2018年08月17日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説31・菌が検出されたときの抗菌薬7

あ、言い忘れておりましたけれども、「第2選択薬」というのは、第1選択薬がアレルギーや他の事情で使えないときに「仕方なく」選択するもの、というふうに考えて下さい。決して、1でも2でも同列、ということではありません。


■ 緑膿菌が検出された場合

緑膿菌が出てしまうと、これはもう広域でいかざるを得ません。それと、菌が得られているのであれば必ず薬剤感受性を確認しての選択が求められるところです。

外来治療は経口薬ですけど、緑膿菌肺炎を外来で治療する、って、なかなかレアなシチュエーションではないかと思います。経口薬で緑膿菌に対して効果がある、といえばこれしかありません。
  • 第1選択薬|ニューキノロン系薬(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、シタフロキサシン)。緑膿菌に対して効果があるのはキノロンの中ではこれらのものです。ちなみにシプロフロキサシンは緑膿菌はじめグラム陰性桿菌にはいいのですが、グラム陽性球菌にはあまりよくないので、レスピラトリーキノロン(要するに「肺炎向け」キノロン、ということ)には含まれていません。


入院治療(注射薬)だと、
  • 第1選択薬|ピペラシリン、タゾバクタム・ピペラシリン

  • 第2選択薬|第三、四世代セフェム系薬(セフタジジム、セフェピム、セフォゾプラン)

  • 第3選択薬|ニューキノロン系薬(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、パズフロキサシン)

  • 第4選択薬|カルバペネム系薬(メロペネム、ドリペネム、ビアペネム)

となりますが、患者さんの状態、感受性によっては併用療法も視野に入れることになります。

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2018年08月16日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説30・菌が検出されたときの抗菌薬6

■ 嫌気性菌が検出された場合

「嫌気性菌を検出する」というのは現実問題、なかなか難しいことです。普通に培養しても、「嫌気性菌」なんで、空気に触れるとあまり生えてきません。喀痰塗抹でウジャウジャ雑多な菌がいたのに、培養してもたいして何も生えてこない、なんてときに「嫌気性菌かな〜?」と考えるくらいでしょうか。

そんなとき、外来治療(経口薬)では、
  • 第1選択薬|やっぱりβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)

  • 第2選択薬|レスピラトリーキノロン、ですが、レボフロキサシンは嫌気性菌に弱い、で有名?です。ウソです。全然有名じゃありません。誰もご存じないから、誤嚥性肺炎にレボフロキサシンを投与して、「よくなりませ〜ん♡」という紹介が後を絶たないのです。嫌気性菌に対してはレスピラトリーキノロンの中ではガレノキサシン、モキシフロキサシン、シタフロキサシンが使われます。


入院治療(注射薬)だと、
  • 第1選択薬|スルバクタム・アンピシリン。間違いないです。

  • 第2選択薬|メトロニダゾール、クリンダマイシン


一昔前にはマニアの武器であったメトロニダゾールも、すっかりガイドライン常連さん?になりました。クリンダマイシン耐性のプレボテラ属が増えている、とされますので、今後ますます使う機会が増えるかもしれませんね。

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2018年08月15日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説29・菌が検出されたときの抗菌薬5

■ モラクセラ・カタラーリスが検出された場合

・外来治療の場合(経口薬)

モラクセラ・カタラーリスはほぼβラクタマーゼを産生する、と考えます。ペニシリン系薬を使うのであれば、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬が必須です。意外にマクロライド系が使えるのが、特記すべき点ですね。
  • 第1選択薬|βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)

  • 第2選択薬|マクロライド系薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシン)

  • 第3選択薬|レスピラトリーキノロン(ガレノキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン)


・入院治療の場合(注射薬)

  • 第1選択薬|やはりスルバクタム・アンピシリン

  • 第2選択薬|第2世代および第3世代のセフェム系薬(セフォチアム、セフトリアキソン、セフォタキシム)

  • 第3選択薬|ニューキノロン系薬(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、パズフロキサシン)



ガイドラインではこのあたりにクラミジア、黄色ブドウ球菌について書いてありますが、実際出会うことは少ないと思いますので、ここでは割愛します。

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2018年08月14日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説28・菌が検出されたときの抗菌薬4

■ マイコプラズマが検出された場合

外来治療は内服薬で。
  • 第1選択薬|マクロライド系薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシン、エリスロマイシン)

  • 第2選択薬|ミノサイクリン、レスピラトリーキノロン((ガレノキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン)

いつものことですが、マクロライド耐性マイコプラズマが〜みたいなことが書いてありますが、まあ成人では耐性マイコプラズマによる治療失敗、ということはあまりありません。ですのでここはマクロライドでいい。よほど耐性が問題になる、気になる場合でも、ミノサイクリンでOKです。

入院治療は注射薬を選択するという建前ですので、注射薬のあるものからの選択です。当たり前ですが。
  • 第1選択薬|ミノサイクリン、マクロライド系薬(アジスロマイシン、エリスロマイシン)

  • 第2選択薬|キノロン系薬(レボフロキサシン、シプロフロキサシン)

キノロンについては上に同じです。


■ レジオネラが検出された場合

  • 第1選択薬|キノロン系薬(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、パズフロキサシン)、アジスロマイシン


レジオネラとなったら、瞬時も迷うことなくキノロンです。重症の場合はアジスロマイシンと併用です。第2選択、なんちゅうものはありません。とにかくキノロンです。

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2018年08月13日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説27・菌が検出されたときの抗菌薬3

■ クレブシエラ属や他の腸内細菌科が検出された場合

外来でこの手の菌による肺炎を治療する、ということはあまりなさそうですが…。クレブシエラ属で問題になる耐性といえばESBL産生菌ですが、その比率はそれほど多くありません(1〜数%)。ただ、ESBL産生株の多くはキノロン耐性も同時に有していますので、抗菌薬選択の際には注意が必要です。できれば分離菌のその施設における薬剤感受性を確認して、薬剤を選択するのが望ましいかと思われます

一応、一般論として、外来治療(経口薬)では、
  • 第1選択薬|βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリンクラブラン酸)

  • 第2選択薬|レスピラトリーキノロン、クレブシエラっぽくて、そこそこ重症で、どうしてもでも外来で、内服薬で、とかいう場合があるかどうかわかりませんが、そういう場合でしょうか。


入院治療の場合注射薬を選択します。
  • 第1選択薬|第2世代および第3世代のセフェム系薬(セフォチアム、セフトリアキソン、セフォタキシム)、それから毎度おなじみスルバクタム・アンピシリンです。陰性桿菌、腸内細菌、となると、一応順番的にセフェムが優先される感じです。

  • 第2選択薬|タゾバクタム・ピペラシリン。ここでいるかねとも思いますが…。

  • 第3選択薬|ニューキノロン系薬。


ESBL産生株であれば、どれも無効ですのでカルバペネム系を使うことになります。

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2018年08月10日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説26・菌が検出されたときの抗菌薬2

■ H.influenzae(インフルエンザ桿菌)が検出された場合

・外来治療の場合(経口薬)

H.influenzaeの場合、BLNARとBLPACRという、2つの耐性菌が問題になります。これらのH.influenzae全体に占める割合は地域差がありますが、決して無視できない数値になってきているため、ここをどう考えるかがポイントとなります。

まあ普通は感受性菌が多いことから、
  • 第1選択薬|βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)でいいでしょう。
    第1選択薬としてもう一つ、セフジトレン・ピボキシルが挙げられていますが、こちらはバイオアベイラビリティの低さによって○○扱い(DU薬)されています。一応?第3世代セフェム系薬なので、BLNARを含めてH.influenzaeに対する感受性が良好であるのを根拠に勧められていますが、実はこっそり?高用量であれば…という風に書いてあります。高用量ってどれぐらいなんでしょう…保険適応上問題ない量なのでしょうか…。

  • 第2選択薬|レスピラトリーキノロン←同じく、BLNARとBLPACR対策の意味合いが強いので、これらの多い地域以外ではお勧めしません。


・入院治療の場合(注射薬)

  • 第1選択薬|みんな大好きスルバクタム・アンピシリン

  • 第2選択薬|これもみんな大好き第3世代セフェム系薬(セフトリアキソン、セフォタキシム)、それからここにタゾバクタム・ピペラシリンも含まれてしまっています。正直H.influenzaeに対して抗緑膿菌作用を有する薬剤はいらないんじゃないかなと思います。

  • 第3選択薬|上と同じ理由で、ニューキノロン系薬が入っちゃっています。


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2018年08月09日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説25・グラム染色で菌が検出されたときの抗菌薬1

ここまで市中肺炎のエンピリック治療における、抗菌薬の選択について述べてきました。あと少し、原因菌が判明した時の抗菌薬選択についても述べたいと思います。

喀痰グラム染色で、グラム陽性双球菌(たぶん肺炎球菌)が見えた、それ以外にH.influenzaeでも何でもいいのですが、グラム染色標本に精通された医師や検査技師さんが「たぶんこれだろう」という菌が見えた、これでも原因菌の推定が可能です。

また、尿中抗原検査(肺炎球菌、レジオネラ)や鼻咽頭拭い検体抗原検査(マイコプラズマやインフルエンザ)などの検査でも原因菌を推定することはできます。

重症度が高くない(狭域でよさそうな)場合であれば、原因菌ごとに、以下に述べるような標的治療を開始します。

ただ最終的に原因菌を判断するのは、グラム染色ではなくて培養検査で行います。喀痰培養や血液検査で検出された菌(コンタミでない菌)を原因菌とし、初期治療のままでよいか検討、治療の調整を行うのです。


グラム染色なしでエンピリック治療を始めてしまった場合は、少し広域な抗菌薬を使っていることが多いので、喀痰培養や血液検査の結果原因菌が判明したら、標的治療という形でde-escalation、つまり、より狭域の抗菌薬に変更します。


■ 肺炎球菌が検出された時

・外来治療の場合(経口薬)
  • 第1選択薬|アモキシシリンの高用量

  • 第2選択薬|レスピラトリーキノロン←個人的にはお勧めしません


・入院治療の場合(注射薬)
  • 第1選択薬|ペニシリンG、アンピシリン

  • 第2選択薬|セフトリアキソン

  • 第3選択薬|第4世代セフェム系薬

  • 第4選択薬|カルバペネム系薬


第2選択薬以降はかなりの広域抗菌薬であり、これらを使うのであれば一体なんのために喀痰培養や血液培養をしたのやら分かりません。特に第3選択薬・第4選択薬は抗緑膿菌作用があるわけで、ただの広域抗菌薬治療です。de-escalationになりませんから、肺炎球菌肺炎だ、と診断されたのであれば、自信を持ってペニシリン(ただし目一杯の量)を使いましょう。

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2018年08月03日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説24・院内肺炎/医療・介護関連肺炎8・人工呼吸器関連肺炎

人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia:VAP)とは、気管挿管下人工呼吸を開始して、48時間以降に新たに発生する院内肺炎を指します。人工呼吸をしているということですから、入院中(院内肺炎)であることは当たり前ですね。

リスク因子として
  • 長期間の人工呼吸管理

  • 再挿管

  • 発症前の抗菌薬投与

  • 原疾患|熱傷・外傷・中枢神経疾患・呼吸器疾患・心疾患

  • 誤嚥

  • 筋弛緩剤の使用

  • 低い気管チューブカフ内圧

  • 移送

  • 仰臥位

などが挙げられています。

VAPは挿管患者全体の9%から27%に発生するとされています。発症の機序として、
  • 胃の内容物が逆流する

  • 口腔内や気管チューブに病原微生物が定着(コロニゼーション)

  • 声門下の分泌物を誤嚥

  • 誤嚥したものが気管チューブのカフの外側を通って気管内に入る

  • 咳反射や繊毛上皮機能の低下

などが考えられています。

VAPの診断はしばしば困難です。そもそも人工呼吸をする要因となった原疾患や肺病変、あるいは無気肺や胸水など、人工呼吸中に併発しやすい病変との鑑別が困難だからです。

臨床的にVAPが疑われた場合、発熱 CRP プロカルシトニンなどの全身性炎症反応の上昇、酸素化の低下、画像上異常陰影の出現、膿性の気道分泌物などを確認します。挿管下ですから、下気道の直接吸引や気管支洗浄などによる生物学的アプローチは比較的容易ですからこれは欠かせませんし、血液培養や胸水など、アプローチできるところからの培養も積極的に行います。

VAPも院内肺炎ですから、検出菌としては緑膿菌が最も多いとする研究が多いです。それ以外にはエンテロバクター属やステノトロフォモナス属などのグラム陰性桿菌群の割合が高くなります。それから MRSA が検出されることも多いですが、例によって定着との鑑別が重要になります。抗菌薬選択の原則は、院内肺炎と同様です

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2018年08月02日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説23・院内肺炎/医療・介護関連肺炎7・エンピリック治療4・治療期間

抗菌薬の投与期間は、短期間(8日以内)の治療群と10日から15日の長期間治療群を比較したRCTのメタアナリシスによると、アウトカムには有意差がなかったということです。

ですので、基本的には院内肺炎や医療介護関連肺炎であっても、市中肺炎とそれほど治療期間は変わらず、抗菌薬の投与期間としては一週間以内の比較的短期間を提案されています。耐性菌も心配ですし。

ただし、黄色ブドウ球菌・クレブシエラ属・嫌気性菌などによって膿瘍性病変が形成されている場合は、抗菌薬の移行が悪いため、2週間以上の長期投与が必要だと考えられています。

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2018年08月01日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説22・院内肺炎/医療・介護関連肺炎6・エンピリック治療3・MRSA問題

de-escalation多剤治療を行うような、重症度が高くかつ耐性菌リスクの高い症例では、MRSAのことも頭に置いておく必要があります。

以前のように、痰からMRSAが出たら何でもかんでもMRSA肺炎、ということにはなりませんが、治療失敗ができない、かつ、MRSAがいることが想定される場面においては、MRSAも含めた治療選択が必要になることもあるわけです。

その場面とは、
  • 以前にMRSAが分離されたことがある

  • 過去90日以内に経静脈的抗菌薬の使用歴がある

いずれかの場合です。その際にはMRSA感染のリスクが高い、という風に判断して抗 MRSA 薬(リネゾリド・バンコマイシン・テイコプラニン・アルベカシン、特に前の3つ)を併用します。

この「過去90日以内に経静脈的抗菌薬の使用歴がある」というのは、耐性菌のリスク因子でも出てきた項目なのですが、特にこれを満たしたら、他の耐性菌に加えてMRSAへのリスクが高いと判断します。

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2018年07月31日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説21・院内肺炎/医療・介護関連肺炎5・エンピリック治療2

■ 重症度が高い、または耐性菌リスクが高い場合 de-escalation単剤治療

医療・介護関連肺炎の場合、敗血症がある、または、A-DROPが3項目以上(重症度が高い)、もしくは耐性菌リスク因子が2項目以上の症例。

院内肺炎の場合、敗血症がある、またはI-ROADで2項目以下かつ肺炎重症度規定因子が該当する中等症以上群と考えられる、あるいはI-ROADで3項目以上、もしくは耐性菌リスク因子が2項目以上の症例が当てはまります。

重症度が高い、すなわち治療失敗が許されないが耐性菌のリスクは少ない、または重症ではないけれども耐性の恐れが強い、そういう群には初期治療から耐性菌(MRSA、緑膿菌、ESBL産生腸内細菌など)をある程度カバーする必要があります。→de-escalation単剤治療

単剤治療に選択するのはβラクタム系抗菌薬としてペニシリン系薬(タゾバクタム・ピペラシリン)もしくは第4世代セフェム系薬、それからカルバペネム系薬、ニューキノロン系薬いずれかの単剤を用います。


■ 重症度が高い、かつ、耐性菌リスクが高い場合 de-escalation多剤治療

医療・介護関連肺炎の場合、敗血症がある、または、A-DROPが3項目以上(重症度が高い)、かつ耐性菌リスク因子が2項目以上の症例。

院内肺炎の場合、敗血症がある、またはI-ROADで2項目以下かつ肺炎重症度規定因子が該当する中等症以上群と考えられる、あるいはI-ROADで3項目以上、そしてかつ耐性菌リスク因子が2項目以上の症例です。ああややこしい。フローチャートがいるかなあ…。

敗血症がある(もしくは重症で)、かつ耐性菌のリスクが高いと判断された群は、よりリスクが高い、これはもう治療を失敗するわけにはいかない。初期治療で勝負をつけなくてはならない。そういう群では広域抗菌薬をさらに併用して治療をします。→de-escalation多剤治療

多剤の場合はペニシリン系薬、第4世代セフェム系薬、カルバペネム系薬をベースにしてニューキノロン系薬、またはアミノグリコシド系薬を併用する、というやり方が勧められています。

個人的には、より緑膿菌の存在を疑う場面(これまでに痰で検出、広域抗菌薬使用歴など)ではアミノグリコシド系、レジオネラを疑うような高齢者施設での集団感染とか温泉や浴場などで発生した、などの場合にはニューキノロン系薬を優先的に選択するかなあ、という感じです。

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2018年07月30日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説20・院内肺炎/医療・介護関連肺炎4・エンピリック治療

院内肺炎/医療・介護関連肺炎でも喀痰グラム染色の重要性は変わりません、イヤむしろ市中肺炎よりも重要かもしれませんが、だがしかし、そういう、ADL低下が見られたり、誤嚥があったりする症例ほど、痰の喀出が出来ない、脱水で痰がない、侵襲的検査が難しい、などの理由で、エンピリック治療の出番が多くなってくる現実があります。しっかりとエンピリック治療の考え方を学びましょう。

■ 重症度が高くないと判断され、かつ、耐性菌リスクが低い場合

医療・介護関連肺炎の場合、敗血症がなくて、A-DROPが2項目以下(重症度が高くない)で、さらに耐性菌リスク因子が1項目以下の症例。

院内肺炎の場合、敗血症がなくて、I-ROADで2項目以下かつ肺炎重症度規定因子に該当せず軽症群と考えられ、さらに耐性菌リスク因子が1項目以下の症例が当てはまります。

こういう症例群では、まず狭域スペクトラムの抗菌薬を投与し、無効な場合広域に変更するescalation治療による初期治療が推奨されます。

主な標的は市中肺炎と似ていて、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、口腔内の連鎖球菌、クレブシエラ、モラクセラなどです。

これらの菌に対するエンピリック治療として推奨されるのは、ペニシリン系薬ではスルバクタム・アンピシリン、セフェム系では第三世代のセフトリアキソン、またはセフォタキシムです。

市中肺炎とは異なり、あまり非定型肺炎(特にマイコプラズマ肺炎)が単独で起こるとは想定されていませんが、非定型肺炎の可能性が考えられる、あるいはβラクタム系薬へのアレルギー歴を有する場合には、キノロン系のレボフロキサシンがガイドラインでは推奨されます。

医療・介護関連肺炎で、外来治療が可能な場合、内服薬で細菌性と非定型肺炎の両者をカバーできるような、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(アモキシシリン・クラブラン酸またはスルタミシリン)もしくはセフトリアキソンに、マクロライド系薬(クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン)を併用する、もしくは単剤でレスピラトリーキノロン(ガレノキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン)を選択します。

外来で注射薬治療を行う場合は、1日1回投与が可能なセフトリアキソンやレボフロキサシンを選択します。

なお、レボフロキサシンは嫌気性菌への抗菌活性が不十分なので、誤嚥性肺炎や肺膿瘍・肺化膿症といった嫌気性菌感染の可能性が高いと考えられる症例では、クリンダマイシンやメトロニダゾールの併用を検討する、とされておりますが…。

個人的には、エンピリックの現場では非定型病原体をそれほど重要視する必要はないと思っていて、非定型肺炎を疑うような症候が少なければ、マクロライドの併用やキノロンは不要ではないかと思っております。

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2018年07月27日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説19・院内肺炎/医療・介護関連肺炎3・escalation治療とde-escalation治療

I-ROADで2項目以下なら軽症〜中等症、さらに肺炎重症規定因子で該当がなければ軽症群(A群)、該当があれば中等症群(B群)とします。I-ROADで3項目以上該当する症例は重症群(C群)とします。

で、いざ抗菌薬を選択するわけですが、大きい方針として2つの方向性があります。

@escalation治療
escalationはそもそも「(段階的)拡大」、という意味です。抗菌薬治療においては、まず狭域抗菌薬から開始して、段階的に広域なものに替えていくようなやり方をいいます。

肺炎で、敗血症がなくて重症度も低い場合には、原因菌はグラム陽性球菌中心に、せいぜいH.influenzaeあたりを想定して、まず狭域の薬剤を使用します。そこで全身状態の改善があればよし、改善が見られない場合に、必要に応じて広域の薬剤への変更を考慮するという治療をescalation治療といいます。

Ade-escalation治療
de-escalationはescalationの逆、すなわち「(段階的)縮小」というような意味です。最初に広域抗菌薬から開始して段階的に狭域にするものをいいます。

肺炎で、敗血症があるとか重症度が高いという場合、または耐性菌のリスクが高い場合には、グラム陰性桿菌、緑膿菌あたりまでカバーする広域の薬剤で初期治療を開始して、全身状態の改善を確認した上で培養が判明した後に、可能であればより狭域の薬剤への変更を考慮する治療をde-escalation治療といいます。

重症であれば、初期治療の効果がなければそのまま命に関わる恐れがあります。そして耐性菌であれば、最初から広域でないと効かない可能性が高い。そういう状況ではde-escalation治療が選択されます。


市中肺炎に比べると耐性菌のリスクが高い院内肺炎/医療・介護関連肺炎ですが、耐性菌のリスク因子としては、
  • 過去90日以内に経静脈的抗菌薬の使用歴

  • 過去90日以内に2日以上の入院歴

  • 免疫抑制状態

  • 活動性の低下:PS≧3、歩行不能、バーセル指数<50、経管栄養または中心静脈栄養法、など

→これらのうち2項目以上で耐性菌の高リスク群である、とします。

ちなみにバーセル指数とは、介護の世界で使われるADL評価法で、食事、移動、整容…など10項目について、日常生活の中でできる度合いを評価するもので100点満点です。採点方法は結構細かいので、ご興味のある方はご自分で検索頂ければ幸いです。

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posted by 長尾大志 at 17:25 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2018年07月26日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説18・院内肺炎/医療・介護関連肺炎2・治療の場所・院内肺炎は??

それをふまえて、HAP/NHCAPでは、まず最初に誤嚥性肺炎のリスクや、終末期状態であるかどうかの判断を行います。

もしそのいずれか、またはいずれもに当てはまる場合、患者さん本人やご家族とよくよく相談した上で、ご本人の意思やQOLを尊重した、患者さん中心の治療、ケアを行います。治療開始した後でも、継続的に患者さん本人やご家族の意思を確認し、状況に応じて治療方針を変更できることを説明しその機会を保証する、とされています。

治療撤退の流れを明文化した、というところですね。

そういう状況ではない、あるいは終末期だけれどもご本人が通常の治療を望まれる場合やご本人の意思が確認出来ない場合(あくまで「ご本人の」意思が重要です)、通常の治療に進みます。

通常の治療にあたっては市中肺炎同様、最初に敗血症の有無と重症度を確認します。敗血症疑いの有無はqSOFAで判定します。それから重症度、これも市中肺炎と同様、医療・介護関連肺炎でもA-DROPですが、院内肺炎ではI-ROADになります。

I-ROAD
  • I:immunodeficiency(悪性腫瘍、または免疫不全状態)

  • R:Respiration(呼吸)SpO2>90%を維持するためにFiO2>35%を要する。

  • O:Orientation(意識障害)

  • A:Age(年齢)

  • D:Dehydration(脱水または乏尿)


A-DROPとI-ROADは、ほとんど同じ項目なのに「全く違います」みたいな顔をしているところが、ちょっと個人的には気に食わないところです。そもそもA-DROPは入院させるかどうかを決めるのにも使うわけですが、院内肺炎の場合入院させるもクソもない(元々入院してる)わけですから、A-DROPを使わなくていいよね、元々の免疫状態で予後を占いましょうね、と理解しておきましょう。

医療・介護関連肺炎の場合はA-DROPで(市中肺炎同様に)入院適応、治療の場を決め、さらに耐性菌リスクを勘案して治療薬を決めます。

院内肺炎ではI-ROADに加えて肺炎重症度規定因子として
  • CRP≧20mg/dL

  • 胸部X線写真で陰影の広がりが一側肺の2/3以上

の項目を使い、重症度判定を行います。

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posted by 長尾大志 at 17:59 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2018年07月25日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説17・院内肺炎/医療・介護関連肺炎1・要するに市中肺炎以外は同じことになった

これまで日本呼吸器学会は、肺炎診療ガイドラインを三つのカテゴリー(市中肺炎CAP、院内肺炎HAP、医療・介護関連肺炎NHCAP)に分けてガイドラインを作成してきました。

ところがその後、わが国特有の問題が明らかになってきたために、この分け方はいかがなものか、という意見が出てきたわけです。一つは海外のガイドラインと比較したときに、一致しないところ、齟齬が出てきたのです。

それは、一つは医療制度の違いによって、対象とする患者さんの属性が異なるということ、もう一つは終末期医療において、個人の意思をどういう風に扱うかという、文化的な側面を含む問題になります。

まず院内肺炎でいうところの「病院」の定義自体が、彼我ではかなり違うのです。日本の場合は急性期のみならず、亜急性期と慢性期、及びリハビリというのも病院に入院して行います。一方で欧米では、病院というのは急性期の入院診療を行う施設であって、それ以外の医療行為や介護は病院でなくて療養施設でなされます。

ですから日本の院内肺炎、というものには欧米であれば院内肺炎から医療ケア関連肺炎といわれるものも含まれます。そして日本の医療・介護関連肺炎は米国でいうと医療ケア関連肺炎と市中肺炎も含まれますので、各々のカテゴリーに含まれる患者さんの属性が日本と欧米で異なっているということになります。そうなると、例えば論文を書くときにこちらのカテゴリーとあちらのカテゴリーの定義がずれてしまって都合が悪いわけです。

結局せっかく米国の医療ケア関連肺炎にすり寄せたつもりで 作った医療・介護関連肺炎なんですが、あまり役に立たなかった、そういうことで分ける意味がないよね、と院内肺炎に統合されたような次第です。

もう一つの問題は、終末期の肺炎をどう取り扱うか、というものです。アメリカでは、個人の意思に従った医療が事前指示書によって行われています。強力な治療を望まない場合には、個人の意思に従って緩和的なケアが行われる場合が多い。その場合、肺炎ガイドラインの対象外になるわけです。

ところがわが国では、個人の意思の確認や表出が行われるということは稀で、診療の方針は多くの場合医師が決定することになります。そうすると終末期の肺炎だと状態が悪いことが多く、カテゴリーとしては重症の肺炎ということになってしまって、強力な治療を行う結果となってしまいます。

これらの問題があることから、色々議論があり、以下の方針が決まりました。

1.疾患の末期や老衰などの、不可逆的な死の過程にある終末期の患者が含まれる院内肺炎と医療介護関連肺炎を、一つの診療群として市中肺炎と分けて診療のプロセスを示す。

2.院内肺炎および医療介護関連肺炎の患者では、最初に疾患末期あるいは老衰などの不可逆的な死の過程にある終末期の患者を鑑別する。

この2番目が、今回の肺炎診療ガイドラインの一つの目玉?となっています。終末期を終末期として取扱い、強力な診療をしないという選択肢を設けたわけです。

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2018年07月24日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説16・市中肺炎15・抗菌薬治療が無効の時2

抗菌薬が無効の時、感染性の病態を整理するために、細菌側の要因、宿主側の要因、薬剤側・医療側の要因に分けて考えます。

細菌(病原体)側の要因
  • 抗菌薬がカバーしていないような病原体|ウイルス、真菌、抗酸菌

  • 非定型病原体|マイコプラズマ、レジオネラ、クラミジア

  • 抗菌薬への耐性菌|MRSA、PRSP、BLNAR、緑膿菌、ESBL産生菌

  • 改善に時間のかかる病原体|ノカルジア、放線菌

  • 日和見病原体等による入院後の二次感染

  • 重症感染症による急速な病状の悪化|敗血症性ショックや劇症型肺炎



宿主(人間)側の問題
  • 抗菌薬移行不良な病巣の形成|膿胸、肺膿瘍、ブラ内感染

  • 肺外感染巣の形成|心内膜炎、骨関節炎、カテーテル感染、脳髄膜炎

  • 気道ドレナージの障害|中枢型肺癌、気道異物、反復性の誤嚥、去痰不全、慢性呼吸器疾患(気管支拡張症、副鼻腔気管支症候群)

  • 基礎疾患による全身免疫機能の低下|HIV感染症、免疫抑制薬投与、血液系悪性腫瘍

  • 医療機関受診の遅れによる重症化



薬剤側・医療側の要因
  • 抗菌薬の不適切投与|投与量不足、投与経路や回数が不適切

  • 治療介入開始の遅れによる重症化

  • 抗菌薬に由来する有害事象|薬剤熱


このうち少しの努力で克服できるのは、抗菌薬の不適切投与です。いまだに投与量が足りない、という現場を見かけます…喝!(?)

それと当初効いていたのに、途中から熱が出た、抗菌薬変更!!…というときに、思い出して頂きたいのが「薬剤熱」。当初効いていたのであれば通常、そのイベントは制御できているはずで、抗菌薬変更が必要、という場面は多くありません。比較的徐脈、比較的元気、比較的CRP低値の「比較3原則」を参考に、薬剤熱を正しく疑いましょう。

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2018年07月23日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説15・市中肺炎14・抗菌薬治療が無効の時1

抗菌薬が無効な時、どう考えるかは、市中肺炎だけでなく院内肺炎、医療介護関連肺炎にも共通する課題であります。

肺炎における治療失敗(無効)の原因というのはまず第1に診断の誤り、そして診断があっていても治療がうまくいかない事情?がある、などです。初期治療不応時の鑑別診断(肺炎と紛らわしい疾患)として挙げられている非感染性の病態としては、
  • 心不全

  • 尿毒症肺

  • 肺塞栓

これらは病歴とエコーやCTなどで鑑別が可能です。この中で一番多いのは心不全ですが、肺炎に合併しているという場合もありしばしば治療が難しいこともあります。それ以外に、診断にはもう少し情報が必要で、場合によって気管支鏡などを考慮すべきものとして、
  • 間質性肺炎

  • 好酸球性肺炎

  • 器質化肺炎

  • 過敏性肺炎

  • 薬剤性肺障害

  • 放射線肺臓炎

  • ARDS

  • 肺胞出血

  • 肺癌

  • リンパ増殖性疾患

などが挙げられています。それはそうなのですが、だからといって、肺炎が治らない→呼吸器内科でよろしく、というのも少し違う気がします。

過敏性肺炎、薬剤性肺障害、放射線肺臓炎、それにARDSの一部は病歴でわかりそうですし、癌性リンパ管症やリンパ増殖性疾患だったらHRCTで見当が付く。診断に気管支鏡が必要なのは好酸球性肺炎と肺胞出血あたり…となれば、出来ることはありそうですね。

しかも、実は初期治療不成功の原因、非感染性因子は15〜25%で、感染性因子が40〜60%と感染性因子の頻度が高いのです。感染であったのに抗菌薬が効かなかった、その原因は…。

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2018年07月20日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説14・市中肺炎13・治療終了時期・退院時期

ケンカや戦争を始めるときには、落としどころを決めておく、終わりを決めておかないとずるずると泥沼にハマりますね。それと同じ?で、感染症治療を開始する際にはいつまで続けるか、治療開始時に決めておくのが理想です。

というのも、抗菌薬をダラダラ使う=耐性菌を増やす、ということになるからです。抗菌薬使用期間が延びるほど、体内でその抗菌薬が効かない菌が生き残り、効く菌が死に絶えていきます。菌の世界もパワーバランスがあり、一度バランスが変わるとなかなか元に戻らず、腸内細菌叢などの菌が「効かない菌=耐性菌」に入れ替わっていくのです。従って、抗菌薬は、できる限り大量に、短く使う、これが耐性対策の基本です。

以前にも書きましたが、最初に使う抗菌薬がその感染症に「効けば」、もうその感染症は制圧したと見做せる、すなわち、早期に「効果あり」と判定すれば、大体同じようなシチュエーション(重症度、菌種)で同じような日数(治療期間)で収束させることができる、と考えます。


市中肺炎治療期間の目安(初期治療が奏功している場合)

  • 肺炎球菌:菌血症がなければ解熱後3〜5日間(最低5日間)
    菌血症を併発していれば10〜14日間

  • ブドウ球菌や嫌気性菌による壊死性肺炎:14日間以上

  • レジオネラ・ニューモフィラ:7〜14日間

  • 緑膿菌:10〜14日間

  • その他の市中肺炎:最低5日間かつ2〜3日間平熱が続くことを確認して治療終了

  • 肺化膿症、胸膜炎、膿胸を併発している場合、基礎疾患による難治化を認める場合には上記より長期間投与するべき、とされています


最終的に抗菌薬投与を終了する判断は、(スイッチ療法の導入基準と同じ)臨床的な軽快状態を満たし、さらに
  • 白血球正常化

  • CRP が最高値の30%以下

  • 胸部 X 線の明らかな改善

などから総合的に判断する、とされていますが、胸部陰影の改善には時間を要する症例がありますし、 CRP に関しても感染症以外の原因で軽快しない症例があるので、あまりこれを厳密に守ると、ダラダラと抗菌薬を続けることになってしまいます。

個人的には、普通の免疫力がある普通の肺炎で、早期に「効果あり」であれば、当初の設定期間でビシッと止めていいと思います。

退院の時期については、ガイドラインでは「理想的には」抗菌薬終了後の観察期間を4〜10日間程度設けて再発がないことを確認後退院、と書かれていますが、現実的にそうやってベッドを占有することはかなわないでしょう。通常は点滴抗菌薬が終了したら退院、ということになるでしょうね。

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2018年07月19日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説13・市中肺炎12・スイッチ療法

当初注射薬による治療を開始しても、患者さんの状態が改善すれば、つまり
  • 循環動態が安定し、

  • 臨床症状が改善し、

  • 経口摂取が可能で、

  • 消化器機能が健全であれば

内服抗菌薬へのスイッチが可能、とされています。スイッチ療法導入の目安は本邦でいくつかの基準が検討されています。1つは

  • 呼吸器症状(咳や呼吸困難など)の改善

  • CRP<15mg/dL

  • 経口摂取の十分な改善

  • 体温が少なくとも12時間以上38℃未満であること

(柳原ら 2009)

の4項目で、もう1つは

  • 咳および呼吸状態の改善

  • CRP<10mg/dL(初診時CRP<10mg/dLの場合、CRP減少を確認)

  • 白血球数<10,000/μL

  • 体温が16時間以上37℃未満であること

(内山ら 2003)

の4項目です。

一応数値基準もありますので、参考にして頂ければと思います。注射薬を使っている間は退院が難しいものですから、内服へのスイッチは入院期間の短縮につながるでしょう。

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2018年07月18日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説12・市中肺炎11・臨床評価法

抗菌薬治療を開始したときにそれが「効いている」か「効いていない」かを判定、評価する方法を考えましょう。

そもそも肺炎になる、というか、感染症になる、ということは、ある菌(通常は1種類)が、制御できないほど増えて、臓器にダメージを与える、というイメージです。誤嚥性肺炎で口腔内の常在菌(普段から仲良くしている仲間たち)がそれぞれ仲良くいっしょに増えてくる、という場合を除いて、排他的に1種類の菌がドカンと増えるのが感染症です。

ですから、最初に使う抗菌薬がそいつに「効けば」、もうその感染症は制圧したも同然、というのが基本的戦略の元になる考えです。すなわち、早期に「効果あり」と判定すれば、そのまま抗菌薬を使っていけば肺炎は治るでしょう、と考えるわけです。

抗菌薬の早期の効果判定としてガイドラインで紹介されているのは、新規抗菌薬の臨床試験における評価法ですが、臨床的にも客観的な効果判定法として使用できます。評価のタイミングは薬剤投与開始から3日後で、判定の項目は
  • 体温(発熱)

  • 咳嗽

  • 喀痰の量

この3項目中2項目以上が改善していれば、改善または改善傾向ありとします。

その一方で、みんなが大好きな、炎症所見(白血球数やCRP)及び胸部X線の陰影については評価をしません。これは大事です。白血球数やCRPは治療開始時に低値であることもあり、胸部X線の陰影は、特に高齢者ではなかなか改善が見られないことも多いものですから、この指標で評価をすると誤った評価になる可能性があるわけです。

なお治療終了時(End of Treatment)、治癒判定時(Test of Cure)に臨床効果を判定するための症状としては、

  • 咳嗽

  • 喀痰の量

  • 呼吸困難

  • 胸痛

  • 喀痰の性状

  • 胸部のラ音

の6項目が挙げられていますが、実際には呼吸数を含めたこれらの症状は、早い時期から改善してくることが多いものです。これらはすべて「患者さんのところに行く」ことで得られる情報ですから、積極的に患者さんのところに行くようにしましょう。

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2018年07月17日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説11・市中肺炎10・集中治療室入室治療

集中治療室で全身管理が必要となるような、重症肺炎の代表的な原因菌は肺炎球菌とレジオネラです。ですが、エンピリックにいきます、というときにはその2つにターゲットを絞るのは危険でしょう。

重症、すなわち治療失敗が死を意味する、そういう場面においては、頻度はいささか低くても、緑膿菌を含むグラム陰性桿菌をもターゲットに含めた、広域抗菌薬を使うというのもやむを得ないところです。

ただし抗菌薬を使用する前に、必ずあらゆる培養をとる(喀痰、血液、尿など)。そうして得られた菌を確認してde-escalationをできるように準備する、ということが大事です。

エンピリック治療として挙げられるのが以下の5つの薬剤(の組み合わせ)です。いずれも注射薬になります。

  • A法|カルバペネム系薬(メロペネム、ドリペネム、ビアペネム、イミペネム・シラスタチン)またはβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(タゾバクタム・ピペラシリン)このいずれかの単剤療法

  • B法|第三世代セフェム系薬(セフトリアキソン、セフォタキシム)またはβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルバクタム・アンピシリン)の単剤療法(緑膿菌を考慮しない場合)

  • C法|A法またはB法とマクロライド系薬(アジスロマイシン)の併用療法

  • D法|A法またはB法とレスピラトリーキノロン系薬(レボフロキサシン)併用療法

  • E法|A法またはB法またはC法またはD法と抗MRSA薬(リネゾリド、バンコマイシン、テイコプラニン、アルベカシン)の併用療法(MRSA 肺炎のリスクが高いと考えられる場合)


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2018年07月13日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説10・市中肺炎9・入院治療2・補助療法

■ 補助療法

重症肺炎時にはサイトカインストーム(過剰な炎症によってサイトカインの嵐が吹き荒れる)が生じて肺胞上皮や肺毛細血管内皮の障害を来す、ということから、「炎症を抑える」ことを意識した補助療法が試みられてきました。

1つはマクロライド系薬で、集中治療室入室(つまり最重症)症例における選択肢の一つとして、「マクロライド併用療法」という形で反映されています。

もう1つはステロイド薬で、免疫力を低下させる懸念からこれまでにも議論の的になってきました。システマティックレビューのまとめによれば、

  • 生命予後に影響しない

  • 肺炎の治癒率を変えない

  • 重篤な副作用は増加しない

  • 入院期間が約1日短縮

  • 医療費や耐性菌の発生などは評価不能


であり、重症市中肺炎においては、弱く推奨する、ということになるようです。

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2018年07月10日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説9・市中肺炎8・入院治療1

一般病棟入院患者群に使われるのは、基本的には注射薬になります。細菌性肺炎が疑われる場合、

  • スルバクタム・アンピシリン

  • セフトリアキソンまたはセフォタキシム

  • レボフロキサシン



非定型肺炎が疑われる場合は

  • ミノサイクリン

  • レボフロキサシン

  • アジスロマイシン


の注射薬を使います。なお6項目の鑑別表を持ってしても鑑別が困難な場合、胸部CTを用いて気管支壁の肥厚や粒状影、すりガラス影を見たときにマイコプラズマを疑う、という方法も紹介されています。


さて明日は、聖地 沖縄県立中部病院への訪問です。緊張しています。更新はないかもしれません…。

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2018年07月09日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説8・市中肺炎7・外来治療2・注射薬

■ 外来治療・注射薬

外来で、注射薬で治療しよう、ということになりますと、さすがに1日に何回も注射しに来院して頂く、というのは現実的ではありませんから、1日1回投与である抗菌薬を選択するのが原則となるでしょう。

かつては1日複数回投与が原則の(=1回投与した後、抗菌効果が素早く失われてしまう)、ペニシリンや普通のセフェム系薬を1回だけ注射して帰宅させる、ということが一般的に行われていましたが、もはやそういうことはいたしません。1日1回使用に根拠のある抗菌薬を使いましょう。

ガイドラインで挙がっているのは、1日1回投与薬である、

  • セフトリアキソン

  • レボフロキサシン

  • アジスロマイシン


です。

セフトリアキソンはセフェム系ながら血中半減期が長く、しかもBLNARにも効果があるため、市中細菌性肺炎にはなかなか強いです。ですが、逆に言うと、これに耐性がついてしまうとなかなか苦しいですし、一部嫌気性菌には弱い面もあります。ですから、決して何でもかんでも使うのではなく、BLNARの多い地域でH.influenzaeが疑われるような状況(喫煙者、COPD、比較的地味な発症など)に限って使いたいところです。

レボフロキサシン(キノロン系)やアジスロマイシン(マクロライド系)は、その特性上1回投与あたりの濃度を高くする(=1回投与量を増やす)ことが効果につながります。そのため1日1回投与になっておりますので、外来治療に適してはいるわけですが、こちらの系統は非定型肺炎を疑うときにお使い頂きたい、ということは既に申し上げているとおりです。

特にキノロン系は、非定型肺炎にも細菌性肺炎にも、ある程度効きますので、「何も考えたくない!」という方には大変向いているのですが、何も考えずに肺炎治療をするのはできれば避けて頂きたい、と念願するものであります。

マクロライド系は、マイコプラズマを疑うときに使うことになりますが、点滴が必要な状態であれば普通は入院でしょうし、あまり、「外来で、点滴で、アジスロマイシン」というシチュエーションはないように思います。

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2018年07月06日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説7・市中肺炎6・細菌性肺炎と非定型肺炎・外来治療

ですから細菌性肺炎を疑う場合には、肺炎球菌やH.influenzaeに効果のあるβラクタム系(ペニシリン系、セフェム系)抗菌薬を投与します。


細菌性肺炎と非定型肺炎が鑑別できたら、治療の場(外来、一般病棟、集中治療室)別に治療を考えましょう。


■ 外来治療

非定型肺炎(≒マイコプラズマ肺炎)は軽症例が多いため、基本的には外来治療症例が多くなります。非定型肺炎の治療には上にも書きましたがβラクタム系は使いません。

細菌性肺炎を疑う場合にはβラクタム系を使います。非定型か細菌性か、鑑別が難しい場合(鑑別ポイントを3項目しか満たさないような場合)は非定型病原体をカバーするような抗菌薬を選択します。

となると、1剤で非定型も細菌もカバーする、レスピラトリーキノロンが最適である、とガイドラインではなっておりますけれども、何度もブログで書いているようにキノロンは結核にちょっと効いてしまい、そのため結核の診断が遅れてしまうというデメリットがあります。

それにいろんな細菌がキノロン系に耐性がついてしまうと大変具合が悪いですから、ここではなるべくキノロンを使わずに肺炎を治療することを考えましょう。

まずガイドラインで挙げられている、外来患者群の内服治療を行う群です。

  • ベータラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬
    (スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)

  • マクロライド系薬
    これは非定型肺炎が疑われる場合の選択です(クラリスロマイシン、アジスロマイシン)

  • レスピラトリーキノロン
    (ガレノキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン(これはキノロンですが抗結核菌作用がないのが特徴です))


市中の細菌性肺炎、想定される原因菌として肺炎球菌、H.influenzae(インフルエンザ桿菌)が挙げられます。そのためペニシリン系の経口薬を第一選択としたいところですが、H.influenzaeはβラクタマーゼを産生するものもあり、βラクタマーゼ阻害薬を加えるのが無難だという考え方です。

それはいいのですが、アモキシシリン・クラブラン酸はアモキシシリンが250mg、クラブラン酸が125mgという割合で配合されていて、アモキシシリンをたくさん使おうとするとクラブラン酸もたくさん摂取されてしまって下痢を起こしやすい、といわれています。

そこでこの配合剤(オーグメンチン250レジスタードマーク3錠分3)にアモキシシリン単独製剤(サワシリン250レジスタードマーク3錠(カプセル)分3)を併用すれば、アモキシシリン250+250=500mgにクラブラン酸が125mgという配合で使うことができます。この、ちょっと気の利いた?取り合わせを、商品名の頭文字を足してオグサワという風に呼んでいます。

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2018年07月05日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説6・市中肺炎5・細菌性肺炎と非定型肺炎/マイコプラズマ

とか何とかいいましたが、エンピリック治療すら無視して、肺炎には何でも広域抗菌薬、という現場が今でもあるようですので、まずはガイドラインの意図を尊重して、「最低限このくらいは」というエンピリック治療についてご紹介します。


まずは「細菌性肺炎と非定型肺炎」の鑑別を行います。

非定型肺炎。定型的な細菌性肺炎とは症状や所見が異なり、使うべき抗菌薬の種類が全く異なるために鑑別が必要となる疾患群であります。マイコプラズマ、クラミジア、オウム病、レジオネラ、Q熱などが非定型肺炎に含まれますが、このうち頻度が多いマイコプラズマとクラミジアの特徴を取り上げて、

  • 若年者(<60歳)

  • 基礎疾患なし、あっても軽微

  • 痰が少ない

  • ラ音が聴かれない

  • 空咳が多い

  • 採血で白血球が増えない(<1万)


のうち何項目を満たすか、4項目以上であれば非定型肺炎を疑います。まあクラミジアも当初言われていたほど多くはないと最近言われていますので、実質的にこの特徴はほぼマイコプラズマのことを指すと考えて良いと思います。

マイコプラズマは気管支粘膜上皮細胞の線毛にくっつき、感染します。線毛が元気な方がくっつきやすい=感染しやすい。また、感染が成立するには、それなりに長い時間同じ空間にいる必要がある、ということから、保育園、幼稚園、学校に行っている、若くて元気なヒトが罹りやすい,ということになります。

気管支上皮の炎症から気道過敏性が亢進し、めっちゃ咳が出ますが、痰は目立たず、気道に痰がないのでラ音も聴かれません。臨床的にしばしば咳喘息との鑑別が問題になります。

マイコプラズマは大変小さな微生物で、一般細菌のように自分で細胞壁(自己の構造)を作成して増えていくものではありません。自立してないわけです。(ヒトの)細胞内に感染(寄生)して、細胞の仕組みを利用して菌体を作成し増殖するという、すねかじり生活。ちなみにそのために培地での培養も難しいものです。

そのようなしくみで増える菌であり、細胞壁を持たないので通常よく使われるβラクタム(細胞壁の合成阻害薬)は原理的にも全く効果がありません。マイコプラズマに「効く」のは、マクロライド系やキノロン系といった DNA 合成阻害薬になります。

では市中肺炎全てに対してマクロライドやキノロンを使えば良いのではないかと思われるかもしれませんがことはそれほど単純ではありませんというのもマクロライド系薬はあまりにも小児(だけでもありませんが)に対して濫用され、一般的な市中肺炎を起こす細菌(肺炎球菌やH.influenzae)には効かなくなってしまっているからです。

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2018年07月04日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説5・市中肺炎4・エンピリック治療とAMR

AMR(antimicrobial resistance:薬剤耐性)が問題となっている昨今、ともかく抗菌薬は、「できる限り狭域を使うべき」です。狙いを定めてピンポイント爆撃。

そのためには原因菌が判明していなくてはなりません。心ある施設では、喀痰グラム染色、培養を活用して、できる限り狭域に抗菌薬の選択をされています。出た菌による選抗菌薬択については後で紹介します。

グラム染色、喀痰培養をやっている施設は少数派ですから…痰が出ない、検査ができない、ということで、尿中抗原をアテにしておられる施設も多いかと思います。ただこちらは、以前(数ヶ月〜過去1年くらいまで)の肺炎球菌感染症があると陽性に出てしまいますから、注意が必要です。


そんなわけで現実には原因菌の目星がつかないことも多く、状況証拠から「こんなもんかな」と抗菌薬を決めて投与する、いわゆる「エンピリック(empiric)治療」を行うことになります。

empiric、というのは、「経験的な」という意味です。こういうシチュエーションだったらこういう菌が経験的に多いから、この抗菌薬を使いましょう、ということを決めておいて、シチュエーション別に治療するものです。

本来は初期治療において、原因菌が定まるまでにとりあえずの治療、という意味合いであったはずが、結局菌種が確定せずにそのまま治療継続されることが多いようです。まあそれで「その症例については」大概うまくいくのも現実ですが。

empiricにはヤブとか山師、という意味もあり、しばしば「原因菌の絞り込みを行わずにテキトーな治療をする」という揶揄の対象になりますが、まあ現実問題、痰の検査ができないものは仕方がない、うまくいくんだからそれでいいだろう、という声も少なくありません。でもね。それでも原因菌探しはできるだけ努力しましょう。

なぜか。

エンピリックにいくということは、(治療失敗を避けるために)どうしても多少広域なものを使うことになります。それでその症例はうまくいっても、体内で菌交代が起こり、その人の体内の菌がAMR化してくるわけです。塵も積もれば山となる。そのうちに施設がAMR化、その地域がAMR化、やがて日本が、世界がAMR化…これまでに何度も繰り返されてきた抗菌薬悲劇の歴史です。

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2018年07月03日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説4・市中肺炎3・原因菌探し

治療の場(外来治療か入院治療か)を決めた後に治療薬の選択へと進みますが、治療薬を決めるためには原因菌が何であるかを考えなくてはなりません。

そこでできる限り原因菌に迫ることができるよう、検査を行います。まず採るものとしては

  • 喀痰のグラム染色、および培養・同定

  • 血液培養

  • 尿中抗原(肺炎球菌/レジオネラ)

  • 喀痰や上咽頭ぬぐい液の抗原

  • LAMP法による遺伝子検査

  • 血清抗体検査


が挙げられますが、実際に普及しているのは上3つでしょう。グラム染色については、まだ普及途上、といった感じですが、迅速性と妥当性からはもっと普及すべき検査である、といえます。

グラム染色から直ちに治療薬を決めることができます。尿中抗原や喀痰などの抗原も迅速に結果が得られますが、血液培養は結果が出るのに数日かかります。LAMP法でもう少し。抗体検査は2週間以上かかりますから、初診時にすぐに結果が得られるグラム染色と、抗原検査でわかる肺炎球菌、マイコプラズマあたりは、原因菌の目星をつけることができるのです。

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2018年07月02日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説3・市中肺炎2・市中肺炎治療の場

で、市中肺炎と診断しましたら、まず治療の場と治療薬を決定するために重症度を評価する必要があります。治療の場というのは入院で治療する(予後が悪そう)のか、外来でいけるのか(予後が悪くなさそう)の判断ですが、その目安として予後予測因子の何項目に当てはまるのかスコア付けをしよう、というのが以前の(2005)市中肺炎ガイドラインから日本で用いられているA-DROPです。

A-DROP表

この5項目のうち1項目も満たさないものを軽症、1つまたは2つを満たすものを中等症、3つを満たすものを重症、4つ以上満たすと超重症と分類します。ただしショックがあれば1項目だけであっても超重症に含めます。

軽症であれば外来治療可能、中等症は外来もしくは入院で、つまり入院となるかどうかは主人の裁量次第ということになります。A-DROPで大事なポイントとしては、軽症肺炎をきちんと外来で診療しましょう、ということです。

重症以上では入院の適応で、超重症となるとICU、またはこれに準ずる病室に入室、とされていますが、初診時A-DROPでさほどでなくても後に重症化する、つまり当初から集中治療を要する敗血症症例のスクリーニングが問題とされていました。

そこで今回のガイドラインでは、A-DROPに加えて新たに敗血症の有無を判断するために用いられるqSOFA(クイックソファー:quick Sequential Organ Failure Assessment)スコアを用いて重症度を評価することになりました。

qSOFA表

qSOFA2点以上であれば、敗血症の疑い、となり、臓器障害の評価を行ってSOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコアをつけます。

SOFA表

これがベースラインから2点以上増加していれば敗血症と診断されます。

A-DROPは5項目、qSOFAは3項目で評価しますが、A-DROPだと血圧が90mmHg以下で1点なのにqSOFAだと収縮期血圧100mmHg以下で1点、と微妙に違うところが覚えにくいですね。まあこれは異なるロジックで作られたシステムなので仕方がありません。丸暗記しなくても、いつでも参照できるようになっていればOKです。

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2018年06月29日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説2・市中肺炎1・成人肺炎診療ガイドライン2017における市中肺炎の定義

ちなみに院内肺炎(HAP)は入院後48時間以上経過してから新しく発症した肺炎であり、入院時既に感染していたものは除かれます。

そして医療・介護関連肺炎(NHCAP)は以下の定義のような肺炎です。

医療・介護関連肺炎の定義

  • 長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している

  • 90日以内に病院を退院した

  • 介護(PS3以上)を必要とする高齢者、身体障害者

  • 通院にて継続的に血管内治療(透析・抗菌薬・化学療法・免疫抑制薬などによる治療)を受けている



ガイドライン自体に市中肺炎(CAP)とはこういうものだという定義、そのものズバリは書いてないんですけれども、一応記載としては、基礎疾患のないまたは基礎疾患が軽微な人に起こる肺炎、と書いてあります。また一般的な概念は、通常の日常生活を営む健常人に起こる肺炎である、とも書いています。

市中、という言葉は普通の街中に住んでいる、ということですが、HAP、NHCAPを除いたものがCAPですから、NAPやNHCAPの定義とすり合わせると、医療機関にそれほどかかっていない、医療や介護の対象となっていない、ほぼ健常な人に起こる肺炎だと考えられます。

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2018年06月28日

成人肺炎診療ガイドライン2017解説1・ガイドラインの変遷

昨年(2017年)成人肺炎の診療ガイドラインが新しくなり、『成人肺炎診療ガイドライン2017』として発行されました。少しそれについて改めて振り返っておきましょう。

『成人肺炎診療ガイドライン2017』は、これまでにあった「市中肺炎(2005)」「院内肺炎(2008)」「医療・介護関連肺炎(2011)」という、発症の場ごとのガイドラインを1冊にまとめ、そして各々の場における新しいエビデンスを取り入れたものですが、それだけでは、あまり目新しいものではありません。

今回新しいこととして、終末期の肺炎に踏み込んで、治療方針などに言及された点が挙げられます。医療・介護関連肺炎診療ガイドラインで初めて取り上げられた「患者がいかなる治療区分に該当するかの判断は、患者個々の病態、背景、家族関係などをよく知る主治医の判断に委ねる」「長期的には改善が得られない症例に対する医療の継続に関しては、現在も議論の決着がついていない」という記載から、「終末期医療における肺炎では、個人の意思によっては必ずしも科学的なエビデンスに基づいた強力な治療を行わないという選択肢もある」という記載になってきました。

これまで臨床の現場では、何となく?行われてきたことにガイドラインがはっきりと道筋を付けた、ということで、現場の先生方は歓迎されているかと思います。

それに関連して、なのですが、そういう疾患の末期や老衰といった、終末期の症例が含まれる「院内肺炎」と「医療・介護関連肺炎」は1つの診療群とし、「市中肺炎」と分けて診療のプロセスを示すようになりました。折角分けたものがまた1つになったわけで、なんだかな〜という感じです。

まあ、医療・介護関連肺炎を分けてみたものの海外の医療施設との定義というか分類の地域差、文化差を合わせられずに、論文を出すにしても統計を出すにしても海外から見て「なんやねんそれ」状態であったのかもしれません。むしろこのシンプル化は、現場の人間としては歓迎すべきですね。

で、「院内肺炎」と「医療・介護関連肺炎」の症例では、最初に終末期であるかどうかを判断し、濃厚な治療をするべきかどうかを決めましょう、ということになっているのです。

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2013年04月04日

難病患者さんの肺炎に対する抗菌薬治療9・肺炎の具体的治療の流れ6・推定原因菌にあった抗菌薬を投与4・入院治療、その中でも集中治療を要するグループに対する抗菌薬選択

集中治療を要するような、生死に関わるような場面では、抗菌薬を出し惜しみするとか言ってられません。考えられる原因菌に対して絨毯爆撃を行います。


具体的なターゲットは肺炎球菌・インフルエンザ菌・MSSA・クレブシエラ・クラミドフィラ・ウイルスに加え、耐性菌として緑膿菌・アシネトバクター・ESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生腸内細菌・MRSA・ステノトロフォモナスなどが想定されています。


抗生剤の選択では、中等症群のペニシリン、セフェム、またはカルバペネムのいずれかに加えて、非定型病原体も確実にカバーするためにキノロン、マクロライドを併用する、という使い方になります。


  • ペニシリン系:タゾバクタム/ピペラシリン注射薬

  • セフェム系:セフェピム注射薬+クリンダマイシンまたはメトロニダゾール注射薬

  • カルバペネム系注射薬


のいずれかに、

  • パズフロキサシン、シプロフロキサシン注射薬

  • アジスロマイシン注射薬



を加える、


という感じです。もちろん、MRSAのリスクがある場合には、抗MRSA薬も併用することとなっています。


以上、簡単ではありますが、難病患者さんが肺炎にかかられたときの抗菌薬治療について、エッセンスをまとめました。お読みの皆さんの参考になれば幸いです。


* 難病と在宅ケア(7月号)に改変の上掲載予定

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2013年04月03日

難病患者さんの肺炎に対する抗菌薬治療8・肺炎の具体的治療の流れ5・推定原因菌にあった抗菌薬を投与3・入院治療を要するグループの中でも耐性菌のリスクがあると考えられる患者に対する抗菌薬選択

このカテゴリーに含まれる患者さんの肺炎、具体的なターゲットは肺炎球菌・インフルエンザ菌・MSSA・クレブシエラ・クラミドフィラ・ウイルスに加え、耐性菌として緑膿菌・アシネトバクター・ESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生腸内細菌・MRSA・ステノトロフォモナスなどが想定されています。


抗菌薬の選択では、副作用が少なく広域スペクトラム、というか、抗緑膿菌活性がしっかりあるものが推奨されます。当然、ここは注射薬をチョイスします。


  • ペニシリン系:タゾバクタム/ピペラシリン注射薬

  • セフェム系:セフェピム注射薬+クリンダマイシンまたはメトロニダゾール注射薬

  • カルバペネム系注射薬

  • キノロン系注射薬+スルバクタム/アンピシリン注射薬



併用療法の説明として、セフェム系とキノロン系は、嫌気性菌に弱いため、それをカバーするために嫌気性菌に強いクリンダマイシン、メトロニダゾール、スルバクタム/アンピシリン注射薬を併用するということが特記されています。


また、MRSAのリスクがある、つまり、過去にMRSAが分離されている場合には、抗MRSA薬のうちいずれか1種類を併用すること、となっています。


ちょっと気づいた追加事項、後ほどfacewbookにてご紹介します。


* 難病と在宅ケア(7月号)に改変の上掲載予定

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posted by 長尾大志 at 16:11 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2013年04月02日

難病患者さんの肺炎に対する抗菌薬治療7・肺炎の具体的治療の流れ4・推定原因菌にあった抗菌薬を投与2・入院を要する中等症の患者(耐性リスクなし)に対する抗菌薬選択

この場合の具体的なターゲットは軽症群と同様、肺炎球菌・インフルエンザ菌・MSSA・クレブシエラ・クラミドフィラ・ウイルスを想定します。


ただ、入院で治療する場合は患者さんの状態の変化をすぐに察知することができるため、治療開始時から非定型菌をカバーするということはせず、軽症群よりむしろ細菌にターゲットを絞った選択になっています。また、当然、注射薬が主体です。選択薬は…


  • スルバクタム/アンピシリン注射薬

  • セフトリアキソン注射薬

  • パニペネム/ベタミプロン注射薬

  • レボフロキサシン注射薬



となっています。先に書きましたように、ここでキノロンを使ってしまうのは惜しいので、ガイドラインには上の通り書いてありますけど、出し惜しみをしておきたいところですね。


* 難病と在宅ケア(7月号)に改変の上掲載予定

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posted by 長尾大志 at 16:23 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2013年04月01日

難病患者さんの肺炎に対する抗菌薬治療6・肺炎の具体的治療の流れ3・推定原因菌にあった抗菌薬を投与1・軽症患者の抗菌薬選択

ここまで知って頂いた上で、まず外来治療で良い、比較的軽症な患者さんの治療を考えましょう。この場合、原因菌は耐性菌のリスクも少ないであろうとして取り扱います。


具体的なターゲットは肺炎球菌・インフルエンザ菌・MSSA・クレブシエラ・クラミドフィラ・ウイルスなどを想定します。抗菌薬の選択は、比較的狭域スペクトラムで、耐性菌リスクの少ないものを選びます。外来治療になると必ずしも毎日医師の診察を受けられないこともありますので、非定型菌もカバーしておきます。


そして外来治療なので、基本経口薬を選びますが、ここで便利なのはセフトリアキソン(セフェム系注射薬)。注射薬なのですが1日1回の注射できっちり効果を現しますので、外来治療に適しているのですね。


逆に言うと、これ以外の注射薬を外来で1日1回、とかいう使い方をするのは効果が期待できない、ナンセンスである、というか経口薬の方がよい、ということになります。基本、注射薬は入院で、1日2回以上の投与で使うものです。


なお、キノロン系やマクロライド系などで、1日1回投与でよい、とされる注射薬もありますが、それらの薬剤は重症肺炎例で使用が推奨されているものです。


軽症患者さんの抗菌薬選択

  • アモキシシリン/クラブラン酸またはスルタミシリン経口薬+マクロライド系経口薬

  • セフトリアキソン注射薬+マクロライド経口薬

  • レスピラトリーキノロン経口薬



全国的にうんざりするほど頻用されているレスピラトリーキノロン、特にレボフロキサシンは嫌気性菌には効果が弱く、誤嚥があると考えられる症例には避けた方がよい、と明言されています。


* 難病と在宅ケア(7月号)に改変の上掲載予定

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posted by 長尾大志 at 12:13 | Comment(4) | 肺炎ガイドライン解説

2013年03月29日

難病患者さんの肺炎に対する抗菌薬治療5・肺炎の具体的治療の流れ3・推定原因菌にあった抗菌薬を投与・抗菌薬の簡単なまとめ

治療のお話をする前に、抗菌薬についておおまかな話をしておきましょう。抗菌薬には大きい区分である「系統」が何種類かあり、それぞれに「くせ」があります。また、同じ系統の中でもいくつかの区分がありますが、ここではよく肺炎治療に使われる代表的な薬剤を取り上げます。


話をわかりやすくするために、上で述べた耐性菌代表として緑膿菌に登場いただき、緑膿菌に効かない薬(耐性菌に使わない)と効く薬(耐性菌に使用する)に分けて考えましょう。


なお、ここに挙げたのは、コメディカルの方や患者さんも読まれることを考えて、本当に代表的な数種類のみです。ドクターの皆さんはもちろん、もっと多くの抗菌薬について習熟しておく必要がありますよ!



A. ペニシリン系

歴史上最初に作られた抗菌薬で、歴史があります。多くの改良を受けて、現在でも第一線で活躍しています。誤嚥性肺炎の原因になる嫌気性菌にも強いです。


代表例
緑膿菌に効果がない:スルバクタム/アンピシリン
緑膿菌に効果がある:タゾバクタム/ピペラシリン



B. セフェム系

経口薬でも注射薬でも広く使われている薬です。嫌気性菌には少し効果が劣ります。


代表例
緑膿菌に効果がない:セフトリアキソン
緑膿菌に効果がある:セフェピム



C. マクロライド系

ペニシリン系やセフェム系が細胞壁合成阻害薬であるのに対し、DNA合成を阻害します。そのため、細胞壁を持たない菌、細胞内寄生菌に対して効果があります。主に使われるのはマイコプラズマなどが想定されるときです。


一方で、あまりにも広く使われすぎたために、肺炎球菌やH.influenzae(インフルエンザ菌)に対しては耐性化が進んでいて、効かなくなってきています。緑膿菌に対しては元々効果がありません。


代表例
クラリスロマイシン、アジスロマイシン



D. キノロン系

肺炎球菌やH.influenzae(インフルエンザ菌)、さらには緑膿菌にまで広く効果があります。加えて、マクロライド同様に細胞壁を持たない菌、細胞内寄生菌に対して効果があり、いわば「万能」とも言える抗菌薬ですが、こちらも広く使われすぎの嫌いがあり、今後の耐性化が懸念されています。そのため、心ある臨床医はできるだけ大切に使おう、出し惜しみしようと心がけています。


代表例
経口薬:レボフロキサシン、ガレノキサシン、モキシフロキサシン
注射薬:レボフロキサシン、パズフロキサシン、シプロフロキサシン


キノロン系経口薬にはたくさんの種類がありますが、肺炎球菌への効果がよいのは上記の3種類で、特にこれらはレスピラトリーキノロンと呼ばれています。


注射薬は強力ですが、本当に必要とされる場面は重症なケースに限られます。それと、嫌気性菌には少し効果が劣りますので、誤嚥があると思われる場合には注意が必要です。



E. カルバペネム系

こちらも肺炎球菌やH.influenzae(インフルエンザ菌)、さらには緑膿菌にまで広く効果がありますが、細胞壁を持たない菌には効果がありません。それ以外の菌には嫌気性菌、緑膿菌を含めほぼ万能で、キノロン系同様、心ある臨床医はできるだけ大切に使おう、出し惜しみしようと心がけています。


代表例
メロペネム、ドリペネム、イミペネム・シラスタチン、ビアペネム



F 抗MRSA薬

これまでに書いた抗菌薬はいずれも、MRSAには効果がありません。それだけMRSAの耐性はキツイのだということです。MRSAが原因であると考えられる感染症に対しては、専用の薬剤がありますから、それを使います。


代表例
バンコマイシン、テイコプラニン、リネゾリド


* 難病と在宅ケア(7月号)に改変の上掲載予定

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posted by 長尾大志 at 10:41 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2013年03月28日

難病患者さんの肺炎に対する抗菌薬治療4・肺炎の具体的治療の流れ2・原因菌を想定

以前書いたように、何らリスクのない生活をされている方(市中肺炎)の肺に入って肺炎を引き起こすような菌は、肺炎球菌・H.influenzae(インフルエンザ菌)・マイコプラズマ・クラミドフィラ・ウイルス(インフルエンザ、水痘他)などが考えられます。


「医療・介護関連肺炎」の場合にも、在宅で過ごしておられる方は基本的に同様の菌が肺に入ると考えられますが、下の表のような状況の患者さんは、原因菌が薬剤耐性菌である可能性が高いと考えられます。


耐性菌に対しては使用すべき抗菌薬もランクアップするため、以下のような状況の患者さんは特別扱いとなります。


  • 過去90日以内に広域抗生剤が投与された

  • 経管栄養を施行している

  • 過去に鼻腔や口腔などからMRSAが分離された(MRSAのリスク)



薬剤耐性菌:
  • 緑膿菌

  • アシネトバクター

  • ESBL〈基質特異性拡張型βラクタマーゼ〉産生腸内細菌

  • MRSA

  • ステノトロフォモナスなど



それ以上細かく菌を推定することは現実的には困難で、また、抗菌薬の使い分けという点からもそれほど意味がないので、この原因菌を想定するにあたっては、この「耐性菌がいそうかどうか」が最も重要な区分けになります。


* 難病と在宅ケア(7月号)に改変の上掲載予定

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posted by 長尾大志 at 11:26 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2013年03月27日

難病患者さんの肺炎に対する抗菌薬治療3・肺炎の具体的治療の流れ1・治療の場

肺炎治療の流れは、まず@治療の場を決め、A原因菌を想定し、Bその菌にあった抗菌薬を投与する、こういう流れになります。


治療の場とは、病院に入院するのか、これまで通り在宅や施設で治療をするか、ということです。重症度に応じて入院適応を決めることになります。これは、市中肺炎ガイドラインで定められている分類、A-DROPを参考に決めていきます。


ちなみにA-DROPとは、既出ではありますが重要なので再掲しておきますと…

  • A:Age(年齢) 男性≧70歳、女性≧75歳

  • D:Dehydration(脱水) BUN≧21または脱水
    英語が難しければ「脱水のD」でよいでしょう。

  • R:Respiration(呼吸)SpO2≦90%
    レスピのRで覚えましょう。

  • O:Orientation(意識障害)
    「起きてる?のO」で覚えましょう。

  • P:Pressure(血圧) 収縮期≦90mmHg



この覚え方、ポリクリ学生さん考案です。ブログ掲載の許可を頂いています(笑)。


上記5項目を1つ満たすごとに1点カウントし、点数によって重症度、および入院・外来いずれで治療するかを決めます。

  • 0点:軽症→外来治療

  • 1-2点:中等症→外来、または入院治療

  • 3点以上:重症→入院治療

  • 4点以上→ICU 管理



…という具合に入院/外来を判断します。ちなみに1-2点であれば、主治医の総合判断で入院するかどうかを決めることになります。


* 難病と在宅ケア(7月号)に改変の上掲載予定

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2013年03月26日

難病患者さんの肺炎に対する抗菌薬治療2・肺炎ガイドラインによる「ターゲット」の違い

誤解を恐れずに極論しますと、これらのガイドラインは、患者さんの状態、発症の場によって「原因(分離)菌」が異なる、従って抗生剤を使い分ける必要がある、ということが柱としてあるのです。肺内には、常在菌というべきものはほとんどいないわけですが、病原性を持つ菌で、肺が好きな菌というものはいるわけです。肺の環境を好み、かつ、エアロゾル・微少な飛沫として空中に浮かぶことができる(つまり肺に入る経路を持つ)菌、それが肺炎の原因菌になりうるわけです。

たとえば、他人の「咳」「痰」「しぶき」を吸い込むことで感染が成立するような菌は、人混みに出かけたり、咳をしている子供に接触したりするような、「市中での生活」で肺炎の原因になります。


市中肺炎の原因菌

  • 肺炎球菌

  • H.influenzae(インフルエンザ菌)

  • マイコプラズマ

  • クラミドフィラ(クラミジア)

  • ウイルス(インフルエンザ、水痘他)



市中での生活で罹患する「市中肺炎」の原因菌はこれらであることが多いため、市中肺炎の治療は、まずはこれらの菌をターゲットとして行います。


ここで、肺炎球菌やH.influenzae(インフルエンザ菌)には通常ペニシリンなどのβラクタムを使いますが、マイコプラズマやクラミドフィラは非定型病原体といってβラクタムが効かない。ということで、これらの鑑別が必要になるわけです。


一方、病院に入院していると、市中で生活しているときに肺に進入するような菌は感染機会がなく、元々院内に住んでいるような菌が原因菌になります。それはやはりグラム陰性桿菌が主体。


特に、水周りなどには、それまでに入院していた肺炎患者さんが喀出したしぶきに含まれていた緑膿菌などが住み着いたりしているものです。 また、医療従事者の手にはMRSA がついていたりします。とすると、病院内で罹った「院内肺炎」の場合は、そういった菌を原因菌として考えるのが妥当、ということになります。


また、抗菌薬を使ったかどうか、というのも原因菌の推定に深く関与します。たとえば3世代セフェムを使うと菌交代で緑膿菌が残ります。広域抗生剤の長期投与はMRSAのリスクになりますし、そもそも抗菌薬を使うと、大なり小なり耐性がついてくるものなのです。


院内肺炎の原因菌はこのようにグラム陰性桿菌・緑膿菌・MRSAをはじめとする耐性菌であることが多いため、このような菌がターゲットとして想定されます。


また、最近定められた「医療・介護関連肺炎」、難病患者さんの肺炎はこの範疇に入ることが多いのではないかと思いますが、その定義は、以下の表の通りです。


医療・介護関連肺炎の定義

  • 長期療養病床または介護施設に入所

  • 90日以内に病院を退院した

  • 介護*を必要とする高齢者、身体障害者

  • 通院にて継続的に血管内治療*を受けている


  *介護…身の回りのことしかできず日中の50%以上をベッドで過ごす
  *血管内治療…透析・抗菌薬・化学療法・免疫抑制薬など


つまり、病院に入院してはおられない、在宅でありながら、病院内の環境に似た細菌に曝露する機会が多く、肺炎の原因菌がグラム陰性桿菌や耐性菌によることが多い、というグループになります。


今回のお話は難病患者さんの肺炎についてですので、具体的な治療に関しては、医療・介護関連肺炎ガイドラインに沿ってお話しします。


* 難病と在宅ケア(7月号)に改変の上掲載予定

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2013年03月25日

難病患者さんの肺炎に対する抗菌薬治療1・耐性菌を作り出さないために

ポリクリのない、春休み期間もあと1週間。ということは、依頼原稿を書ける時間がとれるのもあと1週間ということになります。時の経つのは早いもの。facebookには書きましたが、家中がインフルエンザのために春休みもあって無きがごとしでした(私は幸いかからずでしたが)。


ということで少し前に頂いた執筆依頼、そろそろ締め切りも近く、書き始めなくてはなりませんので、ちょっと準備に取りかかりたいと思います。よければお付き合いください(最近同じことばかり書いている気もしますが…)。


今回は、「難病患者さんの肺炎に対する抗菌薬治療」というタイトル。


難病の患者さんにおかれましてはADLの低下や誤嚥、それに免疫力の低下などの状況により、肺炎にかかられることが少なからずあるように見受けます。これまでにも肺炎の抗菌薬治療に関しては何度か述べて参りましたが、このたびは、もう少しコメディカルの方々、難病患者さんの介護に当たられる方々に向けて、難病患者さんの肺炎の抗菌薬治療について、まとめさせていただく機会を頂きましたので、ご紹介していきたいと思います。




色々な状況の違いはあれど、基本的に「肺炎」という疾患は、通常は無菌状態である肺の中に細菌が入ることで起こります。その細菌を退治するために抗菌薬を用いるのですが、抗菌薬には実に多くの種類があり、どの細菌に効果があるか(スペクトラム)が異なります。


「色々な菌に効く=広域スペクトラムの」抗菌薬を濫用すると、必ずその抗菌薬が効かない菌(=耐性菌)が誘導されてきます。もちろん患者さんの治療に必要な場合(その抗菌薬でないと効かない菌がターゲットの場合)には、広域スペクトラムの抗菌薬を使うべきですが、不必要な場面で広域スペクトラムの抗菌薬を使用する(=不適切に抗菌薬を用いる)と、「耐性菌」を誘導してしまうのです。耐性菌というのはMRSAが有名ですが、MRSA以外にも今や色々な種類の耐性菌が生み出されてきていて、問題となりつつあるところです。


したがって、肺炎治療の際には「どの菌をターゲットとして治療すべきか」ということを考えて抗菌薬を選択する必要があり、そのあたりを専門外の先生方にも無理なく行っていただけるように、肺炎のガイドラインが定められているのです。


とはいえ、ガイドラインにも市中肺炎(community acquired pneumonia:CAP)、院内肺炎(hospital acquired pneumonia:HAP)、医療・介護関連肺炎(NHCAP:nursing and healthcare-associated pneumonia)の3冊があり、全てを読むのも大変ですので、今回はガイドラインに共通している、基本的な考え方をかみ砕いてご紹介します。


* 難病と在宅ケア(7月号)に改変の上掲載予定

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posted by 長尾大志 at 13:21 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2012年11月24日

肺炎にシプロキサン…

最近あった衝撃の出来事。


結構名の通った施設で、肺炎、胸膜炎にシプロキサンを使用、良くならないから、とメロペンに変更され、なお胸水貯留が良くならない、という症例を見かけました。


それがどう見ても、嫌気性感染っぽかったわけですよ。比較的穏やかな発症で、口腔内清掃状態も良くない。


「シプロキサンは肺炎に万能」とMRさんに吹き込まれたのでしょうか。確かにほぼ万能と言えなくもありませんが…残念。


肺炎ガイドラインをお読みいただいた方は、私の受けた衝撃がおわかりいただけると思います。滋賀の医療がこんなレベルではダメだ。大学がもっともっと頑張らなければならない、そういう思いを新たにしました。

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posted by 長尾大志 at 21:51 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2012年11月20日

肺炎と抗菌薬〜ガイドラインの実践にあたって

肺炎の記事に対して、とある病院で働いておられる研修医の先生からご質問を頂きました。


(引用ここから)
いつも無償で知識を与えていただいてありがとうございます。
今回の件に関連して質問です。

画像ではっきり肺炎像を呈しているが上気道症状に乏しい高齢者の肺炎を時折拝見します。
喀痰がとれない場合治療方針が曖昧になる気がするのです。

エンピリックにずっといっていいのか
効果判定の指標はどうするのか
治療期間はどうすればいいのか
喀痰誘発などは行うべきか

など僕にとっては問題が山積みなのですが
コメントいただけたら幸いです。
(引用ここまで)



ガイドラインの解説で強調していたことは、「良質な喀痰があれば、より精度の高い抗菌薬治療が可能になる」ということです。高齢者は典型的症状に乏しく、痰の喀出もままならないことが多いため、理想通りには参りません。そういうときのためのエンピリック治療でもあるのです。


すなわち、「状況証拠からできる限り原因菌を推測し、妥当と思われる抗菌薬を使用する」手順であります。



■エンピリックにずっといっていいのか

エンピリックに治療を開始して、良質な喀痰が得られない場合には、治療継続するかどうかは効果判定によって決めます。治療効果があるようなら、そのまま継続し、できる限り短期間で治療を切り上げます。


この場合、de-escalationは難しいでしょう。従って、当初の治療は(状態によりますが)できる限り狭域でありたいものです。



■効果判定の指標はどうするのか

効果判定も難しいことがありますが、最初におかしかった症状(呼吸数、SpO2 、意識レベル、ラ音、食欲など)や炎症マーカーの改善で判定することが多いでしょうか。


陰影だけあって、上記のような症状は全くなかった、ということであれば、逆に肺炎の診断が正しかったのか、再検討が必要かもしれません。



■治療期間はどうすればいいのか

もちろんケースバイケースですが、合併症がなければ型どおりに終わっていることが多いと思います。まあ、大学の症例では合併症があることがほとんどなので、型どおりに終わることは少なかったりしますが…。



■喀痰誘発などは行うべきか

基本姿勢として、喀痰誘発を試みては頂きたいと思います。生理食塩水、あるいは高張(3%)食塩水を吸入して頂く、喀出困難なら吸引痰で、とにかく判断材料を増やすことがより高級な診療の元となるのです。


また、これも施設によって温度差が大きいものですが、血液培養は入院患者さんなら必ず採っておきたいもの。


なにより検出した菌の存在意義が半端ないですし、菌血症の有無もわかります。「経静脈的に抗菌薬を使用する時には必須」としている施設もある一方、全然なところもあるようですが…。



以上、一般論ではありますが、お答えとさせていただきます。おそらく実際の事例に沿って具体的に説明した方がわかりやすいような気がするので、また具体的にわかりにくいポイントを尋ねてみてください。いつでもご質問は歓迎いたします。


それではI先生、今後も頑張ってください!


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2012年11月19日

肺炎と抗菌薬〜3つのガイドラインの根底に流れる「共通の考え方」44〜肺炎治療の流れ15・医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドラインの考え方

市中肺炎、院内肺炎と来まして、最後は医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドラインでありますけれども、実のところこちらは、以前にきっちりとまとめております。書き直しも考えましたが、ちょっと肺炎はお腹いっぱい感もあり、ここらで一服、ということで、以前に書いた記事にリンクいたしましょう(手抜きとも言う)。


医療・介護関連肺炎(NHCAP)の定義
http://tnagao.sblo.jp/article/53020744.html


医療・介護関連肺炎ガイドラインの基本理念
http://tnagao.sblo.jp/article/53038077.html


治療区分
http://tnagao.sblo.jp/article/53050203.html


群別治療法・A群
http://tnagao.sblo.jp/article/53075084.html


群別治療法・B群
http://tnagao.sblo.jp/article/53122631.html


群別治療法・C群
http://tnagao.sblo.jp/article/53145208.html


群別治療法・D群
http://tnagao.sblo.jp/article/53154370.html



抗菌薬選択については、うまくまとめてありますから、折角ですので再掲しておきます。


  • 非定型をカバーするものは、マクロライドとキノロン。
    キノロンは、細菌も広くカバーするため、ある程度は単剤で使える。

  • 嫌気性菌をカバーするものは、ペニシリン、ペネム、ダラシン。誤嚥がありそうなら、使用または併用。

  • A群、B群では緑膿菌を考慮しない、というか、むしろ緑膿菌に対して効果のないものを選択するべき。

  • C群、D群では抗緑膿菌作用を重視するが、副作用の少ないものが望ましい。
    MRSAは出たことがあれば、カバーする。



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2012年11月16日

肺炎と抗菌薬〜3つのガイドラインの根底に流れる「共通の考え方」43〜肺炎治療の流れ14・院内肺炎に対する治療に反応しない場合の対応3

正しく効果判定をしているにもかかわらず、抗菌薬治療に反応していない、また、感染症以外の状況が除外できている、すなわち、感染症であるにもかかわらず抗菌薬治療に反応していない場合、いくつかの要因が考えられます。


院内肺炎ガイドラインでは親切なことに、それについても取り上げられています。
一つずつみてみましょう。


■病原微生物側の要因

スペクトラムは正しくても病変が膿瘍や膿胸を形成している場合、その場所には血管があまり存在せず、薬剤が移行しにくい点や局所で薬剤不活化酵素が産生される、ということがいわれており、思ったような治療効果が得られないことがあります。


また、菌血症があると、肺以外の臓器にも感染が散布されることがありますが、抗菌薬移行のよくない部位に感染症が生じると治療効果が得られにくくなります。たとえば、肝膿瘍、感染性心内膜炎、骨髄炎やカテーテル感染などです。肺の炎症以外にそういった合併症がないかどうかは確認が必要です。



スペクトラムは当たっている菌であるにもかかわらず、耐性度が強いために抗菌薬の効果が得られない場合もあります。
代表は耐性緑膿菌ですが、最近ではESBL産生菌やアシネトバクターなども問題になることがあります。


これらの場合、やはり感受性パターンを参考にして抗菌薬を選択していきますので、そもそも菌を検出しないことには話が始まりません。従って、菌を検出する努力は必須といえるでしょう。



それから、いわゆる一般抗菌薬がそもそも効かない病原微生物もいます。


代表は抗酸菌、ウイルス、真菌、ニューモシスチスなど。ウイルス感染は今もって診断、確認が困難ですが、その他の病態では(努力次第で?)診断が可能であります。



■宿主側の要因

合併症がある場合、そちらも治療しなければ肺炎も改善しません。


たとえば糖尿病、低栄養、白血球減少などは免疫力が低下する病態であり、そちらを解決しないことには肺炎の改善も望めないわけです。


臥床状態や繰り返す誤嚥、カテーテル留置など、物理的に菌が入って来やすい状態、定着しやすい場所があるとこれも難治の原因となるため、対策が必要です(しばしば困難ですが)。



■薬剤の要因


施設によってはしばしばみられる状態として、たとえば、抗菌薬の投与量が足りない、というのがありがちです。
メ○ペン 0.5g×2回/日 みたいな使い方では、効くものも効きません。


PK/PDも考慮して(保険適応上の)最大量を、最大限生かして投与するために、PK/PDブレイクポイントがガイドラインに掲載されています。これで最大殺菌作用を得るMICになる投与量と投与回数を選択できます。


あとは組織移行性の問題、それと併用薬との相互作用によって血中濃度が低下する、そのあたりのことが言われています。


そんなん、基本じゃないか…と思うのですが、治療がうまくいかないときは、今一度、基本に立ち返ることが重要、ということでしょう。


さて、院内肺炎もこのぐらいにしておきましょう。ということは…。


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posted by 長尾大志 at 18:36 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2012年11月15日

肺炎と抗菌薬〜3つのガイドラインの根底に流れる「共通の考え方」42〜肺炎治療の流れ13・院内肺炎に対する治療に反応しない場合の対応2

各種指標を正確に見ても改善していない、悪化している、こういう場合、「そもそも診断が正しかったのか」「感染症であったのか」を問い直す必要があります。


まあ、最初から鑑別しとけって話ですが、治療中に合併症として新しい陰影が生じてくることもありますので…。



感染症以外の疾患による場合、以下のようなものが鑑別に挙がります。


  • 薬剤性肺炎
    使用した抗菌薬によるものもあり得ます。

  • 器質化肺炎

  • 好酸球性肺炎

  • 放射線肺炎

  • その他の間質性肺炎およびその増悪
    ここまで、広い意味での間質性肺炎に含まれます。

  • 悪性腫瘍
    肺炎だと思っていたら肺癌だった、ということはしばしば経験されます。

  • うっ血性心不全
    肺炎との合併も多く、それにより治癒も遅くなったりしますので、心不全の有無を確認しておくことは重要です。

  • ALI/ARDS

  • 肺梗塞

  • 肺胞出血

  • 気管・気管支内異物

  • 無気肺


など。


上に挙げた一つ一つについて、もちろん鑑別のポイントはありますが、それはまた別の機会に。


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posted by 長尾大志 at 19:08 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2012年11月14日

肺炎と抗菌薬〜3つのガイドラインの根底に流れる「共通の考え方」41〜肺炎治療の流れ12・院内肺炎に対する治療に反応しない場合の対応1・その肺炎は本当に良くなっていないのか

いやあ長々と続いてきた肺炎シリーズですが、ようやく終わりが見えてきましたね。もう一踏ん張り、お付き合いください。


肺炎診療において、臨床医(特に非専門の先生方)にとって大事なところ、実のところそれは抗菌薬の使い方よりも、「治療に反応しないケースでどう考えるか」ということではないでしょうか。



院内肺炎のガイドラインでは親切にも、「治療に反応しない患者への対応」と独立した項目で取り扱われています。


肺炎だ、広域抗菌薬だ、あれれ、良くならない…。という流れをあちこちの施設で眼にします。常に、診断と鑑別を正しく行う癖がついていれば、そのようなことにはならないはずが…残念。



まず、「本当に良くなっていない」のか、「実は良くなっているのに主治医がそう解釈できていない」のか、ここの間違い、結構多いです。



肺炎。胸部レントゲンに陰影、CRP6、広域抗菌薬投与、2日後に陰影増強、CRP12。



これを見て、「抗菌薬換えなくちゃ」と思った方、ちょっとヤバイですよ…。


肺炎治療の効果判定に、レントゲンを使うべからずでも書きましたが、胸部X線写真の改善は炎症が沈静化するより遅れます。高齢であったり、合併症があるとなおさら。


また、CRPも急性期に上がりきらなかったり、患者さんの状態によって当初低値であったりして、当てにならないことも多いわけです。


肺炎の効果判定は、患者さんのところに行ってわかる、以下の項目を使いましょう。


  • 全身症状・症候:発熱、心拍数、脱水や経口摂取可能かどうか

  • 臓器特異的な症状・症候:痰の量、性状、胸部ラ音、SpO2、呼吸回数、チアノーゼなど



これらに「改善」が見られたら、その治療は「効果あり」です。自信を持って続行、(あるいはde-escalation)しましょう。


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posted by 長尾大志 at 19:21 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2012年11月13日

肺炎と抗菌薬〜3つのガイドラインの根底に流れる「共通の考え方」40〜肺炎治療の流れ11・院内肺炎に対するエンピリック治療の基本的考え方・重症群に対する治療経過とde-escalation

院内肺炎ガイドラインでは、重症群に関しても、治療の経過で修正すべきポイントを明示してくださっています。


しかしそこは重症院内肺炎相手ですから、思い切った狭域化のde-escalationは紹介されていません。緑膿菌は少なくとも一剤がカバーし続けるようになっています。


しかし、抗菌薬投与前の良質な喀痰培養で緑膿菌が検出されない、こうなりますと、緑膿菌による感染症の可能性は低くなります。


少なくとも「多剤耐性緑膿菌を考慮して2系統で緑膿菌を叩く」必要はなさそうかと。


従って、ガイドラインでは、抗菌薬投与前の良質な喀痰培養で緑膿菌が検出されない場合は、(副作用の多い)アミノグリコシドを中止する、とされています。


実臨床では、抗菌薬開始後の経過が順調で、喀痰から有意な菌が得られた場合、それに従って抗菌薬を変更する、ということはあっても良いでしょう。



また、キノロンの位置づけとしては、特に重症肺炎の場合、レジオネラ対策の意味合いが強いものです(CPFX300mg×2では1回投与量が少なく、緑膿菌には届かなかったりする)。ですから、臨床的にレジオネラを疑うような状況がなければ、キノロン薬を中止して良い、となっています。


レジオネラを疑う状況

  • レジオネラ尿中抗原陽性

  • 進行する重症肺炎

  • 多肺葉性陰影

  • 胸水

  • 間質性陰影の混在

  • (病院、病棟内での)集団発生



今ではクラビット全盛ですから、ガイドラインが改定される頃には、少し意味合いは違ってきているかもしれません。


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posted by 長尾大志 at 18:26 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2012年11月12日

肺炎と抗菌薬〜3つのガイドラインの根底に流れる「共通の考え方」39〜肺炎治療の流れ10・院内肺炎に対するエンピリック治療の基本的考え方・重症群に対する治療

院内肺炎の重症になりますと、もう待ったなしです。当初から耐性緑膿菌、さらにレジオネラを含む非定型病原体をカバーした選択になります。




■重症群(C群)に対する治療

中等症群(B群)の抗菌薬に、以下を併用します。

  • アミカシン(AMK:アミカシン、ビクリン)
    または

  • ゲンタマイシン(GM:ゲンタシン)

  • トブラマイシン(TOB:トブラシン)

  • イセパマイシン(ISP:イセパシン、エクサシン)

  • アルベカシン(ABK:ハベカシン)


のアミノグリコシド系、あるいはB群でキノロン系を用いていない場合、

  • シプロフロキサシン(CPFX:シプロキサン)
    または

  • パズフロキサシン(PZFX:パシル、パズクロス)

  • 当時なかったレボフロキサシン(LVFX:クラビット)もOK。




耐性緑膿菌対策のため、B群で選択したβラクタム系に、キノロン系、あるいはアミノグリコシド系を加えます。相乗効果も報告されていますし、耐性菌をカバーできる可能性は増すでしょう。


ガイドラインではここでアミノグリコシド系の使い方について、当時(今も?)あまり使われていなかったことを反映して結構説明がなされています。基本的な考え方としてPK/PDを考えると、1日1回投与、TDMを見ながら投与量を決める、ということが原則になると思います。


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posted by 長尾大志 at 17:20 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2012年11月07日

肺炎と抗菌薬〜3つのガイドラインの根底に流れる「共通の考え方」38〜肺炎治療の流れ9・院内肺炎に対するエンピリック治療の基本的考え方・中等症群に対する治療経過とde-escalation

院内肺炎ガイドラインでは、中等症群に関しても治療の経過で修正すべきポイントを明示してくださっています。


2〜3日後に体温、分泌物の状態、酸素化という症状、診察で見た感じで、そして喀痰培養の結果を見て、治療効果を判断し、軌道修正を行います。


院内肺炎中等症群の治療においては、通常緑膿菌をカバーする抗菌薬を選択するわけですが、良質な喀痰培養で緑膿菌が検出されるかどうか、これも治療があっているかどうかを判断する材料になります。


軽症群との違いは、「中等症群ではエンピリックに緑膿菌をカバー」というところになります。今の考えでは、緑膿菌をカバーする抗菌薬はなるべく温存、ということになっていますから、緑膿菌がいなさそうなら、緑膿菌をカバーしない抗菌薬に変更しましょう、ということになります。これが、de-escalationの考え方です。


誤解を恐れずに、かつシンプルに、症状が軽快しているかいないか、良質な痰から緑膿菌(をはじめとする耐性菌)が検出されたかどうかでどのように判定をするか、分類して考えてみましょう。



  • 症状軽快・緑膿菌検出せず:順調です。緑膿菌が原因菌ではないと考えられますので、緑膿菌をカバーから外す、de-escalationを行いましょう。具体的には、 A群(軽症群)に使用する抗菌薬への切り替えと書かれてあります。

  • 症状軽快・緑膿菌検出:緑膿菌が検出され、それに対して使用している抗菌薬が効果あり、という状況ですから、やっている治療をこのまま維持しましょう。

  • 症状悪化・緑膿菌検出せず:軽症群のときにも書きましたが、ここに入ると、ちょっと一口には語れません。診断の見直しも必要かも。ただ、 MRSAの関与が疑われ、MRSA貪食像が見られて、臨床像もあいそうな場合には抗MRSA薬をドカンといけ、となっています。

  • 症状悪化・緑膿菌検出:今の治療ではアカン、効いてないということですから、菌の感受性を見て、それに基づいた治療に変更します。



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posted by 長尾大志 at 18:27 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2012年11月06日

肺炎と抗菌薬〜3つのガイドラインの根底に流れる「共通の考え方」37〜肺炎治療の流れ8・院内肺炎に対するエンピリック治療の基本的考え方3・中等症群に対する治療

院内肺炎の中等症になりますと、当初から緑膿菌をカバーした選択になります。ただ、重症群(待ったなし)と違って耐性緑膿菌を最初から想定しておらず、基本単剤でのカバーとなります。




■中等症群(B群)に対する治療
グループ1.単剤投与

  • タゾバクタム・ピペラシリン(TAZ/PIPC:ゾシン)

  • イミペネム・シラスタチン(IPM/CS:チエナム)

  • メロペネム(MEPM:メロペン)


IPM/CS、MEPMの代替薬として、ドリペネム(DRPM:フィニバックス)、ビアペネム(BIPM:オメガシン)があります。


グループ1はTAZ/PIPC、あるいはペネム系という、MRSA以外にはほぼ万能といえるスペクトラムを持つ抗菌薬がチョイスされています。まあこれは特に申し上げることもないでしょう。



グループ2.条件*により併用投与
*条件:誤嚥か嫌気性菌の関与が疑われる場合

  • セフェピム(CFPM:マキシピーム)±

  • クリンダマイシン(CLDM:ダラシン)



誤嚥がなく、嫌気性菌をカバーする必要がなければ、CFPM単独でよいのですが、嫌気性菌には少し弱いため、必要時にはCLDMを追加する、というものです。


なお、第4世代セフェムであるセフピロム(CPR:ケイテン、ブロアクト)、セフォゾプラン(CZOP:ファーストシン)がCFPMの代替薬として挙がっています。



グループ3.原則併用投与

  • セフタジジム(CAZ:モダシン)+CLDM

  • シプロフロキサシン(CPFX:シプロキサン)+スルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC:ユナシンS)



何でも単剤では能がない、ということで、お互いの長所と短所を組み合わせた併用のご紹介です。


CAZはグラム陰性桿菌・緑膿菌に有効なのですが、グラム陽性菌・嫌気性菌に弱いので、そこをカバーするCLDMを組み合わせるとうまく広くカバーできるんですね。


CAZの代替薬として、似たスペクトラムの(玄人好み)アズトレオナム(AZT:アザクタム)、スルバクタム・セフォペラゾン(SBT/CPZ)が挙げられます。特にSBT/CPZは、CLDMと共に肝代謝される薬剤であり、腎機能障害時に使いやすいものです。



後者の組み合わせも渋いです。CPFXというキノロンをSBT/ABPCというペニシリンに組み合わせ、キノロンに緑膿菌と非定型病原体をカバーさせ、キノロンの弱いグラム陽性球菌と嫌気性菌にSBT/ABPCを当てているわけです。


当然、CPFXのところには当時なかったレボフロキサシン(LVFX:クラビット)が入ってもよく、パズフロキサシン(PZFX:パシル、パズクロス)も使えます。


また、先ほどと同じことで、SBT/ABPCの代わりにCLDMも使えます。


最後に、MRSAの関与が疑われる場合には初期治療から抗MRSA薬を使用する方が予後の改善につながるのではないか、というあたりのことは軽症群の治療のところでも書いたとおりです。


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posted by 長尾大志 at 18:14 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説