疫チェックポイント阻害薬を使ってみてもよい、とされています。

今のところ、PD-L1をもってしても免疫チェックポイント阻害薬の効果を完全に予測できるものではなく、実際問題使ってみないと効果のほどがわからないところもあるので、非小細胞肺癌治療の流れの中で、属性にかかわらず一度はトライしてみても…ということかもしれません。医療費など、別の問題はありますが。

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2018年08月23日

肺癌診療ガイドライン2017年版解説4・非小細胞肺癌治療の流れ2・W期扁平上皮癌・非扁平上皮癌の場合

プラチナ製剤併用療法でプラチナと組む相手は何がいいか、扁平上皮癌ではペメトレキセドやベバシズマブは使えませんので、シスプラチン+(ドセタキセル、パクリタキセル、ビノレルビン、ゲムシタビン、S-1)、ネダプラチン+ドセタキセル、カルボプラチン+(パクリタキセル、S-1)、が各種比較試験で同等の効果、とされています。


非扁平上皮癌の場合、まず遺伝子検査を行い、EGFR遺伝子変異、ALK遺伝子転座、ROS1遺伝子転座、BRAF遺伝子変異の有無を調べます。遺伝子異常があれば各々に対する阻害薬を使います。これはシンプルですね。

・EGFR遺伝子変異⇒EGFR-TKI
・ALK遺伝子転座⇒ALK-TKI
・ROS1遺伝子転座⇒クリゾチニブ(ALK-TKI)
・BRAF遺伝子変異⇒ダブラフェニブ(BRAF阻害剤)+トラメチニブ(MEK阻害剤)

このような遺伝子異常がない場合、残念ながらTKIは使っても御利益がありません。そこで次善の策として免疫チェックポイント阻害薬の可能性を探ることになります。すなわちPD-L1染色を行い、PD-L1陽性腫瘍細胞≧50%の場合、ペムブロリズマブを選択します。

遺伝子異常がなく、かつ、PD-L1が50%未満、もしくは不明の場合、細胞障害性抗癌剤を使います。

その際の選び方は扁平上皮癌同様、年齢(75歳で区切る)、PS(0-1か2か3以上か)で決めるところプラス、非扁平上皮癌ではペメトレキセドやベバシズマブが使えます。

ペメトレキセドは葉酸+ビタミンB12製剤と併用することで副作用が軽減され、比較的強い副作用が少ないこと、比較的効果が長続きするケースが見られることなどから、1次治療のプラチナ製剤併用療法を4サイクル施行後もペメトレキセドのみ使い続ける、維持療法(maintenance therapy)を行うことが推奨されています。私の経験でも、結構長く使えた症例がありました。

ベバシズマブは75歳未満、PS0-1の症例で、プラチナ製剤併用療法(カルボプラチン+パクリタキセル、カルボプラチン+ペメトレキセド)に加えての使用となります。

血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対するモノクローナル抗体で、VEGFの働きを阻害し血管新生を抑えますので、出血が止まらなくなる、血栓、高血圧、蛋白尿などの副作用があります。従って、特に出血しそうな/している症例では禁忌となります。


…なんか台風がアレみたいですので、今日はこれにて失礼します。

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2018年08月22日

肺癌診療ガイドライン2017年版解説3・非小細胞肺癌治療の流れ1

以上をふまえまして、2018年8月現在の、肺癌診療ガイドラインに基づく非小細胞肺癌治療の流れを概観しましょう。

まずは、根治ができるかどうか、すなわち手術ができるかどうかを確認します。T期U期であればここですね。抗癌剤による治療が進歩した、とはいっても、根治する治療にはかなうものではありません。根治するかしないかは患者さんにとって、本当の意味での死活問題です。

可能な状況であればまずは手術による根治を目指す、これは間違いない治療選択です。ただ、PSや年齢、肺機能他の臓器障害、浸潤などなどの状況次第では「手術可能」とならないことも多々あります。

VA期の場合、いくつかの条件で治療を考えることになります。

T3〜4、すなわち浸潤している範囲=手術で切除しなければならない範囲が広い場合、外科の先生とよくよく相談して、切除可能かどうかを決めることになります。

N2、すなわち縦隔リンパ節の腫脹が見られる場合、先に書いたとおり、手術成績を改善させる(=再発率を低下させる)ために導入療法として化学放射線療法を行う、という治療をするかどうか、外科、放射線科の先生との協議が必要です。

根治が期待できる状況であれば根治を目指したいところではありますが、化学放射線療法では合併症もそれなりに起こるので、慎重な検討が必要です。ここのところはエビデンスで割り切れないものがあると感じています。

で、VB以上になると手術での根治は図れない、ということで、手術は選択せず、根治照射が可能そうな程度に限局していれば、化学放射線療法または放射線単独療法を選択します。

根治照射が可能でない場合はW期と同じ扱いで、化学療法中心でやっていくことになります。

W期の場合、化学療法選択のために、まず扁平上皮癌か非扁平上皮癌かを分け、次いで遺伝子異常を調べ、それからPD-L1陽性細胞の割合を確認します。

扁平上皮癌の場合、通常は遺伝子検査を行わずPD-L1染色を行います。PD-L1陽性腫瘍細胞≧50%の場合、ペムブロリズマブ(免疫チェックポイント阻害薬)を使います。

PD-L1が50%未満、もしくは不明の場合、細胞障害性抗癌剤を使います。細胞障害性抗癌剤は元気だったら(=PSが0か1、かつ75歳未満なら)プラチナ製剤併用療法を行います。

75歳以上の場合は細胞障害性抗癌剤単剤、またはカルボプラチン併用療法になります。要は75歳以上ではシスプラチンは避ける、ということですね。

PS 2の場合はプラチナ製剤併用療法または細胞障害性抗癌剤を選択します。つまり、PSが多少悪くてもシスプラチンを使わない理由にはならない、ということです。しかしPS 3か4の場合には、薬物療法は勧められません。

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2018年08月21日

肺癌診療ガイドライン2017年版解説2・PD-L1について

こうしてタバコ癌は「予後がグンと延びる治療」から取り残されていた感がありましたが、ついに天才的な発想によって、そのような肺癌にも治療の道が拓かれました。

そう、ご存じ、免疫チェックポイント阻害薬ですね。本来、T細胞が癌細胞を攻撃するのですが、癌細胞によってその攻撃性にブレーキがかかった状態(免疫寛容)になっていることがあります。そのブレーキを解放する発想で、具体的にはPD-1、PD-L1の結合を阻害し、抗腫瘍効果を現します。

とすると、PD-L1が多く陽性に見られる方が、それを阻害することで効果が期待できる、というわけで、
・PD-L1陽性腫瘍細胞が多い
場合に、免疫チェックポイント阻害薬が推奨されるようになりました。

ただし、遺伝子変異で癌化したものに対する阻害薬、ほど「ピタッ」と効くわけではありません。そもそも、どの程度T細胞が頑張っているかがわかるものでもありませんし、PD-L1に過度の期待はできません。

ですから、優先順位としては、非小細胞肺癌・非扁平上皮癌では、まず遺伝子異常を調べ、その阻害薬が使えない、もしくは使えなくなったときに、PD-L1染色で陽性細胞の割合を確認して免疫チェックポイント阻害薬が使えるかどうか検討する、ということになり、扁平上皮癌の場合には遺伝子異常は調べず、最初からPD-L1染色で陽性細胞の割合を確認することになります。

免疫チェックポイント阻害薬は残念ながら2018年8月現在、小細胞肺癌にはまだ保険適応がありませんが、海の向こうでは使えるようになってきているようであります。メチャクチャ高い薬なので、手放しに喜べないところではありますが…。


上記の薬剤以外に、ベバシズマブやラムシルマブ(いずれもVEGF阻害薬)、ペメトレキセド(葉酸拮抗薬)も、(抜群に、ではないにせよ)予後延長を期待できる薬剤で、かつ使用するにあたっての制約がありますから、各々その制約に当てはまるかどうかを検討して薬剤の選択を行います。

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2018年08月20日

肺癌診療ガイドライン2017年版解説1・遺伝子異常について

肺癌診療ガイドラインはもう大変です。毎年改訂されています。それもそのはず、毎年新製品が出るからです。それも、それなりの「エビデンス」を携えて。

昨今はエビデンス至上主義ですから、出たらどんどんガイドライン書き換え、まあ、大人の事情?も多分にあるわけですが。そういうわけで、それを追いかけるのはまあまあ大変ですが、ここ最近の大きな流れはあまり変わっておりません。

その流れとは、「グンと予後が延びる薬剤が使える条件を満たす患者さんを同定し、その薬剤を使う」というもの。以前は一次治療のエビデンスが不足しておりましたが、最近は文句なく、従来の細胞障害性抗癌剤(単剤または併用)より予後を延長することがハッキリしておりますので、わりとそのあたりの考え方はシンプルになっております。

少なくとも今どき、生検、または手術検体を分析して、そういう条件の有無を調べる、ということは、肺癌治療を進める上で必須となってきております。

その条件とは…

・EGFR遺伝子変異
・ALK遺伝子転座
・ROS1遺伝子転座
・BRAF遺伝子変異
・PD-L1陽性腫瘍細胞が多い
(2018年8月現在)

遺伝子変異、と転座、とは、異なる事象ではありますが、臨床的にはまあ同じようなもの、と取り扱えるかもしれません。遺伝子の、とあるピンポイントの異常によって、細胞が無制限に無秩序に増殖するようになり、癌化してしまったような状況です。

そのようなケースでは、その異常部位をブロックしてやることによって、癌細胞の増殖を「ピタッ」と止めることができるわけで、これ(20世紀)までにない効果が期待できます。

ただ、いわゆるタバコ癌、小細胞肺癌や扁平上皮癌では、これらの変異は認められません。タバコによって起こる癌化は、単純なピンポイントの問題ではなく、複数の遺伝子の傷害、変異によって起こっているようです。ですから、肺癌化学療法においては、まず小細胞肺癌や扁平上皮癌を除外して、これらの遺伝子異常を検討する、という流れができたのです。

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2018年08月08日

ARDS診療ガイドライン2016解説3・ARDSの治療

ARDSに対する治療法としては、ステロイド大量(パルス)療法はもはや、ARDSに対しては有用ではなかろう、ということになっております(急性期には間質性肺炎急性増悪などなどとの鑑別が困難なこともあり、現場では使われていますが…)。また、発症後14日以上経過してからは、ステロイドを開始するべきではありません。

ということで、ステロイドを使うのであれば大量ではなく、メチルプレドニゾロンで1mg/kg/日程度を、急性期から1〜2週間程度用いるのがよさそうです。

ステロイド以外の薬剤については、残念ながら確立した薬物療法がないのが現実で、「治療法」のメインは「原因疾患に対する治療」、そしてその治療の時間稼ぎとしての「肺を保護する換気を行う」というところになります。

原因疾患に対する治療といっても、ARDSの原因として頻度の多い肺炎・敗血症については目一杯の抗菌薬治療が必要ですが、それ以外の原因となる疾患についてはなかなか特異的な治療が難しい、というのが実際のところです。

…という背景もあり、ARDS業界?では、主に人工呼吸器の設定であるとかモードであるとか新しい換気様式などなどがトピック的に扱われているわけです。ガイドラインでもここに大きくページを割いて解説されていますが、明らかに差が付いた、というものは今のところありませんので、ここではARDSにおける基本的な人工呼吸器設定戦略について触れるにとどめておきましょう。

  • FIO2は早めに下げ、0.6以下を目標にする。そのため、PEEPをしっかりかける。

  • 人工呼吸器関連肺損傷(ventilator associated lung injury:VALI)発生を回避するために、一回換気量(6〜8mL/kg)とプラトー圧(30cmH2O以下)を制限する低容量換気が勧められている。プラトー圧を制限するために従圧式が好まれる傾向にある。

  • 低容量換気によってPaCO2上昇があっても、pHが異常とならなければ許容する(permissive hypercapnia)。ただし頭蓋内圧亢進がある場合には禁忌。

  • FIO2が1.0、PEEPを高く設定した低容量換気でも酸素化が改善しない場合の手段・換気モードとして、ECMO(extracorporeal membrane oxygenation)、HFOV(high frequency oscillatory ventilation)、APRV(airway pressure release ventilation)、IRV(inverse ratio ventilation)などがあるが、どれも決定的な効果があるわけではない。

  • 腹臥位療法は一時脚光を浴びたが、チューブやラインの問題等もあり、スタッフの熟練が必要で、どの施設でも勧められるものではない。


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2018年08月07日

ARDS診療ガイドライン2016解説2・ARDSの原因/基礎疾患

ARDSの原因といいますか、基礎疾患については、ガイドラインにうまくまとめられていますので引用しておきます。肺を直接傷害する疾患と、全身(多臓器)の傷害から肺に影響が及ぶものとに分けられています。

肺の直接損傷
  • 頻度の多いもの
    肺炎:肺炎のうち、両側に陰影があり、ARDSの基準を満たすものは肺炎によるARDSと診断されます

  • 胃液誤嚥:胃液による化学性肺炎は、ARDSを起こす原因として重要です

  • 頻度の少ないもの−脂肪塞栓症候群

  • 有毒ガスの吸入

  • 肺移植後などの再灌流肺水腫

  • 溺水

  • 放射線肺障害

  • 肺挫傷


肺の間接損傷
  • 頻度の多いもの
    敗血症:敗血症による多臓器不全の肺を見たものがARDSという考えもあります

  • 高度の熱傷・多発外傷

  • 頻度の少ないもの−心肺バイパス術

  • 薬物中毒(パラコートなど)

  • 急性膵炎

  • 自己免疫疾患

  • 輸血関連急性肺損傷(TRALI|transfusion-related acute lung injury)


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2018年08月06日

ARDS診療ガイドライン2016解説1・ARDSの定義

肺炎診療ガイドラインについては、一通りまとめられたかなと思いますので、引き続き最近改訂になったガイドラインについて、エッセンスのところを取り上げて参りたいと思います。

ARDS診療ガイドライン2016の、特にPart1に関しては、いろいろとご意見があるのは承知しておりますが、ごくごく大きなところだけでも一度見ておこうかと思います。主に定義、診断と治療のところですね。


■ ARDSの定義

現在使われている診断基準(Berlin定義)は、2011年Berlinで開催された欧州集中治療医学会において提唱され、その後検証を経て2012年に論文化されたものです。
Acute respiratory distress syndrome: the Berlin Definition. ARDS Definition Task Force. JAMA. 2012 Jun 20;307(23):2526-33

そちらから、ARDSの診断基準を引用します。

侵襲や呼吸器症状(出現/増悪)から1週間以内の経過である、呼吸不全(PaO2/FIO2≦300)を伴う胸部X線写真上両側性の陰影
・胸水、無気肺、結節(腫瘤)では陰影のすべてを説明出来ない
・心不全、輸液過剰では呼吸不全の原因を説明出来ない

ARDSをさらに酸素化(P/F比)によって、軽症・中等症・重症に分類します。
  • 軽症(mild)|P/F比が201〜300(PEEP、CPAP≧5cmH2O下にて)

  • 中等症(moderate)|P/F比が101〜200(PEEP≧5cmH2O下にて)

  • 重症(severe)P/F比が100以下(PEEP≧5cmH2O下にて)

これまでフワフワした定義の元、疫学的にもなかなか大規模な調査がなく、治療にしてもなかなかこれといったものが見いだされていないのがARDS業界の現状ではありますが、今後はこの定義に則って、前向きな研究が組まれて行かれることを期待するものであります。

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2017年12月27日

緊急特集・肺癌診療ガイドライン2017版解説2

それでは、たびたび話題に出ていた「変異陰性+PD-L1<50%」群の1次治療はいかがでしょうか。基本的には細胞障害性抗癌剤を選択しますが、75歳以上やPS2だと制約が、という感じです。
  • PS0-1で75歳未満⇒プラチナ併用療法

  • PS0-1で75歳以上⇒細胞障害性抗癌剤単剤またはカルボプラチン併用療法

  • PS2⇒プラチナ併用療法または細胞障害性抗癌剤単剤

  • PS3-4 なら薬物療法は勧められない



1次治療のプラチナ併用療法において、75歳未満、PS0-1であればベバシズマブを併用できます。ただしベバシズマブは扁平上皮癌には使えず、出血のリスクがあっても使えません。


なお、ベバシズマブ併用のエビデンスがあるのはカルボプラチン+パクリタキセル、またはシスプラチン+ペメトレキセドです。


1次治療のプラチナ併用療法レジメンが何であっても、終了時に病勢の進行がなくて副作用も許容範囲であれば、ペメトレキセド維持療法を継続してもよいとされています。



2次治療は、PD-L1の割合によって、PD-1阻害剤を使うか、エビデンスのあるニボルマブを使うか、というところの選択になります。
  • PS0-2でPD-L1≧1%⇒PD-1阻害剤

  • PS0-2でPD-L1<1%⇒ニボルマブ、非扁平上皮癌なら細胞障害性抗癌剤でもよい

  • PS0-2でPD-L1不明⇒ニボルマブ

  • PS3-4 なら薬物療法は勧められない



2次治療の細胞障害性抗癌剤で勧められるのはペメトレキセド、ドセタキセル(+ラムシルマブ)、S-1が挙げられます。ドセタキセルにラムシルマブ併用のエビデンスがあるのは75歳未満、PS0-1症例です。


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