2012年01月12日

医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドライン7・誤嚥について

医療・介護関連肺炎(NHCAP)になると言うことは、そもそもその患者さんは何らかの形で介護的なものを受けているわけですよね。つまりADLが落ちているわけであり、高齢で、脳血管障害が合併している、というケースが多いわけです。


それはつまり、誤嚥とは切っても切れない関係にある、ということです。
明らかな誤嚥のepisodeがなくても、不顕性誤嚥があることは結構多いと考えられています。そんな方々にひとたび肺炎が起こったときには、誤嚥性の要素を考慮する必要があります。


誤嚥を来しやすい病態・病名として考えられているのは、神経疾患では

  • 脳血管障害

  • 中枢性変性疾患

  • パーキンソン病

  • 認知症(脳血管性、アルツハイマー型)


がありますし、口腔の異常では

  • 噛み合わせ障害

  • 義歯不適合

  • 口内乾燥

  • 口腔内悪性腫瘍


があり、胃食道疾患では、

  • 食道憩室

  • 食道運動異常
      (アカラシア・強皮症)

  • 悪性腫瘍

  • 胃−食道逆流
      (食道裂孔ヘルニアを含む)

  • 胃切除(全摘・亜全摘)


などが挙げられます。


また、医原性その他の原因として、

  • 寝たきり状態

  • 鎮静薬・睡眠薬

  • 抗コリン薬・抗ヒスタミン薬(口内乾燥を来す)

  • 鎮咳薬

  • 経管栄養



があると、誤嚥のリスクは高まります。

多くの、特に介護を受けている高齢の方々は、なんらかの、上に挙げたような状態にあるわけで、誤嚥とは切っても切れない関係にある、と申し上げる理由がおわかり頂けるかと思います。



高齢の方々は、そもそも肺炎になっても、高熱などは出にくく、発見が遅れることも多いわけですが、比較的急に

  • 食欲不振

  • ADLの低下

  • 意識障害

  • 失禁


などが起こってきた場合には積極的に肺炎の存在を疑いたいところです。

さらに、明らかな誤嚥のepisodeがあったり、レントゲンで肺底区に陰影を認めたりした場合には、誤嚥性肺炎の存在を念頭に置いて治療を行うべきでしょう。


ということは、高齢患者さんを診る医師は、何科の医師であっても、レントゲンで「肺底区に陰影がある」ことぐらいは見て取れる必要があるということですよ。下肺野に陰影があったら、中葉と肺底区の区別はちゃんとできますか



治療については後に、区分別に述べたいと思いますが、予防についてはいくつかのエビデンスがあり、

  • 肺炎球菌ワクチン接種(グレードB)

  • 口腔ケア(グレードB)

  • 薬物療法(グレードB)
      ACE阻害薬、シロスタゾール

  • 睡眠薬減量・上半身軽度挙上


あたりは勧められています。なお、PEG(胃瘻増設)に関しては(グレードC2)で推奨されない、となっています。これはあくまで、「誤嚥性肺炎の予防のエビデンスに乏しい」ということですので、やっちゃダメ、ということではありません。誤解の無いようにお願いします。


それにしても、肺炎球菌ワクチンですよ。5年前は、患者さんに説明してご理解いただくのも一苦労だったのが、マスコミで大きく取り上げられるようになって、今や患者さんから「やってください」と依頼され、品薄になる人気。

マスコミの力は偉大ですね〜。まあ、裏を返せば怖いことでもありますが。


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posted by 長尾大志 at 11:03 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2012年01月11日

医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドライン6・治療区分

それでは、いよいよガイドラインの概要を紹介します。


まず、治療区分を分けます。治療区分とは、要するにどこで治療をするか、ということ。

最初に「集中治療を必要とするか」を決めるのですが、医学的に重症かどうか、という点に加えて、ご本人が延命治療を望まれない由表明されているかどうか、などの要素も加味し、総合的に主治医が判断します。


集中治療を必要とする患者さんのグループをD群とします。
逆に、「もういいでしょう」となったら、D群には入れません。


次に入院適応を決めます。これは、 A-DROP(市中肺炎ガイドライン)などを参考に決めていきます。ちなみにA-DROPとは、


  • A:Age(年齢) 男性≧70歳、女性≧75歳

  • D:Dehydration(脱水) BUN≧21または脱水

  • R:Respiration(呼吸)SpO2≦90%

  • O:Orientation(意識障害)

  • P:Pressure(血圧) 収縮期≦90mmHg



という5つの項目で、1つ満たすごとに1点カウントし、


  • 0点:軽症→外来治療

  • 1-2点:中等症→外来、または入院治療

  • 3点以上:重症→入院治療

  • 4点以上→ICU 管理



のように判断します。


これで外来治療可となりますと、A群。


入院要、となった群のうち、耐性菌のリスクのありそうな


  • 過去90日以内に広域抗生剤が投与された

  • 経管栄養を施行している

  • 過去にMRSAが分離された(MRSAのリスク)



グループは、C群。

これらのリスクのない群をB群とします。


ちなみに耐性菌とは、緑膿菌・アシネトバクター・ESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)産生腸内細菌・MRSA・ステノトロフォモナスなどが想定されています。



まとめますと、

  • A群:外来治療可能

  • B群:入院治療・耐性菌リスクなし

  • C群:入院治療・耐性菌リスクあり

  • D群:入院・集中治療


となります。


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posted by 長尾大志 at 13:33 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2012年01月10日

医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドライン5・ガイドラインの基本理念

医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドラインの重要な理念として、これまでの「ガイドライン」で割り切れない部分を重視しているという点が特色だそうです。


  • 肺炎は抗菌薬で治療する。

  • 重症肺炎はより強力な抗菌薬で治療する。

  • 死にそうなほどの肺炎はICU、人工呼吸を併用する…。



…果たして、それでいいのでしょうか?という疑問を投げかけているのです。


「重症」な肺炎患者さんには、いわゆる予後不良の肺炎、末期の肺炎、すなわち、他疾患や老衰で宿主の生命機能が著しく不可逆的に損なわれた状態の肺炎が含まれます。
また、ADLが極度に悪化し、慢性的に誤嚥を繰り返しているような患者さんも含まれることになります。


このような「治る見込みのない」肺炎患者さんに機械的に強力な治療を行うことが、患者さんにとって最善なのでしょうか?


初期研修では、看取りも経験すべきのところで書きましたが、医療者には「正しく別れを告げていただく」という役割もあるのです。


救急・ICU領域の考え方では「死」は敗北、ととらえられがちであり、なんとしてでも心臓を動かし、肺に呼吸をさせる、ということが日常的に行われていますが、それは若い患者さん、予備力のある患者さん、ADLの保たれている患者さんの場合と、そうでない方の場合で、状況は異なるように思います。


老衰の果てに生じた、人生の終末状態としての肺炎を、きつい抗生剤や、人工呼吸器をはじめとするいろいろな管をつっこまれて、長らえていただくことが、患者さんにとって「最善」であるのか、ということをよく考えましょう、ということです。


一般的にもこのあたりの考え方が少し変化してきているようで、「一切の延命処置不要」と表明される方も増えてきているようです。


医師の側にも、これまでの「治してナンボ」から、「治らない病気」「治らない病態」に対し、どう向き合うか、という態度が問われはじめているのです。



そこでこのガイドラインでは、施設などにいる(老衰、寿命の)患者さんが、肺炎になったからといって(人工呼吸を含む)強力な治療を行うべきなのかどうか。医療に対する倫理観、患者さんや家族との関係も重視し、ガイドラインを参考に、主治医が倫理的に考え治療すべきである、と明記されています。



いわば、肺炎のターミナルケアを、いかに行うか。

ガイドラインにそのような事項を明記するのは、やはりこうしたことが社会的にも大きな関心事となっているからでしょう。また、ガイドラインというのが、良くも悪くも、大きな影響を持つ、ということも考慮されてのことだと思います。


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posted by 長尾大志 at 18:21 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2012年01月09日

医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドライン4・市中でも院内でもない場所…

このようにこれまでは、市中肺炎と院内肺炎という2つのくくりでうまくいっていたのですが、最近この2つの分類には当てはまらない症例が増えてきました。


これまでの分類では市中肺炎に含まれるけれども、耐性菌が増え、市中肺炎ガイドライン通りの治療では効かなくなってきた、そういうある一定の患者群が明らかになってきたのです。
そういう患者さんは病院に入院していないからといって、市中(自宅)におられるとは限らず、施設や療養型病棟におられるようなことが多かったわけです。


また、高齢化を背景として、誤嚥性肺炎が増加し、その対応が必要となってきました。

そういう、施設にいる人たちで、市中肺炎とは予後も耐性菌のリスクも異なり院内肺炎に近い群があることから、市中肺炎と院内肺炎の間の概念として区別されるようになってきました。


米国では2005年にNursing homeなどの施設にいる人たちの肺炎として、医療ケア関連肺炎(HCAP:healthcare-associated pneumonia)ガイドラインが生まれたのです。


それにならって、日本でも市中肺炎、院内肺炎に引き続く、第3の概念を形作る必要が出てきました。


米国では入院といえば急性期だけで、医療ケア関連肺炎(HCAP)の発症場所は日本の慢性期病棟入院(米国にはない)も含める感じになっています。
日本ではその概念をそのままは適用できないため、実情に併せてもうちょっと広く、慢性期病棟入院を含む医療・介護関連肺炎(NHCAP:nursing and healthcare-associated pneumonia)という概念ができたのです。



その定義は、

  • 長期療養病床または介護施設に入所

  • 90日以内に病院を退院した

  • 介護*を必要とする高齢者、身体障害者

  • 通院にて継続的に血管内治療*を受けている


  *介護…身の回りのことしかできず日中の50%以上をベッドで過ごす
  *血管内治療…透析・抗菌薬・化学療法・免疫抑制薬など


です。背景としていろいろなことを検討されていて、これが結構勉強になりますので、ご興味のある方は是非ガイドラインを一読ください。


かくいう私も、「また、同じようなガイドラインを作って…混乱するだけじゃないの?」と当初はガイドラインの制定に疑問を持っていました。でも、読んでみるとこれが結構奥深い。非専門の先生方が読まれることはまず無いでしょうが、若い先生は抗菌薬や感染症治療のスタンスを学ぶことができ、おすすめです。


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posted by 長尾大志 at 11:48 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2012年01月08日

医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドライン3・これまでの肺炎ガイドライン・院内肺炎

たとえば、病院に入院していると、市中で生活しているときに肺に進入するような菌は感染機会がなく、元々院内に住んでいるような菌が原因菌になります。


やはりそれはグラム陰性桿菌が主体。特に、水周りなどには、それまでに入院していた肺炎患者さんが喀出したしぶきに含まれていた緑膿菌が住み着いているものです。


また、医療従事者の手にはMRSA がついていたりします。

そうすると、いきおい、そういった菌を原因菌として考えるのが妥当、ということになります。
(MRSA肺炎なんか無いって言うたやんけ、その通り。まだ議論のあるところで、想定はしておきましょう。でも、これまでに思っていたよりは少ないと考えられます)


また、抗菌薬を使っ(て「菌交代」を起こし)たかどうか、というのも原因菌、その治療に深く関与します。

たとえば3世代セフェムを使うと菌交代で緑膿菌が残ります。広域抗生剤の長期投与はMRSAのリスクになりますし、そもそも抗菌薬を使うと、大なり小なり耐性がついてくるものなのです。


院内肺炎の原因菌はこのようにグラム陰性桿菌・緑膿菌・MRSAをはじめとする耐性菌であることが多いため、エンピリック(経験的)治療はこれらをターゲットとして行います。


このようにして、発症の場別(想定される原因菌別)ガイドラインが制定されてきた経緯があるわけです。


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2012年01月07日

医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドライン2・これまでの肺炎ガイドライン・市中肺炎

これまで、肺炎のガイドラインとしては、市中肺炎(community acquired pneumonia:CAP)に対するものと、院内肺炎(hospital acquired pneumonia:HAP)に対するものがありました。


誤解を恐れずに極論しますと、これらのガイドラインは、患者さんの状態、発症の場によって「原因(分離)菌」が異なる、従って抗生剤を使い分ける必要がある、ということが柱としてありました。


肺内には、常在菌というべきものはほとんどいないわけですが、病原性を持つ菌で、肺が好きな菌というものはいるわけです。肺の環境を好み、かつ、エアロゾル・微少な飛沫として空中に浮かぶことができる(つまり肺に入る経路を持つ)菌、それが肺炎の原因菌になりうるわけです。



たとえば、他人の「咳」「痰」「しぶき」を吸い込むことで感染が成立するような菌は、人混みに出かけたり、咳をしている子供に接触するような、「市中での生活」で肺炎の原因になります。


  • 肺炎球菌

  • H.influenzae(インフルエンザ菌)

  • マイコプラズマ

  • クラミドフィラ・ウイルス(インフルエンザ、水痘他)



他に、クラミドフィラ・シッタシ(オウム病の原因)は鳥、レジオネラは水環境(24時間風呂、温泉etc…)を経て感染する。これらも、いわゆる「市中での生活」をしていないと感染機会はなさそうです。


市中肺炎の原因菌はこれらであることが多いため、エンピリック(経験的)治療はこれらをターゲットとして行います。ここで、肺炎球菌やH.influenzae(インフルエンザ菌)には通常ペニシリンなどのβラクタムを使いますが、マイコプラズマやクラミドフィラにはβラクタムが効かない。ということで、これらの鑑別が必要になるわけです。


詳しくは、肺炎ガイドラインを最初からお読みください。

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posted by 長尾大志 at 12:48 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2012年01月06日

医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドライン1・まずは改めて肺炎の定義から

来る1月21日、滋賀県保険医協会主催の学術講演会で医療・介護関連肺炎(NHCAP:nursing and healthcare-associated pneumonia)ガイドラインについてお話をさせていただくことになりました。

地方会での見聞を踏まえて、医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドラインについてまとめておこうと思います。



そもそも肺炎とは何か、と申しますと、何らかの原因で肺に炎症を来した状態です。

多くの場合、原因となる微生物が肺に進入して増殖、それに対して防衛軍である好中球、リンパ球、マクロファージなどが局所に遊走してきまして、戦いをする。その戦いの場を「炎症」と呼びます。


戦いの場では銃弾が飛び交い、火薬が炸裂する(たとえですよ、念のため)ため、局所が発赤・発熱・腫脹・疼痛などを呈するわけです。
そして山ほど微生物、防衛軍の屍骸が累積する。これが「膿」です。膿の見た目が白く濁っていたことから、「白血球」の名がついたことはご存じでしょう。


肺に炎症が起こり、膿がたまるということは、肺胞内が水浸しになるということです。そうすると、換気が減少し、血流は保たれる、換気血流不均等が生じ、A-aDO2の開大、低酸素血症となります。ここらへん、この前やったばかりですから、覚えておられますね。


そのたまった膿があふれ出してきたのが痰、痰を喀出するために咳が出て、痰が気道にたまるとラ音が聴取される。そういうわけで、肺炎では、


  • 咳、痰、発熱、呼吸困難→低酸素血症、頻呼吸

  • 聴診上ラ音

  • 胸部レントゲンで陰影

  • 炎症所見(白血球、CRPなど)高値



などの所見が見られるわけです。



でまあ、細菌が原因であれば、抗生剤を使いましょう、ということになります。で、できる限り日本での肺炎診療、つまり抗生剤使用を標準化しましょう、というところでガイドラインができたのです。


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posted by 長尾大志 at 09:32 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2012年01月05日

呼吸器学会近畿地方会見聞録・肺炎診療の新展開・原因菌について

呼吸器学会近畿地方会(昨年12月)のお話をするには随分時間が経ってしまったのですが…。

NHCAP(nursing and healthcare-associated pneumonia)のガイドラインの作成に携わられた、大阪大学感染制御部の朝野先生がお話しされるということで聞いて参りました。いろいろと刺激的なお話が多かったのですが、随分時間が経って忘れかけています。備忘のため、いくつかの項目を書いていきましょう。


まずはいわゆる「原因菌」について。

なお、肺炎を起こしている原因となる菌について、起因菌、起炎菌などの言い方もあるのですが、この項では本邦の肺炎ガイドラインの表記に従って「原因菌」と表記します


実臨床の場で肺炎の起炎菌が同定できることは少ない、ということはこれまでにも言われています。どうやらこれまで「原因菌」と言っていたものの中にも、本当に原因菌かどうか、疑問に思われるものがあるようです。

その代表が「MRSA肺炎」。

MRSAによる肺膿瘍や膿胸など、組織障害性の病変はあれども、普通の肺炎の表現型でMRSAが原因菌であることは、感染症の専門家としては考えられない、とおっしゃいます。


痰からMRSAが出ても、保菌しているだけなのでは?LZDとVCMの比較試験は意味がないのでは?などと問題提起をされました。



検出された菌が原因菌として明らかな意味があるのは…

  • 市中肺炎で、喀痰などから肺炎球菌が有意菌数分離されたとき

  • H.influenzae(元々肺には居ない)が有意菌数分離されたとき

  • レジオネラやマイコプラズマが分離されたとき

  • 空洞や壊死を伴う膿瘍様病変からMSSAやMRSAが分離されたとき



ぐらいだそうです。


もちろん、だからといってグラム染色の意義を否定されるものではありませんが、特に昨今の流行である「MRSA肺炎」「カンジダ肺炎」に注意を喚起されておられました。



その後はNHCAPのガイドラインのお話。


上に書いたようなお考えもあり、ガイドラインでは原因(分離)菌、と表記されたりもしていて、作成委員の先生方のこだわりが感じられます。つまり、分離されただけでは原因菌といえない、というメッセージが含まれているわけです。


ガイドラインのお話も結構衝撃的・刺激的なお話でした。明日以降、NHCAPガイドラインの話の中で取り上げさせていただきます。

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posted by 長尾大志 at 10:27 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2011年10月21日

肺炎と抗生剤(市中肺炎ガイドラインスーパー簡単版)10・レジオネラ肺炎と思われる場合の推奨治療薬・増補改訂版

以前の記事では

レジオネラ尿中抗原陽性と出たら、こらもうシプロかパズクロスです。

と書いていましたが、その後、クラビットが出ましたね。


1日1回500mgというのが、いかにも良さそうです。
先にも書いたように、レジオネラ肺炎には、遠慮なく使っちゃって下さい。


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posted by 長尾大志 at 11:58 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2011年10月17日

市中肺炎治療におけるキノロンの位置づけ7

市中肺炎において、キノロンを第一選択とすべき病態はあまりありません。


レジオネラ肺炎は第一選択です。キノロン注射薬で、救えた命は多いと思います。
あと、感受性のある多剤耐性緑膿菌感染症。ターゲットとなる菌がわかっている時ですね。


どうも、このぐらいしかないようです。


でも…


成人市中肺炎診療ガイドラインの「成人市中肺炎のエンピリック治療〜細菌性肺炎が疑われるとき<入院編>」には、確かに


1.基礎疾患がない、あるいは若年成人
βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン注射薬、高用量PIPC

2.65歳以上、あるいは軽症基礎疾患
1に加え、セフェム軽注射薬

3.慢性の呼吸器疾患がある場合
1,2に加え、カルバペネム薬、ニューキノロン系注射薬も選択肢に加わる。


と書いてあります。

使っちゃいけないのに、何で書いてあるんだ、と思わないように!
これらは、選択肢なのです。


この中から、最適な抗生剤を、あなたが、選ぶのです
ガイドラインに書いてあることを、そのまま考えなしに選ぶのは、医療ではありません。


例えば、繰り返す下気道感染があり、これまでに何度も第三世代セフェムを使われていて、菌交代を起こしていると考えられるとき。

例えば、重症肺炎で「余裕がない」「この治療が当たらないと、患者さんの命に関わる」といったとき。


こういうときに、広域抗生剤を選択するのは「妥当」となります。



例えば、当初使用した抗生剤の効果が悪く、抗生剤の組織移行が悪いと予想されるとき。

組織移行の良い薬剤に切り替える、もありでしょう。


決して「一切使っちゃダメ」とは申しません。

でも、ローテーターの若い先生や学生さんに、
「滋賀医大の呼吸器内科では、安易にクラビットを使ってる。」
と思われてしまうと、示しが付かないナ、と思いました。


ですから今後、当科的には、胸を張って根拠を明示できるようにして使いましょう、ということにしたいと思います。


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2011年10月16日

市中肺炎治療におけるキノロンの位置づけ6・抗酸菌への効果

また、別の側面として、キノロンは、結核、非結核性抗酸菌にも効いてしまう面も。


「市中肺炎」と思われていたら結核だった、という症例が、忘れた頃にやってきがちなのですが、当初喀痰検査を行われることなく、キノロンを開始されていたら…少し改善してしまったりするのです。

でも結局、そのうち効かなくなってしまう。診断が遅れる上に、キノロン耐性の結核を生み出すことになりかねません。


MACなど、非結核抗酸菌症も然り。単剤での治療は、そのうち必ず耐性菌を生み出します。抗酸菌治療は、多剤併用が原則、でしたね。


喀痰をとって、グラム染色で双球菌が見えたとか、抗酸菌塗抹陰性を確認できたとか、結核、非結核性抗酸菌を否定できる根拠はありますか?


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2011年10月15日

市中肺炎治療におけるキノロンの位置づけ5

キノロン濫用によって問題となるのは、肺炎球菌だけではありません。
いろいろありますが、緑膿菌も大きな問題です。


緑膿菌に多剤耐性がつきつつある現在、「戦える武器があるのかないのか」は患者さんの命に関わる、重大事項です。


その菌に効果のある(スペクトルがカバーしている)薬をダラダラと使い続けると、だんだんその薬に耐性がつくわけで、使わなくて済む症例には、できる限り使わないという姿勢が求められます。


市中肺炎や院内肺炎のガイドラインでは、スペクトラムのある抗生剤を使うという以上に、疑われない菌(特に緑膿菌やMRSA)に対しては、スペクトルの届かない抗生剤を使う、ということが重視されています。


例えばペントシリン(PIPC)や、最近ではゾシンはかなり広域スペクトルを持つペニシリンです。これはよりによって緑膿菌にもスペクトルを持つ。ですから、こういう薬剤は「起因菌として緑膿菌が疑われる」症例にしか使わないようにするのです。


緑膿菌が起因菌でない肺炎に、ダラダラゾシン(ダラシンではありません)を使う、という場面も目にしますが、こういう使い方をしていると、その施設の緑膿菌が、ゾシンに対して耐性を獲得してしまう恐れがあります。


例えばロセフィン(CTRX)のいい点は、緑膿菌をカバーしていない点なのですね。少なくとも、緑膿菌には影響を与えないわけです。





広域抗生剤の場合、腸内細菌群を殺菌してしまい、結果、偽膜性腸炎なんかを起こすという側面もあります。
そんなわけで、カルバペネムには使用制限がある(ことが多い)。


キノロンは経口剤もありますから、カルバペネムよりは気軽に使われがち。

呼吸器科でも、「肺炎」に対して、「だいたい」効くことから、「つい」使ってしまう薬の代表でしょう。特に少し慣れてきた、後期研修医から7〜8年目にかけて、面倒な思考を飛ばして使ってしまいやしないか、ヒヤヒヤしています。


決して「使っちゃダメ」ということではなく、こういうことを知った上で、根拠を明示できるようにして使うべき、ということなのです。


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posted by 長尾大志 at 13:46 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2011年10月14日

市中肺炎治療におけるキノロンの位置づけ4

キノロン、そして、カルバペネム系の抗生剤をなるべく使わないように、という文言は2005年に刊行された成人市中肺炎診療ガイドラインの中に、すでに明記されています。


抗生剤を多く使う(濫用する)と、必ずその抗生剤が効かない菌(耐性菌)が発生します。
菌交代の末に、多剤耐性緑膿菌やMRSAが生み出され、最近ではアシネトバクターも話題となっていますから、ご存じの方も多いでしょう。


カルバペネム系抗菌薬を最後に、新しい系統の抗生剤は開発されていないという現状があります。カルバペネム系薬は、文字通りの「最終」兵器なのです。


そのカルバペネム系が効かない菌に対して、人類には打つ手がないのです。


キノロンも同様。
キノロンの濫用により、すでに一部の地域では、キノロン耐性の肺炎球菌が蔓延り(はびこり)だしています。


かつて肺炎球菌に効果があったニューマクロライド、クラリスロマイシンが、濫用に次ぐ濫用の結果、もはや「肺炎球菌には効果がない」と若い先生に教えなければならなくなっている現状があります。

副作用が少なく、使いやすい、という点から、小児科領域、呼吸器領域で本当によく使われました。その結果の現状です。


同様のことが、キノロンでも起こりつつある。
スペクトルが広くて使い勝手の良い薬を、使い勝手がよいゆえに、私たちが「安易」に濫用することで『使えない薬』と化して良いのか。それは、避けられることではないでしょうか。


すでにカルバペネム系抗生剤においては、多くの施設で「使用制限」「使用届け出制」が実施されていますが、キノロンにおいても、ある程度(少なくとも心理的に)制限をかける必要があるのではないか、と思っています。

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2011年10月13日

市中肺炎治療におけるキノロンの位置づけ3

一昨日の症例をまとめると、

RAがありPSLを内服中の高齢者市中肺炎、肺炎球菌尿中抗原陽性

となります。


陰影を見ると肺底部気管支周囲の陰影が強く、誤嚥の要素も考えられます。

起因菌は、素直に考えると肺炎球菌、インフルエンザ菌をはじめとする細菌群(嫌気性菌を含む)でしょう。尿中抗原陽性なのでなおさら、肺炎球菌が考えやすいです。


非定型病原体を疑う項目は…痰が出ない、という項目ぐらいです。

この場合、少なくともマイコプラズマは、家庭内や近所で流行している、とかでない限りは可能性が低いと考えられますね。


クラミドフィラ(クラミジア)はあるかもですが、クラミドフィラ(クラミジア)肺炎は細菌性肺炎との混合感染が多く、鑑別困難なこともしばしばですが、治療もその場合、βラクタム系で有効なことも多いのです。



ですから、ここでの選択は、

肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラキセラ・カタラーリス、嫌気性菌狙いの

ペニシリン または、CTRX等のセフェム

が妥当かと思います。


どーしても、非定型を除外し切れていないから…ということであれば、
マクロライドを追加すればよいのです。



昨日の症例でも同様で、慢性膿胸がベースにあれども、
市中肺炎、しかも、最近抗生剤を使われていない、ということであれば、
ターゲットは自ずと絞られます。


やはり上記同様の選択になろうかと思います。
ではどうして、キノロンではダメなのか。


いや、キノロンはスペクトル上間違いではないんですよ。
でも、好ましくない。なぜか。明日以降に続きます。

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posted by 長尾大志 at 08:29 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2011年10月12日

市中肺炎治療におけるキノロンの位置づけ2

もう1例。

右慢性膿胸、Old Tbc(右上葉切除)で当科フォロー中の患者さん。
39℃の発熱有り、受診されました。

SpO2は 97%、肺ではcoarse crackleを聴取し、膿性痰の喀出があります。


胸部レントゲン、CTはこんな感じでした。気管支拡張+慢性膿胸に浸潤影が乗っかった感じです。


111005CR.jpg


111005CT2.jpg


111005CT3.jpg


111005CT5.jpg


尿中肺炎球菌抗原、レジオネラ抗原いずれも陰性。
A-DROPは年齢の1項目だけでした。


そして本症例でも、若い先生はLVFX点滴を選択されました。


…私はなるべくなら、若い先生の自主性を尊重したいと考えていますので、「LVFX点滴を選択した根拠を言ってみて」と申しますと、


「市中肺炎ガイドラインにそう書いてあります。ほら、ここに。」


……


成人市中肺炎診療ガイドラインの「成人市中肺炎のエンピリック治療」には、確かに

細菌性肺炎が疑われるとき、の項目に

入院

1.基礎疾患がない、あるいは若年成人
βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン注射薬、高用量PIPC

2.65歳以上、あるいは軽症基礎疾患
1に加え、セフェム軽注射薬

3.慢性の呼吸器疾患がある場合
1,2に加え、カルバペネム薬、ニューキノロン系注射薬も選択肢に加わる


と書いてありますね。
ただ字面だけ見ていると、じゃあもう、なんかCOPD患者さんの市中肺炎は、
メロペンだ、パシルだと大盤振る舞いになります。


ガイドラインの運用は、その意味も知った上で行うべき、です。


本症例の場合、起因菌は何であると推定されるか。

それに対しては、どの抗生剤を選択することが望ましいか。

考えてみましょう。

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posted by 長尾大志 at 15:01 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2011年10月11日

市中肺炎治療におけるキノロンの位置づけ1

先日入院になった患者さん。70歳代の男性です。


基礎疾患として、慢性関節リウマチがあり、リマチルとプレドニゾロン(5mg)1.25錠/日を内服中です。

咳が続くが熱はなく、労作時息切れが生じてきたとのことで受診されました。
SpO2 は86%、右下肺で吸気時にcrackleを聴取し、両下肢にedemaあり。


以前の胸部X線写真はこう。


110530CR.jpg


今回、胸部X線では、右下肺に浸潤影を認めました。


110929CR.jpg


胸部CTでは、肺底部中心に気管支肺炎像。一部すりガラス影も見られます。


110929CT1.jpg

110929CT2.jpg

110929CT3.jpg


白血球、CRPの上昇を認め、誤嚥の要素もありそうな市中肺炎と診断しました。
両下肢のedemaありとのことで、心不全徴候もあるかもしれません。

A-DROPは脱水もあり、3項目。重症です。
尿中肺炎球菌抗原は陽性。喀痰は出ず、グラム染色は施行できていません。


基礎疾患のある市中肺炎として、治療開始。
そこでの抗生剤の選択として、若い先生はレボフロキサシン(LVFX)の点滴を開始されました。


…「どうしてLVFX、しかも点滴を選択したの?」と尋ねる私。


「市中肺炎ですし、すりガラス影があるので、非定型もカバーしようかと思って。折角入院してるんだから、点滴がいいと思って…。」


一見もっともらしいこの返答。

若い人の自主性は尊重したい、とは思うのですが、少し言いたいこともあります。
皆さんだったら、何を選択されますか?

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posted by 長尾大志 at 18:17 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2011年01月29日

肺炎と抗生剤(市中肺炎ガイドラインスーパー簡単版)12・肺炎治療の効果判定に、レントゲンを使うべからず、の理由

市中肺炎の陰影の消退速度を見た研究があります。

http://ajrccm.atsjournals.org/cgi/content/abstract/149/3/630

高齢、喫煙者、範囲が広い、入院が必要、などの要素があると、消退の速度は明らかに遅いようです。2週間ぐらいは平気で陰影が残っていますね。

ですので、肺炎治療を開始してから1週間で、陰影が残っている、=良くなっていない、と考えるのはナンセンスなのです。

肺炎の効果判定に、レントゲンを使うべからずというのは、こういう理由があるからです。

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posted by 長尾大志 at 20:10 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2010年12月27日

肺炎と抗生剤(市中肺炎ガイドラインスーパー簡単版)11・効果判定

始まりがあれば、終わりもある。

治療が始まったら、どう終わらせるかが大事です。

そもそも開始した抗生剤が効いているのかどうか、評価する必要があります。
肺炎治療における中間評価は、通常3日後(重症の場合は2日後)です。

その際、何を見ましょうか。

レントゲン?
CRP?

いやいやいやいや、最初に書きましたように、「肺炎の診療に重要な情報は、患者さんのところに行くことで得られる」のですよ。

もう一度言いますよ。
患者さんのところに行きましょう。


全身症状・症候:発熱、心拍数、脱水や経口摂取可能かどうか
臓器特異的な症状・症候:痰の量、性状、胸部ラ音、SpO2、呼吸回数、チアノーゼなど

これらに「改善」が見られたら、その治療は「効果あり」です。
効果があれば、だいたい終了時期も見えてくると言うものです。

本来、感染症の治療は、治療開始時に治療期間が見えているもの。
サンフォードにも、多くの感染症で治療期間が明示されています。

まあ、多くの肺炎は書いてありませんが…。
一般的に、基礎疾患のない人であれば、効果のある薬を5〜7日間投与すれば、肺炎は治癒するはず。

最近は入院期間を短くする方向になっていて、注射薬→経口、というやり方もあります。
これもいろいろな考え方がありますので、またの機会に紹介したいと思います。


スーパー簡単版と言いつつ、長々と書いてきましたが、市中肺炎のことはいったん終わります。

学内レクチャーではこの後、O澤先生制作による抗生剤のスペクトル講義があるのですが、
あのスライドは、ケンシロウやらバキやらゴルゴやら、著作権上問題のある人物が多数出演されるため、このブログに掲載することは無理でございます。あしからず。

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posted by 長尾大志 at 12:31 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2010年12月26日

肺炎と抗生剤(市中肺炎ガイドラインスーパー簡単版)10・レジオネラ肺炎と思われる場合の推奨治療薬

レジオネラ尿中抗原陽性と出たら、こらもうシプロかパズクロスです。
キノロン系の注射薬ですね。

キノロン注射薬が出る前は、リファンピシン+エリスロシンでしたが、
今はあえてキノロンを避ける理由はないように思います。

もちろん、けいれんや相互作用など、キノロンが使えない場合、というのはありますが。

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posted by 長尾大志 at 20:34 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2010年12月25日

肺炎と抗生剤(市中肺炎ガイドラインスーパー簡単版)9・非定型病原体(マイコプラズマ、クラミジア)と思われる場合の推奨治療薬

外来治療時

基礎疾患がない場合

・クラリス(クラリシッド)
・ジスロマック
・ミノマイシン


65歳以上、あるいは慢性の心・肺疾患がある場合

・レスピラトリーキノロン(ジェニナック・アベロックス・クラビット)
・ケテック


入院治療時

・クラリス(クラリシッド)
・ジスロマック
・ミノマイシン
・キノロン注射(シプロ・パズクロス(パシル))

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posted by 長尾大志 at 22:16 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2010年12月24日

肺炎と抗生剤(市中肺炎ガイドラインスーパー簡単版)8・肺炎球菌かどうかは定かではないが、細菌性肺炎と思われる場合の推奨治療薬

続いて、肺炎球菌かどうかは定かではないが、非定型病原体は否定的であり、細菌性肺炎と思われる場合に選択される抗菌薬です。


外来治療時

基礎疾患がない場合

・サワシリン高用量(1.5〜2g/日)
・ユナシン経口

65歳以上、あるいは肺以外の基礎疾患がある場合

・ユナシン経口
・クラリス(クラリシッド)かミノマイシンを加えてもよい

慢性呼吸器疾患がある、あるいはペニシリンアレルギー

・レスピラトリーキノロン(ジェニナック・アベロックス・クラビット)

外来だけど、1日1回ぐらいは点滴に来ていただける場合

・やはりロセフィンは便利です。


入院治療時

・ユナシンS
・ペントシリン高用量
・第2世代セフェム(パンスポリン・フルマリン・セフメタゾン)
・ロセフィン

慢性呼吸器疾患がある場合

上記に加え、
・カルバペネム(チエナム・メロペン・カルベニン・オメガシン・フィニバックス)
・キノロン注射(シプロ・パズクロス(パシル))

カルバペネム以降は重症例に使いましょう!

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posted by 長尾大志 at 09:37 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2010年12月23日

肺炎と抗生剤(市中肺炎ガイドラインスーパー簡単版)7・肺炎球菌だと思われる場合の推奨治療薬

まずは、初診時に、グラム染色で紫色の双球菌が見えた、あるいは、肺炎球菌尿中抗原が陽性であった、など、肺炎球菌が起因菌と考えられる場合です。

外来治療時

・サワシリン高用量(1.5〜2g/日)
・ユナシン経口

65歳以上、アルコール多飲、幼児とよく接触、最近βラクタム系投与受けた、などの病歴があると、ペニシリン耐性肺炎球菌が疑われます。

その際は
・レスピラトリーキノロン(ジェニナック・アベロックス・クラビット)
・ケテック

外来だけど、1日1回ぐらいは点滴に来ていただける場合
・ロセフィン


入院治療時

・ビクシリン高用量
・ロセフィン
・カルバペネム(チエナム・メロペン・カルベニン・オメガシン・フィニバックス)
・バンコマイシン

カルバペネム以降は重症例に使いましょう!

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posted by 長尾大志 at 11:52 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2010年12月22日

肺炎と抗生剤(市中肺炎ガイドラインスーパー簡単版)6

感染症を考える骨組み、全体的な流れはこうでした。
(O澤先生のスライドより拝借)

A:感染臓器を把握する

B:起因菌を推定する

C:必要な検査を実施する

D:推定起因菌に有効な抗生物質を投与する

いよいよD:推定起因菌に有効な抗生物質を投与する、です。

Cまでで、ハッキリした起因菌がわかっている場合、
(多くの場合、肺炎球菌かマイコプラズマ/非定型病原体ですが)
それに応じた抗生物質を投与します。

わかっていない場合でも、細菌ぽいか、非定型ぽいかの目星はついている、
そこで、エンピリックに抗生剤を開始します。

抗生剤を使うにあたっては、まず、系統ごとに得意な(使い慣れている)
ものを1つずつ覚えていくことをお勧めしています。

その覚えたものについて、スペクトル・使用量・副作用・相互作用・腎機能障害時の投与法などをマスターしていくのです。

その系統を使う場面になったら、その抗生剤を使う。
こうすることで、副作用や効果がなかったときの考え方など、
その薬に対する経験値を上げていくのです。

ここは公の場ですので、特定の抗生剤について「これを使いましょう」みたいな感じで名前を挙げることは避けておきます。
(レクチャーでは細かく挙げてますけど)

でもきっと、「結局どれを使ったらええねん」と思われるでしょうから、推奨される系統での商品名をいくつか挙げていきます。後発品花盛りの昨今ですが、ここはあえて商品名で。

その中から、おつとめの施設に応じて、ご自分で、ご自分のための得意薬剤を構築していきましょう。

それでは、明日から(推定)原因別エンピリック治療薬です。

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posted by 長尾大志 at 17:56 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2010年12月21日

肺炎と抗生剤(市中肺炎ガイドラインスーパー簡単版)5

感染症を考える骨組み、全体的な流れはこうでした。
(O澤先生のスライドより拝借)

A:感染臓器を把握する

B:起因菌を推定する

C:必要な検査を実施する

D:推定起因菌に有効な抗生物質を投与する


Aで、肺の感染症だ、と目星がついた。入院していただくかどうかも決まった。
次のB:起因菌推定、続きと、C:必要な検査を実施する、です。


市中肺炎の起因菌は、ガイドラインを見ると以下のような内訳です。
斜体は非定型病原体)

肺炎球菌
H.インフルエンザ菌
マイコプラズマ
クラミジア・ニューモニエ
ウイルス
レジオネラ

黄色ブドウ球菌
クラミジア・シッタシ(オウム病)
モラクセラ・カタラリス
クレブシエラ
ミレリグループ
嫌気性菌
コクシエラ
緑膿菌
真菌

数字的には、ウイルスまでで大半を占めます。
で、割合としては、やっぱり肺炎球菌が多いです。

そこで、何はなくとも、喀痰の塗抹鏡検、培養、血液培養、
それに尿中抗原はやっておく必要があります。

入院時に、グラム染色で紫色の双球菌が見えた、
あるいは、肺炎球菌尿中抗原が陽性であった、となると、
少なくとも肺炎球菌が起因菌の1つである、と考えられ、
その後の対応はある程度の確信を持って行うことができますね。

また、施設によっては、各種迅速検査が適用可能です。

インフルエンザ
RSV
A群溶連菌
アデノウイルス
マイコプラズマ

など、状況によって使い分けましょう。

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posted by 長尾大志 at 20:48 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2010年12月20日

肺炎と抗生剤(市中肺炎ガイドラインスーパー簡単版)4

感染症を考える骨組み、全体的な流れはこうでした。
(しつこいようですが、O澤先生のスライドより拝借)

A:感染臓器を把握する

B:起因菌を推定する

C:必要な検査を実施する

D:推定起因菌に有効な抗生物質を投与する


Aで、肺の感染症だ、と目星がついた。入院していただくかどうかも決まった。
次はB:起因菌を推定しましょう。

と言っても、市中肺炎の起因菌推定で重要なことは、ものすごくおおざっぱに言うと、

肺炎球菌をはじめとするグラム陽性球菌
と、
マイコプラズマをはじめとする非定型病原体
をいかに鑑別するか。

なのです。

なぜならば、
マイコプラズマをはじめとする非定型病原体
は、細胞壁を持たないため(あるいは細胞内増殖菌であるため)、βラクタム系薬が効かないから、です。

細菌と、主にマイコプラズマを鑑別する項目として、以下の6項目があります。

細菌ぽい項目 非細菌ぽい項目

高齢者           若年者(<60歳)
基礎疾患あり        基礎疾患なし
痰が多い          痰が少ない
ラ音が聴かれる       ラ音が聴かれない
空咳が少ない        空咳が多い
白血球が増える(≧1万)  白血球が増えない

ただ、この鑑別法は、レジオネラには適用できず、非定型肺炎の完全な鑑別を目指すものではありません。典型的な非定型肺炎を取り上げてマクロライド系やテトラサイクリン系で治療するのが目的、とされています。

一方、細菌性肺炎の代表である肺炎球菌には、マクロライド系はほとんど効きません。つまり、この鑑別法で、マクロライド系を使うかどうかが決まってくるのです。

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posted by 長尾大志 at 18:30 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2010年12月19日

肺炎と抗生剤(市中肺炎ガイドラインスーパー簡単版)3

感染症を考える骨組み、全体的な流れはこうでした。
(O澤先生のスライドより拝借)

A:感染臓器を把握する

B:起因菌を推定する

C:必要な検査を実施する

D:推定起因菌に有効な抗生物質を投与する


Aで、肺の感染症だ、と目星がついたら、次にB:起因菌を推定したいところですが、その前に、ちょっと待った(古い)!

この患者さん、入院させるの?外来で診るの?これを決める必要があります。

入院適応というのは若い先生にとって、しばしば難しいものですが、ガイドラインにはそれが明記してあって、あまり悩まなくてもいいようになっております。

A-DROPという語呂合わせ?で、重症度を知ることができます。
これらの5項目は、いずれも市中肺炎の予後予測因子。各項目、当てはまると1点入ります。

A:Age(年齢) 男性≧70歳、女性≧75歳
D:Dehydration(脱水) BUN≧21または脱水
R:Respiration(呼吸)SpO2≦90%
O:Orientation(意識障害)
P:Pressure(血圧) 収縮期≦90mmHg

合計得点が何点かで、入院適応が決まります。

0点:軽症→外来治療可
1-2点:中等症→外来、または入院治療
3点以上:重症→入院治療
4点以上→ICU

外来か入院かを決めたら、B:起因菌を推定しましょう。

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posted by 長尾大志 at 21:58 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2010年12月18日

肺炎と抗生剤(市中肺炎ガイドラインスーパー簡単版)2

いよいよ次は、感染症を考える骨組みを紹介。
と言っても、そう難しく考えることはございません。

全体的な流れはこう。
(O澤先生のスライドより拝借。O澤先生、ありがとう!)

A:感染臓器を把握する

B:起因菌を推定する

C:必要な検査を実施する

D:推定起因菌に有効な抗生物質を投与する

Aの段階:
肺炎の場合、全身症状・症候というと、発熱、心拍数、脱水や経口摂取可能かどうか、というものが挙げられます。

臓器特異的な症状・症候は、当然臓器によって異なるわけですが、例えば肺の場合ですと、痰の量、性状、胸部ラ音、SpO2、呼吸回数、チアノーゼなどが挙げられるわけです。

昨日の記事で書いた、肺炎の記述をもう一度読んでみましょう。


肺胞領域に細菌による感染が成立し、炎症が生じている状態であり、肺胞領域に炎症細胞、浸出液、サイトカインなどが出て水浸しになる→浸潤影を来す。
肺に生じた炎症が、全身に及ぶ→発熱
浸出液がたくさん肺胞にあふれかえり、それが気管支から「」として排出される。
浸出液で肺胞が埋め尽くされるため、呼吸の効率が下がり低酸素になる。低酸素になるとしんどいので呼吸数が増える


症状、症候がほとんど含まれていますね。

もう1つ大事なことは、これらの指標は、
「患者さんのところに行くことで得られる情報である」
ということ。

もう一度言いますよ。
患者さんのところに行きましょう。

PCの前に座って、WBCだ、CRPだ、レントゲンだ、を見ていても、
「肺炎の診療に重要な情報は得られない」
これは肝に銘じるべきです。

う〜ん、長くなったので明日へ。

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posted by 長尾大志 at 21:21 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説

2010年12月17日

肺炎と抗生剤(市中肺炎ガイドラインスーパー簡単版)1

ローテーターの先生方から必ずリクエストがあるのが、
「肺炎と抗生剤がとにかくわからない。」
「薬が多すぎて、何を覚えたらいいのかわからない。」
などなど、肺炎の治療と抗生剤の正しい使い方について教えて欲しい、というものです。

うちの大学の医局に所属すると、どの科でも、だいたい滋賀県下の病院に赴任、
となるのですが、滋賀県下でしっかりと呼吸器内科医がいる病院は少ない。

ということは、多くの病院では、肺炎症例は、内科各科で診ていただくことになります。
相談する相手もなかなかいない。

少なくとも、外来、あるいは救急で肺炎症例にあたったとき、
初期対応を間違わずに行う必要がある。

このための手順をまとめたものが、
「市中肺炎ガイドライン」になるのですが、
ポケット版ですら、結構なボリューム。



市中肺炎ガイドライン.jpg


他科にいく人々にとってはなかなかハードルが高い、
ということで、ローテーター向けに、
市中肺炎ガイドラインスーパー簡単版の講義を行っています。
だいたい所要時間50分程度といったところです。

呼吸器内科医が院内にいなくて相談する人がいない、
そんな、迷えるローテーター諸君のために、
そのエッセンスをご紹介しましょう。

もちろん、他科のベテランドクターの皆様方にも、
お役に立てましたら幸いです。




まずは細菌性肺炎の基礎から。

肺胞領域に細菌による感染が成立し、炎症が生じている状態であり、
肺胞領域に炎症細胞、浸出液、サイトカインなどが出て水浸しになる→浸潤影を来す。
肺に生じた炎症が、全身に及ぶ→発熱
浸出液がたくさん肺胞にあふれかえり、それが気管支から「痰」として排出される。
浸出液で肺胞が埋め尽くされるため、呼吸の効率が下がり低酸素になる。低酸素になるとしんどいので呼吸数が増える

上の文章に、肺炎のすべて?が込められています。よくよく味わって下さいませ。

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posted by 長尾大志 at 12:45 | Comment(0) | 肺炎ガイドライン解説