2024年11月06日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈77〉広域ペニシリン+ βラクタマーゼ阻害薬

広域ペニシリンの弱点であった「βラクタマーゼに分解される」性質を補うべく、βラクタマーゼ阻害薬を配合して作られた抗菌薬です。肺炎治療においてかなり広く使われていると思いますが、その理由もきちんと理解して使っていただきたいところです。

緑膿菌に効かない広域ペニシリン+βラクタマーゼ阻害薬
•スルバクタム+アンピシリン(SBT/ABPC:ユナシンSⓇ、スルバシリンⓇ|注射薬)
•クラブラン酸+アモキシシリン(CVA/AMPC:オーグメンチンⓇ(成人用)、クラバモックスⓇ(小児用)|経口薬)

ペニシリンにβラクタマーゼ阻害薬を配合することによって、βラクタマーゼを産生するブドウ球菌や多くのグラム陰性桿菌、はたまた嫌気性菌にまで、一気にスペクトラムが拡大しました。
こうなると、市中肺炎の原因菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌〔MSSA〕、モラクセラ、クレブシエラ、ミレリグループ、嫌気性菌)のほとんどにOK、となりますよね。万能万能。肺炎にはSBT/ABPCだけ使っときゃいいじゃん……。

本当ですか??

こいつはどうですか?Beta-Lactamase Negative Ampicillin Resistant:BLNAR。βラクタマーゼに頼らずにアンピシリン耐性を獲得してしまったインフルエンザ菌には、効かないんじゃ…?ハイ、その通り。耐性パターンとしてBLNARの多い地域での、インフルエンザを思わせる市中肺炎に対して、SBT/ABPCでの治療は失敗する可能性があります。

慢性呼吸器疾患があり、線毛機能が低下していると、インフルエンザ菌が定着しやすい素地になり、肺炎の原因となる可能性が高まります。その場合、SBT/ABPCが効かない可能性がある、ということです。

緑膿菌に効く広域ペニシリン+βラクタマーゼ阻害薬
•タゾバクタム+ピペラシリン(TAZ/PIPC:ゾシンⓇ、タゾピぺⓇ)

こちらは、緑膿菌に対するスペクトラムを獲得した超広域のペニシリンに、さらにβラクタマーゼ阻害薬を加えた、最広域のペニシリンであります。当然、BLNARだって問題なし。緑膿菌に効く、ということは、これまでにさんざん書いてきたとおり、緑膿菌以外の感染症には使わない方がいい、ということであります。一般的な細菌に対してほぼ万能、カルバペネム的なスペクトラムを持っているため、原因菌がよくわからないとき、何も考えずに治療するとき、に使われがちなのです。心あるドクター諸兄におかれましては、ゆめゆめそのようなことのないようにお願いしたいと思います。

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2024年11月05日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈76〉広域ペニシリン

PCGの構造を変更して、グラム陰性桿菌にも効くようにしたものです。緑膿菌に効くやつと効かないやつ、大きく分けて2種類あります。

緑膿菌に効かない広域ペニシリン(狭域、あるいは準広域、といってもいいかも……?)
•アンピシリン(ABPC:ビクシリンⓇ|注射薬)
•アモキシシリン(AMPC:サワシリンⓇ|経口薬)

グラム陽性球菌(連鎖球菌、肺炎球菌)に加えて、グラム陰性桿菌のインフルエンザ菌に対するスペクトラムを獲得しました。てことは、多くの市中肺炎にはこれでOK?スペクトラム的にはそうですね。問題は耐性菌です。

肺炎球菌の耐性菌であるPRSPやPISPに対しては、よほどのこと(MIC≧4とか)がなければ、ペニシリンの増量で対応できます。ですので、市中肺炎の軽症例では、「ペニシリン経口、大量投与」が推奨されています。

インフルエンザ菌の耐性株はどうか。BLNAR(β-lactamase negative ampicillin resistant)は、名前に「アンピシリン耐性」と入っているぐらいですから、効きません。BLNAS(β-lactamase negative ampicillin sensitive)だったら問題なし。

また、βラクタマーゼを産生する菌には無効です。黄色ブドウ球菌、大腸菌やクレブシエラは産生するのでダメ。インフルエンザ菌だとBLPAR(β-lactamase positive ampicillin resistant)はダメ、ということです。これらに対しては、βラクタマーゼ阻害薬の助けが必要になります。

緑膿菌に効く広域ペニシリン
•ピペラシリン(PIPC:ペントシリンⓇ)

こちらは、上の広域ペニシリンでも果たせなかった、緑膿菌に対するスペクトラムを獲得した、超広域のペニシリンであります。当然、グラム陰性桿菌であるインフルエンザ菌にも強い強い。

緑膿菌に効く、ということは、裏を返せば緑膿菌以外の感染症には使わない方がいい、ということであります。また、βラクタマーゼで分解されるので、βラクタマーゼを産生する菌にはやはり効き目がありません。ということで、βラクタマーゼ産生菌が増えている昨今では使いにくくなっています。

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2024年10月29日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈75〉ペニシリン系抗菌薬の歴史

ペニシリンはご存じの通り、最初に発見された最も歴史の古い抗菌薬です。最初のそれがペニシリンG(PCG)。これができた頃は、第二次世界大戦があり、多くの戦傷者を救ったといわれています。PCGはグラム陽性球菌、なかでも連鎖球菌などによく効きますので、外傷からの感染症にも効果があったのでしょう。
で、当初ペニシリンはガンガン使われたわけですが、そのうちに問題が出てきます。要するに効かないケースが出てきたのです。もともとグラム陰性桿菌には効きませんし、ペニシリンを分解する酵素ペニシリナーゼを産生する菌にもあまり効きません。表皮にたくさんいる黄色ブドウ球菌もペニシリナーゼを産生する性質を持つようになり、耐性化してきたのです。
普及しだしてからわずか数年以内に、「抗菌薬をたくさん使って耐性獲得される」という、抗菌薬の宿命ともいえる事態を招いていたわけです。そこで人類は、ペニシリンの「改良」に着手します。

構造を変更してペニシリナーゼに分解されにくくする
これの代表がメチシリン。何となく聞き覚えがありますね?そう、メチシリンは、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の名前の由来になった薬です。
そもそも黄色ブドウ球菌用として作られたメチシリンですが、メチシリンを使い出してほどなく、メチシリンに耐性を持つように菌の標的部位構造が変化しました。これがMRSAなんですが、たまたまその構造変化の部位が特徴的なために、ほとんどの抗菌薬が効かない菌になってしまったのです。たまたまとはいえ、メチシリンはMRSAを生み出した汚名を着せられ、また副作用の問題もあり、わが国では表舞台から姿を消しています。

構造を変更して、グラム陰性桿菌にも効くようにする
いわゆる広域ペニシリンという範疇に入るペニシリンです。この中にも、緑膿菌に効くやつと効かないやつ、大きく分けて2種類あります。ペニシリナーゼ(βラクタマーゼ)で分解されるので、ペニシリナーゼを産生する菌にはやはり効き目がありません。

ペニシリナーゼ(βラクタマーゼ)阻害薬を混ぜる
上記の広域ペニシリンにペニシリナーゼ(βラクタマーゼ)阻害薬を混ぜたものです。そのためにペニシリナーゼ産生菌に対するスペクトラムが広がりました。
元の広域ペニシリンに、上記のごとく緑膿菌に効くやつと効かないやつがあるため、こちらも同様に、緑膿菌に効くやつと効かないやつがあります。

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2024年10月22日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈75〉抗菌薬の種類と特徴・序論

初学者にとって抗菌薬の名前や分類、スペクトラムを覚えていくのは結構大変です。ここではcommon diseaseである肺炎を例にとって、一系統ずつ紹介して参ります。

●ペニシリン系の分類は、おおざっぱに言うと、緑膿菌に効くか効かないか、βラクタマーゼ阻害薬が配合されているかいないかで4系統ある。
●セフェム系は第1世代から第4世代まで、4つの世代がある。ヒトと細菌の戦いの歴史とともに世代を理解したい。
●マクロライド系は「非定型」な感染症に使う。
●重症感染症ではカルバペネム系を出し惜しみすべきではない。
●キノロン系が必要な場面はそうそうない(レジオネラ肺炎ぐらい)上に結核に中途半端に効いてしまって診断の遅れにつながるので、肺炎に対してはできるだけ出し惜しみすべきである。


グラム陽性菌とグラム陰性菌
抗菌薬の攻撃対象を考えるのに、市中肺炎の原因微生物を大きくグラム陽性球菌とグラム陰性桿菌に分けてみましょう。肺炎球菌とミレリグループ、黄色ブドウ球菌、口腔内の嫌気性菌はグラム陽性球菌。モラクセラはグラム陰性球菌。インフルエンザ菌、クレブシエラ、主な腸内細菌、緑膿菌はグラム陰性桿菌ですね。

ごくごく大雑把にいうと、グラム陽性球菌は陽キャで、目立っていて、派手な症状(発熱や悪寒戦慄など)を引き起こす一方、グラム陰性桿菌は普段地味で目立たず、症状も地味、という印象になります。陽性球菌の方が狭域抗菌薬で効果があることが多いので、抗菌薬を投与するとまず陽性球菌がバタバタやられて、その後生き残った陰性桿菌が蔓延ってくる……みたいなイメージでしょうか。

このように大きくグラム陽性球菌群とグラム陰性菌群に分ける以外に、βラクタム系抗菌薬を分解するβラクタマーゼ産生菌(グラム陽性球菌でも陰性桿菌でもあります)は別扱いです。また、市中肺炎の原因菌として頻度が高いのと、少々やっかいな耐性菌のBLNARが増えている、ということでインフルエンザ菌も別扱いとします。

緑膿菌はもちろん特別扱い。MRSAも然りですね。

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2024年10月21日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈74〉MIC (最小発育阻止濃度)とは

現在の感染症を考える上で、耐性の問題を避けて通るわけにはいきません。抗菌薬を使うと、一定の割合で、それに対する耐性菌が生き残ります。したがって、現在使われている抗菌薬には、何らかの形で耐性菌が存在する、と考えておく必要があります。耐性獲得のメカニズムは、ある抗菌薬を使い続けると、感受性のある菌はバタバタ死んでいくものの、耐性を獲得した菌は生き残り、やがて耐性菌ばかりになる、という機序です。

耐性の問題を考える上で、知っておくべき用語として「MIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)」つまり、「細菌の発育を阻止できる最小の濃度」というものがあります。培地に菌を植えると、生えてくるんですが、その培地に、その菌に対して有効な抗菌薬を充分量染みこませておくと、菌は生えません。

そこで、ある菌に対して、いろいろな濃度の抗菌薬を染みこませた培地を作ります。どのくらいの濃度で菌が生えるかを見ることで、菌の発育を阻止する最小の濃度 =MICを知るわけです。

たとえば、抗菌薬の濃度が1μg/mLでは生え、2μg/mLでは生えない、という場合、最小発育阻止濃度すなわちMICは2μg/mLである、ということになります。

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2024年10月17日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈73〉人工呼吸器関連肺炎A

VAPは挿管患者全体の5〜40%に発生するとされていて、次のような発症機序が考えられています。

•胃の内容物が逆流
•口腔内や気管チューブに病原微生物が定着(コロニゼーション)
•誤嚥したものが気管チューブのカフの外側を通って気管内に入る
•咳反射や線毛上皮機能の低下

VAPの診断はしばしば困難です。そもそも人工呼吸をする要因となった原疾患や肺病変、あるいは無気肺や胸水など、人工呼吸中に併発しやすい病変との鑑別が困難だからです。

挿管下であり、下気道の直接吸引や気管支洗浄などによる生物学的アプローチは比較的容易ですから、これは欠かせません。血液培養や胸水など、アプローチできるところからの培養も積極的に行います。

VAPも院内肺炎の1つですから、検出菌としては緑膿菌が最も多いとする研究が多いです。MRSAが検出されることも多いですが、例によって定着との鑑別が重要になります。抗菌薬選択の原則自体は、普通の?院内肺炎と同様です。

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2024年10月16日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈72〉人工呼吸器関連肺炎

人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia:VAP)とは、気管挿管下人工呼吸を開始して48時間以降に新たに発生する院内肺炎を指します。人工呼吸をしているということですから、入院中(院内肺炎)であることは当たり前ですね。

リスク因子として、次のようなことが挙げられます。
•長期間の人工呼吸管理
•再挿管
•発症前の抗菌薬投与
•原疾患(熱傷、外傷、中枢神経疾患、呼吸器疾患、心疾患)
•顕性/不顕性誤嚥
•筋弛緩薬の使用
•低い気管チューブカフ内圧
•移送
•仰臥位
•制酸薬

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2024年10月09日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈71〉院内肺炎/医療・介護関連肺炎エンピリック治療の治療期間

医療・介護関連肺炎においては治療期間を検討したエビデンスがありません(日本独自の概念であるため、むべなるかな)。院内肺炎においては、抗菌薬の投与期間が7〜8日以内の短期間治療群と、10〜15日の長期間治療群を比較したRCTのメタアナリシスによると、生命予後、初期治療効果、入院期間に関しては有意差がなかったということです。一点、ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌でのみ、再燃の頻度が短期抗菌薬治療群で有意に高い結果となりました。

ですので、基本的には院内肺炎や医療・介護関連肺炎であっても、市中肺炎とそれほど治療期間は変わらず、抗菌薬の投与期間としては1週間以内の比較的短期間が弱く推奨されています。AMR問題もありますので、出来れば短めの投与でいきたいところです。

ただし、黄色ブドウ球菌、クレブシエラ属、嫌気性菌などによって膿瘍性病変が形成されている場合は、抗菌薬の移行が悪いため、2週間以上の長期投与が必要だと考えられています。

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2024年10月08日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈70〉院内肺炎/医療・介護関連肺炎エンピリック治療の臨床評価法

院内肺炎/医療・介護関連肺炎における治療効果の判定・評価法としては、特別なものは示されておらず、市中肺炎の場合と同様に評価しているのが実際のところかと思われます。ガイドラインに明記されているのは、「抗菌薬の有効性は48〜72時間後に臨床症状、血液データ、画像所見などから総合的に判定する」、ということですが、まあ画一化するのは難しいということでしょうか。

もちろん、経過中に良質な喀痰が採れた場合には、判断材料がさらに増えます。たとえば、喀痰のグラム染色で当初認められていた白血球や菌が治療経過で見られなくなったら、治療の効果ありと考えていいでしょう。最初だけでなく、経過で痰を見ることも大事ですね。

また、喀痰培養には数日かかりますので、大体効果判定の時期に結果が得られます。その結果を治療にフィードバックしていくわけです。

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posted by 長尾大志 at 19:13 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年10月02日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈69〉院内肺炎のエンピリック治療C広域抗菌薬多剤治療

敗血症性ショックがある、または呼吸状態が悪化して人工呼吸器管理が必要となる群に対しては、もやは初期治療を失敗するわけにはいかず、一気に勝負をつけなくてはなりません。各施設のアンチバイオグラムも参考にして、広域抗菌薬を単剤、もしくは併用して治療を行います。

•タゾバクタム・ピペラシリン
•タゾバクタム・セフトロザン
•カルバペネム系薬
•第4世代セフェム系薬
      +
下記の1剤
•シプロフロキサシン、パズフロキサシン、レボフロキサシン
•アミノグリコシド系薬(アミカシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン)

MRSA肺炎が想定されるときには抗MRSA薬(リネゾリド、バンコマイシン、テイコプラニン)追加も考慮します。

個人的には、より緑膿菌の存在を疑う場面(これまでに痰で検出、広域抗菌薬使用歴など)ではアミノグリコシド系、レジオネラを疑うような高齢者施設での集団感染とか温泉や浴場などで発生した場合にはニューキノロン系薬を優先的に選択するかなあ、という感じです。

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posted by 長尾大志 at 18:24 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年09月30日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈68〉院内肺炎のエンピリック治療B広域抗菌薬単剤治療

重症以上(I-ROADで2項目以下かつ肺炎重症度規定因子が該当する)、もしくは敗血症性ショックの場合、または耐性菌リスク因子が2項目以上の場合、そういう群には初期治療から耐性菌(緑膿菌、MRSA、ESBL産生腸内細菌など)をある程度カバーする必要があり、広域抗菌薬(単剤)治療を選択します。

すなわち、下記のいずれかの単剤でde-escalation単剤治療を開始します。
•タゾバクタム・ピペラシリン
•タゾバクタム・セフトロザン
•カルバペネム系薬
•第4世代セフェム系薬
•レボフロキサシン

MRSA肺炎が想定されるときには抗MRSA薬(リネゾリド、バンコマイシン、テイコプラニン)追加も考慮します。

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2024年09月29日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈67〉院内肺炎のエンピリック治療A

敗血症がなくて、I-ROADで2項目以下かつ肺炎重症度規定因子に該当しない例は軽症群と考えられ、さらに耐性菌リスク因子が1項目以下でしたら、まず狭域スペクトラムの抗菌薬を投与し、無効な場合広域に変更するescalation治療が推奨されます。

主な標的は市中肺炎と似ていて、肺炎球菌、インフルエンザ菌、口腔内の連鎖球菌、グラム陰性腸内細菌科最近、モラクセラ・カタラーリスなどです。

これらの菌に対するエンピリック治療として、下記の注射薬が推奨されています。
•ペニシリン系薬:スルバクタム・アンピシリン
•第三世代セフェム系:セフトリアキソン、またはセフォタキシム

また、ガイドラインには、βラクタム系薬へのアレルギー歴を有する場合、として下記がキノロン系で唯一推奨されていますが、その理由は明記されていません。

•ラスクフロキサシン

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posted by 長尾大志 at 17:44 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年09月28日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈66〉院内肺炎のエンピリック治療@

こちらも重症度、そして耐性菌リスクによって抗菌薬を選択します。重症度の評価はI-ROADで行います。

I-ROAD
I:Immunodeficiency(悪性腫瘍、または免疫不全状態)
R:Respiration(呼吸) ‌SpO2>90%を維持するためにFiO2>35%を要する。
O:Orientation(意識障害)
A:Age(年齢)
D:Dehydration(脱水または乏尿)

A-DROPとI-ROADは、ほとんど同じ項目なのに「全く違うものですよ」みたいな顔をしているところが、ちょっと個人的には気に食わないところです。A-DROPは入院させるかどうかを決めるのにも使うわけですが、院内肺炎の場合、入院させるもクソもない(もともと入院している)わけですから、A-DROPを使わなくていいよね、もともとの免疫状態で予後を占いましょうね、と理解しておきましょう。

I-ROADでは、重症度を決める項目がA-DROPと微妙に異なる点が面倒ですが、これは予後予測因子が市中肺炎か院内肺炎かで異なるために、仕方のないところです。

市中肺炎と院内肺炎で共通するところを見てみると、年齢、脱水(乏尿、血圧低下)、意識障害、呼吸状態(酸素化)が肺炎の予後を決める、ということは間違いがなさそうです。救急室ではこれらの項目をササッと評価できるようになっておきたいですね。

院内肺炎ではI-ROADに加えて、肺炎重症度規定因子として下記の項目を使い、重症度判定を行います。
・CRP≧20mg/dL
・胸部X線写真で陰影の広がりが一側肺の2/3以上

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posted by 長尾大志 at 19:16 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年09月27日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈65〉医療・介護関連肺炎のエンピリック治療・入院治療(重症、耐性菌リスク大) 〜広域抗菌薬治療(de-escalation治療)

敗血症がある、またはA-DROPが3項目以上(重症度が高い)、もしくは耐性菌リスク因子が3項目以上の症例が当てはまります。そういう群には初期治療から耐性菌(緑膿菌、ESBL産生腸内細菌、MRSAなど)をある程度カバーする必要があります。

すなわち、下記のいずれかの抗緑膿菌活性のある注射薬で治療を開始します。

C法
•タゾバクタム・ピペラシリン
•第4世代セフェム系薬
 (セフタジジム、セフェピム、セフォゾプラン、セフピロム)
•カルバペネム系薬
 (メロペネム、ドリペネム、ビアペネム、イミペネム・シラスタチン)
•タゾバクタム・セフトロザン

D法
施設のアンチバイオグラムによって、C法に
アミノグリコシド系薬(アミカシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン)または
ニューキノロン系薬(シプロフロキサシン、パズフロキサシン、レボフロキサシン)
を加えることも検討します。

また、重症例、MRSA肺炎が想定されるときにはC法またはD法に
抗MRSA薬(リネゾリド、バンコマイシン、テイコプラニン)
追加も考慮、となっています。ここの判断はしばしば難しいところです。

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posted by 長尾大志 at 07:48 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年09月25日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈64〉医療・介護関連肺炎のエンピリック治療・入院治療(非重症、耐性菌リスク少)狭域抗菌薬治療

外来診療は身体の状態や社会状況から難しい、しかし重症というほどでもない、もしくは耐性菌リスクが少ない症例では、狭域抗菌薬による治療を選択します。

A法
•スルバクタム・アンピシリン
または
•セフトリアキソン、またはセフォタキシム
±マクロライド系薬(クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン)

B法
ラスクフロキサシン
なぜかここではキノロン系として唯一記載がありますが、その理由については明記されていません。何らかの(大人の)事情があるのでしょうか……

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posted by 長尾大志 at 16:25 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年09月24日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈63〉医療・介護関連肺炎のエンピリック治療

院内肺炎/医療・介護関連肺炎でも、喀痰グラム染色の重要性は変わりませんし、むしろ市中肺炎よりも重要かもしれません。

しかし、ADL低下が見られたり、誤嚥があったりする症例ほど、痰の喀出ができない、脱水で痰がない、侵襲的検査が難しいなどの理由で、エンピリック治療の出番が多くなってくる現実があります。しっかりとエンピリック治療の考え方を学びましょう。


軽症〜中等症右向き三角1外来治療

医療・介護関連肺炎の場合、敗血症がなくて、A-DROPが2項目以下(重症度が高くない)の症例が当てはまります。外来治療が可能な場合は、内服薬で細菌性と非定型肺炎の両者をカバーできるような選択をします。ということですが、NHCAPで非定型のカバーが必要かどうかは議論のあるところかもしれません。

•βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(アモキシシリン・クラブラン酸)±マクロライド系薬(クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン)
•レスピラトリーキノロン(ラスクフロキサシン、ガレノキサシン、モキシフロキサシン、シタフロキサシン)単剤

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2024年09月23日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈62〉医療・介護関連肺炎/院内肺炎の用語|de-escalation治療

escalationの逆、すなわち「(段階的)縮小」という意味です。最初に広域抗菌薬から開始して、段階的に狭域抗菌薬に替えていくやり方をいいます。

肺炎で、敗血症があるとか重症度が高いという場合、または耐性菌のリスクが高い場合には、グラム陰性桿菌、緑膿菌あたりまでカバーする広域の薬剤で初期治療を開始します。それで全身状態の改善を確認した上で、培養が判明した後に、可能であればより狭域の薬剤への変更を考慮します。

重症であれば、初期治療の効果がなければそのまま命に関わる恐れがあります。そして耐性菌であれば、最初から広域でないと効かない可能性が高い。そういう状況ではde-escalation治療が選択されます。

医療・介護関連肺炎では、A-DROPで重症以上、または敗血症性ショックで入院治療とし、さらに重症の場合〇ページで示した耐性菌のリスク因子1個以上で広域抗菌薬治療(de-escalation治療)、重症でない場合も耐性菌リスク因子が3個以上であれば広域抗菌薬治療を選択します。

院内肺炎の場合、I-ROADで重症又は敗血症性ショックで広域抗菌薬治療(de-escalation治療)、重症でなくても耐性菌リスク因子が2項目以上で広域抗菌薬治療とします。

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2024年09月18日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈61〉医療・介護関連肺炎/院内肺炎の用語|escalation治療

escalationとは、「(段階的)拡大」という意味です。抗菌薬治療においては、まず狭域抗菌薬から開始して、段階的に広域抗菌薬に替えていくやり方をいいます。

肺炎で、敗血症がなくて重症度も低い場合には、原因菌はグラム陽性球菌を中心に、せいぜいH. influenzaeあたりを想定して、まずは狭域の薬剤を使用します。それで全身状態の改善があればよし、改善が見られない場合は、必要に応じて広域の薬剤への変更を考慮します。

要はおおよそ市中肺炎と同じようなノリの薬剤を使うことになりますが、非定型肺炎をどの程度勘案するかはガイドライン上あまり強調されていません。

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2024年09月17日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈60〉医療・介護関連肺炎の原因となる主な耐性菌 ・MRSA

MRSAはもともとは表皮に住んでいる菌で、一度生み出されるとヒトの表皮に常在します。医療従事者の手指から手指へと伝わっていき、音もなく過ごしているわけです。そして、宿主の免疫力が低下、あるいは周囲の競合する菌が絶滅したときに、はびこってくるのです。

そういうわけで、院内で感染する菌として、重要な意味を持つわけです。使用される抗菌薬もある意味、特別な薬(しかも高い)ですから、MRSAが原因微生物であるかどうかの見極めは、大変重要であると言えます。

*痰からMRSAが出た=MRSA肺炎とはいえない
MRSAは、耐性菌でもありますが、その前にブドウ球菌であります。ブドウ球菌による感染症は、組織障害性が特徴です。肺であれば、普通の肺炎ではなく、肺膿瘍や膿胸といった「肺が破壊される病態」を呈することが多いわけです。

ですから、「痰からMRSAが出ている普通の肺炎は、保菌しているだけなのではないか」「検出されたMRSAが原因微生物として明らかな意味があるのは、空洞や壊死を伴う膿瘍様病変からMSSAやMRSAが分離されたときである」と考えられるのです。

この考え方に沿うと、「痰からMRSA」ですぐに抗MRSA薬… ではなく、少なくとも貪食像があるかどうかを確認するとともに、臨床像はどうなのかに思いを巡らせたいところです。もちろん臨床の現場で、重症患者さんのMRSA感染症を否定するのはなかなか勇気がいることですが……。

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2024年09月16日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈59〉医療・介護関連肺炎の原因となる主な耐性菌 ・緑膿菌

肺炎におけるAMR問題の主役、多剤耐性緑膿菌。いかに「適切に」緑膿菌に対する治療を行うか、ということが抗菌薬治療のカギといっても過言ではありません。

緑膿菌に対する「適切な」治療の基本戦略は、

•緑膿菌が原因微生物であることを確実に診断する
•強力な抗菌薬を適切に使用し、確実に治癒を目指す
•中途半端な治療、不適切な治療で耐性がつくことを防ぐ
•緑膿菌が原因でない感染症に対しては、抗緑膿菌抗菌薬を使わない

特に最後の項目がかなり大事です。なぜか。抗緑膿菌作用のある抗菌薬といえば、カルバペネム系、アミノグリコシド系、ニューキノロン系が中心ですが、これらより新しい系統の抗菌薬は、開発すらされにくい現状があります。これらは人類に残された「最終兵器」、これらの薬剤が無効になれば人類滅亡の危機につながる、そういう危機感を持って抗菌薬を使っていきたいものです。

そのためには、使おうとしている抗菌薬が「緑膿菌に効くものかどうか」を知っておき、少なくとも、緑膿菌感染の可能性が低いと考えられる患者さんに「緑膿菌に効いてしまう」抗菌薬を投与しない、という見識を求めたいと思います。

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2024年09月04日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈59〉院内肺炎の原因微生物

入院している患者さんは、手術とか、副作用の大きな(免疫力を低下させるような)薬剤を使うとか、中等症以上の感染症とか、摂食困難とか、挿管チューブやカテーテルが挿入されているとか……それぞれ、ある種の菌が定着、あるいは侵入しやすい状況を持っておられます。

どんな菌が居そうか、広域スペクトラムの抗菌薬を使用されたことによって選択され、そのあたりに定着した耐性菌や、分泌物やら排泄物やらの中に入って出てくる腸内細菌なんかです。両方の要素を持つものとして、緑膿菌とMRSAが有名ですね。

これらの菌が直接、または間接的に(一旦どこかに定着して)患者さんに入り、肺炎を引き起こしたもの。これが院内肺炎です。

ガイドラインには院内肺炎の原因微生物として検出された菌のデータが集積されています。

最も多いのがMRSA(12.9%)、次いで緑膿菌(11.3%)、それからMSSA、肺炎桿菌、エンテロバクター属、ステノトロフォモナス・マルトフィリア、肺炎球菌、アシネトバクター属、セラチア・マルセッセンス、インフルエンザ桿菌の順でした。

また気管支肺胞洗浄液を用いた16S ribosomal RNA遺伝子を標的とした網羅的細菌叢解析法で検討した報告では、口腔内レンサ球菌(46.6%!)コリネバクテリウム属(23.3%)、黄色ブドウ球菌(13.7%)、ヘモフィルス属(13.7%)、ナイセリア属、緑膿菌、ブドウ球菌属、エンテロコッカス属、ベイロネラ属、エシュリキア属、肺炎球菌、セラチア属となっています。こちらでみると緑膿菌やMRSAはそれほど多くないのかも……とも思えますが、

問題は、医療・介護関連肺炎と同じく、緑膿菌やMRSAに代表される耐性菌をどこまで想定するべきなのか、ということでしょう。院内肺炎における耐性菌のリスク因子として、以下の項目が挙げられています(2項目以上で耐性菌の高リスク)。

@ ICUでの発症
A 敗血症/敗血症性ショック
B 過去90日以内の抗菌薬使用歴
C 活動性の低下、歩行不能
    PS≦3、パーセル指数<50、歩行不能、経腸栄養または中心静脈栄養
D CKD(透析含む)eGFR<60mL/分/1.73m2

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2024年09月03日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈58〉医療・介護関連肺炎の原因微生物

ガイドラインには医療・介護関連肺炎の原因微生物として検出された菌のデータが集積されています。

最も多いのが市中肺炎と同じく肺炎球菌(12.4%)、次に肺炎桿菌(7.4%)、それからMRSA、緑膿菌、インフルエンザ桿菌、MSSA、肺炎球菌以外のストレプトコッカス属、大腸菌、肺炎クラミジア、モラクセラ・カタラーリスの順で、2017ガイドラインと上位10菌種に関しては同じでした。

また気管支肺胞洗浄液を用いた最近の研究による、16S ribosomal RNA遺伝子を標的とした網羅的細菌叢解析法で検討した優先菌種としては、ストレプトコッカス属(45.5%)、肺炎球菌(14.8%)、プレボテラ属(13.8%)、ヘモフィルス属、緑膿菌、ゲメラ属、コリネバクテリウム属、フソバクテリウム属、黄色ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌以外のスタフィロコッカス属が上位になっていて、口腔内の連鎖球菌とプレボテラをはじめとする嫌気性菌がより多く関与しているように見られます。

こうなってくると、嫌気性菌⇒スルバクタム・アンピシリンという発想になるのも宜なるかな、という感じでしょうか。とはいえ肺炎球菌とストレプトコッカス属の割合もかなり多いので、セフトリアキソンやセフォタキシムでいけることが多いのもうなずけます。

治療に直結する問題としては、抗菌薬選択にあたって緑膿菌、MRSAをどこまで想定するか、というところがあるわけですが、ガイドラインでは耐性菌のリスク因子ということで、先に挙げた項目を考慮に入れてエンピリック治療を考えましょう、とされています。

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2024年08月29日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈57〉医療・介護関連肺炎治療の場 外来か?入院か?A

治療を考える上では耐性菌のリスク因子を考える必要があります。ただこちらも、確実に使えるような決定版がない現状で、今のところは暫定的に以下の項目が使われています。

@ 挿管による人工呼吸器管理を要する
A 過去90日以内の抗菌薬使用歴
B 経腸栄養
C 低アルブミン血症
D 免疫抑制状態
E 過去90日以内の入院歴
F 過去1年間の耐性菌検出歴

上記に加えて緑膿菌のリスク因子には「慢性呼吸器疾患の既往」も挙げられています。

とはいえ、NHCAPの定義で耐性菌リスクの高い患者を選別することには限界があることが明らかになり、次回ガイドラインでは改めてNHCAPの概念を再検討する必要がある、と明記されています。まだ少しこのあたりの概念自体、流動的であるといえるかもしれません。

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posted by 長尾大志 at 17:49 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年08月28日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈56〉医療・介護関連肺炎治療の場 外来か?入院か?@

医療・介護関連肺炎の場合も、市中肺炎と同じく、診断したらまず治療の場と治療薬を決定するために「重症度」を評価する必要があります。

「治療の場」というのは、外来か入院か、の判断です。その目安として、市中肺炎ガイドライン(2005年)で用いられているA-DROPが、医療・介護関連肺炎のガイドラインでも使われ続けていますが、これが果たしてNHCAP患者の予後予測に有用かどうか、明確な結論は出ていません。とはいえ、現段階では最初に敗血症の有無とA-DROPで、ある程度重症度の評価をする、とされています。

ただ、NHCAPでは市中肺炎以上に、元々のADLが不良であったり、他の基礎疾患などによって全身状態がギリギリの状態であったり……ということも少なからず経験されます。

つまり、「この状況では(家に)帰せない」という判断は、受診された現場で下す必要がある。そういったことも含め、入院適応を考えるのに「主治医の判断」が大きな割合を占めるであろうこともNHCAPの逃れられない運命であろうかと。

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posted by 長尾大志 at 19:14 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年08月27日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈55〉肺炎に対する抗菌薬治療が無効の場合❹

こちらもようやく通常進行に立てなおって参りました……。

肺炎に対する抗菌薬治療が無効の場合、あと1つは、当初効いていたのに途中から熱が出た、抗菌薬変更!?…というケースで思い出していただきたい「薬剤熱」です。

当初効いていたのであれば通常、その感染症イベントは制御できているはずで、抗菌薬の変更が必要となる場面は多くありません。

薬剤熱では比較的徐脈、比較的元気、比較的CRP低値の「比較3原則」が見られることが多い、と聖路加国際病院の岡田正人先生が提唱されました。比較的覚えやすくて有名ですが、この3原則すべてを満たさないことも多々あります。その一方で、腫瘍熱でも3原則を満たすことがあり、注意が必要です。しかし、そもそも薬剤熱は疑われないことには始まりません。「比較3原則」を参考に、薬剤熱を正しく疑いましょう。

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posted by 長尾大志 at 16:55 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年08月02日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈54〉肺炎に対する抗菌薬治療が無効の場合❸

実は初期治療不成功の原因のうち、非感染性因子は15〜25%で、感染性因子が原因の40〜60%を占めているといいます。感染であったのに抗菌薬が効かなかった……その原因は何でしょうか?感染性の病態を整理するために、細菌側の要因、宿主側の要因、薬剤側・医療側の要因に分けて考えます。

細菌(病原体)側の要因
•抗菌薬がカバーしていない病原体:ウイルス、真菌、抗酸菌
•非定型病原体:マイコプラズマ、レジオネラ、クラミジア
•抗菌薬への耐性菌:MRSA、PRSP、BLNAR、緑膿菌、ESBL産生菌
•改善に時間のかかる病原体:ノカルジア、放線菌
•日和見病原体等による入院後の二次感染
•重症感染症による急速な病状の悪化:敗血症性ショックや劇症型肺炎

宿主(人間)側の問題
•抗菌薬移行不良な病巣の形成:膿胸、肺膿瘍、ブラ内感染
•肺外感染巣の形成:心内膜炎、骨関節炎、カテーテル感染、脳髄膜炎
•気道ドレナージの障害:中枢型肺癌、気道異物、反復性の誤嚥、去痰不全、慢性呼吸器疾患(気管支拡張症、副鼻腔気管支症候群)
•基礎疾患による全身免疫機能の低下:HIV感染症、免疫抑制薬投与、血液系悪性腫瘍
•医療機関受診の遅れによる重症化

薬剤側・医療側の要因
•抗菌薬の不適切投与:投与量不足、投与経路や回数が不適切
•治療介入開始の遅れによる重症化
•抗菌薬に由来する有害事象:薬剤熱

このうち少しの努力で克服できるのは、抗菌薬の不適切投与です。いまだに投与量が足りない、という現場を見かけます…… 残念!

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posted by 長尾大志 at 12:48 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年07月28日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈53〉肺炎に対する抗菌薬治療が無効の場合❷

さらに、診断にはもう少し情報が必要で、場合によっては気管支鏡などを考慮すべきものとして、次のものが挙げられています。

•間質性肺炎
•ARDS
•好酸球性肺炎
•器質化肺炎
•過敏性肺炎
•薬剤性肺障害
•放射線肺炎
•肺胞出血
•肺癌
•リンパ増殖性疾患

それはそうなのですが、だからといって、肺炎が治らない⇒呼吸器内科でよろしく、というのも少し違う気がしますねえ。

過敏性肺炎、薬剤性肺障害、放射線肺炎、それにARDSの一部は病歴でわかりそうですし、癌性リンパ管症やリンパ増殖性疾患だったらHRCTで見当が付きます。診断に気管支鏡が必要なのは好酸球性肺炎と肺胞出血あたり…となれば、できることはありそうですね。

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posted by 長尾大志 at 17:31 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年07月26日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈52〉肺炎に対する抗菌薬治療が無効の場合❶

抗菌薬が無効な時、どう考えるかは、市中肺炎だけでなく院内肺炎、医療・介護関連肺炎にも共通する課題であります。

肺炎における治療失敗(無効)の原因は、まず第1に診断の誤り、第2に診断が合っていても治療がうまくいかない事情がある場合です。

初期治療不応時の鑑別診断(肺炎と紛らわしい疾患)として挙げられている非感染性の病態は次のものがあります。
•心不全
•尿毒症肺
•肺塞栓

これらは病歴、エコーやCTなどで鑑別が可能です。この中で一番多いのは心不全ですが、肺炎に合併している場合もあり、しばしば治療が難しいこともあります。

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2024年07月25日

成人肺炎診療ガイドライン2024〈51〉市中肺炎の臨床評価法つづき

気づいたら全然更新できてなかったですね……よく働いてるんですけど。


新規抗菌薬の臨床試験における評価法もあり、臨床的にも客観的な効果判定法として使用できます。

評価のタイミングは薬剤投与開始から3日後で、判定項目は次の3つ。
•体温(発熱)
•咳嗽
•喀痰の量
このうち2項目以上が改善していれば、「改善または改善傾向あり」とします。

一方で、みんな大好きな炎症所見(白血球数やCRP)および胸部X線の陰影については評価をしません。

これは大事なことです。白血球数やCRPは治療開始時には低値のこともあり、経過中上昇してくることもしばしば経験されます。

また、胸部X線の陰影は、特に高齢者ではなかなか改善が見られないことも多いのです。したがって、こういう指標で評価をすると、「改善がみられない」「悪化している」などと誤った評価になる可能性があるわけです。

治療終了時の評価法
治療終了時(End of Treatment)、治癒判定時(Test of Cure)に臨床効果を判定するための症状としては、次の6項目が挙げられています。

•咳嗽
•喀痰の量
•呼吸困難
•胸痛
•喀痰の性状
•胸部のラ音

実際、呼吸数を含めたこれらの症状は、早い時期から改善してくることが多いものです。
これらの情報はすべて、PCの前に座っていては得られません。患者さんのところに行くことで得られる情報ですから、積極的に患者さんのところに行くようにしましょう。

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posted by 長尾大志 at 20:24 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年07月22日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊿市中肺炎の臨床評価法

そもそも感染症とは、ある菌が制御できないほど増えて、臓器にダメージを与えることです。誤嚥性肺炎で口腔内の常在菌(普段から仲良くしている菌たち)が仲良く一緒に増えてくる場合を除いて、肺炎だと通常は排他的に1種類の菌がドカンと増えることが多いです。

ですから、最初に使う抗菌薬がそいつに効けば、もうその感染症は制圧したも同然、というのが基本的戦略の元になる考えです。すなわち、早期に「効果あり」と判定すれば、そのまま抗菌薬を使っていけば、この肺炎は治るでしょう、と考えるわけです。

・治療開始時の評価法
抗菌薬の早期の効果判定法として2024ガイドラインに記載されているのは、米国のCAPガイドライン(2007年)による臨床的安定化の具体例です。

――――――――――――――――――――
体温≦37.8℃
心拍数≦100回/分
呼吸数≦24回/分
収縮期血圧≧90mmHg
SpO2≧90%あるいはPaO2≧60mmHg(室内気)
経口摂取可能
平常の意識状態
――――――――――――――――――――

静注抗菌薬の投与で状態が改善し、72時間経過した時点で解熱傾向、呼吸循環動態の安定が得られ、意識状態や経口摂取にも問題がなければ、経口抗菌薬へのスイッチや退院が可能とされています。

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posted by 長尾大志 at 17:48 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年07月19日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊾市中肺炎重症例の補助療法

重症肺炎時にはサイトカインストーム(過剰な炎症によってサイトカインの嵐が吹き荒れる)が生じて肺胞上皮や肺毛細血管内皮の障害を来すことから、炎症を抑えることを意識した補助療法が試みられてきました。

・マクロライド系薬

1つはマクロライド系薬で、重症市中肺炎症例における治療として、各種ガイドラインでマクロライド併用療法を推奨されています。こちらはマクロライドの抗炎症効果と見做されていますが、ひょっとすると彼国では非定型肺炎、特にレジオネラ肺炎の鑑別をきちんとできていないのではないか、と思わなくもないですが……。

・ステロイド薬

もう1つはステロイド薬で、免疫力を低下させる懸念からこれまでにも議論の的になってきました。システマティックレビューのまとめによれば、

•生命予後に影響しない
•肺炎の治癒率を変えない
•重篤な副作用は増加しない
•入院期間が約0.7日短縮

であり、本ガイドラインにおいては軽症〜中等症の成人市中肺炎症例に対して抗菌薬治療に全身性ステロイドを併用しないことを弱く推奨し、重症の成人市中肺炎に対しては併用を弱く推奨する、と、なんとも煮え切らない感じになっているようです。

・酸素療法

そして補助療法のもう1つ、低酸素血症への対応としては、もちろん酸素投与になるわけですが、高度の呼吸不全に対しては気道確保からの人工呼吸器管理、さらに重篤な低酸素血症には、コロナ禍ですっかり有名になった体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)の使用が考慮されます。ただしこれらの治療は侵襲性が強いため、患者背景を考慮する必要があるとされています。

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2024年07月18日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊽市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬⓫緑膿菌

緑膿菌による市中肺炎はそれほど多くありませんが、慢性気道感染があるような症例では緑膿菌の気道定着が認められ、市中肺炎の原因菌となることがあります。

緑膿菌が出てしまうと、これはもう広域でいかざるを得ません。それと、菌が得られているのであれば、必ず薬剤感受性を確認しての選択が求められるところです。

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posted by 長尾大志 at 12:34 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年07月10日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊼市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬❿嫌気性菌・入院治療の場合(注射薬)

嫌気性菌感染の多くは誤嚥と関連があると考えられています。一昔前は、誤嚥といえば嫌気性菌、嫌気性菌といえばクリンダマイシン、みたいな風潮がありましたね?

そんなわけでクリンダマイシンは広く使われ、特にプレボテラ属でクリンダマイシン耐性が徐々に広がっております。一昔前にはマニアの武器であったメトロニダゾールも、すっかりガイドラインの常連になりました。今後ますます使う機会が増えるでしょう。

レスピラトリーキノロンのうちレボフロキサシンは嫌気性菌に弱いので有名?で、嫌気性菌に対しては、レスピラトリーキノロンの中ではシタフロキサシン、ラスクフロキサシン、ガレノキサシン、モキシフロキサシンが使われます。

第1選択薬 スルバクタム・アンピシリン
第2選択薬 メトロニダゾール、クリンダマイシン

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posted by 長尾大志 at 19:52 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年07月03日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊽市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬❿嫌気性菌・外来治療の場合(経口薬)

「嫌気性菌を検出」するのは現実問題、なかなか難しいことです。「嫌気性」というくらいですから、普通に培養しても、空気に触れると生えてきません。喀痰塗抹でウジャウジャ雑多な菌がいたのに、培養してもたいして何も生えてこない、なんてときに「嫌気性菌かな〜?」と考えるような感じですかね。


第1選択薬
βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)

第2選択薬
クリンダマイシン

第3選択薬
シタフロキサシン、ラスクフロキサシン、ガレノキサシン、モキシフロキサシン

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2024年06月29日

松江研修3病院の集い場=マツケンサンバ、第一回でした!

昨日は松江にて、松江圏域にある3つの主な研修病院(松江市立病院・松江赤十字病院・松江生協病院)が合同で開催される、いわゆるレジデントデイみたいな集まり、研修医の先生方の勉強と交流の場として始まった(コロナ前にはされていたそうですがしばらく中止になっていた)、松江研修3病院の集い場、人呼んでマツケンサンバ、第一回が執り行われました!

松江赤十字病院救急部の秦先生によるアイスブレイク、この集まりの名前を決めよう!、いい名前が次々と披露され、若い感性に感嘆。

結局は最後にインパクトでもっていった感のある、松江研修3病院の集い場⇒マツケンサンバが票を集めて決定!

IMG_1609.JPG

私は前半のレクチャーを担当しました。当初「胸部X線」のお話をリクエストいただいていたのですが、松江赤十字病院では既に何度かX線の話してるしなあ……と、症例検討会みたいな感じにしてみたのですが、ちょっと盛り上がりに欠けてしまい、反省することしきりでございました。

後半は松江生協病院循環器内科の鈴木先生によります「心電図判読レース」。印象的だったのは夫婦あるあると絡めた不整脈の語呂合わせ。

U度房室ブロックはWenckebach型とMobitz II型がありますけど、夫婦でもWenckebach型は喧嘩ばっか。ウェンケバッハはケンカバッカ。ケンカばっかりしてだんだん合わなくなる(間隔が開いていく)けど、(コミュニケーションをとってるから)また元に戻る。

Mobitz II型みたいにケンカもせずにいきなりいなくなる(家出する?)のは、予後がよくない。

最初からてんでバラバラに活動してるのがV度、完全房室ブロック。

イヤお見事な覚え方です。是非皆さんもご参考に。

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posted by 長尾大志 at 10:29 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年06月26日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊼市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬❾レンサ球菌(連鎖球菌)・入院治療の場合(注射薬)

入院治療の場合(注射薬)はこんな感じで記載されていますが……

第1選択薬
ペニシリン系薬(アンピシリン、ペニシリンG)
アジスロマイシン
第2選択薬
スルバクタム・アンピシリン、タゾバクタム・ピペラシリン

それにしても、連鎖球菌に対してタゾバクタム・ピペラシリンは少しばかり広域に過ぎるような気がいたしますね……。

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posted by 長尾大志 at 11:45 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年06月25日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊻市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬❾レンサ球菌(連鎖球菌)・外来治療の場合(経口薬)

レンサ球菌の中では口腔内常在菌であるStreptococcus anginosus群が検出されることが多く、ペニシリン系が選択されますが、この連中にはマクロライド系薬もまだ有効であることが多いので、アジスロマイシンが第1選択薬に入っています。

他に空洞形成があったりすると複数菌感染が疑われる場合もありStreptococcus pyogenes(化膿性レンサ球菌)やStreptococcus agalactiae(B群溶血性レンサ球菌)の関与も疑うような場合、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬が選択されることが多いようです。

第1選択薬
アモキシシリン、アジスロマイシン
第2選択薬
βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)
第3選択薬
レスピラトリーキノロン(ラスクフロキサシン、ガレノキサシン、モキシフロキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン)

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posted by 長尾大志 at 19:22 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年06月23日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊺市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬❽黄色ブドウ球菌最後

ときにPanton-Valentine leucocidin(PVL)を産生する市中型のMRSA(CA-MRSA:community acquired MRSA)による重症肺炎が見られることがあり、注意が必要だとされますが、それであればキノロン系やクリンダマイシンでも効果が見られることが多いようで、感受性の確認が必要です。


ガチのMRSAの場合、使用すべき抗菌薬、使用法(TDM:therapeutic drug monitoring血中濃度モニタリング)はだいたい決まりごとがあります。これはDIなどにも載っていますのでそちらをご参照ください。

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2024年06月22日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊹市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬❽黄色ブドウ球菌2

ここではMSSAに対する治療薬を取り上げます。

外来治療の場合(経口薬)
第1選択薬
βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)
第2選択薬
マクロライド系薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシン)

入院治療の場合(注射薬)
第1選択薬
スルバクタム・アンピシリン、セファゾリン
第2選択薬
ミノサイクリン、クリンダマイシン

マクロライド系でもいいんですね。

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2024年06月21日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊸市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬❽黄色ブドウ球菌

以前の、喀痰検査を根拠とした「肺炎の原因菌検索」研究では、黄色ブドウ球菌が原因菌である市中肺炎が少なからずある、ということがいわれていましたが、上にも引用した網羅的細菌叢解析の結果からは、黄色ブドウ球菌による肺炎は少ないように見えます。

また、黄色ブドウ球菌感染症の特徴(組織を溶解、破壊する)からして、肺炎の場合も肺膿瘍/肺化膿症や膿胸の表現型を取りがちなわけで、喀痰に黄色ブドウ球菌がいる=黄色ブドウ球菌肺炎だ!という短絡志向には陥らないようにしたいものです。彼らは異物と創傷部位を好みますから、市中肺炎でしたらインフルエンザ後の荒廃した肺、あるいはいろいろ?入っている院内肺炎で多いと考えましょう。

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2024年06月16日

総合診療・地域医療実習第5クールアワード

1週間以上前のことになってしまいますが、総合診療・地域医療実習第5クールの振り返り会が執り行われました。

今回も優秀な発表が多く、アワード選考に難渋しましたが、諸事情も鑑み、「実習でどんなことを学んだか、どんなことがそこでできるのか」がよくわかる発表、という観点から今回はお2人を選ばせていただきました!おめでとうございます!!

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後半の彼はなんとNMB48の○○○たん推しの方でした!ちょっとビックリしました!!最近NMB48推しの学生さんがちょくちょく発掘?されて、大変喜んでおります。もっとお話ししたかったのですが、あとの予定があったもので、お話を切り上げざるを得ませんでした……是非またお越しください!いや、別にNMB推しでなくても、気軽にお越しください〜オフィスアワーは月〜金の16時〜18時、「在室」になっていればお声がけOKです!

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2024年06月12日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊷市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬❼モラクセラ・カタラーリス|入院治療の場合(注射薬)

入院治療の場合はもちろんβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬からの〜注射薬中心になります。しかしマクロライド系薬はガイドラインでは取り上げられていません。

第1選択薬 スルバクタム・アンピシリン
第2選択薬 第2世代および第3世代のセフェム系薬(セフォチアム、セフトリアキソン、セフォタキシム)
第3選択薬 ニューキノロン系薬(レボフロキサシン、ラスクフロキサシン、シプロフロキサシン、パズフロキサシン)

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2024年06月10日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊶市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬❼モラクセラ・カタラーリス|外来治療の場合(経口薬)

モラクセラ・カタラーリスはほぼβラクタマーゼを産生する、と考えます。ペニシリン系薬を使うのであれば、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬が必須です。意外にマクロライド系が使えるのが、特記すべき点ですね。

第1選択薬 βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)
第2選択薬 マクロライド系薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシン)
第3選択薬 レスピラトリーキノロン(ラスクフロキサシン、ガレノキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン)

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2024年06月05日

成人肺炎診療ガイドライン2024-40市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬❻クラミジア属

以前は市中肺炎の原因微生物としてクラミジアがよく取り上げられていましたが、誤嚥性肺炎のところで取り上げた網羅的細菌叢解析の結果(J Infect Chemother. 2022: 28: 1402-9)、クラミジア肺炎、というものは実際には少ないのではないか、という意見もあり、ガイドラインでも記載が縮小しています。また治療前に迅速に診断ができる検査がなく、結局エンピリックに投与せざるを得ないところもあります。

治療の基本はマイコプラズマ同様テトラサイクリン系薬、マクロライド系薬、ニューキノロン系薬などになります。

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2024年06月04日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊴市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬❺レジオネラ

レジオネラ肺炎は市中肺炎(時に院内肺炎)において別格扱いです。なぜか。

@しばしば重症化し、致命的となり得る。
Aβラクタム系抗菌薬が無効である。すなわち通常の肺炎治療では効果がない。
B非定型病原体であることを反映して、症状、徴候(特に肺外)に特異的なものが多い。

レジオネラ肺炎は「肺炎」であるにもかかわらず、早期から全身症状が出ることが知られています。その原因として、レジオネラ菌が細胞内寄生した単球が関与している可能性が考えられていますが、今のところ機序はよくわかっていないようです。おそらくインフルエンザ・COVID-19や他のウイルス性疾患と同じように、病原体に対するホストの反応のように思います。

以前に書いた「レジオネラ診断予測スコア」や「レジオネラを疑うキーワード」から、レジオネラ肺炎の可能性が想定されたら、迷うことなくキノロン系注射薬をチョイスしましょう。

第1選択薬 レボフロキサシン、ラスクフロキサシン、シプロフロキサシン、パズフロキサシン
        アジスロマイシン

レジオネラとなったら、瞬時も迷うことなくキノロンです。アジスロマイシン単独でもいいようですが個人的にはあまり使ったことがありません。重症の場合はアジスロマイシンと併用です。第2選択薬はなく、とにかくキノロンかアジスロマイシン、ということです。

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posted by 長尾大志 at 14:51 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年06月02日

『NEJM Clinical Problem-Solving:Taroの“別解”(南江堂)』を献本いただきました(COIあり)

志水太郎先生による著作『NEJM Clinical Problem-Solving:Taroの“別解”(南江堂)』を献本いただきました(COIあります)。ありがとうございました!これは読んでいくのに気合と覚悟がいるぞ!と身構えてしまい、取り掛かるのに時間がかかりましたが、ようやく拝読しましたので感想を書かせていただきます。

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志水太郎先生といえばかの名著『診断戦略: 診断力向上のためのアートとサイエンス』ですが、もうこちらは10年前になるんですね……。こちらの書籍にもお世話になりました。

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この度の『NEJM Clinical Problem-Solving:Taroの“別解”(南江堂)』はこの『診断戦略』で取り上げられた戦略を実際の症例にいかに適用していくか、をNEJMの名物コーナー「Clinical Problem-Solving」の症例検討記事を読み解きながらしっかりと記載していくという手法を用いられています。

前著に比べて書籍の厚みとしては薄くなりますが、全部で12症例を使って、診断戦略としては13の戦略、その中には前著で有名なPivot and Cluster戦略もあり、そしてオッカムヒッカム転換などおなじみの戦術それからPearlも紹介されていて、それらを実際に困難症例の中でいかに使っていくか、という構成になっています。

また本家Clinical Problem-Solvingのディスカッションとは(あえて)異なる別解を示す、というところも見どころです。本来であればそれを併記するといいのでしょうが、まあいろいろ権利問題があるということで、それは別途参照してくださいとQRコードを提示されています(親切!)ので、それを合わせて読んでいただくことで、志水先生の思考過程に迫っていく、そういう作りになっています。

いずれにしても至極真っ当な鑑別診断を幅広く挙げ、追加情報からそれを絞り込む過程は診断の王道であり、それを極めて高レベルに進める様子を追体験できるという、大変贅沢な一冊となっております。一度読むだけでなく、何度も反復練習することで志水先生の思考に近づくことを期待する、そういうねらいなのだろうと思いました。改めて志水先生には貴重なご献本を頂き感謝申し上げます!質の高い臨床推論を学びたい方にお勧めいたします!!

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posted by 長尾大志 at 11:11 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年05月31日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊳市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬❹マイコプラズマ・入院治療の場合(注射薬)

入院治療は注射薬を選択するという建前ですので、注射薬のあるものからの選択です。当たり前ですが。

第1選択薬 ミノサイクリン
        アジスロマイシン
第2選択薬 ニューキノロン系薬(ラスクフロキサシン、レボフロキサシン、シプロフロキサシン)

キノロンについては外来治療に同じです。

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posted by 長尾大志 at 13:42 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年05月23日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊳市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬❹マイコプラズマ・外来治療の場合(経口薬)

昨今忙しすぎて、細切れの更新で失礼します……。ここ数日の学びも多かったのでまた報告いたします!

さてマイコプラズマが抗原検査等で診断できたときの抗菌薬ですが、多くの場合は外来治療でしょう。

第1選択薬 ミノサイクリン
      マクロライド系薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシン、エリスロマイシン)
第2選択薬 レスピラトリーキノロン(ラスクフロキサシン、ガレノキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン)

キノロンの宣伝には「マクロライド耐性マイコプラズマが〜」みたいなことが書いてありますが、成人では耐性マイコプラズマによる治療失敗はほとんどありません。

ですので、ここはマクロライドでいいです。よほど耐性が問題になる、気になる場合でも、ミノサイクリンでOKです。マクロライド耐性マイコプラズマに肺炎におけるミノサイクリンの効果はキノロンより優れているというデータもあります(BMC Infectious Diseases. 2012: 12: 126)。

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posted by 長尾大志 at 08:50 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年05月20日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊲市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬❸クレブシエラ属や他の腸内細菌科・入院治療の場合(注射薬)

第1選択薬 第2世代および第3世代のセフェム系薬(セフォチアム、セフトリアキソン、セフォタキシム)
     スルバクタム・アンピシリン

陰性桿菌、腸内細菌となると、順番的にはセフェムが優先される感じです。

第2選択薬 タゾバクタム・ピペラシリン
     タゾバクタム・セフトロザン

これ、ここで要るかね?とも思いますが…。

第3選択薬 カルバペネム系薬
     ニューキノロン系薬

ESBL産生株であれば、カルバペネム系以外はどれも無効ですので、カルバペネム系を使うことになります。

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posted by 長尾大志 at 18:10 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2024年05月19日

成人肺炎診療ガイドライン2024㊱市中肺炎で菌が検出されたときの抗菌薬❸クレブシエラ属や他の腸内細菌科・外来治療の場合(経口薬)

外来で、この手の菌による肺炎を治療する場面はあまりなさそうですが……ガイドラインには記載がありますので念のため取り上げます。クレブシエラ属で問題になる耐性といえばESBL(extended-spectrum β-lactamase:基質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生菌ですが、その比率はそれほど多くありません(1〜数%)。

ただ、ESBL産生株の多くはキノロン耐性も同時に有していますので、抗菌薬選択の際には注意が必要です。できれば分離菌のその施設における薬剤感受性を確認して、薬剤を選択するのが望ましいと思われます。

第1選択薬 βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)
第2選択薬 レスピラトリーキノロン

レスピラトリーキノロンは、クレブシエラっぽくて、そこそこ重症で、どうしても外来で内服薬で治療したい場合に選択されるということでしょうか。そういう場合があるかどうかわかりませんが…。

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posted by 長尾大志 at 17:36 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説